SYNCHRONICITY TWINS STORY

NECRONOMICON

ACT.1 02日 金曜 午後 (セイ編・殺人現場)



チャイムが鳴って午後の授業が始まる。
五時間目は日本史だ。
社会科担当は山下 茂蔵(ヤマシタ シゲゾウ)って先生だ。
この先生は我が校ダントツの最年長教師だ。
たぶん定年ギリギリだろうな。
長老だ。老師だ。
俺もそろそろ還暦祝いを考えとかなきゃいけないだろう。
授業中いつ天に召されてもおかしくないアブナっかしいご老体だ。
ま、老体に鞭打って頑張ってるんだ。
暖かく迎えてやろうぜ。
じゃないとお迎えがきて川渡っちまうかもしんねーからな。
おっと、山ジイのお出ましだぜ。
山下   「それではさっそく授業をはじめよう。
      新城君」
新城   「起立!礼・・・・・着席」
礼儀にうるさい古風な先生なんだ。
だから礼に始まり礼に終わる。
伊吹はこういうのが好きだから実に爽やかそうな表情だぞ。
・・・・・。
山ジイが礼したまんま止まってる・・・・・。
教室をざわめきが包み込む・・・。
セイ   「や、山ジイ!!もどってこーい!!」
花穂   「だ、誰か!誰かー!!」
新城   「ご臨終ですね」
セイ   「寿命か?寿命なのかっ!?」
ヒサシ  「薬だ!薬!」
佐竹   「よし、人工呼吸だ!」
悦子   「電気ショックの方が・・・」
ヒサシ  「レスキュー隊だ!」
佐竹   「心臓マッサージだ!」
花穂   「アンタがやったら押しつぶしちゃうでしょ!」
セイ   「逝くな!山ジイ〜!!」
突然伊吹が席を立ち山ジイの背後にまわる。
セイ   「な、何する気だ?」
伊吹   「・・・・・喝!!!!!」
山下   「おぉ!お花畑が・・・・・ん?ここは・・・」
どうやら伊吹が山ジイの魂を肉体に連れ戻してくれたようだ。
まったく、ビビらせてくれるぜ・・・。
こっちの寿命が縮まっちまう・・・・・。
山下   「さて今日は40ページから・・・・・」
事も無げに授業再開だ。
マジで大丈夫かよ、このじいさん・・・・・。

それからは山ジイにお迎えがくることもなく無事に授業は終了した。
さて、これであと一時間だ。
今日もホント長かったよな。
大統領より貴重な俺様の時間を6時間も奪うんだから学校ってトコも罪な場所だ。
セイ   「ふぃ〜、疲れた〜」
ヒサシ  「お前らは休みあけだしな」
セイ   「まーな〜」
ヒサシ  「そういえば、昨日は何で休んだんだ?
      聞いたところによるとお前らだけじゃなく
      B組のメイも休んでたらしいじゃん」
セイ   「まーな〜」
伊吹   「・・・・・」
ヒサシ  「全員そろって風邪なんてこと信じられねーな」
そうか、学校には昨日俺とメイと伊吹は風邪で休んだことになってるんだな。
世間的にはまだウチの親父が死んじまった事は公表されてねーんだ。
親父は一応『国家の要人』らしいからな。
混乱を避けるためしばらく伏せてあるんだと。
どうやら明後日の日曜日に盛大な告別式が開催されるらしい。
天皇陛下主催で、世界中から名のある退魔士連中を集めて行うんだと。
その時メイの当主就任と親父の死が公表されることになっている。
セイ   「風邪だも〜ん」
ヒサシ  「んなワケねー」
セイ   「トイレ行ってこよーっと」
ヒサシ  「あ、ちょっと待てよ!
      なんで隠すんだ?ひょっとして旅行でも行ってたんじゃ・・・。
      相楽、昨日何してたんだよ?」
伊吹   「知らぬ」
ヒサシ  「自分の事を知らねーわけねーだろ!」
伊吹   「知らぬ」
伊吹は鉄仮面状態だ。
言ってることはほとんど三流政治家並だがね。
ヒサシ  「ちっくしょ〜、俺だけ仲間外れにしやがって〜」
ヒサシはイジケちまったぜ。
別に楽しい事してたワケじゃねーのにな。
単なる国家機密だ。
誰だって国家機密の一つや二つ隠してるじゃねーか・・・。なあ?
まあイジケ虫はほっといてマジでトイレ行こう。

・・・・・。
現在廊下に出てB組の前にさしかかっている。
・・・妙だ。
なんかこの辺だけヤケに女子どもがヒソヒソ噂話してるぜ。
大声で堂々としゃべればいいじゃねーか。
それともそんなに他人に聞かれたくない話なのか?
だったらしなきゃいいのによ。
そういう意味ではオープンな花穂は良い方だよな。
ま、それより今はトイレだ。
さっさとすませようぜ。
セイ   「たのもー!」
トイレのドアを豪快に開け放つ。
中の奴らはきっと焦るだろう。もし俺がやられたら生かしちゃおかない。
中には二人ほどヤローどもがいるようだ。
金村   「なんだよ、脅かすなよな!」
セイ   「あ、デコだ」
岩本   「誰かと思ったじゃねーか」
セイ   「デコーズだ」
岩本   「あ?なに言ってんだよ」
この不良野郎は確か・・・・岩本 鉄也とかいったっけ?
B組で金村のデコスケとつるんでるヤツだったような気がする。
典型的な不良だ。
今もどうやら『トイレでタバコ』を実践してたようだな。
金村のデコよりガタイはいい。
デコはコイツの陰に隠れながら威張ってんだな。
虎の威を借る小判鮫とワルぶってるだけの小心低脳ザルか。
お似合いのコンビだな。
岩本   「へへっ、まあいいや。
      よく来たなぁ。今度こそ俺らに見せてくれんのか?」
金村   「そうだ。実はよぉ、まだ便器に金が落ちてるみたいでよぉ。
      もう一回探してくれよ」
岩本   「嫌なら別にいいんだぜ?きっと山口が探すからよぉ」
セイ   「?、何言ってんだ?」
岩本   「オラ、とぼけてんじゃねーぞ。
      痛い目みたいのかよ!」
金村   「さっさと拾えよ!」
岩本   「そういえばさっきはよくも突き飛ばしてくれたなぁ!」
金村   「この落とし前どうつけてくれんだよ?」
岩本   「慰謝料でも払うか?オイ」
デコ大将が俺様の胸ぐらを掴んできやがったぜ。
金村   「オイオイ、これ以上怒らすんじゃねーよ!」
岩本   「オラ、殴られてーのォゴッ!!!」
とりあえず金的にヒザ蹴りしてやった。
金村   「な、な、な・・・・・」
岩本   「おぉおぉおぉ・・・・・・」
前屈みになって苦しんでるな。
カワイソウだからとどめをさしてやろう。
ちょうどいい高さにある顔面にキックを浴びせよう。
岩本   「ごあっ!!」
もうKOだ。
ガタイのワリにチョロイ奴だ。
金村   「お、お前、まさか・・・まさか・・・阿部・・・セイか!?」
セイ   「ピンポ〜ン♪大正解!
      正解者にはご褒美として半殺しだーっ♪」
金村   「ヒイィィィ!!」

金村   「ううぅぅぅ・・・・・」
とりあえず飽きるまでボコボコの刑に処してやったが、
・・・・・これからどうしようか。
岩本   「うぅぅぅぅ・・・」
岩本も完全グロッキーのようだな。
小便器のひとつにきれいにはまっておとなしく気絶中だ。
セイ   「そうだ、たしかさっき便器に金が落ちたとか言ってたよな?」
金村   「うぅうぅ・・・・・」
セイ   「じゃ探そうぜ。オマエがな」
金村   「う、ううっ!!」
セイ   「せっかくだから潜って探せよ。サルベージだ」
金村   「い、イヤァァァ〜っ!」
暴れるので強制的に顔から潜らせてやろう。
デコ君は真剣に水中探索中だ。
セイ   「水がジャマだよな。飲み干しちゃえよ」
金村   「ボコボコボコッ!!」
嫌と言うほど首を振っている。
これ以上やると溺れるのでそろそろ潜水終了だな。
水中から引き上げてとりあえず壁に叩きつける。
今回のサルベージは無念な事に成果無し。残念だ。
金があるってのはガセネタだったようだな。
セイ   「じゃあな。あんまりトイレ汚すなよ」
俺は非常に道徳的な言葉を残し、トイレをあとにした。
これで次からはきれいに使うよう心がけることだろう。
良いコトをしたな。

ふたたびBクラスの前を通りかかる。
まだヒソヒソしてやがるぜ。
女子ってのはどうしてこう噂話が好きかねぇ。
千歳   「ねえねえ」
セイ   「どわあッ!!」
千歳   「実はね・・・」
セイ   「オマエか・・・。脅かすなよ・・・・・」
まったくこの妖怪は・・・。
いつ出てきても心臓に悪いぜ・・・。
千歳   「さっきウチのクラスに噂が流れてきたんだケド・・・」
セイ   「ああ、なんなんだ?さっきからヒソヒソしやがって気分わりーぜ」
千歳   「ジツはね、メイちゃんの悪い噂がながれてるの・・・」
セイ   「メイの?」
千歳   「うん。なんかメイちゃんがトイレに落ちたお金拾ったんだって。
      みんな『そんなにお金が欲しいのか』『卑しい』って言ってる。
      ホントかな?」
なるほど、そういう事だったのか。
・・・・・。
・・・・・ふーん。
よぉし、それなら・・・・・。
セイ   「なんだソレ?どこでそうなったんだろーなぁ。
      全然間違いじゃん、その噂」
千歳   「違うの?」
セイ   「違うチガウ。だって拾ったのって俺だもん」
千歳   「セイちゃん?」
セイ   「そ」
千歳   「ホントに?」
セイ   「本人が言ってんだ。間違いねえって」
千歳   「そうだったんだ」
クッ・・・、そうアッサリ納得されるのもどうか。
セイ   「そー。まったく噂ってのはコワイよな。どこでどう変わるかわからねェ」
千歳   「そーなんだ。でもなんで拾ったの?」
セイ   「俺は卑しいからだ。当然じゃねーか。
      そこに金があるんだぞ!拾わねーなんてナンセンスだ!」
千歳   「そっか。セイちゃん卑しいもんね」
グッ・・・、そんなハッキリ言うな!
千歳   「でもみんな汚いって言ってるよ?」
セイ   「バカモン!オマエら金をなんだと思ってるんだ?
      金ってのはな、俺らの両親が俺らを育てるために、
      必死になって、汗水たらして頑張ってくれた、労働の代償なんだ!
      それを、たとえわずかでも無駄にするなんてとんでもない!」
東郷   「えらいぞ阿部ーっ!!!!!」
セイ   「だあ!どっからわいて出た!!」
東郷   「貴様こそ真の漢だ!男の中の漢だ!!
      お前のような若人がこの荒みきった現代にいてくれたとはっ!!」
セイ   「ど、どうも・・・」
東郷   「俺は感動しているーっ!!!」
セイ   「ハイハイそりゃどーも・・・」
東郷   「うおおおおーっ!
      天野!俺はいまから屋上で叫んでくる!
      阿部の魂を俺の叫びに変えて全校生徒にぶつけるんだ!!
      六時間目は多少遅れるが案ずるな!俺は必ず行く!!」
セイ   「あーそう、がんばって・・・・・」
東郷   「うおおおおおおー!!!」
東郷は大粒の男の汗を目から流しながら駆けていった・・・・・。
佐竹   「・・・・・阿部」
セイ   「げっ、ゴリ!」
佐竹   「見直したぞ阿部ー!」
抱きついてきやがった!
ヤメロむさ苦しい!!
佐竹   「うおおおおー!!!」
ゴリラも叫びながら屋上に駆けていった・・・・・。
なんなんだ・・・。
千歳   「よくわかった。アリガトウ」
セイ   「おっと、待て待て。
      実はな、俺は金を拾っただけだが・・・」
千歳   「なになに?」
セイ   「お前のクラスの金村って奴はもっとスゲーぞ!
      なんと、トイレの水を飲み干したんだぜ」
千歳   「マジ?」
セイ   「マジマジ。しかもうまそーに飲むんだコレが。
      オマケになんか興奮気味でよ、ありゃ変態だな」
千歳   「フフフ・・・。オモシロイ事聞いちゃった」
セイ   「だろ?」
千歳   「アリガトウ。
      じゃあ代わりにアタシも一個オモシロイ噂話を教えてしんぜよう」
セイ   「あ、ああ。そりゃご丁寧にどーも・・・」
別に俺は噂なんて興味ねーんだけどな。
つきあいで、きいてやるか。
千歳   「最近ね、出るんだって」
セイ   「でる?」
千歳   「ウチの学校で去年、謎の失踪を遂げた女子高生の霊が・・・
      街中で目撃されてるらしいよ」
セイ   「・・・生きてんだろきっと」
千歳   「出会った者は彼女の邪魔をしてはならない。
      もし彼女の邪魔をすると・・・・・『柚菜の怨霊』・・・」
セイ   「カミングスーンかよ」
千歳   「・・・おしまい。
      それじゃあ皆にメイちゃんの真相を広めなきゃ」
セイ   「オウ、じゃーな」
千歳   「ねえねえミンナ聞いて聞いて〜!!」
千歳はウキウキしながらアニメ走法で教室に駆け込んで行ったぜ。
さっそく噂を広めてくれそうだ。
これでよからぬ噂は一新され、デコスケ変態説が飛び交うだろう。
今日はたくさん良いことをしたな。
もうすぐに授業が始まるし、急いで教室に戻ろうぜ。

