※DVD13巻のおかげで居ても立ってもいられなくなっちゃったので、

     も、徹夜覚悟で書いちゃうよん。

     …ってことで、間を全部飛ばして、いきなりラスト(苦笑)

 

 

     ☆猫被りマリュさんとお気楽バカ兄貴話

         兄貴速攻帰還編

 

 

 

     「帰って来る、って、言ったのに…」

 

      怖ろしいほどに静まり返ったブリッジに、マリューの絞り出すような、悲痛な呟きが零れる。

 

     「約束、した、のに…」

 

      キャプテンシートで俯き、悲嘆に暮れる彼女に、誰もかける言葉も持ちえず、ただ時が止まっ

     たかのように動く事すらできないまま。

      だが、状況はそのまま悲しみに沈む事を許してはくれなかった。

      まだ辛うじて生きている機器が様々な警告を発し、凍ったままの時を打ち砕いて動かしていく。

 

     「ドミニオン、なおも接近中!」

 

      職務を思い出したサイの警告に、悲しみに震えていた肩が止まり、うなだれていた頭が上げら

     れる。

 

     「なんですって」

 

      静かな、けれど迫力のこもった一言に、クルー一同が思わず艦長を振り仰ぐ。

      顔をあげたマリューの、その琥珀色の瞳は涙に濡れたままであったが、奥には思わず背筋が凍

     りそうになるほど剣呑な光が宿っていた。

 

     「まだやるって言うのっ!」

 

      だん!と、握り締めた拳でシートの肘掛を叩くや、彼女は強い口調で反撃を指示する。

 

     「ゴットフリート照準! 目標、ドミニオン・ローエングリン一番砲発射管」

     「えっ、ローエングリンじゃないんですか?」

 

      意外な指示に思わずCICのトノムラが聞き返す。

     本来なら反問などもってのほかだが、既に軍組織ではないし、もともとAAにはそういうこと

     が許される傾向にある。故に通常ならトノムラの行為もさほど咎められる事もないのだが、今日

     ばかりはマリューは反問を許さなかった。

 

     「いいからっ、主砲を撃ちなさいっっ。ドミニオンの特装砲を潰すのよっ」

 

      厳しい口調でびしりと言い放つマリューの迫力は並みではなく、トノムラはひえぇと情けない

     声をあげてコンソールに張り付き、照準を操る。

 

     「外したら容赦しないからねっ」

 

      その背に追い打ちをかけるかのような厳しい声。

      再びひえぇ〜と情けない悲鳴を上げながらも、しっかり照準を定めた主砲は、見事にドミニオ

     ンの右舷を撃ち抜き、先刻、AAを襲った特装砲を沈黙させた。

 

      そしてマリューは更に続けて、

 

     「生きている全砲門開け! ドミニオンの武装を全部沈黙させるのよ」

 

      等と無茶な命令を下す。

 

     「ひえぇっ、そんな無茶な」

     「無茶でも何でもやるのっ!」

     「ひょええぇ〜」

     「ドミニオンを丸腰にしちゃうのよっ。出来るわねっ?!」

     「艦長ぉ、そんなの無理です〜」

     「反論は認めませんっっ」

 

      やるったらやるのよっ!

 

      しっかり艦長の気迫におされたCICの面々はあたふたと動き、滂沱しながらも命令遂行のた

     めの努力を始めた。

 

     「しかし、艦長っ!」

 

     代って声をあげたのは操舵士のノイマン。

 

     「こちらもローエングリンで一気に片をつけた方が―――」

 

      彼とて、ほのかに心を寄せるナタルが指揮を執っているドミニオンを落とすのは忍びなく思っ

     ている事は否めないが、戦局と自艦の安全を考えれば、一気に沈める事の方が理に適っているは

     ずだ。それは艦長もよく判っているはずの、当然の提案なのだが。

      すべての言葉を言い切る前に返ってきたこたえは、

 

     「却下!」

 

      にべもない一言。

 

     「艦長ぉっ!」

     「却下ったら却下! いいこと、ブリッジは無傷で残すのよっ」

     「しかしっ」

     「ノイマンくんは黙ってなさいっっ」

 

      しつこく食い下がる操舵士を一喝して黙らせるや、マリューは口元に不適な笑みを浮かべる。

 

     「ふふふふふ… 一発で沈めるような生易しいことなんてするもんですか」

 

      その異様なまでの迫力と怖ろしい声音に、通信席の学生ふたりは縮み上がり、CICからは再

     び「ひょええぇえ〜」と情けない声が上がる。そして反論を封じられたノイマン操舵士は顔面を

     蒼白にしながら席に着きなおし、今後、金輪際艦長に逆らうのは止めようなどと思いつつ、操縦

     桿を握り締める。

 

     「だいたいね。ナタルなら脱出中の救命艇を巻き込んでまでローエングリンを発射するような卑

     怯な真似はしないわ。そんな娘じゃないもの」

 

      確か自分と2歳しか違わない筈のかつての副官を「娘」呼ばわりしつつ、その人為りを的確に

     評したあと、

 

     「あれは間違いなく、あのいけすかないブルコスの盟主・ムルタの野郎の仕業に決まってるんだ

     からっ!」

 

      断言したあと更に続けて、

 

     「絶対に許さないんだからっ。絶対に一瞬で楽になんてしてやらないっ。この手で思う存分嬲っ

     てやらなきゃ気が済まない!」

 

     えぇ、そりゃもう、生きていたことを後悔するくらいにはねっ!

