Day By Day

               Everlasting-Special

 

 

      「う〜ん、美味いv

 

       にこにこと満面の笑みを浮かべながら、食卓に並んだ料理を平らげていくムウ。

       今日は久し振りにふたり揃ってオフの日。

      せっかくの休日だし、あれもしたいし、これもしたい。

      しかし、散々迷った挙句に話が纏まらなくて、面倒臭くなって、結局、何処にも出かけ

      ず、官舎でのんびりしてしまった。いささか勿体無い気もしないでもなかったが、いつも

      緊張の連続たる軍艦勤務なので、ま、こんな日もあってもいいかと、ぐーたらに過ごした

      一日の終り。

      今日のディナーはマリューが腕を振るった料理の数々。

      もともと技術士官だった彼女は、とにかく何かを作るのが好きで、もちろん料理もお得

      意だ。

      食卓の上にはふたり分にしては多すぎるほどの皿が並んでいるのだが、昔っから健啖家

      として有名なムウは次々と口へ運んでいく。

      それはそれは見ているほうが呆れてしまうほどの食べっぷり。

      しかも、その表情はこれでもかと言うくらいやに下がっていて、これがMSやMAを操

      らせたら随一、宇宙に名だたる「エンデュミオンの鷹」殿とは、到底信じられまい(笑)。

 

      「いやぁ、料理上手な奥さんで、俺、幸せvv

 

       などと言いつつ、極上の笑顔で料理とともに幸せを噛み締めるムウ。そんな彼の様子を

      見れば嬉しくなってきて、マリューの表情にも自然と笑顔が浮かぶ。

 

      「それだけ美味しそうに食べてもらえると、わたしも嬉しいわ」

      「いや、お世辞抜きで美味いって。マジしあわせなんだけど、俺vvv

 

       も、これなんて絶品♪と言いつつ、骨付きチキンのトマトソース煮込みにかぶりつけば、

      口の端に赤いソーズが残ってしまう。

 

      「あらあら」

 

       ついてますわよ、と、さも仕方なさそうに笑って手を伸ばしたマリューが、ナプキンで

      拭ってやると、その名を聞けば敵も裸足で逃げ出すと噂される男の表情が、ますます締ま

      りのないものになっていく。

      他人には見せられないわねと、その余りの落差に笑ってしまうマリューだけど、ムウが

      こんな表情を見せるのも自分にだけと知っているから、嬉しくて嬉しくて、そんな彼が愛

      おしくて堪らない。

      料理ひとつでこんなに喜んでもらえるなら、いくらでも作ってあげたくなるではないか。

      だから、こんなことを訊いてみる。

 

      「ねぇ、食いしん坊の旦那様。明日の夕飯は何がよろしいかしら?」

 

       リクエストなんてなぁい?

       くすくす笑いながら問いかければ、残ったソースにパンを浸して口の中へ放り込みなが

      ら、「そうだなぁ」と少し考え込むムウ。

       そして、もぐもぐとしっかり咀嚼して、ごっくんと飲み込み、口の中の物がなくなって

      から、お行儀良く応える。

 

      「和食…なんてどーかな」

      「ジャパニーズ・フーズ?」

 

       少し首を傾げて問い返すマリューに、今度はボウルに盛られたサラダのポテトにフォー

      クを突き刺しながら「そうそう」と応える。

 

      「随分前に一度食べた事あるんだけど、結構美味かったし」

 

       言いながら、見る見るうちに減っていくボウルの中身。最後に残ったリ−フレタスまで

      あっという間に口の中へ消えてしまった。

 

      「…というと、スシ、とかトーフとか?」

      「あっと、スシはパスかな。あのビネガーのきいたライスはちょっと嫌かも」

 

       何でも美味しく食べてしまうムウにも、多少は好みがある。

      現に、とある理由から家では絶対に豆料理を食べない。

      以前、ミネストローネに入っていた豆を、キレイに選り分けて残してしまったほどだ。

      まるで子供みたいねと笑ってしまったのだけど、彼には彼なりの正当な理由――あくま

      でも彼なりの、だが(苦笑)――があるのだから仕方がない。

 

      「酸っぱいものがキライって訳じゃないんだけどさぁ」

 

      なんか苦手かもと言うので、スシは候補から外そうと思うマリュー。

      でも、そうすると他に何があるだろうか? ちょっと考えこんだところへ、

 

      「前に食べたのは、たしか“テンプラ”だったっけかなぁ」

      「テンプラ? って言うと、たしかフリッターみたいなの?」

 

       マリューが訊き返すと、今度はパスタを突付いていたムウ(一体どれだけ食べれば気が

      済むのだろう 苦笑)が、うんうんと頷く。

 

