「ねぇ」

 

      ベッドサイドに腰掛けたマリューが唐突に言った。

 

     「今日、もしかしてお誕生日じゃないの?」

 

      誰の?

 

     「もちろん、あなたの」

 

      そう言われて初めて気が付いた。

      今日は11月の29日。俺様の28歳の誕生日であった。

 

 

 

          kiss kiss kiss

                Everlasting-EXV

 

 

 

      自分の誕生日を忘れてるなんて、どうかしてるとか言われそうだが、正直言って誕生日にい

     い思い出なんて持ってない。

      俺にとっては特別な日でも何でもなく、ただ単に365日の中の一日ってだけでしかない。

      けど、女たちにとっては大切な記念日のひとつのようで、過去、何かと欲しいものはないか

     とか訊かれ、押し付けがましく祝われてげんなりした憶えがある。

      そう、女ってやつはこういうイベントが大好きだ。

      そしてマリューも例外ではなかったようで、軽く小首を傾げるといった可愛らしい仕草で俺

     に問いかけてくる。

 

     「何かお祝いしてあげたいんだけど」

 

      そう言うのにベッドに横になったまま「いいよ」と手を振って返す。

 

     「第一、この状況じゃ騒ぐのも無理だろ?」

 

      そう付け加えると、マリューも「そうね」と少し淋しそうに頷いた。

 

      このところ連合もザフトもすっかり鳴りをひそめて、目立った行動を起こしてはいない。

      俺たちも今のところはデブリに紛れて身を潜めつつ、情報収集に努めてるってとこなんだが、

     これといった成果も出ていないらしい。

      ま、こちらとしても先の戦闘で俺は負傷し、ようやく動けるようにはなったものの、まだま

     だベッドでの療養が必要な身の上だし、クルーゼにやられたストライクはボロボロ。キラも外

     傷はないものの精神的に深いダメージを受けてるし、フリーダムもかなり傷ついちまってて、

     マードックのおっさんが「どえぇ〜」とかって、意味不明な叫びをあげてたくらいだから、こ

     の状況はありがたいといえばありがたいのだけど、なんだか不気味でもある。

      こんな状況なのだからして、いくら戦闘がない小康状態とはいえ、浮かれた騒ぎを起こして

     る場合じゃないだろう。

 

      だけど、そんなことは百も承知でよく判ってるくせに、それでもマリューは俺の誕生日を祝

     いたくて仕方がないらしい。

 

     「せめて何かプレゼントでもあげられればいいのだけど…」

 

      なぁーんてことを言うから「別にー」と言おうとしてイイコトを思いついた。

 

     「あぁ、じゃぁさ、俺のお願いきいてくれる?」

 

      身を起こしてベッドの端に腰掛けつつ、俺の言葉にぱぁっとした笑顔を浮かべるマリューを

     ちょいちょいと手を振って招くと、その耳元に唇を寄せ、こそこそと内緒話。

 

     「えええぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

      案の定、予想通り素っ頓狂な声をあげて一歩後ずさるマリューの反応に内心で満足しつつ、

 

     「ダメ?」

     「うぅ… でも、それは………」

     「ささやかーな願いなんだけど」

 

      可愛らしくも思い悩むマリューにトドメの一言。

      捨てられた子犬のように、如何にも傷ついてますーと哀れみをそそるように言うのがポイン

     トだ(笑)。

      これで落ちないマリューじゃない。

 

     「判りました」

 

      ふうとため息をつきつつ、マリューが困ったような表情で頷く。

      ぢつは俺はマリューのこんな表情を見るのが大好きだったりする。だから、つい、困らせる

     ようなことをしてしまうんだけどさ(苦笑)。

      ちなみに本人にこんなことを言おうものなら、迷わずぶん殴られる――マリューってば顔に

     似合わず結構過激だからな――のは判りきっているので言わないけど。

 

     「んじゃ、ささっ、遠慮なくどーぞ♪」

 

      満面の笑顔と共に促すと、マリューはまたまた俺の好きな困った表情で息をひとつ吐いた。

      そうしてゆっくりと俺に近づく。

 

     「今日一日だけですよ」

 

      そっと手を伸ばしてくるのに、

 