 

     普段の姿からは想像もつかないほど剣呑な光を湛えた瞳を爛々と輝かせつつ、怖ろしい決意を

     口にする艦長に、ブリッジの恐怖と緊張は最高潮に達する。

 

     「あたしからムウを奪っておいて、楽に死ねると思う方が間違いなのよっっ!」

 

     あぁ、艦長!

     それはまさしく復讐を誓うお言葉。まるで悪役の台詞のように聞こえるのはこの際置いとくと

     しても、その決意も当然とは思いますけれど。

     しかし、しかしですよ。そんな事をしたら「憎しみの連鎖を断ち切る」とかという、この戦い

     の意義っつーものを思いっきりブッちぎっちゃったりしてないんでしょうか?!

 

     ブリッジの誰しもがそう思ったが、とても口にはできなかった。

     そんなことを具申しようものなら、アズラエルより先に殺されかねない。

 

     神様、仏様、誰でもいい。艦長を止めてくださいっ。

 

     そんなブリッジクルーの切実な願いが天に届いたのか、

 

     「なぁに怖ろしい事言ってんだよ」

 

      ブリッジ後方、エレベーターのあたりから、聞き慣れた声が響いてきた。

      一同が驚きと共に振り返った、その先に立っていたのは…

 

     「そんなことしても何にもならないだろ?」

 

      相変わらず呑気に言いながら、よぉっと手を振るその男は。

 

     「ムウっ?!」

 

      思わずマリューが艦長席から立ち上がる。

      そこにいたのは、見まごう筈もなく、先程AAを庇ってローエングリンを受け止め、華々しく

     戦死したと思われたムウ・ラ・フラガその人であった。

 

     「そんな、まさか…」

 

      わなわなと、先刻とは正反対の理由で身体を震わせるマリューと、クルーたちの視線が下へと

     移っていくのを見て、ムウは「あはは…」とまたしても呑気に笑ってみせた。

 

     「大丈夫。ちゃんと足はあるよ」

 

      幽霊なんかじゃないから。

 

      言いながら近づくムウのパイロットスーツはボロボロで、あちこち煤けていたし、以前の傷が

     開いたのか、右脇腹には血が滲んでいたりしたけれど、でも、足取りはしっかりしていて、程な

     く立ち尽くしたままのマリューの前に辿り着く。

 

     「ホント、ホントに…?」

     「ほら、ちゃんと生きてますって」

 

      疑い深いなぁ。

      そう苦笑しながら、ムウはマリューへ手を伸ばし、涙が伝う頬へ触れた。確かな実体と温もり

     とを感じながら、でも、まだ、信じられない。

 

     「でも、ストライクは…」

     「やだなぁ、ストライクが爆散するまで何秒あったと思ってるの?」

 

      何時までも残ってるわけないっしょ?

 

     「速攻で脱出装置作動させていただきましたよん。爆風に飛ばされちまったけど、うまくAAに

     ひっかかってラッキーだったぜ」

 

      やっぱ俺って不可能を可能する男だったんだなぁ。

 

      笑いながらウィンクなどしてみせるムウ。

     いかにもこの男らしい仕草に、驚きのまま固まっていたブリッジの雰囲気も解けていく。

     そして、ようやくに愛しい恋人の生存を実感し始めたマリューの大きな瞳から、ぼろぼろと大

     粒の涙が零れ始める。

 

     「うわぁーん、ムウぅ」

     「あ、お、おい…」

 

      素のマリューが泣き虫だってことは知っているムウだったが、こんな風に人前で泣かれるのは

     初めてで、思わず慌てる。

 

     「あぁ、ごめん。心配かけて悪かったよ」

 

      おろおろと慰めようと肩に手をかけるムウと、人目も憚らず小さな子供のように大泣きするマ

     リュー。

      このまま熱い抱擁とキスになだれ込みだー!

      ブリッジの誰しもがそう思った時、

 

     どか、ぼすっ!

