面 白 う て
                          や が て 悲 し き
事 件 帖 
        
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
          平成17年9月
 
     
 
 
 
 
 
               序 言
 
 本資料は、各種事件をとりまとめ、教訓を抽出したものである。
 人間が犯す事件は、第三者から見ると、何であんなアホなことを、あんなドジなことを、あんな間抜けなことを、あんな愚かなことを、あんな馬鹿なことを、といった思いに駆られるが、当事者にとっては、それなりに真剣に考え、楽しんで、あるいは必死になって、抜き差しならなかったことの結果かもしれない。が、他人にとっては、当事者との意識のギャップが大きければ大きいほど、事件が面白いものになる。いわゆる三面記事、ワイドショーである。
 昔から「歓楽極まりて哀情多し」、「楽しみ極まれば必ず哀しみ生ず」、「楽あれば苦あり」と言われるように一時の快楽、感情に溺れて事件を起こせば、後に残るのは、悲しみである。
 だからこそ、古来「楽しみて後憂え有る者は聖人は為さず」という。楽しいからといって、後で心配事が起こるようなそのときだけの楽しみかたはしないという戒めである。
 このような事件を起こさないようにするためには、なぜそんなアホな、ドジな、間抜けな、愚かな、馬鹿なことを人はするのかということを他人の失敗から教訓を学ばなければならない。他人事ではなく、自分の事として考え、結果に至るまでの経緯をたどり、そうした状況に陥り、事件を起こす羽目にならないように教訓を導き、そして教訓を反面教師として慎重にしなければならない。
 本資料は、こうした事件事例を紹介し、教訓を導き、反省するための材料とするものである。
 もとより本資料一冊で事件全般に関するすべての事象を網羅することは不可能である。しかも、事件は多種多様で流動的に変化し、常に時代の流れへの対応が求められる。
 しかしながら、常日頃から本資料を参考にして問題意識を持って幅広く自学研鑚していけば、事件に対する洞察力が増し、危険予察能力を高めることができるようになる。
 
 平成17年9月
                            
 
 
 
 
 
               目 次
はじめに   1
1 キティホーク指揮官解任事件   3
2 原潜ハートフォード指揮官解任事件   4
3 ウェスト中佐事件   6
4 米軍イラク人虐待事件   8
参考1 米国の軍事司法制度  24
参考2 虐待心理実験  28
参考3 傭兵(mercenary)  30
5 英軍イラク人虐待事件  37
参考 英国の軍事司法制度  41
6 遺伝子スパイ事件  45
7 銀行強盗爆死事件  48
8 自衛官爆死事件  49
9 映画撮影射殺事件  51
10 泥酔運転事件  53
11 窃盗事件  54
12 青少年保護育成条例違反事件  55
13 迷惑防止条例違反事件  56
14 わいせつ事件  58
15 教え子わいせつ事件  64
16 児童買春・ポルノ事件  69
17 少女拉致事件  75
参考 ストックホルム症候群(シンドローム)  80
18 少女売春事件  81
19 少女援助交際・売春斡旋事件  83
20 集団買春事件  90
21 人身売買  98
22 男と女の三面記事 103
23 電子メールの送信は慎重に 104
24 データ流出事件 108
25 所変われば変態も罪となる事件 111
おわりに 114
 
 
 
はじめに
 事件は、時代の風潮、風俗、気分、精神を反映し、それを起こした当事者のみならず、その関係者も、マスメディアの人々も、知らず知らずのうちにそれらに取り込まれている。こうした時代精神を背景にしながら、具体的な個々の事件から普遍的な教訓を導き出す必要がある。
 人間が犯す事件は、第三者から見ると、何であんなアホなことを、あんなドジなことを、あんな間抜けなことを、あんな愚かなことを、あんな馬鹿なことを、といった思いに駆られるが、当事者にとっては、それなりに真剣に考え、楽しんで、あるいは必死になって、抜き差しならなかったことの結果かもしれない。が、他人にとっては、当事者との意識のギャップが大きければ大きいほど、事件が面白いものになる。いわゆる三面記事、ワイドショーである。
 昔から「歓楽極まりて哀情多し」、「楽しみ極まれば必ず哀しみ生ず」、「楽あれば苦あり」と言われるように一時の快楽、感情に溺れて事件を起こせば、後に残るのは、悲しみである。
 だからこそ、古来「楽しみて後憂え有る者は聖人は為さず」という。楽しいからといって、後で心配事が起こるよなそのときだけの楽しみかたはしないという戒めである。
 見沢知廉『囚人狂時代』(ザ・マサダ、1996年)によれば、監獄に入る運勢があるのだろうかと入獄者を占ったところ、はっきりしたことは分からなかったが、囚人には面白い共通項があることを発見したという。
 それは犯罪を犯す直前、いずれの人間も似通った心理状態を経験していたことである。それはドストエフスキーの『罪と罰』で描かれた“ラスコーリニコフの斧”である。つまり、主人公ラスコーリニコフが、自分の超人思想の論理を立証し、金を盗むため金貸しの老婆のところに行き、いざ現実に老婆と対面すると心に迷いが生じたが、そのとき、そこに、目の前に、斧があるのを見て、これを「神のサイン」(実は悪魔のささやき)だと勘違いし、老婆殺しを実行したのである。このように犯罪を決行しようと最初は興奮しているが、そのうち冷静になり、あれこれと言い訳を考え、逡巡し、迷っているが、止めようとしたところ、その日に限って、そのとき、そこに、目の前に、犯罪の決行を促すような事柄が生じ、それを「神のサイン」と誤解して犯罪の実行に走ることを“ラスコーリニコフの斧”というそうである。これは、俗によく言われる「魔が差す」ことである。心の迷いに、悪魔が来たりてささやき、偶然の出来事を神の啓示と誤解させ、犯行に走らせるのである。
 犯罪者には、犯行の直前、“ラスコーリニコフの斧”が現われ、「魔が差し」て犯行に及ぶのである。
 魔が差すのは、愚行をチャンスと誤解させるような“ラスコーリニコフの斧”が現われ、それに乗ってしまうからである。
 うかうかと乗らないためには、「君子は未然に防ぐ」必要がある。君子は、事の未だ起こらない前に、その起こるべき弊害を防ぐのである。そして、「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず」というように、瓜畑の中では靴をはかない、瓜を盗むと見られるといけないから。李(すもも)の樹の下では手を挙げて冠を正さない、李を取ると見られることを恐れるから。共に嫌疑を避けるたとえである。このように、嫌疑を未然に避けるべく用心深く、慎重に行動すべきである。
 人の感情は変化し、他人の行為をどう判断するかは分からない。自己の主観と利害関係者では、当然に異なるし、まして第三者では見当のつけようがない。まして、善意で見てくれるとは限らないし、悪意でもって見られたら、弁解も、言い訳も通用しない最悪の状況となる。それを考えて、そういった罠に嵌ったような状況に陥らないためには、危険予察能力がなければならない。
 危険予察能力は、過去の事例を知って、かくすれば、かくなるものという可能性を考え、行動する習慣を身に付けることである。そのための事例集である。
 本資料は、「事実は小説より奇なり」ということで、現実に発生した事件を取扱、それらを分析して教訓を導き出すものである。個々の具体的な事件における具体的な氏名等は、本質的な問題ではないため、プライバシー保護の観点から、匿名とする場合もある。新聞、テレビ、インターネット等の各種メディアからニュースを得ていることから、極力出典を明らかにする。が、それであってもプライバシー保護の観点からあえて具体的な名前を匿名とする場合もある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1 キティホーク指揮官解任事件
  2002年9月3日米海軍第7艦隊司令官ロバートF・ウィラード中将は、 空母キティホーク艦長トーマス・ハイル大佐を、「部下を指導し、任務を遂行 する能力に信頼がもてなくなった(a loss of confidence)」と解任した。報 道部担当者は、「事件が続いたこと自体が、艦の中での指導力を発揮できない ことのあらわれだ」と説明した。キティホーク乗組員の日本国内における逮捕 事案(強盗、強盗傷害、乾燥大麻密輸容疑4件)が続き、しかもシンガポール 入港時のブイ衝突事故で、「通常任務にも支障をきたす」と司令官が判断して 解任した。後任には、第7艦隊作戦参謀のロバート・ドネル・バーバリー・ジ ュニア大佐が昇格した。
  2003年2月13日米海軍第7艦隊司令官ロバートF・ウィラード中将は、 第5空母群(空母キティホーク)司令スティーブン・カンクル少将を、指揮下 にない女性士官と不適切な関係を持ち、「信頼をもてなくなった」(a loss
 of confidence) と解任した。
  ウィラード第7艦隊司令官の厳しさは、イラク戦争を前にして部下指揮官の 任務遂行に疑念を持たないための措置であった。しかも、同司令官の背後には、 指揮統率に関して要求するところが高いという厳しさが存した。
  同司令官は、『Proceedings』 (2002年10月)に「指揮統制技量の再 認識」(Rediscover the Art of Command & Control) [藪田隆訳「統帥術を 再考する」『波涛』2003年3月]という論文を寄稿し、「時期至らば、計 画を容赦なく進めるため部隊を厳格に統制できるようにしつけた指揮官が勝利 する」と記している。このとおりに実行したのである。
  教訓は、C2を単なるハードな道具としてではなく、統率の問題と認識し、 戦闘において勝利を得るためには、部下指揮官を適材適所に配置し、いやしく も不安、疑義、疑念を持つような指揮官を用いるべきではないということであ る。指揮官は統率の重要性を再認識して、常に上司の信頼を得ることができる ように勉強することである。
[出典]
「キティホーク艦長、異例の解任」(『朝日新聞』2002年9月4日)
「キティホーク艦長解任」(『読売新聞』2002年9月4日)
7th Fleet public affairs,USS Kity Howk Commanding officer relieved,
  htttp://www.c7f.navy.mil/news/2002/9/3.htm
Vice Admiral Robert F.Willard,U.S.Navy,"Rediscover the Art of Command &   Control",PROCEEDINGS,(October 2002)
Bill Gertz and Rowan Scarborough,Commander relieved,htttp://dynamic.
  washtimes.com/twt-print.cfm?ArticleID=20030214-78651571
2 原潜ハートフォード指揮官解任事件
  2003年11月12日米第6艦隊第8潜水隊群司令P.ステファン・スタ ンリー少将は、第22潜水隊司令グレッグ・パーカー大佐、原子力潜水艦ハー トフォード(ロス・アンジェルス級攻撃型原潜HartfordSSN768)艦長ク リストファーR.バン・ミーター中佐を指揮能力に「信頼をもてなくなった」 (lost confidence)と解任した。
  原子力潜水艦ハートフォードは、10月25日サルジニア島北方の海軍支援 施設がある小島ラ・マダレン沖で座礁した。
  ゲータにある第6艦隊基地のケート・ミュラー中佐は、座礁によって舵の一 部を損傷し、艦底をこすったが、人員に被害はなく、環境を損なっていないと 語った。
  他にも士官及び乗組員が解任され、コネチカット州ニュー・ロンドンにある 潜水隊基地への帰国を命じられた。
  11月8日潜水艦仮艦長にマイク・マッケノン大佐が命じられ、修理のため ノフォークにある海軍造船所に向かった。
  なお、過去に類似の事故にえひめ丸事件があった。
  2001年2月9日原潜グリーンビル(SS N772)が、ハワイ・オア フ島の沖で急速浮上中、宇和島水産校の実習船えひめ丸に衝突した。えひめ丸 は、沈没し、35名乗組みのうち9名が行方不明となった。
  10日海軍は艦長を更迭した。
  太平洋艦隊司令官は、17日査問会議開催を決定した。3月5日から査問会 議が開始された。4月13日査問会議は、統一軍事司法裁判法による職務怠慢 及び艦船危険罪の過失はあるが、故意ではないことを理由に軍法会議開催の見 送りを大平洋艦隊司令官に勧告した。4月23日太平洋艦隊司令官は、前原潜 艦長に対する提督裁決(アドミラルズ・マスト:統一軍事司法裁判法第15条 )として給料2か月半額に減給する懲戒処分(減給処分は半年間の執行猶予付 )をし、10月1日名誉除隊させた。
  4月27日新原潜艦長は、発射管制官を艦長裁決(キャプテンズ・マスト) による訓戒、副長等3名を軽い艦長訓戒とした。
  なお、グリーンビルは、事件後の任務行動時の8月27日、サイパン島に入 港する際、間違った海図を使うなど操艦ミスを重ね、船体を浅瀬で損傷させ約 12万ドルの損害を生じさせたとして、9月14日新艦長、副長、航海長、航 海士が提督採決による行政処分を受け、艦長、航海長、航海士の3名は更迭さ れた。副長だけは、大きなミスがなかったとして更迭処分は見送られた。
  2002年1月27日グリーンビルは、アラビア海においてアフガニスタン 対テロ「不朽の自由作戦」従事中の水陸両用輸送艦オグデン(LPD5)に乗 員を移送中、同艦と接触し、損傷した。
  2005年1月8日米原子力潜水艦ロスアンジェルス級サン・フランシスコ (SSN711)は、母港グアム・アプラからオーストラリア・ブリスベンに 向けて潜航中、グアム南方350海里(560Km)東マリアナ海盆で底触し た。その際、乗員が、頭や背中をぶっつけて骨折するなどし、1名重傷(9日 死亡)、23名負傷した。同艦は、浮上して、母港に向け安全な速力で航行し、 10日帰港した。
  事故後、海軍緊急医療チームが9日早朝現場に到着し治療に当たった。また、 潜水艦の帰港に際しては沿岸警備隊カッター・ガルベス・アイランド(WPB 1349)、米海軍ストックハム(T−AK3017)、キスカ(T−AE3 5)及びMH−60Sナイトホーク、P−3Cがエスコートに当たった。
  20日艦長ケヴィン・ムーニー中佐は解任された。
  教訓は、統率、リーダーシップ、部下指導、そしてシーマン・シップが重要 だということである。
  艦長の統率、リーダーシップ、部下指導には、シーマン・シップが必要不可 欠である。先ず、艦長等指揮官はシーマン・シップを磨くことが必要である。
  このことをこれらの事件は示している。
[出典]
林秀樹「えひめ丸事故を通しての経験」(『波涛』2003年3月)
田岡俊次「グリーンヴィルの艦長は処罰されるのか?」(『世界の艦船』200  1年6月)
林路郎「原潜グリーンビル接触事故」(『読売新聞』2002年1月29日)
共同通信「ニュース特集・実習船と原潜衝突」(http://www.kyodo.co.jp/2001/  kyodonews/2001/ehimemaru/0424-7.html)
「潜水艦救難艦『ちはや』の撤収について」(http://www.jda.go.jp/j/news/   2001/12/o4a.htm)
ASSOCIATED PRESS,Two Navy officers relieved of command after grounding
  of U.S.nuclear submarine,http://www.signonsandiego.com/news/military  /20031112-1406-itary-usssubmarine.html
CNN.co.jp-USA 「米原潜、グアム沖で座礁24人死傷」(http://cnn.co.jp/usa  /CNN200501090003.html)
CNN.co.jp-USA 「座礁の原潜、グアム基地に帰還」(http://cnn.co.jp/usa/CNN  200501100010.html)
 
 
 
