SYNCHRONICITY TWINS STORY

NECRONOMICON

ACT.1 03日 土曜 午前 (セイ編・SSD)



・・・・・あれ?
俺は今何をしてるんだっけ?
・・・・・。
ここは・・・ウチの庭だな・・・・・。
なんでだろう、なんか懐かしい気がする・・・。
いつも見てるはずの庭の風景なんだけど・・・。
清雲   「清、ここにいたか」
セイ   「あ、オヤジ・・・」
突然後ろから声をかけられて振り向くと、オヤジが歩み寄ってくる様が見える。
あれ?なんかヘンだぞ?
なんかオヤジがスゲーでかい・・・。
見上げるほどでかいじゃねーか。
こんなに俺と背がちがったっけ?あ・・・でもそりゃそうか。
オヤジだもんな、子供の俺よりでかいのはあたりまえだ。
俺は何を不思議に思ったんだろ?
・・・・・あれ?
なんか納得できねーな・・・。
清雲   「さっきは怖い思いをさせてしまったな」
セイ   「・・・うん。怖かった・・・・・」
なんだ?!この舌足らずな答えは!?
セイ   「でも、俺、泣かなかったぞっ!!」
な、何を自慢してるんだ、俺!!
清雲   「そうだな。それでこそワシの息子だ」
セイ   「へへっ」
オヤジのでっかい手のひらが豪快に俺の頭をなでる。
清雲   「だが、いつかは清が、自分の力で、
      今日のような窮地に立ち向かう事が出来るようにならなければならない。
      わかるな?清」
セイ   「まかせろよ!ついでにメイも守ってやるぜ!」
清雲   「ははは。そうだなお前は明の兄として、いつも守ってやるんだ」
セイ   「当然だーっ!泣き虫のメイは、俺様がいなきゃダメだもんっ!」
清雲   「ははは、頼んだぞ」
セイ   「まかせろーっ!」
清雲   「よし。それじゃあ褒美にこれをやろう」
オヤジがふところから何か出そうとしてるぞ。
セイ   「なになに?なにくれんのー?」
清雲   「お前が明を守ってくれると約束するなら、
      これがお前に力を貸してくれるだろう」
セイ   「?」
オヤジが手渡したモノを受け取りじぃーっとみつめる。
首飾り?
剣のようなデザインの銀細工の中央部に赤い宝石が填め込まれている。
オヤジにしちゃヤケにセンスいいじゃねーか。
セイ   「おースゲーっ!!ルビー?これってルビー??」
清雲   「いや、それは我が家に代々伝わる特別な石だ」
セイ   「すっげー!ヤッターっ!俺頑張ってメイ守るぞ!」
清雲   「頼むぞ清。男と男の約束だ」
セイ   「まかせろお!」
清雲   「よし。ならば今日からその石が清を守ってくれるだろう」
セイ   「ホントか!?じゃ俺無敵だなっ!よぉし、やったるぜー!」
清雲   「その意気だ。明を頼むぞ、清・・・」
そういや、こんな約束したことあったっけな・・・。
懐かしい思い出だぜ・・・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・ん・・・・・あー。
セイ   「・・・もう朝か・・・・・」
なんか夢をみてたような気がする・・・・・。
なんか懐かしい・・・ガキのころの夢だったような・・・・・。
気がつくと、胸に光るネックレスの銀細工をなんとなく指でもてあぞんでいる。
考え事をしているときの癖なんだ。
ま、どうでもいいけど・・・。
・・・そろそろ起きるか。
朝飯食いに行こうかな・・・。
・・・・・。
よし、食堂へ行くぞ。

階段をおりると、すでに朝食の香りがあたりに漂っている。
どうやら起きてるヤツがいるらしい。
まあおふくろは朝早いからな・・・。
フラフラと食堂へなだれ込む俺。朝は弱いのだ・・・。
セイ   「へろー・・・」
メイ   「おはよう」
満恵   「おはようございます」
すでに皆起きてるようだな。
俺が最後だ。
メイ達は皆和食の中で俺だけ朝食はトースト派なんだ。
みそ汁も悪くはないが朝の食卓にはやっぱり香ばしいトーストの香りが欲しいだろ。
伊吹   「相変わらずよく寝るやつだな」
セイ   「育ち盛りなんだ」
伊吹   「小学生か」
セイ   「顔洗ってこよー」
真っ先に洗面所へ向かう。
洗面所はキッチンの向かって左角にあるんだ。ちなみにその奥はトイレだ。
とにかく目を覚まさなきゃな。
冷水で顔を洗ってシャキっとするぞ。
ついでに歯も磨いてリフレッシュだ。
サッパリして眠気もぶっ飛んだし、食卓へ戻ろう。
伊吹   「夏か。夏は蝉が五月蝿(ウルサ)くてかなわん」
気の早い奴らが夏の話してるぜ。
セイ   「俺はその前の梅雨って試練がヤだね」
メイ   「あー、梅雨はね。湿気が多いし」
満恵   「すぐ腐りますからね。食べ物が」
席に着く前に用意してある食パンをトースターにセットしておく。
セイ   「夏は好きなんだケドさ、夜も暑いのがな・・・」
伊吹   「うむ。寝苦しくてかなわん」
満恵   「ここ数年、夏は熱帯夜ですからね」
そうだ、寝るといえば・・・。
メイ&セイ&伊吹「そういえば昨日夢をみた・・・」
三人で完璧にハモってしまった・・・。
極限まで気まずい空気があたりを支配する・・・。