 

      派手な音と共にムウの身体が吹き飛び、宙に舞った。

      惚れ惚れするほど見事なフォームの一発でムウを殴り飛ばしたマリューは、正面のウィンドウ

     にぶつかって反動で戻ってきたところへ、今度はエルボードロップを決めて、床へ叩きつける。

      意外な出来事に、再び見事に固まってしまうブリッジ一同。

 

     「な、何すんだよ、マリュー」

 

      恋人のあまりな仕打ちに、腫れあがった頬を押さえつつ抗議すれば、

 

     「もうっ、ムウったら無茶するんだからっ! 寿命が何年縮まったと思ってるのよぉっ」

     「いや、だから」

     「必ず帰るなんて約束しといて、守る気なんかなかったんでしょ。酷い、酷いわっ」

     「そーじゃなくて」

 

      状況を顧みず、突然痴話喧嘩を始めてしまったふたりを、あんぐりと口を開けたまま、ただ呆

     然と見守るしかできないブリッジクルーたち。

 

     「嘘つき〜」

     「あぁ、だから、帰ってくる自信はあったんだってば」

     「嘘よ。いくらムウでもローエングリン喰らって無事な筈ないもの。何にも考えずに飛び出した

     に決まってるわ!」

     「勝算はあったって!」

     「嘘よっ」

     「嘘じゃないよ。敵さんのローエングリンも100%チャージされてたわけじゃなかったし、マ

     リューがストライクとシールドの強度を格段に上げてくれてたから、ちゃんと逃げれると思って

     やったんだからさ」

     「そんなこと言って、ホントは何も考えてなかったんでしょっ」

     「そんな事ないって。俺がマリュー遺して逝くわけないじゃん」

     「あぁっ、それでも、もしも防げなかったらどーするつもりだったのよぉっ」

     「大丈夫だって。マリューの愛が護ってくれるって信じてたからさ」

     「もぉっ、ばかばかばかばかばかばか、ムウのばかぁ〜っ!」

     「ああ、俺がバカなのは良く判ったからさぁ。いい加減許してくれよぉ」

     「ばかばかばかばかばかばかぁ〜っ」

     「マリュー、ごめんよぉ」

 

      バカバカと罵りつつ、泣きながらぼかすかと殴りつけるマリューと、容赦ない拳を時に交わし

     つつ、なんとか泣き止ませようと慌てるムウ。その姿はある意味、情けないといえない事もない

     のだが、泣くマリューに勝てるものなどいないのだから仕方ない。

 

     「俺が悪かった。もう2度としないから、許してくれよぉ」

     「いぃーやぁーあぁーーーっ!」

     「まりゅー」

 

      延々と続く痴話喧嘩。

      この頃になると、唖然呆然としていたクルーたちもようやく我に帰り、眼前の場を弁えない光

     景に深いため息なんぞ出てくる。

 

      やがて、放っておくと何時までも続きかねない痴話喧嘩を止めるべく、意を決したノイマンが

     「あのぉ」とおそるおそる声をかけた。

 

     「仲がおよろしいのは結構ですが、まずはアレをどうにかするべきではないでしょうか?」

 

      操舵士が指差した先には、火気をすべて潰され沈黙したドミニオン。周りには僚艦の姿は1隻

     もない。どうやら艦外にまで影響を及ぼしていたマリューの怒気に怖れをなして、皆そそくさと

     逃げ出したらしい(苦笑) ザフトのMSすらもこちらには近寄ってこない有様だ。

 

     「あっ、そ、そー言えばそうだったわね(汗)」

 

      現実を示されて、ここでようやくマリューもハッと我に帰り、泣き喚く姿を晒したことに恥じ

     らいを憶えつつ、ごしごしと袖口で涙と鼻水を拭ってクルーに向き直る。

 

     (ちなみにその様子を「あぁ、マリューってばやっぱ可愛い♪」なんて思って見ていたのはムウ

     だけではなくて、思いがけず素のマリュー・ラミアスを垣間見てしまったクルー一同も同様で、

     「あぁ、艦長ってばなんてお可愛らしいんだ」「ちくしょおっ! 少佐、羨まし過ぎ!!」と改

     めてマリューに魅了され、ムウに反感を憶えてしまったというのは、全くの余談である(笑)。)

 

     「あぁ、じゃ、とりあえずナタルの救出とブル・コスのアホ盟主を捕らえに行きましょ」

 

      気を取り直して白兵戦の指示を出すマリューに、取りあえず矛先が逸れた事に安心したムウが

     ホッと息をつきつつ「あれ?」と声をあげた。

 

     「アズラエルの野郎も捕まえるの?」

 

      生かしておくんだ?と不思議そうに訊ねるムウに「ええ」と当然のように応えるマリュー。

      さっさと殺しておく方が後腐れなくって良いんじゃないかなと思いつつ、しばし考えを巡らせ

     たあと、ピン!と何かに思い当たって、

 

     「…やっぱ、しばくの?」

 

      恐る恐る問いかければ、

 

     「当たり前です」

 

      当然とばかりに応えるマリュー。

      てきぱきと指示を出し、自ら敵艦に乗り込むための準備を始めたマリューの背を見ながら、

 

     「2度とマリューを怒らせるのはやめよう…」

 

      そう思うムウとブリッジクルー一同だった。

 

 

 

                         オチないまま、取りあえず終わる(苦笑)

                            2004.3.26 UP

 

          呆れつつINDEXへ戻る ⇒ 

          苦笑しつつ種TOPへ戻る ⇒