SYNCHRONICITY TWINS STORY

NECRONOMICON

ACT.1 03日 土曜 午後 (セイ編・SOLUNA)



花穂   「それでさーアイツってバカだからー、それで怪我してんのー」
セイ   「怪我といえば縄田、お前昨日の怪我はもういいのか?」
縄田   「一晩寝て全快っス!」
セイ   「意外とタフだな・・・」
縄田   「タフじゃないとこの世界じゃやっていけないッス」
俺達は昼からずっとカレー専門店『いんどおら』に居座ってダベっている。
当然目の前にカレーは無い。
すでに平らげたどころか、バイトのブキミ妖怪に皿をさげられている。
それでも俺達は出ていかない。
なぜなら他に客も少なく、居心地がいいからだ。
花穂   「え?シンちゃん怪我したの?」
ヒサシ  「どれ?」
縄田   「あ、たいしたことないッスよ。気にしないでください」
花穂   「えー、誰かにイジメられたんじゃな〜い?」
セイ   「たぶんそーだろ。縄田はひ弱だからな」
縄田   「そりゃないッスよォ」
セイ   「よし縄田、パン買ってこい」
縄田   「イヤっス!」
セイ   「よし。NOと言える日本人になったな。これでもう大丈夫だ」
ヒサシ  「でも気を付けろよ。最近物騒なんだからよ」
花穂   「そーそー。ねー知ってる?最近よく火事が起きてるじゃん。
      アレって、放火だって噂だよ」
そういえば最近火事も多発しているらしいな。
不審火がどうのこうのってニュースでやってたハズだ。
昨日、一昨日はなかったらしいが、この一ヶ月ですでに2桁に達するとかなんとか・・・。
ヒサシ  「やだね〜。放火犯なんてのはストレス溜めた暗〜い輩なんだろうな、どうせ」
花穂   「ねー。最近アブない奴が多くって。
      アブないって言えば、さっきのバケモノになったジャンキー。
      アレもアブなかった。日本危ない選手権で5本の指に入るよね」
縄田   「そうッスね。白昼堂々ムチャクチャっス」
セイ   「そうだな。さっきのヤツ、もう襲ってこなきゃいいけど」
花穂   「危機一髪ってカンジだったよね!結構ドキドキしたよ!」
セイ   「そうか?俺的には楽勝だったと思うが・・・」
ヒサシ  「俺達一般人から見たら十分危険だ」
花穂   「でもジャンキーが昼間から公園にいるなんて、世も末ってゆーか」
セイ   「確かに。なんでクスリなんかに手をだすのかわからねーな」
花穂   「そうかなぁ?アタシの友達にもヤッてる人いるよ?」
セイ   「簡単に手に入るからなぁ・・・」
花穂   「アタシはやんないケドさ、友達が言うにはたまんないらしいよ」
セイ   「だからってなー。覚醒剤は後が恐いんだぞ」
花穂   「何年もヤってるって友達の話だと、
      いつでもヤメられるからたいしたことないって聞いたよ?」
セイ   「それは本当の怖さを知らないだけさ。
      そいつ、口で言う程たいしたことしちゃいねーんだよ。
      いつでもヤメれるなんて甘いね。
      いったん中毒になったら、あとはズルズル堕ちるだけ。
      俺は昔奈緒サンにみっちり教育されたんだ。
      この手で直に禁断症状やフラッシュバックしてる最中の奴等の処理を
      手伝った事があるんだからな・・・」
花穂   「そ、そーなの?」
ヒサシ  「お前、変わったことやってんな・・・」
セイ   「奈緒サンに良いバイトがあるってダマされたんだ・・・」
縄田   「キツいッスねぇ・・・」
花穂   「奈緒さんってやっぱ変わってるよね・・・」
ヒサシ  「ソコがいいンだ!」
縄田   「はいはい」
花穂   「そういえばさっきのニアって人も、謎の人物だよね〜」
セイ   「少々マヌケだがな」
花穂   「そこがチャームポイント☆」
縄田   「それにしても、あの人いくつなんスかね?
      俺は年上にも年下にも見えたッス」
ヒサシ  「そうだな。はっきり上だ!とか言えない何かがあったな」
セイ   「じゃあ間をとって同い年にしとこう」
縄田   「しといてどうすんですか!」
花穂   「でも、アタシあーゆーミステリアスな女性って憧れなんだよねー」
セイ   「マヌケでも?」
花穂   「それはセイが狡賢い(ずるがしこい)からなの」
セイ   「人を詐欺師のように言うモンじゃないな。花穂クン」
ヒサシ  「誰だよ、アンタ・・・」
花穂   「にしても、セイといるとホント退屈しないよね〜。
      しょっちゅうスリルとサスペンス味わえちゃうンだもん。
      アタシ的にはなんだか人生得しちゃってる気分☆」
セイ   「あんまり関わるとアブないぞ。あーゆー輩は分別がつかないからな」
縄田   「そーッスよ。危ないッスよ。近寄らない方がいいッス!」
セイ   「人をバイ菌みたくゆーな」
花穂   「でもやっぱ面白いじゃん。あのスリルを一度味わったらサー」
セイ   「他に安全で面白い事でもないのかよ」
花穂   「ないもん。だって、アタシ達の日常ってありきたりでつまんないし・・・。
      非凡な境遇に生まれ育った人に、
      平凡な家庭に生まれてきたアタシ達の気持ちは、やっぱワカンナイよね〜」
セイ   「そういうもんかね・・・」
ヒサシ  「まーなぁ。でも俺はそこまでつまらん日常でもないけどな」
花穂   「そりゃそーよ。だって奈緒サンいるもん」
ヒサシ  「あっはっは」
縄田   「花穂先輩は好きな事とかやりたい事ってないんスか?」
花穂   「えー?そんなの突然言われてもなぁ・・・。
      考えたことないし」
セイ   「将来の夢とかないのか?悲しいヤツだ」
花穂   「む〜★しょうがないじゃん!イマドキ夢なんて・・・。
      そーゆーセイだって同じでしょ?」
セイ   「俺様は違うぞ」
花穂   「ウソ!?何か夢があるの?」
ヒサシ  「初耳だな。セイの将来の夢か・・・」
縄田   「聞きたいッス!知りたいッス!」
セイ   「そーか。それでは教えてしんぜよう」
花穂   「セイは何になりたいの?早く言いなさいよ!」
セイ   「消防士」
花穂   「しょうぼうしィ〜?」
セイ   「ステキだろう?」
花穂   「な、なんでまたそんな突拍子もない・・・」
ヒサシ  「いや、案外ハマってるかもしんねーぞ。
      コイツの水芸を世間に役立てるチャンスだ」
セイ   「水芸とは失礼なヤツだな」
花穂   「そっか・・・。確かによく考えると向いてるかも・・・」
セイ   「そうだろ?やっぱ正義の味方の俺様にピッタリだな」
花穂   「でもでも、どうしてなりたいの?動機はなに?」
セイ   「動機ねぇ・・・。
      ま、しいて言えばだな、イザって時に隣で消火・・・」
その時突然、懐で携帯電話が着信を告げるメロディを奏でた!
ビックリした。
・・・落ち着いて携帯をとりだす。
このメロディは・・・誰でもない。知らない番号からだな。
花穂   「でんわだ、でんわだ」
とりあえず出てみよう。ポチっとな。
セイ   「私だ・・・」
声    「た、大変だ!すぐに来てくれ!!」
セイ   「は!?だ、誰だよアンタ」
声    「ボケている場合か!私だ!」
セイ   「ボケてるのはテメーだ!名乗ってもないクセにわかるか!」
声    「あ、そうだった!すまない、私だ。伊吹だ!」
セイ   「あ、伊吹かあ。ビックリした。どうかしたのか?えらい慌ててるようだが」
伊吹   「それが・・・、メイが大変なんだ!とにかく来てくれ!」
セイ   「メイ?どう大変なんだ?」
伊吹   「落ちてどこにいるかわからなくて・・・とりあえず無事らしいんだが・・・
      朱雀が言っていたんだが・・・小野寺も一緒に・・・」
セイ   「はあ?何言ってるか全然わかんねーぞ。
      ま、とりあえずそっち行くから・・・いま何処にいる?」
伊吹   「電話ボックスだ!渋谷駅の!」
セイ   「わかった。じゃあモヤイ像の前で待ってろ!今すぐ行くから!」
伊吹   「こ、心得た!」
セイ   「いいか、とにかく落ち着け。俺が行くまでに落ち着きを取り戻すんだ」
伊吹   「う、うむ。そうだな・・・」
セイ   「じゃあ待ってろ。すぐ行くからな」
伊吹   「ああ・・・」
電話を切って席を立つ。
花穂   「どうしたの?何かあった?」
さすがに雰囲気を察したのだろう。
花穂達も皆一様に沈痛な面もちで俺の方を見上げている・・・。
セイ   「わりぃ、ちょっとなんかあったらしい。
      俺ちょっと行って来るわ。
      ここの支払い立替えといてくれ」
ヒサシ  「わかった。まかせろ」
セイ   「頼むぜ便利屋。じゃあな」
ヒサシ  「気を付けろよ」
セイ   「ああ」
俺はヒサシに支払いを任せ、皆を残して店をとび出した。
渋谷駅はすぐそこだ。
一瞬で着くだろう。
とにかく全速力で行くぞ!
ザコ   「ちょっと待ちな、兄ちゃん」
突如目の前に迷彩ヤロー達が出現した!
どうやら店に入るのをコイツらに見られて張られていたらしいな。
どっからどう見ても『BAD ASS』の兵隊どもだ!
めんどくせーな!
ザコ   「ずっと待っててやったんだぜ。ちょっとつきあえ・・・!!」
速度を落とすことなくそのまま突っ込み、大きいストライドでザコの顔面を蹴る!
ってゆーか踏む!!
そのまま顔面を踏み台にして頭上を飛び越え、ザコの後ろに着地する。
そのまま一目散にダッシュ。
みるみる『BAD ASS』の兵隊共を引き離していく。
兵隊   「ま、待てテメー!!」
やっぱ追いかけてきやがったか・・・。
迷惑な奴等だ。
セイ   「お?」
前方に見覚えのあるトンガリ頭が歩いてるぞ!
鼻歌なんぞ唄ってご機嫌そうだ。
木根   「お魚くわえたサザ工(サザコウ)さん♪追っかけられ〜て♪
      裸足で、逃げてく、愚か〜なサザ工さん♪
      みんなに笑われるぅ〜♪犬公にも笑われる〜♪
      ル〜るルるるッルゥ〜〜♪今日もいいてんきィ〜〜♪♪」
セイ   「おーい!きーねーちゃ〜ん!!」
木根   「あら、セイじゃな〜い!奇遇ねぇ。どしたの慌てちゃって?」
セイ   「悪いケド急いでるんだ。とゆーことで、あとはヨロシク!」
木根   「はぁ?何がヨロシクなのよ?」
セイ   「じゃーねー!」
木根   「ちょ、ちょっとセイ!待ちなさいよ!」
兵隊   「待てー!!」
木根   「そうよ!待て・・・って、エ?」
兵隊   「げっ!アイツ『ガーディアン』の木根じゃねーか!?」
木根   「・・・その迷彩・・・『BAD ASS』ね?
      ここで会ったが百年目よぉ!とっ捕まえてオシオキよォー!!」
兵隊   「に、逃げるぞー!!」
木根   「まちゃーがれェー!!!」
木根ちゃんはそのまま『BAD ASS』のザコ共を矯正しに向かったぞ。
これで安心して渋谷駅を目指せるぜ。
さっさと行くぞ。


