一、くのいちの憂鬱(クラップ加筆修正再録)




知らない世界に飛ばされたくのいちは、持ち前の明るさと順応性の早さで様々な戦火をかぎ取っては出没しておりました。

しかしみんな何かしら連みだしたのでちょっと疎外感。

またやっと見つけた稲姫は丁度兄と別れ別れになってしまった孫尚香を宥めるので手一杯で、結局声を掛けませんでした。

くのいちは暫くあっちへフラフラこっちへフラフラしておりましたが、ある城でなじみの顔を見つけると声を掛けてみました。

するとどうでしょう、「手伝え」と言ってくるではありませんか!


 こういうわけで孫策軍に帰陣したくのいちはもっぱら半蔵の所にいました。

そのころには和解して兄と共に行動していた孫尚香と稲姫も孫策軍に入っていたわけですが、


「稲ちんいわく、こっち来てから一緒に行動してたしね〜っていうんだけど・・・ちょぉっと寂しいかにゃん・・・。」


流石に戦ムソ2にでれなかったのが痛かったかにゃ、と普段あまりしょげた様子をみせないくのいちではありますが

今回に限っては半蔵でさえもちょっとかわいそうだな、と思っていました(四六時中拙者の側におるし・・なによりもちょっかい出してこぬとは、とのこと)。

またいつもの彼女ならかまってほしいと色々仕掛けてくるはずが、ただ黙って半蔵の側で武器の手入れをしたり技を教えて欲しいとしおらしく、

やれさて・・・と気には掛けますが半蔵はいつものとおり家康の側にいました。

因みに家康様は持ち前のたぬきさん具合というか、人当たりの良さで呉将からも信頼されていて今日も今日とて呉将に囲まれています。

特に呂蒙などは「呉は平均年齢が若く耐えることの大切さを知りません!家康殿から学ぶことがたくさんある!」と武将教育にとても熱心なほど。


そんなあるものすごく天気の良い昼下がり。

呉将もいるのでまぁ大丈夫だろう、と家康の側を離れた半蔵は根城にしている砦の上へやってきました。

そして、誰もいない楼台で頭巾と覆面を取り広大な城下を見下ろします。


「あらん、相変わらず髪の毛長いのねぇ〜。しかも綺麗〜。」


そこへふわっと髪を撫でる感触がしましたが半蔵は特に驚きもせず、まぁな、とだけ返してやれば、後ろにはくのいちがちょこんと立っていました。


「ありゃ?怒らないの〜?」

「怒られたいのか?お前は。」

「べっつに〜マゾじゃにゃいし〜。」


しかしくのいちは姿を消すことなく半蔵の隣に立つと外を見やりました。


「・・・・・・。」


やはり物寂しいのか。

主幸村とも離れ、他に仲間がいるわけでもない。

草の者達も多くがばらついているようで、そういえば虎之助もまた何処へいるのやら知れません。

そこで半蔵はそんな彼女の被っている大きな帽子の上から頭を撫でてやりました。

ただし、犬を撫でるかのように荒い仕草でちょっと彼女は狼狽してしまいます。


「にゃにゃにゃ!子ども扱いはやめてよ〜!」


後ろ姿は悲しげに細かったけども振り返ればいつもの彼女。

半蔵は微笑みます。


「そのようにしょげた顔をするのはわっぱの証拠。」

「半蔵!」


くわっと彼女は顔を上げました。

そして帽子を外します。


「あたしだって女なの!ガキ扱いされて嬉しい女なんかいるわけないでしょ!!」

「なんだ、女扱いしてほしいのか?」

「−え?」


とたん、半蔵の雰囲気が一転しました。

半蔵としてはその手をくのいちの両肩へ静かに置いているだけ。

しかし彼女がちょっと驚くとその手は肩をなでてきました。

そのまま、半蔵の右手は彼女の頬を滑り、顔の輪郭を撫でていきます。


「は・・・・はんぞう・・・?」

「・・・・くのいち。」


腰直撃の低音で呼ばれて思わずすくみ上がるくのいち!

しかし半蔵は手を離してしました。

ほっとしたような、がっかりしたような・・・・。


「ってなんなのよぉっ!」

「このくらいで怖がるようではまだまだわっぱ。」

「なんだと〜!」

「・・・フッ。」

「!」


半蔵が笑った!

とはいっても笑んだという程度。

そこへ半蔵の名を呼ぶ尚香と稲の声が聞こえてきました。


「半蔵、呼んでるよ。」

「うむ。」


半蔵は再び頭巾と覆面で顔を隠し、くのいちに背を向けます。

しかし、その背はふりかえって言いました。


「・・・来ないのか?」

「・・んっ?」


半蔵はそういって姿をかき消してしまいましたがくのいちには十分。

意気揚々と彼女もまた姿を消し、半蔵の後に続きました。


「・・・あとでとびっきりの情報、教えるからねん♪」


半蔵に追いついたらまずそう伝えよう。

そしてひとりぼっちになっている主の顔を思い出し、むふふ、と笑います。 くのいちの心はすっかり晴れていました。







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