      「そうそう。ちょっと皮が薄くてパリパリっとしてる奴」

 

      あん時は魚と野菜のを食べたけど、結構、美味かった。

      そう言うのを聞きながら、マリューは考えを巡らす。

 

      「テンプラ…ねぇ」

 

      レシピさえあれば何とかなりそうではあるが、問題がひとつ。

 

      「出来ないことは無いと思うけど、ただ、味の保障はしかねるな」

 

      なんたって、わたしは食べたことないんだもの。

 

      「美味しくできる自信がないわ」

 

      いくらマリューでも、食べたことがなければどんなものなのか判るはずもない。

      それも至極もっともなことだとムウが思っていると、当のマリューが「ねぇ、旦那

      様?」と甘えた声で呼びかける。

 

      「明日の晩、美味しい和食を食べに連れて行ってくださらない?」

 

      珍しい妻のおねだりにムウが「おや」と目を見張る。

 

      「一緒に食べに行って、味を憶えてくるの。そしたら次の機会に作ってあげられるわ」

 

      そう言うマリューにムウも「それは名案」と大きく頷く。

 

      「んじゃ、美味しい店を調べとかなきゃならないな」

      「ちゃんと作ってるところが見えると嬉しいけど」

 

       研究熱心な妻のリクエストに夫は「うぅむ」と唸る。

 

      「シモンズ主任のとこの若いのあたりに訊いたら知ってるかなぁ」

 

       あとで訊いておこうと、取りあえず決めておいて。

 

      「ところで、奥さん」

 

      明日の予定が決まったところで、

 

      「今夜のデザートは?」

 

      何時の間にやら食事をすっかり平らげたムウが、ナプキンで口のまわりを拭いつつ問い

      かける。問われたマリューは、まだ食べる気なのかと半ば呆れつつ、でも、こうなること

      を予想していたから、にっこり笑って席を立った。

 

      「はいはい。ちゃんと用意してありますとも」

 

      そうして冷蔵庫から大きなバットを取り出してきた。

      何事かと覗き込んで見れば、そこには一面たっぷりのプディングが。これをどうするの

      かと見ていると、ナイフで切れ目を入れて、スプーンですくって、アイスや果物と一緒に

      皿に盛ってくれた。

 

      「さぁ、どうぞ。たっぷりあるから、いくらでも召し上がれv」

 

      差し出された皿と、ウェイトレスよろしく傍らに立つマリューとを交互に見遣って、

      「サンキュ」と礼を言って早速ひとくち。好みの甘い口当たりに思わずにっこり。

 

      「うん。美味いv」

 

      そして、「あぁ、幸せ♪」と今日何度目になるのか判らないほどの同じ台詞を口にした

      ムウは、傍らで立ったまま様子を伺っていたマリューをそっと引き寄せると、その耳元に

      ささやきを落とす。

 

      「あとで、もっと“極上のデザート”もしっかり味わいたいな」

 

       その言葉の意味を悟って、マリューの頬が朱に染まる。

 

      「…呆れた。まだ食べる気なの?」

 

       判っててはぐらかすマリューの言葉に軽く笑って、

 

      「デザートは別腹なんだよ」

      「…バカ」

 

       はにかんだマリューにプディングの味の甘いキスを贈って、

 

      「あとで、な?」

 

 

 

      Day By Day。

 

      穏やかに過ぎて行く日々。

 

      願わくば、いつまでもふたり、時代を超えて寄り添って歩いて行けるように。

 

 

 

                                 END

                                2003.12.23UP

 

                     冬のご挨拶状用書下ろしSSでした。

                     これをカード仕立てにして冬コミと冬のインテ大阪で配

                    り…もとい押し付けまくって(笑)きたんですが、貰って

                    くださった方々、ありがとうございました。中身、装丁共

                    に多くの方に気に入っていただけたようで、安心している

                    松崎です。

                     ただただ、他愛なくも甘いだけになってしまった今回の

                    お話ですが、Everシリーズは「ゆるゆるで甘々でひた

                    すら幸せv」をテーマとしておりますので、今後もこの路

                    線のままで突っ走っちゃうと思いますので、宜しかったら、

                    今しばらくお付き合いくださいませ。

 

                     さてさて、元が無料配布小冊子なこのSS。当然の如く

                    サイト上でもお持ち帰り自由とさせていただきますので、

                    欲しいと思われる方はご自由にどうぞ。

                     しかし、こんなのでも欲しがる人は居るのかな?と常々

                    疑問に思わないでもないんだけど…(汗)

 

 

 

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