跡部奪還大作戦!〜俺様の美技は世界を魅了する2〜







18:26pm





インカムに落ち着いた訛りのキツイ声が飛び込んでくる。

『こっとは任務完了。がっくんがこの車に残ってバックアップを担当するで。俺は今から合流や。』

『連中はどうなったのだ、忍足。』

『地下にいた3人は今頃ぐっすり夢のなかです。』

『いいだろう。では計画を実行しろ、健闘を祈る。行ってよし!』

『・・・・・今丁度正面におんねん。どこにいるの?』






 
18:33pm





 (ったく・・・セキュリティはなにやってんだアーン?)

そのころ人の輪から少しだけ離れたところにあるドリンクコーナーに一人で居た跡部様は、左右にいる男と後ろにいる女が武器を帯びていることに気づいていた(インサイト)。

もちろん、自分を狙っているのかはたまた他の連中を狙っているのかまでは解らないですがそれでも跡部様にとっては好機。

瓶コーラを手にした跡部様は不敵に笑む。

そんな様子のターゲットを知ってかしらずか、側にいた金髪の女性が声を掛けてきた。

クラシカルに毛先を大きく巻いて、魅惑的な深紅の唇を持った女だった。



 「あ・・跡部・・・。」

単独行動を任された宍戸は跡部に合流するべく近づいていましたが、なぜか道中で引き留められなかなか先へ進めず、

というか英語が苦手なので何を言ってるのか半分も理解できなかったが「チャーミング」とか「ビューティー」とかならわかるわけで・・・。

(男にみえてねーのかよ・・・。作戦は成り立つけど複雑だよな・・・。てか跡部気づくのかよ)

とりあえずごまかすようにボーイから貰った瓶コーラを手に跡部へと向かっていた。



(・・・こいつもかよ、面白くなってきたぜ)