教室に戻った途端、花穂がツカツカ早歩きで迫ってきた。
花穂   「セーイー、ドコ行ってたのよー」
セイ   「ん?どうかしたのか?」
花穂   「どうかしたのか?じゃない!
      次理科でしょ?こないだセンセーに言われたじゃん。
      『遅刻のバツとして次の授業の時、始まる前にビデオの準備しときなさい』
      ってさ。忘れたの?」
セイ   「あ〜、そーいやそんな事もあったっけかなぁ?」
そうだ、たしか一昨日の一時間目が理科で、
その日朝練だとか言いながら縄田と夢中でブレード滑ってて
気がついたら遅刻してたんだ。
その罰としてビデオのセッティングを課せられていたんだった。
花穂   「もぉ、しっかりしてよ」
セイ   「あれ?でもすでにビデオあるじゃん」
花穂   「セイがいないから・・・ア、アタシが、やっといたんだよ・・・」
セイ   「花穂が?イヤーわりぃな。そうか助かった」
花穂   「・・・・・」
セイ   「借りができたな。よし、今度なんかオゴるよ」
花穂   「ホ、ホント!?」
セイ   「ああ、楽しみにしてな」
花穂   「絶対だからね!忘れないでよ」
セイ   「お、おう・・・」
花穂   「やったね!ラッキ〜☆」
スゲー喜んじまってるな・・・・・。
そんなにオゴられるのが嬉しいのかね。
こんだけ期待されちゃヘタなもんオゴれねーぜ・・・。
だが、まぁ恩は返さねーとな。
さて、もう授業が始まるし、席につかねーとな。
セイ   「・・・・・」
伊吹   「・・・・・」
セイ   「・・・・・」
伊吹   「・・・さっきから何やら上が騒がしくないか?」
セイ   「・・・・・」
ヒサシ  「なんか叫び声が聞こえるような・・・」
伊吹   「お前もか?実は私もさっきから・・・」
セイ   「きっと野獣が吠えてるんだろ」
伊吹   「本当にそんな感じだ・・・」
セイ   「ま、気にするな。センセーが来たぜ」
理科担当教師、須々木 雄三(ススキ ユウゾウ)。
この男を一言で表現するとしたら・・・・・ヒゲだ。
それ以外にはなにもない。
ヒゲ。
まさにヒゲ。
それだけだ。
見ろ、立派な口髭をはやしてるだろ?
あれくらいになるのにどれくらいの時間がかかると思う?
1時間だ。
奴はきっと昼休憩にヒゲを剃ったに違いない。
さっきまで青々としていたハズだ。
だがすでに、いつアルプスの少女が訪ねてきてもおかしくない風貌だ。
おそろしい奴だろ?
いつもヒゲに覆われているため、素顔がどんな顔かは俺は知らない。
年齢も不詳だ。
須々木  「阿部君、ちゃんとビデオの用意しといたみたいだな」
セイ   「あ、ああ、一応・・・」
須々木  「よろしい」
セイ   「はは・・・どーも」
花穂   「ヘヘ☆」
花穂が振り向いて笑顔をみせる。
ああ、わかってる。花穂のおかげだよ。
とりあえず100万ドルの微笑みを返しておいた。
須々木  「というわけで、今日はビデオを観る。
      寝ずにちゃんと観るんだぞ」
カーテンを閉めて部屋の明かりを全て消し、ビデオが再生される。
でもなんでこんな真っ暗な部屋で観るんだろうな?
なんか目が悪くなりそうな気がするのは俺の取り越し苦労か?
ヒサシ  「きゃあ〜、暗いのコワイ〜」
必ずこういうバカがいるんだよな。
佐竹   「遅くなりました」
真っ暗な部屋に突然ゴリラが乱入してきた。
そういやこのバカゴリラ、屋上で叫んでたんだっけ・・・。
しかしまぶしいな。
さっさとドア閉めやがれ。
なんか奴に後光がさしてるみたいだ。
ゴリラ神が降臨してるみてーだ。
須々木  「なにやってたんだ。遅刻だぞ」
佐竹   「すんません。だけど東郷先生と一緒だったんで」
須々木  「そうか、何か用事だったのか。じゃあよろしい。
      はやく席に着きなさい」
佐竹   「うす」
アレが用事として通用するのか・・・。
世の中間違ってないか?

だいぶ時間が経過した。
ビデオも授業時間もそろそろおしまいだ。
ビデオが始まってものの10分で須々木はおネムしちまった。
それからヒゲはずっとおねんねだ。
いやそれは間違いだな。
ヒゲは寝てなんかいない。
ノンストップで伸び続けている。
身体が寝ているだけだ。
俺は最近このヒゲが須々木の本体なんじゃないかと思っているんだがどうか?
きっとヒゲが身体を操っているんだ。そうにちがいない。
なんてことを考えてるうちにビデオ終了だ。
そして、六時間目の授業も終了だ。
つまり、これにて本日の授業も全て終了だ。
ふー、長かったなー。
疲れたぜ。
一日六時間の授業って長いよな?
四時間にしろ、四時間に。
とにかくこれでもうすぐ帰れるぜ。


ヒサシ  「あー疲れた〜。なあ今日これから公園行くだろ?」
セイ   「当然。昨日滑ってねーからな、欲求不満だぜ」
新城   「キミたち、まだあんなくだらない事してるのかい?
      まったく、なんになると言うんだい。
      あんな事してても受験の役に立つわけでもないのに」
セイ   「なんだとガリ勉・・・」
花穂   「いいじゃない!」
新城   「水森さん・・・」
花穂   「自分のやりたいコトやって何がわるいのよ!」
新城   「いや、別に悪いとは・・・」
花穂   「見たこともないクセに・・・勝手なコト言わないでよ!
      好きなコトを真剣にやってるのって・・・
      アタシは、カッコイイと思うもん・・・・・」
新城   「あ、いや・・・その・・・・・」
花穂   「アンタに、それだけ真剣になれるものある?!」
新城   「そ、それは・・・」
花穂   「なにもないクセに偉そうなコト言わないでよ!」
新城   「す、すいませんでした・・・・・」
新城は退散した。
花穂のヤツ、めずらしくマジだな・・・。
セイ   「・・・花穂?」
花穂   「・・・・・」
ヒサシ  「どうかしたのか?」
花穂   「・・・・・アタシも無いからさ・・・」
花穂は力無く微笑む・・・。
少し痛々しい表情に思える。
花穂   「だから、アタシにとって、眩しいくらいのセイ達が、
      あんなふうに悪く言われるのって、なんか、悔しいんだよね・・・」
セイ   「・・・・・花穂」
花穂   「アタシが男だったらな・・・・・」
ヒサシ  「へ?」
花穂   「・・・ヒサシがうらやましいよ」
ほんの一瞬、とても哀しそうな笑顔を浮かべる。
ヒサシ  「な、なに言ってんだ?」
花穂   「ヘヘッ、なんでもな〜い☆」
いつもの明るい笑顔に戻る。
コロコロ表情の変わるヤツだ。
だがあらためて思えば、花穂のあんな表情ははじめて見たような気がする。
東郷   「着席だ」
おっと、東郷が現れたぜ。
ホームルームの時間だな。
東郷   「まず来週の連絡事項は・・・」
いつものホームルームが始まる。
別にこれといって変わった連絡もないようだ。
東郷   「それと掃除の分担は各自わかっているな?」
俺らはたしか教室だったな。
俺は伊吹、ヒサシ、花穂と同じ班だ。
東郷   「おっと、それから今日は街でなにやら騒ぎがあったようだ。
      寄り道せず帰宅し、帰宅後もあまり出歩かないほうが賢明だ。
      では各班掃除にとりかかるがいい。
      以上、解散!」
さてさて掃除だ。
ちゃっちゃとやっちまおうぜ。

花穂   「伊吹はこれからどーすんの?」
伊吹   「どうとは?」
花穂   「すぐ帰る?セイ達は公園行くみたいだよ」
伊吹   「私はザクロパットとやらには興味はない」
ヒサシ  「アクロバット」
伊吹   「それだ。だから帰るが」
花穂   「ふーん・・・。まあいいや、じゃあ一緒に帰ろう☆」
伊吹   「かまわんが、水森の家は・・・・・」
花穂   「アタシ駅だからさダイトーの辺までは一緒できるっしょ」
伊吹   「・・・遠回りじゃないか?」
花穂   「ほんのチョットだからカンケーないって」
伊吹   「ふむ。それならかまわんが・・・。
      そうだ、メイも帰るだろうから一緒になるがよいかな?」
花穂   「イイに決まってンじゃん☆じゃキマリー」
セイ   「オラ、そこ。無駄話してねーでさっさと掃除しろ」
伊吹   「セ、セイに窘(たしな)められるとは・・・屈辱」
セイ   「いいからさっさとやれ」
花穂   「ゴメ〜ン。
      でもセイって掃除は真面目にやるよね?」
セイ   「掃除は、ではない。掃除も、だ」
伊吹   「戯言を・・・」
花穂   「なんで?」
セイ   「真面目にしちゃイケナイのか?」
花穂   「う〜ん、似合わない・・・」
セイ   「失敬な。ヒサシ、ほうき」
ヒサシ  「ほらよ」
セイ   「キレイになると気持ち良いだろうが」
花穂   「そりゃそーだケド、セイが言うとなんか笑っちゃう」
セイ   「失敬な。ヒサシ、チリトリ」
ヒサシ  「ほいっと」
セイ   「俺の部屋はキレイなんだぞ」
花穂   「マジ?」
セイ   「いつもちゃんと片付けているからな」
花穂   「ウソォ〜、全然そんなふうに見えないヨ。なんか散らかってそう」
セイ   「失敬な。ヒサシ、雑巾」
ヒサシ  「オラよ」
セイ   「汚いのだけはニガテなんだ。
      どっちかってーと伊吹の方が部屋は乱雑だ」
伊吹   「やかましい」
花穂   「マジ?」
伊吹   「・・・残念ながら本当だ。
      コヤツ、何故か掃除だけは好きらしい」
花穂   「信じらんない・・・」
セイ   「それなら今度いっぺん見に来るか?」
花穂   「えっ?ホントに?行っていいの?」
セイ   「ああ。本当だってこと証明してやる。
      俺とメイと伊吹の部屋では俺の部屋が一番キレイだぞ」
伊吹   「だが最も綺麗なのは奥様の部屋だがな」
セイ   「黙れ最下位。あそこは生活感が無いからだ。勝てる方がおかしい」
伊吹   「最下位ゆーな!」
花穂   「ふ〜ん、じゃ今度おじゃまするね」
セイ   「おう。歓迎するぞ。粗茶くらい出すかもな」
花穂   「わ〜い、楽しみッ♪」
セイ   「それはいいが花穂もちゃんと掃除しろ」
花穂   「え〜、めんどくさ〜い」
セイ   「ヒサシとゴミでも捨ててこい」
ヒサシ  「花穂は当然だがなんで俺もなんだよ」
セイ   「便利屋だからだ。それに一番働いたのは俺だ」
ヒサシ  「相楽は」
伊吹は意地になって黒板を磨き上げている。
よほど必死なのだろう、艶やかな黒髪が粉まみれだ。
セイ   「伊吹は俺に対抗心を燃やして黒板と格闘中だ」
ヒサシ  「ちぇ」
ヒサシと花穂はしぶしぶゴミを捨てに行った。
まったくアイツ等ときたら、少しは俺を見習って真面目にやれっての。
伊吹   「ふわっ!」
セイ   「伊吹、風下は逆だ・・・」

掃除も終わり『東郷チェック』の時間だ。
東郷   「・・・・・」
東郷のサングラスの下で鋭い眼光が光る。
東郷   「ふむ・・・よし、合格だ」
東郷のお許しがでたぜ。
これで帰れるな。
東郷   「とくにこの黒板が見事。
      あまりに磨き上げられているがゆえ、鏡のように教室を写している。
      ここまでとことん拭くとは、感服したぞ。MVPだな」
伊吹   「ふっ・・・」
東郷   「よろしい、では解散」
セイ   「うっしゃ〜、帰ろ帰ろ」
ヒサシ  「縄田も来るだろ?」
セイ   「だろーな。待っててやるか?」
ヒサシ  「そうしよーぜ」
伊吹   「ではセイ、我らはメイと帰る故、後ほど」
セイ   「おう」
花穂   「じゃあね〜、また来週☆さ、行こーか、伊吹」
セイ   「おう、じゃーな」
花穂   「バイバ〜イ☆」
伊吹と花穂が帰ってったぜ。
女っ気がなくなったが、気にすんな。
縄田迎えに行ってやろーぜ。

一年の階に降りてきたらすぐ縄田と鉢合わせになった。
コイツも二年の階に行こうとしてたらしい。
縄田   「ひどいっスよォ〜、置き去りにするんスからぁ〜」
セイ   「俺を恨むな、自身の未熟さを恨め」
縄田   「あれから昼休憩中ずっとお説教だったんスから〜」
ヒサシ  「ハハハ、そりゃヒサンだったな」
縄田   「でしょ〜?」
ヒサシ  「だから俺は校内で滑るのは嫌なんだ」
縄田   「ヒサシ先輩も捕まったことあるんスか?」
ヒサシ  「一度な。あれ以来校内じゃ滑ってない」
セイ   「臆病〜」
ヒサシ  「慣れっこのお前とは違うんでな」
縄田   「セイさんは警察にも平気で補導されてますもんね」
セイ   「別に平気じゃないが・・・」
ヒサシ  「いつもヒョウヒョウとしてたじゃねーか」
セイ   「あーゆー時は堂々としてた方がいいんだ」
俺達はバカ話しながら宮下公園に向かった。
当然三人ともローラーブレードでな。


宮下公園は家と学校の中間地点に位置する便利な公園だ。
ここから少し南下すると渋谷駅だぜ。
モヤイ像もあるぜ。
あの像は武田鉄●の生誕を記念して作られたと俺は思っている。
結構交通の便が良い場所だろ。
いつも人が掃いて捨てる程いるからうっとーしーけどな。
ま、それより俺らが使ってる宮下公園は、緑もわりかし多く水場もある。
なかなか綺麗な所だ。
練習にはうってつけだし、ギャラリーも結構集まってくるにぎやかな場所だ。
ここが俺達のアジトってカンジかな。
さて、到着だぜ・・・。
・・・・・。
セイ   「・・・なんだ?」
縄田   「朝よりは野次馬が減ってますが・・・まだいますね」
セイ   「なにがあったんだろーな・・・」
ヒサシ  「おい、アレってパトカーじゃないか?」
ヒサシが指さした先にはおなじみの白黒の車が停車していた。
もしコレが大きなパンダじゃないかぎり、パトカーで間違いないだろう。
でもなんでパトカーが停まってんだ?
もしかしてなんかの事件があったのか?
よくみりゃ公園入り口にビニールテープが張り巡らせてあるぜ。
んで、入り口に立ってるのは警察官だ。
何かあったのは間違いなさそうだな・・・。
ヤケにものものしい事になってるみたいだな。
アホなノーヘルにーちゃんの信号無視や、
変態オヤジの痴漢行為なんてなまやさしい事件じゃなさそうだぞ。
かなりの大事件があったようだ。
これなら朝から野次馬で埋め尽くされてたのも納得がいくな。
縄田   「なにがあったんスかねぇ?」
ヒサシ  「タダ事じゃなさそうだな・・・」
セイ   「こりゃ今日は公園に入れねーぞ・・・」
縄田   「そうっスね〜」
セイ   「どうしたもんかな・・・」
俺達が入り口でまごまご立ち往生していると、公園内から見知った女性が姿を現した。
奈緒   「今日はもうこれくらいでいんじゃない?」
警官となにやら話していたかと思うと、伸びをしながらぐるっと辺りを見回す。
その女性は野次馬に紛れる俺達をめざとく見付け、手を振りながら駆け寄ってきた。
奈緒   「よぉー、セイじゃん!こっちこっち」
手招きしながら自分が寄ってくる。
セイ   「奈緒サン」
ヒサシ  「奈緒サン!」
奈緒   「元気ー?」
セイ   「ええ、まあ・・・」
ヒサシ  「元気です!とても元気です!」
一宮 奈緒(イチミヤ ナオ)。
耳付きの独特な帽子をかぶってサングラスをズラしてかける
独自のファッションセンスをもつ年上の女性だ。
豹柄があしらわれたロングブーツにかなり裾の短いミニスカートも彼女の好みだ。
ハッキリ言ってここ渋谷でもひときわ目立つハデな人。
奈緒   「なんか悪いコトしてないだろーね?」
セイ   「してねーよ」
奈緒   「ふぅ〜ん、ホントかなぁ・・・。
      嘘ついてたら偽証罪で逮捕しちゃうぞ☆」
セイ   「ハイハイ・・・」
・・・・・そう。
じつはこの人、現職の刑事さんなんだ。
ハッキリ言ってぜんぜん見えねー!
これでも凶悪猟奇殺人専門の女デカなんだ。
ラフでルーズで、何を考えてるのか全然わからない変わり者。
だが他の刑事達と違い、何にでも理解を示す若者の味方だ。
アタマがとろけるくらい柔らかいんだろう。
だから俺達がこの公園を利用してパフォーマンスを披露するのを許可してくれている。
よって俺は頭が上がらないんだがな。
そういうのも含めて、結構お世話になってる人だ。
ま、気の許せる良い刑事さんだよ。
縄田   「それにしても、今日は何があったんスか?」
奈緒   「知らないのォ?ダッサ〜」
ヒサシ  「ダサさには関係ないっしょ」
奈緒   「あのさ、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど・・・・・耳かして」
俺達が聞く体勢をとるのを確認した奈緒サンは・・・・・。
奈緒   「ふぅ〜」
セイ   「ひゃ!なにすんだよ!」
奈緒   「あはは。冗談」
・・・・・。
何考えてんだ。
奈緒   「じつはね、昨夜この公園で変死体が発見されたのさ」
縄田   「変死体って・・・・・変な死体ッスか?」
そのまんまや。
奈緒   「そ。ビックリした?」
ヒサシ  「じゃ、殺人事件!?」
奈緒   「まだ断定はされてないけど、こんな自殺なんてねぇ・・・」
セイ   「・・・どんな死体なんだ?」
奈緒   「全身に無数の穴がボコボコ空いてる死体。
      しかも身元確認できる場所は全て失われているわ。
      いったいどんな凶器使ったらあんな穴が空くのかねぇ・・・」
セイ   「オイオイ、穏やかじゃねーな・・・」
奈緒   「だからアタシの出番ってワケ」
ヒサシ  「身元確認ならDNA鑑定は?」
奈緒   「誰と鑑定するの?」
ヒサシ  「そ、そうか・・・・・」
縄田   「どっちみち今日は公園使えないッスね・・・」
奈緒   「まぁね」
縄田   「どうします?帰りましょうか?」
奈緒   「あ、そーだそーだ、ちょっと待ってよ」
セイ   「?」
奈緒   「アンタ達いっつもこの公園使ってるよね?」
セイ   「まあ・・・な」
奈緒   「だったらさ、捜査に協力してよ」
ヒサシ  「は?協力っつっても・・・」
奈緒   「大丈夫、簡単なコトだって。
      とりあえず現場を見て、いつもと違うトコとか、
      違和感があったら言ってくれればいいから。
      たったそれだけ。簡単でしょ?」
セイ   「むー・・・」
俺達は互いの顔を見合わせる。
皆『しょうがねーな』って表情だ。
セイ   「わーったよ」
奈緒   「サンクス!それじゃ、三名様ごあんな〜い」
水商売かよ・・・。
俺達は奈緒サンに導かれて公園に足を踏み入れた。

