しまった、と思ったときは既に手遅れだった。

背後に被弾。動けなくなった俺に、MSの姿を取った“死”が近づいてくる。

ゆっくりとした動きで―――実際には一瞬のことだろうが―――構えられたライフルから放

たれた光が、モニターを真っ白に埋め尽くした。

その時、浮かんだのは最後に見たあの笑顔。

今にも泣きそうで、でも、気丈にも見送ってくれた、俺の愛しい女性。

 

「ごめん、マリュー…」

 

最期の呟きは彼女に届いただろうか―――――

 

 

 

奇蹟の天使たち

 

 

 

「―――さん、おとうさんってばぁ」

「ダメですよぉ、おにいちゃまぁ。パパはおねむさんなんですからぁ」

元気が有り余って仕様がないって感じのやんちゃな男の子の声と、舌足らずでおしゃまな可

愛い女の子の声に揺り起こされて目を開けると、抜けるような青い空と降り注ぐ陽光を背景に、

小さな二つの影。眩しさに目を細めながら、よく目を凝らしてみると幼い兄妹の姿が見えた。

 

「とうさんってば、お弁当食べたらキャッチボールする約束だったろう?」

 

早く早く起きてと、腕をとって起こそうとする男の子は、なんだか俺のガキの頃に良く似て

いた。ただ、髪の毛が俺よりは赤みがかっていて、瞳がアンバーブラウンなところを除けば、

だけど。

 

「だぁーめ。パパはここでアンジェと御昼寝するのぉ」

 

反対側の腕に取り縋る女の子は、ふわふわの、やっぱり赤みがかった金髪をキラキラさせて

て、瞳は俺と同じアースブルー。宇宙から見たふるさとの星の色だと、そう言った誰かに良く

似た面差しの、可愛い子だった。

 

これは、一体―――?

 

訝しがる俺の前に現れる第3の影。

 

「アーク、アンジェ。こぉら、ふたりとも、いいかげんにしなさい」

 

この声。

 

「パパが困ってるでしょ?」

 

まさか。

 

「ママー」

「かあさん」

 

嬉しそうに駆け寄ってくる子供たちを迎えるのは、優しい微笑を浮かべた女性。

そのココアブラウンの髪は俺の記憶より長くて、面差しはいくらかまろやかになっていたけ

れど、何時でも俺を支えてくれたその笑顔は変わらぬまま。

 

「ねぇねぇ、おかあさんからも言ってよ。おとうさんはボクとキャッチボールするんだよ

ね?」

「ちがうわ。アンジェとお昼寝するのぉ」

「あらあら」

 

子供たちを交互に見遣ったあと、彼女はその笑顔を俺に向ける。

 

「相変わらずパパは子供たちにモテモテね」

 

眩しすぎるその笑顔。

 

「さぁ、行こうよ。おとうさん」

 

男の子が、息子のアークが俺に手を差し出す。

 

「いやぁん。アンジェと!」

 

女の子が、娘のアンジェが負けじと小さな手を伸ばす。

 

「ダメダメ。パパの手はママのものなんだから」

 

くすくすと笑いながら、マリューが両手を広げる。

 

「とうさん」

「パパ」

「あなた…」

 

光に縁取られたみっつの笑顔を見ているうちに、不覚にも涙が滲んできた。

 

あぁ、これは、俺が得られるはずだった未来。

出会うはずだった、俺の家族。

 

最期にこんなものを見せてくれるなんて、神様も粋な計らいをする。

 

 

 

―――なんて、感謝できるもんかっ。

あぁ、もう、未練タラタラじゃないかよっ!

俺は、こんなに素晴らしい未来を掴めずに逝かなくちゃならないなんて。そんなこと承服で

きるはずないじゃないかっ!!

畜生ぉっ!

 

 

 

思わず、天にまします我らが神に悪態をつきまくろうと思ったその時、

 

『そうですわ。フラガ様は可愛いお子様を置いて逝かれるつもりですの?』

 

 いけませんね、といきなり割り込んできたのは、ピンクのお姫様。

 

『マリューさんに苦労かけるなんてダメですよ、ムウさん』

 

 生意気なことを言うのはキラだ。

 

『相変わらず無責任な奴だなっ。恥を知れっ、恥を!』

 

 手厳しいのはオーブのお嬢ちゃんで。

 

『種を蒔いたんなら、ちゃんと育てて刈り取ってやんなきゃダメでしょうが』

 

マードックのおっさん! なんだよ、その言い草はっ!!

