SYNCHRONICITY TWINS STORY

NECRONOMICON

ACT.1 03日 土曜 午後 (メイ編・地獄)



・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・ぅ・・・・・・・・ぅぅ・・・・・・。
メイ   「・・・う・・・んん・・・・・」
・・・あれ?
僕は・・・どうしたんだっけ?
・・・・・・・・・たしか・・・。
メイ   「・・・ここは?」
ゆっくり目を開けてあたりを見回してみてもここがどこだかわからなかった。
真っ暗な空間にいるようだけど・・・。
・・・僕は・・・どこで何をしていたんだっけ・・・。
メイ   「・・・・・そうだ!『妖王』!!」
・・・あれ?
たしか僕は『妖王』と遭遇して・・・。
『妖王』が得体の知れない光を放ったんだ!
それから気を失って・・・・・。
・・・どうやらここに『妖王』はいないようだけど・・・。
そういえば朱雀もいないみたいだ。
一体何が起こったんだろう?
もしかして僕は死んでしまったのかな・・・。
だとしたらここはいわゆるあの世・・・なんだろうか?
それにしても暗い場所だな・・・。
なにかあれば現状を整理できるんだけど・・・。
この場所はどうやら石で造られた部屋のようだ・・・あ、向こうから明かりが漏れてる。
どうやらここはどこかの部屋のようだ。
光が漏れている場所がこの部屋のドアみたいだ。
ドアはわずかに開いていて、向こうの部屋から光が入ってきている。
とりあえず行ってみようか・・・。
ドアの方へ近付いていくと、外からなにやら話し声が聞こえてきた。
誰かいるみたいだね。
なんだか外は慌ただしい状況みたいだ。
いろんな声が飛び交っている・・・。
いきなり出ていくと危険かもしれないし、しばらく聞き耳たててみよう。
声A   「ぐずぐずしてんじゃねーぞ!もう奴等は来てるんだ!」
声B   「準備は整ったか?暗黒騎士団の誇りを見せてやれ!」
声C   「敵を指揮してるのは誰だったか確認はとれたか?」
声D   「どうやら・・・敵の指揮官は黒龍騎士団レベッカ将軍のようです!!」
声C   「なんだと!?奴等め・・・今回は本気のようだな・・・」
声D   「どういたしましょう?」
声C   「こちらも全力で応戦しろ!一切余力を残すな!
      なんとしてもこの機にレベッカ将軍を討ち取るのだ!」
声D   「はっ!」
声E   「なんということだ・・・我々はもう終わりだ・・・」
声F   「奴等を絶対に城内に入れるな!なんとしてもくい止めろ!!」
なんだか・・・大変な状況みたいだけど・・・。
よくわかんないけど・・・戦闘中のような雰囲気だよねぇ・・・。
どういうこと?
ここって本当に日本なのかな?
・・・・・僕、もしかしてとても場違いなところにいるんじゃあ・・・。
声G   「おい新入り!さっさと戦闘準備をしろ!」
甲高い声 「新入りじゃないって言ってるでしょう!物覚えの悪い人ですね!
      それにアナタに命令される筋合いはありません!
      しかもなんて横柄な態度ですか!失礼ですね!神経をうたがいますよ!」
・・・あれ?
この甲高い声・・・どこかで聞いたような・・・・・。
声G   「なんだと!貴様、アンリマンユ様のために戦えないというのか?」
甲高い声 「戦いなんてしてるヒマはありません!
      ワタクシはご主人様を捜しているんです!」
・・・やっぱり、聞いたことある・・・。
声G   「何言ってやがる!俺達の主人はアンリマンユ様だろうが!」
甲高い声 「だからワタクシはアナタ達のお仲間じゃないって言ってるでしょう!」
・・・っていうか、ついさっきまで聞いてた声だと思うんだけど・・・。
声G   「なに?じゃあなんでこの城にいる?どうやって忍び込んだ?」
甲高い声 「知りませんよ!光に包まれてイキナリ飛ばされて来たんですから!」
どうやら僕の知ってるアレに間違いなさそうだね・・・。
どうしよう、言い争ってるみたいだけど、出ていってみようかな・・・。
声G   「嘘ならもっと上手くつけよな!貴様、LoD軍のスパイだな?」
甲高い声 「何言ってるか全然ワカランですな!言いがかりはヤメテもらいましょうか!」
声G   「やかましい!スパイは極刑だ!!いまこの場で始末してやる!」
なんだか悠長に構えてる場合じゃなくなったようだね。
しょうがない、出ていってみよう!
メイ   「ちょっと待ってください!」
悪魔   「あ?なんだテメーは?」
メイ   「・・・アレ?」
目の前にいるのって・・・どう見ても悪魔みたいなんだけど・・・。
な、なにかの着ぐるみかな・・・?
おかしいな、予想では恐そうなおじさんが喧嘩してるんだと思ってたんだけど・・・。
コレってどこからどう見ても・・・悪魔・・・だよね?
悪魔   「怪しい奴だな・・・」
朱雀   「メイさまーッ!!!!」
朱雀が抱きついてきた。
やっぱり言い争いしてたのは朱雀だったようだね・・・。
朱雀   「捜しましたよぉ〜!心細かったですぅ〜!」
メイ   「・・・本当に?」
それにしてはヤケに堂々と話してたみたいだけど・・・悪魔と・・・・・。
悪魔   「そうか、貴様もこのバカ鳥の仲間か!
      LoD軍のくせに、アンリマンユ様の居城に忍び込むたぁ、いい度胸だな」
メイ   「あ、あの・・・なんのことだか・・・」
朱雀   「サッパリですよね?メイ様」
メイ   「ね・・・」
悪魔   「とぼけんじゃねー!ブッ殺してやる!!」
悪魔士官 「どうした、なにを騒いでいるのだ?こんなところで・・・」
後ろから誰かがやってきた・・・。
身なりから推測するとかなり位が上の・・・悪魔。
悪魔   「ハ、ハンカール様!」
ハンカール?
それがこの悪魔の名前かな。
やっぱりかなり階級が上の人みたいだね・・・。
ハンカール「この扉の向こうにはアンリマンユ様もおられるのだ。
      騒ぐなら場所をわきまえろ」
悪魔   「ははっ!」
悪魔1  「失礼します、ハンカール元帥」
ハンカール「どうした?」
悪魔1  「迎撃部隊を突破されました!」
ハンカール「なんだと!?暗黒騎士団はなにをやっている!」
悪魔1  「それが・・・敵にどうやらレベッカ将軍がいるようで・・・」
ハンカール「なに!?・・・そうか・・・お前達も早く迎え撃つんだ!」
悪魔1  「はっ!」
悪魔   「あの・・・ハンカール様」
ハンカール「どうした?お前も早く持ち場につけ」
悪魔   「実は、コイツらが・・・どうやら敵のスパイのようで・・・」
ハンカール「なに?」
メイ   「え?ちが・・・」
ハンカール「わかった。彼らの処分は私がやる。お前ははやく迎撃するんだ」
悪魔   「ハイ!」
メイ   「あ、あの・・・」
・・・勝手なこと言ってどこかに行っちゃった・・・。
ハンカール「さて、貴様らには聞きたいことがある。来てもらおうか」
メイ   「え?ええ〜っ!?」
朱雀   「なんなんでしょうね?この状況は」
僕達はハンカールに引きずられるように正面の巨大な扉をくぐらされた。
その部屋はとてつもない広さの部屋だった。
中央に巨大な玉座があり、その周囲は豪華だがどこか不気味な装飾がなされている。
玉座に座るのは岩のようなごつごつとした巨体を誇る悪魔。
闇色の煙のような翼をたたんで玉座に座っている。
ハンカール「アンリマンユ様に御報告いたします」
アンリマンユ「どうした?」
凄い・・・。
深い闇の底から響いてくるような声だ・・・。
聞く者を恐怖させる迫力がある。
この大悪魔がこの城の主・・・アンリマンユ。
ハンカール「密偵が侵入しておりましたので捕らえました」
アンリマンユ「その者たちか?」
ハンカール「はい」
アンリマンユ「処分しろ」
ハンカール「かしこまりました」
メイ   「ちょ、そんな!」
朱雀   「横暴!横暴!人権侵害!人権侵害!」
ハンカール「では今この場で切り捨てる前にお前達に訊いておこう」
メイ   「待ってください!なにがなんだかわかりません!」
ハンカール「とぼけても無駄だ。
      あくまでシラをきると無意味に苦痛を長引かせるだけだぞ?」
メイ   「嘘じゃないんです!」
ハンカール「誰でも最初はそう言う。
      レベッカ将軍が自ら攻め込んできたのはそれなりの理由があるはずだ。
      言え。・・・貴様らの切り札はなんだ?」
メイ   「知りません!」
ハンカール「いかにレベッカ将軍と黒龍騎士団といえど、
      この城に攻め込むのはあまりに無謀。
      なんらかの秘策があるのではないか?」
メイ   「ちょっと待ってください!本当に僕達は何も・・・。
      そもそもここがどこなのかもわからないんです!」
ハンカール「なに?」
メイ   「信じてください!」
ハンカール「世迷い事を・・・。ここがどこかもわからないだと?」
メイ   「本当なんです!突然とばされて・・・気が付いたらここに・・・」
アンリマンユ「・・・・・」
ハンカール「フッ、下手な言い逃れだ。あきれてものが言えん。
      もっとマシな言い訳はできんのか?」
メイ   「でも本当なんです!」
朱雀   「信じる者は巣食われる!」
ハンカール「黙れ!どうあっても喋らないつもりか・・・」
メイ   「そんな・・・」
その時、突然凄まじい閃光が部屋を包み、
直後、直下型大地震が襲ってきた!
アンリマンユ「!?」
ハンカール「なっ・・・!?」
メイ   「うわっ!!」
でも爆発的な衝撃はすぐにおさまった。
まだ振動が大地に残ってるみたいだけど・・・。
いったい何だったんだ?
まるで巨大な隕石でも落下してきたような・・・?
ハンカール「何事だ!?」
悪魔   「報告します!
      敵が・・・天響動地砲を発射しました!!」
ハンカール「なんだと!?」
悪魔   「いまの一撃により城は半壊!
      我が方の被害は甚大です!」
ハンカール「バカな!天響動地砲だと!?
      あれは天界に封印されている最終兵器のはずだ!
      この地獄で使用できるはずがない!」
地獄!?いま地獄って言った?
ハンカール「どうしてレベッカ将軍が・・・」
アンリマンユ「・・・異端天使が動いたか・・・」
ハンカール「!!・・・バカな・・・何故奴が敵方に加勢を・・・」
アンリマンユ「・・・・・」
ハンカール「・・・・・しかし・・・事実として受け入れる他ない・・・か。
      現に砲撃は起こり、我らの居城は半壊・・・。
      では城門を守っていた守備隊も・・・全滅か・・・」
悪魔   「今の一撃で戦力の4分の3を失いました・・・。
      いかが致しましょう」
ハンカール「・・・残った全戦力を総動員して迎撃しろ・・・。
      天響動地砲が一撃を放った以上、天界のエネルギーは大きく失われている。
      もう当分の間砲撃される心配もあるまい。
      そして肝心の異端天使は天界から砲撃をおこなったのなら、
      この場には居合わせてはおるまい。
      破壊エネルギーを地獄の最下層であるこの場に転送するために、
      ほとんどのエネルギーを消耗しているだろうし、
      奴が危険を省みずここへ駆けつける可能性は低いだろう。
      となれば強敵といえるのは指揮官であるレベッカ将軍のみ!
      アンリマンユ様と私がいれば、まだ負ける戦いではない!」
悪魔   「わかりました!全戦力を集中し、敵を迎撃したします!」
ハンカール「・・・・・さて、どうやら切り札が使われてしまったな・・・。
      我々も悠長に構えすぎていたようだ。
      もう貴様から情報を引き出す必要はなくなった・・・・・。
      いまこの場で斬り殺す!」
メイ   「そんなっ!!」
ハンカールが羽織っていたマントを脱ぎ捨てて臨戦態勢をとった!
驚いたことにマントの下に隠れていた腕は6本!
その全てが剣を構えて僕を狙っている!
さらにマントの下にはしっかりと鎧が着込まれていた。
いったいどうすればいいんだろう・・・。
もう戦うしかないんだろうか。
ハンカール「いくぞ!覚悟するがいい!!」
メイ   「しょうがない!朱雀、応戦するよ!」
朱雀   「了解ー!!」