セイ   「あ・・・俺のはくだらない夢だからどうでもいいケドな・・・」
メイ   「あの・・・僕も今はいいや・・・」
伊吹   「・・・コホン。それじゃ私が話そう」
気を取り直して伊吹が語りだす。
満恵   「れいのヤツですか?」
伊吹   「はい」
伊吹の夢ってのはちょっと特別なんだ。
伊吹は熟睡時に幽体離脱することがある。
どっかの思念体か何かに呼ばれたら
強制的に思念体となってそこへ引き寄せられるらしい。
どこかの何かが思念体となって助けを求めていたりすると、
幽霊バージョンの伊吹は、その思念体と意志の疎通ができるんだ。
たとえ相手の思念体が動物や物でも伝わってくるんだと。
想いのメッセージを聞き取る特殊能力の一種らしい。
伊吹   「じつは昨夜夢の中で明治神宮の代々木が呼びかけてきたのです」
セイ   「木が?」
伊吹   「正確には木の精のようなものだろうがな」
セイ   「まあメルヘンね」
伊吹   「茶化すな」
伊吹にはそういう思念体は人型のシルエットとして認識できるんだ。
満恵   「それで、代々木は何を伝えようとしていたのです?」
伊吹   「・・・どうやら木そのものに妖が宿ったらしく、
      かなり苦しんでいたのです・・・」
メイ   「代々木に!?でもあんな場所に妖が宿るなんて・・・」
満恵   「今まででは考えられませんね」
伊吹   「はい。あれほどれいけんあらたかな土地の御神木に宿るなど、
      並の妖には不可能。いや、本来なら大物ですら不可能でしょう」
メイ   「・・・やはり、何かがこの東京全体の霊力を薄れさせている?」
満恵   「そうですね。明治神宮の霊的結界を弱める何かが・・・」
メイ   「どこかで何かがおこっている・・・」
伊吹   「昨日の妖が実体化していた原因も、
      九十九神が異常なほど肥大していた原因もおそらく同じでしょう」
満恵   「・・・さっそく調べた方がいいでしょうね」
メイ   「手がかりは今のところ直接被害を受けている代々木だね」
伊吹   「とにかく代々木に宿ってしまった妖はなんとしてでも退治しなくてはな」
メイ   「うん。後で行ってみよう」
伊吹   「妖を倒せば代々木から何か情報が得られるかもしれんしな」
メイ   「そうだね」
・・・口を挟めない雰囲気だったんで黙っちまったが、
どうやら今日の行動方針を決定したようだな。
セイ   「なんか、エライことになりそーだな・・・」
伊吹   「他人事のような顔をするな。お前も来るんだ」
セイ   「なんでだよ!」
伊吹   「どうせ暇だろう?」
セイ   「う、そ、で・・・・・」
そりゃ・・・確かに用事はないが・・・。
伊吹   「決まりだな。ついてきてもらうぞ」
セイ   「なーんでだよー」
伊吹   「か弱い乙女が危険に遭遇している時に傍観するのか?
      貴様それでも日本男児か?」
セイ   「日本男児って、ダサくねーか?△」
伊吹   「いいから一緒に来い。これは阿部家の人間の使命なんだ」
セイ   「へーへー、わかりましたよ!」
メイ   「どんな強力な妖がいるかわからないからね。
      戦力が多い方がいいし」
セイ   「しょーがねーなぁ」
満恵   「では三人とも、あとは頼みましたよ」
メイ   「はい」
伊吹   「お任せください」
セイ   「かったり〜なぁ」
すでにパンが焼けてるのでトースターからとってマーガリンをぬりかじりつく。
シンプルで美味い。
めんどくせーけど、ついていってやるか。
そういや今日は代々木公園でフリーマーケットやってるはずだ。
途中で抜けだして行ってみるかな。
天気も良さそうだし。
テレビでは天気予報が終わり、ニュースの時間だ。
お?ちょうど今やってるのって昨日の事件じゃねーか。
セイ   「しかし最近物騒な事件が多いな。
      ホレ、いまニュースでやってるのなんか宮下公園の事件だぜ」
メイ   「え?」
伊吹   「ほほう」
メイ   「あ、セイ。ちょっとテレビ大きくしてくれる?」
セイ   「テレビは大きくなんねーぞ」
メイ   「・・・・・テレビのボリュームだよ△」
手元のリモコンを操作してボリュームを上げてやる。
キャスター「・・・渋谷区宮下公園で起こったこの惨劇はいったい何者の仕業なのか。
      謎は深まるばかりです。身元不明の被害者の猟奇的な殺害状況から、
      警察では殺人と断定。被害者の身元と容疑者の特定を急いでおります。
      さらに怨恨というよりは異常者の示威行為との見方を強めており・・・」
セイ   「上げすぎたか?」
ニュースでは現場の様子が報道されている。
おや?どっかでみた人がテレビ映ってるぞ。
セイ   「あ、奈緒サンだ!映ってるぞ!」
メイ   「この人が刑事さん?」
セイ   「猟奇殺人担当」
メイ   「へぇー・・・」
伊吹   「なんとも面妖な・・・」
別に面妖ってほど奇怪な格好はしてねーだろう・・・。
セイ   「おまえら、現場じゃなく刑事ばっか見てどうすんだよ」