 

『おやぁ、鷹殿がラミアス艦長に対する責任を放棄されるおつもりなら、このボクが喜んでそ

の任を引き継がせて頂くが、宜しいかな』

 

ええぃ、虎の旦那まで、なんてことを言うんだ。このやろー。

 

みんな好き勝手に言ってくれやがって。

俺だって、俺だってな。こんなつもりじゃなかったよ。

「絶対帰る」って約束したんだよ、マリューと。

約束破るつもりなんか、これっぽっちもなかったんだってばっ!

そりゃあ、そんなこと、すんげぇ難しくて、不可能かもしれなかったけどさ。

 

『でも、あなたは不可能を可能にする男ですものね』

 

そうでしょ、と俺を見上げるマリュー。

瞳を揺らす涙を拭いたくて、俺は瞼にキスを落とす。

 

『だから信じてるわ』

 

そうさ!

こんなところでうだうだ言ってなんて居られない。

俺は帰らなきゃなんないんだよ。

俺を待ってるマリューのもとへ。

未来で俺を待ってる子供たちのところへ!

 

諦めて堪るもんかっ!!

 

 

 

 

 

(あれ…?)

 

 最初に目に映ったのは、どこまでも白い天井で、それからどこまでも白一色の壁で。

 おまけに焦点がなかなか定められなくて、ソフトフォーカスでもかかったみたいにボンヤリ

してて…

 

「ああっ、少佐! 良かった。目を覚ましたんですねっ」

 

 この声は、ミリアリア?

 覗きこんでくる姿はやっぱりボヤけてて、はっきり見えないけど、間違いないだろう。

 

「みんなっ、来て来てっ。少佐がっっ!」

「えぇっ。ホントっ?!」

「何だって」

「少佐っ。良くぞご無事でっっ」

 

 途端に周囲が騒がしくなる。俺を覗き込む人数も一気に増えて、視界を埋め尽くさんばかり

となった。

 でも、相変わらず視界はボヤけたままで、真っ白な世界に影が揺れてるような感じだ。

やがて少しずつ視界がクリアになっていき、それが皆、よく見知ったAAのクルーたちだと

気づいた時、俺の口から思わず零れ出てしまったのは、

 

「ここは…もしかして天国か?」

 

だった。

 

「みんな一緒くたに死んじまったのかよ」

 

 呟くと同時に、俺を取り囲んだ皆から力が抜けてヘナヘナと脱力した様子になる。

 あれ。俺、なんか変なことを言っちまったんだろうか?

 

「おいおい。酸欠でアタマやられちまったんじゃないだろうな、おっさんよぉ」

 

この声はエルスマンだな。

誰がおっさんだ、誰がっ! フラガ様と呼ばんかい、このガキゃあ!

 

思わず怒鳴りつけようと思ったとき、

 

「フラガが気がついたんだって?!」

 

 バァーンと勢い良く扉を開けて飛び込んできたのは、オーブの御嬢ちゃんだな。

 

「良かった、ムウさん」

「フラガさま。ご無事で何よりですわ」

 

 どうやらキラやピンクのお姫様も居るらしい。

…という事は、声はしないが、あのアスランくんも一緒ということだな。

 これはいったいどーゆーことなんだ?

 ホントにみんな一緒におっ死んじまったってこたぁないよな?

 

 そんなことを考えていると、

 

「まったく、鷹殿の強運には誠に恐れ入るよ」

「同感ですね」

 

 この落ち着いた声は虎の旦那にキサカ一佐だな。

 おいおい、ホントにどーなってんだ?