現場は一見普段となにもかわらない、ごく普通の公園の景色に思えた。
しかし、視線を地面に合わせるとそこには非日常の物体があった。
俺達日本人にはあまり馴染みのないモノ。
本来人は必ずこうなるはずだが、その場面を目の当たりにする機会はほとんどない。
つまり、俺達のような一般人は死体を目にすることに慣れていないのだ。
死体。
人の死体。
誰もが必ずこうなる、本来ならごくごく当たり前なモノ。
だが現代を生きる俺達には死はひどく曖昧なもののような気がする。
死体にはビニールシートが被せられているので直接見ることはできない。
それなのにこの圧倒的な存在感。
死んでいるので存在という定義は難しいが、
あきらかにソレがあること自体がとてつもない非日常を演出している。
しかもその死体は猟奇的に殺害されたものなのだ。
背筋が寒くなってくるぜ・・・・・。
こんな状況で普段と違うことを探すなんて無理っぽいぜ・・・。
奈緒   「とうちゃ〜く!ホラ、ここが現場」
ひとりだけヤケに明るいこの人も圧倒的な存在感だがな・・・。
縄田   「うわ〜、なんか凄いッスね〜」
ヒサシ  「あそこに死体があるんだろ?」
奈緒   「そうよ、見る?」
ヒサシ  「見ない見ない!」
縄田   「うわっ、あの辺血痕だらけッスよ!」
奈緒   「大量でしょ。しかもどうやら二種類の血液が検出されてんだよね・・・」
セイ   「それってどういうこと?」
奈緒   「可能性だけど、犯人ともみあいになった被害者が逆に怪我を負わせたとか」
ヒサシ  「反撃か。・・・でもなんか反撃の余地ナシってカンジの死体なんでしょ?」
奈緒   「変死体ってくらいだからね。だから可能性だって言ってるでしょ」
ヒサシ  「死亡推定時刻ってわかってるんですか?」
奈緒   「それが、死体に凍傷があってね。
      おそらく運搬中は凍らせてたんじゃないかな。だから推定時刻はわかんない」
縄田   「運搬中って、ここで殺されたんじゃないんですか?」
奈緒   「いくらこの辺りで血液が多く検出されても、これ全部で二人分だしね。
      これだけの傷でこの出血量じゃここの血が全部一人のものだとしても
      少なすぎるわ」
ヒサシ  「じゃあどこかで殺されて、凍って運ばれてきたってことか・・・」
セイ   「目撃者とかっていないのか?」
奈緒   「まったくナシ。
      それほど人目に付かない公園ってわけでもないのに、不思議よね〜。
      そんないいタイミングってそうそうあるもんじゃないと思うけどサ」
ヒサシ  「こっそり死体を持ってきてひっそり捨てたってことですか?」
奈緒   「う〜ん・・・可能性はゼロじゃないけど・・・難しいと思う」
セイ   「なんか探偵気分だな」
縄田   「そうッスね、なんかちょっと楽しいかも」
無理にでも明るく振る舞うことでかろうじて平常心を保つ。
奈緒   「さあ、じっくり見てみてみて。
      普段とほんの少しでも違うトコないかな〜?」
そんなこと言われても・・・、普段とあまりにも違うモノが目の前にあるし、
それがあまりのインパクトだもんなぁ、他のことは目につかねーよ。
奈緒   「ホラホラ、変なトコない?間違い探しみたいなもんだよ」
セイ   「う〜む・・・・・」
そう言われればなんか違和感があるような気もするんだが、
集中できねーよなぁ・・・。
奈緒   「身元どころか、遺留品もまったく無し。
      正直お手上げなんだよね〜。なんかないかな?」
セイ   「ちょっと、近寄っても、いい?」
奈緒   「いいわよぉ〜、いらっしゃい。かわいがってあ・げ・る」
セイ   「奈緒サンにじゃなくて死体にだよ・・・」
縄田   「うえ〜、気色悪いッスよ」
セイ   「我慢ガマン」
奈緒   「いいけど、おさわりはナシよ」
風俗じゃねーっての。
ヒサシ  「誰が好きこのんで死体に触りますか」
セイ   「だな」
死体は公園内でも特に植物が多く植えられている一角に投げ捨てられている。
俺達は植物をかきわけ、死体に接近する。
奈緒   「ここって結構生い茂ってるのに、みんな慣れたもんね」
セイ   「まぁね、ここ日陰だし、よくここで休憩するからな」
たしかに植物が入り組んでて進入しづらい場所だ。
俺達三人は慣れてるぶん奈緒サンより早く死体に接近する。
何度も通ってるからな、どう動けばスムーズに進入できるか身体が憶えてるんだ。
・・・・・あれ?
なんか違和感を感じるぞ・・・。
なにかが足りないような気がする・・・・・。
少し遅れて奈緒サンが寄ってきた。
奈緒   「ミンナはやいよぉ〜、レディを置いてかないでぇ」
セイ   「誰がレディだ」
ヒサシ  「奈緒サンに決まってるじゃねーか!」
奈緒   「アタシ、独身だしィ」
縄田   「でしょうね」
奈緒サンがテキサスのガンマンも顔負けのスピードで拳銃を構える!
奈緒   「なんか言った?」
縄田   「いえ、なにも・・・△」
奈緒   「口には気をつけないと怪我するよ」
怪我で済むとは思えないが・・・。
ヒサシ  「怪我といえば今日は引っかからなかったな、縄田」
縄田   「あ、そーいえば・・・気付かなかったッスね」
セイ   「そーだな。やっとかわせるようになったか」
ヒサシ  「つーか初めての奈緒サンが無傷なのがスゲー」
奈緒   「?、なんのコト?おねーさんにもわかるように説明して」
セイ   「ここに入るためにはこの草むら通らなきゃなんないだろ?
      でもこの途中に一種類だけトゲトゲのツルがある植物があるわけよ。
      これが引っかかるとイテーんだ。
      俺達も最初はよく引っかかってたんだけどな、
      縄田の奴は毎回引っかかるんだよ」
ヒサシ  「そーそー。初めてで引っかからないなんて運いいですね」
奈緒   「アタシってカンがスルドイからね〜」
縄田   「・・・・・ってゆーか、さすがに誰も引っかからないってゆーのは」
セイ   「めずらしいな・・・」
なんか引っかかる・・・・・。
引っかからないってことが妙に引っかかる・・・・・。
縄田   「セイさん、もしかして・・・・・」
セイ   「縄田、一回出てもう一回入ってこい」
縄田   「ういッス」
俺の命令通り縄田は草むらにまぎれ込み、ふたたび戻ってくる。
奈緒   「・・・・・ふむ」
縄田   「ただいまッス」
セイ   「どうだ?」
縄田   「それが・・・・・」
縄田が手をひらひらさせる。
どうやら無傷らしい。
ヒサシ  「奇跡だ!連続成功なんて奇跡だ!!」
この結果導き出される結論は・・・・・。
1、縄田が急成長を遂げた。
縄田に限ってそれはない。却下。
2、縄田の皮膚に鱗が生えた。
生えてない。却下。
3、トゲトゲのツルが存在しない。
可能性十分。検討の余地あり。採用。
セイ   「縄田、トゲトゲのツル探すぞ」
縄田   「ラジャーッス」
俺達は草むらを徹底的に探しまくった。
・・・・・。
5分後・・・。
セイ   「ない・・・・・トゲトゲがなくなってる」
奈緒   「・・・・・ふむ、まちがいないわね?」
縄田   「まちがいないッスよ。だってアレは一カ所しか生えてなかったッスから」
ヒサシ  「・・・ってことは?」
セイ   「誰かが引き抜いた・・・」
ヒサシ  「何のために?」
奈緒   「・・・邪魔だったから」
セイ   「そうだ、死体を運ぶとき邪魔だったんだ」
奈緒   「でも、いつも通ってるキミタチはなんで除去しなかったの?」
セイ   「してたよ、最初は」
ヒサシ  「でもアレって2、3日で元通りに生えちゃうんですよ」
セイ   「だからもうめんどくさくてサ。ほっといたんだよ」
そう、トゲトゲの木の生命力はハンパじゃない。
理科の須々木のヒゲ並にすさまじい生命力を誇っていたんだ。
俺達はあんまり面倒なんで除去を断念していた。
毎朝めげずに生命力あふれるヒゲを除去している須々木には頭が下がる思いだぜ。
ヒサシ  「だからたぶん明後日くらいにはもう再生してるんじゃないですかね」
奈緒   「そうなの。じゃあ少なくともトゲトゲちゃんが除去されて
      まだ1日くらいしか経ってないってことね・・・」
セイ   「犯人怪我してんじゃねーか?
      トゲトゲ刺さった状態で無理に前進すると結構深く食い込むんだぜ」
縄田   「そーッス!俺も一回泣きみましたよぉ」
ヒサシ  「あんときゃスゲー血塗れだったもんな」
奈緒   「なるほど・・・」
セイ   「・・・ってことはこの二種類めの血液は・・・」
奈緒   「犯人・・・のものである可能性が高くなってきたわね」
縄田   「スゴイッスよ!大発見じゃないッスか!」
奈緒   「・・・・・ほかにはなんかある?」
ヒサシ  「フッフッフ、この少年探偵団におまかせあれ」
少年って歳ではないだろう・・・。
かといって青年探偵団じゃあまりにも恥ずかしいがな・・・。
なんか血迷った青年団ってカンジがイヤだ。
いい気になった俺達は調子に乗って死体周辺をくまなく調べ上げた。
・・・・・。
15分後・・・・・。
奈緒   「ねぇ〜、もういいんじゃない?そろそろ帰りたいよぉ〜」
セイ   「アンタそれでも刑事か・・・」
縄田   「でも、もうさすがになんにもないッスね・・・」
ヒサシ  「そうだな、いったん広いトコに出ようぜ」
セイ   「む〜」
だがなんか気になる・・・。
最初に感じた違和感はトゲトゲのような入り組んだものじゃないハズだ・・・。
もっとこう、パッと目に付く・・・いつの間にか視界に入ってるってカンジの・・・。
セイ   「・・・?まてよ・・・」
ってことは、もっと離れて全体が見えるトコから見ないとわかんねーよな?
セイ   「出るぞ!」
縄田   「待てとか出るとか、どっちなんスか」
グチる縄田を無視し、草むらを飛び出した。
死体周辺を全体的に見渡せる位置に来て、もう一度よく眺めてみる。
ヒサシ  「なんかあるのか?」
・・・・・。
きた!
やっぱりなにかが気になる!
なんだ、どこだ?
何処かがおかしいんだ!
だがいったい何処だ?どこが違和感の発生源なんだ?
奈緒   「どうしたの?」
セイ   「なにかヘンだ・・・」
奈緒   「なぁに?なんか変な気分なの?」
セイ   「ああ・・・」
奈緒   「そう、身体の奥が熱く疼いてるのね。それは大変」
セイ   「・・・・・」
どこだ、どこがおかしい?
奈緒   「おねーさんが発散させてあげようかしら」
セイ   「・・・・・」
なにかがあるんだ、いつもと違うなにかが・・・・・。
奈緒   「ちょっとだけよ」
視界の角の方が・・・・・。
ヒサシ  「おねーさま〜!!」
黒いような・・・・・。
奈緒   「うっそぴょ〜ん」
セイ   「わかった!!」
奈緒   「キャッ!何が!?どしたの?!」
セイ   「ヒサシ、排水溝を見てみろ。なにか気付かねーか?」
ヒサシ  「排水溝?
      ・・・・・・・・・・。
      そういわれてみれば・・・・・なんかえらく煤(すす)けてる・・・」
縄田   「そういえば、ここってこんなに汚れてましたっけ?」
奈緒   「確かにこれは汚いわね・・・公園の美観を損ねてるわ」
縄田   「でも、ちょっと見ない間にこんなに汚れますかね?」
セイ   「無理だな」
ヒサシ  「じゃあどういうことなんだ?」
セイ   「よく見てみな、この排水溝・・・裏返しなんだ」
縄田   「裏返し!?一体全体なんでまた?」
奈緒   「誰かがここから出入りした」
セイ   「ご名答」
奈緒   「つまり、死体はこの排水溝を通って地下から持ち込まれたってことね」
セイ   「ま、これが犯人のカモフラージュじゃなけりゃな」
奈緒   「確かに、陽動って可能性もあるわね。
      この公園で誰にも見つからずに行動する抜け目無い犯人にしては、
      少々マヌーってカンジ・・・」
ヒサシ  「でも、この地下水路って、何処と繋がってるんですか?」
奈緒   「渋谷」
ヒサシ  「んな、あたりまえですよ。そうじゃなくて具体的に・・・」
奈緒   「渋谷」
ヒサシ  「だから・・・」
奈緒   「渋谷には広大な地下迷宮があるの」
ヒサシ  「え?」
奈緒   「戦時中にアメリカ軍が駐屯用として広大な地下基地を造ったの。
      それが渋谷の地下の歴史の始まり。
      戦後、基地は地下鉄や地下街開発の拠点として利用されたわ。
      おまけに下水道が整備されていっそう複雑に広がったのよ」
ヒサシ  「マジっすか!?」
奈緒   「今じゃ途方もない広さになってて、誰も詳しい事はわからないみたいね」
ヒサシ  「開発業者とかは?」
奈緒   「無駄ムダ。そんなの上の方の、実際に開発したトコしか知らないわよ。
      とにかくアメリカ軍がどのくらいの施設をどれだけ造ったのかが
      完全に不明だからね。日本人にはずっと謎のままよ」
セイ   「じゃあ・・・進入経路がここだと確定しても・・・」
奈緒   「犯人の特定はできない」
セイ   「そうか・・・」
奈緒   「まあ、全然捜査の足がかりも無かった状態だったんだから、
      ヨクデキマシタ!だよ。
      ホント助かっちゃった。ミンナありがとう。感謝」
セイ   「そうか?」
奈緒   「うん、すごい前進。これで捜査も視界良好!ってね」
セイ   「そうだよな、俺様の鋭い観察眼がなかったら事件は早くも迷宮入り」
奈緒   「調子に乗らない。でもホントそうだったカモね」
セイ   「役に立ててよかったよ」
奈緒   「お疲れさん、お礼にジュースあげるよ」
奈緒サンがどこから取り出したのか缶ジュースを3本投げてよこす。
セイ   「これがお礼?セコイぞ」
縄田   「しかもぬるいッス・・・」
ヒサシ  「奈緒サンのぬくもりだ・・・・・」
奈緒   「公務員の安月給をなめんじゃないわよ〜」
セイ   「そんじゃ、俺達は帰るかな」
縄田   「そうッスね」
奈緒   「今日はホントにありがとうね。また何かあったらいつでも言うから」
・・・・・。
普通はこっちが言う方じゃないのか?
奈緒   「ハ〜イ、三名様お帰りはあちら〜」
水商売かよ・・・。