メイ   「あ、そうだよね」
伊吹   「セイは死体を見たのか?」
セイ   「いや、死体にはシートが被せてあったからな」
メイ   「でもよくこんなところに入ったよね・・・」
セイ   「血の独特な匂いがしたぜ」
満恵   「噎せ返るようなヘモグロビン臭ですね」
セイ   「・・・気色悪い言い方すんなよ」
うぐっ・・・。
想い出しちまった・・・。
食事時にする話題じゃねーぜ。
伊吹   「猟奇殺人か・・・。
      この事件も何か関係しているかもしれんな」
セイ   「それって短絡的じゃねーか?」
満恵   「全ての可能性を考えることは重要です」
メイ   「被害者の身元もわからないんじゃ捜査も難航するね」
セイ   「俺達も映ってるかも・・・」
メイ   「テレビカメラあったの?」
セイ   「いちおう来てたみたいだぞ」
メイ   「インタビューとかされなかったの?」
セイ   「公園内には入れないからな。
      俺らが現場に入ったことってやっぱ秘密なんじゃねーのかな」
メイ   「刑事さんの独断だから?」
セイ   「ああ。普通は警察関係者以外立入禁止だろ?」
メイ   「そうだろうけど、じゃあ尚更よく入れたよね」
セイ   「奈緒サンはアバウトだからな・・・」
メイ   「特別捜査官みたいだね・・・」
セイ   「ま、あの人の奇行にいちいち対応してたら警察も時間の無駄だろうな」
メイ   「あきらめてるんだね」
セイ   「あーあ、今日も公園入れねーのかなー」
伊吹   「死体は既に処理されているだろうし、現場検証も終わっているだろう。
      午後くらいにはもう入れるかもしれんぞ」
セイ   「だったらいいんだけどさ」
メイ   「・・・でも、死体があった場所だよ。気持ち悪くない?」
セイ   「かんけーないね」
・・・・・。
とは言ってみたものの、意識すると気色ワリィな・・・。
伊吹   「ま、この事件は我々の関与するところではあるまい。
      警察にまかせて結果を待とう」
メイ   「まあね。・・・でもちょっと気になるけど」
満恵   「どちらにしろ今のところ私達に直接関わりがある事件の、
      手がかりがあるとすれば代々木です。
      まずはそちらに急行しなさい」
メイ   「ええ。わかっています」
今後の方針も決まったようだし、パンも食い終わった。
そろそろ部屋に戻ろうか・・・。
朱雀   「メイ様ー!!」
朝からバカ鳥がけたたましく騒いで迫ってくる。
セイ   「朝からテンション高いな・・・」
朱雀   「ワタクシの朝ゴハン!ちゃんと残してあるでございますか!?」
メイ   「お、おはよう、朱雀。ホラ、ご飯なら用意できてるよ」
朱雀   「そうですか!安心しましたデス!」
伊吹   「やかましいのが来たな」
朱雀   「なんですと!人を邪険に扱わないでください!」
伊吹   「鳥だろうが!」
セイ   「もういい、ウルサイ。さっさとメシ食え」
朱雀   「いただきまー!」
朱雀はガツガツと朝食をたいらげていく。
伊吹   「・・・はしたない」
まったくだ。
テレビからはまたしても物騒な臨時ニュースが流れてきたぞ。
キャスター「緊急速報です。昨夜未明、イギリスから送還中の長門(ナガト)死刑囚が、
      脱獄していたことが判明いたしました」
おお、ダイレクトな言い方だな。
緊急だからキャスターも焦ってるな。
セイ   「また嫌なニュースだな」
メイ   「うわぁ、出くわしたくないねぇ」
セイ   「まったくだ」
でも、こういう話だと大抵出くわすんだよな。
俺の予感が外れることを祈ろう。
そうだ、みんなも祈ってくれ。
そしたら願いが届くかも。
結局世の中ってなんだかんだでそーなんだ。
多数決なんだ。
伊吹   「こんなことにまで巻き込まれたらたまらんからな」
メイ   「伊吹なら、出会ったら捕まえられるね」
伊吹   「私だって嫌だ」
セイ   「はぁー、世の中物騒だな」
伊吹   「世を正すため、我等も少しでも貢献したいものだな」
メイ   「朱雀、後で明治神宮へ行くからね」
朱雀   「いえっさー!!」
なんだよ、やっぱりこのバカ鳥も連れてくのか。
セイ   「んじゃ、このバカが食い終わったら出発しよーぜ」
メイ   「そうだね」
朱雀が豪快にエサを食らい尽くす様を見終わると、
俺達は明治神宮のある原宿目指して家を出た。


原宿行くなら電車がいい。
今日はメイや伊吹も一緒だしな。
家を出て左に直進すると渋谷駅だ。
こんなに交通の便がいいんだから俺ももっと頻繁に利用しないと損かもな。
もう既に『109』が見えている。
やはり『SHIBUYA 109』といえばファッションビルの老舗的存在だ。
毎年クリスマスに開催される『109』の文字の下のディスプレイは、
人々の目を楽しませる渋谷の風物詩となっている。
冬になったら見物に行こうか。
まだあまりにも気が早い誓いを立てちまった・・・。
ここの前のスクランブル交差点を渡ればもう渋谷駅に到着だ。
反対側の南口から来ればモヤイ像がお出迎えしてくれるんだがな。