 VSハンカール元帥

ハンカール「我が剣の乱撃を凌ぐことなど不可能!
      潔く諦めて我が制裁を受けよ!」
メイ   「濡れ衣だって言ってるでしょう!」
朱雀   「そーだそーだ!黙ってヤラレル訳にいくわけないでしょう!」
ハンカールが6本の腕を駆使して斬りかかってきた!
メイ   「陰陽術・六道陽刀(リクドウヨウトウ)!」
素早く印を結び、右手に剣を出現させる!
僕は剣の扱いは得意じゃないけど武器も無しであの攻撃を捌く自信はない。
ハンカール「この私と剣で渡り合うつもりか?おもしろい、やってみるがいい!」
ハンカールは激しい剣撃を連続で浴びせてくる!
なんとか応戦するがどんどん追い込まれていく!
ハンカール「どうした!こんなものか?」
朱雀   「けー!!」
朱雀が突撃して牽制する!
ハンカール「クッ、こざかしい鳥め!」
ハンカールの注意が朱雀に向けられた!
チャンスだ!左手に護符を取り出した!
メイ   「陰陽符術奥義・五芒結界陣(ゴボウケッカイジン)!!!!」
素早く後ろに飛び退きながらハンカールの足下に5枚の符を投げつける!
5枚の符はハンカールを星形に囲むように配置する!
すると5つの符を頂点に五芒星が形成された!
ハンカール「なんだ!?」
すると五芒星から明るい光が立ち昇りハンカールの動きを封じ込める!
ハンカール「こ、これは!?」
メイ   「炎繰術・昇炎(ショウエン)!!!」
ハンカール「グッ!!」
ハンカールの立っている床から爆炎が立ち上る!!
アンリマンユ「・・・・・」
朱雀   「やりました!!」
しかしまだゆらめく炎の中から強力な殺気を感じる!
メイ   「まだだ!炎繰術・爆裂連撃(バクレツレンゲキ)!!」
小型の火球を無数に放つ!
メイ   「とどめだ!炎繰術・爆火弾(バッカダン)!!!」
圧縮した火炎爆弾を放ち大爆発を起こす!
いくらなんでもこれだけやれば倒せただろう・・・。
メイ   「どうだ」
大量の煙が立ち上ったが、徐々にはれてきた・・・・・。
朱雀   「けー!?」
メイ   「くっ!!」
ハンカールは煙の中からこちらを見据えていた!
まだ生きている!
ハンカール「驚いたぞ。まさか貴様がこれほどの使い手とはな・・・」
朱雀   「なんてヤツ・・・」
ハンカール「・・・ぬうううううぅぅぅ・・・・・・はあっ!!」
身体にため込んだ魔力を爆発させて五芒星結界をはじき飛ばした!
なんて魔力だ・・・。
ハンカール「どうやら楽しませてくれそうだな!」
メイ   「くっ・・・」
ハンカール「これならどうかな?飛刀乱舞!!!!」
そう言って全ての手が剣を離す。
いったい・・・と思ったのもつかの間、手を離れた剣はそのまま宙に浮いている!
ハンカール「いくぞ!」
6つの剣がひとりでに飛翔して同時に襲いかかってくる!
メイ   「なっ!?」
咄嗟に剣で防御するがあらゆる方向から剣で攻撃され、
何度か捌ききれなかった攻撃を受けた!
それでも攻撃は止まず、徐々になます斬りにされていく!
しかしどうにかまだ致命傷は受けてはいない。
ハンカール「どうした?手も足も出んか」
朱雀   「けー!!」
朱雀が特攻する!
ハンカール「フッ・・・」
特攻を仕掛けた朱雀を6本の腕で捕獲する!
ハンカール「小賢しい鳥め。少しおとなしくしていてもらおうか!」
メイ   「朱雀!!」
ハンカール「このまま捻り潰してやる!!」
ハンカールが6本の腕に力を込めた!
朱雀   「そうはいくもんですか!」
ハンカール「うっ!?」
朱雀の身体は一瞬のうちにただの炎となりハンカールの腕の隙間から溢れ出した!
ハンカール「ぐおっ!?」
至近距離で炎に変化した朱雀を捕らえていたハンカールはその高熱にたじろいだ!
その瞬間、ハンカールの集中力がとぎれた!
飛翔する剣の動きが一瞬止まる!
チャンスはいまこの時しかない!
アンリマンユ「・・・!?」
メイ   「炎繰術最高奥義・・・」
ハンカール「おのれ・・・」
朱雀はすぐに距離を置いてもとの鳥の姿に戻る。
メイ   「鳳凰迅翔(ホウオウジンショウ)!!!!!」
身体に灼熱の鳳凰を宿らせ巨大な火の鳥に変化しハンカールめがけて飛翔する!!
ハンカール「なにっ!?」
強烈無比な鳳凰の一撃がハンカールをまともに直撃する!!!
ハンカール「ぐわあああああああああああ!!!!!」
ハンカールは絶叫をあげて鳳凰の爆炎に包まれた!!
特攻を終えた僕は鳳凰の姿を失い石の床になげだされる。
部屋の調度品には大量の火が燃え移り、まさに戦場といった状態になっている・・・。
これで倒せなければ・・・。
徐々に火がおさまっていく・・・・・!!
メイ   「そんな・・・」
ハンカールはまだ立っている!
こんなバカな!なんてやつなんだ!
あれで倒せないなんて・・・。そんなに強いっていうのか!?
ハンカール「くっ・・・グッ・・・」
ハンカールはがっくりと膝をついた。
さすがに効いてはいるらしい。
ハンカール「・・・バ、バカな・・・。
      まさか・・・この私が・・・・・。
      お、おのれ・・・油断した・・・。
      まさか・・・・・これ程までの力があるとは・・・・・」
メイ   「・・・・・」
ハンカール「許さぬぞ・・・・・。貴様などに・・・この私が・・・負けるはずは・・・」
アンリマンユ「下がっていろ、元帥」
ハンカール「ア、アンリマンユ・・・様・・・・・」
いつのまにか傍らで観戦していた巨大な魔王が玉座から立ち上がっていた!
アンリマンユ「このようなところで元帥を失うわけにはいかぬ」
ハンカール「し・・・しかし・・・」
アンリマンユ「小奴の相手は我がする。
      元帥はすぐに地下の治療室で集中治療を受けろ」
ハンカール「そ、そうはいきません!奴は私が・・・始末します!」
アンリマンユ「その状態ではもう無理だ。元帥、そなたの負けだ」
ハンカール「わ・・・私の・・・・・負け・・・」
アンリマンユ「元帥には我の片腕として働いてもらわねばならん。
      よってここで死ぬことは我が許さん」
ハンカール「しかし・・・・・」
アンリマンユ「これは我の命令だ!聞けぬと申すか?」
ハンカール「いえ・・・決してそのような・・・・・」
アンリマンユ「では早く地下へおりろ。ここにいては戦いの巻き添えになるぞ」
ハンカール「は・・・。かしこまりました・・・・・」
アンリマンユ「・・・・・」
ハンカールは魔王の部屋から退室していく・・・。
朱雀   「メイ様!アイツ逃げちゃいます!」
メイ   「いいんだよ」
朱雀   「でも、あんな強敵仕留めるチャンスを逃すのは・・・」
メイ   「無理だよ。魔王が手出しさせないさ」
朱雀   「う、そりゃそうですが・・・」
ハンカールが完全に退室したのを見計らって魔王が口をひらいた。
アンリマンユ「先の戦い、元帥を相手に見事だった。
      我もまさかここまでやるとは思わなかったぞ。
      敵にしておくのは惜しいくらいだ」
メイ   「だから・・・敵じゃありません!」
アンリマンユ「元帥を倒す程の手練れが、我が居城に忍び込んで敵ではないと申すか?」
メイ   「・・・でも、本当なんです!」
アンリマンユ「信用できんな。異端天使もレベッカ将軍に力を貸した・・・。
      もはや誰もを疑う必要がある。不穏分子は抹消せねばならん。
      惜しい逸材だが・・・・・しかたあるまい」
メイ   「黙って殺されるつもりはありませんよ」
アンリマンユ「元帥との戦いでそれはわかっている。
      そして、あの戦いを見た後、我が油断する事はない」
メイ   「光栄ですね・・・」
アンリマンユ「不敵な奴だ。ますます惜しい奴よ。だが、死んでもらおう!」

