その貼り紙を見つけたのはほんの偶然だった。
「ね、ガイ、見て見て」
今日は珍しく遠出もせず、地元商店街での買い物を済ませての帰り道。
ミコトに手を引かれて視線を向けた先の、町内会のお知らせ掲示板に1枚の貼り紙。
「へぇ、夏祭りかぁ」
おそらく手書きであろう達筆な墨文字を見ながら、
「そー言えば、この近所に神社があったんだったっけ…」
そんなことを思い出す。
「昔、毎年楽しみにしてたんだよなぁ。父さんと母さんと一緒に出かけるの」
「高校の時、みんなと一緒に行ったこともあったよね」
「そうそう。あん時はミコトとふたりっきりのデートのつもりだったのに」
「みんなにバレて邪魔されちゃったんだよねー」
思わず、思い出話にも華が咲く。
「けど、すっかり忘れてたなー」
これまで、あまりに目まぐるしく時が過ぎてきて、こんなとこにまで気が回らなかった。
最近になって、ようやく、地元のささやかなイベントを思い出せるほど、余裕が出てきたってことだろうか。
「懐かしいね」
ミコトの言葉を聞きながら、ホントはまだそれほど過去を惜しむような歳じゃなんだがな、と苦笑する。
けど、実際の年月以上の感慨があるのも確か。
何せふたりとも、かなり密度の高い人生を送ってきたのだから(笑)。
「…じゃ、今日は夕飯を早めに済ませて、久し振りに行ってみようか」
「うん!」
ガイの提案に即座に頷くミコト。
「よし。そーと決まれば、さぁ、行くぞ。ミコト!」
話が纏まるや、すぐさまミコトの手を引いて駆け出すガイに、
「ちょ、ちょっと、待って、ガイ」
何処行くつもりなの?とミコトが首を傾げるのも無理はない。
「夏祭りはまだ始まってないよ?」
だが、ガイは一向に頓着せず、ミコトの手を引いて行く。
「何言ってんだ、ミコト。夏祭りと言えば“浴衣”だろっ!」
だからデパートに浴衣を買いに行くのに決まってるじゃないかっ!
明瞭に言い切られて、ミコトの顔に苦笑いが浮かぶ。
まったく以って、流石はGGGの機動部隊隊長なだけはある。
思い立ったら即!の行動力は抜群だ。
「さぁ、早く早く! 急げよ、ミコト!」
「あぁん。ちょっと待ってってばぁ。もぉっ」
手をつないで駆けながら、楽しい夜の計画に思いを馳せて、ささやかな幸せを実感するふたりだった。
おしまい
2002.9月脱稿