宮下公園を出た俺達はそれぞれの帰路につく。
そろそろヒサシは別方向になるはずだが・・・。
ヒサシ  「奈緒サンって綺麗だよな〜」
セイ   「ハイハイ」
ヒサシは夢見心地らしい。
奈緒サンにアブないあこがれを抱いているんだ。
このままストーカーにならないことを祈ってやろうぜ・・・。
ヒサシ  「はぁ〜、おいしいなぁ〜」
奈緒サンからもらった缶ジュースをちびちびすすって恍惚の表情を浮かべる。
さっきからずっとこの調子だ。
やっぱりアブない・・・。
セイ   「ヒサシ、お前は駅方向だろ。
      ここからは逆だぞ。早く帰れよ」
ヒサシ  「あ〜、そ〜か〜」
縄田   「お疲れ様ッス」
交差点でヒサシと別れる。
セイ   「じゃあな。ちゃんと帰れよ」
ヒサシ  「うん〜、だいじょうぶだよ〜奈緒サン」
セイ   「俺は奈緒サンじゃねー△」
ヒサシは途中にある電柱全てにぶつかりながら駅方向に消えていった・・・。
縄田   「・・・ヒサシ先輩、大丈夫ッスかねぇ・・・」
セイ   「さーな・・・」
さて、俺達も一旦家に帰るかな。


交差点を渡り少しだけ歩き、ウチの門に到達する。
縄田   「それじゃ、とりあえず俺はこの辺で」
セイ   「おお。気ぃつけて帰れよ」
縄田   「はいッス」
縄田と別れて入ろうとすると、一台の黒いベンツが門をくぐって出ていく。
セイ   「ヲォ!?なんだなんだ?」
あやうく轢かれるところだったぜ。
もしここにいたのが俺じゃなかったら
確実に『ひき逃げ暴走ベンツ』のニュースが流れてたな。
しかし客でも来てたのか?
一瞬だけ運転手の姿が見えたような気がしたが、黒ずくめでよくわからねーな。
セイ   「んー・・・どっかで見たことあるような・・・」
・・・・・。
まあいいか。
気を取り直して門をくぐり、玄関を開ける。
ロビーにはメイと伊吹がいた。
メイが俺の帰宅に気付き、立ち止まって声をかける。
メイ   「おかえり、セイ」
セイ   「おお、たっだいま〜☆
      いま車が出てったけどよ、客でも来てたのか?」
メイ   「うん、小野寺さん。
      父さんの告別式の事とか打ち合わせにきてたんだよ」
セイ   「あー、たまに見かける黒服かぁ。
      あのマネージャーさんね」
メイ   「マネージャーじゃあないと思うけど・・・△」
セイ   「いい車乗ってやがるなー、いつもいい時計してやがるしよー。
      金持ちはヤだな〜」
伊吹   「同感だ」
小野寺(オノデラ)ってゆうのか。あの黒服。
時々親父の仕事上の関係とかで家に顔を出してたっけ。
たぶん政府関係の仕事に従事してる大物だ。
ミラータイプのサングラスをかけたミステリアスな男だ。
一度か二度くらいなら話したこともあるような気がするな。
伊吹   「公園が封鎖されていたにしてはやけに遅かったじゃないか」
セイ   「ああ、野次馬やってたら奈緒サンに捕まってよ、
      捜査に協力させられてたんだ」
伊吹   「おまえ公園内にいたのか!?」
セイ   「ああ、現場見てきたぜ、スゲーだろ」
メイ   「すごいね、どんな感じだった?」
セイ   「なんつーか、あんまり気分いいトコじゃねーよな」
満恵   「帰ったんですか?」
奥から突然おふくろが出現する。
セイ   「・・・ああ」
満恵   「また買い食いですか」
俺の持ってる缶ジュースを言ってるようだな。
セイ   「もらったんだよ」
メイ   「だれに?」
セイ   「奈緒サン、お礼だってさ」
伊吹   「くっ、私もそっちに行けばよかった・・・」
セイ   「セコイことゆーなよな・・・△」
メイ   「伊吹は刀もらったじゃない」
伊吹   「それもそうだな」
セイ   「お?どーしたんだよ、その刀」
そういえば伊吹の刀がいつもと違うぞ。
なんだか少しゴージャスだ。
・・・でもどっかで見たような気がする。
伊吹   「師匠の形見だ。私が継承した」
セイ   「へぇ、俺にはなんかないのかよ?形見分けの品ってヤツ」
満恵   「あるわけないでしょう。
      退魔士としての自覚もない者に与える物はありません」
キッパリ言って、そのまま奥へ引っ込んでったぜ。
いちいち気分悪いぜ・・・。
セイ   「チッ・・・。さ、なに止まってんだよ。
      後ろつかえてんだ、早く階段上れ」
メイ   「う、うん・・・」
伊吹   「ときに、そのジュースは空なのか?」
セイ   「ザンネンだったな、既に飲み干しちまったよ」
メイ   「空き缶なのにもって帰ったの?」
セイ   「途中にクズカゴなかったからな」
メイ   「セイってそういうところは偉いよね」
セイ   「だろ?街の美観を損ねちゃイカン」
伊吹   「うむ、良い心がけだ」
セイ   「そういやめずらしく伊吹が私服だな」
さっきからなんか違うと思ったら、伊吹のヤツが私服だったんだ。
普通のジーンズに白いYシャツ。
お世辞にもオシャレとは言い難いな。
せっかくモデルみたいなスタイルしてんだから、
もっと着飾ればいいものを・・・。
もったいないヤツだ。
伊吹   「あ、あまりジロジロ見るな・・・」
セイ   「しかし、もうちょっと色気のある服着たらいいのによ」
伊吹   「うるさい」
セイ   「そうか、服買う金がねーんだな」
伊吹   「黙れ」
メイ   「セイ、それをいっちゃあ・・・」
セイ   「きょうび100円ショップ行きゃあ100円でもキャミソールくらい
      売ってんのによ・・・今度買ってきてやろーか?」
伊吹   「よ、余計なお世話だ!」
けっこうイケると思うんだがどうか?
似合うと思わねーか?
伊吹   「不愉快だ!失礼する」
伊吹は顔を真っ赤にしながら勢い良くドアを開閉して自室に消える。
こりゃしばらく引きこもるかもしれねーな。
セイ   「あ〜あ、スネちゃった」
メイ   「もお、セイがからかうから・・・」
セイ   「ハハ、じゃ俺も部屋で着替えるかな。
      荷物重くてよォ」
メイ   「うん」
セイ   「覗くなよ」
メイ   「覗かないよ・・・」
呆れ顔のメイを尻目に自室へ入る。
しばらくダラダラしてようぜ。
ま、その前に着替えだな。
おっとカメラはここまでだ。覗くなよ。

さて、着替えも終わったし、これからどうすっかな〜。
暇だな〜。
・・・・・。
なんか隣のメイの部屋がうるさいがどうせ朱雀かなんかだろう。
気にしない気にしない。一休み一休みだ。
・・・・・。
この時間はいつも公園で練習してるからなぁ。
いざ公園が使用禁止となるとやることねーぜ。
ヒサシとかはなにして過ごしてやがるんだろうな・・・。
・・・・・。
いかんいかん、
このままダラダラしていては俺の活発な脳細胞が死滅して痴呆症になっちまうぜ。
久しぶりにゲーセンにでも行ってみるか。


俺はとても綺麗に整理整頓された部屋を出て、階段を下る。
なにやら食堂の方が騒がしいが、どうせ朱雀かなにかだろう。
気にせずに出発だ。
ゲーセンは家の近くにあるんだ。
歩いてすぐだぜ。
ほらもう見えてきた。
な、早いだろう。
道路を横断すればもう到着だ。

ここは『パワーゲームパーク渋谷ダイトーステーション』。
かなり大型のパワーあふれる総合アミューズメントスペース。
一歩店内に足を踏み入れると、様々なオブジェが目に飛び込んでくる。
中央にでかい顔があるだろ。
でかい顔したヤツがいるなと勘違いする人がいるかもしれないので説明しておくと、
中央の柱に彫り込まれているでかい顔は意味不明のオブジェだ。
なんとなく不敵な笑みを浮かべてるのが気色悪い。
だが年中お祭りのようなこの特殊な空間には不思議とマッチしている。
他にもDJブースがあったり、コミュニケーション・ボードが設置されていたり、
とにかくエネルギッシュな空間だ。
DJに曲をリクエストしたりもできるぜ。
何かリクエストしてみるかい?
縄田   「あれー?セイさんじゃないッスか」
セイ   「なんだ縄田か」
縄田   「なんだはないッスよ」
どうやら縄田のヤツも暇だったようだな。
ゲーセンで時間つぶししてたようだ。
縄田   「せっかくですからなんか一緒にやりましょうよ」
セイ   「お前ゲーム得意だからな・・・」
縄田   「へへ」
俺もゲームは割と得意な方だ。
特にシューティングなら大抵のモノはお任せってカンジだ。
だが縄田は・・・ハッキリ言って異常だ。
その腕前は並じゃない。
完璧なまでにやりこんでいて冗談じゃないほど上手いんだ。
セイ   「で、なにやるんだよ?」
縄田   「対戦格ゲー」
セイ   「やっぱりな・・・」
このヤロー、ゲームだけは唯一俺に勝てると思ってズにのってやがるな。
セイ   「しょうがねーから相手してやるよ」
縄田   「それではこの『ストリップ・ファイター21』で勝負です!」
対戦台に座り100円を投入する。
『ストリップ・ファイター21』は最近流行っている格闘ゲームだ。
大勢いる艶めかしいキャラクターから一人を選び、
お互いのテクを駆使して激しい攻防を繰り広げる本格格闘ゲーム。
攻撃がヒットする度に少しずつ服が脱げていき、
最終的に全裸になった方が負けという儚くもキビシイ戦いだ。
着衣が最後の一枚となると発動可能な超自爆奥義などもあり駆け引きがアツイ。
超自爆奥義とは、効果範囲も大きく、技の出も早いうえ、
ヒットすれば一撃で相手を全裸にできるが、そのあまりにも激しい動きのため、
発動側キャラクターは技の成否に関わらず必ず全裸になってしまう究極の道連れ技だ。
キャラクターは非常に個性的で、それぞれ性能が異なる。
例えばこの主人公的キャラである『格闘家リャウ』は、
なかなか丈夫な胴着を着ているうえに、脱衣技も使いやすい。
いたって平均的なキャラクターだ。
だが最後の一枚に残るのが必ずハチマキというのが哀愁を誘うがな。
女性キャラは大抵薄着で最初から露出度が高い。
例えばこの『サキュバス・モリゴン』は、
非常に素早い動きで敵を翻弄するトリッキーな戦いを得意とする。
技の性能も優れているが、薄着のため耐久力が低い。
他にロリ系キャラクターである『カードバトラー・ざくろ』などは、
マニアにはたまらない萌え萌えキャラだろう。
魔法を駆使して戦う遠距離戦タイプのキャラクターだ。
服が脱げていくにしたがって表情が羞恥に染まっていくところがウリだ。
最も極端なのが最強の攻撃力を誇る『アニキ系マッチョレスラー・ザンギエイプ』。
圧倒的な攻撃力を誇るが最初からパンツ一丁で出陣するので、
相手の攻撃を一発でも食らえばその瞬間全裸決定というまさにギャンブル的キャラだ。
他にも非常に重い鎧を纏った『落ち武者・びしゃえもん』なんてのもいる。
凄まじい防御力を誇り、なかなか脱がせることは難しいが、
鎧があまりに重いためまったく動けないという致命的な欠点をもっている。
あとは子供達に大人気の『電撃魔獣ピカチコウ』とかいるぜ。
コイツは最初から服を着ていないため、戦闘開始と同時にKO負けだ。
どうやったら勝てるんだろうな。
他にも『着ぐるみヒーロー・ハリバン』や、『極悪天使ドミニもん』なんかがいるんだ。
ラスボスは『殺意の罵倒を極めし者・信号機』ってヤツだ。
顔に3つの目を備えたとんでもない化け物だ。
3つの目はおそらく炎・氷・雷の属性を帯びていて赤・青・黄色に光るんだ。
腰の辺りに押しボタンと首の辺りにスピーカーを備えている。
スピーカーからは時折『とおりゃんせ』が電子音で奏でられる。
ある意味飛び道具だ。
最大の必殺技は『旬後草津(シュンゴクサツ)』という時期はずれなもので、
対戦相手をひなびた温泉に招待し、ごくごく自然に服を脱がせるきわめて大胆な作戦だ。
ラスボスは残念ながら使用できないが、さて誰を使おうか。
縄田のヤツは『超能力少女ハテナ』を選択したようだ。
ようしそれなら俺は『大自然の贈り物なこるるる』で勝負だ。
・・・・・。
可哀想に・・・俺のなこるるるは素っ裸にひんむかれちまった・・・・・。
許してくれ、なこるるる。
縄田   「はっはっは、まだまだッスね」
セイ   「オメー、やりこみすぎだ」
縄田   「ふふん、才能ッスよ」
くだらん才能だ。
こんなモンでいくら勝ったって何の価値もない。
まさに無駄の極みだ。
・・・・・。
別に悔しくなんかないぞ。
縄田   「クリアしちゃいますから、ちょっと待っててください」
セイ   「あー、せーぜー頑張りな」
俺は精一杯無気力な声で答えてやった。
セイ   「まだしばらくかかるだろうし、俺はトイレでも行ってくるかな」
縄田   「行ってらっしゃいッス」
ゲームに熱中する縄田に一言告げてその場を離れる。
人混みをかき分けて進むとトイレが見えてきたぜ。
別にもよおしてはいないがとりあえず入ろう。
鏡の前で身だしなみチェックだ。
トイレのドアを開け中に入ると、なにやら奥に変なヤツがいる。
壁を背にして座り込むいかにもアブナそうなヤツだ。
なんか表情がイっちゃってねーか?
ありゃジャンキーだな・・・。
手に持ってるのはクスリのカプセルだな。
最近流行ってる『SSD』って覚醒剤だ。
カプセル型の飲み薬で、普通の薬と区別がつかないらしい。
一つ飲むと1時間くらいトベるって話だ。
俺はヤル気は無いけどな。
あんなものはつまらん悲観論者がするもんだ。
俺のように才能あふれる前向きな好青年にはまったく必要ない。
・・・・・。
ところで、なんかあのジャンキーがこっち見てるぜ・・・。
ジャンキー「・・・・・」
セイ   「・・・・・」
ジャンキー「・・・ナんだぁ?オベーわぁ・・・・・」
ダメだ。
舌が回ってない。完全にラリってやがる。
ジャンキー「あにジロジオ見てんラよぉ」
あーあー、ヨダレたらして・・・キタネーなぁ。
人間こうなっちゃオシマイだな。
昔、覚醒剤やめますか?それとも人間やめますか?ってCMが流行ったことがあるが、
たしかにアレではとてもホモサピエンスとはいえない。
覚醒剤をヤルと、俺のようなめちゃイケボーイでもあんなふうになっちまうんだろう。
覚醒剤ってのはなんて恐ろしいんだろうか。
ああなるってわかっててなんでヤルんだろうな。
よほどのバカなんだろう。
ジャンキー「いツまでガンくれへんだよぉ!」
セイ   「ばか」
ジャンキー「あ?なんつっタ?」
セイ   「耳まで遠くなったか、醜いクソガキ。
      しかたねーからもういっぺんだけ言ってやる。
      心して聞きやがれ」
ジャンキー「あぁー?」
セイ   「クセーんだよクソバカ。きたねーツラ俺様の清らかな目に向けんじゃねー。
      目が腐るだろうがタコ。ま、腐ってもまだテメーよかマシだけどな。
      それから口臭くて迷惑なんだよ。息止めろハゲ。
      ついでに体臭もたまらなく臭いぞ。ちゃんと風呂入ってんのか?死んでくれ。
      最後に存在そのものが異常にキショイんだよ。死ね。・・・って言ったんだ」
ジャンキー「て、テめー!!」
おっと、怒っちまったようだな。
血走ってた目がさらに充血したぜ。
ジャンキー「殺してヤる!」
懐からナイフを出しやがったぜ。
いわゆるバタフライ・ナイフってヤツだ。
物騒な世の中になったもんだな。
ナイフ売ってる店も、こんなバカに売っちゃダメだよな。
セイ   「オイオイ、そんなオモチャでなにする気だよ?
      刺すと死んじゃうカモだぜ?そしたらオメー殺人犯よ?指名手配よ?」
ジャンキー「うるセぇ!ずたずたニしてやル!」
セイ   「やれやれ・・・」
こういうバカにはお仕置きしないとな。

