樹木医 森本政敏 |
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愛媛固有の桜 そのT |
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陽春(ヨウシュン) |
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原木: 西条市丹原町来見の水路の土手にある。1914年に水路改修記念としてソメイヨシノを植え |
た内の1本が、ソメイヨシノの変異種であった。平成2年ヨウシュン(陽春)と命名され、ソメ |
イヨシノ系の新品種として登録された。 |
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特徴: ソメイヨシノの変種だけに、開花期はソメイヨシノとほぼ同じか少し早い。花はソメイヨシ |
ノより少し大きく、色も少し濃い淡紅色。一つの花芽から出る花の数はソメイヨシノが3〜4 |
に対し4〜5と多く華やかに見える。遠目で見るとソメイヨシノに似た感じで、ソメイヨシノを |
見慣れた人にも違和感なく受け入 られる。 |
原木は衰えているが樹齢90年で、ソメイヨシノの平均樹齢60年より長寿である。またソメ |
イヨシノの名所が甚大な被害を受けている「てんぐ巣病」にも抵抗性がある。 |
ソメイヨシノより病害虫に強いことと長寿であることから、ソメイヨシノに代わる桜として全 |
国的に注目されつつある。 |
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写真: 撮影場所 丹原町来見のヨウシュン原木 |
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陽春の花序と花弁 |
(咲き始め) |
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陽春の原木の枝 (樹齢90年)
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(満開時:平成21年3月27日撮影) |
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愛媛固有の桜 そのU |
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【早咲き種】 |
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薄紅寒桜(ウスベニカンザクラ) |
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原木: 松山市生石町の堀川正克邸と親戚の山越町の関家仁壽邸の双方に原木があったが、いず |
れも枯死して今は無い。関家氏は松山生まれのこの桜を広めようと、吉藤の藤原清春氏に |
協力を要請した。藤原氏は桜が生きているうちに、吉藤の石橋道則氏などに接木を依頼し、 |
後継樹を育てた。その苗を昭和48年に、吉藤の三島神社などに十数本植栽した。 |
参考文献 森川国康 「えひめの花」(1981年・1986年) |
聞取り調査 石橋道則氏談話(2008年1月) |
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特徴: 松山で最も早く咲き始める桜の一種で、2月下旬頃から開花し、3月上旬には満開になる。 |
ヤマザクラと台湾原産のカンヒザクラの交雑種である。品種分類上はカンザクラの一群に属 |
し、紅が少し濃いところからウスベニカンザクラと命名されている。別名「早咲吉野」とも呼ば |
れている。 |
伊予節に謡われている「十六日桜」や、小泉八雲が著した「孝子桜」は、龍穏寺にあったご |
く早咲きのヤマザクラの変異種であるが、戦災で枯死して現存していない。ヤマザクラを片 |
親に持つ早咲きのウスベニカンザクラが、現存している桜の中では十六日桜に最も近い品 |
種といえる。ちなみに、天徳寺と吉平屋敷跡地の十六日桜と呼ばれている桜は、カンザク |
ラにシナミザクラが交雑した別の早咲き桜である。 |
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写真: 撮影場所 三島神社 松山市吉藤2丁目 |
撮影日 平成20年3月9日 |
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花 (5弁・一重・紅色) |
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枝 樹形(樹齢36年) |
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愛媛固有の桜 そのV |
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【早咲き種】 |
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椿寒桜(ツバキカンザクラ) |
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原木: 昭和30年代に、椿神社(松山市居相町)に奉納された早咲き桜である。最初楼門右前に植え |
られていたが、その後拝殿内庭に移植され現在にいたっている。境内には、成木となった後 |
継樹も数本植えられている。昭和42年に八木繁一氏によってツバキカンザクラと命名された。 |
地元では、別名「初美人」とも呼ばれている。 |
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特徴: 松山で最初に咲き始める桜の一つで、市内のいたる所で見かける馴染みの桜である。伊予 |
路に春を告げる桜でもある。花は紅紫色で直径2.5〜3a、一重の5弁である。雄しべが長い |
ことと、鮮やかな紅色がこの花の特徴である。 |
ツバキカンザクラの発生由来としては、カンザクラとシナミザクラの交雑種とする説が有力で |
ある。カンザクラがカンヒザクラとヤマザクラの交雑種であることを考えると、カンヒザクラとシ |
ナミザクラの系統が入っていることになる。 |
参考文献 森川国康 「えひめの花」(1981年) |
川崎哲也他 「新日本の桜」(2007年) |
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写真: 撮影場所 椿神社 松山市居相町2丁目 |
撮影日 平成19年3月4日 |
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花 (一重・5弁・紅紫色・長い雄しべ) |
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花数の多い枝 樹形(境内の若木) |
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愛媛固有の桜 そのW |
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【早咲き種】 |
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明正寺(ミョウショウジ) |
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原木: 新居浜市黒島の明正寺に原木があるが、現存しているのは三代目である。初代の原木は |
近くのがけのやぶの中に生えていたとのことである。涅槃会(ねはんえ)の頃咲くので別名 |
ネハンザクラとも呼ばれている。 |
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特徴: 3月上旬頃満開になる早咲きの桜である。花は一重の5弁で色は淡く、微淡紅色である。 |
花の直径は約3センチで、花弁は内側に湾曲した抱え咲きが特徴。 |
発生由来はカンザクラとシナミザクラの交雑によるもので、ツバキカンザクラと同じである。 |
しかし、ツバキカンザクラに比べて花の色が淡いし、小花柄に毛が多い等の違いがある。 |
参考文献 小林義雄 「愛媛の花」(1983年) |
川崎哲也他 「新日本の桜」(2007年) |
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写真: 撮影場 明正寺 新居浜市黒島 |
撮影日 平成19年3月7日 |
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花 (一重・5弁・紅紫色・長い雄しべ) |
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花数の多い枝 樹形(境内の若木) |
枝 樹形(3代目の若木) |
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愛媛固有の桜 そのX |
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【遅咲き種】 |
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伊予薄墨(イヨウスズミ) |
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原木: 松山市下伊台町の西法寺の境内にある。現在の木は樹齢20数年の若木で、三代目とも四 |
代目とも云われている。地元では、単に「ウスズミザクラ」と呼ばれている。 |
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特徴: ヤマザクラが八重に変異した珍しい桜である。花は八重で16弁が多いが、17〜19弁のもの |
もある。花の直径は約3センチで、花弁の輪郭がはっきりした端正な形をしている。色は上 |
品な淡紅色で、花びら周辺部は僅かに紅が濃い。愛媛の固有種として全国に誇れる桜で |
ある。 |
開花時期は例年4月10日頃で、4月中旬に満開となる。ソメイヨシノとサトザクラの中間時期 |
の桜である。 |
原木は地際より3本に枝分れし、四方に広がった樹形をしているが、他所の桜見本園にある |
イヨウスズミはヤマザクラと同じような樹形をしている。 |
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写真: 撮影場所 西法寺 松山市下伊台町 |
撮影日 平成19年4月8日 |
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花 (八重・16弁・淡紅色) |
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枝 (毬のように塊となって花が付く) 樹形(地際から枝分れしている) |
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