メイ   「負けるわけにはいかない!やるだけやるしかない!!朱雀!」
朱雀   「けーっ!!」
朱雀が特攻を仕掛ける!
アンリマンユ「こざかしい!」
巨大な岩のような手で朱雀をあっさり払い除ける!
メイ   「炎繰術・爆火弾(バッカダン)!!」
圧縮火炎爆弾を放つ!
直撃したが巨大な体躯を誇る魔王にはあまり効果がない!
アンリマンユ「カア!!」
魔王が口から真っ黒いブレスを吐きかける!
朱雀   「メイ様離れて!あれは毒ガスです!」
メイ   「くっ!」
ガスを大きく回避して魔王の右側面に回り込む!
メイ   「陰陽符術・灰燼炎符(カイジンエンフ)!!」
高熱の炎を噴出する符を投げつける!
符は魔王の身体に張り付いて燃えさかる!
アンリマンユ「この程度の炎では我に苦痛を与えることはできぬぞ!」
魔王が素手で燃えさかる符をはぎ取った!
アンリマンユ「そろそろ死ぬがいい!」
魔王の口から暗黒の波動が放たれた!
メイ   「陰陽符術奥義・破魔防壁符陣(ハマボウヘキフジン)!!!!」
素早く防御用の符を張り巡らせ破魔の結界を張る!
メイ   「ぐっ・・・!!」
結界で防いでいるにもかかわらず凄まじい衝撃を受けた!
それでもどうにか暗黒の波動を防ぎきったが、
視界が戻った時にはすでに魔王が目前に迫っていた!
アンリマンユ「おおおぉぉ!!!」
魔王が巨大な手を広げて頭上から振り下ろす!
間一髪、横に跳んでこれを避ける!
床には大きな魔王の手形が刻み込まれた!
朱雀   「ひえ〜、もし直撃したらペシャンコですよ!」
アンリマンユ「まだだ!」
魔王は片手を床についた姿勢のまま残った腕で周囲をなぎはらった!
メイ   「うわっ!」
朱雀   「ひぎぇ!」
どうにか防御姿勢が間に合ったがガードの上から非常に重い一撃を受ける!
軽々吹っ飛ばされ朱雀共々壁に背中を激突させる!
メイ   「ぐはっ!」
朱雀   「ぴぎっ!」
くっ・・・一応防いだはずなのに想像以上のダメージだ・・・。
アンリマンユ「勝負あったな。
      もはやそのダメージで次の攻撃をまともにかわすことはできまい!」
確かにそうだ。
このダメージで俊敏に動くのは難しい・・・。
だったらどうしよう・・・・・・・・先に反撃するしかない!
メイ   「炎繰術奥義・逆鱗飛炎(ゲキリンヒエン)!!!!」
両腕を交差させて掌に術力を溜め、両腕を大きく開き同時に術力を開放する!
掌の奇蹟を追うように術力の帯が伸び、そこから灼熱の炎を纏った鱗が無数に飛翔する!
アンリマンユ「!!」
さすがの魔王の腕を交差させ防御態勢をとる!
無数の鱗が魔王の表面に突き刺さり、次の瞬間爆発する!
爆発は次々連鎖爆発を引き起こし、途端に大爆発となった!!
メイ   「炎繰術奥義・炎龍寵昇(エンリュウチョウショウ)!!!!」
魔王の足下の床が盛り上がり、そこから爆炎で形成された龍が出現した!
火炎龍は魔王に巻き付く様に炎の身体で締め上げながら天へ上昇していく!
メイ   「炎繰術奥義・太陽崩落(タイヨウホウラク)!!!!」
魔王の頭上に小型の太陽のような燃盛る球体が出現し、凄まじい速度で落下する!
直撃を受けた床はクレーターのように抉れ、球体も崩壊し激しい大爆発を起こす!
奥義級の炎操術で立て続けに3連撃!これなら・・・。
メイ   「どうだ!?」
大量の煙がたちこめる・・・。
アンリマンユ「・・・・・ダーク・インフェルノ!!!」
煙の中から魔王の声と共に巨大な腕が突き出され、真っ黒い暗黒の炎を放った!
メイ   「うあっ!!」
魔王の放った暗黒の炎が僕の身体を直撃した!
もうダメか・・・!
メイ   「・・・ぅうう・・・・・生きてる!?」
見ると僕に覆い被さるように朱雀が倒れている!
メイ   「朱雀!?まさか・・・僕をかばって・・・」
朱雀   「・・・い、いやぁ〜・・・炎だから吸収できるかな〜なんて思ったんですが、
      甘かったですね・・・黒い炎は専門外でした・・・」
メイ   「朱雀・・・」
朱雀   「焼き鳥ですね・・・炭火焼き・・・」
メイ   「朱雀・・・、くそぉ!」
見上げると魔王が迫ってきている!
アンリマンユ「まだ死んでおらぬか!しぶとい奴め!」
メイ   「それは、お互い様でしょう!」
アンリマンユ「そうだな。いまの攻撃はさすがに効いたぞ・・・。
      貴様ごときムシケラが・・・ここまでやるとは・・・」
メイ   「・・・・・」
せっかく朱雀が身を挺して護ってくれたんだ。
どうにかしないと・・・・・。
でも、どすればいい!
どうすればこの魔王を倒せるんだ!?
アンリマンユ「さすがに手が尽きたろう?これで終わりにしてやる!」
その時!!
突如入り口の巨大な扉が爆発し、吹き飛んだ!!
メイ   「えっ!?」
アンリマンユ「!?」
女将軍  「とうとう追いつめたぞ!狂魔王アンリマンユ!!」
破壊された扉から颯爽と駆け込んできたのは凛々しい大人の女性だった。
とてもきわどい露出度がやたら高い大胆な衣装に身を包んでいる。
後ろから大勢の悪魔が押し寄せてくる。
アンリマンユ「・・・・・とうとうここまで来たか、レベッカ将軍」
レベッカ将軍?
それじゃあ彼女がこの魔王軍に敵対してる勢力の指揮官っていう人?
うしろから大勢の悪魔達が駆けつけてくる。
どうやら後ろの悪魔達は彼女が引き連れてきたようだ。
悪魔達は後ろから次々襲いかかってくる魔物を相手に奮戦している。
レベッカ将軍「地獄の覇権、貴様などに渡しはしない!
      反乱など起こした我が身の愚かさを呪いながら滅びるがいい!」
アンリマンユ「甘く見られたものだな。異端天使を懐柔し有頂天になったようだ」
レベッカ将軍「甘く見たのは貴様だ狂魔王!貴様ごとき『地獄の君主』の敵ではない!」
アンリマンユ「そうかな?
      我の力、『地獄の君主』に次ぐ魔力を持つ貴様を殺して証明しよう!」
レベッカ将軍「フッ、おもしろい!私を倒せると思うのならやってみるんだな!」
アンリマンユ「よかろう!貴様等まとめて滅ぼしてやる!」
レベッカ将軍「貴様等?何を言っている!貴様の相手は私がする!」
アンリマンユ「そうしたいのはやまやまだが、あいにく先約がいるのでな」
レベッカ将軍「先約!?」
レベッカ将軍が僕の方を見る。
レベッカ将軍「・・・コイツは一体?」
アンリマンユ「我が城に忍び込んだ賊よ。なんだ、貴様等仲間ではないのか?」
レベッカ将軍「こんな奴知らん。だが、なるほど。どうやら彼は貴様の敵らしいな」
アンリマンユ「そうだ。ゆえにまとめて始末してやる」
レベッカ将軍「この地獄において、もはや貴様の敵は我らの味方!
      せっかくの友軍をみすみす殺させるわけにはいかない!」
アンリマンユ「ほう?」
レベッカ将軍「オイおまえ、おまえは狂魔王に敵対する者か?」
メイ   「え・・・あ、その・・・まあ、そうです」
レベッカ将軍「ならば我々に協力しろ!アンリマンユを倒すぞ!」
メイ   「は、はい!」
レベッカ将軍「よし、こっちに来い」
メイ   「・・・・・」
なんとか立ち上がりレベッカ将軍の傍らへ歩み寄る。
レベッカ将軍は僕を守るように肩を抱いてきた!
そしておもむろに顔を近づけ耳元でささやきかける・・・。
レベッカ将軍「・・・ひどい怪我だ。奴と一戦交えたのか?」
メイ   「はい・・・」
レベッカ将軍「それで生き延びたなら大したものだ。
      十分戦力として期待できるな」
メイ   「そんな・・・」
レベッカ将軍「いいか。私が奴の相手をする。
      おまえは邪魔が入らぬように敵の援護を牽制しろ。
      ちなみに、もし裏切ったらその場で滅ぼす。いいな?
      知っていると思うが特にハンカール元帥の動向には気を配れ。
      奴はまだこの城で見掛けていない。どこかに潜んでいるはずだ」
メイ   「え・・・ハンカール元帥は・・・その、さっき倒しましたけど・・・」
レベッカ将軍「・・・・・倒した!?ハンカール元帥を?」
メイ   「はい・・・」
レベッカ将軍「なんと・・・。あのハンカール元帥を倒したというのか。
      ははははは、すごいじゃないか!驚いたぞ」
メイ   「はあ・・・」
レベッカ将軍「聞け!ハンカール元帥はすでにこの者によって倒されている!
      もはや残る脅威は狂魔王アンリマンユを残すのみだ!」
悪魔   「うおおー!!!」
レベッカ将軍「お手柄だ!城へ帰還したあかつきには褒美をとらせるぞ」
メイ   「褒美・・・」
朱雀   「ゴチソウ!ゴチソウ!」
レベッカ将軍「・・・なんだ?この焼き鳥は」
メイ   「あ、その・・・仲間です・・・」
レベッカ将軍「そうか。よし。鳥には御馳走をふるまってやろう」
朱雀   「おお〜!!」
アンリマンユ「確かにハンカールは倒された。
      だが、それで勝ったと息巻くのは時期尚早だぞ」
レベッカ将軍「フッ、私が危惧していたのはお前と元帥を同時に相手することだ!
      貴様だけなら・・・私の勝ちだ!」
アンリマンユ「たいした自信だ。ならばやってみるがいい!
      見事我を倒してみよ!!」
レベッカ将軍「ゆくぞ!!」