 VSジャンキー野郎

ジャンキー「死ネやー!!」
トチ狂ったジャンキー野郎がナイフを突き出し突進してくる。
俺様はジャンキー野郎のナイフを華麗にひらりと回転してかわし、
そのまま後頭部に思い切り裏拳を炸裂させる!
狂ったジャンキーにはこのくらいやらねーときかねーからな。
愚かなジャンキー野郎はそのまま無様にドアにぶち当たって失神している。
楽勝だ。
とりあえずナイフは没収だ。
俺がちゃんとナイフの本分を果たさせてやるからな。
これからはたくさんリンゴを剥いてやろう。
うむうむ、きっとナイフもすばらしい持ち主に拾われて喜んでいるに違いない。
また良いことをしてしまった。
さてと、もしかしたらそろそろ縄田も『信号機』を倒してるかもしれない。
一度戻ってみるか・・・。
ジャンキー「ま、マてよ・・・」
セイ   「?」
トイレを出ようとドアノブに手をかけた時、
気絶したはずのジャンキーがしゃべりだした。
なんだよ、もうお目覚めか。
ぶっトんでるから痛覚も鈍っているんだろう。
まったく、始末に負えねーぜ。
ジャンキー「こ、コロス!ころシてやル!!」
・・・なんか様子が変だぞ!?
最初は怒りでブルブル震えていたんだろうが、今はあきらかにおかしい。
筋肉が波打ってやがる!?
何が起きてんだよ!!?
ジャンキー「るルるるルがあアアアぁぁぁァぁァ!!!!」
今度は口が裂けたぞオイ!
そんなんなっちゃ家に帰れなくなるぞ!!
表歩けなくなっちまうぞ!
ジャンキー「ふー・・・ふー・・・・・」
なんなんだ、瞳孔が開ききって虚ろな表情をしてるクセに異常に興奮してるようだぞ。
いまにも飛び掛かってきそうな気配だ。
セイ   「おーい、俺が悪かったから、そんなキモい顔すんなよ」
ジャンキー「ガぎャああアアアアああア!!!!」
セイ   「って、聞いちゃあいませんね〜・・・」
ダメだ、もともと話が通じたとは思えんが、もう完全に通じないようだ。
筋肉が脈動し、いびつな形に変形していく・・・。
完全にバケモンになっちまった!
わずかに人の面影を残しているところがなおさらキショい。
ジャンキー「ギョごオオオオおおおおおお!!!!」
遂に襲いかかってきやがった!
しょうがねー、俺も一応阿部家の血筋ってトコを披露してやる!
メイが炎を操るのに対して、俺は水を操る事ができる。
ガキの頃はメイと一緒にいつも親父にしごかれてたんだ。
最近はサボってたが、昔はメイ以上に巧く術を使いこなしてたんだぜ。
ちなみに俺の最高奥義は『水龍召還』だ。
スゲー威力のドハデな大技だ。
俺のとっておきってヤツだな。
さあ、かかってきやがれバケモノ!

 VS妖化ジャンキー

グロテスクな身体をゆらして突進するバケモノの攻撃を華麗な跳躍で回避し、
バケモノの背後にまわりバックステップで距離をとる。
今だ!くらいやがれバケモノー!!
セイ   「水繰術・水波動!!」
人の胴体ほどの大きさの凝縮した渦巻く水の塊を勢いよく放つ!!
ジャンキー「ぐるウあアアアアア!!!!」
どうだ!見事バケモノに命中した水弾はバケモノもろともはじけ飛んだぜ!
バケモノは吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
そのまま力無く頽(クズオ)れた。
バケモノから症気が立ちのぼり、次第にその異形の肉体が収縮していく・・・。
みるみるうちにもとのアホヅラジャンキーにもどっちまった・・・。
どうやら息もあるみてーだな。
一体どうなってんだ?
ジャンキー野郎は気絶してるようだ。
なにがなんだかわからんが、とにかく早くずらかったほうが良さそうだな。
こんなアブねーヤツにいつまでもかかわりたくないからな。
俺はお休み中のジャンキー君が目覚めぬよう、そっとドアを開けトイレをあとにした。
なんて細やかな心配りだろう。
我ながら関心するぜ。

俺は何事もなかったかのように『ストリップ・ファイター21』の対戦台にきた。
縄田はもう台に座ってないな。
縄田   「遅かったスね。なにやってたんスか?」
セイ   「と思ったら横にいやがったか」
縄田   「は?」
セイ   「もうクリアしたのか?」
縄田   「あ、それが・・・ラスボスに草津に招待されちまいました」
セイ   「ハハ、ざまーみろ」
縄田   「セイさんは・・・あ、ウ●コですか。失礼しました」
セイ   「勝手な想像するな。俺はお前と違って苦労して勝ってきたんだ」
縄田   「はぁ、難産でしたか。激闘だったんですね」
セイ   「・・・勝手に言ってろ」
縄田   「ところで、これからどうしましょうか?」
セイ   「そうだな・・・俺はとりあえず帰るかな」
縄田   「そッスか。では俺はもう少し遊んでます」
セイ   「そうしろ。じゃあな」
縄田   「失礼しまッス」
縄田は別のゲームをプレイしに人混みに消えていったぜ。
・・・・・。
こんなトコで立ちつくしててもしょうがない。
帰ろう。
外に出ると、すでに空は朱に染まろうとしていた。
ああ、放課後とはなんと短いのだろうか・・・。



とりあえず帰宅したはいいが、また何もする事がなくなってしまった・・・。
暇だ。
帰れば誰かいるかと思ってたんだが、メイも伊吹も出かけてるようだ。
だからって間違ってもオフクロと遊ぶって選択肢は無いし・・・。
・・・・・。
玄武にエサでもやるか。
あいつは常に池の底に生えてる藻や苔なんかを食ってるから腹は減ってないだろうが、
たまには違う物が食いたいだろう。
俺は暇つぶしのため玄武の池に向かった。

玄武の池は家の裏庭にある。
食堂の窓から眺めることができるが、
そこからじゃ外に出ることができないので道場経由で外に出る。
東側の禅堂と反対側に位置する道場に入った。
そういえば道場に入るのは久しぶりだったな・・・。
ガキの頃からよくここで修行したもんだ。
メイと伊吹と三人で親父にしごかれてた。
なつかしいな・・・。
そういえば伊吹はものごころついた頃からずっと一緒に暮らしてる。
今にして思えば、早くに親元を離れてよくやってるよな。
淋しくなったりはしねーのかな?
・・・・・。
淋しくないわけないか。
そういや昔はよく三人で一緒に風呂入ったりしてたっけ。
無論、最近は一切入ってない。
今夜あたり誘ってみるか。
・・・斬られるのがオチだろうな。
なんかやけにノスタルジックな気分になってきたぜ・・・。
静まり返った家ってのは結構ヤなもんだな・・・。
かといってオフクロがレーザーカラオケで大熱唱なんかしてたらもっとイヤだが。
つい先日まで大抵ここにくれば親父が剣の稽古してたんだよな・・・。
もうそういう光景を見ることも無いんだな。
・・・・・。
さて、しんみりしててもしょうがない。
外に出よう。
道場に備え付けてある外履きサンダルを履いて庭に出る。
ちなみに西側だ。
庭か・・・。
昔はよく三人で遊んだな・・・。
そういえばこっちには井戸があるんだぜ。
昔は水が出てたらしいが、少なくとも俺がものごころついた時にはすでに枯れ井戸だった。
ガキの頃井戸の周りで遊んでたら落っこちちまってよ、
運良く怪我はなかったんだが・・・・・悪かったな、頑丈で・・・。
暗いし狭いし、おまけに深いから出るに出られないしですげー怖かったな。
あの時はかなり泣いたっけ・・・。
結局親父に助け出されたんだが、初めて親父の力強さを感じたんだ・・・。
だが俺だってただ泣いて救助を待ってたわけじゃない。
必死に自力脱出をこころみたんだ。
でも昇ろうとして石に足をかけたら崩れちまうもんだからビックリしたぜ。
でっかい穴が空いちまったんだ。今も残ってるかな、あの穴・・・。
・・・・・。
そういやヘンだぞ・・・。
なんで井戸の壁が崩れて奥があるんだ?
空洞だったよな、確か・・・・・。
・・・・・。
ま、いいか。
どうせ使ってない枯れ井戸なんだ、問題ないだろう。
それにガキの頃の記憶だし、勘違いかもしれないからな。
気を取り直して裏庭に行こう。
ほら見えるだろ?
あれが長年親父の式神を務めた玄武がいる池だ。
いままでの労をねぎらってやろうぜ。
エサは右に見える倉庫にあったはずだ。
鍵はかかってないはずだ。探してみようぜ。
・・・・・。
なんかガラクタがいっぱいあるな・・・。
たぶん親父が無造作に放っておいたんだろう。
お、エサ発見だ。
セイ   「おーい玄武〜。エサやるぞ〜、出てこ〜い」
呼んでしばらく待つ・・・。
・・・・・。
さすがに亀だから遅い・・・。
やっとこさ水面に顔をだしてくれたぜ。
セイ   「エサだぞ、ホレホレ。・・・んん?」
・・・・・。
なんかヤケに小さくねーか?
目の錯覚か?
まさか目の錯覚を利用した騙し絵?
・・・基本的に絵じゃないし、騙してどうする。
どうやら普通のカメサイズに縮んじまってるようだぞ。
セイ   「・・・おまえ、玄武・・・か?」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「うぐっ、カメ語か!?」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「・・・むう、どうやら言葉を話すこともできなくなっちまってるようだな」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「なんてこった、きっと親父の霊力供給が途絶えたからだな・・・」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「そうか、もう普通のカメさんに戻ったんだな・・・」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「・・・いままでご苦労様だったな」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「ほら、エサだぞ。たんとお食べ」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「・・・・・」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「・・・・・」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「・・・・・」
玄武   「かめ〜?」
セイ   「やかましい!池帰っとけ!!」
怒りにまかせて玄武を池に蹴り飛ばした!
あーイライラする!
無駄な時間を過ごしてしまった。
さっさと部屋に戻ろうぜ。