 

 ほとんどオールメンバー生揃いな状況に困惑する俺に、事情を話してくれたのは、枕元に陣

取ったキラたちだった。

 

「ムウさんはね、奇蹟的に助かったんですよ」

「漂流しているところを、ジャンク屋の皆様に拾われたのですわ」

「ホントにすげぇ幸運だったんだぞ」

「あの状況で助かるなんて、思っても見ませんでしたから…」

 

 よくよく事情を聞くと、俺が助かったのは些細な偶然と強運の積み重ねと、生きる事を諦め

ない不屈の闘志のおかげらしい。

 

 まず第一に、ライフルの射線が僅かに逸れてコックピット直撃を免れたこと。

 艦長命のマードック軍曹――何せマリューとの関係がバレた時、俺はこのおっさんに延々と

お説教をくらったのだ。曰く「艦長を泣かせるような真似をしたら、あっしが許しませんから

ね」ってことで――が、こっそりストライクのコックピット付近を補強しておいてくれたこと。

(これは前回、俺が負傷した時に艦長が青ざめたのを見て、2度とそんなことにならないよう

にと、密かに工夫してくれていたらしい)

 ストライクの残骸は戦闘宙域の外側に向かって吹き飛ばされ、たまたまジャンク屋に拾われ

たこと。

 そして何より、俺が決して生きる事を諦めなかったこと。

 それらの事が絡み合わさって、現在、俺が生きてここに居る事に繋がっているのだそーだ。

 

 実際のところ、殆ど仮死状態で発見された俺は、今日まで3ヶ月近くに渡り、何度となく生

死の境をさまよったのだそうだ。

 

「もうダメだって何度も思った。でもフラガ、お前、凄いよ」

「その度に持ち直して戻っていらっしゃったから」

「その精神力には感服いたしましたわ」

「ムウさんって、ホントに不可能を可能に変えちゃうんだもん」

 

 ホントに良かったと涙ぐむキラに、思わず俺も貰い泣きしそうになる。

 

「ばっか、良い歳した男の子がメソメソ泣くんじゃないぜ」

 

 軽口をたたいて、頭でも撫でて慰めてやろうと思ったけど、さすがに力が入らなくて身体は

動かせなかった。でも、ま、俺の代りにピンクのお姫さんが慰めてやってるから、ま、いいだ

ろう。

 

 そうして俺は改めて周囲の人間をゆっくりと見回した。

 皆、キラほどでないにしても、一様に涙ぐんだり、安堵の表情を浮かべてたりしている。

 それを見ていると、やっと俺にも、自分が生きているのだという実感が湧きあがってきた。

 

 …と、俺は「おや?」とあることに気づく。

 

「マリューは?」

 

 そうなのだ。ざっと見渡した中に、俺はマリューの顔を見つけられなかった。

本来なら、彼女が真っ先に俺の生還を喜んでくれるはずなのに。

まさか…

 チラと不吉な考えが俺の脳裏を掠める。

 そんな俺の様子を察したのだろう。キラが慌てて顔を上げて、袖で涙を拭った。

 

「あぁ、大丈夫ですよ。マリューさんならあそこに」

 

 そう言ってキラは俺の向うを指差した。

 アスランくんの助けを借りて、何とか首を巡らせた俺は、割れる人垣の向う、隣りに置かれ

たベッドに横たわるマリューを見つける。

 

「随分とお疲れのご様子でしたので」

「さっき、ちょっと無理矢理に休んでもらったんだ」

 

 お姫様Sの言葉を聞きながら、俺はすぐに事情を理解した。

 おそらくマリューのことだ、自分の責任をちゃんと果たしつつも、それ以外の時間はすべて

俺の側にいて、根を詰めて看病し続けたのに違いない。

 眠っていても疲労の滲んだ横顔に、心配かけたことを申し訳なく思う。

 

「まったくあの人も結構無茶するひとですよね」

「このままじゃマリューさんの方が倒れちゃいそうだったから、それで、ちょっと細工を」

「特にいま、あの人に無理はさせられないし…」

 

 ごめんな、マリュー。

 約束通り帰ってきたぜ、って、ギュッと抱きしめてキスしてやりたいけど、残念ながらまだ

身体が言う事きかなくて、動けなくて。

 でも、俺はここに居るから。君の傍に居るから。

 

「さぁさ、フラガ殿ももう少しお休みになるがいい。疲れたでしょう?」

「そうそう、ラミアス艦長も当分は目を覚まさないだろうから、しっかり休んで、ふたりとも

万全の状態で再会を喜び合うが良かろう?」

 