インパクトはハチ公以上だ。
俺はよく待ち合わせ場所として利用してるんだ。
イースター島のモアイ像に対抗し、八丈島でだけ採掘される特別な石でつくったらしい。
だが何故そんなもんが渋谷の、しかも駅前に佇(たたず)んでいるのかは謎だ。
誰も解明しようとしないから永遠の謎だ。
伊吹   「なんだセイ。さっきから黙り込んで。
      お前が静かだと違和感を感じるだろうが」
セイ   「いや、八丈島がな・・・」
伊吹   「は!?」
メイ   「八丈島?」
セイ   「イ、イヤ、なんでもないんだ・・・」
つい心の中をそのまま口に出してしまった・・・。
とにかく渋谷駅に到着だ。
余計な事を考える必要はないぞ。
セイ   「俺あんまり電車乗らないからな〜。
      切符の買い方教えて」
メイ   「それくらいわかるでしょ」
セイ   「ちぇ」
伊吹   「・・・・・」
メイ   「?、どうしたの、伊吹」
伊吹   「・・・すまんがメイ、ついでに私のも買ってきてくれないか。
      わ、私は機械というモノがどうも苦手で・・・」
セイ   「あれー?伊吹ちゃんってば一人で電車も乗れないのォ〜」
伊吹   「う、ウルサイ!機械の操作は得意じゃないが・・・。
      できないワケじゃない!」
セイ   「ホントウに〜??」
伊吹   「バカにするな!このくらい武士ならできて当然!」
セイ   「ふーん。じゃ買ってくれば?」
伊吹   「よ、よぉし!やってやろうじゃないか!見ているがいい!メイ、行くぞ!」
メイ   「う、うん・・・」
セイ   「頑張れよー」
伊吹   「ふん、何を頑張る必要があろうか」
伊吹がメイを伴って券売機に向かう。
伊吹   「えっと・・・」
メイ   「まずお金を入れるんだよ」
伊吹   「い、いま入れようとしたところだ!・・・え〜・・・っと・・・」
メイ   「ここだよ」
伊吹   「わ、わかっている!バカにするな!」
セイ   「くふくふ」
伊吹   「それからー・・・えっと・・・」
メイ   「光ってるボタンを押したら・・・」
伊吹   「い、いま押そうと思っていたのに、先に言うな!」
メイ   「ご、ごめん・・・」
見事伊吹の切符が出てきたぞ。
伊吹   「!!」
メイ   「それじゃ次は僕が・・・」
伊吹   「ほれみたことか!私に不可能はない!ははははは」
セイ   「威張るなイバるな、バズかしい・・・」
伊吹   「電車などたやすいモノだ!どうした、セイ。さっさと買ってこい」
セイ   「あー、ハイハイ」
メイが切符を買い、続いて俺も切符を買う。
セイ   「さ、行こうか」
伊吹   「クッ・・・いともアッサリと・・・」
メイ   「ははは・・・」
伊吹   「遅いぞ二人とも!さっさとついてこい!」
セイ   「へーへー」
伊吹を先頭に改札へと向かう。
伊吹   「!!」
メイ   「どうしたの?伊吹。急に立ち止まって・・・」
セイ   「なんだ伊吹?まさか改札が通れないなんてことはねーよな〜?」
伊吹   「な、なにをバカな。そんなこと、あるものか・・・」
伊吹が堂々と前進していく。
メイ   「あ、ちょっと伊吹!?」
伊吹   「!!!」
ガタン!と勢いよく改札が閉まる。
メイ   「伊吹ー、ここに切符入れなきゃ」
セイ   「くふくふくふ」
伊吹   「・・・・・」
メイ   「ホラ、隣の改札見てみなよ。あのおじいちゃんみたいにさ・・・」
伊吹   「・・・ぅ゙ぅ゙・・・・・」
セイ   「くふくふくふ」
メイ   「ね?」
伊吹   「う、ウルサーイ!ちょっとウッカリしただけだーっ!!」
セイ   「くふくふくふ」
伊吹   「切符を入れればいいんだろう!容易い事だ!」
やっとのことで改札を通過する。
メイ   「伊吹ー、出てきた切符持ってかなきゃ」
伊吹   「!!!!」
セイ   「だーはっはっはっはっは!!!」
伊吹   「もうイヤだーっ!!!」
セイ   「あははははは!苦しい!死ぬ!もう・・・やめて・・・くれ・・・。
      ははは・・・、は、ハラいてーっ・・・ははは」
伊吹は駆けだしていった・・・。
メイ   「伊吹ー?どうしたのー?」
セイ   「ははは・・・、メイ、伊吹の切符、回収しといてやれ」
メイ   「う、うん・・・」
セイ   「さあ、伊吹をおっかけよーぜ〜」
メイ   「うん。でもドコいっちゃったんだろ?」
セイ   「さーなー、その辺にいるだろ〜」

前方の柱の影でイジケてる伊吹を回収し、電車に乗り込む。
JR原宿駅はお隣だ。
乗ったらずぐに到着するだろう。
まだ出勤中のサラリーマン達が多いな。
伊吹   「・・・・・う〜・・・・・」
メイ   「どうしたのさ?伊吹」
セイ   「そんなに気にすんなよ、ハハハ」
伊吹   「う゛〜・・・・・」
俺達は唸り続ける伊吹を横目に電車に揺られて、すぐに原宿駅に到着した。
さて、それじゃ明治神宮へ行きますかね・・・。

三人で原宿駅を出ると、すぐ目の前にパトカーが停車した。
なんだなんだ、何事だ?