 VS狂魔王アンリマンユ

レベッカ将軍が巨大な鎌を振りかざして斬りかかる!
魔王は巨大な掌で凪ぎ払う!
凄まじい突風が起こり、レベッカ将軍を怯ませる!
だがそれも一瞬の事。
すぐにレベッカ将軍は大きくジャンプし、魔王の頭上から鎌を振り下ろす!
レベッカ将軍「デス・シックル!!!」
そう叫んだ瞬間、レベッカ将軍の鎌から膨大な魔力が溢れ、巨大な魔力の鎌を形成する!
アンリマンユ「あまいわ!ダーク・インフェルノ!」
魔王が頭上に舞い上がったレベッカ将軍へ向け暗黒の炎を放つ!
レベッカ将軍「はああ!!」
レベッカ将軍が幻の鎌一閃!
闇色の炎を切り裂き、消滅させる!
そのまま鎌を魔王に向けて振り下ろす!
しかし魔王は見かけによらず素早い動きで鎌を回避する。
アンリマンユ「アルマゲドン!!!」
着地したレベッカ将軍の頭上に異空間の扉が開く!
レベッカ将軍「はっ!?」
異空間の扉から燃えさかる岩塊が大量に落下してくる!
ずぐにレベッカ将軍は頭上に手をかざす!
レベッカ将軍「ナパーム・レイ!!!」
レベッカ将軍の手から暗黒のレーザーが連射される!
着弾と同時に闇を撒き散らしながら爆発するレーザーは、
次々に降り注ぐ岩塊をすべて爆破していく!
アンリマンユ「もらった!」
レベッカ将軍「!?」
岩塊を破壊する事に意識を奪われていたレベッカ将軍に、魔王が直接襲いかかる!
レベッカ将軍「しまった!」
レベッカ将軍は身動きがとれない!
アンリマンユ「ダーク・クロー!!」
魔王が両腕の爪を鋭く伸ばし、左右から切り裂こうとしている!
援護しなきゃ!
アンリマンユ「!?」
走ってレベッカ将軍と魔王の間にわって入る!
メイ   「炎繰術奥義・爆炎波動砲(バクエンハドウホウ)!!!!!」
両腕に集中した炎霊力をひとつに集結させ、前方に爆炎の波動砲を放つ!!
急接近する魔王の顔面に至近距離から直撃させた!!
アンリマンユ「ぐおっ!!」
さすがの魔王の巨体もその威力に大きく吹き飛ばされた!
闇のレーザーで燃えさかる岩塊を全て破壊したレベッカ将軍が駆け寄ってくる!
レベッカ将軍「狂魔王を吹き飛ばすとは!お前すごいじゃないか!」
メイ   「でもまだです!」
レベッカ将軍「わかっている!今度は私の番だ!
      ダーク・スフィア!!!!」
レベッカ将軍が闇色の巨大な重力球を発生させた!
レベッカ将軍「滅びるがいい!!狂魔王!!!」
電磁波を迸らせる闇の重力球を魔王にめがけて放つ!!
アンリマンユ「クッ・・・」
それは魔王に触れた瞬間全身を包み込み激しく放電し、直後大爆発を引き起こした!!
メイ   「やった!?」
レベッカ将軍「・・・・・」
闇色の靄(もや)が晴れると、魔王の姿が確認できた。
レベッカ将軍「・・・しぶとい奴だ。ならば切り裂いてやる!」
レベッカ将軍が鎌を振り上げ襲いかかる!
アンリマンユ「こざかしい奴等だ!もはや我慢ならん!
      我の最高奥義で止めをさしてくれる!」
最高奥義!?
なんだかマズそうな状況だけど・・・。
魔王が闇が漂うかのごとき己の翼を最大に広げた!
アンリマンユ「漆黒の霞(ダークネス・ミスト)!!!!!」
魔王の靄のような翼から全てを包み込むような暗黒が溢れてくる!!
暗黒の霞(かすみ)が急速に部屋中に広がっていく!
アンリマンユ「滅ぶがいい!!」
魔王が闇に溶け込んだ羽を羽ばたいた!
その瞬間、漂っていた暗黒の霞は一斉に部屋中に吹き荒れた!!
レベッカ将軍「!!」
メイ   「陰陽符術奥義・破魔防壁符陣(ハマボウヘキフジン)!!!!!」
咄嗟に護符の防壁結界を形成し迫り来る闇の奔流を凌ぐ!
しかし凄まじい重圧が襲いかかる!
レベッカ将軍は直撃をくらってしまったようだ!
部屋に踏み込んでいた他の悪魔達も次々に闇に飲まれて分子分解され消滅していく!
朱雀   「な、なんて危険な効果です!結界が敗れたら終わりですよ!」
メイ   「絶対・・・持ちこたえてみせる!」
激しい闇が吹き荒れ、ついに魔王の攻撃が終わったようだ・・・。
メイ   「やった・・・」
朱雀   「さすがです!凌ぎきりましたよ!」
ほとんどの魔物達は完全に消滅してしまったようだけど、
レベッカ将軍は部屋の中央に倒れている。
どうやら消滅は免れたようだけど、体中に激しい傷を負っている。
レベッカ将軍「・・・・・お・・・おのれ・・・・・」
レベッカ将軍が鎌を支えにして立ち上がる。
アンリマンユ「・・・貴様等、我が奥義すら耐えたというのか!?」
さすがに魔王もこれは計算外だったらしい。
動揺してる。いまがチャンスかもしれない!
かなり焦っているようだけど、魔王はすぐに次の行動に移る!
アンリマンユ「おのれ!ならば今度こそ仕留めてくれるわ!
      漆黒の霞(ダークネス・ミスト)!!!!!」
やばい!もう一度あれを使われたらとても耐えられない!
魔法が発動する前に迎撃しないと!
レベッカ将軍「させるか!ぐっ・・・」
飛び掛かろうとしたレベッカ将軍だったけど、全身を苛む激痛に蹲る(うずくまる)。
メイ   「陰陽術・如来陽活(ニョライヨウカツ)!!」
レベッカ将軍「!?」
一時(ひととき)の間だけだが傷を完治させ、一時的に活力を与える術を使用した!
レベッカ将軍を一時的に全快状態にした!
彼女の一撃に賭けるしかない!
メイ   「止めてくださいっ!」
レベッカ将軍「まかせろ!!」
術により活性化したレベッカ将軍が一気に鎌を振り上げ跳躍する!!
アンリマンユ「なにっ!?」
動けないと思い油断していた魔王は完全に不意を付かれたようだ!
魔王は咄嗟に対処できなかった!
レベッカ将軍「これで終わりだ!狂魔王!!」
レベッカ将軍が巨大な暗黒の鎌を一閃させた!!!
アンリマンユ「ぐっ・・・」
鎌は魔王を肩口から切り裂き、袈裟懸けに両断した!!
アンリマンユ「バ・・・バカな・・・・・」
レベッカ将軍「滅び去れ!ディストラク・スプリート!!!!!」
レベッカ将軍が頭上に両手をかざし超巨大な暗黒球を発生させ、
2つに両断され崩れ落ちる魔王アンリマンユに叩きつける!!!
アンリマンユ「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
凄まじい大爆発が起こり、魔王を呑み込む!
その威力は凝縮した核融合爆発くらいあるだろうか!いやそれ以上かもしれない!
圧倒的な破壊力で魔王の身体をみるみる崩壊させていく!!
ついにやった!
魔王アンリマンユを滅ぼしたんだ!!
徐々に魔王の姿は失われ、ついに全てが消滅した。
メイ   「・・・やった・・・・・」
レベッカ将軍「終わったな・・・・・」
朱雀   「すごいデスよ!地獄の魔王を倒してしまいましたよ!」
レベッカ将軍「ふう・・・・・。生き残った全軍に伝令!
      狂魔王アンリマンユは滅びた!
      我が方の勝利だ!!
レベッカ将軍の勝ち鬨(かちどき)に生き残った魔物達の大歓声が応える。
伝令役の魔物達は急いで後方支援の部隊に報告に向かったようだ。
レベッカ将軍「戦いは終わったのだ。
      交戦中の敵兵には将を討ち取った旨(むね)を伝え降服勧告しろ。
      敵軍の生き残りはこれからは同士となる事を忘れるな。
      丁重に保護するのだ。
      事後処理は任せるぞ。私は先に帰還する」
レベッカ将軍は色々な悪魔に指示を出している。
レベッカ将軍「さて・・・」
レベッカ将軍が僕らに向き直った。
レベッカ将軍「この度の働き、見事であった。
      褒美をとらせるゆえ、我が君主の城へ招待しよう」
メイ   「あ、いや・・・そんな・・・・・」
レベッカ将軍「遠慮する事はない。正直、最後は助かったぞ」
メイ   「はあ・・・」
レベッカ将軍「傷もこの通り、回復したし・・・ぐう!?」
レベッカ将軍が苦痛の表情を浮かべて片膝を付いた!
メイ   「あ、あの・・・さっきの術は一時的に活力を漲(みなぎ)らせる術で・・・、
      効果が切れたら・・・また怪我してる状態に戻っちゃうんです・・・」
レベッカ将軍「グッ・・・そ、そうか・・・・・。
      まあ・・・いい。狂魔王を仕留められた事に変わりはない」
メイ   「すみません・・・」
徐々に回復してきたのか、どうにかレベッカ将軍が立ち上がった。
レベッカ将軍「とにかく、お前の加勢があったからこそアンリマンユを討ち取れたのだ。
      ・・・・・そういえば、まだお互い名乗っていなかったな。
      私はレベッカ、軍の階級は将軍だ。黒龍騎士団を任されている」
メイ   「あ、僕は・・・メイ。阿部メイといいます」
レベッカ将軍「アベメイか・・・。聞き慣れぬ名だ」
メイ   「あの・・・メイでいいです」
レベッカ将軍「わかった」
朱雀   「スザク!スザク!」
メイ   「あ、この鳥の名前です」
レベッカ将軍「メイにスザクか。城へ来るといい、歓迎するぞ」
メイ   「は・・・い。それじゃあ、すこしだけ・・・。
      あ、そういえば聞きたいことがあるんです!」
レベッカ将軍「悪いが後にしてくれないか。まだ傷が堪えるんでね」
メイ   「あ、ごめんなさい」
レベッカ将軍「いや。話は城に戻ってから聞こう。
      我が君主にもお目通りしておかねばならんしな」
メイ   「そうですか・・・」
レベッカ将軍「とにかく帰還しよう。転移魔法は使えるか?」
メイ   「転移魔法?いえ・・・・・」
レベッカ将軍「そうか。では私の身体にしっかり掴まれ」
メイ   「ええっ!?」
レベッカ将軍「どうした?早くしろ」
メイ   「あ・・・あう・・・・・」
だ、抱きつけって事!?
ええーっ!?でも、そんな・・・・・だ、だって、レベッカ将軍の格好って・・・。
あまりに露出過多な服装なんだもん・・・。
も、もし抱きついたら・・・その・・・あんな格好の女の人(?)に・・・、
だ、だ、だだ、抱きつくなんてー!
レベッカ将軍「もたもたするな。悪いがあまり余裕はないんだ」
メイ   「あ、そ、でも・・・」
レベッカ将軍「は、はやくしてくれ・・・、もう・・・ガマンできない・・・・・」
メイ   「あ、あ、あ、あああ、あうう・・・・・わ、わ、わかりました」
レベッカ将軍「はやく・・・きてくれ・・・・・」
メイ   「し、しし、失礼します!」
思い切ってレベッカ将軍に抱きつく。
首に手を回してしっかりとしがみついた・・・。
こ、こんなに身体が密着しちゃってる・・・・・。
頭がくらくらする・・・・・。
レベッカ将軍「スザクもはやく」
朱雀   「ハイハイ」
朱雀はアッサリとしがみついた。
なんか・・・僕ってバカみたい・・・・・。
朱雀見て自己嫌悪なんて・・・情けない・・・・・。
レベッカ将軍「いくぞ。・・・・・亜空間転移(マイグレイション)!」
周囲から光が集まってきて僕らを包む。
一瞬で全身が光の粒子になったような気がした。
そして次の瞬間、唐突に全ての感覚が消失した!
・・・・・。
少しの空白の時間が流れ、その後光が霧散して消えていく・・・・・。
するとそこはすでに見慣れぬ土地だった。
これが転移魔法・・・・・。
レベッカ将軍「着いたぞ。ここが我が君主の城『パンデモニウム』だ」
メイ   「・・・・・」
思わず絶句してしまった・・・・・。
・・・・・。
まず、順を追って整理していこう。
僕らが転移した場所は、そこかしこにゴツゴツした岩が転がっている荒れた土地だった。
周りには所々に真っ黒い枯れ木が生えている。
そこにカラスや蝙蝠みたいな生物がとまっている・・・。
周囲を見渡せば無限と思えるほどの荒野が延々と広がり、
時々何かの骨のような物も落ちてる・・・。
さらに地割れのような穴からはマグマが吹き出し、たまに火を噴き上げている。
空は真っ赤だ。
血のような赤い空・・・。夕焼けとは根本的に違う。
どこからどう見ても・・・・・地獄。
どんな言い訳も通用しないくらい、おもいっきり地獄だ。
そして正面には巨大な門。
不気味な彫刻が施された門がある。
そして、そこには頂点が霞む程の、とてつもなく巨大な建造物・・・・・。
奇怪なオブジェが無造作に取り付けられている巨大な塔。
禍々しい気といびつなフォルムをみせつける・・・。
圧倒的なその力を示すかのような、威圧感に満ちあふれた塔・・・。
これが・・・レベッカ将軍の言う『地獄の君主の居城パンデモニウム』らしい・・・。
そしてパンデモニウムを支えるように聳(そび)える圧倒的な霊気を放つ巨木。
パンデモニウム城よりもさらに高い。
まるでパンデモニウム城から伸びる塔のようだ・・・。
木から伸びる蔦がパンデモニウム城に複雑に絡み付いている。
青白い幹とグレーの葉が他の植物と異なり異彩をはなっている・・・。
もはやパンデモニウム城と一体化しているかのような凄まじい巨木だ。
レベッカ将軍「やはり、アンリマンユが滅び、結界が消えたのだな。
      転移魔法がつかえる」
朱雀   「カァ〜・・・・・」
朱雀も思わず絶句している・・・。
レベッカ将軍「城に見とれるのは後にして、そろそろ離してはくれんか?」
メイ   「え?・・・ああ!ハ、ハイ!す、すすすすいません!!」
慌ててレベッカ将軍の首に回していた腕をほどいて離れた。
レベッカ将軍「この城を見るのは初めてか?」
メイ   「はい・・・」
当然だけどね。
レベッカ将軍「それならば驚くのも無理はないな。
      ならばこの木は知っているか?」
メイ   「知りません。すごい木ですね・・・」
レベッカ将軍「フッ、何も知らないのだな。
      では少し解説してやろう。
      この巨木は地獄を支えると言われる
      『コキュートス・セフィラー』イェソドだ」
メイ   「イェソド・・・」
レベッカ将軍「その根は地獄全土に張り巡らされているといわれる最大の魔樹だ。
      地中に充満する無限の魔力を吸い上げ地獄最大の巨木に成長したという」
メイ   「すごいな・・・」
レベッカ将軍「いわば地獄の根幹だな。
      この魔樹が失われれば地獄は崩壊するとまで言われている。
      どうだ、すごいものだろう?」
メイ   「はい・・・こんなすごいものが見られるなんて・・・」
レベッカ将軍「だが、いつまでもここで見とれているわけにはいかんぞ。
      はやく御報告せねばならんのでな」
メイ   「あ、はい」
レベッカ将軍「それでは、入ろうか」
レベッカ将軍に導かれて『パンデモニウム』に通された。