3 ウェスト中佐事件
  2003年8月20日イラク北部サバ・アル・ボア町に駐留する第4歩兵師 団大隊長アリンB.ウェスト中佐(アフリカ系アメリカ人、現役19年、42 歳)は、自己及び部下に対する攻撃を企図し、一度攻撃し、情報によって拘束 したイラク人警察幹部から情報を得るため、物理的な力を行使しなかったが、 心理的な圧力を加えるため、彼から離れたところに9ミリ拳銃2発を発射した。 その結果、イラク人警察幹部は計画した狙撃者の位置とゲリラ3人の名前を白 状した。
  ウェスト中佐は、極めて危険な地域で、部下の命が危険にさらされていたこ とから、正しいことではないが、自己と部下の安全のためには、やむをえない ことだったと認めている。
  事件後、ウェスト中佐は直ぐに上司に報告したが、陸軍が旅団に調査を行う よう指示するまで放置されていた。調査では尋問方法が大きな問題になった。
  陸軍は、ウエスト中佐を第4歩兵師団大隊長の職から解き、第4師団に配属 された第173空挺旅団に配置した。
  第4歩兵師団の法務官は、ウェスト中佐に二つの選択肢、20年予備役資格 のない退職か、軍法会議かを提示した。
  陸軍は、ウェスト中佐の尋問方法を疑いの気持ちでもって見ている。国防総 省は、一種の悪質な暴行であると非難している。
  法務官は、ウェスト中佐を統一軍事司法裁判法第128条脅迫、悪質な暴行 で告発した。
  10月30日ウェスト中佐の代理人ニール・パケット弁護士、元海兵隊中佐 は、ウェスト中佐が法務官の申し出を断り、陸軍を辞めないと語った。
  11月19・20日ティクリートにある第4歩兵師団司令部において統一軍 事司法裁判法第32条に基づく査問会議が開かれた。
  ウェスト中佐は、部隊を守るためで、「部隊兵士が危険にさらされており、 部下のためならば、ガソリン・カンを抱いて地獄までも行く」と語った。同時 に、部下がイラク人警察幹部に暴行を加えたことも、自己が脅迫したことも認 めた。弁護人ニール・パケットは、「他者を守る正当防衛(self-defense:自 衛権)の特殊な事例」だと主張した。
  12月12日査問会議議長第4歩兵師団長レイモンド・オデルノ少将は、統 一軍事司法裁判法第15条に基づきウエスト中佐を2か月俸給2分1減額(約 5,000ドル)の懲戒処分とした。
  2004年4月ウェスト中佐は、20年勤続資格を得て、退職し、陸軍を去 った。
  教訓は、戦時と雖も目的は手段を正当化しない。due process of law(法の 適正手続)が重要であって、遵法精神を発揮する必要がある。
[出典]
Rowan Scarborough,Army files charge in combat tactic,http://dynamic.
  washtimes.com/print_story.cfm?StoryID=20031028-113335-6042r
Rowan Scarborough,Colonel in iraq refuses to resign,http://dynamic.
  washtimes.com/print_story.cfm?StoryID=20031030-113114-2964r
Rowan Scarborough,Officer avoids court-martial,http://www.washingtontime  s.com/functions/print.php?.StoryID=20031212-112413-18...
Bill Gertz and Rowan Scarborough,Inside the Ring:Col. West petition,
  Col.West's defense,http://dynamic.washtimes.com/print_story.cfm?
  StoryID=20031106-115228-1228r
Bill Gertz and Rowan Scarborough,Inside the Ring:Col. West's plans,
  http://washingtontimes.com/functions/print.php/StoryID=20040304-1111  07-5-...
The Washington Times,West says he tried to protect his troops,http://dyn  amic.washtimes.com/print_story.cfm?StoryID=20031120-120648-7913r
Thomas E.Ricks,Army Accuses Officer in Iraq Of Firing Pistol Near
  Prisoner,http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A37861-2003Oct29?
  lanbuage=printer
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4 米軍イラク人虐待事件  
  2003年5月1日ブッシュ大統領は、主要な戦闘の終結を宣言した。
  これを受けてイラクに展開していた第800憲兵旅団(第115、第310、 第320、第324、第400、第530、第724、第744憲兵大隊)の 憲兵は、帰国を許されると考えた。ところが5月末から6月初めにかけて第8 00憲兵旅団にイラク人収容所を管理する新しい任務が付与された。憲兵は、 期待していた帰国ができないことが分かり、士気は低下した。しかも憲兵は、 予備役で技量不足に加え、任務に応じた十分な訓練も受けていなかったし、必 要な法律知識すら欠いていた。その上、憲兵旅団司令部は、こうしたことに何 の対策も講じなかった。しかも、アブ・クレイブ収容所の管理を巡って第20 5軍事情報旅団とのコミュニケーションもなく、指揮関係が曖昧であった。そ して、通常、1個大隊規模で収容者約4,000人を取扱うところを、アブ・ クレイブ収容所では、常時、6,000〜7,000人が収容されていたので、 予備役の第320憲兵大隊では、要員不足であった。しかも、憲兵の生活の質 は極端に貧弱であった。加えてRPG、迫撃砲、銃による攻撃といった脅威も あった。
  2003年5月12日キャンプ・ブカで第320憲兵大隊の憲兵4名が収容 者に対して虐待を行ったという第223憲兵中隊の報告がなされたが、第80 0憲兵旅団長ジャニスL.カルピンスキー准将は、何等対策を執らなかった。 こうしたことから規律は弛緩し、敬礼を怠り、服装は乱れ、法規類を無視し、 また逃亡者についても処理が杜撰になった。しかもその上、イラク人警備員は 信用できず、米国の民間契約者は不適当であった。  
  こうした中、2003年10月末から11月初めにかけてアブ・クレイブ収 容所1−A区で第800憲兵旅団第320憲兵大隊第372憲兵中隊の憲兵が 収容者に対して組織的かつ不法な虐待(殴る、蹴る、裸の男女収容者をビデオ、 写真に撮る、写真のために性行為の態勢を強いる、衣服を剥いで数日間裸のま まにする、男性収容者に女性下着を着させる、男性収容者に集団自慰行為をさ せビデオ・写真に撮る、裸の収容者を積み重ねさせてその上を飛び越えさせる、 拘束箱に括り付け、電気拷問用ワイヤーを付けて脅す、15歳の仲間の収容者 を強姦した収容者の脚に「私は強姦した」と書き込み、写真を撮る、裸の収容 者の首に犬輪を付け、紐を女性憲兵がもって写真を撮る、1人の男性憲兵は1 人の女性収容者と性的関係を持った、軍用犬を収容者にけしかけ脅す、イラク 人収容者の死体の写真を撮る)を故意に行った。カメラ(写真機)は、私物を 使っていた。
  こうした背景には、情報将校が情報を入手しやすくするため、憲兵にそうな るような環境を作るよう指示していたことがある。具体的な手段としては、イ ラク戦争開戦(2003年3月)前、ワシントンの戦争支持保守派(ネオコン )は、ラフアエロ・パテイ(コロンビア、プリンストン大学等教授、1996 年死亡)著の『アラブの心』(The Arab Mind:1973年初版)が、アラブ人 と性について恥と抑圧を与えるタブーと描いたことから、同書をアラブ人行動 のバイブルと見なした。その結果、ネオコンは、@アラブ人は力だけを理解す る、Aアラブ人の大きな弱点は恥と屈辱であると理解した。ここから写真は、 情報獲得のための脅迫手段であったという指摘もある。
  2004年1月13日犯罪捜査局(CID)の兵士が、匿名のメモ書きと1 枚の写真入りCDをドアの下の隙間から入れられたと憲兵大隊に通報してきた。 それが憲兵大隊長、憲兵旅団長に報告されたことから調査が始まった。
  写真は第320憲兵大隊中のコンピュータからコンピュータに複写されてい たことから、陸軍の上級指揮官は、直ちに問題−米国を貶め、その戦争努力を 損なう政治的、広報活動の災難が大きく浮かび上がってきたこと−を理解した。  1月5日米陸軍は、これらとは別に昨年5月12日イラク南部の基地内で拘 束中のイラク人を虐待(イラク人を蹴り、腕を曲げる等の暴行行為)して、職 務怠慢、虚偽報告等として憲兵3人を除隊、給与支払い2か月停止、うち2人 を降等処分にしたことを発表した。
  1月16日イラク駐留米軍司令部は、アブ・クレイブ収容所のイラク人収容 者に対する虐待の疑いで米軍兵士の調査を開始した。同18日第320大隊の 幹部が勤務から外された。19日CJTF−7指揮官リカルドS.サンチェス 中将が、特別調査をCENTCOMに求め、31日CFLCC指揮官デービッ ドD.マッキーナン中将がCFLCC支援副指揮官アントニオM.タグバ少将 に調査を命じた。3月12日タグバ少将は、調査結果を報告した。
  3月20日イラク駐留米軍は、第800憲兵旅団に所属する憲兵6人をアブ ・クレイブ収容所でイラク人収容者を暴行、残酷行為、職務怠慢、虐待、共同 謀議、猥褻行為で起訴した。他にも兵士9人と軍属2人の計11人が暴行に関 与し、うち兵士8人は懲戒免職、軍属2人は首になると見られる。
  4月28日CBSテレビが虐待シーンの写真を放映した。米軍が虐待事件に ついては公表していたが、写真については公表していなかったので、米国内に 衝撃を与えた。次いで雑誌ニュー・ヨーカーの編集者セイモア・ハーシュ(ベ トナム戦争当時ソンミ事件をスクープした報道で有名)は、ダグバ報告書を入 手し、それに基づき具体的かつ詳細なアブ・クレイブ・スキャンダル記事を掲 載し、いかに陸軍規則、ジュネーヴ諸条約に違反していたかと批判し、こうし た状況(情報収集のための秘密作戦を遂行し、虐待の原因を作ったこと)を作 為したラムズフエルド国防長官の責任を厳しく問うキャンペーンを展開した。  4月30日ブッシュ大統領は、「深い嫌悪感を持つ」と虐待行為を非難する とともに、再発防止に努める姿勢を示した。
  4月30日イラク、アラブ諸国は、米英メディアで報じられる米英兵による イラク人捕虜の虐待を非難した。
  5月3日イラク駐留米軍は、虐待事件に関連して米陸軍高級将校6人を懲戒 処分、もう1人に訓戒処分を下したことを明らかにした。
  5月4日米国防総省は、2002年12月以降、アフガニスタンとイラクの 拘束施設で、少なくとも被拘束者25人が死亡、うち2人は米兵や米政府関係 者に正当な理由なく殺害されていたことを明らかにした。うち10人について は、ジュネーヴ条約に反する暴行や虐待等が原因になっていなかったか調査を 継続している。死亡した事例以外にも、虐待、暴行の疑いがある10件につい て調査を行っているという。
  5月5日イラク国内刑務所担当トップ、ジェフリー・ミラー少将は、非人道 的な尋問を禁じる虐待防止策と被拘束者の待遇改善策を発表した。
  5月5日ブッシュ大統領は、アラビア語テレビ局2社(UAEテレビ「アル ・アラビーヤ」、米政府運営テレビ「アル・フーラ」)のインタビューに応じ、 虐待問題の徹底調査と関係者の厳正な処罰を約束した。
  5月6日ブッシュ大統領は、アブドラ・ヨルダン国王との共同記者会見でイ ラク人被拘束者虐待問題について「すまないと思う」と述べ、初めて公に謝罪 した。更に「我々の国の名誉と9名声にとっての汚点である」と新記憶に受け 止めていることを改めて強調した。前日のインタビューで謝罪の言葉がなかっ たことから、イラク国内やアラブ諸国の反発が高まっていた。
  5月7日ラムズフェルド国防長官は、米軍によるイラク人虐待問題について、 上下両院の軍事委員会の公聴会で計約6時間にわたって証言し、「全面的に私 に責任がある」と非を認めた上で、「虐待を受けた拘束者に深くおわびする」 と謝罪した。
  5月10日ブッシュ大統領は、国防総省でラムズフェルド国防長官等と協議 し、記者団に対し、虐待問題の全面的解明を行うことを強調した。
  5月11日タグバ少将は、上院軍事委員会でアブ・グラブ収容所の調査報告 の結果について、「旅団の指揮官から下まで…統率(leadership)の失敗だっ た」と主張した。
  5月12日米国防総省は、写真とビデオ約1千6百点を上下両院議員に開示 した。
  12日ボストン・グローブ紙が、ボストン市会議員がアラブ系活動家ととも に記者会見し、米兵と見られる制服姿の男がイラク人女性をレイプしていると 見られる写真を示しながら、米軍によるイラク人虐待の実態を直視するよう訴 えた写真を掲載したが、インターネット新聞「ワールドネット・ディリー(W ND)」がポルノ・ウェブサイトに掲載されていたものと同じと指摘し、ポル ノ・ウェブサイトから流出したものと分かり、同紙は14日付社説で写真掲載 が誤りだったと認めた。
  5月19日イラク・アブクレイブ収容所で昨年11月8日行われた被拘禁者 虐待に関する初の特別軍法会議が開かれ、被告人第372憲兵中隊技術兵ジェ レミー・シビッツ(24歳)に禁固1年、3階級降等、懲戒除隊が宣告された。
  統一軍事司法裁判法が、2002年4月12日大統領行政命令によって、特 別軍法会議の最大禁固6か月を1年に修正されたことから、特別軍法会議の禁 固1年は、最大限のものである。
  以後も、虐待関係者の軍法会議が予定されている。
 虐待問題に関して指摘されていることは、被拘禁者の法的地位の問題、指揮系 統上の問題、兵士の教育問題、指揮(命令と服従)の問題、内部告発の問題等 々が指摘されている。
  その反面、このスキャンダルが拡大すれば、世論の非難は高まり、イラク人 の支持を失えば、イラク統治にも悪影響を与えることになる。そうなれば、米 国世論もブッシュ大統領に厳しくなり、ブッシュ大統領再選も危うくなりかね ない。そうなると単なるスキャンダルではなく、米国の政治を変えかねない問 題となる。兵士の蛮行が、世論に影響を与え、政治を変えるかもしれない。故 に軍人は、自らの行動を律しなければならない。
  6月17日アシュクロフト米司法長官は、ノースカロライナ州の連邦大陪審 が、米中央情報局(CIA)との契約でアフガニスタンの米軍基地に勤務して いた民間人デービッド・パサロが、昨年6月19日から20日にかけて、拘束 されたアフガニスタン人に暴行を加えて死亡させたとして起訴したと発表した。
  17日朝パサロは、州内にある職場で逮捕された。有罪となれば、最高で4 0年の刑を言い渡される可能性があるという。
  6月24日米コロラド州フォートカーソン陸軍基地の陸軍情報部兵士2人を イラク軍少将殺害事件に絡んで捜査中と公表した。
  虐待問題に関して指摘されていることは、次のとおりである。
  7月2日米国防総省は、コロラド州フォートカーソン陸軍基地所属の1等軍 曹等4人を、今年1月3日イラク・サマラでパトロール中、夜間外出令を無視 した気地元住民2人をチグリス川に飛び込ませ、うち1人を死亡させた事件に 関与したと過失致死の疑いで訴追した。4人は、犯罪捜査官に対し、2人が岸 にたどり着いたのを確認した後、現場を離れたと虚偽の説明をしていたが、新 たな目撃証言により、1人の死亡が確認された。同基地で査問会議が開かれた。
 2005年1月9日軍法会議が開かれ、トレーシー・パーキンス1等軍曹は、 暴行及び司法妨害で有罪となり、禁固6か月、階級降等を言い渡された。 
  7月5日アフガニスタン治安部隊(security forces) は、アフガニスタン 国内でアフガニスタン人を監禁、虐待した米国人3人を逮捕した。21日アフ ガニスタン国家治安法廷(national security court) は、3人を監禁及び心 理的・肉体的拷問を含む罪で公判を開き、有罪とし、懲役10年を言い渡した。 3人は、米国防総省の暗黙の支援を得ていると言っているが、米軍は関与を否 定している。3人の動機は、個人的な金儲け、例えば対テロ戦争ビデオの作成 とみられている。
  7月22日レス・ブラウンリー陸軍長官は、上院軍事委員会で中央軍におけ る被拘禁者作戦及び政策に関する監察官報告(inspector general report)を 引用しつつ、被拘禁者虐待件数は94件あったが、軍規の組織的な崩壊には陥 っていないと証言した。アフガニスタン及びイラクにおける被拘禁者虐待の責 任は、少数の悪者(bad apples)と適切な監督の欠如によるものであって、軍 の訓練、ドクトリン及び政策の欠陥によるものではないとも、また、被拘禁者 が2001年9月11日以来延べ5万人に上るとことも語った。
  同報告書は、ブラウンリー陸軍長官が、2月10日に陸軍監察官ポールT. ミコラシュク陸軍中将にアフガニスタン及びイラクにおける被拘禁者作戦の調 査を命じたものである。
  8月24日ラムズフェルド国防長官が指名した独立調査委員会(議長・シュ レジンジャー元国防長官)は、国防総省上層部を含むあらゆるレベルで監督責 任が欠如していたとし、虐待を放置していた組織的な責任を指摘する報告書を 公表した。虐待事件の背景については、要員不足や規律の欠如が虐待につなが ったとし、本来、1対1であるべき拘束者と憲兵との比率が1対75にまで開 いたにもかかわらず、これを放置していたという。しかも、憲兵は、状況の変 化に対応する訓練も、組織も、装備も不十分であった。米軍は、常時インター ネット上に各種教範類を流していたにもかかわらず、憲兵は誰もアクセスしな かった。直接の責任は旅団指揮官レベルにあるが、より上位のレベルにも間接 的な責任がある。すなわち、統合参謀本部及び中央軍は、作戦計画において主 要戦闘後の戦争計画の発展に失敗し、国防総省は拘束者の取扱に明瞭さを欠き、 状況に応じた兵力の増派にも失敗した。
  8月25日国防総省は、第205情報大隊に関する内部調査結果(ジョーン ズ及びフェイ報告書)を公表した。それらによると少数の者が規律と指導監督 の欠如から国際法(戦争法規)違反と性的虐待を行い、多くは、尋問方針の混 乱、誤解にから結果として虐待をしたとしている。
  9月2日米軍は、イラクで拘束イラク人を虐待したとして、米海軍特殊部隊 SEALSの隊員4人を暴行、虐待などの罪で起訴した。
  9月11日イラク駐留米軍当局によると、軍法会議はアブクレイブ虐待事件 に関与した軍事情報大隊所属の技術兵(24歳)に対し、禁固8か月、兵卒へ の降格処分などの処分を言い渡した。
  9月24日米海軍は、イラクで拘束イラク人を虐待、死亡したとして、米海 軍特殊部隊SEALSの隊員3人を暴行致死などの罪で起訴した。米陸軍は、 第1騎兵師団の兵士2人を、イラク人3人を殺害した疑いで逮捕、訴追した。
  9月25日イラク駐留米軍当局によると、軍法会議は、今年5月ティクリー ト付近でイラク治安部隊の兵士1人を殺害したとして技術兵に対し、禁固25 年、降格した上で不名誉除隊処分を言い渡した。同被告は、殺人罪のほか、訴 追過程での偽証罪にも問われていた。
  10月21日アブクレイブ収容所被拘禁者虐待に関する軍法会議がバグダッ ドで開かれ、被告人第372憲兵中隊2等軍曹イヴアンL.フレデリック(3 8歳)に禁固8年、兵へ降等、給与支払停止、不名誉除隊を宣告した。
  12月8日AP通信によればFBI職員が2002年9月頃から年末にかけ てグアンタナモ基地で米兵がアフガニスタン人被拘禁者を虐待する場面を4回 (女性兵士による性的嫌がらせ、犬をけしかけた、強い照明をつけて独房に3 か月以上閉じこめた、口から頭部に懸けて粘着テープを巻き付けた)目撃し、 それを2003年1月国防総省に報告したが、何の処置も取られなかったので 再度2004年7月に書簡を送ったという。
  12月8日ラムズフェルド国防長官が、クェートの空軍基地で米兵を激励す る演説をした後、質問を受け付けたところ、装甲車の装備不足や長引く駐留へ の不満を訴えられ、防戦一方となった。ところが9日、この質問は、チャタヌ ーガ・タイムズ・フリー・プレスのエドワード・リー・ピッツ記者が兵士の協 力を得て仕掛けたことが分かった。同記者が、自身の関与を書いた電子メール を同僚に送り、それがジャーナリスト研究センター・ポインター協会のウェブ サイトに掲載されて判明した。問題は、兵士が装備に不満を持ち、10月13 日には燃料輸送を19名の兵士が拒否し、米国内では満期除隊を認めないスト ップ・ロス政策に対する不満が出始め、8月から予備役兵士が契約違反だと訴 訟を起こし出したことにある。単なる不平不満から具体的な厭戦行動に移り始 めたことにある。つまり士気の問題となった。
  12月9日米国防総省は、イラクで6月に拉致されたとの情報が流れ、20 日後の7月にレバノンに現れ、保護されていた海兵隊員ワセフ・アリ・ハース ン伍長(24歳)を脱走、短銃の窃盗の罪で訴追した。伍長は、レバノン系米 国人で偽装劇を演じ、その経緯を説明することを拒否しているという。
  12月11日イラク駐留米軍は、バクダッドで8月18日重傷の少年を射殺 したとして殺人罪に問われた第41歩兵連隊ジョニー・ホーン2等軍曹(30 歳)を軍法会議で禁固3年、降格した上での不名誉除隊、給与支払停止等を言 い渡したことを発表した。
  2005年1月14日アブクレイブ収容所被拘禁者虐待に関する軍法会議が フォートフッド陸軍基地で開かれ、首謀者とされる被告人チャールズ・グレイ ナー技術兵(36歳)に対し、有罪の評決を行い、15日禁固10年、階級降 等、給与支払停止、不名誉除隊を言い渡した。
  1月22日イラク駐留米軍は、2004年11月バグダッドの米軍基地でイ ラク人女性通訳を撃って業務上過失致死罪及び偽証罪に問われたフーザー技術 兵を軍法会議で禁固3年、階級降等、不名誉除隊を言い渡したことを発表した。
  3月10日米国防総省は、米兵による収容者虐待事件に関するチャーチ報告 書の要旨を公表した。それによると虐待は、国防総省の政策とは無関係に行わ れたとする一方、尋問を担当した部隊指揮官が事態を把握できなかったことや、 認められた尋問方法が徹底されていなかったことなど、米軍の対応に問題があ ったことを指摘している。結論として、ヒュミントは、グローバル対テロ戦争 に必要不可欠な要素であり、情報の必要性と敵の尋問に抵抗する能力は、伝統 的な尋問方法を再考させ、新しいより効果的な尋問技術が求められる。多くの 収容者は、人道的に取扱われ、圧倒的に多くの米兵士は立派に任務を遂行して いることを強調している。虐待があるとされた187件(2004年9月30 日まで)について調査し、71件6人死亡を認定した。このうち、尋問と関係 のある行為は20件で、残りは尋問と無関係に虐待が行われた。イラク関係が 60件5人死亡、アフガニスタン関係が3件1人死亡、グアンタナモ関係が8 件であった。2004年5月25日ラムズフエルド国防長官の命により海軍中 将アルバートT.チャーチが国防総省の尋問に関する包括的な再検討を行った。  なお、国防総省は、残り130件について調査を継続している。
  9月26日アブクレイブ収容所被拘禁者虐待に関する軍法会議がフォートフ ッド陸軍基地で開かれ、被告人リンディ・イングランド上等兵(22歳)に対 し、有罪の評決を行い、27日禁固3年、不名誉除隊を言い渡した。
  被拘禁者虐待を巡っては、次のような問題がある。
(1)被拘禁者の法的地位の問題
   アフガニスタン、イラクで拘束された人は、捕虜、スパイ、テロリスト、  一般犯罪者、不審者のいずれに該当するのか。その根拠法は。
   2001年9月11日のテロ後、11月13日ブッシュ大統領は、外国人  テロリストを裁く軍事法廷(military commission) の設置を国防長官に命  じた。これを受けて2002年3月21日ラムズフェルド国防長官は、対テ  ロ戦争において外国人を裁く軍事法廷の規則(手続)を、2003年2月2  8日には軍事法廷の対象となる罪状を発表した。
   ブッシュ政権は、アフガン戦争当時、旧支配勢力タリバンの構成員、国際  テロ組織アル・カーイダの構成員をキューバのグアンタナモの米軍基地に収  容したが、彼らを「敵性戦闘員」、「不法戦闘員」(unlawful combatants)、  「特権なき交戦者」(unprivileged)と規定、ジュネーヴ条約の対象外とし  た。基地がキューバにあることから米国の裁判所の管轄権も及ばないとして、  事実上、法的地位を与えず、弁護士の接見もほとんど許さなかった。
   欧米諸国からは、グアンタナモが法の適用を受けない“真空地帯”となっ  たことへの批判が上がっていた。
   イラクでの被拘禁者について、ラムズフェルド国防長官は、公聴会でイラ  ク軍人に関してはジュネーヴ第3条約上の戦争捕虜だと説明した。また、一  般の犯罪人についても、同第4条約が適用されると述べた。一方で、対イラ  ク戦争中から、米政府はサダム挺身隊等の非正規軍については、「違法な殺  人集団」として、同条約の適用外との認識を示唆している。
   2003年1月8日バージニア州リッチモンド連邦高裁は、大統領が米国  市民を「敵性戦闘員」として拘禁する権限を認める判決を言い渡した。最初  のジョン・ウォーカーは既に起訴され、有罪判決が下ったが、2002年4  月から拘束されているヤセル・ハムディについては、訴追の見通しが明らか  になっていないことからハムディの弁護団は、訴追なしでの長期拘禁は人権  侵害と主張し、当局に拘禁の証拠の提出を求める訴訟を起こした。連邦地裁  は、これを認めたが、連邦高裁は、追加の証拠は必要ないとの判断を示した。
   ところが2004年6月28日連邦最高裁は、人身保護を訴える権利を認  めた。これを受けて7月7日米国防総省は、グアンタナモのすべての被拘禁  者の地位を見なす命令を発した。グアンタナモ基地に収容している約600  人全員を対象に拘束の根拠になっている「敵性戦闘員」に該当するか、米裁  判所への異議申立て権があるかなどの判断を下す「戦闘員地位見直し法廷」  を設置することを発表した。同法廷は、軍人3人から構成され、うち1人が  弁護役となる。
   7月16日には、米兵によるイラク人虐待問題で赤十字国際委員会(IC  RC)の調査報告書への対応に不手際があったことを受け、被拘禁者が人道  的に扱われているかどうかを監督する被拘禁者問題担当室(an Office of
  Detainee Affairs)の新設を発表した。
(2)指揮系統上の問題
   収容所管理は、憲兵指揮系統、情報指揮系統下のいずれにあるのか。
   その責任者は誰か。拘禁する目的は、何か。その優先順位は、何か。
   情報収集を優先すると自白を強要する尋問手段を執りがちになる可能性が  生じるのでは。
   看守の数は被拘禁者に相応しかったのか。
   チャーチ報告によれば、その比率1:75を1:8にまで改善したという。   委託民間業者(拘禁、尋問等)の責任、権限は。
   民間企業(CACIインターナショナル、タイタン・コープ等)の民間尋  の35%は、尋問技法、政策及びドクトリンの訓練を受けず、法と指揮系統  下にあることを保証することに十分ではなかった。民間尋問者が、尋問に当  り、被拘束者を虐待した場合、統一軍事司法裁判法(国防総省・各軍)では  なく一般刑法(司法省)で裁かれる。場合によっては、民事訴訟にもなる。
   チャーチ報告書では、委託民間業者なしには、効果的な尋問はできないと  言う。民間尋問者は、経験豊富(元軍情報関係者、元警察官等)で、長期に  勤務(米軍兵士より)し、情報面で大きな貢献をしている。民間尋問者の虐  待は極めて少数であり、虐待した場合、連邦法で訴追できるという。
   7月27日イラク虐待被害者の会(ITVG)が、ワシントン連邦地裁に  虐待を行った尋問官が所属する民間軍事会社(CACIインターナショナル  及びタイタン・コープ)を相手取り訴訟を起こした。
   通訳の数は非拘禁者に相応しかったのか。   
(3)憲兵を情報収集(尋問)に担当させる是非?   
   軍事情報を収集する者として適格か。
   監察官報告(inspector general report)は、憲兵と尋問官との役割の混  乱を指摘している。
   チャーチ報告は、憲兵と尋問官の役割を明確にし、憲兵が尋問に参加しな  いことを明らかにすることを勧告した。
(4)憲兵の教育(指揮系統、被拘禁者取扱)の有無?
   インターネットで各種教範類を常時流し続けていたにもかかわらず、憲兵  はアクセスすることもなく、当然、勉強もしなかった。
   上司も、部下憲兵にネットにアクセスするよう指導し、勉強するよう職場  環境を整備すべきであった。
(5)英米法では、「命令に従っただけ」という抗弁は認められない。
(6)内部告発(写真をマスコミにリーク)の可能性?悪行は暴露される。
   2004年4月14日意見調整に2年かけた国防総省指示8100.2「  国防総省のGIG(グローバル・インフォメーション・グリッド)における  商用ワイヤレス機器、サービス、技術の使用」にウォルフォウィッツ国防副  長官が署名して発効した。軍のセキュリティー規格に適合したワイヤレス機  器を携行し、可能な限り、常に強力な認証技術と暗号化技術を利用すること  を規定した。つまり、一般の民間用ワイヤレス技術の使用を監視することを  命じた。ボトムアップ型のリトルブラザー式で、ピアツーピアタイプの監視  といわれる。つまりデジタルカメラなどを使用制限してリークを防ぐという  意味があるようである。
   それにもかかわらず、兵士は、私用デジタルカメラを携行し、写真を撮り  まくっている。例えば、12月7日カリフォルニア州ペンデルトン基地で演  説するブッシュ大統領をデジタルカメラに収める海兵隊隊員の姿がロイター  電で流された。2004年10月3日米海軍は、SEALS隊員が、イラク  において被拘禁者虐待の様子を撮影した写真40枚以上(一部に2003年  5月の日付入り)が、インターネット上にあるのをAP記者が見つけ出した  ことを受けて、海軍犯罪捜査局(NCIS)が、調査を開始したことを公表  した。同写真は、イラクに進駐した隊員の妻が、ウェブサイト写真共有サー  ビス内アルバムに掲載したもので、AP記者が検索エンジングーグルを使っ  て見つけ出した。海軍は、虐待行為が必ずしも違法行為をしているとは限ら  ないが、被拘禁者の写真撮影を禁止している海軍規則に違反するとしている。  ネット上に無暗に情報を流すことは厳禁である。どこで誰が見ているか分か  らないからである。
  いずれにしても、被拘禁者に対しては、遵法適正な取扱をする必要がある。
  今後とも、被拘禁者スキャンダル(軍法会議、写真、米兵及びイラク人被拘 禁者の談話等々)は拡大し、マスコミ、赤十字を含む人権団体、米国人、イラ ク人等々の非難は高まるであろう。
  将来の問題は、次のとおりである。
(1)国内政治への影響−米国民、世論の動き    
(2)イラク統治への影響−イラク人の心の離反−政略失敗     情報作戦
(3)国際世論への影響       失敗
(4)米軍への影響−戦闘に勝って、戦争に負ける
(5)他国への影響−ジュネーヴ条約、ICC批准
  教訓は、戦時と雖も目的は手段を正当化しない。due process of law(法の 適正手続)が重要であって、遵法精神を発揮する必要がある。当然ながら戦争 法規を遵守しなければならないのである。
  同時にやってもいないことをでっち上げられる危険性もあるので、遵守した ことを記録しておくことも大事となる。
  戦争には、ルールがあり、それを遵守しないと国際、国内世論から厳しい批 判、糾弾を浴び、本来の戦争目的である政治的目的を達成することができなく なる。そして「戦闘に勝って戦争に負ける」、いわゆる「相撲に勝って勝負に 負ける」ことになりかねない。
  「武士は相身互い」であるから、戦闘のルール(戦争法規)を遵守しながら 正々堂々(フエアプレイの精神)で戦わなければならない。そして、いったん 捕虜になったならば、「子曰く、其れ恕か。己の欲せざる所は、人に施すこと 勿(な)かれと」。自分が捕虜になったとき、自分にされたくなことを、捕虜にして はならないのである。それが恕である。
  米英の躓きの石を他山の石として「君子は未然に防ぐ」危険予察能力を身に 付けなければならない。
[出典]
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参考1 米国の軍事司法制度
1 経 緯
  1950年5月5日軍法、海軍管理法、沿岸警備隊規律(懲戒)法の三法律 を統合して統一軍事司法裁判法(Uniform Code of Military Justice:U.C.M.J )が可決され、1951年5月31日施行され、1968年改正され、200 4年4月12日大統領行政命令によって一部修正され、現在に至っている。
2 軍事犯罪と一般犯罪
  米国の軍法は、軍事犯罪と一般犯罪の両方を含めて規定している。
  米国の軍事犯罪は、次のとおりである。
  不正な入隊・任官・除隊、違法な入隊・任官・除隊、逃亡、無届欠勤、艦船 ・航空機・部隊の移動離脱、官憲(大統領・長官等)侮辱、上官への無礼、上 官への暴行又は故意の不服従、準士官・下士官に対する不服従行為、命令・規 則の不履行、残酷・虐待、暴動又は扇動、拘禁・監禁への反抗、囚人の無断釈 放、不法拘禁、訴訟規則違反、敵前非行、部下による降伏強要、暗号不法使用、 衛兵強要、捕獲品又は遺棄品犯罪、利敵行為、捕虜中の非行、スパイ行為、公 文書偽造、米軍用物の減失・棄損・破壊・不法処分、米軍用外財物の消耗・棄 損・破壊、船舶への危害、酩酊又は無謀運転、服務中の酩酊、歩哨の非行、決 闘、仮病、暴動又は治安の紊乱、挑発的原論又はジェスチャー、謀殺、故殺、 強姦及び性交、窃盗及び不法着服、強盗、文書偽造、身体傷害、男色、放火、 財物強要、暴行、夜盗、住居侵入、偽証、政府に対する詐欺、将校・紳士たる にふさわしくない行為
  なお、命令と服従の関係において英米法では、下級者が違法な命令に服従し た場合には、これを上級者と下級者の共謀と見た。「命令に従っただけだ」と いう抗弁は、認められない。軍の精強が国の興廃にかかわるが、同時に軍の独 裁、軍事絶対、統帥絶対も国を滅ぼすおそれがあると考えられたからである。 これがアングロ・サクソン英米法の特徴である。
3 軍事裁判(軍法会議)
  一般軍法会議、特別軍法会議、略式軍法会議の三種がある。
  一般軍法会議(general courts-martial)は、最高かつ最強力な法廷である。 死刑を含む統一軍事司法裁判法に規定する刑を宣告できる。召集権者は、大統 領、国防長官、軍司令官等である。1名の軍事判事(a military judge)、5 名以上の判士(members) で構成される。
  特別軍法会議(special courts-martial)は、一般軍法会議に次ぐもので死 刑、不名誉除隊、免職、1年を超える禁固、3か月を超える拘禁なき重労働、 1か月3分の2を超える減給、1年を超える俸給停止を除く刑を宣告できる。 召集権者は、一般軍法会議の召集権者、部隊指揮官等である。1名の軍事判事 (a military judge)、3名以上の判士(members) で構成される。
  略式軍法会議(summary courts-martial)は、死刑、免職、不名誉除隊、懲 戒除隊、1か月を超える禁固、45日を超える拘禁なき重労働、2か月を超え る居住制限、1か月3分の2を超える俸給停止を除く刑を宣告できる。召集権 者は、一般・特別軍法会議の召集権者、部隊指揮官、派遣部隊指揮官等である。 構成は将校1名で、被告は下士官、兵に限られる。
4 訴訟手続と刑罰の種類
  軍の規律に反し、又は罪を犯した疑いのある者を軍法会議で裁くべきか否か の決定は、通常被疑者の勤務する部隊や機関の長又は上級部隊指揮官に任され ている。たいていの国の軍法には、被疑者を軍法会議に出頭させる前に、完全 で公正な調査が行われなければならないと定めている。
  査問会議は、大陪審における審査手続に多少似ているが、被疑者には、より 多くの権利が与えられている。調査の結果、十分な有罪証拠が判明すれば事案 は軍法会議に送られる。
  通常、査問会議は、上級将校3名以上の判士と法務官から構成される。    法務官による招集命令書朗読等の冒頭手続の後、法務官と当事者(弁護人) 双方が証人申請できる。証人は、自己に不利な証言を強いられず、証言の代わ りに上申書を提出することができる。当事者には、最終弁論の機会が与えられ、 すべての証拠や供述書などが受理された後に結審する。その後、事実認定、意 見、勧告を記載した報告書が召集権者である司令官に提出される。
  勧告は、合議によって行われ、意見が割れた場合は少数意見も付記される。 査問会議が、軍法会議設置を勧告しても拘束力はなく、最終的な決定は招集権 者が30日以内に下す。
  歴史的、伝統的に軍法会議の裁判手続は、一般の刑事裁判手続より迅速かつ 略式であった。しかし、人権保護の精神が高まるにつれて被告人の権利保護が 広範となり、一般の刑事訴訟におけるすべての本質的な保護が図られ、むしろ 一般の訴訟に見られないような幾つかの保護が与えられている。
  法務官は、軍法の専門家である。その職務は、公判裁判官の職務と類似して いる。
  判士の職務は、陪審員と類似している。主要な差異は、判士が有罪、無罪の 決定のみならず、刑の宣告も行うことである。
  証拠規則は、一般の刑事訴訟とほぼ同じである。権利章典、人権保障と同じ く強制的自己負罪、一事不再理及び残酷又は異常な刑罰を禁止している。    司令官が軍法会議に圧力をかけることも禁止されている。
  有罪判決は再審官(軍法会議を召集した指揮官又は召集権限を有する他の指 揮官)により裁可されなければならない。再審官は有罪判決の全部又は一部を 否認することができ、減刑することもできるが、加重することはできない。無 罪判決は再審官を拘束し、これを侵害することはできない。
  懲戒除隊又は1年以上の禁固を含む有罪判決を受けた者は、再審を請求する 権利がある。
  米国の刑罰は、死刑、禁固、免職(将校)、不名誉除隊(下士官、兵)、懲 戒除隊(下士官、兵)、重労働、給与支払停止、降等、減俸がある。
5 軍事司法権と一般司法権
  軍人の一般犯罪が軍法及び連邦法、州法の双方により告発されるときは、そ の者は軍法会議又は一般裁判所のいずれかで裁かれる。例えば、暴行という一 般犯罪と上官殴打という軍事犯罪のように一つの行為が二つの罪を含む場合は、 連邦裁判所と軍法会議の両方で裁かれるわけであるが、一般には平時に合衆国 内における行為で軍に直接影響を及ぼさない一般犯罪については一般の裁判所 に任せている。
6 非司法的処罰(懲戒罰)
  軽犯罪に対して軍法会議によることなく指揮官(中隊長以上)が非司法的処 罰(懲戒罰)を科することができる。
  罰としては、指揮下の将校に対しては、2週間以内の特権停止、2週間以内 の行動制限、1か月以内俸給の2分1減額であり、指揮下のその他の軍人に対 しては、2週間以内の特権停止、2週間以内の行動制限、2週間以内かつ1日 2時間以内の加重勤務、直近下位への降等、乗船者に対する7日以内の禁足、 乗船者に対する3日以内のパンと水の支給制限である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
              軍法会議の流れ
               犯罪行為

 
告訴・告発
 
               捜査(CI、MP等)

 
報 告
 
               召集権者(部隊指揮官等)
      決 定  

 

 

 

 

 