見えないところで銃を突きつけられているにも関わらず跡部は笑っていたが、しかし何だか周りがざわめいてきた。

周りと言っても視界にいる男達だ、皆一様に同じ方向を見ていてどうやら黒髪の女性を追っているようだ。

聞こえてくるささやきはCool beauty。

興味を持った跡部は後ろの女を気にもせずそちらの方へ歩き出し、女を驚かせた。


 「ったく・・なんだってんだよ・・・外人ってのはナンパだってほんとうなんだなぁ・・・。」

人混みを出てくると、変声期で甘やかなハスキーボイスを奏でる宍戸はポツリと呟いた。

しかしやっと出られると思ったところで誰かにぶつかってしまった。

「わっち!・・えーっとソーリ、ミスター。」

「・・・Don't Mantion it Lady・・・・あん?てめぇ、」

「跡部!」

「・・・宍戸か?にしちゃ声が・・・・なるほどな。」

跡部は屋上で会った忍足と岳人を思い出します。

そして自分で置かれた状況も。

「・・亮、」

「なんだよ粋なり!」

「小声、女言葉!」

「!!!・・・なに?・・・・景吾。」

流石に跡部君、とは呼べなかった。

宍戸は心の中でゲー、っと砂を吐きながら、そして自分の腰に手を回してきた跡部の手首をつかんだ。

「・・こい、亮。」

跡部はひそひそと耳元で話すとあえて、例の金髪女の方へとエスコートしてその柱の影で宍戸からインカムを受け取った。



「・・・俺だ。」

真っ先に返してきたのは忍足だった。

『柱の影でいやらしいことしたらあかんでぇ?』

「寝言は寝ていいやがれ。・・戦力は?」

『私服での戦闘に特化中。宍戸以外はフル装備や。暴れても監督がもみ消してくれるいうてな。』

「好都合だ。同業者の情報もあるんだろう、アーン?」

『勿論や、ガックンが4人地下でのした。残りは3人だけ確認できとる。』

「俺の側にいる三角形の取り巻きがそうだ。」

『え〜!じゃああの金髪の女の人もぉ〜?!』

きぃ〜ん!とインカムに慈郎の声が響く。

『いや〜信じられないC〜☆でもぉ、宍戸のほうが綺麗だよねぇ〜・・・エヘヘヘ〜☆』

「あん?・・・樺地、慈郎の様子が変だぞ。」

眉を顰めて跡部が話すと宍戸が心配そうに見上げてきました。

「なぁ・・ジロー様子変なのか?あのジローが?」

「・・宍戸、その声でしゃべるな・・・・。樺地、」

『ウス・・・どうやら・・ジュースとシャンパンを間違えたようです・・・・。』

「・・・使えそうならそのまま使え。」

『なんやぁ跡部、焼けることいいなや。』

「うるせぇ。それより俺の周りが厄介だ。武装しているし俺たちが暴れれば周りに被害が出る。後々面倒だからそれは避けたい。」

跡部はそのまま柱に寄りかかると宍戸を引き寄せ、その綺麗な黒髪をなで始め、宍戸は落ち着かず周りをキョロキョロしていた。

しかし目の前にいる女と少し離れた所にいる男は様子が変。

宍戸の野性的カンがそう告げていて、跡部に寄りかかるふりをして彼らの様子をうかがっていた。

どんな状況でも一応対応できるのが宍戸だ。





18:57pm





 「・・・これって・・・。」

岳人は一人バンの中にいたがその座り方といったら。

バンは広いので左側に機材があり、右側には装備品などのラック、奥手に座るところがありましたが彼は機材のモニターがよく見える所に

ふんぞり返って座って会場内をモニター中。

ただその左目には相変わらず小さなモニターが付いていて、そっちは会場の入り口が映し出されていて、彼の頭の安全ピンがはじけたと思えば

もの凄い早さでキーを叩きだし時折モニター操作用の機材に手を伸ばし、自分の思いどころを表示させていく。

するとどうだろう、彼は「ビンゴっ!」といい一度手を叩くとインカムのスイッチを入れた。





 
19:00pm





 「・・・黒のバンが3台で、サーモグラフィーには装備準備中の連中が写った・・・か。」

忍足は顎に指をかけ策略を巡らせます。

今彼は一人で、ドリンクを片手に会場内の一番外側をぐるっと一周したところです。

因みに樺地はラグで丸まっているジローのお守り中、鳳は顔見知りに引き留められていまは何処へ居るのやら。

「なんやろ、集団強盗でもかますんやろか。」

ひとまず忍足はそれぞれの装備品を思い出してみることにしました。


自分・・・ハンドガン2丁・アタックナイフ一本・スローインナイフ(投げナイフ)∞
ジロー・・ショットガン一丁・グローブ・鉄板入りのブーツ
樺地・・・ハンドガン一丁・ナイフ一本・スーツの上着に鉄板
鳳・・・・・ハンドガン・ショットガン各一丁・ナイフ∞
宍戸・・・ハンドガン・ナイフ・バトン×2


「・・あかん、宍戸は防弾着てへんわ・・。」

まぁ側にいる跡部がうまくしてくれるだろう、と忍足は思います。

ともあれ堂々とやってこられてはなまじ人が多いだけ面倒。

せめてターゲットである跡部だけでもどこか外へ・・・・・

「そうや、外や。跡部、聞こえとる?」

『・・・てめぇ独り言はインカムのスイッチ切るなりしろ。で、なんだ。』

「外のテラス出てくれへん?」

『丁度いい、出ろと言われてたんだ。』








 
19:09pm







 「亮、どうだ?丘の上から臨む摩天楼ってのは・・・。」

「はー・・・すっげぇ〜!!」


会場は丘の上にありそこから臨む摩天楼は眠らない。

天気も良く、スモッグもないキラキラの大都会をその黒い瞳に映して宍戸は跡部に微笑んだ。

二人とも後ろから銃を突きつけられているというのにこの余裕さ。

金髪の美女は不思議に思うもギャアギャア騒がれるよりはマシだと仲間に連絡しようとして、地下に行った連中が応答しなのをしると警戒を始めた。

他の二人を呼び、同業者が紛れていることを話す。

宍戸には勿論何を言っているのか解らなかったが、跡部には手に取るように解る。

地下へ行った連中が連絡を付け、このパーティーの間に跡部の関係者へ連絡するのと場所を変えるために車を回してくるはずだったのだ。

それが外にいる連中全員と連絡が取れないとなれば計画は成り立たない。


「・・・なぁ跡部、」

「あん?」

「なんで一人笑ってんだ?そんなに・・変かよ。」

「何が変だってんだ?」

「そりゃあ・・・。」


宍戸はちょっと紅い顔をして目を伏せる。

その手は短いスカートの裾にかかっていて、自分の姿のことを行って居るんだろうと跡部は笑う。


「おまっ!・・・・・そんなに笑うこと・・ねーじゃんよ。」


もう呆れて声も出ねぇ。

宍戸は手すりに寄りかかると外を向いてしまった。

ああ、真っ直ぐで嘘のないその眼差しがどんなに俺を貫くことか!

なんてな、とくさいこと考えた自分に乾いた笑いを向けつつ、そのベルベットのリボンがクールで愛らしい腰に腕を回してひっくり返す。

くるっ!と回された宍戸はちょっともたついて跡部の襟元をつかむ。

しかしそれもつかの間。

手はすぐに下ろしてしまったし、それでも自分の腰にある跡部の腕をどかそうとそちらへ手を掛けた。


「離せよ・・・・。」

「あのな宍戸。」

「・・・・。」

「変じゃねーよ。男に言うのもアレだが、よく似合ってる。」

「嬉しくねーよ、俺男だもん。」

「必要に応じて女装も出来るんだ、これを期に潜入捜査の方法でもマスターしとくんだな。」


潜入捜査。

なんて甘美な響きなんだろう!