メイ   「うわぁ・・・・・すっごく広いですね・・・・・」
レベッカ将軍「フッ、まあな。身体の大きな者も多いし、
      このくらいの広さはないとな」
メイ   「あ・・・そうなんですね」
そうか、悪魔は身体のサイズが色々だからな・・・。
例えばドラゴンとか巨人とかだと普通の家くらいの広さじゃ入れないもんね。
レベッカ将軍「では、少しここで待っていてくれ。
      私はひとまず簡単な治療を受けて、着替えたい。
      その後で『LORD of DARKNESS』に謁見するとしよう」
メイ   「わかりました」
レベッカ将軍「では、行って来るが、くれぐれも勝手に移動するなよ。
      それから、誰にもヘタに話し掛けないようにしてくれ」
メイ   「はい」
レベッカ将軍「誰かに話し掛けられた時だけ、レベッカの客だと言えばいい」
メイ   「わかりました」
レベッカ将軍「それでは、後でな」
レベッカ将軍が通路の奥に消えていく。
その後ろ姿を見送ったあと、大きな部屋に視線を巡らせる・・・。
薄暗い室内を蝋燭の明かりが煌々と照らしている。
不気味な装飾品がそこかしこに設(しつら)えてある。
いつかテレビで見た外国の豪華な王城のようだ・・・。
全体的にネガティブな雰囲気ではあるが、同時に格調高さも感じられる。
朱雀   「すごい広さですねぇ・・・」
メイ   「そうだね・・・」
朱雀   「ちょっと探検してみませんか?」
メイ   「ダメだよ、ここで待ってろって言われたじゃないか」
朱雀   「ちょっとならわかりませんよ」
メイ   「ダメ。それにヘタに動いたら迷子になりそうだよ」
朱雀   「・・・・・それはそうですね」
メイ   「だからダメ」
朱雀   「ちぇー・・・・・」
メイ   「それに、勝手な事してたら怒られるよ」
朱雀   「・・・・・じゃあワタクシだけちょっと見回りしてきます」
メイ   「え、ちょ、朱雀!」
朱雀は僕の返事も聞かずに飛び去っていった。
朱雀を追いかけようとして踏み出した時、正面の通路から人影が現れた。
朱雀はその人影とぶつかってしまった!
なんてことをー!!
僕は思わず駆け寄った。
メイ   「あの、すいません!すいません!ごめんなさい!」
近寄ってみるとその人は身長2メートル以上の長身だった。
それだけの長身を誇っていながらとてもスマートでほっそりしている。
流れるような蒼い長髪。
無表情な瞳。
青白い端正な顔。
全体に青を基調にしたローブのような服装。
静かで落ち着いた雰囲気の蒼き麗人・・・・・。
男か女かよくわからない、中性的な人物だ・・・。
その人がゆっくり朱雀から僕に視線を向ける・・・。
その瞳はどこか無関心そうな印象を受ける。
メイ   「あ・・・あの・・・すいません!ほら、朱雀も謝って!」
朱雀   「どうしてですか。ぶつかったのはお互いの不注意です」
メイ   「どう考えても朱雀の不注意じゃないかー!」
蒼き麗人 「・・・・・君達は?」
メイ   「あ、あの、あの・・・・・」
朱雀   「レベッカ姐さんの連れだ!」
蒼き麗人 「レベッカねえさん?」
メイ   「レベッカ将軍です!すいません」
蒼き麗人 「・・・・・姫のお客様ですか」
メイ   「姫?」
蒼き麗人 「違うのですか?」
メイ   「あ、いえ、違わないです!」
蒼き麗人 「・・・レベッカ様はどちらに?」
メイ   「あ、着替えてくるって奥へ・・・」
蒼き麗人 「そうですか。では少々お待ちください。私はこれで失礼します」
メイ   「はい、すみませんでした」
蒼き麗人は静かに別の通路へ消えていった・・・。
よかった、怒られなかった・・・。
メイ   「ふぅ〜・・・、朱雀!気を付けなよ!」
朱雀   「えー、ワタシが悪いんですかぁ?」
メイ   「当たり前だよ!」
声    「ねぇ・・・」
メイ   「わっ」
突然背後から呼びかけられて慌てて振り向いた。
いったいいつのまに接近していたのか、僕のすぐ後ろには少女がひとり佇んでいた。
じぃーっと僕の顔を見つめている・・・・・。
まばたきひとつしない・・・。
無表情な女の子だなぁ・・・。
・・・・・。
なんだか印象の薄い美少女だ・・・・・。
・・・・・。
髪は薄い青で真っ白な肌をしている・・・。
・・・・・。
瞳の色素は薄い緑・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・な、なにか用事かな・・・・・。
メイ   「・・・あ、あのお・・・・・」
薄幸の少女「・・・・・」
メイ   「な、なにか御用ですか?」
薄幸の少女「・・・カル様はどちらに?」
メイ   「え?カル様?」
薄幸の美少女はコクリと頷いた。
メイ   「え・・・っと、カ、カル様って・・・誰?」
薄幸の少女「・・・知らないの?」
メイ   「う、うん・・・ゴメンね」
薄幸の少女「でも、いまお話になっていたようだったけど・・・」
メイ   「あ、さっきの蒼い人のこと?」
薄幸の美少女は再びコクリとうなずいた。
朱雀   「人にぶつかって謝りもしない無礼な方のコトですか」
メイ   「朱雀!余計な事言わないで!」
薄幸の少女「・・・知ってるの?知らないの?」
メイ   「あ、あの人だったら・・・通路の奥に・・・」
声    「おまたせー!」
メイ   「うわあ!!」
突然後ろから誰かが飛び付いてきた!
子供が後ろから首にしがみついている・・・。
メイ   「あ、あの・・・」
落ち着いて振り返って確認すると、小さな女の子が笑顔を浮かべている。
金色の長い髪を左右に分けてツインテールにまとめてある。
活発で悪戯好きの小悪魔的な女の子って印象だ。
小悪魔少女「ビックリした?きしししし」
メイ   「び、びっくりしたけど、あの、キミは・・・」
小悪魔少女「ヘヘヘ。さ、行こう」
メイ   「え、行くって?あ、ダメだよ」
小悪魔少女「なんで?」
メイ   「その・・・」
薄幸の少女「あの・・・」
メイ   「あ、そうだよ!彼女に質問されてて・・・」
小悪魔少女「あれ、怜漓(サトリ)じゃん。来てたんだ」
サトリ?
薄幸の美少女はサトリって名前なんだ。
怜漓   「どうも」
小悪魔少女「何話してたんだ?」
怜漓   「カル様は・・・」
小悪魔少女「ああ。カルに用事。フォロス王からの経理報告か。
      カルなら執務室じゃないかなあ。勝手に入っていいよ。
      アタシが許可する」
怜漓   「ありがとう。行ってみるわ・・・」
そう言うと、ふらっと通路へ向かう。
なんだかゆらゆらしてるような・・・。
・・・・・って、足がない!!
足首の辺りから下が消失してる!
なんだかもやもやした霧みたいな霊気が漂っている・・・・・。
ひ、ひょっとして・・・・・彼女って・・・・・幽霊?
幽霊だから印象が稀薄(きはく)なのかな?
とにかく薄幸の幽霊少女は通路の奥に溶け込むように消えていった・・・・・。
小悪魔少女「さ、これで用事は済んだでしょ。行こ」
メイ   「うん・・・。あ、ダメだって!
      レベッカさんにここを動くなって言われてるんだから」
小悪魔少女「だから迎えに来てあげたんじゃん。ニブいなあ」
メイ   「え?そうなの?」
なんだ、レベッカさんの使いの子だったのか。
それならこの子についていけばいいのかな。
小悪魔少女「パパが待ってるんだから、早く行くよ」
メイ   「パパ?」
小悪魔少女「そう。『地獄の君主』。あいさつくらいちゃんとしといた方がいいよ」
メイ   「あ、そう、そうだね・・・・・」
レベッカ将軍を通さずに直接謁見するのか・・・緊張するな・・・・・。
小悪魔少女「そんなに緊張すんなって。見た目ほど恐くないから」
メイ   「う、うん・・・」
見た目は恐いのか・・・・・。
・・・・・。
・・・え?そういえばパパってことは・・・この子って『地獄の君主』の娘!?
そ、それじゃあ・・・この子ってここの・・・地獄の・・・姫様ってこと!?
うそー!そんな人に案内させてるなんて!
レベッカ将軍は何を考えてるんだー!?
メイ   「ね、ねえ・・・レベッカさんは?」
小悪魔少女「あん?何言ってンの?」
不審そうな顔をしながら少女は首を傾げている。
・・・な、なにか変なこと言ったっけ?
どうして不思議そうな目でみるの・・・。
わけわかんない・・・・・。
・・・・・マズイ・・・ここで姫の機嫌を損ねるのはあんまり好ましくないよね。
メイ   「あ、あはは、ゴメン。なんでもない・・・」
小悪魔少女「ヘンなの」
朱雀   「メイ様?」
メイ   「・・・・・もうどうにでもなれ」
もう自棄(やけ)だ。
どうせもう死んでるんだし・・・。
どうせもう地獄にいるんだし・・・。
どうせもう一緒だよね・・・・・。

