愛しのバレンタイン
俺の女はどうしようもなく高慢で、我が儘で、冷たい。だが、彼女は美しい。俺は彼女の美しさに心のすべてを奪われた。
そしてそrはあの男も同じ。三角関係に気付いたのは一ヶ月前だった。俺も、あの男も、当然怒った。だが、どちらも彼女を捨てようとしはしなかった。そして彼女も「私には選べないわ」いつもそう言って、詰め寄ると泣く。お手上げだ。
が、今日こそ決着がつく。きのう、彼女から電話があった。
「明日のバレンダインデー、うちへ来てくださらない?私の本命チョコレート、ひとりだけに差し上げるわ」
俺か?」あいつか?職業、収入、家柄、財産、学歴・・・ほぼ互角とみていい。どっちなんだ?
彼女の部屋へ行くと、あいつが先に来ていた。
「まず、この6つのチョコレートを召し上がって」
彼女は淡いブルーのドレスに身を包み、白い皿を手にしてゆっくりと微笑んだ。
「ロシアンルーレットと同じ。この中に毒が入っているのよ。だからあたしはひとりにしか本命チョコレート、渡せないというわけ」
俺もあいつもぎょっとしてお互いを見た。彼女は本気だ。二人ともそれはよくわかっていた。ではやめるのか?いや。それはできない。少なくとも自分の方からやめるなどとは言えない。
沈黙。長い沈黙。
「食べてくださらないのね。それではどちらも選べないわ」
彼女が悲しそうに言った。俺はムリに笑顔を作ってことさら明るく言った。
「ねぇ、こんなゲームで決めるなんてどうかしてるよ」
「まったくだ、もっと理性的に考えなくちゃ」
あいつもすかさず口をはさむ。しかし彼女はさめざめと泣きだしてしまった。命を賭ける気もないのに私を愛せると思っているの?バカにしないで。
再び沈黙。ついに、あいつが頷いた。
「…どちが先に取る」
俺は息苦しさを感じながらあいつと向き合った。確立からいえばどっちが有利だった?先か、後か。ロシアンルーレット。戦争映画でそんなシーンがあったような…。
「後がいい」
あいつが本当にチョコレートを口にできるかどうか、まず試そう。俺は答えた。
「じゃあ、選ばせてもらうよ」
白い皿の上にはやや大きめのハート型のチョコレートが6ちゅ。どれも同じに見える。大きさも、色も、形も。
あいつは1つ手にして、口に入れた。ゆっくりかみ砕く。
何も起こらない。
俺は震える手に舌打ちして、1つ手にした。もしもこれが…いや、5分の1の確立だ。思い切って食べる。「甘い」ホッとしてあいつを見る。今度は4分の1。あいつの顔が青ざめてきた。1つ。再び口へ。
ーーー何もない。3分の1の確立だ。俺は迷った末、真ん中のを手にした。甘い味だ、助かった。
2分の1。二者択一。あいつは自分に近い方を選んで口にした。とたんに。
「うっ」
口を押さえ、洗面所に走って行く!俺は助かったといいう安堵と彼女を得たうれしさで、最後の1つをついでに食べると、彼女に言った。
「これで決まったね」
「ええ」
彼女は今までで最高のほほえみを浮かべて、俺の頬にキスをした。
「残念でしたわ。あなたも素敵な方でしたのに」
「え?」
「あの方が最後に召し上がった、あれに解毒剤が入っていたんですの。他はみんな無味の毒入り。もう少しすれば効いてくるはずですわ。大丈夫。苦しくないそうですもの…」