もう一つの瞳

 高校2年の冬、私は、右眼の光を失いました。
 そして、私の右眼が、この世で最期に見ることができたものは、どこまでも続く澄んだ冬の真っ青な空とベットサイドのテーブルの上の温かい橙色のオレンジでした。
 今となっては、この右眼が見えていたことすら思い出せないのですが、当時の私にとっては、かなりのショックだったにちがいありません。
 そんな時、私を救ってくれたのは、熱心に私の話に耳を傾け、最期の最期までできる限りの処置をしてくださった病院の主治医の先生をはじめとする先生方や看護師さんたちの温かさでした。
 そして、今、私が、右眼の光を失ったことを後悔せずにすんでいるのは、当時の医学で可能な治療はすべて受けることができたと私自身が納得しているからでしょう。それは、病院の先生方のおかげだと思っています。
 確かに、私は、右眼の光は失いました。
 しかし、その時、先生は、教えてくれました

  人間には、左右の瞳のほかにもう一つ大切な瞳があって、その瞳を閉じてしまわない限り、光は永遠に失わない
  そして、その瞳は、私自身の心の中に存在し、私の生き方一つでかすむこともあれば澄みきった空のようになることもある…と

 あれから、もう10年以上経ちます。今の私のもう一つの瞳は、右眼が最期にみた空のように澄んでいます