見上げる月はいつもと変わらず

 星と夜空を見上げるだけでは

 いたって平穏である

 ただ変わるのは自分だけ

 それ以外は何も変わることなどないのだ



 我が戟は何のために振るうのか

 着ている意味のない甲冑も


 父母は泣いて死んではならないと言い

 妻は放心したように何も言わず

 ただ我が裾を握りしめ

 静かに涙していた



 なぜ此処にいるのか

 なにをしようとしているのか

 

 声を張り上げる将達の気迫は

 己の弱さをかき消そうとするが如く

 喧噪の中むなしく響く

 



 見上げる月はいつもと変わらず

 星と夜空を見上げるだけでは

 いたって平穏である

 ただ変わるのはそれらを見上げる人だけ

 それ以外は何も変わることなどないのだ




 −出撃前夜−