SYNCHRONICITY TWINS STORY

NECRONOMICON

ACT.1 01日 木曜 午後(メイ編・告別式)

父が亡くなった・・・・・。
僕の双子の兄、阿部 清(アベ セイ)は、父の死を知って声をあげて泣いた。
父の弟子である相楽 伊吹(サガラ イブキ)は涙こそ見せないものの
目を真っ赤に泣き腫らしていた・・・。
・・・・・だが、僕は涙がでなかった。
もしかして僕は、とても冷たい人間なのだろうか?

今僕は父のお葬式で『弔いの舞』を舞っている最中だ。
僕の家は古くから伝わる陰陽士の家系だ。
お葬式も家の慣わしに従って特別な方式で行われる。
だから父の死によって当主を継承する僕が、故人を弔って舞わなければならない。
父は生前、とても厳しい人だった。
僕や伊吹に退魔士としての修行を施したのも父だ。
修行はとても過酷だった。
退魔剣術最強を誇る父の技のほとんどは伊吹が継承した。
僕は剣術は苦手だったので多くの術を学んだ。
父が術を使うことはあまり無かったが、もちろんその能力は超一流だ。
僕はそんな父を誇りに思っていた。
・・・と同時に、こういう日がくることも覚悟していた。
僕は父の死を驚くほどあっさり受け入れた。


僕は無心で舞を続けていた。
だからこの時おこったある変化に気付かなかったのだろう。
・・・舞が終わると同時に気付いた。
祭壇に置かれていた宝珠が消えていたのだ・・・。

昨夜父の遺書に目を通し、今日の儀式に必要な葬具を用意した。
ほとんどは裏の倉庫にしまわれていたが、
ひとつだけ最初からこの部屋にあったものがある。
遺書に、最も重要な物として記されていた宝珠だ。
宝珠はいつのまにかそこにあった。
だが誰も、その時までこの宝珠の存在に気付いていた者はいなかった。
昨日まで誰も宝珠を知らないのに、宝珠はそこに置かれていたんだ。
そして今はその宝珠が、ふたたびいつのまにか消えていた・・・。

舞を終えた僕は、喪主である母、阿部 満恵(アベ ミツエ)に宝珠について尋ねてみた。
満恵   「明さん、ご苦労様でした」
メイ   「母さん、僕が舞っている最中に祭壇で何かあったのですか?」
満恵   「何か?・・・これといっては・・・・・何故?」
メイ   「いえ、祭壇に置かれていた宝珠が無くなっていたので、
      何かご存じかと・・・」
満恵   「宝珠・・・?一体何のことです?」
メイ   「え・・・、葬具の宝珠ですよ。昨日・・・」
満恵   「そんなもの・・・あったかしら?」
メイ   「そんな、確かにありましたよ!一体どうしたんです!?」
満恵   「・・・とにかく私は覚えていませんね」
メイ   「そんなバカな!?そうだ、父さんの遺書に書いてありますよ!」
満恵   「遺書?・・・・・あの人は遺書なんか遺していませんよ?」
メイ   「そ、そんなっ!?なに言ってるんです、母さん!!」
満恵   「・・・・・明さん、疲れているのね。
      それに・・・・・よほどショックを受けてるようだわ。
      今日はもう休みなさい」
メイ   「・・・・・」
・・・・・ウソだ。
隠しているのだろうか?
それとも記憶が消されているのだろうか?
だとしたら、誰が何の為に・・・・・。
遺書も宝珠も、確かに存在していた。
だが、宝珠は消え、遺書は母が管理していた。
その母が遺書の所在を知らないと言う以上、誰にも見付けられないだろう。
ともかく、これ以上問いただしても成果は上がりそうにない。
ここは引き下がるしかないようだ。

母から離れて裏から廊下に回ると、
印間(インマ)の入り口付近で所在無さげにうつむいているセイが目に入った。
メイ   「セイ、・・・・・」
セイ   「・・・メイ、おつかれだったな」
彼が僕の双子の兄、阿部 清だ。
かなり落ち込んでいるようで、いつもの覇気がない・・・。
メイ   「うん・・・。
      終わったよ。全部ね・・・・・」
セイ   「今日は座ってただけなのにスゲー疲れた。
      舞ってたオマエはもっと疲れてんだろ。
      明日は学校だし、さっさと寝ちまえよ」
メイ   「うん。セイも今日は早く・・・・・」
伊吹   「お疲れ様でした。メイ」
メイ   「あ、伊吹・・・。
      うん。これで終わりなんだね・・・」
伊吹   「きっとお師匠様もご満足されているでしょう」
彼女が父の弟子、相楽 伊吹だ。
彼女は家に住み込みで修行している。
父の仕事を手伝って謝礼をもらい、それを実家に仕送りしているらしい。
とても健気な家族想いの女の子だ。
僕ら兄弟と同い年だけど、とてもそうは思えないくらい凛々しくてしっかり者だ。
本人は、『実家が貧しいので自分がしっかりしなければならないから強がっているだけ』
と謙遜しているけど、僕にはとても真似できないくらい凄い。
伊吹   「・・・セイ。何か言ったか?」
セイ   「イヤ、ナニモ・・・・・」
伊吹は鋭い。
またセイが変な事を考えてたのを見抜いたみたいだ。
伊吹   「さっきから何だ、セイ。
      人の顔をジロジロと・・・・・」
セイ   「イヤ、喪服姿が色っぽいなと・・・」
伊吹   「キサマ、こんな時になんという不道徳な!!
      叩き斬る!!!」
メイ   「わっ!伊吹、落ち着いて!!」
セイと伊吹はいつもこんな調子だ。
たぶん仲は悪くないと思うけど、喧嘩ばかりしている。
困ったもんだよね。
セイ   「斬るって、カタナ無しでか?」
伊吹   「はっ、しまった!!」
セイ   「さすがに葬式には刀を持ち込めねーよな」
伊吹は常に真剣を帯刀している。
たぶん国に特別に許可されているんだと思う・・・・・たぶん。
伊吹   「お、おのれ〜・・・ならば手刀だ!!」
セイ   「オイオイ」
満恵   「何を騒いでいるのです!」
伊吹   「お、奥様!」
メイ   「母さん」
そしていつも母や父にたしなめられるのだ。
・・・・・もう父がたしなめる事はなくなったけれど・・・。
満恵   「伊吹さん、明さんは疲れているのです。
      早く休ませてさしあげなさい」
伊吹   「す、すみません・・・」
メイ   「か、母さん、僕は別に・・・」
満恵   「メイさん、ご苦労様でした。
      早くお休みなさい」
メイ   「は、はい」
満恵   「・・・・・。
      清さんも」
セイ   「ああ。わーってるよ・・・」
満恵   「では、失礼・・・・・」
母は少しばかり急いでいるように立ち去った。
メイ   「それじゃ、僕たちも寝ようか。
      明日も早いしさ」
セイ   「そうだな。寝ようぜ」
伊吹   「フン、セイ。今日の所は退いてやるが軽口には気を付けることだ」
セイ   「へいへい」
いいかげん二人とも止める方の事を考えてほしい・・・・・。

