初めてのチョコレート
バレンタインにはロクな思い出がない。
それって、初めてのバレンタインから始まったような気がする。
初めてバレンタインなるものがあるのを知ったのは小学校の5年だったかなあ。
クラスの男の子の一人が(仮にFくんとしよう)、チョコをくれ、とえらくわめいていて、で、なんとなく知った。
当時仲良しだった女の子とふたり、チョコを買った。
今でもある、砕いたピーナツの入ったハートチョコ。
当時50円だったかなあ。今なら100円くらいだっけか?
それをね、2つ買ったんだ。
2つ。
1つは、F君にあげた。
彼のこと好きともなんとも思ってなかった。きらいではなかったけど、特別な感情はまったくなかった。
でも、欲しがってるならあげよう。
ボランティアみたいな気持ち。
問題は残る1つ。
同じクラスの女の子たちも、そのチョコの行く末を心配して、あれこれとアドバイスをくれたっけ。あの人は?この人は?って。
そのころ、好きな男の子がいた。T君としよう。
T君は頭よくて、知的な雰囲気の子。ちょっとだけオトナっぽいとこに惹かれてた。
もちろん、淡い淡い片想い。だぁれも知らない気持ち。
あげたかった、彼に。
でも、結局私があげたのは、K君。
目立たないし、背も低くて、勉強もスポーツもそんなにできるわけではなかった。
けど、とても気持ちのやさしい子だった。
いざ、だれにあげる!?
と焦った時、私の心にとまったのが彼だった。
K君なら、特別な感情も抱いてなかったから、ワイワイ騒ぐ女の子連中にも安心して言えたってのもある。
そして、K君はびっくりしながらも受け取ってくれた。
F君はしっかりとお返しまでくれた。
母親に、それはお返しをするものだ、と言われたらしい。
もらったのはかわいらしい小さな手帳だった。今も持ってる。なんとなく使えずにいて、捨てられずにいて。で、ようやく使う気になって、今、使っているの。
K君からは何もなかった。私も、それきりだったしね。でも、なんとなく意識したなあ。
チョコあげたK君。F君。あげられなかったT君。
なにやってんのよ、あんた。
って、今なら言えるね、当時の自分自身に。
小学生なんだからこんなもんよ、と言えばそれまでだけどさ。
でも、好きって気持ちが素直に伝えられなかったという後悔が、少しだけ心に残った。
好きでもない人に、しかもとてもやさしくていい人に、遊び半分でチョコあげてしまったという後悔も、心に残った。
スィート アンド ビター。
チョコの思い出は、いつも苦い。