 
      懲戒罰



 
略式軍法会議 特別軍法会議  査問会議

    軍 法 会 議

 
               一般軍法会議
 
[出典]
藤田修外『昭和50年度警務研修資料 アメリカ合衆国刑法の研究』(海上自衛  隊警務隊本部、1975年)
足立純夫「軍事規律の比較法的考察」(『防衛法研究』第8号 特集:自衛隊の  隊員の服務、1984年9月)
山田康夫「軍事司法制度」(『防衛法研究』第10号 特集:自衛隊をめぐる諸  問題、1986年10月)
UNIFORM CODE OF MILITARY JUSTICE,http://jaglink.jag.af.mil/ucmj.htm
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
参考2 虐待心理実験
 1973年ヘイニー,C.、バンクス,C.及びジンバルド,P.は、論文「模擬刑務所における相互力学」(Interpersonal Dynamics in a Simulated Pri-son) を「犯罪学と刑罰学の国際誌」(International Journal of Criminologyand Penology)に発表した。
 米国、カナダの大学生24人を「囚人」と「刑務官」に振り分けた模擬刑務所の実験(Stanford Prison Experiment:SPE)がスタンフォード大学で行われた。
そこでの刑務官の行動は、アブ・クレイブ収容所で見られた虐待行為を思わせるものであった。
 実験に加わったカリフォルニア大学のクレイグ・ヘイニー教授(心理学)は、虐待行為について、「囚人と刑務官に大きな権力差があるまま常に接触する刑務所特有の環境に原因がある。権力の格差はどこでもあるが、一般社会では通常、離れて行動することで、こうした異常事態は起こりにくい」と分析する。
 スタンフォード大学のフィリップ・ジンバルド教授(心理学)は、「実験を始める際に、刑務官には全権力を与え、囚人は完全に無力な状態に置いた。実際の刑務所と同様、権力の巨大な格差を設定した」と語る。
 24人の学生は、百人近い応募者から選ばれた善良な学生で、ジンバルド教授によると「良質のリンゴ」だった。
 だが、結果的に、2週間の予定であった実験は、6日目に打ち切られた。
 ジンバルド教授によると、5日目に、「刑務官」による男色強制などの性的虐待行為や、囚人を裸にして袋を頭からかぶせる、鎖でつなぐなどの行為が見られ、これ以上続けると抑制が利かなくなると判断したからだという。
 ジンバルド教授は、「良質のリンゴが腐ったのは、リンゴを入れる樽に問題があったからだ。普通の善良な米国人でも、環境やシステム次第で悪の執行者となりうる」と語った。
 他の実験の例もある。
 心理学者スタンレイ・ミルグラムが、1970年代初めにエール大学の学生を使って、質問に答えられない生徒に教師が電気ショックを与える実験を行った。
 電圧は14ボルトから450ボルトまでを設定した。教師役の学生の60%は、生徒役(実際には電流が流れておらず、俳優が演技)がショックで苦痛の表情を見せても、上からの「命令」に従い、最大450ボルトまで電圧を上げていったという。
 人間は、状況によって、責任感、従属感が変化し、立場によって判断し、一定の役割を演じ、命令に従って行動しやすいことを示している。
[出典]
寺田正臣「米大学で模擬刑務所実験」(『読売新聞』2004年5月19日)
Independent Panel To Review DoD Detention Operations,Final Report of the  Independent Panel To Review DoD Detention Operations,August 2004,
  AppendixG,Psychological Stresses,http://www.defenselink.mil/news/
  Aug2004/n08242004_2004082408.html
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
参考3 傭兵(mercenary)
 傭兵とは、金目的で戦闘行為に参加している者であり、「世界で2番目に古い職業」と言われている。勿論、「売春とスパイは世界最古の職業」で在るから、2番目ということである。というより、これらは密接に結びついている職業でもある。それくらい古い職業ということである。
 ローマ帝国から中世ルネッサンス時代の傭兵(イタリア人傭兵隊長コンドチェリ、スイス人歩兵、ドイツ人農兵)は有名である。そして中世は、傭兵による戦争の時代となった。傭兵は、個々の兵士を雇い入れるのではなく、戦争企業者ともいうべき傭兵隊長が、自らの資金で兵士を募集し、雇用者の要求を満たした。傭兵隊長は、戦争企業家であり、一種の投機者であった。故に忠誠の義務はなく、利益(給付金、掠奪等)のみが行動を律する規準であった。なかでも、中世イタリアの傭兵制度は、政治形態、経済体制、社会構成を異にする雑多な国家群の間で浮動することから、いわゆる「動く国家」と呼ばれた。イタリア傭兵隊は、兵士の他にも医師、司祭、書記、会計、職人、料理人、娼婦その他の随員を含み、多くの場合、隊内の司法、行政権も、傭兵隊長の管轄下にあった。一定の領土を持たない、固着していないという一点を除いては、一つの国家のような形態をとっていた。この点から、「動く国家」、「動く城」と呼ばれた。ところがフランス革命は、国民軍を作り上げ、以後、国民国家の徴兵制が主流となった。例外的に、フランス外人部隊、スペイン外人部隊、英国グルカ兵のように国家が雇う外国人もいた。
 封建制軍隊から傭兵に、そして常備の傭兵から常備軍へと発展した。しかし、同時にこの三つが並存もした。
 1960〜70年代アフリカでは、私的な契約に基づく傭兵が活動した。コンゴ動乱では、いわゆる「ワイルド・ギース」が活躍し、ビアフラ内戦、アンゴラ内戦でも傭兵が活躍した。コモロ、トーゴ、セーシェル等でクーデターを起こすなどした。映画や小説からイメージされる傭兵の姿は、報酬と引き換えに危険な任務につき、プロではあるが、酒と女に浸る、血に飢えた「戦争の犬」というものであろう。有名な傭兵にマイク・ホア大佐(“マッド”マイク)等々がいる。
 利権を巡って内戦に介入し、被害を拡大する民族自決を抑圧する者としてアフリカの傭兵の問題は国連でも取り上げられるようになった。
 1973年12月12日の国連総会は、次のような傭兵非難宣言を行った。
 「植民地主義と外国支配のくびきを排除して、自由と独立を求めて戦う民族解放運動を弾圧するために、植民地主義的な人種差別政権が雇い兵を使用しているのは犯罪行為と考えられる。したがって、雇い兵も犯罪人として処罰されるべきである。」
 事実、1976年6月アンゴラの首都ルワンダでアンゴラ解放人民運動(MPLA)に捉えられた白人傭兵13人の裁判が行われ、4人が死刑となった。
 こうしたことから「1949年8月12日のジュネーヴ諸条約に追加される国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書〔追加議定書T〕」(以下「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第一議定書)と略する。1977年12月12日署名、1978年12月7日発効、日本未署名)は、第47条(傭兵)で、
「1 傭兵は、戦闘員又は捕虜となる権利を有しない。
 2 傭兵とは、次のすべての条件を満たす者をいう。
 (a)武力紛争において戦うために現地で又は外国で特別に徴募されているこ   と。
 (b)実際に敵対行為に直接参加していること。
 (c)主として私的利得を得たいという願望から敵対行為に参加し、実際に紛   争当事国によって又は紛争当事国のために当該紛争当事国の軍隊の類似の   階級に属し及び類似の任務を有する戦闘員に約束され又は支払われる額を   相当上回る物質的報酬を約束されていること。
 (d)紛争当事国の国民でなく、また、紛争当事国が支配している地域の居住   者でないこと。
 (e)紛争当事国の軍隊の構成員でないこと。
 (f)紛争当事国でない国が自国の軍隊の構成員として公の任務で派遣した者   でないこと。」
と規定した。
 1989年には、国連総会で「傭兵の募集、使用、資金供与、及び訓練を禁止する条約」が採択されたが、米仏独等主要国が批准していないことから、民間軍事会社及び傭兵は野放し状態である。
 ところが1980年代からアフガニスタン、ミャンマー、クロアチアなどで傭兵として活動する者は、報酬は低く、現地までの交通費や装備が自費であるため赤字になるという。それでも行くのは、自由を求める人々を助けるといった動機、あるいは単なる就職先の一つといった志願であるという。
 更に注目されているのが、民間軍事会社、軍事顧問会社、契約部隊(private military contractor,private military company:PMC)と称される民間企業としての体裁を整えた傭兵である。
 民間軍事会社の先駆けは、東インド会社である。東インド会社は、貿易を保護するため1613年スマトラに小艦隊を編成し、ここに2世紀半にわたる会社海軍(Company Marine)が始まり、1687年にボンベイに艦隊を移し、ボンベイ海軍(Bombay Marine) と呼ばれるようになった。その任務は、@東インド海上貿易の保護、Aインド沿岸、ぺルシア・アラビア沿岸等の調査・測量、Bインド・東南アジア近海を跳梁する海賊船の討伐、C軍隊の輸送及び海戦への参加であった。19世紀英国の東方貿易への進出が本格化し、英国海軍のアジア海域での活動が活発化すると、ボンベイ海軍も従来の海上警備に加えて、@インド沿岸藩主国間の紛争除去、A港湾・貯炭地の獲得B海峡・海岸線に沿っての海図作成という新たな任務が付与された。1830年にはインド海軍(Indian Navy) と改称された。インド海軍は、英国海軍の有力な補完戦力であった。インド財政が危機的状況となり、1858年名称をHer Majesty's Indian Navy に変更するだけで存続を許された。が、遂に1863年インド海軍の任務を英国海軍に引継ぐ形で解体された。
 ナポレオン戦争以降、英国は世界市場を拡大し、併せて海運市場を支配しようとした。が、しかし、英国海軍は、相対的優位を保ちつつも縮小方向を余儀なくされた。それにもかかわらず多様な任務を課された。その任務は、@海上貿易の保護、A権益の保護、B奴隷貿易の取締、C測量・海図の作成、D自由貿易の軍事的強制(砲艦外交)であった。英国海軍の艦艇数の縮小にもかかわらず、任務は増え、アジアに対応することができなくなった。それに加えて、アジア沿岸地域大河を遡航できる砲艦を揃えることができなかった。蒸気船の採用に消極的であった英国海軍が蒸気艦艇へ切り換えるのは、木材の不足とフランス海軍との対抗(建艦競争)上からであった。
 言い換えると英国のインド財政への負担転化の関係、つまり英国海軍東インド艦隊とインド・ベンガル海軍という全体的補完関係が、英国の海洋支配を支える「安上がりの海軍政策」である。更に、建艦の民間委託が「安上がりの建艦政策」となり、軍需品供給の独占による「安上がりの防衛政策」でもあった。現代風に言えば、トランスフォーメーションであった。
 冷戦後、アフリカの戦略的重要性が低下し、東西両陣営の援助が減らされ、政治的、経済的にも忘れられた存在となり、アフリカ諸国内の武力紛争が多発するようになったが、大国は軍事的な介入に消極的になった。ハイテク戦争を目指す先進諸国は、ますます内戦への介入を避けるようになった。
 こうした状況を背景に、民間軍事会社は急成長を遂げた。民間軍事会社は、英・米・仏・南アフリカ・イスラエル等にあり、業務内容は主として軍事訓練であるが、後方支援から軍事顧問までこなし、中には実戦に参加する会社もある。その代表的な会社が、南アフリカに拠点を置くエグゼキュティブ・アウトカムズ(EO)である。EOは、英国のストラテジック・リソーシズ(警備会社、鉱山、航空機チャーター会社等を傘下に置く。)の子会社で、基本的に南アフリカ国防軍と警察の出身者によって構成される。兵士の契約期間は、最長1年、月給は2,000ドルからパイロットでは1万ドル以上のこともある。1989年設立当初は、南アフリカ国防軍特殊部隊の訓練を請け負い、やがて南アフリカや近隣諸国の鉱山企業から、密輸対策の指導・訓練を依頼されるようになった。EOの名を高めたのが、アンゴラ内戦で反政府組織のアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)を鎮圧したことである。アンゴラ政府は、初め推定2,500万ドルで部隊の訓練をEOに委託、その部隊がUNITAが占領していたダイヤモンド鉱山を奪回したことから、新たに推定6,000万ドルで契約を結んだ。EOは、政府軍を訓練するだけでなく直接戦闘にも参加し、特にEOのパイロットによる航空攻撃は効果が大きかった。また、シエラレオネの反乱鎮圧では、1995年にEOが入ると19か月で鎮圧、治安を回復した。シエラレオネ政府は、EOに1,500万ドルを支払ったといわれる。
 民間軍事会社に対する批判はある。例えば、次のようなものである。
 戦闘に参加するだけで、本当の平和に貢献していない。正規軍のように戦争法規に従っていないため、非人道的な行為をする可能性がある。特にこの点に関しては、傭兵が拘束された場合、ジュネーヴ条約に規定された捕虜としての取扱を受けることができない以上、傭兵訓練学校でも徹底してジュネーヴ条約の保護を受けないことを教えている。このため傭兵は、ジュネーヴ条約の保護を期待しないため、捕虜を捕えてもジュネーヴ条約の保護を与えない可能性が高くなり、その活動する場は、無法地帯となり、国際法規が存在しなくなる。報酬として利権(鉱山の採掘権等)を得るなどの契約は再植民地化である。
 これに対しEOのCEOエーベン・バーロウは、「国の資産を保護し、安全を確保することによって、投資と雇用をもたらしているのだ」と語っている。
 それに、任務が鉱山の警備や要人警護であれば、一般の警備保障会社の業務と変わらないという意見もある。
 米国の民間軍事会社の中には、米国防総省の代理として、安全保障政策の一翼を担うものもある。有名なのが、ミリタリー・プロフェッショナル・リソーシズ(MPRI)で、元陸軍参謀総長等数十人の将軍を初めとする1万人以上の退役軍人と元国防総省職員を登録していて、ニカラグア、サウジアラビア、ボスニア、クロアチア、マケドニア、ウクライナ等世界各地で軍事訓練(ウォー・ゲーム、軍事教育、兵器取扱訓練等)を請け負っている。同社のスポークスマンは、「20名の適格者を24時間以内にセルビア国境に配置できます…軍にはできません。しかし軍事会社にはできるのです」と語っている。
 民間軍事会社は、国防総省が姿を見せたくないところへ行き、ワシントンの目の届かないところで政府のために軍事行動を取っている。
 国防総省は、民間軍事会社の使用を兵員数の減少を穴埋めするための措置で、少ない兵員を戦闘に専念させ、軍の能力を高める費用対効果費の高い方法であると主張している。民間軍事会社は、使ったときだけ金を払えばいいので、その方が安く上がると言われる。しかし、支援兵士は武器を持って戦うが、民間軍事会社にそれを期待できるのか。逆に野戦指揮官は、民間軍事会社が攻撃されたとき、戦闘を犠牲にしてまで、その安全に責任を持たなければならないのか。いずれにしても民間軍事会社の存在は、軍の指揮・統制、情報及び作戦保全を複雑にし、指揮官の任務遂行を困難にし、危険にする。国防総省は、将来の軍事的勝利を、戦場で民間軍事会社が作戦機能を遂行することに賭けるのであろうか。また、兵士の血を大した額でもない予算削減と引き換えにしているのではないかという批判もある。
 ところが、イラク戦争後、民間軍事会社が特殊部隊出身の社員に払う給与が1日千ドル以上であるため、現役の特殊部隊員が除隊して民間軍事会社に雇用、つまり引き抜かれるケースが増えた。民間軍事会社との人材獲得競争が絡んだため、国防総省は、イラクやアフガニスタンで任務に就く米軍将兵にボーナスの大幅アップや戦死の際の弔慰金の増額等の措置を相次いで取った。2005年1月には、陸海軍特殊部隊に長年所属する最精鋭に最高で15万ドルのボーナスを支給、2月には弔慰金等を倍額にした。任務が長引く中で、派遣将兵の資質や士気を確保する狙いである。こうなると民間軍事会社の必要性は疑問になってくる。
 米国政府にとって軍を投入するのに比べ、国民の支持や議会の承認(議会の承認が必要な5,000万ドル以下に小分けして民間軍事会社と契約を結べば、軍事予算に計上されない。あるいは、派遣先の兵員数の制限を民間軍事会社社員を使うことで擦り抜ける。)を得る必要もないし、必ずしも民間軍事会社、民間人の動向を公表する必要もないし、費用を抑えることができるという利点はある。
 しかし、問題もある。
 例えば、MPRIの訓練を受けたクロアチア軍が非人道的な行為を行った。人権侵害を行っている赤道ギニア政府と契約しようとして国務省に反対された。アフガニスタンのカルザイ大統領の警備担当を請け負っている米ダインコープの社員が、ボスニアで奴隷売春組織を経営していた。民間軍事会社の傭兵が現地住民を殺傷した。こうした場合の責任はどうなるのか。一体誰が取るのか。
 つまり、戦闘時における民間軍事会社社員の安全と責任はどうなるのか。民間軍事会社は、軍の規律に従う義務はない。その法的義務は、雇用契約に対するものであって国や政府ではない。
 民間軍事会社は、政治・軍事・民間関係を不明瞭にし、法的関係も不明瞭のまま定義されていない。
 それであっても、民間軍事会社が、国際安全保障体制の中に入り込んできている以上、何らかの法的規制が必要となるであろう。
 現在、民間軍事会社は、約50社あり、市場規模は1,000億ドル(約11兆円)に達するともいわれる。米国だけで約35社である。
 傭兵は、20〜30万人といわれる。南アフリカ、ウクライナ、ロシア出身者が多いという。特に、特殊部隊経験者が重宝がられる。収入は、1日当り50から1万ドルまで、経験と能力に応じて非常な格差があるという。
 派遣先は、アフガニスタン、イラクに集中している。
 ところが、こうした近代的な民間軍事会社と異なった古典的な傭兵によるクーデター騒ぎもある。英小説家フォーサイスの『戦争の犬』は、英国の実業家がアフリカの鉱山の利権を獲得するため内戦に介入させた傭兵を描いたものであるが、現代でも赤道ギニアの石油利権を巡ってヌゲマ大統領に対する反体制派モトの依頼を受けた元英特殊部隊(SAS)員サイモン・マンが、2004年3月ジンバブエでクーデター(武器密輸)容疑で逮捕され、8月27日裁判で有罪となり、9月10日禁固7年の実刑判決を受けた。同時に芋蔓式に拘束された実行部隊とされる南アの元軍人等65人(大半が南ア政権がアンゴラの黒人等を集めて組織した特殊部隊「32部隊」、いわゆる「陰の部隊」でゲリラ戦を得意とした部隊員である。)も不法入国で禁固1年の判決を受けた。そして、赤道ギニア国内でも傭兵が逮捕され、8月から首都マラボで裁判が開かれた。これに関連して南アでサッチャー元英首相の息子マークが、8月25日南アの外国軍事援助法違反(ヘリコプター供与、財政援助)の容疑で逮捕された。なんとも間抜けな話である。
 2005年1月13日マークは否認していたが、ケープタウン裁判所で有罪を認め、罰金300万ランド(5,400万円)と執行猶予5年付禁固4年の判決が言い渡された。司法取引が成立し米国へ出国した。
 このクーデター騒動の真偽は、不明であるが、赤道ギニアは、大規模な海底油田が確認され、米系石油資本が進出し、サハラ以南では、ナイジェリア、アンゴラに次ぐ、石油大国にのし上がったことから、この利権を狙った可能性を否定できない。2002年の国内総生産(GDP)は21億ドルである。こうした経済の急成長は、ヌゲマ大統領が権力を部族で固め、権力を維持するため恐怖政治を敷き、クーデターへの恐怖心が強烈となり、憎悪と疑心暗鬼で国内でクーデター摘発が相次いでいる。こうした利権と国内政治の不安が、戦争の犬を招き、それが国際問題になる可能性もある。戦争の犬に注意!
 14年間続いたリベリア内戦の少年兵が、今度は傭兵として隣国ギニアに潜入しているという。2004年8月リベリアの国家人権委員会は、17歳以下の少年500人が傭兵としてギニアに入ったと発表した。9月初めには、リベリア暫定政府国防次官が、ギニアに向かう少年兵を募集したとして側近に告発された。
 国連リベリア支援団(UNMIL)等が、実態解明に乗り出した。
 いずれにしても少年傭兵問題は、ギニアの政情不安に付け込む動きである。
[出典]
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クラウゼヴィツツ『戦争論』篠田英雄訳(岩波書店、1968年)
近藤和子「外人部隊と『現代植民政策』」(教育社、1978年)
毛利元貞『傭兵マニュアル・完全版』(並木書房、1992年)
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レスリー・ウェイン「アメリカで進む軍の民営化」片岡夏美訳(『世界』200 3年4月)
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加藤賢治「首謀者、禁固7年判決」(『読売新聞』2004年9月14日)
加藤賢治「南アの“陰”危険な出稼ぎ」(『読売新聞』2004年9月14日)
加藤賢治「サッチャー被告司法取引」(『読売新聞』2005年1月14日)
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5 英軍イラク人虐待事件
  2004年4月30日英国防省は、イラクで英国兵がイラク人に暴行を加え ていた疑いで調査に乗り出すことを明らかにした。
  緊急会見した英陸軍のマイケル・ジャクソン参謀総長は、「事実なら違法で 軍規に違反する」と非難し、直ちに調査すると表明し、「こうした行為は違法 であるばかりか、英陸軍の高い評価を汚すものだ」と怒りと困惑を表し、「一 部の兵士の行いで 軍全体を判断してはならない」と釈明した。
  5月1日英ディリー・ミラーは、英兵が拘束したイラク人を銃床で殴り付け たり、小便を浴びせたりする写真を掲載した。
  3日英BBC等の各メディアは、ディリー・ミラーの虐待写真について、部 隊高官や軍事専門家等の分析を伝え、写真の銃はイラク駐留部隊で使われてい ない、兵士の帽子が不断着用の物と違う等の不自然な点が多く、「やらせ」の 可能性が強いとの見方を一斉に報じた。
  7日英軍特別調査部は、イラク人虐待を目撃したという兵士を事情聴取した。
  9日英サンデー・タイムズは、イラク駐留部隊で英兵3人が拘束イラク人に 同性愛の性行為を強要する虐待を行っていたと報道した。現場を撮影したフィ ルムを2003年5月に現像した写真店の通報で明らかになった。
  同日ブレア英首相は、仏国営テレビフランス3のインタビユーで「わが軍の 兵士によって虐待された人々に、深く謝罪する」と述べ、初めて陳謝し、「こ うした」行いに責任のある者は、陸軍の規律に基づき罰せられる」との方針を 表明した。
  10日フーン英国防相は、英下院で証言し、虐待が実際にあったことをおお むね認め、全面的に謝罪した。同時に赤十字国際委員会(ICRC)が2月に 提出した報告書について英軍関連が3項目あったことを明らかにした。また、
 ディリー・ミラーの虐待写真については、「イラク国内で撮られたものではな い」と述べ、偽物であるとの見解を初めて示した。
  12日ブレア首相は、議会答弁でディリー・ミラーの虐待写真について「偽 物とほとんど断言できる」との考え方を示した。
  14日ディリー・ミラーは、イラク人虐待写真が捏造されたものだったこと を認め、編集長を解任し、15日一面をつぶして謝罪報道をした。「計画的で 悪意あるウソにだまされた。英軍に対し無条件に謝罪する」との声明を発表し た。写真の英軍兵士とされた人物が構えていた銃の型や軍用トラックの装備等 から信憑性に疑問の声が上がっていた。
  18日国防省は、イラク人虐待写真捏造捜査において1人の英兵を逮捕した。  5月5日イラク戦争の大規模戦闘後、駐留英軍に殺された民間イラク人14 人の遺族が、「不法に殺害された」、「殺害は欧州人権法に違反する」、英軍 占領下では英国内と同様に、欧州人権規約が適用されるべき」と主張して、事 実関係の司法調査と損害賠償を求める訴訟をロンドンの高等法院に提起した。 英国防省の報道官は、「英国政府は責任を認めていない。原告側にはすでに書 簡でその理由を説明している」とコメントした。
  11日国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン )が、イラク南部に展開する英軍が、無抵抗の民間人12名を殺害したとする 報告書を公表した。
  13日フセイン元イラク大統領の弁護人の1人であるフランス人ベルジェス 弁護士は、英兵によるイラク人捕虜虐待は「戦争犯罪」にあたるとして、英国 をハーグにある国際刑事裁判所(ICC)に訴追すると表明した。英国のみ訴 追としたのは、米国が1年間訴追猶予されているためである。しかし、法律専 門家によるとICCは、犯罪を犯し、それを命令した個人は、裁けても、国家 そのものを裁く能力はないとされる。
  6月14日ゴールドスミス法務長官は、上院議会に書簡を送り、兵士4人を 軍法会議で裁く考えを表明した。更に3件捜査しているほか、捜査の可能性が ある4件もあるという。
  兵士4人は、フュージリア歩兵連隊所属で、罪状は「被害者同士の性的行為 を強要する暴行」等と言われる。写真証拠もあり、英国内で現像され、警察に 提供されたものである。
  2005年1月10日ドイツ北部の英軍基地で2003年3月のイラク人虐 待容疑で英兵4人のうち1人に対する軍法会議が始まった。
  2005年1月18日ドイツ・オスナブリュックにある英軍基地で2003 年5月15日イラク南部バスラで略奪行為をして拘束したイラク人に対する虐 待疑惑で英兵3人に対する軍法会議が開かれた。虐待の現場写真22枚が公表 された。写真は、イラク人をフォークリフトで持ち上げて振り落とすものや、 被拘束者同士に性的行為を強要したものなどである。これらの写真を撮影した 兵士ガリー・バートラム兵は、2004年5月写真フイルムを現像に出して通 報、逮捕され、軍法会議にかけられ、拘禁18か月を言い渡された。英兵3人 のうちダーレン・ラーキン伍長は、イラク人を殴打した罪を認めたが、全裸に するなどの虐待は否認、残るダニエル・ケニヨン伍長及びマーク・クーリー伍 長の2人は罪状を全面否認した。英陸軍マイケル・ジャクソン将軍は、緊急記 者会見で「どのような虐待行為も徹底的に糾弾されねばならない」と語った。 2月23日軍法会議は、残る2人に有罪評決を下した。裁判長は、兵士らの行 為を「残虐で残酷」「吐き気がするほどおぞましい」と強く非難し、「間違い なく、英軍の国際的評価をおとしめ、ある意味で英国そのものの評価もおとし めた」と批判した。25日軍法会議は、不名誉除隊の上、ケニヨン伍長に拘禁 18か月、クーニー伍長に拘禁2年、ラーキン伍長に拘禁5か月を言い渡した。
  教訓は、戦時と雖も目的は手段を正当化しない。due process of law(法の 適正手続)が重要であって、遵法精神を発揮する必要がある。当然ながら戦争 法規を遵守しなければならないのである。
  同時にやってもいないことをでっち上げられる危険性もあるので、遵守した ことをちゃんと記録しておくことも大事となる。
[出典]
飯塚恵子「英兵も虐待英紙が報道」(『読売新聞』2004年5月1日)
飯塚恵子「英兵の虐待メディアは『不自然』」(『読売新聞』2004年5月4  日)
飯塚恵子「虐待疑惑英でも拡大」(『読売新聞』2004年5月10日)
飯塚恵子「英首相『虐待』事実上認める」(『読売新聞』2004年5月10日  )
飯塚恵子「批判とイラク人虐待釈明と」(『読売新聞』2004年5月11日)
土生修一「英軍虐待写真は偽物」(『読売新聞』2004年5月15日)
福田伸生「イラク虐待 英兵4人軍法会議へ」(『読売新聞』2004年6月1  5日)
飯塚恵子「英兵の虐待現場写真」(『読売新聞』2005年1月19日)
CNN.co.jp ワールド「イラク民間人遺族、英国で提訴 英軍による殺害の調査要  求」(http://cnn.co.jp/world/CNN200405060009.html)
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CNN.co.jp ワールド「ブレア首相、イラク駐留英兵の虐待写真『ほぼ虚偽』と」  (http://cnn.co.jp/world/CNN200405120027.html)
CNN.co.jp ワールド「英兵4人、軍法会議へ イラク人虐待で」(http://cnn.
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CNN.co.jp-ワールド「英国兵のイラク人暴行、写真公開裁判始まる」(http://
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  (http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/afro-ocea/news/20040501k0000  e030015000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE暮らし「イラク人虐待:英軍憲兵隊、暴行証拠持つ兵  士聴取」(http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/bebe/news/20040507k
  0000e030085000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE中近東・ロシア「イラク人虐待:英国をICCに訴追  へ 仏弁護士」(http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/mideast/news/
  20040514k0000e030016000c.html)
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CNN.com-UK soldier faces Iraq abuse trial,http://edition.cnn.com/2005/
  WORLD/europe/01/10/british.court.martial.reut/index.html
CNN.com-Briton admits beating Iraq captive,http://edition.cnn.com/2005/
  WORLD/europe/01/18/britain.iraq.ap/index.html
CNN.com-Three British soldiers jailed in Iraq abuse case,://edition.cnn.  com/2005/WORLD/europe/02/25/courtmartial.abuse.reut/index.html
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参考 英国の軍事司法制度
1 経 緯
  軍事司法制度の歴史は、軍隊の出現とともに古く、古代ローマ時代から存在 し、戦場の指揮官に部下の犯罪に対して各種の罰を科する権限が与えられてい た。その処罰は、迅速であり、しばしば残酷であった。
  それほどに軍法は重視され、古今東西、武人には、規律の重視が求められ、 厳格な規律が任務遂行の基盤とされてきた。
  古代ローマ帝国時代には、チュートン族の軍律が出現(紀元前1世紀頃)し、 その後、7世紀に至るまでの間、それは欧州各地の軍に伝播した。
  中世の軍事司法制度は、当時の戦術や補給業務と同じように単純な軍法であ った。
  中世後期及びルネッサンス時代になると西欧では、より精密で洗練された軍 法典が現れるようになった。一部は、ローマの先例にならい、一部はゲルマン 諸国の慣例に基づいていた。
  1066年英国ウィリアム征服王は、陸軍最高指揮官たる資格において軍法 会議制度を設けた。
  1190年リチャード獅子心王は、十字軍遠征に際し、兵士間の相克を防止 するため勅令を発し、殺人、傷害、窃盗、侮辱行為に対する処罰を定めた。
  近世になると慎重な裁判手続きが、規定されるようになった。
  1215年ジョン王は、貴族と大憲章(マグナ・カルタ:Magna Carta)を結 び、国王の徴税権の制限、法による支配(the rule of law) を明文化した。 特に大憲章第39条に由来する「正当な法の手続」(due process of law) は、 重要な原則として確立された。
  1385年リチャード2世は、24項目に及ぶ詳細な軍事法を制定した。
  英国の軍法は、国王によって定められていた。しかし、1688年名誉革命 が起こり、新たな国王の下、1689年議会は権利の宣言を議決し、権利の章 典(The Bill of Rights) を定めた。同年、議会は、反乱法(Mutiny Act)  を可決し、反乱・暴動の教唆、脱走等に対して軍法会議により死刑その他の刑 を科した。国王の軍法は、外国に駐留する軍隊にのみ適用された。
  1749年叛乱法の改正によって、「上級将校のいずれかの適法の命令に服 従しない者」だけが命令不服従の問われることになった。つまり、ここにおい て、上級将校の違法な命令には服従しなくてもよいという原則が確立された。 その反面、違法な命令に服従した下級者は責任を問われることとなった。この 原則は、英米法では、確立され、下級者が違法な命令に服従した場合には、こ れを上級者と下級者の共謀と見た。
  以後、反乱法と軍法が併存していたが、1881年統一され、陸軍年次法( Army Annual Act) が可決された。
  議会は、毎年この法律を可決して陸海軍に適用した。そして1955年陸軍 法、空軍法、1957年海軍懲罰法、1961年陸・空軍法が制定されたが、 1966年軍隊法(The Armed Forces Act)によってその効力を逐次延長され ている。
2 軍事犯罪と一般犯罪
  軍事犯罪(Military Offences) とは軍隊の任務、行動に関連する犯罪をい い、例えば逃亡、無許可欠勤、反乱、上官侮辱、暴行、不服従反抗、敵前非行、 利敵行為、捕虜の違法取扱、軍用物の減失、棄損、服務中の泥酔など諸国の軍 隊に共通するものである。
  一般犯罪とは、窃盗、強盗、殺人、放火、婦女暴行、詐欺、文書偽造、家屋 侵入などのように一般人であってもその行為が、刑法上の犯罪として問責され る行為である。
  軍法では、通常軍事犯罪についてのみ規定している国が多く、英国の軍法も、 軍事犯罪を主として規定しており、軍人の一般犯罪は刑法犯として告訴され、 一般の司法裁判所で裁判を受ける。もし、その者が戦場で勤務中のときは軍事 法廷(軍法会議)で裁かれることになるが、その者は国民全部に適用される刑 法犯で告訴される。
  英国における軍事犯罪は、次のとおりである。
  利敵行為、敵との通信、臆病な行為、士気に反する行為、命令違反又は故意 の怠慢により捕虜となること及び部隊復帰不履行、哨兵による又は哨兵に関す る罪、略奪、抗命、抗命抑止の怠慢、不服従行為、個別命令不服従、憲兵への 妨害、服務規律違反、逃亡・無許可欠勤の幇助及び隠蔽、仮病、酩酊、乱暴行 為、公共・軍用財産に関する罪、軍隊構成員の財産に関する罪、財産に関する 各種の罪、宿営犯罪、車両の徴発に関する罪、危険な飛行、航空機の不正確な 証明等、低空飛行、迷惑飛行、囚人等の逃亡許容及び不法釈放、逮捕に対する 抵抗、拘禁からの逃亡、軍法会議に関する罪、有害な暴露、入隊時の虚偽陳述、 虚偽文書の作成、一般市民に対する罪、士気を低下させる情報の流布、将校の 品位を落とす行為、将校又は下士官の虐待、破廉恥行為、軍事犯罪の企て、軍 事規律を乱す行為、一般犯罪
  なお、命令と服従の関係において英米法では、下級者が違法な命令に服従し た場合には、これを上級者と下級者の共謀と見る。「命令に従っただけだ」と いう抗弁は、認められない。違法命令、犯罪を命じる命令の法律上の効果につ いては、17世紀から論争が続いていた。軍の精強が国の興廃にかかわるが、 同時に軍の独裁、軍事絶対、統帥絶対も国を滅ぼすおそれがあると考えられた。 これがアングロ・サクソン英米法の特徴である。
  英国の軍法提要(1914年)は、「上官の命令に従って違法行為を行った 軍人は、戦争犯罪人としての責任を負わない」(第443条)という主旨が定 められていたが、これが1944年に改正され、「上官の命令でも明白に違法 な命令に従ってなされた行為については、行為者は責任を免れることはできな い」と改正されている。
3 軍事裁判(軍法会議)
  軍人、軍属等の規律違反や犯罪行為を裁くのが軍事裁判(Military Justice )であり、その法廷が軍事裁判所(military tribunal) 又は軍法会議(Cou- rt martial)といわれ、一種の特別裁判所である。
  軍事裁判(軍法会議)を必要とする理由は、
(1)軍隊の厳正な規律を維持するためには迅速かつ簡略な機構が必要である   こと
(2)軍事犯罪の裁判には一般の司法官のほかに軍事の専門家を必要とすること
(3)軍隊は自国の一般裁判所の所管外である外国に駐留する可能性があること  である。
  英国陸軍及び空軍の軍法によれば、一般軍法会議、地区軍法会議、野戦一般 軍法会議の三種がある。
  一般軍法会議は、佐官以上の指揮官により召集され、議長と4名以上の将校 で構成される。
  地区軍法会議は、佐官以上の指揮官、当該将校の命を受けた大尉以上の将校 により召集され、議長と2名以上の将校で構成される。
  しかし、将校を裁くこと、准士官に禁固、不名誉除隊、免職又は拘禁の判決 を下すことはできず、死刑又は2年以上の禁固刑を科することもできない。
  野戦一般軍法会議は、英本国外で召集され、その罪が野戦一般会議で裁かれ るべきであると命じた将校により召集され、議長と2名以上の将校で構成され る。将校が3名より少ない法廷では2年以上の禁固刑を科することはできない。
  海軍は、海軍規律(懲戒)法により、軍法会議は5名以上9名以下の将校で 構成され、大尉以上でなければならず、3年以上の経歴を要すること、軍法会 議を命じる将校は同会議の構成員になれないこと、構成員全員が同一艦船又は 機関に属してはならないこと、議長は大佐以上であること、将官の議長は将官 であり、構成員も大佐であること等の要件がある。
4 訴訟手続と刑罰の種類
  軍の規律に反し、又は罪を犯した疑いのある者を軍法会議で裁くべきか否か の決定は、通常被疑者の勤務する部隊や機関の長又は上級部隊指揮官に任され ている。たいていの国の軍法には、被疑者を軍法会議に出頭させる前に、完全 で公正な調査が行われなければならないと定めている。被疑者には、より多く の権利が与えられている。調査の結果、十分な有罪証拠が判明すれば事案は軍 法会議に送られる。
  歴史的、伝統的に軍法会議の裁判手続は、一般の刑事裁判手続より迅速かつ 略式であった。しかし、人権保護の精神が高まるにつれて被告人の権利保護が 広範となり、一般の刑事訴訟におけるすべての本質的な保護が図られ、むしろ 一般の訴訟に見られないような幾つかの保護が与えられている。
  軍法による刑罰の種類には、19世紀後半まで軍法特有の刑罰、すなわち体 刑、例えば鞭打ち、烙印、その他の残酷又は異常な刑罰が残されていた。
  現在では、そのような刑罰は禁止されている。
  英国の刑罰は、次のとおりである。
  死刑、禁固、不名誉除隊、免職、2年以下の拘禁(除将校)、先任権停止( 除准士官、下士官、兵)、降格(除将校、兵)、罰金(給与28日分以下、公 務中のときは56日分以下、ただし、一般犯罪の場合は別)、重譴責(除兵)、 譴責(除兵)、そのつど国防省会議で決める軽罰(兵のみ)
5 軍事司法権と一般司法権
  軍事司法権は、一般刑法とは別の軍法によって軍事等の犯罪について軍が独 自の司法権を行使するものである。通常、特別法である軍法が優先するのであ るが、軍事と無関係な一般犯罪は一般司法裁判所の管轄でもあり、競合すると きの取扱いは国により差異がある。
  軍法の適用を受ける者が英国の内外において一般犯罪を犯した場合には、軍 法会議の判決により反逆であれば死刑、殺人であれば終身刑、その他の場合に は一般裁判所が科すことのできる同等の刑に処することとされている。
6 非司法的処罰(懲戒罰)
  軍人等の比較的軽微の規律違反、非行に対しては司法手続きとは別に指揮官 等による懲戒罰の制度がある。
  軍法は、将校たる指揮官に兵に対する懲罰権を認めているが、将校又は准士 官に対する懲罰は認めていない。
  罰の種類は、拘禁(28日以内)、減俸(最高28日分)、泥酔への罰金( 最高2ポンド)である。
[出典]
足立純夫「軍事規律の比較法的考察」(『防衛法研究』第8号 特集:自衛隊の  隊員の服務、1984年9月)
山田康夫「軍事司法制度」(『防衛法研究』第10号 特集:自衛隊をめぐる諸  問題、1986年10月)
 
 
6 遺伝子スパイ事件
  岡本卓元理化学研究所(理研)チームリーダーは、1999年7月勤務して いた米オハイオ州クリーブランド・クリニック研究所から、アルツハイマー病 に関する遺伝子など研究試料を盗み出し、一部を理研に持ち込んだとされる。  2001年5月米連邦地方検察は、岡本(主犯)と芹沢宏明(共犯)元カン ザス大学助教授の2人を経済スパイ法違反の罪で起訴した。
  芹沢被告は、経済スパイ法の起訴を取り下げ、偽証罪を認めるとする検察側 との司法取引に応じた。2003年5月28日連邦地方裁判長は、偽証罪で罰 金500ドル、地域奉仕活動150時間、保護観察3年の有罪判決を言い渡し た。芹沢被告は、岡本被告の巻き添えを食らった形となった。
  岡本被告は、日本に帰国していたため逮捕を免れていた。
  米国は、岡本被告の引渡しを請求した。法務省は、岡本被告の身柄を米国に 引渡す手続を開始した。双方可罰性(双罰性)の要件、つまり当該行為が犯罪 地国(行為地国)の刑罰法規と被害者の国籍国の刑罰法規との双方によって刑 を科せられる必要から、窃盗罪で成り立つと解釈して、手続を開始した。
  2004年3月29日東京高裁は、引渡しの請求を行ったと疑うに足りる相 当な理由があることを証明する十分な証拠がある場合に該当しないから、逃亡 犯罪人を引渡すことができない場合に該当すると決定した。(引渡しの制限は、 @政治犯罪、A死刑、無期、長期3年以上の刑でないとき、B双罰性、C具体 的可罰性、D犯罪を行ったと疑うに足る相当な理由な理由がないとき等である 「逃亡犯罪人引渡法」第2条)。身柄引渡しができないと決定したことから、 東京高検は、岡本被告を釈放した。
  岡本被告が引渡し不当を主張して法務大臣に提出した意見書及び東京高裁決 定によると、同被告が持ち出したのは、同じ研究室にいた部下の日本人研究者 の試料で、「部下に研究を続けさせないための嫌がらせ」が動機だったという。
  しかし、特許に繋がるような重要な物ではなかったにしても、研究所側は試 料の無断持ち出しを禁じていた。
  このため、岡本被告の行為は、米国の経済スパイ法(Economic Espionage
 Act of 1996)で十分罪となり得る可能性があった。
  米連邦政府が、1996年に制定した同法は、連邦捜査局(FBI)や産業 界の強い要望で成立した。それまで民事法でしか対応できなかった機密の盗用 に刑事罰を導入した。
  同法の特色は、その適用範囲が極めて広いことである。不正行為が実際に外 国政府に利益をもたらしたかどうか、あるいはその意図があったかどうかは問 われず、不正を働いた人が、それによって「外国政府が利益を得る可能性」が あることさえ知っていれば罪に問える。最高刑は、禁固15年又は罰金50万 ドルである。
  「秘密」の認定対象も広く、図面、コンピューターソフトはもとより、デザ イン、工程、手順など、金融、ビジネスから科学技術情報まで、あらゆる物が 対象になり得る。言い換えれば、米司法当局の思惑次第で適用範囲を広げるこ ともできる法律である。
  岡本被告の行為が、「幼稚な嫌がらせ」であったとしても、違法と判断され る可能性が高い。
  日本にはこれまで、経済スパイ法に相当する法律は存在しなかったが、20 03年不正競争防止法を改正、スパイ行為に対する刑事罰を取り入れ、200 4年1月施行された。米国政府の身柄引渡しから請求から2年近くたって、日 本政府が動き出した背景には、「知的財産立国への仲間入り」を国内外に示す 意味もあったものとみられる。
  米国の経済情報重視は、経済情報保護強化の立法措置となり、情報保全措置 が強化されている。法的な厳密性よりも、効果性を重視し、運用のしやすい、 裁量範囲の広い包括的なものとなっている。
  こうした法的枠組みは、米国に知的財産を守るという明確な意思をもった戦 略があったからこそできた。1970年代後半から米国は、アジアからの追い 上げによって貿易赤字という構造問題を抱えるようになって経済政策を見直す ため国内政策レビュー委員会を組織し、検討を始め、1979年報告書をまと め、特許・情報政策グループは、技術革新に役立つ特許制度を強調した。これ を受けて1980年にバイ・ドール法(連邦資金から研究資金が提供された発 明でも学内の研究活動から生まれた特許権は大学に帰属する)が制定され、政 府の研究所等から民間企業への技術転移を促進するOTL(技術移転機関)設 立の道が開かれ、1982年には司法改革の一環として特許訴訟を専門に扱う CAFCの新設も決定した。1985年1月ヤング・レポートが発表され、米 産業界が一体となって競争力優位を奪回する姿勢を示した。特に特許、著作権 等知的財産権保護の重要性に加え、通商交渉の際に知的財産権を切り札として 利用する方向性を打ち出した。それに加えてIT革命が花開き、ソフトの技術 も特許で保護されるようになった。スーパー301条(不公正貿易国・行為の 特定・制裁)やスペシャル301条(知的所有権侵害国の特定・制裁)等の法 整備を続け、バイオやソフト等米国の強みを死守するため、知財の保護を国家 戦略として打ち出した。
  1970年代終わりにDNAの遺伝子情報を機械で高速に読みとろうという DNA高速自動解読構想を打ち出した和田昭允がいたにもかかわらず、199 0年10月国際ヒトゲノム計画がスタートして生命科学の潜在的な力が国力の 指標となるシークエンシング(塩基配列の読み取り)の時代を迎えると、独創 性を素直に評価できない性癖、学界と官僚の縦割り主義の問題を抱え、日米貿 易摩擦の底に流れる国家の知的財産戦略としての特許争奪戦に気付くのが遅れ た結果もあって、2001年2月の国際ヒトゲノム計画のドラフト発表では貢 献度(解読の割合)6%と判定され、ゲノムは敗北した。
  こうした背景を読むと岡本被告の行為が、「幼稚な嫌がらせ」であったとし ても、試料が重要でないとしても、違法と判断される可能性が高い。自分の行 為がどういう意味を持つのかということを十分考える必要がある。
  教訓は、幼稚な嫌がらせ、いたずらであっても、法に触れていれば、知らな かった、ほんの冗談のつもりで、といった言い訳は通用しない。
  冗談のつもりでも、客観的に見れば、どういうことになるかを事前によく考 えておくことが大切である。
  「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず」というように、瓜畑の中では靴を はかない、瓜を盗むと見られるといけないから。李(すもも)の樹の下では手 を挙げて冠を正さない、李を取ると見られることを恐れるから。共に嫌疑を避 けるたとえである。このように、「君子は未然に防ぐ」のである。君子は、事 の未だ起こらない前に、その起こるべき弊害を防ぐのである。
  君子を見習って嫌疑を未然に避けるべく用心深く、慎重に行動すべきである。
[出典]
岸宣仁『ゲノム敗北−知的立国日本が危ない』(ダイヤモンド社、2004年)
山岸秀『国際犯罪と国際刑法』(早稲田出版、2003年)
中島達雄「経済スパイ」(『読売新聞』2004年2月6日)
「岡本被告引き渡し認めず」(『読売新聞』2004年3月29日)
森下忠「受動的属人主義の法的性質」(『判例時報』1836号)
「遺伝子スパイ:岡本被告を引き渡しへ、日米交渉、最終段階」(http://www.
  mainichi.co.jp/news/selection/archive/200305/29/20030529k0000e040076  000.html)
「遺伝子スパイ:芹沢被告に偽証罪で罰金刑 米連邦地裁」(http://www.
  mainichi.co.jp/news/selection/archive/200305/29/20030529k0000e040026  000.html)
Legislative History-Economic Espionage Act of 1996,http://www.cybercrime.  gov/EEAlefhist.htm.
 