それからいくつか階段を上り、転送装置のようなエレベーターに乗った。
そしてついた先は・・・一際大きく豪華な扉の前だった。
小悪魔少女「ついたよ〜」
メイ   「うん・・・」
それでもやっぱり緊張する・・・。
そもそも本当に僕って死んでるのかな?
やっぱり何かの拍子にとばされただけのような気がするんだけど・・・・・。
でも、死んだ人に実感があるのかなんてわかんないし・・・・・。
あとでレベッカ将軍に訊いてみよう。
小悪魔少女「心の準備はできてる?開けるぞ」
メイ   「うん・・・」
少女は小さな手で軽々と門のように巨大な扉を開け放った。
小悪魔少女「ただいまー!」
そして元気良く室内に駆け込んでいく。
部屋の中は薄暗い。
だが照明は煌々とゆらめく蝋燭の明かりだけなのに、
何故か必要最低限の明るさが確保されている・・・。
地獄の姫が元気良く駆け寄り、中央の玉座に腰掛ける巨大な人影にとびつく。
膝の上にちょこんと座り無邪気に寄り添う。
この巨大な人影が・・・『地獄の君主』!
地獄の君主「帰ったか、レベッカ」
レベッカ?
レベッカ将軍も来たのかな?
小悪魔少女「疲れたよぉー、パパぁ〜」
地獄の君主「よくぞ戻った。・・・報告を聞こう」
小悪魔少女「うん。吉報だよ!『狂魔王』アンリマンユを滅ぼしたんだから!」
地獄の君主「ほぉ。それは大したものだ。さすがは我が娘」
周囲を取り巻く悪魔達からも感嘆の声が挙がる・・・。
悪魔   「なんと、本当にあの『狂魔王』を討伐されるとは・・・。
      いやはやさすがはレベッカ姫・・・」
レベッカ姫?
そうだったのか、この子もレベッカっていう名前だったんだ・・・・・。
それでさっき不審そうな顔してたんだ。
そうか、地獄では女の子にレベッカって名前が多いのかな・・・。
地獄の君主「これで・・・このコキュートスに我を脅かす存在はいなくなったか・・・」
レベッカ 「そうだよ!すごいでしょお!」
地獄の君主「だが、『狂魔王』を倒すのはさすがにレベッカだけでは成らなかったはず。
      『X−ファクター』あたりの協力を取り付けたのか?」
レベッカ 「ううん。アイツは最後までどっちつかずだった」
地獄の君主「やはり奴は動かなかったか・・・。
      『狂魔王』に力を貸す事もできなかったようだな。
      自らの理想に反するとはいえ、
      己の思想を実現するチャンスを棒にふるとは・・・。
      相変わらずの潔癖性だな」
レベッカ 「でも代わりに『異端天使』が協力してくれたンだケドね」
地獄の君主「そうか。フフッ、あの天の邪鬼(あまのじゃく)め・・・」
レベッカ 「それからね、今回の戦いの一番の功労者呼んだんだ!」
地獄の君主「ほう?」
レベッカ 「メイー、入ってきなよぉー!」
う・・・、遂に呼ばれちゃった・・・・・。
しかたない、覚悟を決めて部屋に入ろう。
メイ   「し、失礼します・・・」
朱雀   「失礼するデス」
あらためて地獄の君主の姿を見上げると、なんだか戦慄を覚える・・・。
漆黒の衣装に蒼白の身を包み、全身からは仄か(ほのか)に青白いオーラが漂っている。
凄まじい威圧感を感じる・・・。
さっき強大な『狂魔王』に遭遇したばかりなのに、
あのアンリマンユすら遙かに凌ぐ魔力を秘めている存在に出逢うなんて・・・。
レベッカ 「土壇場で『狂魔王』を裏切り、なんとあのハンカール元帥を倒し、
      アンリマンユとの戦いでも活躍してくれた炎術使いよ!」
地獄の君主「ほう、ハンカール元帥を・・・」
メイ   「あ、阿部メイです・・・」
朱雀   「朱雀ナリ!」
レベッカ 「彼の協力なくして今回の勝利はなかったんだから!
      しっかりもてなしてあげなくちゃね!パパ」
地獄の君主「そうだな。私からも礼を言おう」
メイ   「いえ、そんな・・・」
地獄の君主「我はこのコキュートスを統べる者、パンデモニウム城主、
      LORA of DARKNESS。
      我が名をもって、貴公を歓迎しよう」
メイ   「は、はい」
朱雀   「くるしゅうない」
レベッカ 「さー、今日はパーティーだッ!パーッと騒ごうゼッ!!」
地獄の君主「さっそく準備をさせよう。メイとやらも存分に楽しむがよかろう」
メイ   「あ、ありがとうございます・・・」
大勢の悪魔達が一斉に動き出した。
パーティーの準備にとりかかるんだろう。
地獄の君主「して、メイとやら。その方は何故突如『狂魔王』を裏切ったのだ?」
レベッカ 「もちろんこの城でパパに仕えるためだよね」
メイ   「あ、あの・・・違うんです!僕は裏切ったんじゃなくて・・・」
レベッカ 「へ?」
メイ   「その・・・実は・・・たまたまあの場に居合わせただけで・・・えっと」
地獄の君主「はっはっは。面白いことを言う小僧だ。
      ならばその方はただの通りすがりだと?」
メイ   「は、はい。そうです」
地獄の君主「たまたま『狂魔王』の居城に居合わせ、たまたまハンカール元帥を葬り、
      たまたまアンリマンユを倒すレベッカに協力したと?」
メイ   「は・・・はい・・・・・」
レベッカ 「・・・それって・・・ムリありすぎなんじゃねー?」
地獄の君主「・・・・・」
メイ   「確かに、つじつまなんて合わないし、
      めちゃくちゃな事言ってるのはわかります。
      信じられなくても無理はありません。
      ・・・僕だって信じられない。でも、本当なんです!」
地獄の君主「・・・成程。嘘はついておらぬようだ。
      しかし、不自然な事も間違いない。
      まず、そもそもあの場で何をしていたのかを訊こうか」
メイ   「はい・・・それが、実はまだここがどういう場所かすらわからなくて・・・」
レベッカ 「何言ってンの?地獄に決まってるじゃん。地獄の最下層『コキュートス』」
メイ   「や、やっぱりここって地獄なんですよね・・・」
どうやら間違いないらしい・・・。
やっぱり僕はもう死んでしまったんだ・・・・・。
地獄の君主「ふむ。いかに強大な力を有した術者とはいえ、
      生身の人間が、生(せい)あるままこの地獄に存在するのも奇妙だな」
え?
今なんて言った?
生身の人間が・・・生あるまま・・・・・?
カル   「フォロス王からも、そのような報告は入っておりません」
突如地獄の君主の隣に蒼き麗人が出現した!
いったいどこから現れたのか、何もない空間から突然実体化した!
レベッカ 「あ、カル。さっき怜漓が探してたゾ」
カル   「先程部屋に来られました」
レベッカ 「あっそ」
メイ   「ちょ、ちょっと待ってください!僕は・・・僕は生きてるんですか!?」
レベッカ 「へ?ナニ!?メイ、自分が生きてるの知らなかったの?
      なんで?だってピンピンしてるじゃん。
      今まで死んでるって思ってたワケ?」
メイ   「あ、いや・・・まあ、もしかしたら死んでるのかなー・・・って」
カル   「人間が地獄にいるのです。死んでいると勘違いしても無理はないでしょう」
メイ   「じゃ、じゃあ・・・僕は・・・・・生きてるんだ!」
地獄の君主「成程。どうやら自ら望んで地獄に足を踏み入れた訳ではなさそうだな」
朱雀   「アタリマエです!誰が好きこのんで地獄に堕ちようとするんデスカ!」
レベッカ 「オマエも自分が死んでると思ってたとか?」
朱雀   「イイエ。だって生きてますもん」
レベッカ 「そうだよなあ」
メイ   「いいね、お気楽で・・・」
地獄の君主「順を追って訊かねばならんな。どうやって地獄に侵入したのだ?」
メイ   「実は・・・僕達はある遺跡を調査していたんです」
レベッカ 「へー、オモシロそうじゃん」
メイ   「そこで・・・『妖王』という存在に遭遇して・・・、
      その直後、目映い光に包まれて・・・・・。
      気が付いたら、この世界にいたんです・・・」
カル   「なるほど。次元を超越してダイレクトに転送されたのでしょう」
レベッカ 「そんなこと、パパやカル以外にできンの?」
地獄の君主「・・・その『妖王』とやらにはできるのだろう。
      フフッ、現世には面白い者がいるのだな」
カル   「新たな脅威・・・でしょうか?」
地獄の君主「フン、そうでなくてはつまらん」
カル   「御意・・・」
レベッカ 「へえー、またアタシが片付けに行こうかな」
カル   「なりません!姫が地上へ行くなどもってのほかです!」
レベッカ 「なんでよォ!」
地獄の君主「どちらにせよ、レベッカだけでは『妖王』とやらに会った瞬間、
      転送されて地獄に戻ってくるだけだ」
レベッカ 「ぶー」
メイ   「あの、続き・・・いいですか?」
カル   「失礼いたしました。どうぞ」
メイ   「気が付くと、アンリマンユの城にいて、
      向こうでは僕の話は信用されなくて襲いかかってきたので・・・、
      しかたなく・・・戦って・・・・・」
朱雀   「見事大勝利デス!」
レベッカ 「そんで、ここに連れてこられて現在に至る・・・と」
メイ   「まあ、そうです・・・」
レベッカ 「ふーん、なんかスゴイ状態だね」
地獄の君主「そうか、とにかく少なくとも、我々に敵対する者ではないという事か。
      そして、我が仇敵を討伐した歓迎すべき者である事も間違いない」
メイ   「あ、まあ・・・はい」
地獄の君主「ならばかまわん。この城でゆっくりするがいい。
      もうじきパーティーも始まる。楽しむがよかろう」
メイ   「あ、ありがとうございます・・・。あ、でも、僕帰らなくちゃ・・・」
レベッカ 「えー!?帰っちゃうのかよォー」
地獄の君主「帰るあてはあるのか?」
メイ   「それが・・・どうやって帰ったらいいのか・・・さっぱりで」
地獄の君主「だろうな。それならば後ほどカルに転送してもらうがいい」
メイ   「いいんですか!?」
カル   「たいしたことではありません。
      私は次元を操る力を有していますので、雑作もない事です」
メイ   「ありがとうございます!」
地獄の君主「だが、しばらくはゆっくり休んでいってもよかろう?
      存分にパーティーを楽しんで帰っても問題あるまい?」
朱雀   「ええ。そりゃあもう!モチロンそのつもりデス!」
レベッカ 「ねぇねぇ、アタシに転送させてよ!
      アタシ転送術使ってみたい!」
カル   「レベッカ姫には無理です。得手不得手を弁(わきま)えてください」
レベッカ 「ぶー。できるもん」
カル   「できません。次元を超越する魔術は非常に高度な技術なのです」
レベッカ 「フーンだ!できるもん!アタシを誰だとおもってンの!」
カル   「レベッカ姫だと認識しているから無理だと言っているのです」
レベッカ 「できるもん!」
カル   「できません」
レベッカ 「む〜・・・。秘宝を使えばできるもん!」
カル   「・・・確かに・・・死霊秘宝(ネクロノミコン)を使えば可能でしょうが、
      使用許可は認可できません」
レベッカ 「なんでよ!アタシはここの姫様なのよ!」
カル   「私はLoD様の側近であり、執政長官であり、元帥です。
      その権限をもって禁止いたします」
レベッカ 「ぐっ・・・」
へえ、カルさんって元帥だったんだ。
ハンカール元帥と同格のカル元帥・・・。
レベッカ 「でもでも、アタシは転移魔法だって使えるしィ、
      転送魔法だって、おんなじようなモンでしょ!」
カル   「違います。転送魔法は転移魔法の遙か上位の高度な魔術です。
      安易に使用するのは危険すぎます」
レベッカ 「じゃあなんでカルはいいンだよ!」
カル   「私はこの道の専門家です。万に一つの失敗もあり得ません」
レベッカ 「ぶー。どーしてもダメ?」
カル   「ダメです」
レベッカ 「じゃいーもん!勝手にやるから」
カル   「姫!」
レベッカ 「なによッ!」
カル   「ダメです」
レベッカ 「ハーイ。ワカリマシタ。これでいい?」
カル   「口先だけの出任せなど、信用できません」
レベッカ 「じゃあどーすんのよ!縛り上げておく気?」
カル   「・・・・・魔法を封じさせていただきます」
レベッカ 「ゲッ!ちょっとタンマ・・・」
カル   「・・・・・クワイエト!!!」
レベッカ 「イヤー!!」
闇色の小さな球体がレベッカ姫の身体に埋まっていった。
どうやらあの魔法の球体がとり憑いている間は魔法が封印されるみたいだね・・・。
レベッカ 「ズルーイ!ズル〜イズルイ!!」
カル   「日頃の行いが悪いからです。
      嘘ばかりつくとこのような時に信用してもらえないものです」
レベッカ 「う゛〜〜〜」
地獄の君主「という訳だ。パーティー終了後、カルに転送してもらうがいい」
メイ   「は、はい」
ふー、どうやらこれで無事帰還できるみたいだ。
よかった〜。
一生地獄で暮らすことになるかと思っちゃったよ・・・。
カル   「・・・どうやらパーティーの準備ができたようですね」
朱雀   「ゴチソウ!ゴチソウ!!メイ様、イイ匂いですよ!」
メイ   「そうだね」
よかった、どうやら地獄の料理も僕らの世界とあまり差はないようだ。
もし地獄らしく、食事も変な色の肉とか、下級悪魔の姿焼きとか、ウジ虫の盛り合わせ、
ワイン代わりの人間の生き血とかだったらどうしようかと・・・
・・・・・うぅ、気持ち悪くなってきた。
変なこと考えるのはよそう・・・。
レベッカ 「フン、いーもん。メイ、行こう!」
メイ   「あ、うん・・・」
朱雀   「ゴチソウ!ゴチソウ!」
カル   「やれやれ・・・」
地獄の君主「フッ・・・」

