「・・・そっかー。」


芥川ジローは弱々しくほほえんだ。

何とかほほえんで、相手を安心させたいと思ったし、悲しい顔をしてはダメだと思ったからだ。

けど、口の端が引きつってるのが自分でも解る。

そんなの、そんな気ないのに。

笑顔を、つくらなくちゃ。


 もう、随分いなくなってしまった。

自分はまだあのときと同じ所に住んでいて、同じような毎日を過ごしている。

どこかしこで寝てしまうことは流石になくなったけど、けど今でも見知ったところでは変わらず眠ってしまう。


でも、それももう、やめようとおもう。

寂しい夢しか見なくなってしまった。

起きて、家路をたどれば決まって振り返り、見てしまう。



制服姿の、幼い自分と友人達。

あどけない笑顔、悪意のないいたずら。

つきない話題。

分かれ道で止まってしまう事はいつも。

一つの目標を追い掛けて、ただ真っ直ぐ。





Der Wuerfel ist gefallen.(賽は投げられた)





 「あーあ・・・・。」

もうちょっとこのままでいられるかと思ってたのに・・・神様は意地悪だ。

いつかは終わりが来る。

わかっているさ。

解っているけど・・・けど、振り返って残像ばかりを追い掛けてしまうんだ。

毎日がキラキラしていた。

激ダサな表現!って言われそうだけれども、本当にそうだったんだ。

前を見なくちゃ行けない。

前へいかなくちゃ。

でも、もうちょっとだけ。

だって、楽しかったんだもん。

色々やって、考えて、泣いて、怒って・・・・・。



 「はぁ・・・。」

空を見上げた。

もう夕方だよ。

今日は早く帰れるんだから、早く帰ろう。

そして、僕もこの町を出よう。

憧憬ばかりを追ってしまうから。

前を見たいし、同じくらい面白いことを見つけたい。

思い出ばかりを見ていたくないから。

先に待っているものまで曇ってしまう。

それに・・・心の中に仕舞っておきたいから。

でも、みんな大好きだよ・・・。


「うん・・・大好きだよ・・・・。」


 みんなも、僕と同じ思いを抱いていればいいのにな。

ジローは空を見上げた。

そして、今はいない仲間達の顔を思い出す。

それからあくびをしつつ、家へと歩き出した。




−END−