 
 
 
 
7 銀行強盗爆死事件
  2003年8月28日午後、ペンシルバニア州イーリーでピザ配達人ブライ アン・ウェルズ(46歳)が、銀行を襲い、現金を奪った後、近くの駐車場で 警官に取り押さえられた。同人は、首に爆弾が填められていると訴え、何者か に銀行を襲うよう脅されたと主張した。警官等が爆発物処理班の到着を待ちな がら同人を遠巻きにしていたところ、同人は「タイマーの音がする」「どうし て外してくれない」等と訴えた続けた。しかし、爆弾は数秒後に爆発し、同人 は死亡した。
  同人の上司によると、事件1時間前にピザ配達に出たということであった。
  同人は、首に爆弾を填めて銀行に現われ、銀行員等に指示を書いた手書きの メモと、同人への指示を書いたメモを所持していた。
  首に填められていた爆弾は、爆弾、首輪、ロックからなり、青い首輪は手錠 を大きくしたような形で、同じく青い爆弾が取り付けられ、首輪を固定するた めのロックは、四角い灰色で何重にも施錠される特殊で複雑な構造で、一種の パイプ爆弾であった。
  2003年9月11日ミズリー州ラソープでは、米連邦捜査局(FBI)が、 首に爆発物に直結すると見せかけた電線模様の物を巻き付け、銀行で元気を脅 し取った女性(49歳)を逮捕したと発表した。
  同人は、爆発物は所持していなかった。学校前に駐車した車両に爆弾を仕掛 けたと脅迫したが、これは嘘だった。また、イヤホン、小型マイクロホンも付 けて共犯者をほのめかしていたが、単独犯であった。
  犯行後、逃亡したが、銀行員が車のナンバーを控えていたので、自宅で逮捕 された。
  この事件は、ピザ配達人事件の模倣である。
  柳の下の2匹目のドジョウを狙った犯罪である。
  教訓は、不可解な事件を真似る模倣犯が出るが、それは直ぐに捕まることが 多い、だからしない方がいい。元の事件は、奇々怪々でピザ配達人が、被害者 なのか、加害者なのかも不明である。それにしても、他人を犯罪者に仕立てて 使うやり方は、卑怯であり、仕立てられた人にとっては、無惨としか言いよう がない。こうした事件に巻き込まれないためには、用心するしかないであろう。
 君子危うきに近寄らず。
[出典]
CNN.co.jp-USA 「銀行強盗が爆死の怪事件、爆弾の写真を公開FBI」(http:
  //cnn.co.jp/usa/CNN200309030012.html)
CNN.co.jp-USA 「『首に爆弾』配達人事件の模倣犯出現、銀行襲う」(http://   cnn.co.jp/usa/CNN200309120035.html)
8 自衛官爆死事件
  2003年8月31日1550ごろ、沖縄市の廃品置場で航空自衛隊那覇基 地所属空曹長A(53歳)が、ロケット弾を洗っている最中に突然爆発して死 亡した。
  その後、沖縄県警察の調べで、空曹長の自宅及び倉庫として借りていた民家 を捜索した結果、ロケット・ランチャー、M16小銃、MIカービン、弾倉、 ロケット弾、小銃弾、軍装備品等々多数が発見された。すべて米軍用であった。
  Aは、軍用品マニアであって、趣味と実益を兼ねて退職後に軍用品ショップ を開くための商品集めをしていたようである。
  10月15日県警は、被疑者死亡のまま、銃砲刀剣類所持等取締法、火薬類 取締法違反の疑いで那覇地検に書類送致した。
  本件に関して防衛庁長官は、全隊員を対象に不発弾等の所持や装備品の不法 な取扱がないかの調査を命じられた。同時に国民に謝罪され、再発防止策を講 じられることになった。
  2004年1月13日航空幕僚監部は、空曹長の私行上の非行が原因とする 調査結果を発表した。
  2004年2月13日防衛庁事務次官から「フリーマーケットへの関与につ いて(通達)」が、これを受けて2月23日海上幕僚長から「フリーマーケッ トへの関与について(通達)」が出され、隊員としてのフリーマーケットに関 与して品位を損な行為をしてはならないとされた。簡単に言えば、フリーマー ケットやネットオークションに制服等を出品をしてはならないということであ る。制服等の出品は、自衛官としての品位を損ない、信用を失墜させる行為に 他ならない。制服、階級章等の取扱については、十分注意しなければならない。
  2004年8月18日千葉県監察官室は、階級章などを警察マニアの知人に 売ったとして、佐倉署地域課の巡査長を減給百分の十(6か月)の懲戒処分と した。同巡査長は、19日付で依願退職した。
  同巡査長は、1999年頃から5月までに計5回、自分で使っていた制服用 ベルト、階級章、警備用ブーツ等警察関連品計11点を知人の男性に売り渡し、 現金計8万5千円を受け取っていた。同巡査長は、「男性が喜ぶのでやってし まった。受け取った金は小遣いにした。深く反省している」と話したという。
 他人に制服着用者が、その関連品を渡すと特にマニア等は喜ぶであろうが、職 務上の倫理に違反するため、そのリスクは大きい。リスクを考えると装備品等 を人に譲るべきではない。
  警察以上に自衛隊、軍装品マニアは多いので注意する必要がある。
  制服等を悪用されることを考えると装備品を個人的に売ったり、ネットオー クションにかけて売るなどの行為は、もってのほかである。
  教訓は、1人の自衛官が不法なことをすると自衛官全員が疑いの対象となる。
  疑惑を晴らすためには、説明責任とともに日頃からの地道な努力が必要とな る。組織の健全性に対する国民、マスコミの目は厳しいのである。国民から見 られているという意識を持って用心深く、慎重に遵法精神を発揮する。
  趣味と実益を兼ねてしたことはいえ、その対象が、銃砲刀剣類所持等取締法、 火薬類取締法の違反となるようでは救われない、残された家族がいたたまれな くなる。
  やはり趣味も法律に違反しない健全なものを選ぶべきである。
[出典]
「階級章など11点で8万5000円」(『読売新聞』2004年8月19日)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[自衛官爆死]M16にりゅう弾発射器  米軍関係者から流出か」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id
  =580086)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「実弾は660発以上、沖縄の爆死自衛官宅など  捜索」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=580791)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[自衛官爆死]『私行上の非行が原因』  航空幕僚監部発表」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  663519)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
9 映画撮影射殺事件
  2003年8月21日メキシコ警察当局は、アクション映画の銃撃シーン撮 影中に実弾が使われ、主演俳優が同僚俳優を射殺する事件があったことを発表 した。事件後、プロデューサーと小道具係が姿を消した。
  16日メキシコ中南部のクエルナバカのホテルで映画「サソリの復讐」の撮 影が行なわれ、事件が起きたのは、主演俳優が6人の敵と戦う襲撃シーンであ った。主演俳優が使用した銃に実弾が込められており、俳優アントニオ・ベラ スコが撃たれて死亡した。
  2003年11月22日夜クー・クラックス・クラン(KKK)が開いた入 団式でクレゴリー・アレン・フリ−マン(45歳)が、空に向けて発射した弾 丸が落下し、参加者の男性(24歳)の頭に命中した。男性は重体で、フリー マンは、加重暴行容疑などで逮捕された。
  空に向けて銃を発射すると当然のことながら弾丸は引力の法則にしたがって 落下する。今回は、珍しく同じ場所に落下した。いずれにしても銃を無暗に撃 つものではない。弾丸は落下する。
  日本でも、かって勝新太郎の「座頭市」撮影で、長男の雁龍太郎が真剣で殺 陣師を斬殺した事件がある。
  また、警察でも誤射した事件はある。例えば、2004年4月には、皇宮警 察本部庁舎において警部が、射撃訓練後、拳銃保管室で機関拳銃(サブマシン ガン)の弾を抜き、確認のため床に向けて空撃ちをする収納作業を行ったとこ ろ、実弾が1発残っていて、ラバー敷きの床に弾が約1pめり込んだ。同本部 は、いずれも口頭で同警部を本部長注意、上司の警視を警務部長注意にした。 警務部長は、「指導を徹底して再発防止に取り組みたい」と話している。
  教訓は、人命に関わる事には、念には念を入れて注意をすることである。
  これで良いだろうと言うことはない。常に厳しく点検をする。
  事が起きてからしまったと反省し、もっと注意して点検をしておけば良かっ たと悔やんでも遅い。ことが起きる前に少し手間がかかるかも知れないが、完 全に点検をしておくべきである。後で悔やんでも遅い。
  弾を抜いたかどうかを薬室を見て確認する。銃口を決して人の方向に向けな い。基本を遵守する。
  また、こうすればどうなるのかを予測して考え、対策を講じ、危険が予察で きる場合には取り止めることが大事である。通常は、うっかりして危険を予察 できないから事故が起きるのである。だから、常日頃から、こうすればああな るという危険予察能力を育てておく必要がある。そのためには、過去の類似の 事例を知って、その因果関係を理解しておく必要がある。
 
[出典]
CNN.co.jp-world「映画の銃撃場面で『実弾』、俳優死亡 メキシコ」(http://
  cnn.co.jp/world/CNN200308220006.html)
CNN.co.jp-USA「空に向けた銃弾が落ちてきて重傷 KKKの儀式で 米国」(
  http://cnn.co.jp/usa/CNN200311250006.html)
YOMIURI ON-LINE 「皇宮警察でサブマシンガンの実弾を誤射」(http://www.
  yomiuri.co.jp/national/news/20040910ic06.htm)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
10 泥酔運転事件
  2002年12月8日夜店員A(53歳)は、会社の忘年会で泥酔してワン ボックスカーを運転して、居眠り運転状態となり、男女5人をはねて死亡させ、 危険運転致死罪の容疑で逮捕された。
  同年10月7日千葉地裁裁判官は、「常習的な飲酒運転の形跡がうかがわれ、 交通規範意識のマヒは著しく、徹底した矯正教育が必要」と述べ、懲役15年 を言い渡した。
  悪質な交通事故の加害者を処罰するため2001年12月に施行された危険 運転致死罪で法廷最高刑の判決は初めてである。これまでは、2003年6月 大阪地裁で無免許運転一家4人を死亡させた懲役13年の判例が最高だった。
  2003年8月26日大阪府教委は、6月26日夜、職場の懇親会後、マイ カーで帰宅途中、県警の検問に気づき、一方通行道路を逆走して警察の停止命 令を振り切って逃げた府立高校の男性教諭C(50歳)を懲戒処分にした。
  6月27日警察は、車のナンバーから教諭を突き止め、出頭を求め、事情聴 取をした。Bは、「飲酒運転がばれるのが怖かった」と話したが、現行犯でな かったため、警察は飲酒運転の立件をせず、一方通行逆走の反則金7千円を科 した。
  府教委は一緒に飲酒した学校の同僚から事情を聞くとともに本人からも確認 した独自調査を行い、処分に踏み切った。府教委は、「逃げ得を許すわけには いかない」としている。
  教訓は、遵法精神を発揮して法に違反するようなことはしないことが一番で あるが、仮に起こしてしまったら、観念して正直に対応する。逃げれば二次被
 害を生じさせ、被害を大きくし、取り返しのつかないことになる。ということ で、結局、正直に対応することが、被害の局限につながることになる。
  初動が大事である。泡を食って逃げないことである。
[出典]
「飲酒運転 検問逃げた先生 府教委が“追跡”」(『読売新聞』2003年8  月26日)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「泥酔運転で5人死亡事故、最高量刑の懲役15  年判決」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=601308)
 
 
 
 
 
 
11 窃盗事件
  2001年7月28日長崎県警は、自衛官A(33歳)を窃盗の疑いで逮捕 した。
  Aは、スーパー駐車場前に止めてあった軽自動車から、不動産手伝いの女性 (27歳)の手提げバッグを盗んだ。女性が被害に気付きバッグの中に入れて いた携帯電話に電話をかけたところ、Aが「スーパーの前まで来たら、携帯電 話を返してやる」等と話したため、警官が張り込んでいた。Aは、待ち合わせ 場所に現われたところを逮捕された。
  2003年8月19日福岡県警は、自衛官B(29歳)を窃盗未遂容疑で逮 捕した。
  Bは、借金の取り立てから逃げるため、所在不明隊員となって放浪していた。 マンション7階の1室に侵入し、留守であったため入浴し、その挙げ句に布団 に寝込んだ。
  この部屋を所有する女性(77歳)が、たまたま掃除に来て、中からドアチ ェーンが掛かっていたことから、不審に思い110番した。警官が入ると、A がベランダに身を潜めているの発見し、住居侵入で現行犯逮捕した。
  Aは、命綱も使わずに屋上から侵入したことで、スポーツ紙等にスパイダー マン、蜘蛛男とか面白可笑しく書かれた。
  9月4日懲戒免職となり、2004年2月4日小倉簡裁で懲役2年を言い渡 された。
  2004年2月12日愛知県警鉄道警察隊は、男性会社員(25歳)が駅構 内の公衆電話台でノート・パソコンを使った際に足元の清掃用コンセントから 約5分電気を無断で私用したとして窃盗容疑で逮捕し、書類送検した。
  男性会社員は、出張中で、「会社へメールを送ろうとしたところ、パソコン が充電不足だった。コンセントが目に入ったので、つい使ってしまった」と話 している。
  県警は、「電気の無断使用は立派な窃盗罪」としている。
  教訓は、“ラスコーリニコフの斧”が現われ、「魔が差し」てこないように 遵法精神を発揮、強化することである。悪乗りしない。
[出典]
「盗まれた携帯に電話『会えば返してやる』」(『朝日新聞』2001年7月2  9日)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「駅の電気、パソコンで無断拝借…会社員を書類  送検へ」)(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=685209)
MSN ニュース、夕刊フジ「盗みに入って入浴、そこまでするか」(http://news.   msn.co.jp/newsarticle.armx?id=565007)
12 青少年保護育成条例違反事件
  2003年10月28日神奈川県警少年課と川崎署は、自衛官(36歳)を 県青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕した。
  自衛官は、2002年12月下旬、伝言サービスを通じて知り合った女子中 学生2人(14歳、15歳)に「(わいせつ行為を)見てくれたらお金をあげ る」といって、横浜市内のカラオケボックスに連れ込み、同個室内で、ズボン を脱ぎ、自慰行為を見せ、計14,000円を渡した。
  神奈川県警少年課と川崎署は、川崎での監禁事件被害者となった女子中学生 から、別件として自衛官の電話番号を聞き出し、逮捕した。
  11月6日川崎区検は、略式起訴で罰金30万円を命じ、釈放した。
  2004年10月15日青森県警少年課と青森署は、防衛庁技官(27歳) を県青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕した。
  技官は、9月25日出会い系サイトを通じて知り合った女子高生(16歳) を車に乗せ、公園において性交類似行為(手淫、口淫)をさせ、後日、メール で「勝負下着を着てこい」と送りつけたことから、怖くなった女子高生が高校 教師に相談し、警察に届けたことから逮捕された。
  技官は、10月16日地検に送致され、17日勾留され、26日略式起訴で 罰金30万円を命じられた。
  2004年12月1日警視庁少年育成課と町田署は、国士舘大学サッカー部 員15人を児童福祉法違反と都青少年育成条例違反の疑いで逮捕した。
  同部員の1人が、6月に少女(15歳)を友人のアパートに連れ込み、携帯 電話で他の部員を呼び出し、廊下に順番で並び、7時間にわたって少女に淫ら な行為をした。学長が記者会見で謝罪し、名門国士舘サッカー部は、全日本大 学サッカー同盟から無期限の活動停止処分を受け試合ができなくなった。
  部員の不祥事で学長が謝罪し、サッカー部が追放された。
  教訓は、遵法精神を発揮し、道徳を守り、人間としての品位を保つことを自 覚することである。こんなことを起こせば、実名でマスコミで面白可笑しく取 り上げられ、組織の信用を失墜させるのみならず、家族にも恥をかかせ、いた たまれないような状態に落とすことになる。
  心して行動してもらいたい。くれぐれも軽率な行為で道を誤らないようにし てもらいたい。
[出典]
「わいせつ行為の自衛官を逮捕」(『読売新聞』2003年10月30日)
「防衛庁技官を逮捕」(『読売新聞』2004年10月16日)
「サッカー部員15人逮捕」(『読売新聞』2004年12月1日)
「自衛官をわいせつで逮捕」(『産経新聞』2003年10月30日)
13 迷惑防止条例違反事件
  2003年8月22日2225ごろ、兵庫県高砂署警備課巡査部長(31歳 )が、JR新快速電車内で左隣の女性会社員(21歳)の太股を触る痴漢行為 を働き、女性が痴漢と叫んだため、電車が加古川駅に停車した際、駅のホーム から線路に降りて200m逃走した。間もなく駅員に取り押さえられ、加古署 員に県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕された。この騒ぎで、電車9本に最大2 6分の遅れがで、約7,500人が影響を受けた。
  巡査部長は、勤務後、神戸市内の飲食店で酒を飲み、取り押さえられたとき は、泥酔状態であった。調べに対し、「酔っていたので覚えていない」と供述 した。酒の上でとの言い訳は通用しない。
  高砂署長は、「申し訳なく深くおわび申し上げます。二度とないよう署員へ の指導を徹底していきたい」と話した。
  2003年8月29日兵庫県警監察官室は、宝塚書の巡査長(42歳)が、 交番勤務中に女性3人のスカート内を盗撮したことを発表した。
  県警は、同日付で巡査長を懲戒免職処分とし、県迷惑防止条例違反容疑で書 類送検する。署長等幹部2人の監督責任を問い、本部長訓戒処分とした。
  2004年2月3日東京地裁裁判官は、「痴漢冤罪被害者ネットワーク」元 代表のA(47歳)に東京都迷惑防止条例違反、つまり痴漢行為をしたとして 懲役6月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
  Aは、2003年7月10日夜、都営地下鉄の電車内で向かい側の席に座っ ていたスカート姿の女性の膝から下を、カメラ付携帯電話で数枚撮影し、逮捕 された。
  裁判官は、「犯行後に携帯電話を破壊して証拠隠滅を図るなど、規範意識が 鈍っており、真摯にネットワークの活動を行なっていた者への影響を無視でき ない」と述べた。
  目の前に、犯罪の決行を促すような女性の股開きが見え、それを「神のサイ ン」「チャンス」と誤解して痴漢行為に走る“ラスコーリニコフの斧”の現出 であった。これは、俗によく言われる「魔が差す」ことである。心の迷いに、 悪魔が来たりてささやき、偶然の出来事を神の啓示と誤解させ、犯行に走らせ るのである。犯罪者には、犯行の直前、“ラスコーリニコフの斧”が現われ、 「魔が差し」て犯行に及ぶのである。そうならないためには、規範意識が必要 となる。そうそうおいしい話はないのである。
  ましてAは、「痴漢冤罪被害者ネットワーク」の有力メンバーであり、その 活動に対する信頼も失墜することになる。
  2004年10月15日大阪東署は、JR環状線森ノ宮駅ホームで女子高生 (17歳)の胸をツンツンと触ったとして、女子高生が手首を押さえ、乗客等 4人に取り押さえられ、駅長室に突き出された専門学校生(35歳)が、室内 でナイフ(刃渡り約9.7センチ)を取り出し、自分の首に突き付け、立てこ もったのを、説得し、約50分後に銃刀法違反の現行犯で逮捕した。当然、府 迷惑防止条例違反でも逮捕された。
  専門学校生は、「以前にも痴漢で捕まった。今度捕まったら終わりや」と叫 び、自分の首を刺して軽傷を負った。急所をきちんと外していた。
  専門学校生は、2002年6月痴漢で逮捕され、懲役6月、執行猶予5年の 有罪判決を受けていた。再犯とまったく懲りていない。
  そこまで思っているのなら痴漢行為などしなければいいものを。それをつい ついしてしまう心の弱さがなせる技である。済みませんでは済まないのである。
  しかも最初の罪(条例違反)に、罪(銃刀法違反)を重ねる結果となってい る。最初についた嘘を守るため、次から次に嘘を重ねるのと同じことである。 最初の行動が間違っていれば、間違いを隠そうとして、益々間違った行動を重 ねていくことになる。最初に正しいことをすることが、大事である。最初が肝 心である。悪いことはしない。これが大切である。
  教訓は、“ラスコーリニコフの斧”の罠に陥らない、健全な規範意識の育成 である。
[出典]
「泥酔警官が痴漢、線路逃走」(『読売新聞』2003年8月23日)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「交番内で盗撮の警官、別の女性も…画像200  枚保存」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=576825)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「携帯で女性撮影の痴漢えん罪ネット元代表に有  罪判決」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=676978)
YOMIURI ON-LINE 「痴漢男、JR森ノ宮駅長室に立てこもり逮捕…大阪」(http  ://www.yomiuri.co.jp/national/news/20041015i303.htm)
SANSPO.COM「逃走、立てこもり…執行猶予中の懲りない痴漢男」(http://www.
  sanspo.com/shakai/top/sha/200410/sha2004101606.html)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
14 わいせつ事件
  2003年10月16日島根県安来市役所は、男性職員(36歳)が同僚女 性職員の仕事をしている姿等約30枚をデジタル・カメラで撮影し、職場のパ ソコンに取り込むなどしたことが、セクハラ行為にあたると判断して停職1か 月の懲戒処分にした。
  パソコン操作中に画像を発見した女性職員が、上司に報告して発覚した。
  2003年10月29日神奈川県警は、会社員(30歳)を高校1年の女子 生徒(16歳)に対する強制わいせつの疑いで逮捕した。
  10月上旬午前7時40分ごろ、東急田園都市線を走行中の電車内で、会社 員が女子高生の身体を触った。
  女子高生は、連日痴漢被害に遭い、父親の警視庁警官に相談した。父親は、 「娘に手を出すとは絶対、許せない」と激怒し、母親とともに29日午前、電 車内に乗り込み、張込みを実行した。そうとも知らない会社員は、溝の口駅か ら乗り込み、いつものように女子高生の背後に接近した。会社員は、不審な行 動を取ろうとしたところ、父親から、「お前だな」と迫られ、隣駅で逃げよう としたところを、ホームで取り押さえられ、警察に突き出された。  
  2003年12月2日午前7時25分頃京都府警鉄道警察隊は、会社員(3 1歳)を登校途中の私立高校2年の女子生徒(17歳)の背中に唾を吐きかけ たとして、暴行の現行犯で逮捕した。
  女子生徒は、これまで10回前後、制服に唾のようなものが付いているのに 気付き、同隊に相談したところ、同隊員が女子生徒に同行し、警戒していた。
  会社員の歪んだ愛情表現であるが、屈折して問題である。嫌がらせで気を引 くことはできない。
  こうした気を引こうとする、あるいは腹立ち紛れに、又は気があると勝手に 思い込むと、暴行、恐喝、名誉棄損、虚偽告訴等の別の罪となる。
  2000年5月16日徳島県警は、自衛官(29歳)を離婚調停中の元妻( 26歳)に対する名誉棄損の疑いで逮捕した。
  自衛官は、元妻との離婚を巡る訴訟で係争中の3月21日頃敗訴が濃厚にな ってきたことへの腹いせに、元妻の実家周辺路上等に元妻のわいせつな写真の コピー数十枚をばらまいた。
  県警は、元妻と実家からの告訴を受けて捜査し、自衛官を逮捕した。
  2003年8月25日福島地裁は、「わいせつ行為をされた」と虚偽の告訴 をしたとして虚偽告訴罪に問われた女性被告(51歳)に懲役1年の実刑を言 い渡した。
  判決によると、女性被告は、2000年8月30日、会津若松署に、夫の取 引先だった男性(63歳)が自宅を訪れた際にわいせつ行為をされたとして虚 偽の告訴をした。県警は、告訴に基づき、男性を強制わいせつの疑いで逮捕し た。男性は否認したが、福島地検会津若松支部が嫌疑不十分として釈放するま で19日間勾留された。女性被告は、夫にかまってもらえず、気を引くために 騒ぎを起こしたという。
  こうした男女間のもつれで多いのが相手の気を引くための狂言自殺未遂であ る。自殺すれば、その負い目を担わせるという脅迫行為である。それがいやな ら自分の意図に従うようにと暗黙のうちに圧力をかけるのである。
  2003年10月29日福岡県警は、無職男(22歳)を交際相手無職少女
 (16歳)に対する恐喝容疑で逮捕した。
  無職男は、ゲームセンターで知りあった少女から別れ話を持ち出されて慰謝 料を要求した。無職男は、少女の裸の写真を撮影し、「インターネットにばら まくぞ」と脅し、現金計124万円を巻き上げた。金は、遊興費や妻子の生活 費等にあてていたという。少女は、母親の郵便貯金を全額引き出して渡してい た。男の風上におけない、いやな奴である。
  2003年12月16日広島県警は、交通係長の警部補(45歳)を道交法 違反容疑で取調中の女性(32歳)にキスをしたとして、特別公務員暴行陵虐 容疑で書類送検した。
  同時に警部補を停職6か月の懲戒処分、上司の課長を本部長訓戒、警部補は 辞表を提出した。
  警部補は、署内で無免許運転容疑などの女性を取り調べた後、握手を求めて 抱き寄せ、首などにキスをしたという。
  内部規定では、女性の取調べは2人で行うが、警部補1人が行っていた。
  警部補は、「女性が自分に好意を持っていると思った」と供述している。
  大いなる錯覚である。
  2004年広島県警本部長等が、女性警官が増えたことで職場環境をよくし ようと「意見があればメールやファクスで送って」と呼びかけたところ、猥褻 やセクハラ意見情報が続々と寄せられた。県警は、悪質な4件について上司を 含む7人を処分した。ある巡査部長は女性警官の携帯電話に猥褻画像をメー  ルで数十回送り、減給10分の1(1か月)を、ある警部補は女性警官の体を 何度も触り、キスをしようとして、減給10分の1(3か月)を、某巡査部長 はカラオケで女性警官の膝に跨り、キスを求めたり、脚を触って、減給10分 の1(1か月)を懲戒処分として受けた。この3件では、上司3人も本部長訓 戒、注意を受けた。他の巡査部長は女性警官4人の胸を触ったり、抱きついた りして減給10分の1(3か月)の懲戒処分を受けた。
  これくらいは許されるだろうなどと甘えてはいけません。
  2004年6月14日大阪府警は、猥褻な画像を公開したとして無職男(4 1歳)、会社員(29歳)を猥褻物公然陳列の疑いで逮捕した。同日、大阪地 検は両容疑者を起訴した。両容疑者は、HPの掲示板で猥褻画像の投稿を呼び かけ、送信されてきた画像1,455枚を保存し、ネット上で閲覧可能な状態 にしていた。このHPに自分の裸の写真が掲載されたのを知った女性(35歳 )が府警に相談して発覚した。女性の写真は、元夫のトラック運転手(37歳 )(猥褻物公然陳列容疑等で逮捕)が離婚の腹いせに投稿したものであった。
  2004年10月1日大阪地裁杉田宗久裁判長は、連続強姦、強盗罪に問わ れた無職男(34歳)に対し、「強姦罪は、女性の性的自由を侵害し、女性の 人格を蹂躙する犯罪で、被害者保護の見地からも検察側の求刑は余りに軽きに 過ぎる」として、懲役12年の求刑を上回る懲役14年を言い渡した。求刑よ りも重い判決は異例である。被害者の肉体的、精神的苦痛は、計り知れないこ とからの判決であり、猥褻犯罪に対する司法の厳罰化方向を示している。
  無職男は、2003年12月から2004年2月にかけ、大阪市内で帰宅途 中の女性計5人(16〜23歳)を暴行し、このうち3人から計約4万円を強 奪し、うち2人は未遂であった。
  2004年11月30日大阪地裁朝山芳史裁判長は、未成年の自分の娘2人 に長期間にわたって性的暴行を加えたとして強姦罪計4件、同未遂罪1件に問 われた無職男(48歳)に対し、「最も信頼すべき父親から究極の虐待を受け た娘2人の苦痛は筆舌に尽くしがたい。(併合加罪された)有期刑の上限(2 0年)に近い量刑が相当」として求刑(懲役15年)を上回る懲役18年の実 刑を言い渡した。同裁判長は、「長女は継続的な犯行に抵抗する気力も失い、 心的外傷後ストレス障害(PTDS)になるなど、娘たちの成長をかえりみな い極めて悪質な犯行」と述べた。
  親子だからといっても許されない問題である。
  教訓は、他人の気持ちを大事にすることである。
  人の心は分かりません。貴方の気持ちとは異なるものです。異なることをよ く自覚する必要がある。
  また、単なるわいせつ事件から他の罪になる事件にありがちなのが、人の心 の変化である。
  恋人時代であれば熱々の記念写真も、関係が冷却し、別れ話がもつれれば、 恨み、辛みが怨念となって、相手を自己の意志に従わせよう、又は報復、いや がらせをしようとして、脅迫などの手段を取る場合もある。こうした人間関係 を冷静に理解することも大事となる。つまり、今は熱々であっても、将来まで も、それが続く可能性は少ないのである。記念写真でも、将来、脅迫の手段に なりえることを考え、危険予察として客観的に見て変な写真を残さないという ことが大切である。
  韓非子によれば、
  「むかし、彌子瑕(びしか)というものが衛君に寵愛されていた。衛国の法では、ひそ かに主君の車に乗ったものは、?(あしき)りの刑に処されることになっていた。彌子瑕 の母が病み、だれやらがこっそり忍びこんで、夜、彌子に告げた。そこで、彌 子は、(許しを得たと)いつわって、主君の車に乗って出た。すると、衛君は、 これを聞いて徳行の士とし、『なんと孝行なことだ、母のためとて、?りの罰 をわすれるとは』といった。
  またある日、衛君と果樹園に遊び、桃を食べてみて美味かった。そこで、食 べてしまわずに、半分を主君に食べさせた。すると、衛君は、『なんとわたし を愛していることだ。美味さもわすれてわたしに食わしてくれるとは』といっ た。
  やがて彌子の容色が衰えて寵愛がゆるむにおよび、衛君から咎めを受けるこ ととなった。衛君はいった。
  『こやつは、そもそも、いつわってわたしの車に乗りおったし、わたしに食 いあましの桃を食わせおった』
  されば、彌子の行ないは、初めと変わってはいない。しかるに、先に徳行と されたことで、後に咎めを受ける破目になったのは、愛が憎しみに変ったから である。」と。
  更に近時、文明国の刑事立法は、人の性的自由を及び性的尊厳に対する侵害 を厳しく罰する傾向にある。
  例えば、フランスの強姦罪規定(1980年改正、1992年新刑法)は、 伝統的な「強姦」(女性器へのペニスの挿入)概念を修正して、「暴行、強制 又は不意打ちにより、他人に対して犯したすべての性的挿入行為は、その性質 いかんを問わず、強姦罪を構成する」と規定した。刑は、5年以上10年以下 の懲役、加重強姦の場合は、10年以上20年以下の懲役である。判例によれ ば、口腔、肛門への挿入、女性器又は肛門への異物の挿入も、「性的挿入行為 」に含まれる。行為の客体は、男性であると女性であるとを問わない。
  ドイツ刑法(1976年改正)は、保護を命ぜられた者の性的濫用を5年以 下の自由刑又は罰金に処すると規定した。
  ポーランド刑法(1997年)は、従属関係を利用した性交を3年以下の自 由刑と規定した。
  スペイン刑法(1995年)は、他人の性的自由又は完全性を害する行為を した者を性的濫用の罪として1年以上3年以下の懲役又は18月以上24月以 下の〔日数〕罰金に処すると規定した。
  ポルトガル刑法(1995年)は、地位利用による性的濫用を6月以上8年 以下の懲役と規定した。
  このように教育、扶養、職務等の関係で直接又は間接に上位にある者が、そ の地位を利用して、従属関係に置かれている者に対して行う性的暴行を、強姦、 強制猥褻と並ぶ第三の犯罪類型として規定している。
  従属的地位に置かれた者の性的自由と完全性を保護するために、上記第三類 型の性的暴行罪を刑法に規定することを望む声もある。
  セクハラを含めてわいせつ行為に対する刑事、懲戒処分は厳しくなっている。
  特にイベントサークル「スーパーフリー」(解散)の集団婦女暴行事件(ス ーパーフリーのメンバー14名が、2001年12月から2003年5月にか けて事務所や居酒屋等で開いたパーテイーで泥酔させた女子大生3人を乱暴し た事件)から懲役刑(懲役15年〜2年6月)と厳しくなり、集団強姦罪の新 設や性犯罪に対する法定刑の引き上げを検討する契機となったといわれ、凶悪 犯罪に対する罰則の強化を柱とする改正刑法・刑事訴訟法が2004年12月 1日参院本会議で可決成立した。
  将来的にも、人の性的自由を及び性的尊厳に対する侵害を厳しく罰する傾向 は、続くであろう。
  しかも刑罰が厳しくなり、社会的にも許されないことが分かれば分かるほど、 被害者の報復感情も強くなりつつある。
  例えば、2003年10月16日高知地裁首席書記官(53歳)が、市内の スナックで地裁の懇親会に参加し、同席した女性職員の右手を掴んで引き寄せ 「好きだ」と言って、右手の甲にキスなどをした。翌日、女性は、次席書記官 にセクシャルハラスメント(セクハラ:性的嫌がらせ)を受けたと訴えた。地 裁所長は、十分な調査をせず口頭注意にした。女性職員は、2004年3月退 職した。6月、女性は、精神的苦痛を受けたとして首席書記官に慰謝料を請求 した。首席書記官は、女性に100万円を支払った。首席書記官は、所長に簡 裁の判事選考試験の推薦状を書いてもらい、簡裁判事選考試験を受けて、7月 中旬合格した。女性は、合格を知って最高裁に「セクハラをする人は判事に不 適格」と抗議した。首席書記官は、簡裁判事の任官を辞退し、戒告処分を受け て降格の上、県外に異動した。所長も注意処分を受け、報告せずに示談交渉を した地裁幹部3人も注意処分を受けた。
  これほど恨みは深いのである。セクハラを受けた人が、怨念を抱くと恨みを 晴らそうとするのである。手にキスをして金も地位を失い、しかも上司をも巻 き添えにしたのである。たかがセクハラと思わず、社会の動向に十分注意して いないと思わない不覚を取ることになる。
  教訓は、こうしたことから性的犯罪の範囲も拡大し、罰則も厳しくなる可能 性がある。自分の自由が、他人の自由の侵害にならないように注意したい。
 