超高速で渋谷駅まで駆けつけると、
不安そうな表情を浮かべた伊吹がモヤイの前で待っていた。
伊吹   「セイ!」
セイ   「いったいどーしたっての?」
伊吹   「実は、メイと共に地下遺跡の調査をおこなっていたんだ。
      あ、小野寺氏も同行していたんだが・・・。
      途中に仕掛けられた落とし穴に二人が落ちてしまって・・・。
      それで、どうしたらいいかわからなくて、とりあえずお前に・・・」
セイ   「・・・そうか。事情はわかった。
      とにかくメイが落とし穴に落ちた。
      そこで慌てたお前は俺に助けを求めた。
      そうゆうことだな?」
伊吹   「そうだ」
セイ   「で、メイは無事なのか?」
伊吹   「ああ。朱雀がそう言っていた」
セイ   「現在朱雀がメイに付いているんだな?」
伊吹   「そのはずだ」
セイ   「わかった。とにかく俺らも現場へ行くぞ。案内しろ」
伊吹   「こっちだ。ついてきてくれ」
伊吹が先導して渋谷駅内部に入る。
そのまま従業員専用エレベーターで地下へおりていく。
セイ   「おお、なんかこーゆー特別な場所に向かうのってドキドキするぞ」
伊吹   「一般人は立入禁止だからな・・・」
セイ   「俺は一般人じゃないってコト?」
伊吹   「弟が行方不明なんだ。関係者だろう」
セイ   「たしかに」
最下層でエレベーターを降り、さらに無機的な廊下を進む。
『関係者以外立入禁止』と表示されたドアをくぐり更に奥へ・・・。
セイ   「なんか・・・飾り気のまったくない通路だな」
伊吹   「解放されてない場所なのだからこんなものだろう」
セイ   「そーだな」
見たことのない金属で加工された重厚な扉を開き殺風景な部屋に到達した。
床にマンホールがひとつあるきりで、他には一切何もない。
セイ   「・・・もしかしてマンホールから?」
伊吹   「そうだ。行くぞ」
セイ   「ヤだな〜、もう」
マンホールを開けて更に地下へと続く梯子を降りる。
降りた先は・・・下水道だ。
でもそれほど臭いは強烈じゃないな。
内部は真っ暗だったが伊吹が懐中電灯を用意していたので安心だ。
備えあれば愁い無し・・・。
セイ   「どっち?」
伊吹   「こっちだ」
セイ   「おお、さすがオートマッパー伊吹!」
伊吹   「なんだそれは?」
セイ   「方向感覚に優れてるってコト」
伊吹   「ふん・・・」
伊吹はまっすぐにどんどん突き進んでいく。
伊吹の方向感覚は何故か異常に良いんだ。
しばらく伊吹について歩いていくと唐突にドアがあった。
下水道の途中にいきなりだ。
伊吹   「ここだ」
伊吹が先導して部屋に入っていく。
どうやらここは下水道建設中に使われた資材置き場のようだな。
様々な器具が散乱してるぜ。
おお!冷蔵庫まであるじゃねーか!
中にはキンキンに冷えた飲み物が待っているかもしれねーぞ。
伊吹   「・・・セイ、それは冷蔵庫だ。次の扉じゃないぞ」
セイ   「わかってるぞ」
伊吹   「だったらなお悪い!こっちだ!余計な事しとらんとさっさと来い!」
セイ   「えー、なんか喉乾いたんだもん」
伊吹   「次はこの崩れた場所から奥へ行くぞ。ついてこい」
セイ   「ちぇ・・・」
伊吹の後を追って壁が崩れてできた穴ボコをくぐり、奥にある通路を進む。
いかにも洞窟って感じのする通路を進むと、またさっきの金属製の扉があった。
周りが自然的なだけにそこだけ浮いている。
伊吹   「そういえば、この扉の位置までギリギリ携帯電話の電波が届くらしいぞ」
セイ   「つまり、これ以降はとどかないってわけね・・・」
伊吹   「そうだな」
扉をくぐると一気に開けた場所に出た。
セイ   「オイオイ・・・なんだよこりゃあ・・・」
そこが地下であることを忘れてしまうほどの広大な空間が広がっていた・・・。
なんてこった・・・。
こんな広いのかよ・・・。
伊吹   「正面のアレが問題の遺跡だ。・・・古墳らしい」
正面に巨大な入り口が見える。
セイ   「へぇー、スゴイな・・・誰の?」
伊吹   「・・・おそらく・・・『妖王』」
セイ   「・・・なんだと!?」
伊吹   「ここには妖も潜んでいる・・・。
      『妖王』がいる可能性も高い。用心してくれ」
セイ   「なるほど、そーゆーコトかよ。どおりで伊吹が取り乱してたワケだ」
伊吹   「・・・めんぼくない」
セイ   「ま、不安になって当たり前だな。よし、行こうか」
伊吹   「うむ」
俺と伊吹は岩盤に開いた大穴へと入っていった・・・。
伊吹が先頭に立って迷うことなく突き進んでいく。
いくつか分かれ道もあるが伊吹は完璧にルートを覚えているようだ。
しばらく進むとほのかな明かりが見えてきた。
セイ   「・・・なんだ?あの光は」
伊吹   「あの部屋に埋まっている鉱石が発光しているんだ」
セイ   「光る石か・・・。珍しいな。
      持って帰ったら高く売れるかも・・・」
そして青白い光を放つ謎の鉱石が埋まった部屋に入った。
ここはスゴイの一言に尽きるな・・・。
部屋全体が眩く光り輝いている・・・・・。
いや、まぶしいのは最初だけだ。
すぐに目が慣れてきた。
いわゆるやさしい光のようだ。
いったいどういう原理で光ってるんだろうな?
光るコケが生えてるわけでもなし・・・。
伊吹   「見惚れている暇はない。行くぞ」
セイ   「あ、そうだな・・・」
名残惜しいが先に進むぞ。
・・・・・おや?
この通路から少し様子が変わったな・・・。
周りに壁画が描かれている。
どう考えても文明があったのは間違いないってことだな。