伊吹   「・・・セイ」
メイ   「また何かしたの?」
セイ   「してねー!それに『また』ってのはなんだ!」
メイ   「また近くで事件でもあったのかな?」
立ち尽くす俺たちの前で突然パトカーのドアが開き、誰かがおりてきた。
奈緒   「やっほ〜!セ〜イちゃ〜ん☆」
セイ   「な、奈緒サン!?」
伊吹   「おぬし、今度は何をやらかした!?」
メイ   「まさか、セイを逮捕しに!?」
伊吹   「いやむしろ警官というより逃亡した犯人がセイに接触を謀って・・・」
セイ   「・・・テメーら黙ってろ△」
奈緒   「なにしてんの〜?こーんなトコでぇ」
セイ   「あんたこそパトカーで移動なんて珍しいじゃん。緊急の事件とか?」
奈緒   「そぉ〜なのよ!聞いて聞いて!アタシ昨日徹夜なんだからー!」
セイ   「ほう、忙しそうじゃん」
奈緒   「メチャクチャね・・・」
セイ   「今も?」
奈緒   「そ、現場に急行中」
セイ   「じゃなんでここで止まんだよ。急行しろって・・・」
奈緒   「だってセイっち見付けたからサ」
伊吹   「・・・セイっち△」
セイ   「・・・んで?なんだよ」
奈緒   「実はね〜・・・アレ?」
メイ   「エ?」
奈緒   「セイちんが二人いる!?」
伊吹   「セイちん・・・△」
奈緒   「アイヤ〜、アタシ酔っ払ってるアル!」
セイ   「確かに酔っ払ってるかもしれんが、コイツはメイ。双子の弟だ」
奈緒   「ウッソ、分裂したのかと思った」
セイ   「アメーバか俺らは・・・」
奈緒   「へぇ〜、カッワイイねー☆セイより全然カワイイじゃん」
セイ   「うるせー」
メイ   「あ、あの・・・」
奈緒   「アタシも一人欲しい。ちょーだい?」
セイ   「ダメダメ」
奈緒   「なんでー、アタシ双子って憧れだったんだよぉ〜」
セイ   「だったら分裂でもしろ」
・・・この人ならできそうでコワイ。
奈緒   「ねえ、オネーサンとアソボー」
メイ   「こ、困ります・・・」
奈緒   「ああ〜、このウブなリアクションがたまらないわ〜☆」
メイ   「セイ〜、どうにかしてよぉ」
セイ   「アンタ仕事中じゃなかったのかよ」
奈緒   「あ、そーだった!」
セイ   「しっかりしろよなー・・・」
奈緒   「それでね・・・あ、そーいえばこの麗しき大和撫子は誰?」
伊吹   「麗しき・・・」
セイ   「また話がズレた・・・」
奈緒   「ね〜え、ちゃんと紹介してぇ〜」
セイ   「・・・そうだな。この際まとめてしておくか。
      さっきいったけど、コイツがメイ。俺の弟」
メイ   「ど、どうも・・・」
奈緒   「よろしくねぇ〜ん☆」
セイ   「んでこっちが伊吹。居候だ」
伊吹   「グッ・・・なんだその紹介は」
奈緒   「ウソ!一つ屋根の下で暮らしてンのォ〜!?」
伊吹   「ま、まあ・・・一応・・・」
奈緒   「で、どっちが本命?」
伊吹   「は!?」
セイ   「コラコラ」
奈緒   「えー、だってぇ〜」
セイ   「それで、さっきから暴走気味なこのお方が、一宮 奈緒サン。
      これでも一応警視庁殺人課特別捜査官らしい」
奈緒   「スゴイでしょお☆」
伊吹   「は、はあ・・・」
セイ   「ま、こんなだが悪気はないようなので、大目に見てやってくれ」
奈緒   「ちょっとちょっと!どうゆー意味よ!」
セイ   「それで、用件は?」
奈緒   「そう。ひとつ訊きたい事があんのよ」
セイ   「なんだよ」
奈緒   「昨日から事件が立て続けに起こってるんだけどさ、
      アンタ達の間で『SLAVE』って流行ってんの?」
セイ   「・・・スレイブ?」
奈緒   「ふ〜ん、どうやら知らないらしいね」
セイ   「なんだよ、スレイブって」
奈緒   「ん〜ん、知らないなら知らない方が良いと思うナ」
セイ   「なんだよソレ」
奈緒   「新宿で特に流行ってる新手のクスリのコトよ」
セイ   「クスリ?」
奈緒   「そう。出回ってるのは判ってるんだけど、
      なかなか現物が手にはいんなくてさぁ。
      どっかで手に入ったらまわしてよ」
セイ   「それが刑事の言うことか・・・」
奈緒   「フフフ、頼んだわよ〜」
セイ   「ま、手に入ったらな」
奈緒   「用はそれだけ。物騒だからアナタ達も気を付けるのよぉ〜」
セイ   「またどっかで事件あったんだろ?今回はドコ?」
奈緒   「原宿のラブホ〜」
セイ   「そりゃまた朝っぱらから大変だな」
奈緒   「そォなのよ!昨日もね、夜にガキどもの小競り合いか何かにかり出されて」
セイ   「へえ・・・」
奈緒   「新宿まで行ってみたらすでに自警団が終息させてたってオチ。
      だったらワザワザ別部署のアタシまで呼び出すなっての!」
セイ   「へ、へえ〜、そりゃー大変でしたな〜・・・△」
奈緒   「しかも帰ってみたら一気に殺人が三件も起こってるんだもん!