     「判ってるって」

 

      応えながら細い腰を抱き寄せると、マリューの両手が俺の肩に置かれ、少し朱に染まった頬

     が近づく。

 

     「恥ずかしいから見せびらかすのもナシですからね」

 

      照れを隠すためにわざとぶっきらぼうに綴られた言葉に「えぇ〜っ」と大げさに抗議の声を

     あげると、マリューはますますむくれてみせる。

 

     「ダメです」

     「俺としては目一杯見せ付けて自慢したいトコなんだけどな」

     「ダメったらダメです!」

 

      そんなこと言うんなら、してあげません。

      そう言って離れようとするから、慌てて腰を抱いた腕に力を込めて逃がさないようにしなが

     ら、ゴメンゴメンと謝ってみせる。

 

     「判った。しない。しないから、なっ?」

 

      一応(守るかどうかはこの際おいといて)約束すると、マリューは渋々といった表情で再び

     俺に顔を近づける。

      ほんのりと頬を朱に染めて、そっと目を閉じたマリューの貌が俺の肩口に埋められ、耳の下

     あたりに柔らかくて生温かいものが押し付けられる感触。

      くすぐったさが背中を駆け上がるうちに、今度は同じ場所にチリリと微かな痛み。

      その痛みの意味するところを察すれば、それは甘美な痺れとなって俺の心に染みていく。

 

     「こ…、こんなものでどうかしら?」

 

      先刻よりも顔を赤らめたマリューが、内心の動揺を隠しもせずに訊いてくるのを、俺はニコ

     ニコしながら見上げる。

      この胸は感激でいっぱいだ。

      元来、恥ずかしがり屋のマリューがここまでしてくれるなんて。

      あぁ、俺って愛されてるよなぁ。

 

      だけど、俺って奴は欲張りでどうしようもない困ったちゃん(マリュー談 苦笑)だから、

 

     「う〜ん、悪かないけど、そこじゃ俺からは見えないし…」

 

      なんて意地悪を言ってみる(笑)

 

     「えぇっ、でも―――」

     「どうせなら良く見えるトコにつけて欲しいなぁ」

 

      焦るマリューに相変わらずニコニコと意地悪い笑顔を向けながら、俺は露になったままの逞

     しい左胸――余談だが包帯グルグル木乃伊男に近い俺は、上体は素肌に包帯、その上に上着を

     ひっかけただけの格好だったりする−−を指でトントンと突付く。

 

     「ねっ。マリューさん。お願い♪」

 

      俺の言わんとしてることに気付いて、ますます顔を赤らめ、言葉を失ってしまったマリュー

     に、追い打ちとばかりに殊更可愛らしく(28にもなった大の男が可愛らしいも糞もあったも

     んじゃないが… 笑)おねだりしてみる俺。

      何かを言おうとして、でもやっぱり口を噤んだり、赤くなったり青くなったり、内心の葛藤

     と動揺も露に逡巡するマリューがまた、このうえなく可愛くて。

      本当はキスマークの位置なんてどうでもいいんだ。こんなに可愛いマリューを堪能できただ

     けでも俺は幸せなんだから。

 

     なんて思ってると、

 

     「…判りました」

 

      下を向いてしまったマリューから微かな声。

      ついで、すいとマリューが膝を折り、その赤錆色の頭が俺の視線より低くなる。

      予想外の展開に「え?」と思ってると、紅を引いた口唇が寄せられ、胸にチリリと、先程よ

     り少し強い痛みと背筋がゾクリと震えるほどの甘い痺れが残される。

 

     「こ、これでいいでしょっ?」

 

      そそくさと離れたマリューが、照れ隠しに言い捨てるのを聞きながら、俺は呆然と自分の胸

      に印されたソレを見詰めた。

 

     「今日だけですからねっ」

     「うん」

     「さっきも言ったけど、見せびらかすのは絶対になし!ですからねっ!!」

     「うん。判ってる」

 

      相も変わらず照れて、怒ったように話して背を向けてしまったマリューに頷き返しながら、

     俺の胸にはじわじわと嬉しさが広がっていく。

 

      ま〜さ〜か、ここまでやってくれるなんて!