[出典]
韓非子『韓非子』常石茂訳(角川書店、1968年)
森下忠「二つの犯罪類型の立法提案」(『判例時報』平成16年7月21日号)
「名誉棄損容疑で自衛官逮捕」(『徳島新聞』2000年5月17日)
「虚偽告訴女性に実刑」(『朝日新聞』2003年8月25日)
「『強姦』求刑より厳罰」(『産経新聞』2004年10月2日)
「厳罰化、集団強姦罪も」(『読売新聞』2004年12月1日)
「娘2人に長期間性的暴行 求刑15年、判決は18年」(『読売新聞』200  4年12月1日)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「市職員が同僚女性の仕事姿を盗撮し停職処分に  …島根」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=638839)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「広島の交通警官、取り調べ中の女性にキスし停  職処分」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=647881)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「職場改善意見募ったらハレンチ告発続々…広島  県警」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=714425)
YOMIURI ON-LINE 「HPでわいせつ画像公開の2人逮捕、元夫が投稿」(http:
  //www.yomiuri.co.jp/national/news/20040614i414.htm)
YOMIURI ON-LINE 「『責任、突出して重い』スーフリ元代表に求刑15年」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040712i204.htm)
YOMIURI ON-LINE 「女性5人襲った男に懲役14年判決、求刑上回る…大阪」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20041001ic05.htm)
YOMIURI ON-LINE 「高知地裁の首席書記官、女性職員にセクハラ」(http://www.  yomiuri.co.jp/national/news/20041011i103.htm)
MSN ニュース、夕刊フジ「娘への痴漢、警察官の父親が電車同乗し“逮捕”」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=616825)
MSN ニュース、夕刊フジ「『裸の写真ばらまく』と少女から124万円恐喝」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=616152)
MSN ニュース、夕刊フジ「女子高生にツバ吐き重ねていたのは31歳会社員」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=638205)
 
 
 
 
 
 
 
15 教え子わいせつ事件
  2003年10月24日警視庁成城署は、東京都世田谷区立小学校教諭A( 33歳)を婦女暴行未遂容疑で逮捕した。
  Aは、23日午後5時半ごろ小学校会議室で、小学校5年生の女子児童を暴 行しようとした。クラブ(バスケットボール部)活動直後の犯行で、マッサー ジをしてあげるなどと言って服をはぎ取り、強姦しようとしたが、被害者が泣 き出したため未遂にとどまった。女子児童が帰宅後、両親に訴えたため事件が 発覚した。
  両親が、学校を訪れ、被害を訴えたが、Aと校長は、マッサージの一点張り で埒が明かず、知人を通じて警察に通報し、逮捕となった。
  2003年10月28日神奈川県教育委員会は、同県西部の市立小学校男性 教諭B(43歳)を教え子の小学校6年生の女子児童の体を触るなどしたとし て懲戒免職処分にした。
  Bは、課外活動と称して女子児童数人と自家用車で学区外などに出かけ、児 童等を送る際、最後に残った女子児童の体を触っていた。しかも、この女子児 童に「愛している」などというメールを頻繁に送っていた。
  Bは、「児童が慕ってくれたのでスキンシップさった」と説明している。
  Bが異動後、女子児童が現在の担任に訴えて発覚した。県教委は、児童が特 定される恐れがあるため、刑事告発は考えていないとしている。
  2003年10月29日神戸市教育委員会は、同市立中学校男性教諭C(3 0歳)を教え子の中学校3年生の女子生徒にみだらな行為をしたとして懲戒処 分に、校長(57歳)を管理監督責任怠慢として文書訓戒にした。
  Cは、居酒屋で授業を欠席がちだった女子生徒を出席するように説得、その 後、生徒宅でも説得を続けた。Cは、帰ろうとして突然、女子生徒に抱きつき、 みだらな行為に及んだ。生徒宅には、家族は居なかった。
  2004年2月19日横浜地方裁判所は、元市立中学校長D(60歳)を男 子生徒にわいせつ行為をしたとして、準強制わいせつ罪で懲役2年の実刑判決 を言い渡した。裁判長は、「立場と信頼を利用し、人に打ち明けづらい深刻な 病気と信じさせ犯行に及んでおり、卑劣で悪質」と述べた。
  Dは、一昨年8月頃、当時中学3年の生徒に「睾丸の病気だから治療してあ げる」などと嘘を言って、1年以上にわたって約150回自宅などで生徒の下 半身を触るなどした。
  同性であってもわいせつ罪は成り立つのである。しかも、実刑である、実に 厳しい判決であるが、これが時代の流れである。
  2004年5月6日富山地方裁判所は、女子中学生を呼び出し、自分の車に 乗せ、無理矢理に体を触るなどして強制猥褻の罪に問われた元市立中学校臨時 講師(24歳)に懲役2年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。裁判官は、 「犯行は卑劣で、被害者の精神的ストレスは強く、社会的影響も軽視できない。 しかし懲戒免職になるなど社会的制裁をうけている」とした。
  厳罰化傾向が確実となった。
  読売新聞社の調査によると2000年度にわいせつ行為(セクハラを含む。 )で懲戒処分(免職、停職、減給、戒告)を受けた教職員は139人(非公開 の広島市を除く。)で、うち98人が免職された。文部科学省によると200 3年度にわいせつ行為で処分を受けた公立小中高教員は、155人と過去最多 となり、うち107人が懲戒免職になった。体罰による懲戒処分も173人と 最多となった。
  教訓は、教師が教室という密室の中で生徒という諭される立場の人間に囲ま れて、いつしか自分が何でもできる超人(スーパーマン)と錯覚し、裸の王様 となってあたかも違法なことでも許されると勘違いする怖さがあるということ である。
  人間は、誰しもしかるべき社会的位置に着くと周りの人がそれなりに配慮し ていくれるようになる。謙虚な人は、配慮を感謝しても、それが配置に対する ものであって、自分自身に対するものではないことを知っている。ところが、 配慮を自分自身に対するものと勘違いをすると天狗になり、傲慢となって、身 を処することを誤ってしまうのである。公私混同し、違法なことにまで手を出 すようになる。いわゆるワンマンである。
  しかも教師は、社会で社会人新人として鍛えられることなく、いきなり教師 となるので勘違いを勘違いと感じることができないまま年を重ねる怖さがある。  教師も子供の世界の中では超人となって何でもできる、何でも許されると錯 覚し、現実のギャップを判断できなくなる危険性がある。
  まして学校が、教育の自由、権力からの自由の地、学問自治区を警察権力の 介入阻止と勘違いし、警察に届けることすらはばかられる雰囲気がある。それ が管理職の姿である。
  児童のプライバシーに名を借りた刑事告発を躊躇する姿勢がある。
  また、「愛は地球を救う」、「愛さえあれば」といった愛を口にしさえすれ ば何でも許されるといった御都合主義によって、自己正当化する面すらある。
  価値相対主義の中で絶対的な規範意識が薄いことを口実にプライバシー保護 で刑事処分を避けようとしている。
  こうした価値相対主義は、規範意識を失わせ、教師生徒間の関係のみならず、 親子関係にも深刻な影響を与えている。
  1977年10月31日飲食店経営の父親が高校2年生の一人息子の首を絞 め、殺害するという事件が起きた。「オレの人生を返せ!メチャクチャにした のはお前らだ」と乱暴をし続ける息子を、両親が遂に押さえることができなか ったからである。この事件以降家庭内暴力という言葉が始まる。いらい、子供 が両親を「てめの育て方が悪いんだ」、「この野郎」、「あほう」と罵るのが 日常茶飯事となった。精神科医は、「子供の言うことを聞けば解決する」など と無責任なことを言い続け、教育評論家は、「友達のような関係が良い」のだ と言わんばかりに他人事の言動をする。その結果、規範意識のない子供を育て るに至った。そして、次のように言われ始めた。
  1970年 三無主義 無気力、無関心、無責任
  1974年 六無主義 無気力、無関心、無責任、無感動、無教養、無作法
  1978年 八無主義 無気力、無関心、無責任、無感動、無教養、無作法、
             無協力、無行動
  今は、   十無主義 無気力、無関心、無責任、無感動、無教養、無作法、
             無協力、無行動、無愛想、無良心
  そうした子供達が今や大人になり、規範意識はないまま、今度は児童虐待に 走っている。
  文部科学省所管の財団法人一ツ橋文芸教育振興会と日本青少年研究所が、2 003年秋4か国(日米中韓)の各1,000人余りの高校生を対象に「高校 生の生活と意識に関する調査」アンケートを実施した。その結果、「男は男ら しく」、「女は女らしく」といった性差意識が突出して低いことが分かった。
  「女は女らしくすべきだ」との設問で、肯定した人は、
  日本28.4% 米国58.0% 中国71.6% 韓国47.7%
  「男は男らしく」で肯定した人は、
  日本43.4% 米国63.5% 中国81.1% 韓国54.9%
  「結婚前は純潔を守るべき」で肯定した人は、
  日本33.3% 米国52.0% 中国75.0% 韓国73.8%
 と著しく低い。
  更に、「学校のずる休み」を「よくない」と答えたのは、27.4%、「親 に反抗する」は、19.9%、「先生に反抗する」は、25.1%しかない。
  このように高校生の規範意識は崩れ、自分勝手な行動を社会の甘やかしをい いことに自己正当化している。学校に行かなくてもいい、親に反抗してもいい、 先生に反抗してもいい、それらは全て社会が、先生が、親が悪いのだと。
  子供の権利等々、子供を育てることを止め、子供を野放しにして、規範意識 を失っている。
  その一方では、千葉県教委は、市原市立小学校男性教諭(50歳)を5年の 女子児童(11歳)を厳しく叱り、同女子児童が校舎3階から飛び降りて重傷 を負った事故を招いたとして、停職6か月の懲戒処分にした。同教諭は同日付 けで退職した。
  東京葛飾区内の中学では、男女生徒が傷害や窃盗で次々に逮捕された。指導 で生徒に体罰を加えた教師が、保護者から追及されことを切っ掛けにして、教 師と生徒の力関係が逆転して、教師が生徒から甘く見られ、言うことを聞かれ なくなり、荒れるようになった。
  厳しくすると批判を招き、その責任を問われ、それがいやで放任すれば、荒 れてその責任を問われる難しい、矛盾した時代になっている。だからこそ、適 正な手段で成果を上げるプロが求められるのである。
  文部科学省所管の財団法人一ツ橋文芸教育振興会と日本青少年研究所が、2 004年秋3か国(日米中)35の高校で調査を行い、3,649人が回答し た。その結果、日本の高校生が如何に生きるかについて明確な理念を持ってい ず、刹那的、自己中心的に生きる意識が浮かび上がった。
  「若いときは大いに楽しむべきだ」と回答した人は、
  日本51%   米国40%   中国20%
  「未来は輝いている、まよいほう」と回答した人は、
  日本54%   米国69%   中国80%
  「平日、学校以外でほとんど勉強しない」と回答した人は、
  日本45%   米国15%   中国 8%
  「どんなことをしても親の面倒をみたい」と回答した人は、
  日本43%   米国68%   中国84%
  「経済的な支援をするが、介護は他人に頼みたい」と回答した人は、
  日本18%   米国 9%   中国12%
  「結婚しても家族の犠牲になりたくない」と回答した人は、
  日本31%   米国23%   中国14%
  「国に誇りを持っている」と回答した人は、
  日本51%   米国71%   中国79%
  「国歌を誇らしいと感じる」と回答した人は、
  日本11%   米国55%   中国50%
  「国旗を誇らしいと感じる」と回答した人は、
  日本13%   米国54%   中国48%
  「国旗、国歌で姿勢を正すか」に回答した人は、
  日本30%   米国82%   中国67%
  若者の間に将来の希望を失い、悲観的となり、自らの努力を諦める気持ちが 蔓延している。これは、社会に対する不信とともに、日本という国や自分自身 に自信を失い、誇りを持てないことから、刹那的、自己中心的になっているの であろう。規範意識が失われ、それが拡大再生産されている。
  こうした状況を改善するためには、先ず大人が規範意識を持って、範を示し、
 若者に自信を付けさせ、誇りを持たせ、自ら努力するような理念を持って規範 意識を育てることが大切である。
  教訓は、人として絶対的な規範意識を持つことの大事さである。
[出典]
半藤一利『21世紀への伝言 名言にみる「日本と世界」の100年』(文藝春  秋、2000年)
「校舎で女児暴行未遂」(『読売新聞』2003年10月24日)
「わいせつ教師免職最悪98人」(『読売新聞』2003年11月25日)
村井正美、名倉透浩「捕まる生徒 逃げる先生」(『読売新聞』2004年11  月25日)
「わいせつ教員最多155人」(『読売新聞』2004年12月11日)
「少年遊びやすく学成り難し!?」(『読売新聞』2005年3月16日)
「自己中心で刹那的 日本の高校生」(『産経新聞』2005年3月16日)
MSN ニュース、夕刊フジ「教え子レイプ未遂、熱血小学校教師の“性癖”」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=616951)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「教え子小6女児の体触る、43歳教諭を懲戒免  …神奈川」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=615778)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「『男らしさ・女らしさ』日本の高校生は意識希  薄」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=685083)
MSN ニュース、夕刊フジ「エロ教師『会ってほしいにゃ』と小6にメール連射」  (http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=616149)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[教諭不祥事]中3女子生徒にみだらな  行為 懲戒免職に 神戸」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id   =616541)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[わいせつ行為]懲役2年の実刑 男子  生徒の下半身触る 神奈川」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?
  id=687508)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「女子中生にわいせつ、元臨時講師に有罪判決−−地  裁/富山」(http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/babe/news/20040507  ddlk16040657000c.html)
MSN ニュース、JIJIPRESS 「しかられ、女児飛び降り=小学教諭を処分−千葉」  (http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=630012)
 
 
 