少し進んだら薄暗い部屋に到達した。
なんだかこの部屋は穴ぼこだらけだぞ。
伊吹   「ここだ。ここでメイが落とし穴に落ちた・・・」
セイ   「・・・どの穴だ?」
伊吹   「部屋の隅の・・・あの穴だ」
セイ   「ちょっと覗いてみよう」
そぉ〜・・・っと覗くも、落とし穴の中は延々と続く闇が広がるだけだった。
伊吹   「無駄だ。かなり深いものだからな。
      とてもじゃないが底は見えない。暗いしな・・・」
セイ   「そうだな・・・」
ふ〜む・・・どうするかな。
セイ   「どうする?この落とし穴を下りてみるか?
      それともこのまま先に進んでみるか?」
伊吹   「・・・そうだな・・・とりあえず先に進んでみるのも・・・!!」
セイ   「!?」
伊吹   「気をつけろ!奥から何か来るぞ!」
セイ   「・・・・・」
しばらく緊張状態で奥から接近してくる足音を聞いていた。
足音は次第に接近してくる・・・。
ヤバい化け物とご対面かな?
・・・・・いよいよ姿が見えそうだぜ。
奥の通路から影が見えた!
そして足下が見えたぞ!どうやら人のようなシルエットだ!
伊吹   「止まれ!そこで何をしている!」
声    「ま、待ってください!私です!!」
伊吹   「?」
セイ   「ヒト?」
奥の通路から一人の人物が姿を現した。
闇に溶け込むかのような黒い服。
こんな暗い洞窟内だというのに顔にはサングラス。
伊吹   「小野寺!?」
小野寺  「そうです」
小野寺だ。
さっき病院前で見掛けたあの黒服の男だ。
政府御用達のSSにおいて最高に有能と言われるあの男だ。
伊吹   「どうして・・・貴方がここに・・・。
      はっ、メイ!メイはどこです!?」
小野寺  「メイ君なら・・・!?なぜここに!!」
セイ   「あ〜・・・あの、俺セイだけど・・・」
小野寺  「セイ君?ああ、メイ君の双子のお兄さんでしたか・・・」
伊吹   「メイはどうした!?」
小野寺  「そ、それが・・・途中で突然襲われてしまって・・・。
      戦闘中にはぐれてしまったのです・・・。
      私はどうにか逃げて・・・捜しながらここまで戻ってきた至大です」
伊吹   「なんだと!?それじゃメイはまだ古墳の奥にいるんだな?」
小野寺  「おそらく・・・」
セイ   「伊吹、とりあえずこの人を安全な所へ連れていった方がいいんじゃねーの?」
伊吹   「しかし・・・メイはまだ中にいるんだ・・・はやく見付けないと・・・」
小野寺  「あの、私はここまでくれば一人で戻ることはできます。
      ここまでの道筋は記憶していますから・・・」
セイ   「そうか・・・んじゃ俺らはこのまま奥に行ってみるか」
伊吹   「そうだ!確か貴方は道筋を記述しながら進んでいたはず。
      ならば落とし穴の出口からここまでの道も記録していないのか?」
小野寺  「あ、それならここに・・・」
セイ   「おお!気が利くじゃねーか!それがあればこっから迷わずに一直線だ」
伊吹   「それを貸していただきたい」
小野寺  「・・・わかりました。
      しかしこの手帳を渡すわけにはいきませんので・・・。
      少々お待ち下さい。
      今すぐここに書き写して、それを差し上げます」
そう言って手帳から一ページを破りとった。
慣れた手つきでその紙切れにここからの地図を書き写していく。
小野寺  「できました。それではこれを・・・」
伊吹   「セイ、お前が受け取れ。
      私はここからの道筋も記憶しながらいく。
      もしもの時に地図がないと困るだろう?」
セイ   「ああそうしよう。んじゃ、もらっときます」
小野寺から簡易地図を受け取った。
おお!いま急いでかいたワリにはキレイに記されているぞ。
几帳面なヤツだな。
よしよし、これなら見易いぞ。
走り書きみたいにのたくった地図だったらどうしようかと思ったぜ。
小野寺  「それでは私はお先に脱出させていただきます。
      あとを・・・お願いします」
伊吹   「うむ」
セイ   「あーそーだ。出口の扉、管理する人派遣した方がよくない?
      うっかり閉められちゃたまんないからさ」
小野寺  「そう・・・ですね。至急手配しておきます」
セイ   「もしかしてあの扉ってオートロック?」
小野寺  「はい。よくお解りで・・・」
セイ   「ふ〜ん。まあ一応管理者が着いたらいっぺん閉めちゃっといて。
      扉ギリギリなら電波届くんだろ?
      少なくともさっきの資材置き場辺りまでは。
      通信機みたいなのいっぱい置いてあったし・・・。
      その内のどれかに通じる番号教えてよ。
      あるんだろ?一般の携帯電話からでも繋がる機械くらい」
小野寺  「これは・・・失礼ですが随分行動的な方のようですね。
      メイ君とはかなり違った印象を受けました」
セイ   「まーね。当然だろ。俺とメイは別人なんだからな。似てるケド」
小野寺  「ごもっともです。わかりました、通信施設の電話番号をお教えしましょう」
黒服にーちゃんは内ポケットから電子手帳を取り出して起動させた。
すぐに番号を表示させて見せてくれる。
地下通信施設の電話番号をメモリーした。
これで安心して潜り込めるぜ。
セイ   「ところで、『12:30』に何があんの?」
小野寺  「は?」
セイ   「・・・・・」
小野寺  「何のことだかわかりかねます。あまりに唐突すぎて・・・。
      それにすでに過ぎている時間ではありませんか」
セイ   「いや、なんでもない・・・」
そういえば・・・・・、
時計してるな。
時間を聞いても動揺すらみられない。
ま、隠しているだけかもしれねーが・・・。
その時間に何かあるってワケじゃないってことか?
だったら何だ?
・・・針の・・・形?指す方向?
もしかして・・・・・時計が12:30を指すことが重要なのか?
・・・だとしたら・・・・・。
小野寺  「それでは、私はこれで失礼いたします」
伊吹   「うむ。メイは我らに任せろ。必ず見つけだす」
小野寺  「お願いします」
伊吹   「何をぶつぶつ言っている?行くぞ」
セイ   「あ、ああ。わかった。俺が道案内するよ」
伊吹   「当然だ。お前が地図を持っているんだからな」
小野寺が去ったのを見届けて、奥の通路に侵入する。
地図は結構詳細に記されているようで、迷うこともなく一気に進んでいく。
しばらく行くと一段と豪華に壁画が描かれた部屋にでた。
正面にはまるで生きている人間のような絵がある。
薄暗いのではっきりとは見えないが、飾り立てられた神主が座っているような絵だ。
セイ   「すごいな〜、こんな絵とかさ・・・」
伊吹   「ああ・・・ん?」
セイ   「どうした?」
伊吹   「セ、セイ!?この部屋の絵は絵じゃないぞ!!」
セイ   「絵が絵じゃないって・・・日本語か?それ」
伊吹   「そうじゃない!絵がこんなに立体感があるか!」
セイ   「とっても上手いんじゃねーの?
      あ、人形か・・・」
見ればこの部屋には人形がそこかしこに放り出されている・・・。
伊吹   「本物だ・・・」
セイ   「へ?」
伊吹   「死体だ!本物の人間の死体だ!!」
セイ   「んなわけねーじゃん。こんなに雑に造ってあるんだぞ?」
伊吹   「姿が雑なのは・・・腐ってるからだー!!」
セイ   「げっ!?」
人形のようなそれの顔にライトを当てると・・・、
確かにそれは腐り果てた人間の死体だ!
セイ   「で、でも・・・ここって相当古い場所なんだろ?
      だったらとっくに白骨化してねーとおかしいじゃん!」
伊吹   「それが完全に活動を停止しているのならな」
セイ   「どういう意味だよ!?」
伊吹   「見ろ!」
突如人形のような死体が活動を始めた!
死体なのに動きやがった!?
ってことは・・・ゾンビってヤツか!?
セイ   「ぎゃー!!冗談じゃねー!!なんだよこの気色ワリー奴ら!!」
伊吹   「どうにかしろ!セイ!!」
セイ   「なんで俺なんだよ!ほら退魔士、出番だ!」
伊吹   「嫌だ!気持ちの悪いのは駄目だ!」
セイ   「俺だってダメだ!!」
静まり返っていた部屋で一斉にゾンビが動き出した!
部屋のそこかしこでゾンビが蠢いている!!
冗談じゃねー!囲まれてるじゃねーか!!
伊吹   「セイ〜!どうにかしろぉ〜!!」
セイ   「しょうがねー!やってやろーじゃねーか!!ナメやがってェ〜!!」

