参
曹丕が立ち去った後、まるで潮が引くかのように魏兵たちも立ち去っていった。 勝敗は蜀軍の勝ちといっても良いだろう。 魏軍が有していた拠点は、ほぼ蜀軍によって陥落した。 そして、今回の戦いは過去例を見ないほどにあっという間の終結を向かえ、かつ戦死者の 数もほとんど無いと言ってよかった。 「子龍・・・」 先ほどから、ずっと曹丕の立ち去った方向を見つめていた趙雲に、魏延は声をかける。 「すみません・・・本当なら、彼を討つべきなのは解っていますが・・・」 「かまわんだろう。今回の目的は城の陥落だ。敵総大将を討つことではない。」 どこかいたわるかのような魏延の言葉だった。 「お前の想い人ってのは・・・魏延じゃなく、アイツだったって訳か。」 馬超の言葉に、趙雲は少し寂しげに笑う。 「彼と出会ったのは、まだ殿に仕えるよりも前の事でした・・・」 すみません、嘘をついて・・・振り返る事もせず趙雲は小さく呟く。 「別に責めている訳じゃない。ただ、意外だっただけだ。」 そんな馬超の言葉に趙雲は「はい」とだけ答え、それ以上は何も答えようとはしなかった。 彼らに背を向けたまま、ただじっと曹丕が消えた方向を見つめ続けるだけ。 「今なら間に合う、奴と行け」 魏延の言葉に趙雲は小さく首を振った。 馬超達は普段からは考えられぬ魏延の姿に少し目を丸くした。 「行きません。」 「別に誰もお前を責めたりはしない。」 「行きません、そう決めたんです。」 振り返りもせずに言う趙雲に魏延は小さくため息を付く。 「後悔はしないと決めました。これが一番いいと思ったんです。彼のためにも・・・」 (強情だな) そう思うも、魏延は趙雲の気持ちを慮ってあえて何も言わない。 「なのに・・・」 ふいに趙雲がポツリと零す。 「?」 魏延は怪訝な顔で趙雲を見、微かに目を見開いた。 「・・・何故涙が止まらないんでしょうか・・・」 趙雲の双眸からは留まる事無く涙があふれ出ていた。 それでも必死で笑おうとする趙雲の頭を魏延はそっと抱く。 「泣きたい時には泣け。それが必要な時もある。」 「文長・・・」 そのまま魏延の胸にすがり付いて趙雲は・・・それでも声を殺して泣いた。 彼への思いを最期にするなどというのは嘘。 そう言う事で、曹丕が自分を忘れてくれれば良いと思った。 彼の為等と、そんなのは詭弁にすぎない。 ただ、結局自分が辛かっただけなのだ。 (愛しています・・・今も変わらず・・・貴方のことだけを思っています。) 趙雲は魏延の腕の中で、そっと空を見上げる。 既に日は傾き、空は茜色に染まっている。 彼もまた、この落日を見ているのだろうか。 ふとそう思った。 * 「曹丕様・・・」 何か物言いたげな司馬懿の視線に、曹丕は不快そうに彼をにらみつける。 「今回の敗戦は私の責です。諸葛亮の思惑に気付く事が出来なかった私の・・・ 申し訳ありません。処分はいかようにも・・・」 そう言って頭を下げる司馬懿を、曹丕は意外なものでも見るかのように見つめた。 「お前に責は無い。今回は私情に囚われすぎた我の責任だ。処分はせん。」 「しかし・・・」 「お前に咎は無いと言っているのだ。」 司馬懿は諦めたように息をつくと、そのまま頭を下げる。 「アイツとであったのは、今から十年以上も前の話だ。あの頃俺は、父に認めてもらえ ぬ事に苛立ち、決して自分を省みようともしない・・・そんな父を憎悪していた。」 司馬懿は語り始めた曹丕に目を丸くした。 「そして油断から敵に攻撃を受け、酷い傷を受け逃げ出した時に俺を助けたのがアイツ だった。」 遠くを見つめ、穏やかな瞳で語る曹丕に、司馬懿はこんな表情も出来る人だったのだと 初めて思う。 「アイツは言った。父は決して俺を認めていないわけではないと。愛されていると。に わかに信じがたかったが、数日振りに戻った俺を、父は大声で怒鳴りつけた。その時初 めて自分が父に愛されていた事を知った。」 「・・・」 「少なくともアイツに出会わなければ俺は死んでいた。そして、父の想いに気付く事も 無かった。そしてそれ以降、事あるごとにあいつの事を思い出す自分がいたのだ。」 「何故・・・」 「無理にでも連れ帰らなかった・・・か?」 司馬懿の疑問を感じたかのように曹丕は笑う。 「アイツが言ったのだ、もう最後にすると。」 「しかし彼は・・・」 「これでいい。子龍は、劉玄徳という男の元にいるからこそ、あれほどまでに輝いている のだ。俺はそんなアイツの輝きを奪うような真似はしたくない。」 司馬懿は思わず目を見開いた。 あの時、司馬懿の目から見て、少なくとも曹丕への思いを断ち切っているようには見えな かった。 そう言った感情には疎い司馬懿ですら、趙雲の心に気付いたというのに、彼は全くそれに 気付かなかったのか、と思い、それが先ほどの言葉で誤りであると言う事に気付く。 「曹丕様・・・」 「俺はアイツが幸せなら、それでいい。少なくとも俺の元では幸せにはなれない・・・」 そう言って曹丕は静かに空を見上げた。 まさに沈もうとしている太陽を微かに目を細めながらじっと見つめる。 彼もまた、この沈み行く落日を見ているのだろうか。 ふと、そう思った。 例えその運命が別たれようとも、その思いは決して変わらないまま・・・
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一応このシリーズ完結って所?ぴー様はやはり最後までヘタレでした・・・
これが他のサイトのカッコ良いぴーさまなら、きっと無理やり連れ帰ってくれるんだろうな・・・
二人で駆け落ちもいいかも・・・(をいっ)
っつーか丕趙じゃないじゃんこれっ。
二人とも別のキャラといい感じになってしまってる・・・
しかも会話すら無し。(今更気付いた)
と、とりあえず離れていても思いは同じって事で・・・(汗)