申し訳なさでいっぱいになってしまった俺に、旦那方が声をかける。

そうして皆を追い出してくれたので、俺はお言葉に甘えてもう少し眠ることにした。

ホントはマリューの目が覚めるのを待っていたいけど、さすがに怠い。

俺はマリューの方へ顔を向けたまま目を閉じた。

 

 

 

ゆるゆると目を覚ますと、隣のベッドのマリューはまだ寝ていた。

あれからどれくらいの時間が経ったのか判らないが、よっぽど疲れてたのだろう。

またもや、罪悪感が胸を締め付ける。

 

…と、眠っていたマリューがモゾモゾと動き出し、そしてころんと寝返りを打って、俺の方

を向いた。見守るうちに、ゆっくりと瞼が開かれる。

何度か瞬きを繰り返した後、その視線がまっすぐ俺を見据えた。

 

「やぁ」

 

我ながら、間抜けな挨拶だなと思う。

心配かけてかけて、かけまくって、やっとのことで帰ってきた第一声が「やぁ」だなんて。

でもマリューにはそんなことどうでも良かったみたいだ。

 

俺を認めた途端、大きな目が更に大きく見開かれ、そのアンバーブラウンの瞳がみるみる涙

に潤んでいく。

それから驚くべき早さで飛び起きて、目覚めてすぐ急に動いたら危ないだろうにと心配した

とおり、足をもつれさせてよろめき、倒れこむようにして俺の上に落ちてきた。

受け止めたかったけど、身動きのままならない俺は何も出来なくて、マリューが顔を埋めた

肩のあたりが熱く濡れていくのと、嗚咽交じりにただ繰り返される俺の名を呼ぶ声を聞いてい

た。

 

「ただいま、マリュー」

 

遅くなってゴメン、と、付け加えると、マリューは涙でくしゃくしゃになった顔をあげて、

俺を睨み付けた。

 

「ばか。ばかばかばかばかばか、ばかっ。心配したんだからっ」

「ごめん」

「信じてたけど、でも、もう帰ってこないんじゃないかって、やっぱりって…」

「ごめんよ」

「待ってたけど、辛くて、不安で、待てないかも、って…」

「だからゴメンって」

「やっと帰ってきたと思ったら、今度はなかなか目を覚まさなくて」

「ホントにごめん」

「このまま、死んじゃうんじゃないかって―――」

「ごめん。反省してる」

 

ばかばか、と、俺の胸をぼかすか叩きながら、しゃくりあげつつ、心の中の想いをすべてぶ

つけてくるマリューに、ただひたすら謝りつづける俺。

俺、一応重傷人なんですけど…とは、思わないでもなかったけど、悪いのは全面的に俺だか

ら、これくらいの報いは当然かもしれないと思って、ひたすら耐える。

やがて少しは気が済んだのか、叩くのをやめたマリューは、今度は俺の胸に顔を埋めて泣き

続けた。

なんのてらいも恥じらいもなく、素のままの感情をぶつけてくるマリューがただ愛しくて、

抱きしめてやりたくて、俺は一所懸命腕を動かそうとした。

ほんのちょっと力を入れただけであちこちが痛み、悲鳴をあげそうになったけど、痛みを感

じるってことも、現在、俺が生きているっていう証だし、第一、いまマリューを抱き締めない

でどうすんだ、俺!

そうして、俺が一生分の努力を使い果たして自由な左腕を上げ、マリューの背に回すと、彼

女は一瞬、ビクンと身体を震わせた後、ゆっくりと顔を上げて俺を見つめて、こう呟いた。

 

「でも、良かった」

 

その顔は涙でくしゃくしゃのぐちょちょになってて、凄いありさまになってたけど、でも、

キレイだと思った。

 

「ちゃんと帰ってきてくれて―――」

 

マリューは両手で俺の頭を抱え込むようにして、自分の頬を俺の頬に押しつける。新しい涙

がマリューの頬を伝い、俺の頬も濡らすけど、気にしないでそのままに任せて。

 

「ありがとな。待っててくれて」

「ん―――」

 

軽く頭を動かしてキスをせがむと、柔らかな唇が重ねられる。

最初は触れるだけ。ついで啄ばむように重ねて、もっと深く。

 

「ちょっと、塩っぱい」

 

涙の味がするって言ったら、「ばか」と言って逃げられた。

 

「もー離れちゃうの?」

 