・・・・・。
部屋に戻ったがあいかわらず暇だ。
どうすんべかな・・・。
・・・ん?
下で物音がするぞ。
どうやらやっとメイか誰かが帰ってきたようだな。
降りてみようぜ。
・・・・・なんか俺寂しがり屋の暇人みたいだ・・・。
ロビーに行ってみると、メイと伊吹が帰ってきている。
なんだよ、俺だけのけ者で二人でどっか行ってやがったのか。
よく見ると・・・ってゆーか一目見たらわかるんだが、正装だぞ。
阿部家伝統の袴姿だ。
どこ行ってきたんだ?
セイ   「おかえり。オメーらドコ行ってたんだ?」
メイ   「あ、セイ。帰ってたんだ、ただいま」
セイ   「俺を除け者にしてなにしてたんだ?」
メイ   「除け者なんてしないよ!」
伊吹   「私達はセイと違って忙しいのだ。セイこそ一人で何をしていた?」
セイ   「お、俺は別に・・・」
伊吹   「どうせ暇で暇で、哀しい程くだらん事をしてたんだろう」
うぐっ、何故知ってやがる!
まさか見てやがったんじゃあるまいな!?
セイ   「う、うるせー!質問したのは俺だぞ!」
伊吹   「仕事だ。メイの初仕事」
セイ   「おおーっ!そうかそうか!で、どうだった?記念すべき初仕事は」
メイ   「うん、なんとか」
伊吹   「謙遜するな、見事だったぞ」
セイ   「そっか!そりゃスゲー、オメデトー!今夜はお赤飯ね」
メイ   「そうなの?」
うぐっ、そんな素直な反応するなよな・・・。
セイ   「・・・い、いや・・・違うと思う・・・ケド」
伊吹   「・・・・・」
メイ   「そういや、僕ずいぶんお赤飯食べてないなぁ。
      前に食べたのいつだっけ?」
セイ   「へ?・・・そ、そーだな〜・・・」
メイ   「たしか・・・5年くらい前だったよね?」
伊吹   「!」
セイ   「バ、バカ!」
伊吹が真っ赤になってるじゃねーか!
メイ   「でもあの日ってどうしていきなりお赤飯だったのかなぁ・・・」
伊吹   「・・・〜〜〜」
伊吹は俯いたままワナワナと震えてるぜ・・・。
メイ   「そういえば、あの日の伊吹って何故かずっと・・・アレ?」
伊吹   「〜〜〜」
セイ   「ヤバイってオイ・・・」
メイ   「エ?あの・・・伊吹?ど、どうしたの?」
伊吹   「・・・〜〜〜馬鹿ー!!!!!」
伊吹の剛剣がうなる!
何故か俺まで巻き添えだ。
伊吹   「私は奥様に報告してくる!」
朱雀   「な、ナニゴトですか?!」
メイ   「エ?エ?なんで??」
セイ   「・・・バカ」
メイ   「あ、伊吹。ちょっと待ってよー、僕も一緒に行くから」
伊吹   「ついてくるな!」
メイ   「どうしたのさ、伊吹?」
伊吹   「しらない!」
メイと伊吹は騒ぎながら廊下の奥に歩いてくぜ・・・。
朱雀   「あ、待って下さいよ〜!メイ様〜!」
今の衝撃で目覚めた朱雀はフラフラとメイ達を追いかける。
と見せかけて止まり、ゆっくりこっちに振り向く。なんなんだ?
朱雀が羽で俺を指さす。
朱雀   「メイ様?」
セイ   「セイだ!」
朱雀   「メイ様〜」
朱雀も廊下の奥に飛んでった・・・。
やっぱりバカ鳥だ。
いや激バカ鳥だ。
・・・・・。
いつまでもロビーで埋もれてるわけにもいかない。
とりあえず部屋に戻るかな・・・。

セイ   「・・・ん?」
部屋に戻るとけたたましく電子音が鳴り響いているぞ。
どうやら携帯電話が鳴っているようだな。
いったいどこのどいつがかけてやがるんだ?
携帯は机に投げてあるぜ。
めんどくさいな、わざわざ机まで歩いて行かねばならんではないか。
たったこれだけの距離なんだ、携帯の方から歩いて来るべきだ。
などと無意味な駄々をこねていても騒音が五月蝿いだけだ。
さっさと出ちまおうぜ。
一体誰からだ?
・・・なんだ縄田かよ。
男からの電話など嬉しくもないわ。
しかし、とりあえず出ないとうるさいからな。
ポチッとな。
縄田   「あ、セイさん!」
セイ   「じゃあな」
プチッ・・・とな。
ふう、これでいいだろう。
携帯   「ピリリリリ!」
ビクッ!!
いきなり鳴り出すとビックリするじゃねーかッ!
まったく、心臓が止まるかと思ったぜ。
もしこれで死んだらとてつもなくマヌケじゃねーか。
しかしウルセーな、誰だ?
・・・なんだまた縄田かよ。
しつこいヤツだな。
しょうがねーから出てやるか・・・。
縄田   「切らないでくださいよっ!!」
セイ   「どわっ!イキナリ大声だすなっ!」
縄田   「切るからですよ!」
セイ   「で、何の用だ?」
縄田   「そ・・・それが・・・・・」
セイ   「なんだよ、俺は暇じゃねーんだ。手短に話せ」
縄田   「セイさ〜ん・・・助けてくださ〜い!」
セイ   「は?縄田?」
縄田   「実は・・・あっ!」
セイ   「オイ!?縄田!どうした!」
しばらくガヤガヤ騒がしいBGMだけが流れる。
縄田は何の反応も示さない・・・。
いったいどうしちまったってんだ?
謎の声  「さっきは部下が世話になったらしいな」
いきなり縄田とはあきらかに別人の声が答えた。
低くクールな声だ・・・。
いったい誰なんだ?
セイ   「誰だよ?」
謎の声  「ウチのモンに手出されちゃ俺としても黙ってるわけにはいかないんだ」
セイ   「だから誰なんだよ?」
謎の声  「『BadAss』はお前を歓迎するぜ。阿部セイ」
セイ   「『BadAss』!?」
『BadAss』と言えば、新宿最大のチーマー集団じゃねーか!
新宿中央公園をたまり場にしてるって話だ。
噂ではよく自警団と対立してるっていうあのワルガキ集団か。
ってことはコイツはそのボスってことか?
『BadAss』のボスといえば、キレたら手がつけられねーって有名なあの・・・
小川 健二(オガワ ケンジ)だ。
セイ   「テメー、小川か!?」
小川   「ご名答だ。どうやらキレ者って噂は本当らしいな、阿部セイ」
セイ   「フルネームで呼ぶなよ、セイでいいぜ」
小川   「ククク、噂どおりフザケた野郎だな」
セイ   「どんな噂なんだ?俺も聞いてみてーな」
小川   「フン、いままでは新宿と渋谷で別れていたから見過ごしてやっていたが、
      いきがって『BadAss』に手を出したんだ。
      タダで済むと思うなよ・・・」
セイ   「・・・・・」
こりゃエライことになっちまったな・・・。
小川   「こっちはこのガキを人質としてあずからせてもらった。
      無事帰してほしかったら一人で新宿中央公園に来るんだ。
      いますぐな」
セイ   「中央公園ったらアンタらの本拠地じゃん。困ったねぇ」
小川   「まあ無理に来なくてもかまわない。
      その時はコイツが代わりに痛い目に遭うだけだ」
セイ   「チッ・・・」
小川   「待ってるぜ、セイ」
・・・切られちまった。
新宿中央公園か・・・。
とにかく行ってみるしかなさそうだな・・・。


緊急事態だ。
階段を駆け下り急ぎローラーブレードを装着する。
新宿までは駅二つ分の距離だ。
電車よりこっちの方が早いだろう。
猛スピードで玄関からスタートだ。
道行く人をかいくぐりながら歩道、車道かまわず疾走する。
明治通りを北上すれば新宿に行ける。
あとは都庁を目印に向かえば新宿中央公園にはすぐ着けるだろう。
しかし、神宮通公園にさしかかったあたりで、思わぬヤツらと遭遇した。
奴らは疾走する俺を確認すると集団でバリケードを張って俺の通行を邪魔したんだ。
しかたなくブレーキをかけ速度をゆるめる。
金髪   「キミは2年A組の阿部セイ君だったね。また町中でこんな事をしてるのかね」
セイ   「チッ・・・」
マズい時にマズい奴らに出くわしちまったぜ・・・。
金髪   「今日も学校中を走り回ったそうじゃないか。
      まったく、何度言ってもわからないようじゃ、
      少し手荒なことをしなければならなくなる。
      私達もそんな事はしたくはないんだがね」
この金髪白服ヤローはウチの学校の生徒会長だ・・・。
え?生徒会長のクセに金髪じゃないかって?
ああ。俺も最初はそう思ったが、コイツはフランスからの留学生なんだ。
フランス人だから金髪でもまったく問題なし。
ズルイよな、同じ地球人じゃねーか。
名前はバル・ビーネス。
一応先輩である三年の主席。
そして自主検閲委員会のリーダー。
自主検閲委員会ってのは、生徒会で組織された生徒の監視役だ。
風紀委員会の強力バージョンだな。
校内の風紀の乱れを取り締まるのはもちろん、
校外での生活態度までとことん取り締まるお節介な大迷惑集団。
今も放課後の街中をパトロールしてたんだろう。
そのリーダーであるバルは異常なまでに生真面目な偽善者。
洗脳に近い行為で、他人に自分の理想を押しつけるんだ。
そして、理想にそぐわない相手には、実力行使も辞さないとんでもない奴なんだ。
セイ   「ワリィけど急いでるんだ。通してくれよ」
バル   「フゥ、まったく、キミは自分の立場がわかっていないようだな」
セイ   「お説教なら月曜に聞く!呼び出しでもなんでもすりゃいいだろ!」
バル   「ほう、それは良い心がけだ」
セイ   「だから今はいいだろ!本当に急いでるんだ!」
バル   「フッ、何を急いでいるのか知らないが、
      我々は慈悲深い自主検閲委員会だ。
      今日のところは行かせてあげようじゃないか」
セイ   「マジ?」
バル   「ただし、月曜に生徒会室に来てもらうのでそのつもりでな」
セイ   「ああ。わーったよ」
バル   「フッ・・・」
検閲委員 「会長、よろしいのですか?」
バル   「かまわん。今日はもう遅いしな。
      いくらパトロールのためとはいえ、
      検閲委員会である我々が夜出歩くのも好ましくない」
検閲委員 「はあ・・・」
バル   「それに、生徒会室でじっくり話し合った方が、お互いのためだ」
セイ   「あのさ、もう行っていいんだろ?
      早く道開けてくれよ」
バル   「よかろう。だが、用が済んだらキミも早く帰宅したまえ」
セイ   「わかったわかった」
バル   「バリケードを解除しなさい」
検閲委員 「はっ!」
バルの一声で人垣がなくなる。
まったく、コイツら自分の意志ってモンがねーからイラつくよな。
いつもバルの言いなりだ。
バル   「これでいいだろう。行きたまえ」
セイ   「いちおう恩にきるぜ。じゃーな!」
俺は再び明治通りを疾走する。
思わぬロスタイムだ。
縄田、無事でいろよ・・・。

そろそろ新宿中央公園に到着だ。
セイ   「げっ!」
公園の外にも『BadAss』の兵隊どもがたむろしてやがるぜ。
まさか公園内に入りきらないってわけじゃねーだろーな・・・。
・・・そーいや『BadAss』って他のチーマーや暴走族なんかを次々に吸収して、
いまじゃとんでもない大所帯らしい。
予備軍みたいなのも含めると総勢500人近くいるって話だったような・・・。
まあ、スタメンと言えるのは100人くらいかな・・・。
・・・・・。
冗談じゃねーぞ。
いくらなんでもそりゃマズいって・・・。
だが、ここで手をこまねいて見ているだけじゃどうしようもない。
もしかしたらリーダーの小川ってヤツは話の分かるデキた人物かもしれない。
もしそうなら話し合いで解決だ。
・・・・・。
とてもそんな雰囲気じゃなかったが・・・とにかく公園に入ろう。
正面から堂々とな・・・。
入り口に近づいていくと、兵隊達が道を開けていく。
どうやら歓迎されているらしいな。
公園内に入ると、100人近くの視線が一斉に俺に注がれる。
ヤな緊張感だ。
うわぁ・・・悪そうなのがいっぱいいるぜ・・・。
縄田はどこにいるんだろうな・・・。
それに小川ってヤツは・・・。
とりあえず中央に進もう・・・。
広場を取り囲むように不良どもが待機している。
こりゃ逃げ道はないな・・・。
広場の中央に立つと、正面の人垣が割れていった。
奥からこちらに歩いてくる男がいる。
迷彩柄のズボンとバンダナ、顔を隠せるくらいのロン毛、切れ長で凶悪そうな目・・・。
コイツが噂の『BadAss』リーダー小川健二だな・・・。
小川   「よく来たな。お前が阿部セイか・・・」
セイ   「あんたが小川・・・だな?」
小川   「ククク、よく逃げなかったな。
      『BadAss』を知らないわけじゃあるまい?」
セイ   「まーね。お噂はかねがね耳にしてるぜ」
小川   「フッ、だったら、これからどうなるか、わかってるな?」
セイ   「・・・さあな。それより、縄田はどこだ?」
小川   「縄田?ああ、あのオブジェの事か?」
小川が指さす先を見上げる・・・。
そこに縄田はいた。
セイ   「・・・・・な・・・」
そこには木が聳(そび)えていた。
縄田は、木に、縛り付けられている。両手首を、枝に、乱暴に、縄でくくりつけられて。
まるで、十字架にかけられたキリストのように、力無く、吊されている。
顔には殴られたような痕があり、服も破られている。
目はうつろに開いたままだ・・・。
なんてことしやがる・・・・・。
小川   「お気に召したか?」
セイ   「・・・・・」
小川   「どうやらお気に召さないようだな。
      残念だ。極上のもてなしのつもりだったんだがな」
セイ   「・・・テメー・・・・・」
小川   「理解したか?これが『BadAss』だ」
セイ   「テメー!!!!」

 VS『BadAss』小川

怒りにまかせたパンチが小川の顔面をとらえる!
小川   「ククッ、なかなかいいパンチだ。
      さすがは『Make−be.lieve』の阿部セイ。
      だが・・・!」
小川の鋭いパンチが飛んできた!
セイ   「グッ・・・!」
小川   「俺は『BadAss』の小川なんだよッ!!」
続けざまに蹴りが飛んでくる!
素早い!さすがに『BadAss』のリーダーはダテじゃねーな!
だが・・・。
セイ   「!」
俺は蹴りを受けながらも小川の足をキャッチした!
小川   「!?」
セイ   「なめんなッ!!」
小川の足を抱えたまま身体を捻って回転する!
いわゆるドラゴンスクリューって技だ!
小川   「うおッ!?」
かなり意表をついたつもりだったが、小川も即座に反応しやがった!
回転に逆らわず自らも回転して受け身をとる。
ダメージを最小限に抑えたんだ。
あのまま棒立ちだったら右足に絶大なダメージを与えられたんだが。
小川   「アジなマネをしやがる!」
セイ   「オラー!!」
すぐさま立ち上がりパンチを繰り出すが、小川の反応も早い!
俺のパンチと小川のヒザ蹴りが交錯する!
セイ   「グッ・・・」
小川   「フッ」
すぐさま追撃にいこうとしたが、突然『BadAss』の兵隊共が介入してきた!
数で取り押さえにかかるつもりだ。