 VSゾンビ軍団

ゾンビがわらわら迫ってくるぞ!
凄い迫力だが動き自体は緩慢だ。
ようするに、冷静になれば非常にトロい。
セイ   「まとめてカタつけてやるぜー!
      うらー!水繰術・激流招来(ゲキリュウショウライ)!!!」
地面から大量の水を噴出させ自分の足場以外の全てを押し流す荒技だ!
周囲に迫っていたゾンビの群は全て波にのまれどこかへ流されていった。
ある程度時間が立ったら水は勝手にひくので後のことを心配する必要はない。
とにかくこれで嫌な窮地を脱出したぜ。
セイ   「はあはあ・・・ははは、どんなもんだ!」
伊吹   「ふー、どうやらゾンビはいなくなったようだな・・・」
セイ   「よし、先に進もうぜ。・・・もう出るなよなぁ・・・」


その後も地図の通りに進んでいくと入り口部分で見たあの輝きがあふれてきた・・・。
どうやらここにもあの鉱石が・・・。
セイ   「これは・・・」
伊吹   「なんと・・・・・」
そこは・・・とても広々とした空間だった。
そして辺り一面美しく輝く巨大な湖が広がっている・・・。
湖が輝いている・・・。
なんて神秘的な光景だろうか・・・・・。
セイ   「こんな場所に・・・地底湖が・・・」
伊吹   「す、すごいな・・・」
セイ   「この光は・・・湖の底にあの鉱石が沈んでいるからか?」
伊吹   「きれいだ・・・・・」
そんな幻想的な光景に紛れて、一カ所無機的なものがあるぞ。
はっきり言ってアレのためにこの美しい光景が台無しだ。
セイ   「アレはなんだろうな?湖の中央で煙をあげてる醜悪なフォルムの・・・」
伊吹   「・・・まさか、メイが破壊したのかな?」
セイ   「可能性はあるな」
伊吹   「ふむ・・・こんな場所に機械が・・・」
地底湖の中心に聳(そび)える青白い金属でできた機械の塔・・・・・。
しかも破壊されて煙を吐き出している・・・。
セイ   「とゆーわけで、地図に記されているのはここまでだぜ」
伊吹   「そうか」
セイ   「さて、メイのヤツはどこ行ったんだろうな?」
伊吹   「正面に巨大な扉があるな・・・。そして左右にも小さめの扉・・・」
セイ   「どうやらこの遺跡はこの湖を中心に造られているようだな」
伊吹   「ふむ」
セイ   「俺達が来たこの通路を入れてここはさながら十字交差点・・・。
      後ろが入口ってことは・・・」
伊吹   「・・・正面が最深部・・・か」
セイ   「行ってみますか・・・」
歩みだしたその時・・・。
声    「そこで何をしている!?」
突然背後から怒声が響いた!
セイ   「なんだ!?」
伊吹   「敵?」
声    「侵入者め!引き裂いてくれるわ!!」
巨大な影が飛び掛かってきた!
咄嗟にかわして湖の畔にころがる!
伊吹   「あ!お前は!!」
伊吹が何かに気付いて声をあげた。
巨大な怒声の主がゆっくりと立ち上がる・・・。
伊吹   「貴様・・・鬼将!!」
鬼将(キショウ)?
そうか、コイツが明治神宮でメイ達が遭遇したっていう妖鬼!
鬼将   「んん?誰かと思えば・・・今朝の女か・・・・・。
      まさかこれほど早くここを突き止めるとは思わなかった」
全身から強烈なまでの妖気を発している巨大な体躯を誇る鬼だ。
盛り上がった筋肉に長い手足。指先からは鋭い爪が伸びている。
長い尻尾まであるぞ。
ツラも凶悪そうなカンジだな・・・。
長く尖った耳には沢山のピアスがついているし、長く突き出た顎も・・・・・。
アゴも・・・・・。
伊吹   「そうか、やはりここが貴様らの本拠地なのだな!」
あご・・・・・。
鬼将   「小僧も一緒か・・・」
アゴ・・・・・。
セイ   「お生憎様だな。俺は今朝オマエが会ったヤツじゃねーぞ」
あごが・・・・・。
鬼将   「なに?別人だと?」
アゴが・・・・・。
セイ   「そうだ!俺様こそは・・・はああ!!?」
鬼将   「?」
伊吹   「ど、どうした?セイ」
セイ   「あ、アナタは・・・・・」
鬼将   「ん?ワシの事を知っているのか?」
セイ   「うわぁ、信じらんねー。夢じゃねーよな?
      マジか?こんな有名人に逢えるなんて・・・・・」
鬼将   「そ、そうか?」
伊吹   「?気でもふれたか??」
セイ   「サ、サインくださいっ!!」
鬼将   「えぇ?ま、まいったなぁ〜・・・」
伊吹   「セイ・・・だいじょうぶか?おまえ・・・」
セイ   「握手してください!」
鬼将   「えぇっ?・・・じゃ、じゃあ・・・」
セイ   「うわあ、やっぱり手大きいですねぇ〜。
      この手でビンタするんですね!」
鬼将   「ビンタっていうか・・・まあ似たようなもんかな?」
伊吹   「オイオイ・・・」
セイ   「こんなところでアナタに逢えるなんて・・・感激です!」
鬼将   「て、照れるじゃねーか・・・」
伊吹   「セイ・・・お前、何を言ってるんだ」
セイ   「伊吹は感動しねーのかよ?目の前にアントニオ猪木がいるんだゾ!」
鬼将   「イノキ?」
伊吹   「ど・・・どこが・・・・・」
察しの悪い伊吹に無言でアゴを指さしてやる。
伊吹   「なんだ?顎がどうしたと・・・アゴが・・・・・ぶッ!」
鬼将   「??」
伊吹   「い・・・猪木!?ソコが・・・イノキ!?そこだけ・・・ふははははは!」
鬼将   「!?」
セイ   「やっとわかったか。
      ほら、お前も握手してもらえ。なんならビンタしてもらうか?」
伊吹   「あはははは!違う・・・違うゾ!アイツは違うゾ!あはははは」
セイ   「なにィッ!?」
鬼将   「お、女・・・何を笑っている!」
伊吹   「たしかに特徴は一致する!筋肉隆々で顎で・・・。
      でもアレは違うぞ!あははは・・・偽物だ」
セイ   「マジ!?なんだよバッタもんかよ・・・。
      つまんねーの」
鬼将   「つ、つまらんだとっ!?」
セイ   「物真似かよ!シラケる〜」
鬼将   「シラケる!?」
セイ   「握手して損したぜ・・・春一番かよ」
鬼将   「は、はるいちばんん〜っ!?」
くすくす。
どうやら怒っちゃたみたいだな。
ヤダねぇ・・・ニセモノのクセに。
鬼将   「き・・・き・・・き・・・」
セイ   「今度はサルか?」
鬼将   「きっさまーっ!!!!!ワシをコケにするかあーっ!!!!!」
セイ   「来いよニセ猪木!たたんでやるぜ!!」
鬼将   「ぶち殺してやるーっ!!!!!」
伊吹   「刀の錆にしてくれよう!」
セイ   「とっととキメるぜ!ゴネるなよ!!」