16 児童買春・ポルノ事件
  2000年11月7日神奈川県警は、チェンマイのホテルで16歳と17歳 の少女のヌードをビデオに撮り、インターネットで通信販売した渋谷区の男性 (51歳)等3人を児童買春・ポルノ処罰法容疑で逮捕した。
  2001年1月9日山形県警は、寒河江市の男性(34歳)を前年9月上旬 ドイツのプロバイダーに少女の猥褻画像8枚を送った児童買春・ポルノ処罰法 違反(公然陳列)で逮捕した。ドイツ警察から国際刑事警察機構(ICPO) を通じ情報提供があって摘発した。
  2001年12月3日大阪府警は、春日井市の男性(37歳)をカンボジア でベトナム人少女を買春した容疑で逮捕した。これが児童買春・ポルノ処罰法 違反の国外犯規定を適用した初めである。この男性は、現地警察に児童保護法 違反で現行犯逮捕されたが、保釈され、帰国していた。
  2002年10月30日山形県警少年課と新庄署は、児童買春禁止法違反の 疑いで、防衛庁営内居住の2等空曹(30歳)の事情聴取を始め、営内の部屋 を家宅捜索し、逮捕した。
  2等空曹は、少女の裸の画像をインターネットに掲載した疑いである。
  新庄署が、インターネット上の違法画像を検索する捜査を行い、児童ポルノ 画像を発見、内偵捜査営内から発信したことを突き止めた。
  なお、児童買春禁止法違反とは、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処 罰及び児童の保護等に関する法律」弟7条(児童ポルノ頒布等)該当行為とし て、「三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する」とされる。
  2003年7月17日警視庁は、千葉県警巡査部長(30歳)を児童買春・ ポルノ処罰法違反(公然陳列)の疑いで逮捕した。
  巡査部長は、女児の裸に興味があり、画像を同じ趣味の人に見せたかったと 供述した。巡査部長は、1月6日頃、他人が開設したHPの掲示板に、日本人 の10〜13歳とみられる少女2人の猥褻な画像68枚を投稿した。
  スウェーデン警察がネット上の犯罪を監視するサイバーパトロールで見つけ 発覚した。
  2003年8月4日大阪府警は、東京都フリー楽団指揮者A(34歳)等3 人を児童買春・ ポルノ処罰法違反(公然陳列)の疑いで逮捕し、ネットに投 稿した札幌市の高校2年生(16歳)等2人と横浜市の掲示板管理者の男性会 社員(39歳)を同容疑で書類送検した。
  会社員が男性の画像掲示板を開設し、A等は、同掲示板に18歳以下の少年 のポルノ画像を投稿し、不特定多数の利用者が閲覧できるようにした。
  2003年9月5日神奈川県警は、住所不定無職B(41歳)を児童買春・ ポルノ処罰法違反(公然陳列)の疑いで逮捕し、サイトに投稿した広島市の会 社員(47歳)、無職(29歳)を同容疑で横浜地検に書類送検した。
  児童買春・ ポルノ処罰法違反(公然陳列)容疑で国外犯を検挙したのは全 国初である。しかも、海外で運営されているサイトが摘発されたのも珍しい。
  Aは、2002年1月から6月までの間、カンボジア・プノンペン郊外にあ る歓楽街スワイパーの少女(いずれも18歳未満)の全裸写真20枚を、自ら 管理、運営するインターネット上のサイトに掲載した。
  Aは、9月2日帰国したところを逮捕された。
  2003年10月2日大阪府警は、吹田市のインターネット配信会社ブリッ ツの営業責任者(25歳)4人と同社を児童買春・ポルノ処罰法違反(児童ポ ルノ製造、公然陳列)の疑いで書類送検した。インターネット配信会社を児童 買春・ポルノ処罰法違反容疑で摘発するのは全国で初めてという。
  営業責任者等は、4月に会社事務所で撮影した無職少女(16歳)の全裸写 真を5月から約1か月半、ネット上で配信し、広告として閲覧できるようにし た疑い。
  画像は、南の戎橋周辺でスカウトされた少女が働いていた派遣型風俗店掲載 モデルアカデミーのネット広告用に作られた。府警は、同店経営者等3人を児 童福祉法違反などの容疑で逮捕するなどした。
  2003年10月24日福岡県警は、鹿児島市立中学校教諭C(31歳)を 出会い系サイトで知り合った女子中学生にわいせつな行為をしたとして児童買 春・ポルノ処罰法違反(買春)容疑で逮捕した。
  Cは、8月2日佐賀市内のホテルで、福岡県筑紫野市の女子中学生(14歳 )が18歳未満と知りながら、わいせつな行為をして現金3万円を渡した。
  Bは、福岡県内までマイカーで迎えに行っていた。
  女子中学生が小遣い以上の現金を持っていたため、両親が警察に相談して発 覚した。
  2003年10月27日警視庁尾久署は、東京都練馬区元中学校教諭D(3 1歳)を出会い系サイトで知り合った女子中学生にわいせつな行為をしたとし て児童買春・ポルノ処罰法違反(買春)容疑で逮捕した。
  Dは、4月20日埼玉県川越市のホテルで、所沢の女子中学生(15歳)が 18歳未満と知りながら、わいせつ行為をして現金3万円を渡した。
  Dは、1996年3月まで埼玉県の市立中学校の臨時教員をしていた。4月 頃携帯電話の出会い系サイトで女子中学生と知り合い、メール交信をするうち に親しくなった。Dの自宅から女子中学生の制服を脱がす等のわいせつ行為を 撮影したビデオテープ2本が押収された。Dは、「制服を持ってくれば金をプ ラスする」と持ちかけていた。
  2003年12月17日警視庁は、大手電機メーカー社員E(26歳)をホ テルの宿泊代金を提供し、猥褻な行為をしたとして児童買春・ポルノ処罰法違 反の疑いで逮捕した。
  Eは、8月28日出会い系サイトで知り合った家出少女(14歳)をホテル に連れ込んで猥褻な行為をし、1泊分宿泊料(6560円)を払った。
  9月1日警察が、少女を補導、事件が発覚した。
  2004年2月16日千葉県警は、元都立高校教諭F(49歳)を児童買春 ・ポルノ処罰法違反の国外犯規定を適用して逮捕した。
  Fは、昨年8月中旬カンボジアのプノンペン市内の風俗店で16歳のベトナ ム国籍の少女2人に15〜20米ドルを払って猥褻な行為をした。滞在中計8 人の少女を買春したという。
  児童買春・ポルノ処罰法第10条の国外犯の規定とは、海外で児童買春をす れば、同法で処罰されるということである。旅の恥はかきすてというわけには いかないのである。
  特に米国では厳しい。児童と関係を持ちたいと考える小児性愛者をネット上 で取り締まる自警団「変態処罰コム」(Perverted-Justice.com) が網を張っ ている。この自警団のグループは、チャットルームで子供になりすまし、大人 が性的な話を持ちかけてきたときに、気を引くような返事をし、会う約束をし た。そして、その大人が来て、ドアを開けると、2人の男性が、1人はバット を持ち、1人はビデオカメラを抱えて迎え、未成年者に性的な話を持ちかける なと説教し、慌てながら去っていく姿をビデオカメラに収めた。それから数時 間以内に、この大人の下心に満ちたチャット内容、顔写真、携帯電話番号、電 子メールアドレスが変態処罰コムに掲載される。同時に自警団の支持者が、こ の大人に電話や電子メールで懲らしめる。更に、自警団は、職場の上司にチャ ット内容と写真を送りつけ、解雇に追い込み、職場の同僚、家族、地元の警察、 報道機関にも電子メールを送り、公衆の面前にさらして屈辱感を味わわせる。 標的になった人の多くは、行動が暴露された結果、職を失い、家族、地域から 軽蔑のまなざしにさらされた。この意味で社会的制裁は、厳しいのである。
  こうした囮捜査で600人以上を填めた。ミシガン州では、こうした捜査に 引っかかった男性が、14歳の少女と性的関係を持とうとした罪で20年の刑 を言い渡されたという。
  こうした米国の小児性愛者に対する厳しい姿勢は、いずれ数年後日本にも伝 わり、社会現象となるだろう。今から未成年者保護育成を考えておく必要があ る。すでに自分の娘(小学生)に対して性行為を強いる児童虐待という形で出 始めている。我が国でも強姦罪に問われる事例が出始めている。
  米国の小児性愛者に対する厳しい姿勢は、現実に小児性愛者が多く、その被 害が多発していることを示している。小児性愛者は、ラテン語でpaedophilia、 英語でpedophiliaと呼ばれる。中国でも、未熟な少女と寝ることが若返りの気 を充実させるという迷信がある。こうした小児性愛者の旅行先は、東南アジア で、そこで児童買春が問題となっているのである。現地の性産業は、快楽を提 供する児童が、麻薬、暴力等で減耗するため、児童を農村から買い、又は、誘 拐してでも集めようとする。それが人身売買となって問題となる。
  2005年3月3日フランス西部アンジェで生後6か月の幼児から12歳ま での子供45人に児童集団虐待(児童強姦、売春斡旋)をした23世帯、27 〜73歳の男39人、女27人の計66人に対する刑事裁判が始まった。被告 のほとんどは、失業者、無職で生活保護を受けており、子供に売春をさせて小 銭を稼いでいた。しかも性的虐待には、自分の小さい子供を含み実に凄惨な鬼 畜の行為である。フランスで過去最大規模の児童虐待事件である。
  2004年6月23日警視庁は、女子高生を出演させたアダルトビデオ(A V)等を製造したとして芸能プロダクション飛燕経営者(32歳)、AV男優 チョコボール(37歳)(公然猥褻罪で公判中)等6人を児童買春・ポルノ処 罰法違反等の容疑で逮捕した。
  容疑者等は、路上でスカウトした私立校2年の少女(17歳)に飲食代名目 等150万円の借用書を書かせ、出演を強要し、男優等を相手に淫らな行為を させて撮影、DVDやAVを製造した。
  2004年7月5日宮城県警少年課は、福岡県の42歳の男性を出会い系サ イト規制法違反の疑いで逮捕した。
  出会い系サイト規制法違反の正式名称は、「インターネット異性紹介事業を 利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」で、2003年9月13 日から施行された。サイト上で未成年者に金額を示し、猥褻行為の相手になる よう誘うと、その時点で罰則対象となる。例えば、サイトに金額とともに「会 いませんか」と記すだけで摘発される。違反した場合は、100万円以下の罰 金となり、実際に買春行為に及べば、児童買春・ポルノ処罰法の摘発対象とな る。一方、18歳未満の少年少女も、売春をもちかける書き込みをすれば、こ れまでの注意・補導などではなく、家裁送致される。
  2004年7月8日インターネットの掲示板で知り合った女子中学生等に現 金を渡してみだらな行為をしたとして児童買春・ポルノ処罰法と婦女暴行の罪 に問われていた映画監督の公判が横浜地裁で開かれた。警察は、「常習的で、 卑劣で破廉恥」だとして、被告に懲役3年6月を求刑した。被告は、「自分の 欲望に負けてしまったんだと思う」と供述した。8月16日横浜地裁裁判長は、 「映画監督の地位を悪用し、好きな芸能人に会わせるとの甘言で児童の好奇心 につけ込み悪質」として懲役2年4月を言い渡した。
  警察庁がまとめた2004年1年間に児童ポルノ事件の被害に遭った18歳 未満の未成年者数は、1,700人に上ったという。被害者の78.9%は中 高生が占め、小学生や未就学児童も計17人含まれている。被疑者数は倍増傾 向にあり、児童を性的欲望の対象とする犯罪の深刻さを浮き彫りにした。
  また、児童虐待の被害者数は、239人で、死亡したのは51人である。身 体的虐待が最も多いが、中には性的虐待は増え、ネグレクト(育児の怠慢、拒 否)は減少した。
  こうした検挙数の増加は、社会の関心の関心の高さを示すものであり、同時 に児童買春・ポルノ、児童虐待の厳罰化方向が見えるであろう。
  かって1996年にスウェーデンで開かれた児童買春に関する国際会議で日 本の海外旅行客が児童買春をしていると非難され、その結果、1999年に国 外での児童買春を罰することができる児童買春・ポルノ処罰法(第10条国外 犯規定)を施行した。更に、2005年3月14日には、社団法人日本旅行業 協会(JATA)が、国連児童基金(ユニセフ)等が進める「旅行と観光にお ける性的搾取からの子ども保護に関する行動規範」(コードプロジェクト:1 998年に世界観光機関(WTO)や国際NGO(ECPAT)等が始め、ユ ニセフが後援している。現在、17か国の旅行観光業者・団体が参加している。 )に調印した。JATAには、日本の大手旅行業者60社(日本人旅行客の約 90%を取扱っている。)が参加しており、今後、企業には、@子どもの性的 搾取に反対する企業倫理規定・方針を作り、A国内外の社員に教育・訓練を行 い、Bパンフレット等で旅行客の意識啓発して、C自社の取組状況を毎年報告 することなどが求められる。
  こうして児童買春ツアーは、禁止され、許されないもってのほかの行為とな った。観光業界の倫理規定となり、観光地でも人の目が光ることなり、禁止行 為を犯して警察に通報されれば、国内法で処罰されることとなる。児童買春禁 止の動きは世界的であり、旅の恥は掻き捨てとはいかない。
  教訓は、遵法精神を発揮し、道徳を守り、社会規範を意識し、人間としての 品位を保つことを自覚することである。大人が、子供に手を出すということは 倫理の無さを示している。子供に手を出さないことが、大人としての倫理の第 一であり、子供に猥褻行為を働くなどは、もってのほかの倫理欠如である。
[出典]
山岸秀『国際犯罪と国際刑法』(早稲田出版、2003年)
「児童買春の映画監督 懲役3年6月を求刑」(『読売新聞』2004年7月9  日)
「被害最悪1700人」(『読売新聞』2005年2月4日)
「子ども買春防止調印」(『読売新聞』2005年3月15日)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[児童ポルノHP]カンボジアから帰国  の容疑者逮捕 神奈川県警」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?
  id=580899)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[児童買春]鹿児島の中学教諭を逮捕   福岡県警」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=613188)
MSN−Mainichi INTERACTIVE 事件「出会い系サイト規制法:誘うだけで摘発対象  」(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040705k0000e04  0045000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「児童買春容疑:女高生に出演強要、AV男優ら逮捕  」(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040624k0000m04  0150000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「児童買春:再犯の映画監督に懲役2年4月 横浜地  裁」(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040816k0000e0400660  00c.html)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「カンボジア少女の全裸写真掲載、サイト運営者  を逮捕」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=580905)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「少女の全裸ネット広告、配信会社責任者らを書  類送検」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=599428)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「出会い系サイトで知り合い中3少女と買春、元  教諭逮捕」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=614695)
MSN ニュース、夕刊フジ「せこい?宿泊料6560円支払い家出中3買春」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=648529)
nikkansports.com「仏で66被告の裁判、幼児含む45人性的虐待」(http://
  www.nikkansports.com/ns/general/f-so-tp0-050304-0007.html)
産経新聞「自衛官がネットにポルノ」(http://sankei.co.jp/news/021030/1030  sha068.ntm)
MSN ニュース、JIJIPRESS 「カンボジアで少女買春=元都立高教諭を逮捕−国外  犯規定を適用・千葉県」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  684685)
Yahoo!ニュース−共同通信「少女のわいせつ画像を投稿 千葉県警の巡査部長逮  捕」(headlines.Yahoo.co.jp/hl?a=20030717-00000182-kyodo-soci)
Yahoo!ニュース−共同通信「少年ポルノ投稿を初摘発 3人逮捕、掲示板管理者  も」(headlines.Yahoo.co.jp/hl?a=20030804-00000102-kyodo-soci)
WIRED NEWS「ネットにはこびる小児性愛者を取り締まる自警団」(http://www.
  hotwired.co.jp/news/print/20040322205.html)
WIRED NEWS「教師の人生を崩壊させた1回のチャット−小児性愛者を摘発するネ  ット自警団」(http://www.hotwired.co.jp/news/print/20040326204.html)
17 少女拉致事件
  女子高生コンクリート詰め殺人事件のように女子高生を拉致、監禁、殺人、 死体遺棄したり、新潟女性監禁事件のように9歳の小学生を拉致、9年間も監 禁した特異な事件も含めて多数の女性拉致監禁が、近年頻発している。
  警察庁によると2002年発生した略取誘拐事件のうち、13歳未満の子供 が被害に遭ったのは、108件に上り、2001年に比し、17件増えている。
  6〜12歳の少女が連れ去られたのケースは68件で、13〜19歳の女性 は96件である。
  2003年に発生した略取誘拐事件は、114件、未成年者の被害は104 件、13歳未満の少女の被害が48件、このうち6〜12歳は40件を占めた。
  女子児童・生徒が連れ去られる事件は、相次いでいる。
  主な事件を紹介すると次のとおりである。
  1988年11月25日少年等4人が、三郷市内の女子高生を拉致し、民家 に監禁し、暴行、強姦、輪姦を加え、翌年1月4日死亡させ、その死体をドラ ム缶にコンクリート詰めにし、捨てた。少年等は、強姦、殺人、死体遺棄等で 少年刑務所に送られた。主犯の少年は懲役20年、準主犯格の少年は懲役5年 以上10年以下の不定刑期、他の少年も刑が確定した。出所した準主犯格は、 2004年5月19日因縁を付けて男性を拉致、監禁、暴行、傷害を加え、6 月4日警察に逮捕監禁致傷容疑で逮捕された。
  1990年11月13日A(28歳)は、三条市内で小学4年生女児(9歳 )を車で連れ去り、2000年1月28日まで9年余り自宅に監禁した。
  2002年1月22日新潟地裁は、Aに略取、逮捕監禁致傷、窃盗の併合罪 で懲役14年の実刑判決を言い渡した。2002年12月10日東京高裁は、 1審判決を破棄し、懲役11年を言い渡した。2003年7月10日最高裁第 一小法廷は、原判決を破棄し、控訴を棄却し、懲役11年が確定した。
  2001年10月12日無職男B(23歳)は、諫早市内で小学1年生女児 (7歳)を下校途中に連れ去り、殺害した。
  2002年7月19日無職男C(36歳)は、大胡町で高校1年女子生徒( 16歳)を帰宅途中に車で拉致、殺害した。
  2003年7月18日男D(29歳)は、港区内のマンションに小学6年生 女児4人を連れ込み、4日間監禁し、自殺した。
  2003年7月29日無職E(20歳)ら無職少年11人は、岩槻市内の高 校2年女子生徒2人をJR大宮駅で声をかけ、車に乗せ、中学敷地内まで連れ 込み、3時間にわたって乱暴した。事件数日後、Eが女子生徒の携帯電話にか けた電話から電話番号が分かり、芋蔓式に逮捕された。2月3日までに警察は、 少年等11人を婦女暴行致傷などの疑いで逮捕した。
  2003年8月上旬暴力団組員F(27歳)は、下都賀郡内で自転車下校中 の高校3年女子生徒(17歳)を車に連れ込み、脅して乱暴し、10月初旬に は、徒歩帰宅中の高校2年女子生徒(16歳)を無理矢理車に連れ込み、右腕 に覚せい剤を注射した。
  2003年9月2日無職男G(26歳)は、村上市で中学3年女子生徒(1 5歳)を車ではね、連れ去り、11日間監禁した。
  2004年7月20日新潟地裁裁判長は、被告Gに逮捕監禁致傷等で懲役8 年(求刑懲役10年)を言渡した。
  2003年10月1日無職男H(21歳)ら4人は、東京都の高校1年女子 生徒(15歳)を市川市内のアパートに8日間監禁した。
  2003年10月22日無職男I(30歳)は、東区のバス停でバスを待っ ていた公務員の女性(26歳)にナイフを突きつけて車に乗せ、連れ回したが、 女性が帰してと訴えたところ解放し、車のナンバーから警察がIのアパートに 踏み込むと高校2年女子生徒(16歳)が監禁されていた。女子生徒は、内側 から鍵を掛けた居間にいた。女子生徒は、下校途中、車に連れ込まれ、アパー トの一室に監禁されていたが、23日には母親にメールを送るなどしていた。
  2004年5月11日広島地裁裁判長は、Iに逮捕監禁罪等で懲役10年( 求刑懲役12年)を言渡した。裁判長は、「短絡的で身勝手極まりない犯行」 と批判した。拉致被害に対する厳罰化方向が打ち出されたようである。
  2004年1月7日無職少年3人(18〜19歳)が、八尾市内で、携帯電 話の出会い系サイトで知り合った寝屋川市内の少女2人(19歳)と待ち合わ せた後、言いがかりをつけて車に監禁、暴力団関係者を装うなどして脅した上、 少女が持っていた現金4,000円などを奪い、キャッシュカードで約3万円 を引き出させた。更に、家族に電話をさせ、身代金2百数十万円を振り込ませ ようとした。8日少女は保護され、少年等は営利目的誘拐、監禁などの容疑で 逮捕された。
  2004年2月21日佐賀県警は、鳥栖市立小学校低学年女児を連れ去った 未成年者略取の疑いで福岡県警巡査J(24歳)を逮捕した。
  Jは、20日、下校中の女児を無理矢理抱きかかえて乗用車に乗せ、約40 分にわたって連れ回した。
  2004年9月27日大阪地裁堺支部裁判長は、大阪府南部で帰宅途中の1 1〜17歳の少女18人に対する暴行等強姦致傷等の罪に問われた住所不定男 (31歳)に対して、求刑通りの無期懲役を言い渡した。
  住所不定男は、1999年1月から2002年12月にかけ、大阪府南部に おいて帰宅途中の少女等にナイフを突き付け、「声を出すな」殺すぞ」と脅迫 し、人気のない場所に連れ込んで乱暴、ビデオで撮影するなどして、4人にケ ガを負わせた。そして多くの少女に心理的な後遺症を追わせた。
  裁判長は、「見知らぬ男に突如襲われた少女等の精神的、肉体的苦痛は察す るに余りある」「起訴された事件を含め、5年間に約30件の犯行を自供する など極めて悪質」と述べた。
  少女拉致の厳罰化は進んでいる。
  2004年11月17日奈良市の小学1年生の女児(7歳)が、帰宅途中車 に乗った男に拉致誘拐され、室内で殺された。しかも、犯人はその写真を女児 の携帯メールで母親の携帯メールに送りつけた。12月30日奈良県警奈良西 署は、容疑者新聞販売店員(36歳)をわいせつ目的誘拐容疑で逮捕した。誘 拐当日、女児の母親に画像付きメール送りつけた動機は、親に見せつけ、家族 にショックを与えたかったためと自供している。同容疑者は、以前にも強制わ いせつ事件を起こし、起訴、有罪判決を受けている再犯者である。小児性愛者
 の殺人事件となった。
  この事件後、各地で少女に対する拉致誘拐未遂事件が多発した。
  こうした少女拉致事件が頻発する背景について、
  上智大学福島章名誉教授(犯罪心理学)は、「最近は二、三十代の男による 誘拐事件が目立つが、これは同世代の異性とコミュニケーションを取るのが苦 手な人間が、自分より弱い子供の自由を奪うことで、支配しようとしていると 考えられる」と分析している。
  社会病理学者の専門家は、「親から離れた子には常に危険がつきまとうとい うことを、保護者が強く認識し、目配りをしてやるしかないだろう」と話して いる。
  こうした拉致、監禁事件を見ると犯人がいないとき、逃げればいいのにと思 うこともあるであろうが、拉致、監禁されると一種独特の心理状態に置かれ、 金縛りにあったように逃げれなくなるという。いわゆるストックホルム症候群(シンドローム)
 である。
  女児、女子生徒は幼い故に簡単にストックホルム症候群に陥り、逃げたくて も逃げられなくなることもあるということを理解することが重要となる。そし て、逃げ出すことが大事だということを理解させておくべきである。
  それよりも、事件に巻き込まれる可能性の高い出会い系サイトに不用意に近 づかないことが大切である。
  警察庁の調査では、2003年1月から10月までの連れ去り(略取誘拐の 疑いのある事案、未遂を含む。)事案は、全国32都道府県で126件発生し、 139人が被害にあっている。うち少女が107人である。年齢別では、小学 生が90人、中学生が19人、未就学児童26人である。
  検挙者は、未遂を含めて73人で、主犯格の69人のうち、20代が27人、 30代が18人で若い世代が犯行の中心となっている。
  動機面では「猥褻目的」が41人、「好意を抱いた」の22人を合わせ、何 らかの性的欲求を引金とした連れ去りが大半を占めた。6割強が車両(自動車、 オートバイ、自転車)を使い、自動車を使用した容疑者25人が最多で、広域 に渡って少女などを標的として狙っている様子を窺がわせる。
  社会評論家赤塚行雄は、「弱者をいじめて喜びを感じる倒錯者がどこに潜ん でいるか分からない、薄気味の悪い社会になった」と嘆き、「今の若い世代の 多くは、地域全体で子供を大事にするという環境とは無縁で育ってきた。性の 対象など子供を異質な目で見る若者が出てきた背景はそこにあるのではないか 」という。一方で「地域社会の崩壊は、子供を守る目の弱体化にもつながり、 妄想を実現したいと願う者の背中を押してしまっている」とも指摘している。
  2003年1年間に警察が摘発した出会い系サイト絡みの事件のうち、殺人 や強盗など重要犯罪は137件で、前年より37%(37件)増えている。
  摘発件数は、1746件で、ほぼ前年並みだったが、被害者の8割以上が1 8歳未満の女性で、出会い系サイトが中高生に浸透している実態が明らかにな っている。
  事件の種類別では、最も多かったのが、児童買春・ポルノ処罰法違反の81 0件(前年比3件減)、次いで青少年保護育成条例違反の448件(前年比1 3件増)で、これらに婦女暴行や強制猥褻を含めた性犯罪が、全体の77.2 %を占めた。殺人は4件(前年比2件減)、強盗は37件(前年比13件増) であった。
  女性の被害者が92.4%(1,395人)に上った。小学生が4人、中学 生が399人、高校生が610人である。
  教訓は、美しいものにはとげがある。君子危うきに近づかず。
  一方、被害者になりやすい若い女性は、自分達が狙われていると意識をもっ て用心深く行動してもらいたい。まして、出会い系サイトは匿名性が高く、自 分のことは分からないだうと安心していると、相手も又、匿名性を利用して上 手いことやってやろうなどと考えていれば、無責任な行動となって犯罪に巻き 込まれやすくなる。御用心を!
[出典]
カロライン・ムーアヘッド『人質』(サイマル出版会、1980年)
「綾瀬女子高生コンクリ詰め殺人犯監禁致傷再逮捕までの33歳凶暴人生」(『  週刊文春』2004年7月15日)
「狙われる少女たち」(『読売新聞』2003年10月10日)
「女子高生拉致、覚せい剤注射や乱暴」(『読売新聞』2003年10月22日  )
「警官女児連れ去り」(『読売新聞』2004年2月22日)
「女児誘拐36歳男逮捕」(『読売新聞』2004年12月31日)
「画像送信ゆがんだ動機」(『読売新聞』2005年1月1日)
「女性監禁事件・県警不祥事関連」(http://www.niigata-nippo.co.jp/kankin/
  kankin.html)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「ナイフで女性脅し連れ回す、男の自宅に不明女  子高生」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=613791)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「出会い系サイト絡みの事件、殺人・強盗などが  37%増」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=678022)
YOMIURI ON-LINE「広島・呉の女子高生監禁、30歳被告に懲役10年判決」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040511i111.htm)
YOMIURI ON-LINE「少女18人暴行男に無期判決、裁判長『極めて悪質』」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040927i306.htm)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[連れ去り事件]『地域社会崩壊』で頻  発」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=641778)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[誘拐]少女2人を監禁、少年3人を逮  捕 大阪府警」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=662817)
MSN-Mainichi INTERACTIVE 今日の話題「女子中学生監禁:近藤被告に懲役8年の  判決 新潟地裁」(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040720k  0000e04087000c.html)
MSN ニュース、夕刊フジ「女子高生2人を11人で乱暴、少年ゴーカン団逮捕」  (http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=676609)
奈良新聞社「小1女児誘拐・殺害事件詳報」(http://www.nara-shimbun.com/n_  soc/041119/special.shtml)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
参考 ストックホルム症候群(シンドローム)
1973年8月23日午前スウェーデンの脱獄囚ヤン・エリク・オルソンは サブ・マシンガンで、ベリィェ・クレジット・バンクを襲い、若い女性を含む 人質数人をとった。その後、銀行占拠に共犯の脱獄囚が加わったが、6日間監 禁状態に置かれるうちに人質達は、犯人に奇妙な愛着、親愛、信頼感を抱くよ うになり、同時に他の者に対しては無愛想な態度を示し、彼らの解放を待って いた警察や心理学者を当惑させた。
  誘拐や籠城の被害者達が、彼らを人質にした犯人に抱くこの奇妙な愛情、あ るいは誘拐者が人質に寄せる愛着を説明するためにストックホルム症候群(シンドローム)とい う新語が作られた。
  人質の内部では、生き残ろうとする本能的な衝動が、やがて愛に変わること がある。精神学者は、これを幼児性への回帰、食糧や暖や慰めなどすべてを他 人に依存する幼児期への回帰と説明している。そして、成人として、このよう な依存状況に置かれるとき、生殺与奪の権を握る者に取り入るためには、かっ て母親に気に入られようとした方法をとろうとするのである。また、被害者の 苦悩と不安に耐えられなくなるや、人質は一足とびに誘拐者と同化し、更に自 負心を維持するために、誘拐犯は犯罪者ではなく、理解と共感を必要とする人 間だと見なそうとするのである。
  ストックホルム症候群(シンドローム)の極端な例は、米国のパティ・ハースト事件である。 この事件では、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの孫娘パティ・ハー スト(19歳)がSLA(シンビオニーズ解放軍)によって誘拐され、隷属と 自衛本能によって誘拐者と同化し、仲間となってサンフランシスコのハイベル ニア銀行を襲った。後に逮捕された時、誘拐者によって参加を強要されたと主 張したが、結局、武装強盗の罪で7年の刑を言い渡され、22か月の服役後、 カータ大統領によって恩赦された。
  日本でも「よど号」ハイジャック事件、金嬉老事件、三菱銀行梅田支店事件 等のように人質が犯人に同情的な態度を示した例もある。
  ストックホルム症候群(シンドローム)に陥らないためには、誘拐者のイデオロギー、監禁状 態に耐え得る自己規律への優越感を持っことである。決して哀願したり、弁明 したりしないという決意を固め、頑固なまでの高潔さが、監禁状態に生き残る ための信条である。
[出典]
カロライン・ムーアヘッド『人質』(サイマル出版会、1980年)
 
 
 
18 少女売春事件
  少女を拉致、監禁する目的の一つに売春強要がある。
  2003年10月29日愛知県警東署は、無職男A(26歳)を児童福祉法 違反容疑で逮捕した。
  Aは、2002年8月から2003年6月までの間、家出少女2人(元同じ 中学の同級生、17歳、18歳)を自宅マンションに住まわせ、ほぼ毎日、テ レホン・クラブを通じて探した相手に売春させていた。
  2003年5月、街頭で補導された少女等の話から売春が発覚した。
  少女等は、1回の稼ぎ(2万5千円)の半分をAに渡していたという。
  2003年10月31日警視庁少年育成課は、クラブ経営者B(30歳)を 児童福祉法違反(淫行させる行為)、売春防止法違反(周旋)の容疑で逮捕し た。
  Bは、2003年7月から9月にかけて、出会い系サイトなどで食事をしよ うなどと誘った少女のわいせつな写真を撮影するなどして脅し、売春を強要し た。15から19歳までの少女約30人を短期賃貸マンションに住まわせ、イ ンターネットの掲示板で援助交際したいなどと書き込んで客を募集、これに応 じた男と少女を売春させていた。
  周旋を受けた男も児童買春・児童ポルノ処罰法違反容疑で逮捕した。
  2004年3月31日大阪府警少年課は、ホストクラブで飲食させ、支払い のできない中学3年の家出少女(15歳)を風俗店で働かせたとして児童福祉 法違反等の疑いで風俗店主等11人を逮捕した。
  風俗店スカウトが、戎橋付近で家出少女をホストクラブに誘い、飲食させ、 その代金13万円が払えなかったため、風俗店に紹介した。風俗店主は、家出 少女が18歳未満であることを知りながら雇い、客にわいせつな行為をさせて いた。
  少年課の警官が、少女を補導したことから発覚した。捜査関係者は、「ホス ト」遊びをエサに借金させて風俗店にスカウトし、客にワイセツ行為をさせる とは、何ともえげつない」と話している。
  風俗店にスカウトとは、実態は、阿漕な売春の強要にほかならない。
  同時に、問題なのは、家出であり、ホストクラブへ簡単に行く気持ちである。
  2004年3月29日警視庁少年育成課は、年齢制限のある渋谷のクラブに 出入りするために健康保険証を偽造したとして変造有印公文書行使の現行犯で 無職少女(17歳)を逮捕し、私立高校2年生2人(17歳)を書類送致した。
 このほか、16〜17歳の高校生等少女10人も近く同容疑で書類送検する方 針であるという。偽造した健康保険証を使ってクラブに出入りする少女を摘発 したのは全国初であり、年齢を偽って風俗店で働いていた少女もいた。
  教訓は、規範意識をもって遵法精神を発揮することにある。
[出典]
「少女30人に売春強要」(『読売新聞』2003年10月31日)
MSN ニュース、夕刊フジ「家出2少女を自宅に住まわせ、毎日『売春』」(http  ://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=616151)
MSN ニュース、夕刊フジ「“クラブに行きたい”17歳少女健康保険証偽造」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=715423)
MSN ニュース、夕刊フジ「中3少女をホスト遊びで借金漬け…店主ら逮捕」(
  http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=717229)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
19 少女援助交際・売春斡旋事件
  2003年10月6日警視庁東大和署は、3人の女子生徒を児童買春・ポル ノ処罰法違反容疑で書類送検、会社員を同容疑で逮捕した。
  5月ごろ私立高校1年の3人の女子生徒(15歳)は、同じ塾に通う都立高 校1年の女子生徒(15歳)に接近し、3人のうち1人が男性の声色を使って 電話をしたりして男性役を演じて、交通事故に遭って金が必要になったなどと 偽り、援助交際をするように依頼した。3人は、出会い系サイトで募った会社 員(39歳)を引き合わせて、援助交際をさせた。会社員は、女子生徒が18 歳未満と知りながら、現金1万円を支払い、猥褻な行為をした。
  私立高校1年の女子生徒3人は、男性のメール友達になりすまし、都立高校 1年の女子生徒をだまし、売春させて、金まで巻き上げていた。女子生徒3人 は、「遊ぶ金が欲しかった」と話している。
  都立高校1年の女子生徒は、同署からメール友達が偽装と知らされ、「だま されたことが信じられない」と話し、ショックを受けているという。
  2003年10月24日鈴鹿警察署は、女子生徒を児童福祉法違反容疑で逮 捕、津地検に送致した。トラック運転手(39歳)も児童買春・ポルノ処罰法 違反容疑で逮捕した。
  7月19日三重県鈴鹿市の中学3年の女子生徒(14歳)は、洋服代や携帯 電話料金などの金欲しさに、グループのメンバーだった同級生の女子生徒(1 4歳)に「援助交際してでも金を稼いでこい」と指示し、出会い系サイトで知 り合ったトラック運転手B(39歳)を相手にホテルで10万円で売春させた。
  売春させられた女子生徒は、指示した女子生徒からの仕返しが怖くて命令に 逆らえず、ほかにも数回売春をさせられていた。
  2004年1月8日警視庁は、東京都内の高校1年の女子生徒に売春させ金 を脅し取ったとして、無職少女2人(15、16歳)を児童福祉法(淫行をさ せる行為)違反の疑いで逮捕した。
  無職少女らは、2003年9月13〜15日、知人の女子生徒を伝言ダイヤ ルで勧誘した都内の男性ら3人に引き合わせ、ホテルで1回2〜3万円で売春 させた。無職少女等は、携帯電話未払い料金を支払ったり、遊ぶ金欲しさから、 援助交際して金を作れと女子生徒を脅し、同月13〜17日の5日間で約20 人と引き合わせ、女子生徒が受け取った金から計14万円を巻き上げていたと いう。この後、女子生徒は、飛び降り自殺を図り、6か月の重症を負ったとい う。
  2004年3月1日警視庁は、埼玉県の公立中学3年の女子生徒(15歳) を出会い系サイト規制法違反で東京家裁に書類送致した。同法を未成年者に適 用するのは、全国で初めてである。
  女子生徒は、1月16日午後8時30分頃、母親のパソコンを使い、「あり さ」の名称でインターネット上の出会い系サイトで、援助交際の相手を求め足 り、下着の販売を持ちかける趣旨の書き込みを行った。
  女子生徒は、「遊ぶ金がほしかった」と話し、昨年11月から出会い系サイ トで援助交際の相手を捜していた。
  女子生徒の相手の1人で、草加市病院職員を(55歳)を、児童買春・ポル ノ処罰法違反で逮捕した。
  2004年3月4日神奈川県警は、横須賀市立中学3年の女子生徒(15歳 )を出会い系サイト規制法違反と詐欺の疑いで逮捕した。同法を未成年者に適 用して逮捕したのは、全国で初めてである。
  女子生徒は、昨年12月10日市内のインターネット喫茶のパソコンから出 会い系サイトに「5万円からで私を買ってもらえませんか。先払いでいい方。 私は中三の女の子」と書き込んだ。書き込みを見て返信してきた男性会社員( 31歳)とメールのやりとりをし、12月16日自分名義の郵便貯金口座に現 金5万円を入金させ、騙し取った。入金後、女子生徒は、メールで面会を求め る会社員に言い逃れを繰返した。会社員が県警に相談して事件が発覚した。
  会社員も会社員である。悪いことをしながら、悪いことだと思っていないか ら、警察に相談に行ったのであろう。それにしても間抜けなことである。
  2004年4月22日静岡県警少年課と天竜署は、高校2年の女子生徒(1 6歳)を売春防止法と児童買春・ポルノ処罰法違反の疑いで逮捕した。
  この女子生徒は、昨年12月から今年1月にかけて、携帯電話の出会い系サ イトに「女の子を紹介します」と書き込み、アクセスしてきた男性5人に同級 生の女子高生を紹介した。紹介料として、その都度2〜3万円を受け取ってい たという。
  2004年10月5日警視庁少年育成課は、清掃会社社長(26歳)を児童 買春・ポルノ処罰法違反(児童買春)容疑で逮捕した。友人を社長に紹介した 中学3年生の少女(14歳)を同法違反(児童買春斡旋)と児童福祉法違反( 淫行させる行為)の疑いで東京地検に書類送検した。
  社長は、7月14日18歳未満と知りつつ、紹介された女子中学生(14歳 )に現金4万5千円を渡すと約束して、ホテルで猥褻な行為をした。紹介した 女子生徒は、社長に友人を紹介し、紹介された女子生徒から紹介料として2万 円を受け取っていた。
  2004年10月12日京都府警少年課と伏見署は、中学2年生の二女(1 3歳)に売春させたとして無職の母親(34歳)を児童福祉法違反(淫行させ る行為)の疑いで逮捕した。
  二女は、母親に「援交してきて」と言われ、ツーショット・ダイヤルで知り 合った会社員(39歳)とホテルで現金数万円で売春した。
  9月会社員は、児童買春・ポルノ処罰法違反(児童買春)容疑で逮捕され、 保護された二女から事情を聞き、母親が逮捕された。
  大人の児童買春、児童の若年化傾向は、異常である。また、児童の何も考え ていない身勝手な行動も異常である。
  2005年10月21日大阪府警は、東大阪市六万寺町福祉施設職員(42 歳)を通貨偽造。同浩志の罪で逮捕・送検した。道職員は、1月頃職場のカラ ープリントを使って1万円札15枚を偽造、5月出会い系サイトで知り合った 定時制高校の女子生徒(18歳)ホテルでみだらな行為をし、偽1万円札10 枚を女子生徒に渡した。道職員は、援助交際であれば、偽札がばれても警察に
 はいかないと思っていた。女子生徒は偽札を偽札と知った上でコンビニで使っ たところばれなかったので知り合いの無職少年(18歳)に渡した。ところが、 その少年がコンビニで偽札を使ったところ、発覚し、逮捕され、芋づる式に女 子生徒も、職員も逮捕された。
  悪いことをする人は、悪いことをする人の弱みにつけ込む。だからこそ悪い ことをしないことが大事である。そしてその代償も大きい。職員は馘首となり、
 刑事罰を受け、勿論、女子生徒も少年も刑事罰を受けることになる。
  教訓は、いかにして子供に善悪是非を教え導くかということである。つまり、 規範意識をいかにして醸成するかということである。はした金で援助交際と称 して身体を売るのは完全に売春である。青い性を買う大人も悪いが、積極的に 出会い系等で呼びかける行為も許してはならない。見た目は子供だと思ってい ても、やることは悪い大人と同じである。しかも、自分は手を汚さず、他人を 手段にして金を巻き上げるとは、大人顔負けの阿漕なことである。
  今の若者は、所構わず、電車内でも、路上でも、遠慮なしに携帯電話で喋り、 化粧をし、口紅を塗り、物を食べ、道やコンビニの前にたむろし、通行人の邪 魔になっている。自分達の行為が他人にどのような影響を及ぼしているのか、 全く考えていない。まるで自分一人がいるだけで、他人が存在しないかのよう に振る舞う。なんでこんなことになってしまったのか。
  人間は、家族の中で人間関係を学びながら、一人前の大人に成長し、人間ら しさを身に付けていく。ところが、少子化に加えて、社会、学校、家庭が子供 を甘やかし、過保護にする余り、成長に必要な葛藤や試練が与えられず、子供 は社会のプロセスを得ないまま大きくなり、内なる私空間を外なる公空間の区 別が付けられず、公共の場所でも自分の部屋にいるのと同じように行動してし まう。
  こういう若者の意識には、他者が存在しないことが一番の問題である。
  自己中心というのは、まだしも他者の存在が意識され、その中で自己を中心 とするということであるが、他者の存在が意識されなくなると、他者との距離 を意識せず、自己だけの世界を作ると社会化できないまま大きくなり未熟な大 人となり、人間らしさを崩壊させる。
  まさに他人及び自分自身を人間存在としてではなく、単なる経済的手段とし て使い、人間らしさを失っている。
  援助交際などともっともらしい表現を使っているが、実態は売春そのものに ほかならない。昔は、貧しさ故に親に売られていくということであったが、今 は、目先の小遣い銭稼ぎの売春を援助交際と言っている。非難に対しては、人 に迷惑をかけているわけではないと開き直り。自己決定権をひけらかせる。援 助交際を申し出る大人がいい人とは限らず、事件・事故に巻き込まれる可能性 もあり、まして妊娠の可能性や、性感染症の危険性等々がある。そのときにな って、乳児の養育は国の責任だ、病気になったら被害者だ国で面倒を、等々と 勝手なことをいうことになる。今や、普通に見える子供でさえ、小遣い銭稼ぎ の援助交際に走り、知らぬは、親ばかりなちという状況となっている。まして 子供に同調する大人は、価値相対主義で、援助交際を駄目だと押し付けること はできないし、子供の自主性をと訳の分からないことをいい。それが物わかり の良い大人だという態度である。しかしながら、この態度は子供に対して無責 任である。援助交際は、売春であって、間接的に社会から排除されるという残 酷な仕打ちを受けることによって、人格障害を招き、無力感となって人生を虚 しくする。これが売春の結末である。「誰に迷惑をかけているわけじゃない」 と言っても、自分自身の将来に迷惑が降りかかってくるのである。社会の大人 の冷たさ、つまり援助交際の事実がばれれば社会から売春婦だという目で見ら れ、信用を失う恐ろしさを理解していないことが一番の問題である。売春は駄 目だとはっきり言って止めさせることが大事である。そのためには、しっかり した規範意識を持つことが大事である。
  国際NGO団体ECPAT(エクパット)〔本部・バンコク:64か国、7 1団体加盟〕は、1996年ユニセフ、スウェーデン政府とともに「第1回子 どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」をストックホルムで開催し、20 04年には、「世界の子どもの商業的性的搾取に関する年次報告」まとめた。
  英文の報告書は、「ENJO KOSAI(エンジョ・コウサイ)現象」と 題する章を設け、「10年ほど前から日本で表面化した十代の少女を取り巻く 社会現象」と説明し、ここ数年、メデイア等を通じて、この言葉が輸出され、 韓国、シンガポール、フィリピン、タイ、中国にまで、日本と同様の社会現象 が広がっていると警告している。
  また、日本語の「援助交際」には、現金等の報酬を受ける代わりに、少女達 は同意して大人の男性と性的関係を結び、両者ともに利益を得ているというニ ュアンスがあると指摘し、「少女への性的搾取という本質が薄められている」 と述べている。
  援助交際にかかわっている子どもの特徴は、各国とも似通っている。金銭面 等で不自由のない家庭の十代で、圧倒的に少女に多い。家庭の崩壊や親とのコ ミュニケーションの欠如等で、非常に孤独になっている。この寂しさを埋めた い一心で、人とのかかわりを求めてさまようという。
  タイのチュラロンコーン大学の調査では、中流以上の家庭に育った中高生の 少女が、ちょっとしたスリルを味わうために、また、手っ取り早く小遣い稼ぎ をするために援助交際に走るとされている。
  また、韓国の2000年の統計によると援助交際で逮捕された18歳以下の 少女は年間222人、そのうち63%は16歳以下であった。同年、「子ども 売買春保護法」が成立したが、韓国政府は、「自ら進んで売春する子どもは保 護の対象にしない」として援助交際をした少女を処罰している。
  更に、アジア諸国に共通するのは、援助交際にかかわった子ども、特に少女 の場合、レッテルを張られて社会復帰が難しいことがある。貧しさから売春を 強要された子どもは同情され、保護されるが、援助交際した子どもは、性的奔 放さが強調され、非難の対象と見られる。
  このECPATの活動が契機となって、我が国でも児童買春・ポルノ処罰法 (正式名称:児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関 する法律、平成11年5月26日法律第52号)が制定された。
  援助交際が、フジヤマ、ゲイシャ、スケベと同じく和製英語エンジョ・コウ サイになったことを嘆かざるをえない。そして、援助交際という言葉は、両者 ともに利益を得ているというニュアンスがあって「少女への性的搾取という本 質が薄められている」と述べているが、同時に社会規範に違反しているという 罪悪感をも薄めている。
  子供の存在は、子供だけ存在しているわけではなく、社会の一員として子供 の行動が社会を動かしているのである。子供が、妊娠すれば乳児養育の問題が 生じ、病気になれば治療の問題が生じ、そうした問題とともに、家庭問題、親 子問題、風紀、治安問題等々を惹起するのである。更に妊娠となれば、子供が、 子供なりに世間体を気にし、悩み、親にも言えず、堕胎、あるいは新生児殺し をしかねない状態になりかねない。単に、他人に迷惑をかけていないというの は、その背後にある将来のことを考えたくない、又は考えていない目の前の自 分勝手な自己正当化にすぎない。
  こうした自己中の考え方を助長する悪い大人もいる。例えば、悪徳ホストは、 少女から貢がせ、その少女は援助交際と称して風俗で稼ぎ、ホストに入れあげ るという構図すらあるといわれる。悪徳ホストは、少女をもてさせていい気に させて、ドンペリなどの高級ワインをせがみ、結局、売り掛け借金を膨らませ、 借金返済のために風俗に行かせるということである。むかしの阿漕な売春の仕 組みと同じであるが、現代では、それを自主的に自己決定で行っているという ことである。昔は、女郎に売られた悲しい話であったが、今は、自ら身体を売 る援交という淫らな風俗話しとなった。
  かっては「身体髪膚之れを父母に受く。敢えて毀傷せざるは、孝の始めなり。 」(『孝経』『小学』孔子の言葉と言われる。)というように、我々の身体全 体は、髪一筋、皮膚一片に至るまで、これは父母から頂いたものであるから、 この身を大切に慎んで、少しも傷付けない用にすることが、親孝行の第一歩と 教えられたものであるが、現代では、封建的、古くさいといって顧みられなく なった。その結果、規範意識は失われ、何をしてもいいのだという野放図な社 会が現出し、自分勝手な人々が社会を作り、価値規範のない、つまりコミュニ ケーションのはかれない社会となった。援助交際などは、親不孝の第一歩であ り、人間関係をとれない自己中心の行動にほかならない。
  更に、問題なのは、携帯電話の利用である。いつでも、どこでもダラダラと 携帯電話で話し、携帯電話を指で押してメールを流している。そうすると通信 費は嵩み、小遣いを圧迫することになる。確かに携帯電話は便利なものである が、その利用法をよく考えて、野放図にしないことが大事である。我慢するこ とを教えることも大事である。
  少年院で前から伝えられてきた「子供を非行化させるコツ教えます」は、今 も通用する内容である。こうすれば子供は非行に走るという10か条である。 こんな子育ては止めて欲しいとの願いが込められている。
  概要は、次のとおりである。
 @ 幼い時から冷たく放りっぱなしにせよ。
 A 欲しいと言ったら何でもすぐ買い与えよ。
 B 間違いや失敗は理由を問わずしかり飛ばせ。
 C どこで何をして遊ぼうが気にとめない。
 D よその子や兄弟と比較して、お前はバカだ、だれだれを見習え、を連発せ  よ。
 E 忙しいのに食卓のだんらんなど無駄である。
 F 善いことや努力をしてもめったにほめるな。
 G 子供の前では決して夫婦間の意見を一致させるな。
 H お金こそ人生のすべてと身をもって教え込め。
 I 子供の前で常に法律、警察、学校、役所の悪口を言い、社会の決まりや公  共機関への敵意を植えつけよ。
   以上のすべてを忘れても、いつも夫婦仲悪く暮らし憎しみ合い、できれば  不貞を働き大人のエゴをむき出しにすれば、非行化は効率よく進むと結んで  いる。
 「子供を非行化させるコツ教えます」は、逆説的表現であって、これらの逆を 行えば、子供が非行化しないということである。
[出典]
「よみうり寸評」(『読売新聞』2003年8月12日)
永峰好美「アジアの援助交際」(『読売新聞』2004年4月30日)
「18歳未満初の逮捕」(『産経新聞』2004年3月5日)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「都立女子高生に援助交際させる…女高生3人を  書類送検」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=601727)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「出会い系で援交持ちかけ、中3少女を家裁に書  類送致」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=694438)
YOMIURI ON-LINE「『紹介料』受け取り売春あっ旋、中3女子を書類送検」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20041005i303.htm)
YOMIURI ON-LINE「中学生の二女に売春させる、母親を逮捕…京都」(http://
  www.yomiuri.co.jp/national/news/20041012i403.htm)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[売春]知人の女子高生に強要、金脅し  取る少女2人逮捕」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  660136)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「買春:16歳の女子高生、あっせんで逮捕 静岡県  警」(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040422k0000
  e040045000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「新生児殺害:女子高生が出産直後に絞殺 静岡で逮  捕」(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040904k0000e
  040020000c.html)
MSN-Mainichi INTERACTIVE「買春:偽1万円札渡して元福祉施設職員逮捕 大阪  」(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20051022k0000m
  04088000c.html)
MSN ニュース、JIJI PRESS「友人だまし売春あっせん=女子高生3人、金も巻き  上げる−警視庁」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=601597)
MSN ニュース、夕刊フジ「中3同級生に売春強要、14歳少女を逮捕」(http:
  //news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=613045)
 