未練たっぷりにそう言うと、涙を拭きながら「あとで」と答えるマリュー。

 

「続きはもっと元気になってからです」

 

そして今度はベッドサイドに跪き、枕元で頬杖をついて、俺と視線の高さを合わせながら、

 

「だから早く元気になってくださいね」

「判った」

 

 勿論と素直に頷くと、身体を伸ばしたマリューが頬に優しいキスをひとつくれる。

 

「あのね」

 

 心持ち首を傾げながら、とてもキレイな笑みを浮かべるマリューに「何?」と視線を返すと、

 

「ムウが気がついたら、一番に知らせたい事があったの」

 

 まるで宝物を手にした子供みたいな瞳の輝きに、彼女が言わんとしていることが何となく判

った。

 

「知ってるよ」

 

 だから思ったままに言ってみる。多分、間違いはないはず。

 

「マリューの中に天使たちがいるんだろ?」

「どうして?」

 

 目を丸くして驚くマリューに、

 

「もう会ってきたから」

 

 あっさりと告げる。

 

「夢ん中で会ってきた」

 

そう言うと、マリューも何か感じるところがあったらしい。

 

「可愛かった?」

「そりゃ、もう」

 

 俺の話を疑いもせず、むしろ羨ましそうに訊ねてくるので、なんだか嬉しくなる。

 

「死神と喧嘩する気になるくらいにはね♪」

 

 普段の俺らしい軽口にウィンクのおまけまでつけて。

 それから俺は、痛みなど気にもせずに、もう一度マリューへ腕を伸ばして彼女を引き寄せる。

 

「ありがとう、マリュー」

 

 間近にある微笑へ、もう一度感謝の言葉を贈る。

 

「君と、これから出会う天使たちが俺をここへ引き戻してくれたんだ」

 

 出会わなければ、戻って来れなかっただろう。いくら俺でも。

 

「ありがとう」

 

 何度言葉を重ねても足りないくらい感謝している。

 君と、君が俺に与えてくれるであろう、新しい家族に。

 

「わたしも感謝しなくてはいけないわね。あなたを連れてきてくれた、この子たちに」

「そうだね」

 

 しばらく頬と頬を寄せて、互いの温もりと、その存在を感じて、幸せを噛み締める。

 そうしていると、ゆるゆると眠気が襲ってきて瞼が重くなる。

 さすがに少し疲れた。

 

「もう少しお眠りなさいな、ムウ」

「ん」

 

 離れていく温もりに淋しさを感じながらも、頷いて目を閉じる。今は休んで、少しでも早く

元気にならなくてはならないから。

 

「…マリューはどうするの?」

 

 仕事あるんだろ?と聞くと、額に置かれる手の温もり。

 

「もう少しここにいるわ。あなたの傍に」

 

 安心感と髪を撫でる手の優しさに、簡単に眠りに落ちる。

 きっと良い夢が俺を訪れるだろう。

 

 

くすくす。

 

 

夢の端っこで奇蹟の天使たちが笑ってる。

そんなことを感じながら、俺はさらに深い眠りに身を委ねた。

 

 

そう遠くない未来で俺を待っている幸福を、確実にこの手に掴むために―――

 

 

 

END

2003/09/18 UP

 

 

あとがきっつーか言い訳(笑)


TOPにも書きましたが、松崎はただ単に子供たちと、
新しい家族の夢を見せられて未練タラタラなフラガ兄と、
戻ってきた兄貴に受胎告知するマリュさん、
そしてそれに「知ってるよ」と応える兄貴が書きたかっただけなんですー
他の事は何にも考えてませんっ。ええっ、きっぱり!(苦笑)
んな訳だからして、戦争はどーなったかのかとか、なんでみんな生きてるのかとか、
そもそもここ、どこ? AAの中? 宇宙に居るの?地上? 
マリュさんたち何してんの?とか、突っ込むところは山程ある(滝汗)
山程あるんだけど、それを松崎に訊くのは勘弁してねー
これはそーゆーモンだと承知の上でお読みくだされば嬉しいなぁ

ちなみに子供たちの名前は男の子が“アーク”で、
女の子が“アンジェラ”もしくは“アンジェリカ”
ふたりあわせて“アークエンジェル”ってことで(笑)。安直ぅ〜(爆)

TOP ⇒