CD
B君は、その中学校でトップのヤンチャ坊主だった。
好きな時間に登校して、授業には出ることなく、特別にあてがわれた部屋で教師の監督のもと、仲間と好きなことをして過ごし、帰っていく。たまに逃走して廊下を走り回ったりする。
服装も、バリバリの違反服。私服の時すらあった。
そんな彼も、あまりにも頼りなげだったからであろう、私に対してはどちらかというとおだやかに接してくれていた。
彼の態度を注意するとか、そんなことすれば当然話しは別だけど。彼にすれば、いてもいなくても同じような、もののカズに入らない教師の一人だったのだと思う。
注意はできなかったけれど、そこそこ彼らの時間つぶしのお相手はしていた。特にワープロに興味を持っていた彼は、それなりに扱える私にその点だけは一目置いてくれていた。
さて。
そんな彼は当時大人気だったプリンセスプリンセスの大ファンだった。
音楽はもともと好きな私は、そのへんでも話しが合っていたんだけど、そのプリプリのニューアルバムを彼が貸してくれると言う。
もちろん、学校にCDを持ってくるのは違反である。
でもまあ、教師に貸すわけだし、貸し借りで彼らとまたつながりができるし。
私はそんな気持ちだった。
そして数日後。彼が教科書かなんか(だいぶ前の話しなので忘れてしまった)を持って職員室に入って来た。
で、私のそばにくると、他の教員に見えないように、サっとCDをその教科書のかげから出して、渡してくれたの。
これはかなり、感激だった。
私服を着てくるような生徒なんだから、CD持ってくるくらいヘイチャラだと思うのね。だからこれは、生徒にCDを持って来させたとなると私の立場が悪かろうという、彼なりの気遣いだと思ったの。
ほんとに彼は問題行動の多い生徒ではあったけれど、私の中では悪い印象がないのは、このCDの件があるからかなあ。
彼は今どこで何をしているんだろうね。