Mariage

 

 

 

      「なぁ、お嬢ちゃん。ホントにこれ、着んなきゃダメ?」

 

      ぴっちりと締められた襟元に指を突っ込みながら、金の髪の美丈夫が情けない声を上げる。

      元地球連合軍少佐にして、MAのエースパイロット、後の独立部隊<アークエンジェル>で

      はMSパイロットとして戦果を上げ、現在はオーブ特務機関に属するムウ・ラ・フラガ中佐は、

      相変わらず堅っ苦しい格好が苦手らしい。

 

      「あぁ、こらっ。そんなにグイグイ引っ張るんじゃないっ! 折角、ビッシリ決まってんのに

      伸びちまうじゃないか」

      「でも、さぁ」

      「袖まくりもダメーっ!!」

 

       隙あらば衣服を着崩そうとするフラガを一喝しつつ、彼にお嬢ちゃんと呼びかけられたカガ

      リは、憮然とした表情で付け加える。

 

      「それに“お嬢ちゃん”はよせって言ったろう。“カガリ代表”と呼べ、“代表”と」

 

      仮にもわたしはおまえの上司なんだからな。

      凄まれても態度を変えるようなフラガではない。

 

     「んじゃ、姫様」

      「代表だっ!」

      「へいへい。ではカガリ代表さま。マジで俺、こんなカッコなわけですかぁ?」

 

      しつこく繰り返せば、「勿論だ」とにべもない応えがかえってくる。

 

      「仕方ないだろ。お前も今やオーブの軍人なんだから、こーゆー時には礼服を着るもんじゃな

      いか」

 

       カガリの言う通り、フラガが着ているのはオーブ軍の礼服であった。白を基調とした上下に

      金ボタン、肩章には金のモールが飾られ、あちらこちらが金糸や銀糸で飾られている。胸には

      授与された覚えのない勲章までつけられていて、中々に派手派手しい。

 

      「…にしても、これはちょっと派手過ぎやしませんか、ってーの」

      「何を言う。こーゆーモンは見栄えが大事なんだ。多少の装飾は致し方ないだろう」

 

       なんたって全国に中継されるんだからな。派手に飾り立てるに限る。

      そう言われて、フラガはますますげんなりと肩を落とす。

 

      「あーあ、こんなことなら承知するんじゃなかったぜ」

      「なんだぁ、お前、マリューさんと結婚式あげれるってのに嬉しくないのか?」

      「それとこれとは話が別。まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ」

 

      事の起こりは一ヶ月前。

      あの悲惨な戦争をなんとか終結に導いて1年余りが過ぎようとした頃。戦火に蹂躙され、焦

      土と化した世界も、人々の不屈の精神によって復興への道を辿り始めた。

      その道のりはまだまだ遠く、ゴールも見えないけれども、それでも道は定まったということ

      で、人々を元気付けるために何かしらのイベントを行おうと言い出したのはカガリだった。

      そこで白羽の矢がたったのが、フラガとマリューのカップルだったというわけで。

      共に戦火をくぐり、固い絆で結ばれたふたりであるからして、ドラマ性も話題性も十分。し

      かも揃いも揃って美男美女とくれば、プロパガンダとして申し分ない。

      国を挙げて結婚式をプロデュースしてやると持ちかけられて、そんなに大げさなことしなく

      ても、と渋るマリューとは対照的に、大いに乗り気になったのはフラガの方だ。

 

 

      「大体だなぁ、式は良いとして、その後のパレードだのセレモニーだのって何なんだよ」

 

      ぼやくフラガに冷たい視線のカガリ。

 

      「今更だぞ」

 

      「そだ。俺たちなんかより、お嬢ちゃんたちが結婚した方が意味あるんじゃないの?」

      「お嬢ちゃんたちって、誰と誰のことだっ?」

      「地球圏復興の旗頭である現オーブ代表のカガリ姫様と、プラントの未来を担う若き獅子・ア

      スラン・ザラ評議員殿さ♪」

 

      アスランの名を出された途端、カガリは真っ赤になってうろたえる。

 

      「ば、ばか。わたしたちはまだそんな」

 

      早過ぎるとかなんとか焦りまくっていたカガリだったが、やがて

 

      「そうだっ。オーブの法律では男女とも18歳にならないと結婚できないんだっ」

 

      ポンと手を叩くや、妙案とばかりに言い放つ。

 

      「わたしはともかくアスランはまだ誕生日を迎えてないから、まだ無理なんだ。残念だった

      な」

 

      …ということで、頑張ってくれと言われて、フラガはしぶしぶ引き下がる。

      そうして、

 

      「あぁっ、もぉっ」

 

      と唸りながら、頭をガシガシと掻き毟って、またまたカガリに怒鳴られるのだった。

 

 

 

                取りとめもないまま、とりあえず終わる

                そのうち書き直し&書き足しするつもり

                いま書いてる話があまりにも暗くて胸が痛いので、

                気分転換にやってみたパラレル結婚式ネタです。

                以前に書いたパラレル帰還ネタ“奇蹟の天使たち”

                とは別設定ってことで。この流れで受胎告知話も

                予定しているのだった。懲りないねぇ、松崎も(笑)

 

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