 VS『BadAss』兵隊

セイ   「どけ!ザコ共!!」
俺は次々にパンチやブレード・キック・・・
つまりローラーブレードを履いたままでの危険極まりない蹴りでザコを蹴散らす!
小川   「クククッ」
セイ   「オガワァー!!!」
ザコ共をエルボーで振り解くが、数が多すぎる。きりがない・・・。
小川   「これが俺の力だ」
セイ   「ざけんなーッ!!」
小川   「セイ、そろそろ落ち着けよ。
      余興は終わりだ。こっちには人質がいるんだ。
      おとなしくしてもらおうか」
セイ   「テ・・・テメー・・・!」
小川   「フッ、アイツを生きて返して欲しくないのか?」
・・・・・。
しょうがねー・・・。
縄田をこれ以上痛い目にあわせるわけにはいかない。
小川   「フッ、やっとおとなしくなったな。いい心がけだ」
セイ   「チッ・・・・・」
小川   「なかなかいい手応えだった。
      お前のような相手は久しぶりだよ、俺はもっと遊びたいんだがな」
ジャンキー「小川さん、俺にもやらしてくださいよぉ」
セイ   「テメーは!」
小川   「セイ、お前の世話になったのはコイツで間違いないな?」
セイ   「・・・ああ」
ジャンキー「ヒヒヒ、俺達『BadAss』に楯突いてタダで済むと思うなよ」
セイ   「・・・・・」
小川   「・・・・・」
ジャンキー「小川さん、ここからは俺がやっちゃいますんで、手出さないでくださいね」
セイ   「チッ・・・」
ジャンキー「ヒヒヒ、覚悟しろよぉ、え、オイ!」
ジャンキーが右手を振り上げた。
こんなジャンキーヤローに好きにされるなんて屈辱だぜ。
ジャンキー「死ねや、オラ〜!!」
・・・・・。
目を閉じて耐えてたんだが、いつまで経っても殴られねー・・・。
フェイントか?
ゆっくり目を開くとジャンキーの振り上げた右腕は小川に捕まれている。
ジャンキーは困惑の表情を浮かべてるぜ。
一体なんだってんだ?
ジャンキー「え?あの、小川さん?」
小川   「・・・・・」
ジャンキー「は、放してくださいよ・・・」
小川   「『BadAss』の面汚しめッ!!!」
ジャンキー「ごあっ・・・!!」
小川の強烈なパンチがジャンキーのボディーをえぐる!
小川   「負けて、よくノコノコ俺の前に出てこれたな!」
ジャンキー「ちょ・・・小川さん・・・?!」
小川   「死ねよ。恥さらしが」
ジャンキー「ぶぐっ!!」
小川の前蹴りが腹に決まり、前屈みになったところで強烈なアッパーを叩き込む!
ジャンキー「が・・・」
無論ジャンキーは吹っ飛ばされるが、
すぐさま無数の兵隊達に支えられて無理矢理立たされる。
ジャンキー「お、小川さ・・・・・許し・・・許して・・・」
小川   「ダメだね!」
ジャンキー「あ・・・あああ・・・・・」
小川   「ははははははッ!!!!」
狂乱した小川の凄まじいラッシュ!
完全にキレてやがる・・・。
手がつけられねー・・・。
無惨なジャンキーヤローは兵隊に支えられて人間サンドバックと化している。
小川   「オラァーッ!!!!」
とどめとばかりに鼻っ柱に思いっきりストレートを叩き込む!
目の前で繰り広げられていた凄惨な光景が終わった。
ジャンキー「・・・・・」
崩れ落ちたジャンキーヤローは完全にノビている。
ひでーな、ゴミのようにボロボロだ。
小川   「・・・これが『BadAss』だ」
背筋がゾクッとするような陰惨な笑顔を浮かべてやがる・・・。
小川   「捨てろ」
小川の一声で兵隊達が動く。
邪魔なジャンキーヤローを強制撤去だ。
声    「いやぁ、凄いショーだ。とてもエキサイティングだよ」
突然後ろの方にいたヤツが拍手しながら歩み寄ってくる・・・。
なんだコイツ?
他の兵隊共とは明らかに違う・・・。
何が違うかってーと服装だ。
不良どもとは一線を画す高級そーなブランド物のスーツに靴。
さらには目玉が飛び出るくらい高いであろう高級腕時計・・・。
どうみても成金のおぼっちゃまだ。
苦労知らずのボンボンって感じだぞ。
・・・・・いや、それよりも目を引くのは、そいつの後ろに控えてるヤツだ。
冗談のような大男がいるぞ。
すんげー筋肉だ。
スーツがぴっちぴちだぞ。
少しでも動けば破れてしまいそうだ。
何者だ?なんでこんな所にいやがる?
小川   「段野浦・・・」
段野浦・・・?
どっかで聞いたような名字だな・・・。
段野浦  「さすがは『BadAss』だ。楽しませてもらったよ」
小川   「そうか。気に入ったならこれからも見に来ればいい」
金持ちの段野浦・・・・・。
なんか思い出せそうだぞ・・・。
段野浦  「ああ。そうさせてもらうよ。ここはたまらなくエキサイティングだ」
小川   「そのかわり、ブツの手配はぬかりなく頼むぜ」
段野浦  「まかせてくれ。これでも有言実行タイプなんだ」
小川   「フッ、ならいいがな」
段野浦  「さて、素晴らしい見せ物を堪能させてもらった礼に、
      僕からも余興をプレゼントしようとおもうんだが」
小川   「勝手にしろ」
段野浦  「それじゃ、少しばかり遊ばせてもらうよ。セイ君だったね?」
セイ   「あン?」
段野浦  「君もこのままただやられるだけじゃつまんないだろ?」
セイ   「なんだテメーは」
段野浦  「おっと、これは失礼。
      自己紹介がまだだったね。
      僕は段野浦 栄一(ダンノウラ エイイチ)。
      君も一度くらい聞いたことがあるだろう?
      総合企業段野浦グループ。
      僕のパパは段野浦グループの会長だ」
セイ   「なるほど、成金ボンボン息子か」
段野浦  「おやおや、手厳しいなぁ。
      そう邪険に扱わないでくれよ。
      僕は君にチャンスをあげようとおもってるんだから」
セイ   「チャンス?」
段野浦  「そう。君ほどの男がただ殴られてるだけは嫌だろう?
      だから僕の選んだ相手3人と試合するんだ。
      もちろん勝ち抜いたら君を解放しよう。
      悪くないだろう?」
セイ   「いいのかよ、小川」
段野浦  「いいよねぇ?小川クン」
小川   「おもしろそうじゃないか。好きにしろ」
段野浦  「だってさ。どうする?やめてもいいんだけど」
セイ   「フン、やってやろーじゃねーか」
段野浦  「そうこなっくちゃねぇ。それじゃ・・・最初は君からだ」
不良   「え?俺っスか」
段野浦  「そう。それじゃはじめよう。
      みんな、セイ君を放してあげてくれないか」
小川   「放してやれ」
小川の声で俺を羽交い締めにしていた兵隊共が離れていく。
やっと自由に動けるぜ。
不良   「いくぞオラー!!」
セイ   「フン」

 VS『BadAss』不良

殴りかかる不良の動きを先読みしてトラース・キック。
・・・つまり後ろ蹴りを繰り出す。もちろんローラーブレード履いたままな。
不良   「ごはっ!」
不良ヤローはあっけなく白目を剥いて倒れた。
段野浦  「おいおい、あっけないなぁ」
セイ   「楽勝だ」
小川   「・・・・・」
セイ   「次はどいつだよ」
段野浦  「そうだなあ、それじゃ君だ」
兵隊   「おおよ!」

 VS『BadAss』兵隊

兵隊   「こいや!!」
今度はさっきのヤツとは逆に待ちかまえる気のようだな。
それならこっちからいってやる!
俺はブレードで加速しながら一気に間合いを詰めた!
兵隊   「わっ・・・!」
兵隊の一歩手前で踏み切って、覆い被さるように飛び掛かる!
敵は突然の動きに対応できないようだな。
兵隊ヤローの上半身に全身で覆い被さる・・・と、当然コイツは後ろへ倒れる。
これをルー・テーズ・プレスというんだぜ。
この技の便利なところは相手が倒れると同時に
必ずマウント・ポジションをとれるというところだ。
つまり馬乗り状態。
こうなれば一方的に馬乗りパンチを繰り出せる!
上から一方的にパンチの雨を降らせると、兵隊ヤローはすぐにグロッキーだ。
セイ   「次は誰だよ」
段野浦  「すごいすごい。強いね君」
セイ   「あと一人だったな。早く選べよ」
段野浦  「そう慌てないで、次の相手はすでに決まってるんだから」
セイ   「な〜んかイヤな予感がするなあ」
段野浦  「そうかい?そうだろうな。もう君もわかってるよね。
      次の相手は・・・・・」
段野浦は親指を突き出し、後ろに合図する。
やっぱりな・・・。
段野浦  「ブキャナンが相手だ!」
セイ   「お約束だな・・・」
段野浦  「まあまあ、そう言わないで。
      ちなみにこのブキャナンは僕専属のボディガードでね。
      普段は無口でおとなしいんだが、
      一旦枷(カセ)がはずれると手のつけられない暴れん坊だ」
セイ   「・・・・・」
段野浦  「君の相手には丁度良いだろう?」
セイ   「この黒人さん、ヤケにデケーな・・・。何センチあるんだよ」
段野浦  「2メートル越えてるからね。
      この巨体から繰り出される超怪力は君の手にもおえないかな?」
ブキャナン「・・・・・」
セイ   「ケッ・・・、やってやろーじゃねーか」
段野浦  「そう。それでいいんだ。
      さあ、楽しいショーの始まりだな!」
ブキャナン「・・・坊ちゃん、よろしいので?」
段野浦  「ああ、軽く遊んであげるんだ」
ブキャナン「わかりました」
セイ   「お手柔らかにたのむぜ、ウドの大木」
ブキャナン「ふん、口の悪いガキだ」
セイ   「こいよ、デクの坊」
ブキャナン「・・・・・」

 VSブキャナン

セイ   「くらえクソゴリラ!!」
ブキャナン「うおおおおー!!!!」
正面から組み合う・・・と見せかけて筋肉ダルマの股をくぐり、背後をとった!
くらえ、膝カックンだ!
ブキャナン「うおっ!?」
段野浦  「なに!?」
どんな筋肉オバケにだって関節はある。
正しい方向に力を働かせれば動かすことはできるんだ。
ブキャナンの巨体が後ろにグラついてやがる。
やがて巨木が倒れるようにゆっくりと倒れ込んできたぞ。
どうだ、おそれいったか。
倒れちまえば背の違いは関係なくなる。
・・・ちょっとまて、後ろに倒れるってコトは・・・・・。
俺ってば下敷きじゃん!!
セイ   「わー!!」
ブキャナン「ぬおっ!」
なんてことだ、よく考えたらこうなるのは目に見えてたじゃねーか。
誰か止めてくれよ。
段野浦  「ぷっ・・・ははははは!」
セイ   「・・・・・」
段野浦  「ははは・・・、セイ君、まったくキミは笑わせてくれるね」
セイ   「ウルセー!」
巨体からどうにか這い出て距離をとる。
ブキャナン「キサマ・・・」
セイ   「さーて、どうしたものかな・・・」
ブキャナン「うおおおおー!!」
巨体で突進をしてきた!
単純だが威力は高い有効な攻撃だな。
セイ   「よっと」
横に飛んで突進を回避する。
ヤツもすぐさま巨顔を振り向かせる。
だが、ヤツが振り向くのに合わせてブレード・キックだ!
どうだ!いくらタフっていってもこれなら効いただろ!
ブキャナン「フン」
セイ   「なっ!?」
鼻で笑いやがった!!
効いてねーってのか!?
ターミネーターかよコイツは!?
ブキャナンが俺の足首を掴んで引き寄せる。
セイ   「うわっ!」
今度は空いてる手で俺の首を鷲掴み・・・。
セイ   「くそ・・・放せ・・・」
ブキャナンは足首を掴んだ手を離し、両手で俺のか細い首を掴む!!
ブキャナン「ふふふ」
セイ   「・・・っくしょー・・・」
万力のような力で喉を締め付けられちゃ呼吸もままならない・・・。
意識を失いそうだ・・・。
セイ   「は・・・放・・・せ・・・・・」
ブキャナン「フン・・・」
怪力を誇示するかのように吊り上げる。
ネックハンギング・ツリーだ。
セイ   「か・・・は・・・・・は・・なせ・・・・・」
ブキャナン「このまま締め落としてやる!」
セイ   「クッ!」
なんとか逃れようと足をバタつかせる・・・。
段野浦  「おいおい、見苦しいな、セイ君」
ブキャナン「ぬぐっ・・・!!」
段野浦  「ブキャナン!?」
適当にバタバタさせた足が巨人の巨金に直撃したようだ!
これはさすがに効いたようだな。
ブキャナン「ファック!!」
ヤツめ、そのまま俺の身体を放り投げやがった!
ネックハンギング・ホイップ!!
凄まじい力技だ。
俺はそのまま地面に叩きつけられた。
だが俺は猫のように受け身が巧いのだ。
よってダメージは最小限に抑えられる。
セイ   「げほっ・・・げほ」
ブキャナン「フー、フー、コロス!」
セイ   「なに怒ってんだよ。いい大人がガキのケンカにめくじら立ててんじゃねーよ」
パワーじゃ向こうが明らかに上、俺が勝るものはスピードとテクニック。
なに?術を使えばいいだろうって?
バカ言ってんじゃねー。
あんなバケモンでもたぶん人間だ。
いちおう普通の人間に術使っちゃあまりにもフェアじゃねーよ。
ブキャナン「うおおおおー!!」
再びバカの一つ覚えで突進してきたぜ!
セイ   「これでも食らえー!!」
こうなったらこっちも突攻だ!
ブレードを急加速させて黒シュワちゃんに突進する!
十分にスピードに乗った状態でジャンプ!
空中で身体を捻って回転させて・・・後ろ回し蹴り!
ブレード式ローリング・ソバット!
しかもカウンター!
ブキャナン「ブグッ!!」
あれだけスピードに乗った状態での一撃だ。
これでダメなら人間じゃねーぞ!
段野浦  「ブキャナン!!」
さすがのブキャナンも大の字になってぶっ倒れたぜ!
セイ   「どーよ、見た見た?俺の勝ちだな。俺ってスゲー」
段野浦  「ま、まさか・・・」
小川   「少し遊びが過ぎたようだな・・・」
段野浦  「ま、まて!なにかの間違いだ!こんな事があるもんか!」
セイ   「なあ、もう帰ってもいいんだろ?」
段野浦  「くっ・・・」
ブキャナン「待て、小僧」
段野浦  「ブキャナン!」
セイ   「うわぁー・・・しつこ〜▲」
振り返ると鼻血をたらした巨顔がそびえ立っていた・・・。
コイツ、いったいどこまでタフなんだ・・・。
セイ   「どうしろってのさ、まったくよー」
段野浦  「ははは!さすがはブキャナン!僕のボディガードだけのことはある!」
小川   「・・・・・フン」
段野浦  「見てくれよ小川クン!勝負はこれからだ!」
小川   「・・・どちらにせよ、遊びはここまでだ」
段野浦  「え?」
小川   「どうやらタイムアップらしい。
      招かれざる客のご到着だ」
セイ   「?」
なんだ?
なんかヤケに公園の外が騒がしくなってきたぞ。
小川   「セイ、今日の所はここまでだ。
      この決着はいつかつけてやる」
セイ   「なんだよ、どうしたんだ?」
小川   「宴はおひらきってことだ。
      次を楽しみにしてるぜ。オマエ、おもしれーよ」
セイ   「そうかい、気に入ってもらえたかな?」
小川   「ああ。オマエのようなヤツがひれ伏したら・・・。
      クククッ、サイコーだぜ!」
セイ   「ヘッ、出来るモンならやってみろって」
小川   「クククッ」
小川・・・か。
さすがにタダモノじゃねーな・・・。
段野浦  「しかたがない、ブキャナン。帰るぞ」
ブキャナン「・・・・・」
・・・なんかあのケダモノ、すんげー形相で睨み付けてやがる・・・。
できればもうお目にかかりたくないもんだな。
しかし、外の騒ぎがだんだん近づいてくる・・・。
怒号が響いてる事から察すると・・・どっかの誰かが『BadAss』と争ってるのかな。
お、いま入り口を固めていた『BadAss』の兵隊が蹴散らされて、
別の一団が乱入してきたぞ!
リーダー風の男が怒鳴っている。
木根   「小川ー!!!どこだーッ!!」
小川   「ずいぶん元気そうじゃないか、木根」
そうだ、このリーダー風の男はたしか木根 直人(キネ ナオト)ってヤツだ!
何度か会った事があるぞ。
じゃあコイツらは『ガーディアン』か!
たしか宇都宮(ウツノミヤ)ってヤツが中心となって組織してる、
東京全土のワルガキ共のイザコザを取り締まる自警団だ。
このめちゃ細いが長身の木根は自警団のサブリーダーとして、
新宿&渋谷地区を任されているんだ、たしか。
普段は丁寧な言葉遣いで紳士的なんだが・・・。
今はかなりヒステリックに叫んでる。
あまりにもヒートしすぎて髪が逆立ってる・・・わけじゃあない。
・・・髪はいつも逆立ってる。
怒髪天をつくって状態じゃあない。
あのヘアースタイルはファッションらしいからな。
木根   「小川!貴様また・・・」
小川   「フン、お前らにはカンケーない」
木根   「キィー!なんですってェー!?
      これが関係ないって言える!?冗談じゃないッ!!
      関係大アリよッ!!」
小川   「フン、お節介な事だ。
      それで?関係あるならどうするんだ?」
木根   「決まってんじゃないっ!アンタをとっ捕まえて・・・」
小川   「いけ!」
兵隊   「おおー!!」
木根   「な!ちょっとォ!!」
『BadAss』の兵隊達が木根達自警団に襲いかかる!
木根   「ザコで私の相手が務まると思ってんのォ!!」
おお!あの木根ってのスゲーぞ!
旋風脚って感じの回し蹴りでザコを一掃しちまった!
小川   「じゃあな、木根」
木根   「ああっ!ま、待ちなさいよォ!!」
木根がザコを相手してるスキに小川は人混みに紛れていくぜ。
小川   「解散だ!」
木根   「クゥ〜!!」
とりあえずカタはついたな・・・。
早く縄田をおろしてやろうぜ。
木根   「ちょっと、あんたセイじゃない?」
木の方に歩み寄って行くと木根が声をかけてきた。
あ・・・もうバレちまったか・・・。
セイ   「おひさ・・・だね」
木根   「『BadAss』がなんかやってるって連絡受けて来たんだけど、
      まさか相手がセイだったなんて・・・」
セイ   「意外?」
木根   「意外よぉ。だってあんたあーゆーのとモメるの初めてでしょお?
      それにあんたたちって渋谷じゃなかったっけ?」
セイ   「渋谷だよ。たまたま変なヤツに絡まれて、
      そいつが『BadAss』だったってわけ」
木根   「そう。それはとんだ災難ね」
セイ   「相変わらずオネエ言葉だな」
木根   「あらやだ!興奮するとどうしても・・・、
      でも別にいいじゃない!個人の自由でしょ」
セイ   「ま、俺は個性的で良いと思うがね」
木根   「ふーん。・・・あら、どうしたの?」
セイ   「手伝ってくれ」
木根   「え・・・な、なんてこと・・・」
セイ   「アイツが一番の被害者なんだ」
木根   「皆、彼を木から下ろすわよ!手伝いなさい!」