 VS鬼将

伊吹   「油断するな!奴の実力はかなりのものだぞ」
セイ   「延髄斬りと卍固めには要注意だな」
伊吹   「ま、注意をはらうのは自由だ」
鬼将   「そのへらず口!いますぐ封じてやるゥー!!」
突進と同時に鬼の爪をくりだす!
俺と伊吹は左右に跳んで回避する!
セイ   「ニセモノにはコレで十分!水繰術・水波動!」
鬼将   「喝ッ!!」
鬼将は気合で水の飛び道具をかき消した!
セイ   「げっ!マジで!?」
鬼将   「ゆるいわ!」
伊吹   「はああー!!斬魔剣(ザンマケン)!!」
鬼将   「ぬんっ!!」
対角線から伊吹が抜き身の刀を振るうが、鬼将の腕の突起が刃に変化し受け止める!
伊吹   「グッ・・・」
激しい鍔迫り合いが展開される!
鬼将   「ふん!」
鬼将は空いた腕の突起も鋭い刃に変化させた!
まずいぞ!鍔迫り合い中に二刀流になりやがった!
伊吹   「!!」
援護しないとヤバイぞ!
鬼将   「死ねぇー!!」
セイ   「水繰術・水流縛(スイリュウバク)」
手から迸った水がロープのように伸びて鬼将の腕に絡み付く!
鬼将   「くっ・・・おのれ!」
やば・・・。
コイツ凄い力だぞ!
振り払われそうだ・・・。
セイ   「伊吹!さっさと跳び退け!」
伊吹   「すまん!」
伊吹は刀を大きくはじいてその勢いに任せ後退した。
すると鬼将は空いた方の手で俺の水のロープを掴むと、力任せに引き寄せた!
鬼将   「うりゃあー!!」
セイ   「だー!!」
こんなヤツとの綱引きに勝てるわけねー!
ヤツは水のロープを力任せに引きずり回しやがった!
遠心力で俺の身体が宙に浮く!
ヤツは頭上でロデオのロープのようにぐるぐるまわす!
セイ   「めがまわるぅ〜・・・」
もしいま水流縛を解除すれば俺は遠心力に任せて放り出され
壁に激突してぐちゃぐちゃだ。
そんなのイヤだ!
セイ   「いぶきぃ〜・・・へるぷ、へるぷ・・・」
伊吹   「はああああ・・・・・霊波斬(レイハザン)!!」
伊吹が気を刀に宿して刀を振るう!
すると刀に宿った凝縮した気が放出され衝撃刃を形成する!
衝撃刃が空を裂く!
遠距離から飛翔した衝撃刃は正確に鬼将めがけて飛んでいく!
鬼将   「!?」
伊吹の攻撃に気付いた鬼将がとっさに身をよじる。
衝撃刃が鬼将の身体をかすめた!
バランスを崩した鬼将はその場に倒れ込む!
と同時に回されていた俺もガクンと失速し地面に投げ出された!
セイ   「ひてててて・・・・・う゛〜・・・ぎぼぢわ゛る゛い゛・・・・・」
鬼将   「小娘・・・どうやらそこでうずくまっている口の悪いガキより、
      貴様を先に始末しておいた方がよさそうだな」
伊吹   「ふん、やってみるがいい」
鬼将   「覚悟するんだな・・・」
このやろ〜・・・俺様を無視して伊吹に照準をしぼりやがって・・・・・。
後悔させてやる・・・。
伊吹   「・・・・・」
伊吹が抜き身の刀を構え直す。
鬼将   「死ぬがいい!旋風刃渦(センプウジンカ)!!!」
鬼将がド迫力の突進で距離を詰め、十分接近してから身体を回転させる!
その際、腕から伸びた刃を振るう!
さながら刃のついたコマのようなカンジだ!
伊吹は凄まじい剣捌きで刃の回転連撃を全てはじき返すが、
息もつかせぬ連続攻撃に到底反撃する余地はない!
今こそ俺様がヘルプしてやるゼ!
セイ   「よくも俺をムシしてくれたなー!
      ・・・ぅえっ・・・・・。
      ・・・・・お前もまわれ〜!水繰術奥義・旋風渦水!!!!」
鬼将   「ぬおっ!?」
大回転中の鬼将の足下に水の竜巻を発生させる!
鬼将の回転に竜巻の回転が加わり速度が倍加する!!
鬼将   「おおおおお〜っ!??」
壮絶なまでの超回転に巻き込まれた鬼将は
洗濯機からすっぽ抜けた洗濯物のように上空へ投げ出された!
そのまま回転しながら天井に激突し、あとは重力に従って墜落する。
大きく吹っ飛ばされた鬼将は湖に着水した!
鬼将   「ぎおおおおおオオオおおオ!!!!!」
その途端鬼将に激しい電撃が襲いかかる!
伊吹   「なんだ!?」
セイ   「電気!?」
黒焦げになった鬼将が執念で湖から這い出してきた・・・。
無論身体に電撃を纏ったままだ。
鬼将   「グ・・・ググ・・・・・」
鬼将の体は炭化しそうだ・・・。
伊吹   「・・・セ、セイの術の効果か?」
セイ   「・・・ちがう。
      この湖・・・・・帯電してやがるのか!」
とんでもない危険地帯だぞ!
もしさっき振り回されたあとこの湖に落ちてたりしたら・・・。
セイ   「あ・・・フラっときた・・・」
めまいを覚えてフラついてうっかり湖に落ちかける!
セイ   「うわわわっ!・・・アブネ〜・・・△」
こんな所でマヌケな最後を遂げるところだったぜ・・・。
伊吹   「何を踊っているんだ」
鬼将   「こんな・・・馬鹿な・・・。
      湖が・・・帯電していたとは・・・・・」
セイ   「コイツ・・・まだ生きてやがるぜ・・・」
伊吹   「恐るべき生命力だな・・・」
鬼将   「こんなことで・・・やられてたまるか!
      鬼門砲(キモンホウ)!!!!!」
這い蹲った鬼将が突如大口を開けて叫ぶ!!
口から大口径の波動砲を放った!!
セイ   「くっ・・・!!」
幸い直撃しなかったが凄まじい土煙がまきおこる!
伊吹   「・・・しまった!」
煙が晴れて視界が開けてくるとすでに鬼将の姿はなかった。
そうか、鬼将のヤツ煙幕がわりに波動砲を放ったのか・・・。
まんまと逃げられちまったな。
それにしても、あれだけの重症を負いながら、
これだけ早く姿をくらますなんて・・・たいした生命力だ。
あと土地勘もあるんだろうけど。
どうやらここは奴等の本拠地みたいだからな・・・。
さて、とりあえず厄介な関門は突破したし、先へ進むか・・・。
伊吹   「・・・逃がしたか・・・」
セイ   「ま、これで当面の危機は去った。
      先に進もうぜ」
伊吹   「そうだな。だが・・・どの扉から調べる?」
セイ   「ん〜・・・正面か左右か・・・・・」
俺の勘だと間違いなく正面が正解だ。
だがこの際だ。
もう少し色々調べてみてもいいかもしんない。
左右の扉を覗いてみようか。
セイ   「左右の扉の奥がどうなってるかくらい確認しといた方がいいかもしれねーな」
伊吹   「たしかに。ではまず向かって右から確認していこう」
セイ   「OK」
俺達は湖に落ちないように慎重に岸を歩いて右の扉まで来た。
扉に鍵などはついていないようで、押せばすんなり開いた。
扉の奥は・・・・・ごつごつした洞窟風の通路が続いているようだな。
セイ   「少し進んでみようぜ」
伊吹   「うむ」


しばらく歩いていくと重々しい格子扉が行く手を阻んだ。
セイ   「これは・・・人為的に造られた物のようだな」
伊吹   「・・・中央に窪みがあるが・・・これは一体?」
セイ   「・・・彫刻って感じじゃないな・・・。
      丸い窪み・・・何かがはまりそうな雰囲気だ」
伊吹   「ところで、開きそうか?」
セイ   「ダメだな。ビクともしねーよ」
伊吹   「私の刀で斬ることは・・・できまいな」
セイ   「できてもやったら崩れそうでコワイな」
伊吹   「うむ。やめておこう」
セイ   「これ以上は進めないな。しょうがない、戻ろう」
俺達は仕方なく来た道を引き返した。

