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 Deadway Thinking




 風を感じた。
 それ以外は何も無かった。
 見えない、聞こえない。
 瞬きをすることはできる。
 しかし、何も見えなかった。

 じわりと、自分がどうなっているのかを思い出す。
 倒れているはずだ、地に。
 だが手足は動かない。
 体中が悲鳴を上げ
 何かがすごい勢いで抜け出ようとする感覚がひしめいている。

 呼吸することは出来る。
 まだ生きているらしい。
 もうそう長くないだろうが。

 
「・・・へい、・・・幼平・・・・周幼平!!!」

 何かが俺を揺さぶり、耳元で名を怒鳴った。
 
 目を開けば、空が見えた。

 青い空で、いつも見ている色だった。

 「幼平・・・気がついたか・・・。」
 「・・・仲謀様・・・。」

 その青は、主の瞳だった。
 目に涙をあふれんばかりに湛えておられた。
 
 「・・泣いて・・・・いらっしゃるのですか・・・・。」
 「幼平・・・幼平・・・!!」

 身命を賭して守り続けてきた主は、涙を流して頭(かぶり)を振った。
 
 そうだ、戦場にあるのだ、自分は。
 そして、主を守った。

 身命を賭したのだ・・・。

 「幼平・・・しっかりしろ!いま助ける・・・・・・。」
 「貴方は・・・皇帝だ。俺の死を気にする必要は・・・無いのです。」
 「何を言う?!今度も助けてやる!」
 「・・・・・・今回は、無理です。」
 「気弱なことを申すでない!」
 「・・どうか・・・仲謀様・・・心に・・心に・・・・・。」
 
 のどの奥が、重い。
 
 「幼平!!!」

 主の、金切り声が聞こえた。

 喀血したら体の感覚すべてがよみがえった。 
 激痛と、あるはずなのに無いという喪失感が体を渦巻く。
  
 「・・・・・心に・・留めておいてください・・・・俺や・・・・死んだ者達があって・・国は成り立つのだと・・・。」
 「・・・・幼平・・・。」
 「・・・・・・・何度でも貴方を守れると思っていた・・・・・・これが・・最期だろう・・・。」
 「また救ってみせる、何度でもだ!!おまえがいなくては・・おまえがいなくては・・私は・・・。」
 「貴方を守り切れた・・・・。」
 
 しかし、貴方の側で涙を拭いて差し上げられないのが心残りだ。
 父君と兄君を無くし、年端もいかぬうちに王を名乗った我が主よ。
 
 「どうか・・・平穏が訪れたら・・・・俺のことを思い出してください・・・・・・。」
 「幼平、いやだ・・・逝かないでくれ・・・おまえまでいなくなってしまうのか・・・・?
 父上や兄上のところへ行ってしまうのか・・・?」
 「・・・・。」
 「皆・・・私を置いていってしまう・・・・。なぜ・・・・?」

 ぽつり、ぽつりと頬にしずくを感じた。
 青い空なのに雨が降りだしたのだ。
 仲謀様が濡れてしまわぬように、外套をかけて差し上げなくては。

 「・・・仲謀様・・・俺の・・外套をお使いください・・・・。」
 「へ・・・?」
 「雨が・・・降って参りました故・・・・。」
 「雨・・?何を言っているのだ?晴れているぞ?・・・空は青いぞ幼平!!」

 いや、雨は降っている。
 俺の頬は雨の雫を感じているのだ、まだ。
 ああ・・強くなってきたな・・・青い空から、雨が降っている。

 「強くなって参りました・・・仲謀様・・・・。」
 「幼平、幼平!!!」

 俺はいつまでも青い空の下にいます。
 時折降る雨で、貴方の悲しみを知るだろう。
 青い空から降る、涙の雫で・・・。