レベッカ姫に手を引かれ階段を降りると、どうやらそこがパーティー会場のようだった。
豪華に装飾された大広間にたくさんテーブルが並んでいる。
そして美味しそうな出来立て熱々の料理が列べられている。
いわゆる立食パーティーかな。
僕らが来てからのたったあれだけの時間でこれだけの料理を列べて
部屋の飾り付けまで終えてしまうんだから、悪魔達の能力の高さがうかがえる。
やっぱり悪魔ともなると戦闘能力だけじゃなく家事能力も高いんだなぁ。
朱雀   「おーメイ様!夢のような光景です!絶景です!」
朱雀は大量の御馳走を前に興奮気味だ。
レベッカ 「ヤケ食いしてやるー!」
レベッカ姫は魔法を封じられてご立腹だ。
朱雀   「さっそく食べましょう!」
レベッカ 「ちょっと待ちな。一応パパの挨拶が終わらないとパーティーは始まらないよ」
ちょうど正面のステージにカル元帥が姿を現した。
カル   「静粛に」
たくさんの悪魔達のざわめきが止む。
カル   「これより反乱軍討伐祝勝パーティーを開催します。
      開催に先立ち、我らが君主LORA of DARKNESS様より、
      お言葉を頂戴いたします」
カル元帥の言葉が終わると同時に奥の真紅のカーテンがサッと開き、
地獄の君主がその姿を見せる。
地獄の君主「皆も既に承知していると思うが、
      先程、我が娘レベッカが『狂魔王』アンリマンユの討伐に成功した。
      これにより、この『コキュートス』において、
      我らに反旗を翻す輩は一掃された。
      今宵はその勝利を祝し、皆盛大に楽しむがいい。
      戦場に赴いた戦士諸君はその疲れを癒し、心身共に緊張をほぐすがいい。
      共に祝おう、新たなる地獄に永遠の繁栄を!!」
悪魔達の大歓声がこだまする。
カル   「では、レベッカ姫より凱旋宣言を・・・」
カル元帥の視線がレベッカ姫に向けられる。
レベッカ 「しょうがねーなー」
レベッカ姫がひとっ飛びで壇上に立つ。
すごい跳躍力だ。さすがに悪魔のお姫様だね。
レベッカ 「アタシが『狂魔王』を倒してきてやったぞ〜。
      みんな感謝しろよ〜。
      そんじゃ、盛大にパーティーを始めようゼー!
      祝勝パーティー開催だ!存分に盛り上がりなッ☆」
レベッカ姫の開催宣言と同時に会場は大歓声。
そして祝勝パーティーが始まった。
レベッカ姫はまたひとっ飛びで壇上から目の前に降り立った。
レベッカ 「さー、終わった終わった。食おうゼ〜」
朱雀   「イタダキマース!」
朱雀が御馳走めがけて勢い良く飛びたった。
レベッカ 「メイも好きなモンとって食えよ。遠慮はいらねーゾ」
メイ   「うん。そうさせてもらおうかな。
      そういえばお昼ご飯も食べてないし、お腹減ってたんだよね」
レベッカ 「ひもじいな〜。腹一杯食えヨ。
      あ、そだ。腹ごしらえしたらちょっと付き合ってほしいトコがあるんだケド」
メイ   「あ、いいですよ」
レベッカ 「よし、んじゃ後で付いてきてもらうからな。約束だぞ。忘れンなよ」
メイ   「ハイハイ」
レベッカ 「よーし、食うぞ〜」
さて、僕もいただこう。
何から食べようかな・・・。
僕は割と菜食主義者なんだ。
肉は別に嫌いじゃないけど、それほど好きってこともない。
野菜の中で特に好きなのはじゃがいも。
ポテトサラダなんかあったら嬉しいんだけど・・・。
あ、あったあった。
それじゃこれをお皿にとって・・・・・。
あと和風のお吸い物とか・・・さすがにそれはなさそうだね。
でもかわりに・・・これは何のスープだろう?
材料はよくわかんないけど、あっさりめのスープがあるからこれを・・・・・。
ご飯は・・・ないかな?
あ、パンがあるからこれをもらおう。
それと・・・やっぱりメインディッシュっぽい物もひとつくらいとっておこうか。
これは・・・ハンバーグか。これでいいかな?
あ、オムレツがある。
これももらって・・・あれ?
怜漓   「・・・あら」
僕が取ろうとしたオムレツを別の人も取ろうとしていた。
よく見るとその人はさっきの・・・。
メイ   「あ・・・えっと、たしか・・・怜漓さん・・・だったよね?」
怜漓   「ええ。あなたはさっきの・・・」
メイ   「メイっていうんだ」
怜漓   「そう」
朱雀   「メイ様〜!どこ行ってたんですか?探しましたよ」
どこからともなく朱雀が飛んできた。
メイ   「勝手に飛んでいったのはそっちじゃないか。
      あ、この鳥は朱雀っていうんだ」
怜漓   「そう。朱雀・・・。かわいい鳥ね」
メイ   「そ、そうかな?」
怜漓   「・・・・・」
メイ   「あ、あの・・・カル元帥には、会えた?」
怜漓   「ええ。執務室にいらっしゃったわ」
メイ   「そう。・・・・・えっと」
レベッカ 「なーにつっ立ってんだ?邪魔だぞ〜」
レベッカ姫が割り込んできた。
怜漓   「レベッカ姫・・・」
レベッカ 「おうサトリ!パーティーにも来てたんだ」
怜漓   「はい。カル様にお誘いいただいたので・・・」
レベッカ 「そっか。ま、せっかくだからゆっくりして行けよ。
      そんなに急いで帰る必要もないんだろ?」
怜漓   「はい。早く帰っても帰らなくても別にどうという事はありません」
レベッカ 「んじゃ、じゃんじゃん食って行けよな」
怜漓   「どうも・・・」
レベッカ 「ホラ、メイもさっさと食わねーと朱雀に全部食われるぞ」
メイ   「あはは・・・」
見ると朱雀は手当たり次第片っ端から平らげている。
これじゃ僕が満足に食べさせてないみたいじゃないか・・・。
怜漓   「・・・すごい食欲ね」
メイ   「あ、ははは・・・はしたないよ、朱雀」
怜漓   「そんなことないわ。おいしそうに食べるのは見ていて楽しいもの」
朱雀   「そーデス!美味しい物をおいしく食べるのは周りもハッピーにするのデス!」
メイ   「朱雀、あんまり調子に乗っちゃダメだって」
朱雀   「目指すは全料理完全制覇デス!コンプリートです!!」
メイ   「まったく・・・」
怜漓   「楽しいペットね。見ていて飽きないわ」
レベッカ 「おー、めずらしいな。サトリが興味を示すなんて」
メイ   「そ、そうなの?」
レベッカ 「うん。サトリって基本的に何に対しても無関心だからな。
      よほど朱雀が気に入ったんじゃないか?」
メイ   「へえ・・・」
ま、確かに朱雀の行動を見ていれば楽しいっていうのもわかるけどね。
レベッカ 「そんなに気に入ったなら朱雀はサトリに貸してやれば?」
メイ   「貸すって・・・迷惑になるよ」
怜漓   「別に迷惑じゃないわ」
レベッカ 「ほらな。サトリに朱雀のおもりでもさせてやれよ。イヤじゃないだろ?」
怜漓   「別にいいわ。朱雀さん、今度は向こうのお料理を食べに行きましょう」
朱雀   「りょーかい!」
朱雀は怜漓さんについて別の料理を食べに向かった。
放っておいて大丈夫かなぁ・・・。
レベッカ 「メイはもう好きなモンとったか?」
メイ   「あ、うん。だいたい・・・」
レベッカ 「そっか、んじゃそこのテーブルで食おうぜ」
メイ   「うん」
レベッカ姫と一緒に近くのテーブルについて食事を始める。
メイ   「あ、おいしい・・・」
一口食べて本当に美味しいことが確認できた。
見た目だけじゃなく味も美味しい。
そうか、悪魔だからって変な物食べてるわけじゃないんだ。
ちゃんと悪魔も美味しい物を食べたいんだね。
悪魔だから気色の悪い食事しかしないなんて思うのは、
僕ら人間の勝手な思いこみだったんだ・・・。
レベッカ 「どうだ?うまいか?」
メイ   「うん、すごく美味しい」
レベッカ 「そっか、口にあってよかった。人間も普段こんな料理食べてるのか?」
メイ   「ここまで豪華な食事はあんまりないけど、雰囲気は似てるよ」
レベッカ 「そーなんだ。いっぺんそっちの世界の食いモンも食ってみたいな」
メイ   「ちょっと質素だけど、きっとお口に合う物もあるよ」
レベッカ 「はは、夢ふくらむゼ〜」
レベッカ姫と楽しく食事をしていると突如カル元帥が現れた。
カル   「楽しんでおられるようですね」
メイ   「あ、どうも。とっても美味しくいただいてます」
カル   「それは良かった。遠慮なさらずに沢山召し上がってください」
メイ   「ありがとうございます」
カル   「パーティーが終わったら我が君主の御前へお越しください。
      地上世界へ転送してさしあげますので」
メイ   「あ、はい」
カル   「地上のどのあたりに転送すればよろしいですか?」
メイ   「あ、えっと渋谷まで・・・」
カル   「渋谷?」
しまった!タクシーみたいに扱ってしまった!
メイ   「あ、すいません!日本です!」
カル   「日本・・・なるほど、あの国ですか。知っています」
メイ   「あ、そうなんですか?」
カル   「常にあらゆる情報を収集しておくことは重要なのです。
      特にあの日本は世界各国の美味しい料理が混在しています。
      この『コキュートス』でも参考にさせていただいています」
メイ   「そ、そうなんですか?」
そういわれれば、日本人好みの味付けのような気もする・・・。
カル   「では貴方が発音している言葉は日本語なのですね」
メイ   「はい。あ、そういえば、どうして言葉が通じるんだろう?」
ここは地獄なのに・・・。
言語が同じなんてありえない。
カル   「不思議そうですね。確かに人間にはこのような感覚はめずらしいでしょう」
メイ   「あ、あの・・・感覚って?」
カル   「この『コキュートス』に住む者は全てお互いの表層意識を読み合うことで
      意思の疎通をはかっています。
      いま私が話す内容が貴方に伝わっているのは、
      私が貴方の意識に私の表層意識を伝えているからです。
      逆に貴方の話す内容も私が貴方の表層意識から読みとっているからです。
      わかりやすく言えば、心を読む・・・というべきでしょうか」
メイ   「そうだったんですか。だからお互いに言ってる意味がわかるんだ・・・」
すごいなぁ。
地獄じゃそれが常識なんだね。
そういえば、魔物には明らかに人型じゃない魔物もいるからね。
魔獣とかが言葉を話すはずないし、スライム系の魔物なんか声を発することすら
無理だもんね。
カル   「貴方もしばらくここに滞在すればもっといろいろわかるでしょうが、
      そういう訳にもいきませんから・・・」
メイ   「はい。僕も地獄にいるなんて興味深いんですけど、
      待ってる人もいるし、帰らなきゃ」
カル   「そうでしょうね。では、後ほど・・・」
メイ   「はい。お願いします」
カル元帥は優雅に雑踏に紛れていった・・・。
メイ   「そういえば、失礼だけどカル元帥って男性?女性?
      その、綺麗だから・・・どっちにも見えるんだけど、中性的っていうか」
レベッカ 「どっちでもない」
メイ   「え?オカマ・・・とか?」
レベッカ 「違うちがう。カルは無性体(セクスレス)なんだ。
      だから男でも女でもない。カルはカルだな」
メイ   「そーなんだ。すごく綺麗な人だよね・・・」
レベッカ 「デカイけどな。アタシみたく可愛いくない」
メイ   「あはは。なんだか、地獄って結構親切な人多いね・・・」
レベッカ 「はあ?ひょっとしてカルが親切だって思ってンの?」
メイ   「うん」
レベッカ 「バーカ。あの根暗な性悪が親切な訳ないじゃん。
      さっきだってアタシの魔法封じたしさ。
      アンタに親切してるように感じるのは、アタシの客だからよ。
      もし見ず知らずの状態でここにいたら、アンタ八つ裂きにされてるよ」
メイ   「そうかなぁ。そんなふうには見えないけど・・・」
レベッカ 「お人好しだなー。さっきいきなりアンリマンユに殺されかけただろ?
      アレが普通のリアクション」
メイ   「そーなんだ。じゃ僕運がよかったのかな?」
レベッカ 「アタシに拾われたからね。感謝しなよ」
メイ   「え?僕を連れてきたのはレベッカ将軍だけど・・・」
レベッカ 「それに、なんかパパも気に入ったみたいだったし・・・」
メイ   「え?地獄の君主が?」
レベッカ 「そう。さっき話してるとき機嫌良かったじゃん。
      『狂魔王』倒したこと差し引いても上機嫌だね」
メイ   「そうなんだ・・・」
地獄の君主に気に入られるのってどうなんだろ・・・。
レベッカ 「まぁ、『狂魔王』と渡り合った力を認めたからかもね。
      パパって相手の力を見抜くくらいワケないからさ。
      パパは強い者が好きなんだ」
メイ   「そうなんだ」
レベッカ 「いっつもアタシに『私を越える程強くなれ』って言うんだケド、
      そんなのムリってもんだよ。
      だってパパ信じられないくらい強いんだぜ」
・・・地獄の姫君にとって信じられないくらいって、いったいどれくらいなんだろう。
想像もつかないね・・・。
レベッカ 「あれ?そーいやメイ、飲み物は?」
メイ   「あ、持ってくるの忘れてたな・・・」
レベッカ 「酒もあるぞ。好きなの飲めよ」
メイ   「お、お酒なんてまだ早いよ」
レベッカ 「なんだメイ飲めないのかァ。なっさけねー」
メイ   「お酒は二十歳になってから」
レベッカ 「そーなん?」
メイ   「それじゃ、僕ちょっと飲み物取ってくるよ」
レベッカ 「おー、アタシは独りでちびちびやってるよ」
レベッカ姫の飲んでる液体って・・・お酒?
と、とにかく、僕も何か取りに行こう・・・。