地底湖の部屋まで戻ってきたぞ。
こんどは今の反対側の扉を開けよう。
つまり向かって左側の扉だ。
再び慎重に岸を歩いて左の扉の前に立つ。
扉を開くぞ。

セイ   「なんだ?」
伊吹   「どうした・・・これは?」
扉を開くとそこには通路が続いていた・・・。
しかし今度の通路はさっきの洞窟じみた通路とは正反対に無機質な近代的な通路だった。
なんだか地下施設って感じの通路だ。
そういえば奈緒サンが言ってたっけ・・・。
この辺には戦時中に造られた軍の地下施設が残されている・・・・・。
それがここなのかもしれないぞ・・・。
伊吹   「・・・不自然だな」
セイ   「おもいっきり今までの道と不釣り合いだが・・・。
      あの地底湖の中央にそびえ立ってる鉄塔とは釣り合うな」
伊吹   「確かに。あの塔はこの通路を建造した者達が設置したのか・・・」
セイ   「そうだろうな。・・・おい、この廊下には結構沢山部屋があるぞ」
伊吹   「その手前の部屋にでも入ってみるか?」
セイ   「そうしよう・・・!?」
伊吹   「どうした?」
セイ   「・・・イヤ。なんか・・・視線を感じたんだが・・・・・」
伊吹   「・・・・・誰かが潜んでいると?」
セイ   「わからねー。気のせいかもしれないしな・・・」
伊吹   「ふむ。とにかく用心して行動しよう」
十分に用心しながら近くの扉を開けてみる・・・。

