忍足侑士と向日岳人(クラップ加筆修正版)







 それはある日の昼休憩。

クラブでもパートナー同士であるこの二人はいつもの通り雑談に明け暮れていました。

ただその日は珍しく教室に留まり、岳人は忍足の前の席の椅子をぶんどって後ろ前に座って携帯を激しく動かしています。

忍足はまだ弁当をもぐもぐ噛んでいますが、岳人は指を止めてある写真を相方に見せようとしたところから話は始まります。



「・・・侑士〜これ見て〜あっ!」



ところが勢い余ってその携帯は持ち主の手をすり抜け、斜め後ろの席まで滑っていきました。

そこに座っていた彼女はあと10分で授業が始まることと、今日当たることになっている箇所があったので一人机に向かっていました。

そこへ足にこつんと当たった携帯。

向日が「待ったっ!!」という前に彼女はその携帯を手にしました。

開いたままの携帯を見てしまってカキン−☆と凍ってしまったのです。



 「あっちゃ〜!」

「なんや岳人、そないなモン撮ったんかいな?」

「いや〜俺の秘蔵なんだけど・・・・。」


彼女が見たもの。

それは茶金髪の生徒が黒髪の長い誰かを、おそらく後ろから振り向かせた拍子にフェイントでキスをしたところ。

それだけだとだた男女カプがキスしただけと思えるのですが、その黒髪の生徒は男子テニス部のユニフォーム姿。

そんなの、唯一人だけです。

彼女は復活すると向日に携帯を突っ返しました。


 「・・・ありがとな。」


ちょっと引きつった笑みでしたが向日は携帯を受け取ります。

ところが彼女は近くの椅子をたぐり寄せ、そこに座るといいました。


「・・・もっとあるのっ?!」


この瞬間、忍足と向日の心は安堵感が胸に吹き荒れ、向日はその後秘蔵写真の自慢ができる!と息巻いて他の写真の解説に入りました。


「え〜っとな、この写真は今日の朝練で撮った最新作なんだ!・・・俺の一押しは・・・これっ!」


そこへ出てきたのは宍戸が下ろした髪を掻き上げた瞬間。

ちょっと小首をかしげた仕草は、体育の時間グラウンドを走り回っている猛者とは思えない色香がありました。


「・・うわぁっ!綺麗!!でもよく撮ったねぇ・・。」

「がっくん写メのシャッター音、自作して全然関係ない音にしてん。」

「レンズもいじくったしな!お次はこれだー!!」


それは連撮したものでした。

一枚目は喧嘩してる二人(というか普通に蹴りとパンチが入ってる)。

二枚目は後ろ向いてる二人。

三枚目は背を向けてる跡部を伺うように振り返る宍戸。

四枚目は跡部の裾を引っ張る宍戸。


「この間10分くらいあったんじゃねーか?なぁ侑士ー。」

「せやなぁ〜。」


五枚目は腕を組んで宍戸を見下ろす跡部とふて腐れたようにそっぽを向く宍戸(もう向かい会ってる)。

六枚目は何かを訴えるように跡部の胸元をつかむ宍戸とまだ見下ろす跡部。


「こっからは本当の連写だぜっ!」


向日はそう言って一気に横キーを押しました。

すると写真はどんどん二人の顔が近づいていき、最後にはキスをするという見事な動画のようになったのです!


