腕時計

 今、私の手元には、ちょっと古ぼけた腕時計がある。
 亡くなった祖母の家を片付けていた時、母が見つけてくれた祖母の形見である。
 見つかった時には、かろうじて秒針は動いていたものの竜頭がなく、ネジを巻くことも時間を合わすことも
できない状態だった。かなり古いもののようでもあり、修理は無理だろうと思われたその時計だが、私は、
馴染みの時計屋さんに事情を話して無理を承知で修理をお願いした。程なくして、その時計は、また新たな
時間を刻み始めた。
 やはり、かなり古いものだったらしく、部品自体がメーカーにもなかったらしい。それでも、時計屋さん、事情
を汲んで、その時計にあう部品を探し、その時計の命を吹きかえらせてくれた。儀だらけだったガラスも交換
するガラスは見つからなかったらしいけれど、可能な限り綺麗に磨いてくれていた。
 電池式だとばかり思っていたその時計は、ネジ巻き式の時計だった。毎朝、ネジを巻いてあげないと遅れて
しまうし、文字盤も見にくく、私には、ちょっと使いづらい時計であることには違いない。第一、時間を確認する
ための時計であって、その時計では、私の瞳では時間を確認することができないのだから、もしかしたら、時
計としての役割は果たしていないのかもしれない。
 それでも、私は、毎朝その時計のネジを巻き、時には、仕事に行くとき、腕にする。
 その腕時計は、私にとっては、時計というよりもお守りのようなものかもしれない。