セイ   「オイオイ!!こりゃどーゆーこったよ!?」
伊吹   「こんな・・・」
部屋の中は今までとはうって変わった光景が広がっていた。
培養液のようなモノで満たされたシリンダーが幾つも並び、
その中ではなにやら赤黒い肉塊のような物体が浮いている。
しかも時折蠢いていることから察するに、これは生物だ。
さらにそのシリンダーには沢山のコードなどが伸びていて別の機械と繋がっている。
その機械も我が目を疑いたくなるほどの最新設備だ。
あまりにも近代的な設備が所狭しと列べられている。
ここが旧日本軍の軍用施設であるはずがない!
今も稼働中の最新鋭バイオテクノロジーってカンジだぞ。
見るとモニターやらなにやらあるし、パソコンまで設置されてるぜ。
しかも市販されてないくらいのスペックがありそうだ。
異常な量のコード類があらゆる機器に接続されている。
相当の機能をもってないと制御不可能だぞ。スーパーコンピューターってヤツだ。
いったいこの部屋で何がおこわれているんだ?
セイ   「気色悪い部屋だな・・・」
伊吹   「ああ。近代的な機械が並んでいるだけならいいが、機械の中に化け物がいる」
セイ   「なにをしてるんだと思う?」
伊吹   「わかるわけがなかろう・・・」
伊吹も絶句ってカンジで目をしばたいている。
セイ   「なんで妖どもの本拠地にこんな設備があるんだよ!?」
伊吹   「私に訊くな。妖に直接訊け」
セイ   「こっちの機械は・・・何かを造ってるのかな。
      小さな赤い物がコロコロ出てきてるぞ」
伊吹   「こっちの機械からは同じような黒い物が出てきているな・・・」
赤と黒・・・。
どっかで聞いたような言葉だ・・・。
コレって何だ?
細長いとても小さな物だ。
片面が丸っこく加工されてて・・・反対が切り落とされたように平らで・・・。
伊吹   「・・・この形・・・どこかで見たことがあるぞ」
セイ   「伊吹もか・・・俺もどっかで見たような気が・・・・・」
伊吹   「この形状から察するに・・・コレは二つでひとつを成している?」
セイ   「そうか!伊吹、そっちの黒いヤツをひとつ持ってきてくれ」
伊吹   「わかった」
伊吹が黒い小さな物体をつまみあげ、俺の所に持ってくる。
俺も小さな赤い物体をつまみ上げる。
伊吹   「コレが何かわかったのか?」
セイ   「ああ。こう持って構えててくれ」
平らな面を伊吹に見せるようにして赤い物体をつまむ。
伊吹   「こうか?」
伊吹も同じように黒い物体を構える。
セイ   「いくぞ」
向かい合うように構えた二つの物体を接近させる。
セイ   「合体!」
伊吹   「これは!」
二つの物体の平らな面をピッタリ合わせる。
セイ   「カプセルだ」
伊吹   「・・・赤と黒のカプセル!」
セイ   「そうだ。コレは『SSD』。通称『SLAVE』だ」
伊吹   「こんな所で麻薬製造!?」
セイ   「・・・とりあえずこの部屋では外殻のカプセルだけを造ってるみたいだな」
伊吹   「内用させる薬物は別の部屋で・・・?」
セイ   「おそらく・・・」
伊吹   「・・・この部屋は・・・麻薬の容器を造る部屋だったのか・・・しかし」
セイ   「ああ。それにしちゃ設備が物々しすぎる気がするな・・・」
なぜ・・・たかがカプセルにこれだけの設備が必要なんだ?
カプセルひとつ造るならもっと簡素な設備で十分だと思うんだが・・・。
伊吹   「しかし・・・何故妖の本拠地に麻薬製造施設があるんだ?」
セイ   「誰かが勝手に利用してる・・・なんてこたーないか」
伊吹   「あるいは・・・妖の方が後から住み着いた・・・」
セイ   「それも無理があるな。古墳に『妖王』がいるなら最初から妖もいたはずだ」
伊吹   「・・・・・うーむ・・・」
セイ   「・・・妖が麻薬を流してるとか・・・・・」
伊吹   「妖が!?何のために?」
セイ   「・・・・・金儲け?」
伊吹   「そんなわけなかろう」
セイ   「だよなぁ。ワケわかんねーぞ。どーなってんだよ、ここは」
伊吹   「陛下に報告し速急に調査をしてもらう他ないな・・・」
セイ   「そうだな。真相究明にはそれしかないか・・・!?」
伊吹   「!!」
間違いなく気配を感じた!
誰かいる!
セイ   「誰だ!」
声    「おっと、・・・ヘヘヘ、バレちまったか。
      なかなか鋭い兄ちゃんだ」
伊吹   「出てこい」
声    「そうあせりなさんな。バレた以上ジタバタ逃げ隠れする気はねぇよ」
そう声が響いた後、突如部屋の隅の暗闇に四つの赤い光が浮かんだ!
光は左に3つ右に1つ。
人でいうと丁度顔の辺りの位置だ。
声    「兄ちゃん達の名推理に聞き惚れていただけなんだ」
そう言ってそいつは姿を現した。
伊吹   「お前は・・・」
忍者のような装束に黒頭巾。
中には鎖帷子までバッチリ着込んでいるようだが、ヤツは異様だった。
ヤツの異様さを際だたせているのは・・・般若。
顔を覆い隠した般若の面だ。
しかもこの般若、普通の面と違い目の穴が四つもある・・・。
四つ目般若と言うわけだ。
セイ   「ブキミなおっさん・・・・・」
般若の口元はなく、口の辺りだけ素顔が露わになっている。
とは言うものの、口周りは白い口髭や顎髭で覆われているのでよくわからないが・・・。
伊吹   「・・・四つ目般若・・・かつてこの地を守護していたと伝えられる
      『陰の一族』に継承された仮面・・・だったか?」
四つ目般若「ご名答!お嬢ちゃん、えらく博学だねぇ。
      とは言っても、俺は趣味で被ってるんだがな。たんなるお洒落ってやつだ」
セイ   「忍者?」
四つ目般若「まあ、そう言われた時代もあったが・・・昔のことよ」
なんなんだ?つかみ所のないヤツ・・・。
セイ   「・・・で、あんたはここで何してるんだ?」