僕達はそれぞれに自室へと戻った。
セイがすでにお風呂に入ったようなので僕は少し時間を持て余した。

しばらく何をするでもなく過ごしていると突然障子に人影がうつった。
伊吹   「メイ、いますか?」
メイ   「伊吹か、どうしたの?入りなよ」
伊吹   「すこしだけ失礼します」
メイ   「伊吹、もうすぐ僕が当主になるからって
      そんなにかしこまってしゃべらなくてもいいよ」
伊吹   「・・・そうか?ならば普通に話そうか」
メイ   「うん」
伊吹は普通のしゃべり方も少し変わっているけど、それには触れずにおこう・・・。
メイ   「それで・・・どうしたの?」
伊吹   「心中お察しする。
      そして同時に当主就任の重責・・・。
      それゆえ気丈に振る舞っているのだろうが・・・、
      父上が亡くなられたのだ。
      もっと自分に素直になっても良いのではないか?」
メイ   「素直に・・・?」
伊吹   「うむ、昨日のセイ程ではないにせよ、
      実の息子が父の為に涙を流すことは決して恥ずべき事ではない・・・」
メイ   「・・・・・」
伊吹   「無理は体に良くないしな・・・」
メイ   「うん、無理はしてないよ・・・」
無理はしてない・・・・・。
伊吹   「・・・そうか」
メイ   「・・・ありがとう、伊吹。
      でも心配しなくても、僕は大丈夫だから・・・」
伊吹   「・・・心得た。
      自分の事だ、自分が一番良く分かっているだろうな」
メイ   「・・・・・うん」
伊吹   「余計な事だったな、忘れてくれ。
      では失礼する」
メイ   「そんなことないよ、ありがとう。おやすみ」
伊吹   「うむ」
・・・・・。
伊吹・・・、心配してくれたんだな・・・。
・・・・・。
やっぱり、涙のひとつも出ないなんて、不自然・・・だよね。
周りには、無理してるように見えるんだな・・・。

いつの間にかセイはお風呂をあがっていたようだ。
なんだか凄く早い・・・気のせいだろうか?
とにかく僕も入って早くねなくちゃ・・・。


床についた僕はしばらくして不意に強い邪念を感じた。
と同時に僕の体は金縛りになっていた!
そして暗い邪気をはらんだ地の底から響くような何者かの声を聞いた・・・。
?    「我を戒めるは何者じゃ?」
薄闇の空間にたたずむ影が見える・・・。
?    「何も見えぬ、何も聞こえぬ・・・」
影が嘆く。
そして闇に溶け込み、消えていく・・・。
いったい何なんだ?
突然目の前に影が聳える!
そいつの呪いに満ちた目が僕を睨み付ける!
?    「我を縛す新たなる業者(行者)
      ・・・・・かの者に災いを・・・。
      死への呪いを・・・」
そいつが僕を飲み込む!
メイ   「・・・・・う・・・・う、ぁああああああ!!!」

?    「メイ!どうした!!」
メイ   「う・・・ううううう・・・・」
?    「メイ!!」
メイ   「う・・・うう、・・・セ、セイ・・・・・」
セイ   「メイ、気がついたか・・・」
メイ   「セイ・・・僕、うなされてた?」
セイ   「ああ。大丈夫か?凄い汗だぞ」
・・・・・。
夢・・・・・か。
メイ   「大丈夫みたい、だけど・・・」
セイ   「だけど?」
メイ   「ううん、なんでもない・・・・・」
はっきりと、覚えてる・・・。
夢の内容を・・・。
あれは・・・何なんだ。
セイ   「・・・そうか。ま、あんな事があった後だし、
      気をしっかり持てよな」
メイ   「うん、ありがとう。セイ」
セイ   「しっかりしろよ次期当主、じゃあな」
メイ   「うん、おやすみ」




Topics

TOP