「いやぁ動画って短いだろ?こうやって撮ったぶん全部はいらねーからなー。」


ニカッと笑う岳人と「うわ〜。」とか「やるなぁ岳人」と感心する二人。


「・・・すごい希少価値的なチャンスなんじゃないの?こういうのって。」

「「え?」」


ここで向日と忍足は彼女に振り返りました。

彼女は「あれ?」と首をかしげます。


「ちゃうでー。あんな、こんなん日常茶飯事やねん。自分偏見とか跡部親衛隊とかとちゃうから言うけどな〜。」

「だぜ。まじホイップクリームだよなー。」

「いや、今日実習で使うたクリームなんや比べ者にならへん。蜂蜜に砂糖混ぜたようなもんや。」


向日と忍足は「げろー。」っと吐く仕草をします。

と、彼女は廊下から友達に呼ばれたので後ろ扉を行きました。

ちなみにそこからは斜め前に見える渡り廊下がよく見えますが、その柱の影。

長いお下げの後ろ姿が茶金髪の誰かに、上から覆われるようにして柱の影にいるのを見たのです。


「・・・私も向日君に携帯改造して貰おうかな。」


あの二人(向日と忍足)なら高く買ってくれそう。

というかあの自己顕示欲の強い跡部ならなおのことかも。

密やかにそんなことを思いつつ「お幸せにv」と、なま暖かい声援を心の中で送りました。




<数日後>




 シャッター音のデーターをもらった彼女は野暮用で外に出ていました。


「・・・こういうとき広い学校って嫌・・・。」


彼女はてくてくと校舎に向かって歩いていましたが、パコーン!という音になんとなくそっちのほうを見てみました。

ああ、テニスコートだわよ、と彼女は心の中で呟きます。

この前の向日じゃないけどせっかく携帯を弄ったのだしここいらで一つシャッターチャンスでも、と思う所ではありますが、

彼女の願いを知って知らずか、テニスコートの方から校舎への本線に入ってきたのは背の高い銀髪の生徒と宍戸。

やはりテニスウェアを着ています。


「・・・・・・・。」


彼女は目の前を横切っていった二人を目だけで追うと、10秒数えて後を追い掛けました。





 「へぇ〜、そんなことがあったんだ。」


昼休憩。

教室で弁当を広げている岳人、忍足は彼女から携帯を受け取り問題の写真を見ていました。

忍足がだし巻き卵をもぐもぐしながらいいます。


「シングルスとダブルスが何を抜けおるんやって思ったんやけどなぁ・・・鳳がねぇ〜。」

「だよな〜侑士〜。」

岳人は箸を銜えると、忍足から携帯を取りもう一度その写真を見ました。

そこにはロン毛の麗しい宍戸と銀髪の鳳という生徒が写っているわけですが、銀髪の彼は後ろから宍戸を抱きしめていたのです。


「もちろん声を上げそうになったけど右手で携帯、左手で口を押さえてシャッター切ったよ〜。」


朗らかに彼女は言いますが、突然フッと暗くなったので顔を上げてみればそこには腕を組み、不敵に笑った生徒会長の姿が。

思わず岳人は銜えていた箸を落としてしまう。


「・・・ほう?なかなかいい仕事してんじゃねーか、あん?」

「あ・・・跡部・・会長・・・・。」

「あんたもこいつらと同じ狢ってこたぁ同じ扱いでいいってことだろーな?」


跡部は彼女の携帯を学徒の手から抜き取るとまじまじと見つめます。

ベキッ!となんか嫌な音がしたのはあえてスルー。


「・・・。」


跡部は何かを呟くと彼女に携帯を返して教室を出て行ってしまいました。


「・・・・なんて呟いたんやろな。」

「気になるよなぁ。聞き取れたか?」

「うん。」


彼女は椅子に座ると二人の顔を見ながら言いました。


「特A装備だなって。」

「「!!!!!」」


忍足と岳人はそのまま全速力で、というかむしろ光の速さで出ていったのか全ての音を後に残して教室を出て行ってしまいました。

そして彼女がなんなんだろ、と一人で弁当の続きを食していれば階下からは轟音や銃声、生徒の悲鳴が聞こえてきたのです。

もちろん階下で何が起こっているなんて彼女には解るわけもありませんでしたが。



 その日の放課後。


「・・・・あ、宍戸亮。」

「よう、久しぶりじゃね?」

「クラス変わって以来かな。」


帰ろうと一人で校門に向かっていると途中で宍戸に会いました。

宍戸とは去年同じクラスだったのです。

彼は何故か髪を結んで居らず、無造作ヘヤーで風に靡かせていました。

制服姿なのにとても似合っています。


「宍戸って跡部と出来てるの?」


彼女はズバッと聞いてみました。

けれども宍戸は驚く風もなくただ脱力しながら「お前もかよ・・・・。」と言いました。


「で、特A装備って?」

「あ?ってことは・・・昼のはお前か?原因。」

「違うよ!跡部会長がそう呟いたんだって。」

「・・・・・・そかよ。」


そっか、こいつに見られてたのが跡部に流れたのか。

宍戸は昼の惨劇を思い出します。

あれのおかげで鳳のクラスは半壊、何人か病院へ搬送されたような気もするし跡部と鳳もほっぺたにガーゼを張っていたり煤けていたりしていたな。

ともあれ。

宍戸はポケットから紙を取り出すと、彼女とは逆の方へ歩きだしました。


「これ跡部から。・・・あんまいらないことすんなよな。」

「・・・・うん。」


なんだかよくわからないけど、これはなんだろう。

受け取った封筒を開けてみれば使っている携帯電話会社の優待券、しかも全額優待。


「・・・・始めて見るよ、こんなの。」


ともあれ、人の携帯を壊したとは自覚していたらしい。

帰りによって機種変しよvと彼女は再び歩き始めました。






−END−