自警団の連中が手を貸してくれたんでスムーズに縄田を救出できた。
セイ   「オイ、縄田!しっかりしろ!」
縄田   「・・・・・」
セイ   「オイ!」
縄田   「・・・ん・・・んん・・・・・」
セイ   「縄田!」
縄田   「・・・あ、セ、セイさん・・・」
セイ   「ふぅー・・・気がついたか。死んでるかもって思ったぜ」
縄田   「あれ?俺・・・・・あいつらに」
セイ   「もう大丈夫だ」
縄田   「へへっ・・・、ドジっちゃいました・・・」
セイ   「バカ」
縄田   「へへっ、ご迷惑おかけしました」
セイ   「バカ。オマエが迷惑被ってんだ」
縄田   「へへっ、そうでしたね・・・」
木根   「大丈夫なの?」
セイ   「見た目ほどやられまくっちゃいねーみてーだな」
縄田   「はは、俺、あっさり気絶しちゃったから・・・」
セイ   「そっか」
木根   「病院手配しようか?」
セイ   「どうだ?」
縄田   「いえ、大丈夫です・・・」
木根   「ホントに?」
縄田   「はい・・・」
セイ   「よし、そんじゃ帰ろうぜ」
縄田   「そ、そーッスね・・・」
木根   「私達が送っていきましょう」
セイ   「すまねーな」
自警団  「木根さん、外に放置されてた重症のヤツは・・・」
木根   「ああ、そーいえばセイ、アンタ達3人で来たの?」
セイ   「いや、俺とコイツだけ」
木根   「じゃあアレあんたがやったの?」
セイ   「アレ?・・・ああ、あのジャンキーヤロー?」
木根   「そうなの?まったく、最近は薬物に対する危機感が薄すぎるから・・・」
セイ   「アイツは小川に見限られて制裁されたヤツだぞ」
木根   「あら『BadAss』なの?」
セイ   「今はどうか知らねーがな」
木根   「なるほどね。病院へ搬送しなさい。それと薬物中毒だって言っといて」
自警団  「了解しました」
木根   「私は被害者を送っていくから。あとの処理はまかせます」
自警団  「はい」
木根   「それじゃ、行きましょ」
セイ   「ああ、帰ろう帰ろう。疲れた疲れた」
木根   「こっちよ、車で行くから」
セイ   「この車、あんたの?」
木根   「そーよ。すごいでしょ」
セイ   「いーなー」
木根   「あんたはまだ免許取れないもんね〜」
セイ   「そーいや木根ちゃんいくつ?」
木根   「内緒」
セイ   「そーか、もうオッサンなんだな」
木根   「しつれーね!そんなわけないでしょ!」
木根の車に縄田を放り込み、俺は助手席に座る。
木根   「さ、出発よ」
軽やかに木根の車が発進する。
セイ   「あー、ハラ減った・・・」
縄田   「あ、そういえば俺もペコペコっス」
木根   「あら、二人とも夕食まだなの?」
セイ   「そう。可哀想だろ?なんかオゴって」
木根   「や〜よ。車のローンもあるってのに、オゴってる余裕なんかありません」
セイ   「ケチ」
木根   「ウチ帰れば?ゴハンくらい用意してあるんじゃないの?」
セイ   「まーな」
木根   「じゃワガママ言わないの。イイご身分じゃない」
セイ   「普通だろ」
木根   「あら、それが普通だと思えることが幸せなのよ」
セイ   「そういうもんかね・・・」
木根   「そういうモンなの。年長者の貴重な意見よ」
セイ   「そうだな。遙かに年上のオッサンの言葉だ。素直にきいとこう」
木根   「・・・なんか言ったかしら?」
セイ   「いや、空耳だろ、たぶん・・・」
木根   「このままお台場行って海へダイブしてもいいのよ?」
セイ   「冗談です。オニイサマ」
木根   「そうそ。最初から素直にお兄サマとお言い」
縄田   「・・・あの、お二人は知り合いなんスか?」
セイ   「ん、まあ・・・な。
      前に何度か会ったことがある程度だが・・・」
木根   「前にセイのチーム『Make−be.lieve』について
      調査みたいな感じで概要聞いたりしてたのよ」
縄田   「なんでまた?」
木根   「私は自警団『ガーディアン』ですからね。
      新宿&渋谷地区担当、木根直人」
縄田   「そーなんスか!?」
セイ   「オマエが解放されたのは俺のおかげだけじゃねーんだぞ。
      ちゃんと礼言っとけ」
縄田   「あ、どうも。ご苦労様っシタ」
木根   「いいのよ。これが私らの仕事なんだから」
縄田   「・・・ところで・・・あの。
      木根さんって・・・・・オカマっスか?」
木根   「!!」
どわっ!!いきなりアクセル全開だ!!
セイ   「木根!落ち着け!ブレーキ!ブレーキ踏め!!」
木根   「はっ!?」
セイ   「縄田!謝れ!!」
縄田   「す、すいません!!」
木根   「あら、いま何かあったの?一瞬頭が真っ白になったんだケド・・・」
セイ   「イヤ・・・気のせいだ。きっと・・・」
縄田   「はあ・・・はあ・・・・・」
木根   「そう?疲れてるのかもね〜・・・」
口は災いのもとだ。
縄田も命が惜しければ軽はずみな発言は控えてくれ。

恐怖のドライブもそろそろ終わりだ。
もう渋谷だからな。
木根   「セイ、ナビ頼むわ」
セイ   「次を左な」
木根   「宮益坂?青山通りなの?」
セイ   「それより手前」
木根   「じゃあスグなんだ。公園まで」
セイ   「ワザワザ遠くにゃ行かねーって」
木根   「それもそうね」
縄田   「あ、でもセイさん家はここ・・・」
セイ   「送ってってやるってんだよ」
縄田   「あ・・・すいませんっス」
木根   「やさしーのねぇ」
セイ   「俺は慈愛の具現者なのだ」
木根   「よく言う」
縄田   「あ、ここが俺ん家です」
木根   「あら、ご近所さんねぇ」
セイ   「そーなんだ、うっとおしいことにな」
縄田   「そりゃないッスよ」
セイ   「じゃあな」
縄田   「ういッス、失礼しまス」
木根   「これからは『BadAss』に気を付けるのよ」
縄田   「了解ッス」
縄田を無事送り届けたぜ。
俺もここで降りようか。
セイ   「じゃ、俺もここでいいよ」
木根   「あら、送っていくのに」
セイ   「はは、送り狼になられちゃ困るからな」
木根   「私はホモじゃありません!」
セイ   「あ、そーなんだ。一安心」
木根   「失礼ね」
セイ   「ゲイってオチはナシだぜ?」
木根   「私はね、お人形さんみたいな可愛らしい女の子が好きなの!」
セイ   「・・・ロリコンか△」
木根   「好みは自由でしょ」
セイ   「ま、がんばってくれ・・・。じゃあな」
木根   「あんたもね、セイ。小川はしつこいわよ」
セイ   「・・・ああ。キモに命じとくよ」
木根はそのまま車を発進させて帰ってった。
たぶん一旦青山通りにでて、また新宿に戻るんだろう。
きっと忙しいんだろうな。
さて、どうにか縄田も救出したし、帰って寝よーぜ。
もうクタクタだ。


重い足取りで我が家に到着だ。
とはいってもブレードでダラダラ滑ってきたので軽やかと言えば軽やかかもな。
とにかく俺が言いたいのは、今日は疲れたってことだ。
さっさと部屋に入ってバタンキューしたいぜ・・・。
風呂も面倒なくらい・・・・・いや、不潔はイヤだ。
しかたない、速攻で風呂に入ろう。
なんてことを考えながら玄関を開ける。
ちなみにウチは引き戸だ。
もう夜だってのに不用心に鍵もかけてねーな。
セイ   「たらいま〜」
ちょうどその時、風呂からおふくろが出てきた。
満恵   「おかえりなさい」
セイ   「・・・ああ」
満恵   「先にお風呂いただきました」
セイ   「ああ、好きにしてくれ・・・。
      あ、つぎ風呂入るとマズイか?
      伊吹が入ってたりしたらシャレにならん」
満恵   「あの二人は仕事にでています。
      先に入ってしまいなさい」
セイ   「あれ?今日の仕事は夕方に終わったんじゃねーのか?」
満恵   「急遽仕事がはいったのです」
セイ   「なんだよソレ!いきなりダブルヘッダーなんかさせんなよ!」
満恵   「そうですね」
セイ   「は?なんなんだよ、その答えは!」
満恵   「・・・・・」
セイ   「なんとか言えよ!オイ!」
満恵   「あなたがちゃんとそう思えるなら問題ありません」
セイ   「はあ?さっきから何言ってんだ!?全然会話になってねーぞ!」
満恵   「まあいいでしょう」
それだけ言っておふくろは奥に引っ込んでいった・・・。
セイ   「わ・・・わけわかんねー・・・・・」
しばしぼーぜんとしてしまったが、気を取り直して部屋に行こう。
それから風呂だ!今日一日の疲れをとるぞ!

ざっぷ〜ん!っとな。
セイ   「ふぃ〜・・・。
      やっぱ一日の締めは風呂だよな〜」
声も響くし、気分いいぜ。
ふー、良い気持ちじゃ・・・。
・・・・・。
そーいやガキの頃はよく親父とも入ってたな。
背中にゃ数々の激闘を物語る多くの傷があったっけ。
昔はなんで背中に怪我するのか不思議だった。
逃げまわってるところを攻撃されて怪我してたってワケじゃない。
背中に傷を負う時、それは敵の攻撃から誰かをかばう時。
それに気付いたのは・・・小学生の頃。
ある日、いつもと変わらない日、ガキだった俺の目の前に突然バケモノが出てきやがった。
このバケモノは近所に出現したヤツで、親父が退治しようとしてたんだが、
なかなかしぶとくて逃亡したらしいんだ。
初遭遇だった。
当然もっともっとガキの頃から退魔の訓練は受けていた。
だが、突如あんな状況に立たされると、人間身がすくんで動けなくなっちまうんだ。
すぐに親父が駆けつけてくれたんだが、俺はバケモノの攻撃にさらされようとしていた。
だが次の瞬間には、親父は俺を胸に抱いて包み込んでいた。
バケモノの攻撃は親父を直撃したが、親父はそれを耐え抜いて反撃した。
そしてバケモノが滅んだ後、振り返って『無事か、良かった』って・・・。
・・・・・。
へっ、あんときはさすがに尊敬したね。
もちろんその場ではヘタリこんで固まってたがな。
一応名誉のために言っておくが、ちびったりはしてないからな!
ま、思い出話はこのくらいにしておこう。
これ以上風呂に入ってるとのぼせちまうぜ。
・・・出るってんだ。
カメラはスイッチOFFだ。

風呂上がりにキッチンで牛乳を一気飲みして・・・無論腰に手を当てて。
ついでに見付けた夕食の残りを一瞬でたいらげて、その後すぐに歯を磨く。
そして階段を駆け上がりベッドへ一直線にベースボール・スライドだ!
ふかふかの布団に潜り込み速攻で熟睡モードに突入だ!
お疲れ、おやすみ、また明日〜!



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