 
 
 
20 集団買春事件
  2003年9月16日日本の建築会社の慰安旅行で中国広東省珠海に行った 日本人団体男性観光客一行288人が、宿泊した高級ホテル珠海国際会議セン ター大酒店でコンパニオン役の女性派遣を求め、パーティーに参加させ、集団 で買春した。
  会社側は、事実関係を否定している。
  中国当局は、組織売春罪で中国人被告14人を逮捕、起訴した。
  12月12日中級人民法院(地裁)で初公判が開かれた。
  起訴状によれば、会社側がコンパニオン女性の派遣を要求し、世話役の中国 人男性がホテル内でナイトクラブを経営する女性に相談を持ちかけた。女性は、 市内各地のナイトクラブから計約300人を招集、パーティーに参加させた。
 パーティーでは、会社側が、女性を帯同して帰る場合の費用を説明、185人 の女性が売春行為を行った。収益は、女性の派遣料9万元(約135万円)、 売春行為代金約20万元(約300万円)の計29万元(約435万円)とな った。世話役、ナイトクラブ経営者が、それぞれ報酬をとった後、女性達に振 り分けられた。  
  12月17日中級人民法院は、中国人2被告に無期懲役、12被告に2〜1 5年の禁固を言い渡した。
  同日中国公安当局は、日本企業幹部3人に対し、組織買春容疑で逮捕状を取 り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、日本政府に捜査協力を要請した。
  中国人関係者を厳罰に処した以上、日本人を無罪放免にできないとの法律上 の原則のほか、日本側に厳正な態度で臨まない場合、10月末に西安市で起き た反日デモのような社会混乱を再び招きかねないとの判断があったといわれる。
  本事件は、満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年[昭和6年]9 月18日)の記念日直前という事情もあり、中国で対日批判が強まった。
  中国紙が、この事件を報じるとインターネット掲示板に約2万件に達する怒 りの感情的な発言が寄せられるなど波紋を広げた。
  この事件は、中国の民族感情を逆撫でし、反日感情を煽り、多くの中国人が、 中国を辱めるため、満州事変勃発記念日に合わせて集団セックス・プランが計 画されたと信じている。
  9月28日中国外交部の孔泉スポークマンは、「これは極めて悪質な違法案 件だ。中国側の関連部門が現在調査中であり、法に基づいて厳しく処分される ことになる」と説明、更に「外国人は中国訪問時、必ず中国の法律を守る必要 がある。日本政府がこういった面で国民への教育を強化することを望む」と強 調した。
  10月末に西安市で起きた反日デモとは、30日中国陜西省西北大学で日本 人留学生等が文化祭で演じた寸劇に反発した中国人学生多数が謝罪を求めるデ モ行進を行ったことである。デモは11月2日に終息した。
  日本人留学生3人と日本人教員1人の計4人が、29日夜、文化祭のパーテ ィーで赤いブラジャーを胸に着用した上、下腹部に紙コップをつけて踊りなが ら、ブラジャーの中から、紙屑を取り出して観衆にばらまいた。度を超した下 品さに西北大学の教員や学生が反発し、その場で踊りを止めさせたという。数 百人の学生が謝罪を求めて留学生宿舎前に押し掛け、市内をデモ行進した。留 学生宿舎の部屋に乱入した中国人学生学生に男女の日本人留学生2人が殴られ、 軽傷を負った。
  西北大学は、30日付で寸劇を演じた日本人教員を解雇し、日本人留学生3 人を退学処分にした。
  11月1日4人は、西北大学に対し、「軽率だった」とする反省文を提出し た。
  中国外交部は、在中国日本大使館に申し入れを行い、日本側が適切な措置を 取るよう要求した。また、今後こうした事件が発生しないよう、中国に留学す る日本人留学生が中国の法律や学校規則を順守するとともに、中国人の習俗・ 習慣を尊重するよう指導することを求めた。
  日中関係史研究者水谷尚子は、「留学生の悪ふざけは、日本で弁明の機会な く次々と糾弾される以前に、現地で鉄パイプやイスを手にした中国人暴徒から 『日本人狩り』という集団暴行を受け、西北大学から実名公開で退学処分を受 けたことを指摘したい。果たしてここまで過酷な仕打ちに値することだったの だろうか」と疑念を表し、「リハーサルを行っているのだから、大学側も場に そぐわないのならば前もって注意すべきだし、騒ぎになった後でも学生に悪意 がなかったことを述べる機会を与えるべきだった」と学生だけではなく、学校 側の手落ちを指摘し、「問題はわいせつをめぐる文化摩擦ではない。『中国を バカにしている』と受け取られたゆえに発火した反日ナショナリズムの根深さ こそが問題なのである」と分析している。
  寸劇も、冗談が冗談として通用しない世界もあることを理解することも大事 である。
  珠海集団買春、西安寸劇事件は、日本人を好色で下劣な民族と印象づけ、中 国人の民族感情を刺激し、問題を外交ルートに乗せるという点で共通のパター ンがある。
  2003年12月上旬にはトヨタの広告が問題になった。中国の自動車雑誌 「汽車之友」2003年12期(第168号)に掲載されたトヨタの広告の一 つは、山道を駆け抜けるトヨタ・ランドクルーザーの写真で、後ろに鉄鎖で牽 引される東風汽車製大型トラックの姿が見えているもので、もう一つは、路上 を走るプラダの写真で、路傍獅子像が右手を挙げて敬礼するような格好をして いる。キャッチコピーは、「尊敬すべきプラダ」である。
  同広告について一部読者から、「中国企業をおとしめ、中国人の民族感情を 逆なでするもの」とする抗議が上がり、ある読者は、獅子像は中国の民族的伝 統文化の重要なシンボルであり、自動車の下位にあるような姿で広告に利用す るのは不謹慎だ」と批判した。
  盛世長城国際広告公司の杜スポークスマンは、「伝統文化をおとしめる意図 はなかった。自動車を効果的に宣伝して売上げを伸ばすことだけを考えていた のであり、中国人消費者の感情を逆なでするつもりはなかった」と釈明した。
  12月4日トヨタ自動車は、中国の消費者に対し書面で公式に謝罪した。中 国製「ランドクルザー」「プラダ」の最新の広告2種が、読者に不快感をもた らしたことに対し、心から謝罪の意を表した。
  中国との付き合い方には、歴史上のことから現在のことまで微妙な問題があ って、中国人がバカにされたと感じたら、それが問題となり、日本側が謝ると いう構図になっている。これによって日本は自らを貶め、益々頭が上がらない ような構造に嵌りこみかけている。
  問題は、主観的な感情である以上、客観的に行動できない、つまり相手が納 得しない限り、問題はなくならないので説得が困難だということである。
  このことを十分理解した上で行動する必要がある。
  それであっても2004年7月31日中国重慶で開催されたサッカー・アジ アカップ、日本対ヨルダン戦が行われた重慶5輪スポーツセンター競技場で、 中国人観衆が反日感情むき出しの大ブーイングを日本選手に浴びせたようなこ ともある。理由は何であれ、反日感情が噴き出すこともある。中国政府は、2 008年北京五輪を控えてメディアや主催者を通じて節度ある応援を呼びかけ ているが、その効果は表れていない。
  こうした反日感情は、中国共産党政権自体が育ててきた。江沢民政権期の1 990年代から、過去の歴史を利用して徹底的な愛国主義教育を行い、日本に 対する民族的反感を増幅させてきた。当局は、統制された学校教育、マスコミ 等を通じて、旧日本軍の「罪状」を徹底的に宣伝、その視点で現代日本も批判 してきた。この結果、若い世代の反日感情は特に強いといわれる。更に、靖国 神社参拝、尖閣諸島を巡る問題に加え、昨年以降、集団買春事件、中国人女性 の裸体に料理を盛りつけた事件等、国民感情を刺激する事件が相次ぎ、反日の 機運が盛り上がっていた。情報、感情は、インターネットを通じて広い範囲で 共有されている。  
  8月3日中国済南で開催されたサッカー・アジアカップ準決勝戦、日本対バ ーレン戦では、中国政府が、暴徒鎮圧部隊を投入した厳しい警備に加え、北京 五輪を控えてイメージダウンを強く懸念したことから、状況は僅かに改善され た。
  中国を常に被害者と位置づける対日思考が恒常化し、愛国主義と反日行動が 結びつき、狭隘な民族感情に陥り、ささいなことでも民族問題に拡大させよう とする意識となっている。
  4日中国外交部の孔泉報道官は、「2004年サッカー・アジアカップは、 中国側が開催を引き受けた重要な国際試合だ。われわれは、中国代表チームと 日本代表チームが優れた試合で決勝に進んだことを嬉しい気持ちで見ており、 中日サッカーフアンが8月7日に優れたマナーですばらしい試合を観戦できる よう期待している。われわれが理解するところでは、日本チームに関係のある 4試合では、会場内外の全体の秩序は良好で、雰囲気は活発だった。誰もが知 る通り、国際的に重大なサッカーの試合では、少数のサッカーフアンによる過 激な行為が時折起こる。これはスポーツの精神と合致せず、われわれは決して 賛成しない。これと同時に、指摘する必要があるのは、一部の日本メディアが 少数の人々の行為を過度に報道したり誇張したり、ひいては政治と関係づけた りしていることで、これについてわれわれは遺憾を表明する」とコメントした。
  5日細田官房長官は、1日から3日にかけて首相官邸、外務省、財務省、警 察庁、防衛庁、海上保安庁、法務省入国管理局、公正取引委員会のサバーコン ピューターに大量のデータが送られ、ホームページへの接続が不良となる「サ イバー攻撃」があったことを明らかにした。データの発信元は不明という。デ ータ破壊など深刻な被害はなかった。
  内閣官房情報セキュリティー対策推進室によると、今回の件との関係は不明 だが、サッカー・アジアカップを巡り反日感情が高まっている中国国内のイン ターネット上の掲示板に、今月になって日本政府機関へのサイバー攻撃を促す 書き込みが確認されていたという。政府機関へのサイバー攻撃としては、20 00年1月中央省庁のサーバーコンピューターにハッカーが侵入し、ホームペ ージを書き換える事件があった。
  8月6日香港の中国系紙「文匯報」は、中国のハッカー(黒客)が1,90 0余人からなる組織を結成して、日本の靖国神社、官公庁及び台湾の官公庁等 約200か所のインターネットのホームページ(HP)を狙った大規模なサイ バー攻撃を始めたと報じた。今回のハッカー組織は、中国、台湾、香港、在外 華人等で構成され、侵入組、攻撃組、安全組、戦績統計組等の組織に分かれて いる。
  今回の大規模なサイバー攻撃の作戦名は、「中国黒客八一反撃戦」としてい る。同紙は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の日本領有に反対する中国の民間団 体「中国民間保釣(釣魚島防衛)連合会」のHPに先月25日に日本のハッカ ー(日本 HackerWilll)が侵入して、表紙改竄、内容削除、会員の資料が流失 したことに対する反撃としている。
  これは、かって1974年1月20日西沙群島の領有権で南ベトナムと対立 し、交戦したとき、自衛反撃として「西沙自衛反撃戦」と呼称し、1988年 3月14日ベトナムと南沙群島の領有権で対立し、交戦したときも、自衛のた め余儀なく交戦したと主張した。このように交戦を正当化する自衛反撃と称す るやり方は、今回の作戦名称と極めて類似している。常に自己を被害者の立場 に置き、被害者として正当な権利として反撃するという構えを取る。被害者だ から反撃するのは当然だ、何をしてもいいのだという考えであろう。
  「文匯報」の報道は、問うに落ちず語るに落ちる話である。
  7日アジアカップの決勝戦が北京の工人体育場で行われ、日本が3−1で中 国を破り、優勝した。中国当局は、1万人規模の警官を動員する厳戒態勢を敷 き、中国人観衆が試合前の君が代の演奏に大ブーイングを浴びせるという異様 な雰囲気のもとで始まった。試合終了後、中国人観衆の一部はスタンドに残り、 ブーイングを浴びせ続け、また、競技場の外では、数千人が居残り、叫び声を 上げた。一部は、日の丸を焼くなど警官と小競り合いになった。約千人の日本 人サポーターは、スタンドに足止めされ、試合終了約2時間後、中国の武装警 官が帰路の安全を確保するのを待った上で、日本大使館が用意した20台のバ スに分乗して、パトカーの先導で競技場を後にした。一方、日本公使の乗った 車が会場を去る際、後部座席の窓ガラスが割られた。日本大使館は、中国外務 省に抗議した。
  中国は、騒動が政治問題化したことについて、「遺憾の意」(中国外務省声 明)を表明し、日本に責任があると主張した。
  こうした反日の動きは、東アジア諸国において、近代国家の歴史が、日本へ の抵抗から始まったものであり、修正不可能な、いわば国是だと古田博司筑波 大学教授は言われる。東アジア諸国にとって、かっての日本への抵抗の歴史は、 そのまま民族や国家の誇りなのであり、それは神話さえ伴っている。北朝鮮で は、金日成の抗日パルチザンだけが日本軍と戦って勝ったことになっており、 これを「革命伝統」という。また、中国の反日武装闘争は、中国共産党政権の 正当性の礎である。瀋陽の日本総領事館事件における不可侵権の侵犯、北朝鮮 の国家的犯罪である拉致事件による人権の侵犯、そして中国の反日騒擾事件に おける行動の原因は、バッソ・オスティナート(執拗に繰返される低音)で、 ナショナリズムの問題であるという。韓国でも、親日派は売国奴や裏切り者の 代名詞となっており、民族主義者らによる対日協力者糾弾が行われてきたあ。 戦後の李承晩政権が反民族行為処罰法(1947年)で処罰に着手し、盧武鉉 政権は親日・反民族行為真相糾明特別法(2004年)を制定し、それを更に 改正して反民族行為真相糾明特別法(2004年)とし、歴史の真実と民族の 正統性を確認、社会正義の具現を目的としている。反日が正統性の主張となっ ている。
  かって中国は、民衆の不満、フラストレーションのはけ口として排外運動を 展開したように、現在も反日運動を政権の正統性維持のために使っている。い わゆる指桑罰槐何謂乎である。
  教訓は、自己の行動が、相手にどう受け取られるのかということを、事前に 慎重かつ十分に考慮することである。
  集団買春などは、醜悪な行為であり、すべきではない。勿論、買春も。
  外国で外国の法律に違反した場合、外国の法律で処罰される。また、帰国し ていた場合は、犯罪人引渡し条約があれば、それに基づき引渡される。
  買春の場合、中国の法律に該当する法律が日本にないため、引渡すことはな い(双罰性の原則)。ただし、相手が未成年者であれば、児童買春・ポルノ処 罰法の適用により引渡される可能性がある。しかし、それであっても、国際手 配されたため、中国領土等に入れば、逮捕される可能性が生じることから、将 来の外国旅行が制限されることになる。
  珠海集団買春事件があったにもかかわらず2004年5月末上海を訪れた日 本人団体観光客ら20人が集団買春で摘発され、うち2人が拘束され10月中 旬起訴された。2人は、日系企業の上海駐在員らで集団買春を仲介した罪を問 われたのである。今回中国紙は一切報道していない。摘発されたのは、添乗員 が紹介したナイトクラブを団体観光客が拒否し、別のクラブに行ったため、怒 った添乗員が警察に宿泊先等を通報したためらしい。まったく懲りない面々で ある。珠海集団買春事件を他山の石として、身を慎むという教訓もない。他人 の失敗を我が身のことと考えなければ、教訓にもならない。
  それにもかかわらず8月中旬大連を訪れた日本人団体観光客約20人が集団 買春容疑で取調べを受け、罰金を支払った。現地の旅行社3社が女性を斡旋し た。市当局は、事件を公表せず、報道管制を敷いている。まったく懲りない面 々である。珠海、上海集団買春事件を他山の石として、身を慎むという教訓も ない。他人の失敗を我が身のことと考えなければ、教訓にもならない。
  珠海集団買春、西安寸劇事件、トヨタ広告問題、アジア・カップ問題等は、
 一つのメッセージが、本来の一つのメッセージとして通用しない世界もあるこ とを理解することも大事である。曲解され、歪曲されることある。
  更に、誰にも批判できないことを殊更に言い募って、口実として隠された政 治的目的を達成するための手段として使われることがあるので用心する。
  いわゆる「江戸の敵を長崎で討つ」こともあるので用心する。
  今の中国社会には、公の場で日本をあからさまに侮辱する行為を許容する空 気がある。中国当局が、こうした状況を作り出している理由は、対日外交戦略 上、「歴史カード」が依然として有効だと見なしているからだという意見もあ る。中国側には、日本の過去を批判し、圧力をかけることで日本を牽制してい きたいとの思惑があるという。
  教訓は、危険予察能力を発揮し、十分な情勢判断をして、思わぬ口実に利用 されないように身を慎重に処する。
[出典]
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伊藤彰浩「西安の反日デモ拡大」(『読売新聞』2003年11月1日)
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伊藤彰浩「寸劇『軽率だった』」(『読売新聞』2003年11月1日)
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関泰晴「反日感情再燃を警戒」(『読売新聞』2003年12月14日)
浜本良一「反日感情に配慮」(『読売新聞』2003年12月18日)
伊藤彰浩「反日向き出し 中国で開催サッカー・アジア杯」(『読売新聞』20  04年8月3日)
竹腰雅彦「若い世代の日本批判 愛国教育で増幅側面も」(『読売新聞』200  4年8月3日)
藤野彰「『反日』甘えの構造」(『読売新聞』2004年8月6日)
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川島健司「日本中国破り連覇」(『読売新聞』2004年8月8日)
藤野彰「中国、日本側の責任主張」(『読売新聞』2004年8月8日)
古田博司「修正不可能な『国是』としての反日」(『読売新聞』2004年8月  18日)
福島恭二「『親日』糾弾で対立」(『読売新聞』2004年8月21日)
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水谷尚子「根深い反日主義こそ問題」(『産経新聞』2003年11月8日)
野口東秀「アジアサッカー ブーイング問題」(『産経新聞』2004年8月4  日)
「中央官庁にサイバー攻撃」(『産経新聞』2004年8月5日)
上村幸治「対立すべき時は対立を」(『毎日新聞』2005年1月5日)
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香港文匯報「両千黒客攻日台200網站」(http://www.wenweipo.com/news.
  phtml?news_id=CH0408060008&cat=002CH)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
21 人身売買
  日本は、国内外の人権保護団体等から人身売買の世界有数の市場と指摘され ている。人身売買は、市場規模9兆円と言われる風俗産業の一端を支え、国際 的な組織が介在しているともいわれる。
  米国務省が、2003年6月に発表した「人身売買報告」は、日本について 「対応が不十分で、被害者の取扱も不当」と指摘し、評価ランク真ん中に付け た。
  人身売買は、女性の人権を著しく侵害する犯罪であると同時に、それによっ て得た不法な収益が各種犯罪組織の資金源になっていることから、1990年 代後半、主要国首脳会議で取り上げられ、各国は、被害者の保護や斡旋業者の 厳重処罰を目指して法整備に取り組んでいる。
  2000年国連は、人身売買禁止議定書を採択し、その要件を、@暴力、脅 迫、詐欺等強制的手段を用いる、A(性的又は経済的な)搾取を目的とする、 B(国境を超えて)人の勧誘、送り出し、受け入れを行うと明記し、被害者に 対する保護と支援を各国に義務付けている。日本は、2002年議定書に署名 した。世界各国の動きは、加害者への制裁の厳罰化が進むと同時に被害者を売 春の犯罪者や不法滞在者として罰するのではなく、保護、支援するために立法 措置をとる国が増えている。
  従来、トラフィッキングは、麻薬や銃器等の不法取引を表す言葉だったが、 国境を超える人の移動が拡大するとともに、女性の人身売買の意味で使われる ようになった。例えば、トラフィッキング闇の人身取引ビジネスというように。
  ILO(国際労働機関)は、2001年強制労働や人身売買に対する各国の 認識を高める目的で、ILO理事会が「強制労働特別行動プログラム」を設け た。この行動計画に基づき、東欧等一部地域で人身売買の廃絶に向けた現地調 査を既に始めている。
  ILO駐日事務所は、2003年12月から外国人女性に多額の借金を負わ せて日本に送り込み、売春等の違法な風俗産業に従事させる人身売買の実態を 1年間かけて調査する。調査項目は、売春の強要・暴力の有無等強制労働の実 態、日本への斡旋ルート、ブローカーの介在の仕方や手口等である。性産業に 強制的に従事させられている現状や斡旋ルート等を被害女性本人から聞き取る。 人身売買は、被害者の大半が中南米や東南アジアの女性で、暴力団の資金源と なっている。
  東京の人権保護団体では、関東周辺のストリップ劇場等から逃げ出して来る
 タイ人やコロンビア人等の外国人女性を年間30人前後保護している。 
  これまでの人権保護団体の調査では、被害女性等は、斡旋組織の指示を受け、 欧州や南米を経由する複雑なルートをたどって入国し、ブローカーにパスポー トを取り上げられ、借金が数百万あるなどと言って、売春させられたり、スト リップ劇場に送り込まれるケースが目立つという。
  コロンビアの首都ポコダでエスティックの仕事をしていた女性(29歳)は、 斡旋組織のメンバーから「エステの仕事があるから」と言われ来日した。連れ て行かれたのは北関東の田舎町で、パスポートを取り上げられ、裸にされてビ デオ撮影され、「逃げるな。逃げたら故郷の家族を殺す」と脅された。指示さ れたのは、ストリップ劇場への出演、わずかな生活費を渡され、劇場内の宿泊 施設に軟禁され、斡旋費用等の名目で500万円の借金を背負わされ、売春も 強要された。断ると暴力を受けた。隙を見て逃げ出し、この人権保護団体に助 けを求めた。  
  この人権保護団体は、本国へ帰るまでの間、緊急の避難所(シェルター)と して生活支援を続けている。最近では、ウクライナ人等東欧の女性やタイから 連れてこられた13歳の少女を保護した。この少女は、親に売られて日本に入 国、神奈川県内で売春をさせられていた。少女が保護されたことが本国の斡旋 業者に分かると、親が危害を加えられる恐れもあるという。
  入国ルートも複雑である。コロンビア人女性の場合、ベネズエラ、オランダ を経由して入国、別のタイ人女性は、ブラジルを経由するなど、斡旋組織は、 各国の規制の網をすり抜けるようにして日本に送り込んでいる。
  在日コロンビア大使館に保護を求めた女性は、これまでに70人以上、タイ 大使館に至っては平均1日に1〜2件の駆け込みがあるという。
  暴力団犯罪に詳しい矢島正孝弁護士は、「人身売買は国内の性産業の利権支 配を目的に、暴力団が行っている組織犯罪だ」と話し、国際的な捜査協力の必 要性を指摘している。
  民間団体人身売買禁止ネットワークは、「日本では出入国管理法の不法就労 斡旋くらいしか適用する罪がなく、軽い判決しか出ない。重い刑罰を科せる『 人身売買禁止法』のような法律を制定しない限り、抑止力はないに等しい」と 新たな法規制を求めている。
  海外でもオークションサイトで競売が行われている現状がある。
  2004年3月12日米インターネット競売最大手のイーベイは、オークシ ョンサイトでベトナム人少女3人が売りに出されているのを発見したため、台 湾人と見られる売り手をサイトの利用停止処分にするとともに、この男性を台 湾当局に通報すると発表した。
  3月5日ベトナム系米国人人権団体が、問題の出品を発見し、イーベイに削 除を要求したことで事態が発覚した。出品の内容説明には、「ベトナムからの アイテム。台湾のみに送付可能」とだけ紹介され、詳しい説明はないが、少女 3人の写真5枚が掲載され、うち1人は白のシャツを着て化粧し、青いマニキ ュアを塗った黒髪の少女で、いずれも10代前半の様子であったという。
  オークションは、3月2日に開始され、入札開始額は18万台湾ドル(約6 0万3千円)であったという。
  米国務省は、これまでに、台湾が売春や強制労働のための人身売買拠点とな っていると指摘してきた。多くの被害者が、中国、タイ、カンボジア、ベトナ ム、インドネシア、フィリピンなどから台湾に送り込まれ、台湾を中継地とし て更に第三国に運ばれているという。
  5月20日東京入国管理局は、江戸川区にあるフィリピンパブを入管難民法 違反(資格外活動)容疑で立入調査をし、在留資格で認められた出演先以外で 働いていたフィリピン女性19人を強制収容した。
  日本の芸能プロモーターが、在留資格認定証明書に記載した出演先とは別の 場所でホステスをさせる「飛ばし」が横行していることから、東京入管は国際 的に問題となっている「トラフィッキング」として摘発に踏み切った。「飛ば し」の女性ばかり集めた店の摘発は初めてで、入管は店の経営者やプロモータ ーから事情聴取し、不法就労助長罪での告発も検討する。
  東京入管が2003年調査したところ、21の業者が、女性を認定証明書に 記載された店と違う店でホステスとして働かされていることがわかった。ホス テスは、客と同伴出勤や性的行為を強要され、言うことを聞かないと罰金を課 せられていたケースもあった。
  5月26日兵庫県警は、ホストクラブに借金のある少女2人を計100万円 で売買し、売春をさせたとして神戸市内のホストクラブ経営者(28歳)、大 阪市内の飲食店経営者(39歳)を児童買春・ポルノ処罰法違反(第8条児童 買春等目的人身売買等)容疑等で逮捕した。引渡金を実質上の売買代金と判断 し、同法第8条人身売買禁止規定の適用は初めてである。
  ホストクラブ経営者は、ホストクラブ代金400〜800万円が払えなくな った少女2人を飲食店経営者に100万円で引渡した。飲食店経営者は、「俺 はヤクザと知り合いだ」と脅し、2人をマンションに軟禁し、売春をさせてい た。少女は、マンションの出入りは自由だったが、日に1〜2回見張られ、「 逃げたら何をされるか怖かった」と話している。2人は約2か月間軟禁されて いた。県警は、逃げ出してきた少女2人を保護、既にホストクラブ関係者等3 人を児童福祉法違反違反容疑等でも逮捕している。
  6月14日米国務省は、人身売買に関する年次報告を発表した。同報告では、 日本がヤクザ等の本罪組織によってアジア、南米、東欧の女性、子供を強制労 働、性産業に従事させるための目的地となり、政府は十分な対応能力を備えて いるにもかかわらず、適切な処置を怠ってきたと厳しく指弾し、4段階評価の 下から2番目に悪い第二分類監視リストに掲載した。先進国で唯一要警戒国に 位置づけられた。
  同省ジョン・ミラー顧問は、買春等性犯罪に対する量刑が軽すぎるほか、警 察・検察の摘発に余り熱意が感じられないと述べ、セックス・ツアー等に参加 し、買春で逮捕されても、判決は比較的軽いと批判した。
  人権問題に敏感な米国が日本の取組みについて非難の矛先を向けているのは、 法律面の甘さで、同報告書は、「日本の法律では(人身売買事件の刑罰は)最 高でも10年の懲役か罰金刑。実際に科された懲罰はそれよりはるかに軽い」 と指摘している。更に、「被害者に対する精神的、財政的な支援も行われてい ない」と主張しており、日本に対する視線は厳しい。
  7月3日東京入国管理局は、国境を越えた女性の人売買取引を意味するトラ フィッキングへの対策強化の一環として興行ビザで来日した外国人女性の本格 的な追跡調査に乗り出すことを決めた。米国等の批判を踏まえて専従チームを 発足させて監視を強め、売春の強要等の悪質な行為を確認した場合は、プロモ ーターらの刑事告発等強い態度で臨むという。
  日本政府も法整備に向けて本腰を入れ始め、厳罰化の方向は明白である。
  社団法人「日本旅行業協会」(会員企業訳1千3百社)は、人身売買の防止 に向けて国連児童基金(ユニセフ)等が推進しているプロジェクトに参加する よう呼びかけることを決め、注意喚起を始めた。
  11月国際労働機関(ILO)が、日本国内の性風俗業界で行われている外 国人女性の人身売買の実態をまとめた特別報告書「日本における性的搾取目的 の人身売買」が作成され、「日本では人身売買の被害者が保護されずに、犯罪 者扱いされている」と、対策の不十分さを指摘し、しかも人身売買そのものを 処罰する法律がないため、他の法律で訴追されても刑罰が軽く、犯罪者の違法 利益もほとんど没収されないと分析し、日本政府に法整備を急ぐように求めて いる。
  11月24日政府は、人身売買に関する総合対策「人身取引対策行動計画」 の素案をまとめ、最終調整に入った。
  教訓は、こうした批判、事件の多発を放置しておくと、かっての従軍慰安婦 問題のように、今度は、日本が人身売買国家、奴隷制国家、性奴隷国家として 世界から糾弾される可能性があるということである。
  こうした問題は、被害国民からすれば、非常に微妙な問題であり、感情的に なる問題である。
  心してかからないと日本人が世界の人々から色餓鬼と見られ、信用を失い、 軽蔑されることになる。そして、こうしたことから厳罰化の方向が明白となり つつある。買春禁止!
 