樽に入った飲み物がズラリと並んでいる。
向こうのはお酒みたいだから、僕はこっちの・・・たぶんフルーツジュース。
でも、フルーツはどこで栽培されてるんだろう?
外の景色は荒れ果てた荒野みたいだったけどなぁ・・・。
ま、別にいいケドね。
女の子  「れ?もしかしてメイちゃん?」
メイ   「え?」
突然後ろから名前を呼ばれて振り向く。
地獄に知り合いなんていたっけ?
振り向くと視界いっぱいにドアップの顔がとびこんできた!
メイ   「あ、天野さん!?」
声をかけたのは、クラスメートの天野千歳さんだった!
千歳   「やっほー」
ど、どうして天野さんがここに!?
だって、え?え?だってここ・・・地獄だよ?
千歳   「なにやってのメイちゃん」
メイ   「あ、天野さんこそ、どうしてこんなところに!??」
千歳   「あたしは常連だもん。メイちゃんこそめずらしいじゃん。地獄で会うなんて」
メイ   「あ、まあ・・・いろいろあって・・・って、ここ地獄だよ!?」
千歳   「うん。なんか今祝勝パーティーやってるらしいって情報仕入れたから、
      ちょっと来てみたんだけど」
ちょっと来てみたって、どうやってー!!
千歳   「御馳走もいっぱいだし、お昼がういて食費が助かるわ」
メイ   「あ・・・あの・・・地獄にお昼食べに来たの・・・?」
千歳   「うん。あ、サトリちゃん!」
近くを通りかかった怜漓さんに気軽に声を掛ける天野さん」
怜漓   「あら。また来てるの・・・」
またってー!
千歳   「サトリちゃんも城にいるなんて、フォロスのおじさんは?」
怜漓   「お屋敷。私はお遣い」
千歳   「働き者だねぇ」
朱雀   「サトリさま!こっちはお酒ですよ!早く来てください!」
怜漓   「そうね。・・・それじゃ、連れがいるので失礼するわ」
千歳   「ばいばい」
怜漓   「さよなら」
怜漓さんは朱雀に呼ばれてお酒コーナーへ向かっていった。
メイ   「・・・・・知り合いなの?」
千歳   「うん。あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らなきゃ」
メイ   「え?」
千歳   「もう休憩終わりだから、そろそろ帰るね。ばいちゃ」
メイ   「あ、ちょっと・・・」
天野さんはちょこまか走って人混みに消えていった・・・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆ、夢?
・・・・・。
・・・・・忘れよう。
とりあえずジュースもくんだし、テーブルへ戻ろう。

テーブルではレベッカ姫があらかた料理をたいらげていた・・・。
レベッカ 「よー、遅かったじゃん」
メイ   「うん、ちょっと知り合いに会って・・・」
レベッカ 「知り合いがいたのか?結構顔広いんだな」
メイ   「いや、そーじゃないんだけど・・・」
レベッカ 「ま、いーや。それよりちゃっちゃと食っちまえよ。
      パーティー終わる前にこっちの用事済ませなきゃいけねーからな」
メイ   「あ、そういえば・・・用事っていうのは?」
レベッカ 「後で言う。それより食えって」
メイ   「うん」
僕はジュースを一口飲んで食事を再開した。
レベッカ 「おーおー、むこうが騒がしいな。
      オマエの鳥、火ィ噴いてんゾ。なんか辛いモンでも食ったのかな」
アルコールに引火したのかも・・・。
レベッカ 「あはは、サトリが飲み物入った樽ぶちまけて消火してるぜ」
うう、やっぱりご迷惑かけてる〜・・・。
レベッカ 「あ、火が燃え広がった!あの樽アルコールだったんだな」
メイ   「朱雀!なにしてんのー!!」

おもわず駆け寄ってみると飲み物スペースは火の海だ!
朱雀   「イヤ〜、燃えちゃいましたな」
メイ   「なにやってんのさ!」
朱雀   「アルコール度数が高いんです」
メイ   「いいから早く消火して!」
朱雀   「わかってますよ」
朱雀が灼熱の羽を羽ばたかせた!
火は瞬く間に燃え広がった!
メイ   「わーわー!!」
朱雀   「ハレレ?」
怜漓   「ごめんなさい。私がついていながら小火(ぼや)を起こしてしまったわ」
メイ   「冷静に言ってないで早く消さないと!」
怜漓   「そうね、はやくこの樽の水をかけましょう」
メイ   「それはアルコールです!かけちゃダメですよ!」
怜漓   「そうなの。どうりでさっき勢い良く燃え上がったはずだわ」
メイ   「とにかくなんとかしないと・・・」
朱雀   「水の術です!」
メイ   「セイみたいに得意じゃないんだ!」
怜漓   「空気を遮断すれば火は消えるわ」
メイ   「そんなことができるんですか?」
怜漓   「できないわ」
メイ   「じゃ、ダメじゃないですかー!!」
怜漓   「そうね。困ったわ」
途方に暮れたその時、突然炎が一点に集まるように吸い込まれていった!
炎が吸い込まれた先にいたのは・・・カル元帥だ。
カル   「・・・・・みなさん・・・」
うわ、表情が凍り付いてる!
カル   「なにをやってるんですか!!」
メイ   「ご、ごめんなさい!」
朱雀   「まあまあ、無礼講ですよ」
怜漓   「火事」
カル   「貴方達は・・・・・少しは反省しなさい!」
メイ   「ごめんなさい!!」
朱雀   「まあまあ、こうして本人も謝ってますし」
怜漓   「反省」
カル   「・・・・・次からは気を付けなさい」
メイ   「はい、すいませんでした・・・」
朱雀   「人は過ちを繰り返して大きくなっていくんです」
怜漓   「気をつけ」
カル   「では行ってよろしい」
メイ   「はい、失礼しました」
朱雀   「レッツゴー!」
怜漓   「ごー」
こうして小火騒動はどうにかおさまった・・・。

項垂(うなだ)れてレベッカ姫のテーブルに戻る。
レベッカ 「ははは、怒られてやんの」
メイ   「はあー・・・。もう、なにやってんの!」
朱雀   「イヤ〜、ビックリしたデス」
怜漓   「すごかったわね」
メイ   「朱雀は罰として食事終了だからね」
朱雀   「けー!?そんな殺生な!」
メイ   「当然の報いだよ」
怜漓   「保護者代理だった私の責任でもあるわ。
      私も絶食ね」
レベッカ 「絶食って、もうさんざん食っただろ?」
メイ   「怜漓さんは悪くないです。怜漓さんに朱雀を押しつけた僕の責任です!」
朱雀   「メイ様が悪いならメイ様だけ絶食ですね」
メイ   「朱雀が悪いの!!」
朱雀   「けー」
怜漓   「とにかく私はもうごちそうするわ。レベッカ姫、どうも」
レベッカ 「おー、また食いに来いよ」
怜漓   「どうも」
メイ   「僕ももう十分いただいたし、御馳走様でした」
レベッカ 「おうさ。気にすんな」
怜漓   「それでは失礼するわ」
レベッカ 「おー」
メイ   「あ、さようなら」
朱雀   「お達者で〜」
怜漓   「・・・今日は久しぶりに、とても楽しかったわ。ありがとう。さよなら」
怜漓さんはまるで成仏するかのようにスー・・・っと消えていった。
最後に一瞬だけ微笑んだように見えたのは僕の気のせいだろうか・・・。
朱雀   「行っちゃいましたね」
メイ   「消えるもんなの・・・?カルさんといい・・・」
レベッカ 「あはは、サトリは基本的に幽霊だからな。消えるのは得意だろ」
朱雀   「安らかにお眠りください・・・」
メイ   「死んでないって、・・・死んでるケド」
今死んだわけじゃないってコト。なんだかややこしい。
レベッカ 「さて、んじゃ腹ごしらえも終わったし、行きますか」
朱雀   「行かれますか・・・って、ドコへです?」
レベッカ 「二人ともついてきな。おもしれーモン見してやるゾー」
食事を終えた僕達はレベッカ姫に先導されてパーティー会場をあとにした。
パーティーの最中に抜けだして、いったい何をする気なんだろう・・・。


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