四つ目般若「片手間に引き受けた仕事ってところだな」
セイ   「へえ、おじさんどんな仕事してんの?」
四つ目般若「こんな爺にできる仕事なんざ、たかが知れてるってもんよぉ」
セイ   「で?」
四つ目般若「たんなる清掃人だぁ」
セイ   「・・・酒臭いなアンタ。飲んでンのか?」
四つ目般若「へっへっへ、いや面目ない。酒にはめがなくてよぉ。
      最近じゃあ、酒ぐらいしか楽しみがなくてなぁ。
      おっと、仕事してる時は楽しいぜぇ!へっはっはは」
セイ   「虚しい老後だな。じゃあ早く掃除しちまいな」
四つ目般若「おやおや?いいのかぁ?掃除しちまっても」
セイ   「アンタの仕事なんだろ?」
四つ目般若「そりゃそうだが。おめぇ等はなぁ・・・」
セイ   「どうしたんだよ?」
四つ目般若「めんどくせぇなぁ」
セイ   「そんなに面倒なのか」
四つ目般若「ああ。今回のゴミは久々にでかそうだからなぁ」
伊吹   「?、どこにそんな大きなゴミがある?」
四つ目般若「俺の目の前さぁ。なんとあの鬼将の坊やが片付けられなかった粗大ゴミだ」
伊吹   「なんだと!?」
セイ   「・・・へっ、つまりアンタが掃除するゴミってのは・・・」
四つ目般若「おめぇ等ってことだなぁ」
伊吹   「やはり貴様妖か!」
四つ目般若「半分当たりぃ〜」
半分?
どういう意味だ?
四つ目般若「悪いが・・・死んでくれぇ」
伊吹   「返り討ちにしてやる!」
セイ   「!?、なんだこれ・・・身体が動かねーぞ・・・・・」
伊吹   「!!」
四つ目般若「へっへっへ、おめぇ等油断しすぎだぜぇ。
      ちょっと影に細工させてもらったぜぇっへっへ。
      陰陽術影技・影縛り。
      鬼将を倒したのは大したモンだが、ありゃ運だけかぁ?」
セイ   「へっ、運も実力のうちってね」
四つ目般若「確かになぁ。おめぇ等が鬼将に勝ったのは紛れもない事実だ。
      そして、そいつらを俺が殺して、褒美に酒をいただくのも事実だぁ」
セイ   「そう上手くいくか?酔っぱらい」
四つ目般若「へっへっへ、酔いがまわって寝ちまうかもしれねぇもんなぁ」
セイ   「そうそう。そうなりゃ術もとけて俺らの勝ち」
四つ目般若「そうなればいいなぁ。無理だと思うがよぉ」
セイ   「勝利の前祝いに一杯どうぞ」
四つ目般若「そいつはいいなぁ。それじゃあこのお嬢さんに酌してもらいてぇなぁ」
伊吹   「なっ!?」
セイ   「それはいいアイデアだ!さっそく伊吹の術を解いてシャクさせよう!」
四つ目般若「ば〜か。誰がそんな子供だましにひっかかるかよぉ」
セイ   「ちっ・・・・・」
四つ目般若「そんじゃまあ名残惜しくならないうちに一思いにいこうか」
四つ目般若のジジイが懐から鋭いかぎ爪のついた手甲を取り出し左腕に装着した。
そのまま爪を振り上げる!
四つ目般若「じゃあな!ボウズ!!」
酔っぱらいが勢いよく爪を振り下ろすのと、
俺の胸元から目映い光がはじけるのはほぼ同時だった!
四つ目般若「なんだぁっ!?」
四つ目般若が光に驚き後ずさる!
四つ目般若「ぐわあああああぁ!!!!」
動けるぞ!
術がとけたようだ!
四つ目般若のジジイの左手が高熱のガスを浴びたように焼けただれている!
しばらくすると光はおさまった・・・。
いまの突然溢れ出したこの光は一体なんだ?
俺の胸元から発光したが・・・。
伊吹   「セイ!大丈夫か!?」
セイ   「あ・・・ああ」
伊吹   「いまの光は何だ?」
セイ   「・・・もしかして・・・・・コレが光ったのか?」
懐から親父にもらったペンダントを手に取る。
赤い宝石を埋め込んだ剣型デザインの銀のネックレス。
伊吹   「それは?」
四つ目般若「それはまさか・・・ヒヒイロカネ!?」
セイ   「ヒヒイロカネ?」
四つ目般若「なんということだ!こんな小僧がヒヒイロカネに護られているとは!!」
セイ   「コレが・・・守ってくれた?」
四つ目般若「ばかばかしい、俺ぁヒヒイロカネの相手なんざぁまっぴら御免だ。
      退散させてもらうぜぇ」
突然四つ目般若のジジイが姿を影に溶け込ませるように消えていった。
伊吹   「消えた・・・」
セイ   「・・・・・勝ったのか?」
伊吹   「そのようだな・・・・・」
セイ   「ラッキー!あぶねー・・・シャレにならねーとこだった」
伊吹   「それにしてもそれは・・・」
セイ   「ああ・・・。いったいこの宝石はなんなんだろうな・・・」
伊吹   「あとでちゃんと調べてみた方がよさそうだな」
セイ   「そうだな。とにかく今は一刻もはやくこんなとことおさらばしようぜ」
伊吹   「ああ・・・ん?セイ、ちょっと待ってくれ・・・」
セイ   「どうした?」
伊吹   「いや、いままで四つ目般若がいた所に・・・ほら、何か落ちている」
セイ   「ホントだ・・・これは?」
伊吹   「青白い金属のようだな・・・」
セイ   「メダル・・・かな?」
伊吹   「奴が落としていったのかな?」
セイ   「そうかもな。一応もらっとこう」
青白いメダルを拾った。
よく観察してみると、どうやらこのメダルは
さっきの青白く発光する鉱物で造られているようだぞ。
たんなる装飾品か、それとも何か使い道がある道具なのか・・・。
セイ   「とにかくこっちの通路はなんかヤバそうだ。
      引き返して正面の扉を覗いてみよう」
伊吹   「そうだな。メイの手がかりがあるとしたらあの扉の向こうだろう」
機械の唸りが響く部屋を後にして再び廊下を引き返す。

地底湖の部屋までもどった。
いよいよ正面の豪華な扉を開くときがきたな。
セイ   「準備はいいな?いくぞ」
伊吹   「うむ」


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