I hold on you forever

                   Everlasting-EX

 

 

 

 

      目が覚めると隣りに彼女の姿は無かった。

 

      シーツに温もりが残っている事からして、ベッドを抜け出してからそれほど時は経っていな

     いだろう。

      カーテンの向こうはまだ薄暗く、夜が明けるか明けないかという頃合い。

 

      こんなに早くから何処へ行ったんだか。

 

      どれだけ耳を澄ましても微塵も感じられない彼女の気配を探して、彼もまたベッドから抜け

     出す。

 

 

 

      家の中には人気が無かった。

 

      ならば、と、彼は上着をひっかけ、ついでにショールを一枚持って外へでる。

      療養のために滞在しているこの家の前はすぐ海になっていて、石造りの階段を下りていくと

     白い砂を湛えた浜が開けている。

 

     案の定、彼女はそこにいた。

 

      波打ち際で寄せる波に裸足の足首を洗わせながら、じっと水平線の向こう、白み始めた空を

     見ている。

      近くに靴を脱ぎ捨てた様子が見えないことからして、彼女は最初から裸足で出かけたらしい。

      それに気付いて、靴も持ってくるべきだったかと少し後悔しながら、彼女の後ろから近づく。

 

     「マリュー」

 

     そっと名を呼びかけても、ぴくりとも反応しない。

     ただ、じっと前だけを見つめて。

 

     けれど、決して拒絶しているわけではないことは判る。

     何故?と問われても、お得意の勘で、としか答えようのない理由でだけれども。

 

     「なぁに黄昏てんの?」

 

      だから彼は殊更におどけた声音で懐かしい台詞を口にした。

      あの時と違うのは、言葉とともに持ってきたショールを掛けながら彼女の身体を抱きしめた

     こと。

 

     「そんな薄着のままじゃ風邪をひいちまうよ?」

 

      常夏の国・オーブといえども、夜の明けきらぬこの時刻、しかも裸足で水辺にいては些か肌

     寒い。

 

      それほど長い時間を外で過ごしたわけではないのに、すでに少し冷えてしまった身体を温め

     るように、後ろからすっぽりと腕の中に包み込む。

 

      寄せては返す波が靴をはいたままの足元を攫っていくのにまったく頓着せず、そのまましば

     らく無言で時を過ごして。

 

     かすかに潮の香りの宿った髪に顔を埋めると、彼女は真っ直ぐに前を見据えたまま初めて口

     を開いた。

 

     「見て」

 

      手を上げて指差した先を眼で追えば、一際明るくなった水平線に眩い光の線が走る。

 

     「新しい太陽が生まれるわ」

 

      そのまま身を寄せ合い、新しい朝の誕生を言葉なく見守る。

 

     「夢を―――」

 

      生まれたての太陽から零れる光がふたりを照らし、いくらかの熱が生まれた頃、ふいに彼女

     が口を開いた。

 

     「見たの―――」

 

      その言葉に彼はぎゅっと腕に力を込めた。

 

      何の夢かなんて訊かなくても判っている。

      だから彼はただ抱きしめる腕に力を込め、一言だけを伝えた。

 

     「大丈夫」

 

      その言葉に彼女が首を巡らせて、琥珀の視線が彼を捉えた。

 

     「君はもうひとりじゃない」

 

      まなざしに応えるように、彼女の揺れる想いを青い瞳に映して。

 

     「俺はここにいるから」

 

      そっとくちびるを重ねる。

 

      何度も。

 

     何度も―――

 

      次第に光量を増していく朝陽に包まれながら、何度でもくちびるを重ねる。

      彼女が強請るだけ、望むだけ。

 

      その心の疵が癒えるまで、何度でも抱きしめてあげよう。

 

      優しいキスを贈ろう。

 

     「もう離さない」

 

      たとえ世界が闇に堕ちて、塵と化したとしても。

      抱きしめたこの身体を、もう二度と離すことはない。

 

      誓うから。

 

 

 

     時を重ねて、愛を重ねて、君のために生きていくよ。

 

 

 

     永遠に―――――

 

 

 

                          END

                        2004.8.22 発行

                       2004.10.1改訂版UP

 

 

 

                    [I Wish]と同じく「MMN企画」発動記念本に書き下

                   ろした短編です。Web公開に際して少しだけ改訂しました。

                   ほんの少し情景描写を書き加えただけですけど。…というのも

                   オフ本に収録の際には頁調整の意味もあって、制限があったも

                   のですから、削った部分もあったからなんですよね。ただ、オ

                   フ本と改訂版と、どっちが纏まりがよいかはオフ本のような気

                   がするんですが… 改訂版は蛇足のような気がしないでもない(苦笑

                   ま、これは各人の好みの分かれるところなんでしょうけどね。

                    しかし、ラブラブ甘甘を目指してた筈なのに切なさフレーバ

                   ー全開な話になってしまったのは何故なんだろう? やっぱり

                   元ネタにつかったSOSの楽曲「抱きしめて」が、しっとりと

                   したラブバラードだったせいでしょうか。この曲、物凄く良い

                   唄なので機会がありましたらぜひご試聴をお薦めいたします。

                   あぁ、こんなイメージでもう1本書きたい!等と思いつつ、筆

                   力が足りなくて身悶えするだけなんだから止めときなさいよね。

                   とセルフ突っ込みの激しい松崎は考え直すのでした(苦笑)

 

 

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