      冗談から駒だったのに。

 

     「まりゅー、まりゅう♪」

 

      自然とにやけてくる表情をどうすることも出来ずに、俺は立ち上がって後ろからマリューを

     抱きしめた。

 

     「マリュー」

     「なぁに?」

 

     何度も名を呼ぶと、照れた笑顔が俺を振り返る。

     その頬に優しく口付けを落としながら、

 

     「俺、すっげー嬉しい♪」

 

      俺にしては珍しく素直に感情を言葉に現せば、「ばか」と可愛らしい囁きが零れる。

      ますます愛おしさが募ってきて、今度は柔らかな口唇に触れる。

 

      まずはそっと触れるだけ。

      それから徐々に深く、舌を絡めとって。

      抱きしめた腕を緩めて、まろやかなラインを辿れば、ごく自然にわななく肢体。

      もっと感じさせたくて、素肌に触れたくて、衣服を緩めていくと、うっとりとしていたマリ

     ューがはっと我に帰り、慌てて俺から離れようとする。

 

     「だっだめですっ」

     「えー、どして?」

 

      離れようともがくマリューに構わず、片手で彼女の腰をホールドしたまま、もう片方の手で

     器用に軍服を脱がし、項に顔を埋めて舐めあげると、ビクリと身体が跳ねた。

 

     「だめったらダメ」

     「えー、でも、マリューが欲しいんだもん」

     「だって傷に障るわ」

 

      あくまでも俺を気遣い抗うマリューに「大丈夫だって♪」と根拠のない自信で応えながら、

     俺は手を彼女の素肌のうえで躍らせる。

 

     「今日は誕生日なんだし、お願いきいてよ」

      「お願いなら、もう…っ」

 

      ちゃんと叶えてあげたじゃないですかと反論する口を自分のソレで塞いで、思う存分堪能し

     つつ、素肌をまさぐる手はそのままに、時折敏感に感じる部分を念入りに愛撫して。

 

     「それにさ、お願いってひとつだけ?」

 

      まだ抵抗を見せつつも、次第に力を失っていく肢体をベッドに押し倒しながら、

 

     「も…っ、ふたつも叶えてあげたでしょ…っ?」

     「えーっ、普通<みっつのお願い>っていうじゃない」

 

      すでに露になった上半身に舌を這わせつつ応えれば、頭の上で深く息を吐く気配。

 

     「……じゃあ、みっつめのお願いって何ですか?」

 

      そんなこと訊かなくても判りきってるだろうに。

      それでも敢えて訊いてくるマリューに、邪魔っけなスカートをすっかり取り払った俺は嬉々

     として応える。

 

     「もちろん。マリューさんが欲・し・い♪」

 

      わざと言葉を切って強調する俺に、マリューの口からまたまた深いため息が零れる。

      それを掬い取るように口唇を重ねて、観念したかのような舌を絡めとって官能を高めていく。

 

     「もう、仕方のないひと…」

 

      呆れたような甘い囁きを訊きながら、白く柔らかな胸の、俺と同じところに痕を印す。

      次第に高まる熱に打ち震える肢体を悦しみながら、俺はこれまでの認識を改めていた。

 

      こんな誕生日なら悪かない。

 

      そうさ。君が祝ってくれるのなら、それだけでスペシャルディ。

      来年も再来年も、こうして君に祝ってもらえるのなら、歳を重ねていくのも悪くないさ。

 

      煩わしい思い出さえもステキなものに変えていく君。

 

      愛する悦びと愛される幸せ。

 

 

 

      そんな事を感じながら、俺は首筋に絡みつく白い腕に応えるべく、深く身を沈めていった。

 

 

 

 

 

     ・追記

 

      『絶対に見せびらかさない。部屋で一日大人しくしてる』と約束したものの、そんな約束を

     守るつもりなんてこれっぽっちも持たないムウが、ふらふらと部屋を抜け出し、会う人ごとに

     胸のキスマークを見せつけ「マリューの胸にも同じものがお揃いなんだぜ♪」等と余計な事ま

     で言ってしまい、激昂したマリューに殴られるのは、また別のお話(笑)

 

 

 

                             お粗末さまでした(汗) 04/5/12UP

 

 

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