戦隊物に幼い頃はあこがれ、いつかは自分も○○レンジャーとなって怪獣を倒すんだ!など誰だって思ったことがあるもの。

それが今、跡部を助けるために潜入捜査までしている!しかも絶対ばれないと太鼓判を押された女装だ!

それに自分の装備を思い出せ!!何があっても悪者を成敗できるではないかっ!

おまけにスカートであっても中は履いているから見える見えない気にする必要なし!(跡部は密かに残念がったが)


「よし跡部!大船に乗った気分でいろよなっ!!」


ニッコリ微笑んで振り向く可憐な少女。

とっても強気なことをいってるのにその容姿とのアンバランスさ!

跡部はいまここに忍足が居ないのを悔いた。

彼が居たら彼の肩をバシバシ叩きながら(忍足は瀕死になるが)のろけを思う存分言い聞かせてやるのに!(見かけは勿論ポーカーフェイスだったが)





19:26pm






 「うん・・・うんうん、そうそうそう、OK!で、あとは太郎(43)が送り込んでくるだろうデリーダー達にまかせりゃオッケーだろ?」

岳人はそのころ車の運転手とそのナビに話を付けていた。

場所は丁度ホテルの搬入口。

さっき見つけた黒いバンの一団に紛れ込んだのだ(同じ車種だったし)。

確認したところ、彼らは真っ黒い一式でフル装備。

頭もヘルメットを被っていて顔にはおそらく催涙弾用だろう、ガスマスクまで付けてる有様だ。

ということで岳人は同じような格好で紛れ込むことにした。

途中で合流してこっそり後から付いていくのだ。

「にっしっしっし・・・・向日岳人様の出番ってわけだなっ!」

彼はショットガンを手に、車を出ていった。





19:35pm





 テラスでは宍戸と跡部が景色を楽しんでいた。

宍戸は柄にもなく跡部の恋人役に徹していて、今は大人しくその肩にもたれている。

跡部は彼女をそっと支え、時折何やら囁いては二人で顔を見合わせていた。




というのはあくまでも端から見た見解であり、二人が話しているのはこれからの綿密な計画。

寄り添わないと宍戸にはインカムからの情報が聞こえないし、ようやっと抜け出してきた鳳の鳴き声はうざい。


「なくな、うぜぇぞ鳳。」

『○×△!!!!☆*◇+◎□!!!』

「日本語話せるようになってから文句いいな・・・忍足、」

『はいよぉ、がっくんから連絡あったで。これからは後釜さん達のことをまんま黒ずくめいうからな、聞き逃したらあかんで。』

「解った。・・・全員一旦散開何かあったら他の客を先に会場外へ出せ。お巡りが来ると面倒だから一気に片を付けるぞ。」

『了解や〜。で、黒ずくめと跡部達の側におるんは関係ありそうなんか?』

「そこまではわからねぇな。ジロー、」

『あいさー!』


楽しそうなジローの声は今が尋常な時間ではないことの現れ。

跡部はにやっと笑い、そっと宍戸の履いているスカートに手を滑らせるとその形のいい太股をなぞるように動かした。

「さて・・・特攻担当ジロー、鳳(えーっ?!という非難がましい声はスルーした)後衛樺地(ウス、と声がした)。忍足は遊軍だ、いいようにやってくれ。」

『ほいきた。』

「俺と宍戸はひとまず連中の側にいて様子をうかがうとしよう、岳人は?」

『がっくんは待機中や。』

「わかった。」


そこへタイミング良く外が賑やかになってくる。


「よし、全員行動を開始しろ。」


同時に武装して銃を構えた連中が会場に入ってくる。

溢れる悲鳴と慌て出す人々。

跡部は相変わらず宍戸を抱き寄せたままその大腿を撫でていたが、すぅっと上に上がる。


「・・・景吾・・・。」

「うん?・・・お楽しみの始まりだぜ、亮。」

「ん・・。」


甘い声を奏でる宍戸のそのスカートの下には、跡部が愛用しているリボルバー式のS&Wが内股のホルスターに収まっていた。








後編→



*リボルバー式のS&W・・・アメリカが誇る銃・ナイフメーカースミス&ウェッソン社製のリボルバー(6発の回転式弾倉銃)のこと。シルバーの重心に黒のラバーグリップで
                  跡部は腕力に物を言わせて9mmの強化弾を放つ短身スタイルを愛用。銃身が短いので反動は凄いだろうさ。カスタムメイド。