      ジョーダンじゃないわよ!ってカンジ〜★」
セイ   「マジかよ、おだやかじゃねーなー・・・」
奈緒   「これからその三件目に行くトコなの・・・」
セイ   「お疲れ様です」
奈緒   「はあ、まったく犯人め、こっちの身にもなれって言いたいわ〜」
セイ   「犯人の目星とかはついてんの?」
奈緒   「まぁね。これから行く三件目はまだだけど、
      いまのところの二件は連続殺人で間違いナシ」
セイ   「ほお、そりゃまた随分精力的な殺人鬼だな」
奈緒   「最近世間を騒がせてる『eater』って知ってる?」
セイ   「イーター?」
メイ   「あ、ニュースで見たことあるよ。
      このごろニュースに出ない日はないって言われる事件の犯人」
伊吹   「うむ。東京一帯を震え上がらせている猟奇殺人鬼だな」
セイ   「・・・あーあー。そーいえばそんなのがいたカモ」
メイ   「被害者を殺して、腹を割いて、内臓を持ち去っていく変人。
      持ち去った内臓を食べてるって噂の・・・」
セイ   「うげ〜・・・」
なるほどな・・・殺害後に相手の内臓を喰らうことから『eater』・・・か。
奈緒   「そう。あの連続殺人犯。まだ実体はつかめてないケドね。
      いままでの事件と手口が同じだし、模倣犯にしては鮮やかだし、
      犯人は『eater』で間違いなしなんだケド・・・」
セイ   「手がかりナシってとこか」
奈緒   「そおなの・・・」
セイ   「そりゃお気の毒に・・・。ま、気を落とさず頑張ってくれよ」
奈緒   「は〜い・・・」
セイ   「じゃ、いつまでも立ち話してる場合じゃねーしさ、いってらっしゃーい」
奈緒   「・・・いってきま〜す」
奈緒サンは待たせに待たせてたパトカーに乗り込んで現場に向かったぜ。
ようやく奈緒サンから解放されたな。
それにしても、世の中物騒すぎるぜ・・・。
しかし・・・『スレイブ』ねぇ・・・・・。
・・・・・。
ちょっと探ってみるか・・・。
セイ   「メイ、ここからはちょっと別行動したいんだが」
メイ   「どこ行くの?」
伊吹   「なんだと?貴様ここまで来て逃げるのか」
セイ   「ちげーよ。いまの奈緒サンの話聞いただろ?
      ちょっと俺も俺のやり方で探り入れてみようかと思ってな」
伊吹   「ふん、逃げ出すいい口実だな」
メイ   「伊吹」
セイ   「ま、半分はそうだがな。
      でも探ってみるのもマジなんだ」
伊吹   「・・・・・まぁいいだろう。好きにしろ」
セイ   「ワリィな。なんか土産買って帰るぜ」
伊吹   「いらんわ」
メイ   「何を調べるの?」
セイ   「クスリをな・・・」
メイ   「セイってそういうコトに詳しいの?」
セイ   「少しは・・・な」
メイ   「へえー、スゴイね!知らなかったよ」
セイ   「ちょっと心当たりを探るだけだ。じゃあな」
メイ   「うん」
伊吹   「一応帰ったら私にも報告しろよ」
セイ   「へいへい」
俺は二人から別れて南西に向かう。
え?どこに行くのかって?
