橋上の焼死体

      赤い橋の上で 男は焼身自殺を遂げた
   冬空の晴天の下 男は自らの体に火を点けたのだ

   男は数年前から頭に変調をきたし
   精神病院に収容されていた
   その精神病院から北に500メートル離れた場所に
   赤い橋があった

   黒い煙を巻き上げ 燃え盛る炎に包まれながら
   男は大声を張り上げていた
   しかし、それは絶望の叫びではなかった
   体中炎に包まれていたが
   顔にはハッキリと至福の笑みを浮かべていた
   男は家族の名を叫んでいたのだ

    「妻よ! 今日は結婚記念日だね!
     息子よ! お父さんとキャッチボールするか!
    娘よ! 見ない間に大きくなったなー!
    今夜はみんなですき焼きだ!」

   男は在りし日の家族の幻覚を見ていた
   それはきっと楽しかった頃の
   家族の笑顔や団欒であったのだ

   男は膝を落とし倒れたが それでも
   命消える瞬間まで 家族の名を呼び続けていた
   冬空の晴天の下で