In The Night

 

 

 

      ふと、目覚める。

      まだ深夜。すべてが闇の中、ひっそりと息を潜めている時刻。

      すぐ傍ら、腕に触れる温もり。

      「ひとり」で眠るにはいささか広すぎると思っていたこの寝台も、「ふたり」ではさすがに窮

     屈で、自然と抱き合うようなカタチになる。

 

      そろそろ、もうちょっと大きなのに入れ替えるかなぁ。

 

      ぼんやりとそんな事を思う。

      ここへ移り住んだ当初は、寝台を別々に分けておく必要があった。

      何せ、ようやくに戻ってこれたものの、身体はまだ思うように動かせず、日がな一日、寝台

     に括りつけられて過ごすことを余儀なくされていたのだから。

      それでも、その時は生きて共に在る事、それだけで充分だった。

      もう二度と会うことも、話すこともできないかと――いや、決して諦めていた訳ではないが、

     状況的にかなり厳しかったのは事実だから。

      だから。

      一度は抗い難い運命によって引き離されたものの、強い意志の力で奇蹟さえ呼び起こし、再

     び彼女のもとへと戻ってこれた。ただ、それだけで満足だった。

 

      けれど、人という生き物は、元来、欲深きもの。

 

      ゆったりと時間を過ごし、身体が癒えてくると共に、身の内に生まれる希求。

 

      触れたい。

      触れられたい。

 

      くちづけだけでは切なすぎて、伸ばした指の先、確かな温もりを求めた。

      そうして、気遣う心を巧みに騙して、腕の中に閉じ込めた。

      彼女もまた、それを望んでいたことを知っていたから。

 

      ふたりで肌を重ねて、生まれる熱を分け合って、眠りに落ちる夜。

      すぐ傍に互いの温もりを感じあうことの、何物にも替え難い幸福を抱きしめて。

 

      腕の中、安心しきって眠る彼女の、その無防備な寝顔を見ていると自然と零れてくる笑み。

 

     「ん―――」

 

      と、笑いの波動が伝わったのか、微かに彼女が身じろぐ。

      けれど、その目蓋は閉じられたまま。

      ただ、もっと温もりをせがむかのように擦り擦りと身を寄せて、そしてまた穏やかな寝息を

     立てる。

      その様子があまりに愛惜しくて、胸に擦り寄る彼女の髪に顔を埋める。

 

      しばらくはこのままでも悪くはないか。

 

      彼女の匂いを愉しみながら、そう思い直して。

      彼もまたゆっくりと目蓋を閉じる。

 

      夢の引き潮に攫われるままにまかせて。

 

      愛してるよ。

 

      再び眠りに落ちる瞬間、ふと零れた呟きは、まろやかな闇に溶けていった。

 

 

 

      それはただ他愛なくもささやかな幸福に包まれた、或る夜のこと。

 

 

                                END

                               2003.11.21 UP

 

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