代々木といえば名物フリーマーケットだ。
代々木公園に一直線だぜ。
人も集まるから情報も集めやすいんだ。
・・・クスリ関係にも詳しいヤツがいたりするんだよこれが。
すみっこで実際に売ってる売人もいるくらいだからな。
そいつに聞けば・・・多少なりともクスリの実体が見えてくるかもしれねーぜ。
・・・なんか気になるんだ。
『スレイブ』・・・・・。
俺の勘じゃあ何かと繋がってる気がするね。


原宿駅から代々木体育館を左に3分ほど歩くと広場が見えてくる。
ここが約500区画の出店スペースを誇る都内最大のフリーマーケット会場。
場所柄、若いヤツ等の姿が圧倒的に多いが、出店のジャンルは様々。
個々が持ち寄った雑貨、古着、バッグ、アンティーク小物、家具、電化製品など、
じつに豊富な品々が露天に並べられている。
開催は不定期なのでやってない可能性もあったが、今日は開催されているようだな。
とりあえず無駄足ということにはならなかったな。
かなりの人でごった返している会場には焼きそばなどの露店もあるんだぜ。
こういうトコで食うと結構美味いもんなんだよな。
掘り出し物からくだらない物、さらにはヤバいモノまでなんでもござれだ。
まずはブラブラ見て回ろうか。
なんか良い物があるかもしれないからな。チェックだチェック。
普段は手早くショッピングを済ませてしまうタイプの人も、こういう時は時間をかける。
みんな雰囲気を楽しんでるんだ。
いろいろな商品が積み上げられた山、山、山・・・。
どれでも100円のたたき売り。
こういう山の中にも意外な掘り出し物が隠れているかもしれないぜ。
並べられている商品は中古品ばかりじゃないんだ。
驚くほどいい品物が、新品でしかも安価だったりする。
つい、まとめ買いをしたくなってしまうんだよな。
おまけに商品についている値札は絶対ではない。
つまり値切れば値切るほど安くなることが多いのだ。
最初は3000円で売られていた物が2時間後には1000円になっていた、
なんて事もよくある話。
買い時を見極めるのも重要だぜ。
値段は10円単位の小物から数万円単位の家具や家電までと幅広い。
まあだいたい数百円から数千円の価格帯がメインだな。
ジーンズなどは1000円をきるモノもちらほら。
うまく利用すれば経済的にも大助かりだ。
・・・そう。俺は常連だ。
今日はなんか変わったモノでも売ってないかな・・・・・。
・・・・・んん!?
なんだ?めずらしいぞ、着物のバアさんが店だしてるぜ。
ちょっと覗いてみるか。
セイ   「コンチワ。めずらしいねぇ、お婆さんが一人で店だしてるなんてさ。
      ここは何を売ってんの?」
謎の老婆 「いらっしゃいませ」
うおっ、なんかミステリアスな・・・奇妙な婆さんだな・・・。
しかしなんかアジのある声だな。
なんとなくとても歌が上手そうな気がするぞ。
商品も・・・なんかよくわからんモノが並んでるぜ・・・。
こっちもミステリアスだな。
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「えっと、なになに・・・。
      これは・・・『消える鉛筆』?」
謎の老婆 「お買いあげですか?」
セイ   「なあ、この『消える』って、何が消えるんだ?」
謎の老婆 「それは、お買いになった方だけがわかるのでございます」
セイ   「おー、商売上手だな。でも値段書いてねーけど、いくらなんだ?」
謎の老婆 「1円で御座います」
セイ   「激安だな・・・。よし、試しに買ってやるよ」
謎の老婆 「お買いあげ、ありが と」
ムカッ!
なんだ、最後のあの表情は・・・。
なんか異様にムカつくんですけど・・・。
セイ   「よし、早速試し書きしてみるかな。
      丁度良いところに用済みになって捨てられてる値札があるし、
      この裏に何か書いてみよう」
サラサラっと。
・・・・・。
とりあえず適当に書いてみたが・・・なにも起こらないじゃねーか。
いたって普通の鉛筆だ。
セイ   「おい、バアさん。なんだよコレ、なにも消えないじゃねーか」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「チッ、騙されたか・・・あっ!?」
手が滑って鉛筆を取り落とした。
鉛筆は逆さになって真下にあった値札のうえ、俺の試し書きの場所に落ちた。
俺は鉛筆を拾った・・・その時!
鉛筆のお尻に取り付けられたゴム状の飾りが試し書きした所をこすった。
するとどうだろう、なんと俺の書いた文字の、
ゴムが擦れた部分だけ消えているではないか!
セイ   「!?」
俺は不審に思いゴムで他の字も擦ってみた。
するとみるみるうちに試し書きは消えて、元の白い紙に戻ってしまったのだ。
セイ   「字が・・・消えた・・・・・。
      そうか!この鉛筆は、
      書いたものを後ろのゴムで擦ることによって消せる鉛筆だったんだ!」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「お婆さん、この鉛筆スゴイよ!ほ、他にももっとスゴイものあるのか!?」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「・・・・・なになに、コレは・・・『紫の鏡』?なんだコレ?」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「なあ、この鏡はどんな効果があるんだ?」
謎の老婆 「それは、お買いになったお客様だけがわかるので御座います」
セイ   「ふふーん、なるほどね。で、いくらなんだ?」
謎の老婆 「10円で御座います」
セイ   「安いな、マジかよ。よし買った」
謎の老婆 「お買い上げ、ありが と」
ムカッ!