[出典]
永峰好美「女性売買」(『読売新聞』2003年11月28日)
「『人身売買』容疑初適用」(『読売新聞』2004年5月27日)
伊藤俊行「日本米人身売買報告監視リストに」(『読売新聞』2004年6月1  5日)
J・アデルステイン「人身売買大国!?日本」(『読売新聞』2004年6月2  4日)
「『興行ビザ』厳しく監視」(『読売新聞』2004年7月4日)
永峰好美「人身売買防止」(『読売新聞』2004年10月22日)
月野美帆子「人身売買」(『読売新聞』2004年11月17日)
「被害者を犯罪者扱い」(『読売新聞』2004年11月19日)
J・アデルステイン「人身売買」(『読売新聞』2004年11月20日)
「国際的批判払しょく図る」(『読売新聞』2004年11月25日)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[ILO]人身売買調査を開始 外国人  の性産業強制従事」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  633209)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[ILO]『買春かストリップか』外国  人女性の人身売買」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  633210)
CNN.co.jp-ビジネス「ベトナム少女、米オークションサイトで競売に」(http:
  //cnn.co.jp/business/CNN200403140011.html)
CNN.co.jp-ワールド「日本を人身売買の監視対象国に 米国務省」(http://cnn.  co.jp/world/CNN200406150004.html)
YOMIURI ON-LINE 「比人ホステス『飛ばし』摘発…在留認定と別店で働かす」(
  http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20040521i401.htm)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
22 男と女の三面記事
  2004年3月18日千葉県船橋署は、女性のパンティーを担保に金を貸し た同僚男性Aを恐喝した疑いで派遣会社会社員B(21歳)と専門学校生C( 21歳 )を逮捕した。
  2002年秋Aが、同僚女性に現金6万円を貸した担保として、女性のパン ティーを受け取った。このことを聞きつけたBが、友人のCとともに、12月 30日午後7時過ぎAを公園に呼び出し、「女性に恥ずかしい思いをさせた慰 謝料をしはらえ」などと迫り、近くのコンビニで現金役60万円を引き出させ、 脅し取った。
  金を貸しても恥ずかしい手段を執って脅され大損したばかばかしい事件であ る。人の弱みに付け込む人柄の悪さが招いた愚行である。
  2004年4月2日彦根市のスーパー銭湯の女性脱衣場で、不審な行動をす る女性を(26歳)を、入浴客の女性(32歳)が取り押さえて彦根署に通報 した。不審者の持っていた籠の中に、穴の開いた箱に入れたビデオカメラがあ り、ビデオテープには女性客の脱衣姿が映っていたため、同署は不審者を建造 物侵入容疑の現行犯で逮捕した。更に、不審者が同僚からの依頼で盗撮したと 供述したため、同僚も同容疑で逮捕された。
  教訓は、恥ずべきこと、人柄の悪いこと、をしないことが大切である。
  出歯の亀さんが、偶々女風呂を覗いて捕まったため、後世まで「でばがめ」 =覗き見男の名を残した。西欧では、ピーピング・トムである。ある時、領主 の奥さんが領主に税金を安くするように頼んだところ、領主は、お前が裸にな って馬に乗って街の中を行けば税金を安くしようと言った。奥さんは、ではと いって、裸になって馬に乗って行った。街の人々は、奥さんに感謝して、裸を 覗かないようにしていたが、唯1人トムが覗き。そこから覗きやトムの悪名が 残ったのである。人のいやがる覗き見男を「でばがめ」、「ピーピング・トム 」と言うようになった。今や時代は、技術を利用したビデオ盗撮となり、怪し まれないように女が撮るようになった。いずれにしても、恥なことである。
[出典]
MSN ニュース、夕刊フジ「女性のパンティー担保に金貸した同僚を恐喝」(http  ://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=705457)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[銭湯女性脱衣場]男に頼まれ盗撮、女  逮捕 滋賀」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=719921)
 
 
 
 
23 電子メールの送信は慎重に
  2003年6月11日、北朝鮮貨客船「万景峰92」号の入港取り止め問題 で、第1管区海上保安本部の職員が、勤務時間中に職場の公用パソコンを使っ て、インターネットの掲示板に投稿した。1管本部は、国家公務員法の職務専 念義務違反の疑いがあるとして、職員に口頭で厳重に注意した。
  2003年7月3日警視庁は、同僚の女性関係を誹謗中傷する電子メールを 4から5月にかけて海上保安庁職員数十人に送信したとして、名誉棄損の疑い で、舞鶴海上保安部警備救難課長容疑者を逮捕した。
  2003年7月17日福岡県警は、インターネットの掲示板に中退した高校 の爆破予告をする文書の書き込みをしたとして、脅迫の疑いで、田川市内の高 校3年の少年を逮捕した。
  2003年8月1日京都府警は、元同僚女性に「殺す」等と1,152回も 繰り返し書いた電子メールを1回送ったとして、脅迫容疑で会社員を逮捕した。
  2003年8月5日山形県警は、インターネットの掲示板に「小学生を襲  う」などと小学校を脅したとして、脅迫の疑いで、大阪府東大阪の高校3年の 男子生徒(17歳)を逮捕した。
  2003年8月6日営団地下鉄は、半蔵門駅で苦情を訴えた乗客に「うるさ い」などと腹いせのショート・メールを送った駅員を、自宅謹慎とした。
  2003年8月18日岩手県警は、インターネットの掲示板に北上市の小学 生23名の殺害を予告する文書の書き込みをしたとして、脅迫の疑いで、紫波 郡内の中学2年の男子生徒を補導した。
  2003年11月18日JR東海は、東海道新幹線の男性運転手(42歳) を乗務中、私用のカメラ付き携帯電話を使って写真やメールを知人の女性に送 信したとして、社内処分にした。
 同社は、使用携帯電話について新幹線運転中は、電源を切り、鞄にしまうよう に指導し、掲示板で注意を呼びかけ、口頭でも指導している。
  知人の女性の夫が携帯電話の内容に気がつき、同社に抗議をしたことから発 覚した。
  2003年11月19日千葉県教委は、県立高校教頭(52歳)を女子生徒 の携帯電話に何度も「可愛い子猫ちゃん」などと迷惑メールを送ったとして、 停職1か月の処分にした。
  教頭は、6〜9月の間、2年生の女子生徒2人に「美しい乙女だから気をつ けなさい」等のメールを送りつけた。女子生徒から相談を受けた校長が6月1 8日止めるように注意したが、その後も続けていた。
  わずか期間でも、マスコミに取り上げられた電子メールを使った事件が、こ んなにもある。しかも、それは氷山の一角に過ぎない。電子メールは、便利で 匿名で、つい面白半分で、いたずら気分でしたとしても、多くの人々に迷惑を かけることになるので注意をする。
  2004年2月17日佐賀県警は、昨年末佐賀銀行のデマメールが出回った 事件で20歳代の女性を発信元と断定して信用棄損容疑で書類送検した。女性 は、「悪意はなかった」と供述し、県警も「犯意は認定できない」としている。
  女性は、12月25日未明、自宅で携帯電話を使い、「某友人によると26 日に佐賀銀行がつぶれるそうです」などという虚偽の電子メールを作成、友人 等26人に携帯電話に計28通を送信した。メールが次々に転送された。
  女性は、24日に知人から「佐賀銀行が26日につぶれる」と聞いたといい、 「友人等に教えなければと思ってメールを送った」という。自らもATMで数 万円を引き出していた。
  同行の告訴を受け、県警がメールの発信元を手操った結果、女性にたどり着 いた。
  同行によると、12月25日には、ATMから9万2千件、約180億円が 引き出された。
  2003年2月中旬、カナダ、バンクーバーにある環境保護団体に勤務する リン・ハンターが、鮭の寄生虫であるシーライスの問題に抗議して、養殖魚ボ イコットの通知を養殖業者に送りつけるよう呼びかける電子メールを2つのプ ライベートなメーリングリスト送った。これが即座に流出して養殖業者を激怒 させた。メールには、「養殖業者をいじめるのは楽しい。本当に楽しい」「私 って意地悪?」と書かれていた。これを見て「養殖への正しい理解を進める会 」会長は、「ハンター氏は、楽しいから養殖業者にいやがらせをするのだと、 自分の言葉ではっきり認めている」と述べ、業界をリードする専門家が、論争 に対する自分の意見をこれほど不用意に電子メールで送信したことに驚き、「 ハンター氏は自分が何を言っているのかわかっていない。我々のことも何も考 えていない。何一つ気にかけていないのだ。全く馬鹿にしている」とも言った。
 うっかり送信ボタンをクリックして痛い目にあったのは、ハンター氏だけでは ない。ピューリッツァー賞受賞者である「ニューズデー」紙のローリー・ギャ レット記者は、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムについて、感 情的な電子メールを書いたとして、厳しい視線にさらされている。
  コロンビア大学ジャーナリズム大学院のスリーナス・スリーニバサン準教授 によれば、こうした電子メールの流出は次第に増えており、業務上のメールは 特に危険だが、友達同士の気軽なやりとりであっても、メールを受け取った友 人や同僚が誰かに転送し、それが更に転送されるという形で流出していくこと が多いという。そこで、次のような原則を踏まえた方が無難だという。
  メールを書いたら、送信ボタンを押す前に、それが新聞の第一面に載ってい るのを想像しなさい。もし自分が、新聞の一面でその文章を読んだら不快だと 思うのであれば、どんな状況であれ、送信すべきではない。
  2004年6月1日佐世保市内の小学校で6年生の女子(11歳)が同級生 の女子(12歳)をカッターナイフで切りつけて死亡させた。動機は、「イン ターネット上で、自分のことについて書き込まれた内容が面白くなかった。い すに座らせて切った。殺すつもりだった」と供述した。インターネットの書き 込みを巡るトラブルが、事件の引金となった。
  こうしたことから神奈川県教委は、公立学校にインターネット利用時の注意 事項などをまとめた指導マニュアルを配布した。児童や生徒がインターネット を利用する際のマナー順守を徹底させる「情報モラル」強化の一環であるとい う。インターネット上だけの言葉のやり取りがもたらす人間関係の変化やパソ コン教育の進め方などが盛り込まれており、特に電子掲示板あんどの利用に関 し、@個人への悪口や暴言、セクハラ発言はルール違反、A失礼な発言になっ ていないか、慎重に読み直してから書き込む、B冗談が本気だと誤解されたり、 好意からの発言が相手を傷つけたりすることもある−ことなどに注意するよう 呼びかけている。
  教訓は、送る前に頭の中でフイルターをかけて一時の感情にまかせて送信ボ タンを押さないようにすることが大事である。これ以外に手はない。
  そして、それが第三者に配信されたら、どうなるかを慎重に予測し、考える ことである。
[出典]
「新幹線運転中写真メール」(『読売新聞』2003年11月18日)
「ネット利用時の指導マニュアル」(『読売新聞』2004年6月17日)
Yahoo!ニュース−共同通信「海上保安庁職員を厳重注意 万景峰問題、勤務中に  投稿」(file://A:\Yahoo!ニュース%20-%20社会%20-%20共同通信.htm)
Yahoo!ニュース−共同通信「名誉棄損で海保課長を逮捕 中傷の電子メール送る  」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030703-00000111-kyodo-soci)
Yahoo!ニュース−共同通信「メールに『殺す』1000回元同僚女性を脅迫男逮  捕」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030801-00000112-kyodo-
  soci)
Yahoo!ニュース−共同通信「ネット掲示板で小学校脅迫 大阪の高校3年生を逮  捕」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030805-00000103-kyodo-
  soci)
Yahoo!ニュース−読売新聞「小学生殺害をネット掲示板で予告、中2男子補導・  ・岩手」(file://A:\Yahoo!ニュース%20-%20社会%20-%20読売新聞社.htm)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[営団地下鉄]駅員、苦情乗客に『うる  さい』メール」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=564429)
MSNニュース、Mainichi INTERACTIVE 「[迷惑メール]女子生徒に『可愛い子猫  ちゃん』高校教頭停職に」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=
  630112)
MSNニュース、YOMIURI ON-LINE「『佐賀銀行つぶれる』デマメール発信の女を書  類送検」(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=685436)
YOMIURI ON-LINE 「書き込みでトラブル?補導女児『殺すつもりだった』」(
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news20040602it06.htm)
「『感情的な電子メール』の送信は慎重に」(http://www.hotwired.co.jp/news  /print/20030312202.html)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
24 データ流出事件
  1990年には、航空自衛隊のバッジ・システムに関する秘密事項を 含む 文書のコピー70枚以上が、フィリピンで売却されそうになった。文書は、シ ステム開発を担当したNECが、防衛庁の資料を基に作成したもので、フィリ ピンの犯罪組織に売り込みが図られたところを現地警察当局が押収した。
  1995年11月3日の読売テレビ1825のニュースで入間基地のフロッ ピーが民間に流出し、その杜撰な管理が厳しく指摘された。
  入間基地に勤務していた元自衛官が、退職後、在職中の職務内容(人事、特 技、配置等)を記録したフロッピーを中古業者に売り捌き、それが民間で話題 となり、ニュースに取り上げられたものであった。
  ニュース・コメンテーターは、自衛官のモラルの低さと秘密保全管理態勢の 悪さを厳しく糾弾した。パソコンは便利なものであるが、その記録媒体プロッ ピーは直接中身が見えないため、安易に取り扱われる可能性がある。そのため、 ディスク、フロッピー等の保管、保存には細心の注意が必要となる。また、廃 棄する場合も、中身を確認してから消滅させ、破壊する必要がある。
  2000年4月には、海上自衛隊の指揮管制支援プログラムの開発や陸上自 衛隊の業務システム・ソフト開発にオウム真理教の信者や同教団が運営するコ ンピューター・ソフト会社がかかわっていたことが発覚した。
  2002年11月4日神奈川県警捜査1課及び中原署は、システムを開発し た富士通にデータの買い取りを迫ったとして、インテリア会社会長小松正明、 会社役員奥茂治(元海上自衛官、沖縄隊友会副会長)、会社役員牧野信久、シ ステムエンジニア岸川隆久(元陸上自衛官)の4人を恐喝未遂の疑いで逮捕し、 会社や自宅などを捜索した。県警は、金目当てとの犯行と見て動機などを追及 している。4人は、「重要情報の海外流出を防ぐため、国益を守るため」で、 「恐喝未遂なんてとんでもない、告訴されて戸惑っている」、「簡単にデータ を持ち出せるような劣悪な職場環境を訴えたかった。金銭が目的ではない」と 容疑を否認しているという。
  岸川容疑者は、4次受作業員(勤務期間2001年夏から2002年3月ま で。)として富士通からデータを持ち出し、6月に小松容疑者等に提供した。  小松、奥、牧野容疑者の3人は、「これが外に漏れると会社にとってまずい ことになるのではないか」、「北朝鮮への流失をやめてやっている」などと言 って、6月28日から7月4日までの間に都内のホテルなどで4回、富士通の 担当者と接触し、データのコピーを示して買い取りを要求、更に電話でも2回 要求した。結局、富士通が応じず、未遂に終った。富士通は、8月6日県警に 告訴した。
  問題の情報データ通信システムは、全国の陸上・航空自衛隊の基地を結んで 情報を共有し、指揮命令系統の一本化などを図るもの。富士通の孫受け会社か らの依頼でシステム構築にかかわった岸川容疑者は、端末のコンピューターご とに割当てられたIPアドレスやシステムの経路図を自分のパソコンに入力し て、これを渡したのである。
  11月14日岸川容疑者は、「富士通から金を取れると思った」という供述 を始めたという。警察は、新たに岸川容疑者の知人会社役員道岡苦楽を逮捕し た。
  11月25日横浜地検は、小松、岸川両容疑者を恐喝未遂の罪で横浜地裁に 起訴し、奥、牧野の両容疑者を証拠上、金銭目的で共謀していたと認定できな いとして処分保留のまま釈放した。
  12月2日神奈川県警捜査1課及び中原署は、岸川容疑者をCD−ROM2 枚窃盗の容疑で横浜地検に追送検した。
  2003年4月17日横浜地裁は、岸川に懲役2年8月、小松、道岡に懲役 2年の実刑判決を言い渡した。
  2004年4月30日毎日新聞は、陸上自衛隊の内部資料や顔写真付き社員 住所録など、外部に出てはならない200種類を超えるデータがインターネッ トに相次いで流出、パソコンのファイル交換ソフト「Winny (ウィニー)」で 閲覧できる状態になっていることを報道した。いったん流出したデータの消去 は、現状では難しく、ウィニーのネットワークに、日々新データが蓄積される “秘密文書の保管庫”が放置されている格好だという。
  防衛庁によると陸上自衛隊の内部流出があったのは、2002年11月第1 普通科連隊重迫撃砲中隊(現在の第5中隊、東京都練馬区)の当時の幹部が自 宅でウィニーを使用して、誤ってパソコンに保存していたデータを流出させた。 データは、「教育訓練実施計画」、「第1中隊総員名簿」、「精神教育の書  式」等約10種類のファイルで、隊員の住所、性格、訓練スケジュール、駐屯 地人員、車両状況一覧等が記載され、印刷すると数百枚に及ぶという。防衛庁 は、2003年2月職場に私物のパソコンを持ち込んだとして、この幹部を職 務上の注意義務違反で減給15分の1、1か月の処分にした。更に、私有パソ コンの管理を徹底するよう通達も出した。
  その他にも愛知県の郵便局の局員の賃金表や誤配状況リスト等の内部資料、 公安調査庁の約600人分の自宅住所等を載せた職員名簿、東京のエステ会社 の約5万人分の顧客名簿、京都府警と北海道の捜査関係書類等々が流出し、ウ ィニー・ネットワークに蓄積され、コピーが続けられているという。
  ウィニーは、情報交換に便利な反面、ちょっとした操作上のミスや杜撰な管 理が原因で、瞬時にインターネットで情報が広がるリスクも大きい。
  2004年9月8日茨城県警警部補が、パチンコ店に寄ってから帰宅したと ころ、乗用車の後部座席下に置いたバッグから捜査資料が記録保存されたフロ ッピーディスクを挿入したままの私物のノートパソコンとデジタルカメラが盗 まれていることに気付いた。助手席のドアの鍵穴が壊されていた。
  教訓は、ディスク、フロッピー等の保管、保存には細心の注意が必要となる。 また、廃棄する場合も、中身を確認してから消滅させ、破壊する必要がある。
  特に私物のパソコンを仕事に使わない。仕事関係のパソコン、フロッピー・ ディスクを持ち歩かない。道草を食わない。放置しない。
[出典]
「オウムが開発にかかわる=海自の中枢指揮システム」(『共同ニュース』20  00年4月13日)
「防衛庁データ流出事件」(『読売新聞』2002年8月6日、11月5日、『  琉球新報』2002年8月7日)
「『富士通から金を取れると思った』データ流出で元自衛官」(『読売新聞』2  002年11月15日)
「防衛庁データ流出2人処分保留釈放」(『読売新聞』、『東京新聞』2002  年11月26日)
「防衛庁流出事件で元自衛官を追送検」(『読売新聞』2002年12月2日)
「防衛庁データ流出事件元自衛官等実刑判決」(『日本経済新聞』2003年4  月17日)
「ウィニー危険の連鎖」(『読売新聞』2004年5月11日)
「人気ソフトに危険なワナ」(『毎日新聞』2004年4月30日)
「秘密文書、流出止まらず」(『毎日新聞』2004年4月30日)
YOMIURI ON-LINE 「パチンコで寄り道の警官、捜査資料入りFDを盗まれる」(  http://www.yomiuri.co.jp/national/news20040909i404.htm)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
25 所変われば変態も罪となる事件
  所変われば罪も変わる。
  2001年10月アフリカ南部ザンビアの地方裁判所は、地元女性(22歳 )を相手に、口を使ったセックス行為(Oral Sex)を行ったとしてドイツ人の男 性観光客(65歳)に懲役6年と強制労働を科す判決を下した。
  判決理由で、同国の道徳法は、「不自然な性行為は禁じられている」とし、 「他の国で広まっていることも、ザンビアではおぞましい事とされるなら、観 光客であっても許されない」と主張している。地元女性は罰せられなかった。 ザンビアでは、2000年にもドイツ人男性が同性愛行為を働いたとして国外 追放処分となった。
  2001年11月14日エジプト国家治安裁判所は、同年5月ナイル川の船 上レストランで同性愛者セックス・パーティーに参加して逮捕された52人の うち23人に判決を下した。1人がイスラム教を侮辱した疑い等で懲役5年、 22人が1年から3年の実刑であった。エジプトの法律は、同性愛の禁止を明 記していないが、わいせつ罪や公衆道徳に反した罪などで刑罰の対象としてい る。
  2002年6月29日イタリア最高裁判所は、SMプレーを過度に要求され、 精神的、肉体的に苦痛を受けたと主張し、離婚を求めた女性の訴えを認め、サ ディズム、マゾヒズムの性的嗜好は離婚の正当な理由に相当するとの判断を示 した。判決では、夫は、妻のことをもっと考え、自分の好む性的ゲームへの参 加を強制すべきではなかったとしている。
  2004年3月22日ニューヨーク州検察は、買春目的でフィリピン、タク ィを回るセックス・ツアーを企画したとして米旅行代理店ビッグ・アップル・ オリエンタル・ツアーの経営者2人を起訴した。有罪となれば、最高で7年の 懲役が科せられるという。同社のカタログには、「独身男性のための楽園へ、 忘れられない冒険の旅を提供します」とのキャッチコピーが付き、費用は、7 −10日間で約2,500ドル(約26万円)という。
  買春ツアーは、犯罪である。
  2004年3月30日インターネット上で“レイプゲーム”に関するチャッ トで知り合った女性と女性宅で会う約束をし、誤って別の女性宅に押し入り、 そこの女性を襲った容疑で逮捕、起訴されていた男性マイケル・トッド・ハワ ードがサンディエゴ地裁で有罪を認めた。これで、被告は執行猶予付きの禁固 1年の刑が決まった。司法取引で有罪を認めたため、検察は、強姦未遂、監禁 未遂、不法薬物所持などの容疑を取り下げた。
  被告は、2003年9月チャットサイト「レイプフアンタジー」で、ある女 性と知り合い、会う約束を取付けた。しかし、誤って別人宅に押し入り、別の 25歳の女性を襲い、抵抗されて、別人であることを悟ったという。
  ゲームがゲームでなくなるとき、それは犯罪となる。
  英国では、クラブやバーで出会った相手に、催眠作用のある薬物を混ぜた酒 を飲ませてレイプする事件が多発している。
  こうした事情からブルームスベリー・イノベーションズ(本社ロンドン)は、
 酒に薬物が混入しているかどうかを簡単に判別できる小型キット「ドリンク探 偵」(クレジットカード大、1つ3.95ポンド〔約766円〕)を店頭、自 動販売機、インターネット上で販売開始した。
  薬物絡みの暴行・強姦事件を調べているルーフィー財団によれば、デートレ イプ事件被害の報告は年々増加し、被害者の多くは女性であるが、全体の15 %は男性である。しかし、薬物は服用後12時間以上経つと胎内から排泄され てしまうため、時間が経ちすぎていると薬物混入があったかどうか確認できな い。このため報告される被害は、氷山の一角に過ぎないとみられている。
  世の中いい人ばかりではない、バーで只酒を飲ましてくれると思ったら、薬 物が入っていて、飲み潰され、身ぐるみ剥がされれることになる。御用心!
  2005年1月17日英国ミドルセックス・ギルフォード刑事法院は、デー トレイプ薬として問題になっている睡眠薬をデート中に男性の飲物に混入し、 意識不明にしたところで現金や時計を奪ったとして起訴された女性セリーナ・ ラザックハッキ被告(37歳)に対し有罪とし、禁固5年を言い渡した。
  2004年4月21日ドイツの検察は、トランシュタインで8歳の少女をイ ンターネットで競売しようとしたとして、少女の母親(41歳)と知人の男(3 5歳)を人身売買未遂の容疑で逮捕、起訴した。競売開始額は、1ユーロ(約1 30円)であった。男は、オークションサイトに少女の写真を掲載、競売にか けた理由は、「オンラインオークションのシステムがどういうものなのか試し てみたかった」と胃っているという。オークションサイトの運営会社が、この 事実に気付き、削除するまでの3〜4時間で3件の入札あり、入札希望価格は、 25ユーロ50セント(約3,315円)まで上がったという。
  冗談が冗談で済まなくなったとき、それは犯罪となる。
  2004年9月9日米国メリーランド州ホイートンで警察官が、携帯電話の 話し声が大きいと注意したところ、話し中の女性は、その注意を無視し、大声 で警察官を罵倒し続けたため、逮捕した。警察は、その女性を公務執行妨害等 で起訴した。
  米国は、音にうるさい国であるから、警官が携帯電話の話し声にも注意する。 米国でさえ、警察官に反抗したら、こういう目に遭うということである。
  だからといって警官の権利が女性の権利よりも強いというわけではない。警 官の公務執行妨害罪は、江戸時代の「無礼討ち」と同じように警官の職務遂行 を保護する規定であって、必ずしも女性の権利が警官のそれよりも軽いという ことを定めた規定ではない。江戸時代の「無礼討ち」は、通俗的には、町人に 対する武士の無制約の特権と理解されているが、実際には、二つの条件を満た していなければ成立しなかった。すなわち、第一に町人の側が武士を侮辱する ような行為が明確に存在していること、第二に、それを目撃した第三者の立場 の証人が存在することであった。この二つが充足されていなければ「無礼討ち 」の特権も成立しなかった。武士が泥酔して通行中の町人を斬り殺せば、武士 であっても斬首刑に処せられるのである。「無礼討ち」特権は、武士の名誉を 保護する規定であって、必ずしも町人の生命が武士のそれよりも軽いという規 定ではなかった。
  制服を着ている者に対しては、それなりに敬意を表す方が良い。
  2005年9月インド西部ラジャスタン州ブシュカールのヒンズー寺院で挙 式をあげたイスラエル人カップルが、新郎新婦のキスを交わし、抱擁すると、 それを見たヒンズー僧侶が、堕落と感じ、わいせつ行為をしていると警察に通 報した。公の場でのキスがわいせつ行為とみなされ1,00ルピー(約2,5 00円)の罰金に処せられた。
  郷に入れば郷に従えで、世界はグローバル化しているといっても、国情の違 いがある以上、自分達の常識、価値観だけで行動すると現地住民の感情を逆撫 ですることもある。十分、事前に文化的差異についても理解しておくことが大 切である。無用な摩擦を起こさせないためにも必要である。
  教訓は、日本国内では罪にならないにしても外国では罪になることがある。
 所変われば品変わる。外国では、日本国内の延長線上で考え、行動しない。当 然、現地の法律、価値判断を遵守して、無用なトラブルに巻き込まれないよう に用心する。郷に入っては郷に従うことが大切である。
[出典]
笠谷和比古『江戸御留守居役 近世の外交官』(吉川弘文館、2000年)
CNN.co.jp-fringe「独人観光客に懲役6年『不自然な性行為』で」(http://cnn.  co.jp/2001/FRINGE/10/30/OralSexJailed.30/index.html)
CNN.co.jp-fringe「携帯電話、『大声で通話』と女性を逮捕、起訴と」(http:
  //cnn.co.jp/FRINGE/CNN200410010013.html)
CNN.co.jp「インドで外国人が挙式、御法度の『キス』して罰金刑に」(http://  cnn.co.jp/fringe/CNN200509220026.html)
CNN.co.jp-world 「同性愛者のパーティーで23人が実刑に エジプト」(http  ://cnn.co.jp/2001/WORLD/11/15/egypt.gay.trial/index.html)
CNN.co.jp-world 「SMプレーは正当な離婚の原因と裁定 伊裁判」(http://
  cnn.co.jp/top/k2002062101409.html)
CNN.co.jp-world 「8歳娘を競売にかけた独男女を逮捕、『1ユーロ』と」(
  http://cnn.co.jp/world/CNN200404230015.html)
CNN.co.jp-ワールド「『デートレイプ薬』を女性が男に金品奪い禁固5年」(
  http://cnn.co.jp/world/CNN200501180011.html)
CNN.co.jp-USA 「米旅行代理店、『セックスツアー』企画で起訴」(http://cnn.  co.jp/usa/CNN200403230013.html)
CNN.co.jp-USA 「『レイプゲーム』チャット事件、男、別人女性襲う」(http:
  //cnn.co.jp/usa/CNN200404020010.html)
CNN.co.jp-science 「薬混入ドリンク探知 デートレイプ防止に検査キット 英  国」(http://cnn.co.jp/science/CNN200404080016.html)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おわりに
 危険予察能力は、毎日の新聞、毎月の雑誌、本等を問題意識をもって読めば自ら育成することができる。
 問題は、問題意識をどうしたら持てるかということにある。問題意識を持つためには、少なくとも関心なり、興味をもって見ることから始まる。
 少なくとも他人事として関心も、興味も払わずでは、自己が事件に巻き込まれないように勉強しようともしないであろう。他人のドジは、他人がバカだからだ。自分は、偉いから学ぶ必要はないと勝手に思い込んでいるだけである。他人の失敗から学ぶ姿勢がないのである。それであれば、成長のしようがない。教訓も教訓にならないのである。
 謙虚に我が身を振り返って反省すれば、他人の失敗から多くのことを学び、自己の成長の糧にすることができる。
 だからこそ「他山の石、以て玉を攻(みが)く」(他の山の石でも、自分のもっている玉を磨くことができる。関係ない人の言行でも、自らを誡める材料となることが多い。)と言われるのである。
 要は、自ら学ぶという気持ち、意思、意識、認識が大切である。


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