・・・最後のお礼はどうにかならんのか・・・・・。
セイ   「お?これは飲み物か?見たこと無いけど・・・」
謎の老婆 「当店名物『ひばり汁』でございます」
セイ   「『ひばり汁』?何が入ってるんだ??」
謎の老婆 「ひばりの秘密がいっぱい詰まった小瓶でございます」
セイ   「え〜と、品名:ひばり汁(濃縮還元)
      原材料名:ひばりの秘密、養命酒、青汁、赤い林檎、香料、酸化防止剤、
      タウリン、カルシウム、ビタミンG、鉄分
      内容量:1050ml
      品質保持期限:3000年4月1日
      保存方法:適当(100℃以下)
      製造者:東京ひばりちゃん千葉工場
          千葉県加藤市和江町美空1−15−102−1826−22222
      栄養成分表:(100ml当たり)当社分析値
      エネルギー タンパク質 脂質   糖質   ナトリウム
      20kcal    0.1g   0.0g  0.1g  2000ml」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「なんかアヤシイ」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「ひばりって誰?」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「まあいいや。で、いくらなの?」
謎の老婆 「100円でございます」
セイ   「・・・何かの記念に買っておくか」
謎の老婆 「お買い上げ、ありが と」
ムカッ!
ちくしょー、ムカつくぜ。
買うのヤメようかな・・・。
セイ   「他にも見せてもらうぜ。・・・『見透かす水晶』?なんだこれ?」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「なあ、バアさん、コレはどんなスゴイ効果があるんだ?」
謎の老婆 「それは・・・」
セイ   「お買いになった方だけが、わかるので御座います。だろ?」
謎の老婆はニヤリと笑った。
セイ   「わかった。とりあえず買おう。いくらだ?」
謎の老婆 「1000円で御座います」
セイ   「・・・ちょっと高くなってきたな。
      まあいいや。1000円だな」
謎の老婆 「お買い上げ、ありが と」
ムカッ!
いちいち気分悪いぜ・・・。
セイ   「もう一つくらいなにか買おうか・・・。
      んん?なんだこりゃ??『生きてる鳴戸』?どういう意味だよ」
謎の老婆 「『生きてる』という意味でございます」
セイ   「具体的には?」
謎の老婆 「それは、お買いになった・・・」
なると  「にゅう〜」
ナルトが気味悪くうねりだした・・・。
セイ   「・・・・・」
謎の老婆 「・・・・・」
セイ   「・・・・・いくらで売るつもりだ?」
謎の老婆 「10000円で御座います」
セイ   「いらん。キショい。じゃあな」
謎の老婆 「チッ」
ムカッ。
舌打ちするか、普通・・・。
とりあえずいくつか変なモノを買ったし、他へ行ってみようぜ。
・・・・・。
んんんんんっ!?
オイオイ、あそこで店出してるのってウチの学校の英語教師、井上孝子じゃねーか!
なにやってんだよあの人は!?
とりあえず行ってみようぜ。
よくみてみるとレディース物の衣料品がたくさん並べられてるぜ。
セイ   「なにやってんの、先生」
井上   「いらっしゃ・・・え?あ、阿部君!?」
セイ   「セイの方っスよ」
井上   「きゃー!ど、どーしてこんなトコロへ!?」
セイ   「そりゃコッチのセリフ・・・」
井上   「あうあう・・・」
セイ   「金にでも困ってるとか?」
井上   「そんなコトはないんだケド・・・」
セイ   「ずいぶんたくさん服持ってるんだな」
井上   「あははははははは、私買い物が趣味だから」
セイ   「へえ・・・。いろんな種類の服があるな・・・」
なんとなくそこら辺にある服を手に取ってみた・・・。
んん?よくみるとサイズがバラバラだぞ!?
セイ   「なあ、全部サイズ違うけど、これってアンタのじゃないのか?」
井上   「あはははは・・・ははは・・・はは・・・・・。
      私、衝動買いよくするんだケド、
      欲しいと思ったらサイズも確かめずにとりあえず買っちゃうの・・・。
      だから、いざ着ようと思ったら、
      サイズが違ってた服がこんなに溜まっちゃってて・・・」
セイ   「それで、処分しようと店をだしていると・・・」
井上   「・・・そう」
セイ   「バッカでー」
井上   「うるさーい!」
セイ   「しかし、それじゃ全部新品かよ」
井上   「うん」
セイ   「へえー、それじゃ売れまくりだろ」
井上   「・・・それが、何故かさっきからお客さんが全然来てくれないの」
セイ   「なんでまた?」
井上   「さあ・・・」
セイ   「ふむ・・・」
井上   「ふえーん」
これだけの良い品をそろえてて客足が遠いってのもおかしいな・・・。
井上   「ぐす、・・・なんでだろう?」
セイ   「・・・なあ、そういえば値札は?」
井上   「・・・・・わすれた」
セイ   「・・・・・」
井上   「・・・・・」
セイ   「あのなあ、こういうトコロで物を売るにはまず、
      商品をきれいに整理して買う人の目を引くレイアウトにする。
      値札を忘れずに付けることも大切だ。相場の目安になるからな」
井上   「そ、そうだね・・・」
セイ   「それから、ただ商品をズラッと並べてお客が来るのを待っているだけでは、
      いくら良い物を用意していても人は寄ってこないぜ。
      はずかしがらずに声を出して、『商人根性』で押しまくるんだ。
      さらに儲け優先じゃダメだぞ。
      お客とのコミュニケーションを楽しむつもりくらいで丁度良いんだ」
井上   「・・・へえー。阿部くんって詳しいんだね。すごい」
セイ   「常連だからな。お客側だが」
井上   「うん、やってみる!」
よし、これで少しは売れるだろう。
・・・そうだ、こういうのは先客がいた方が他の客も寄りつきやすいんだ。
いっちょサクラになってやろうか。
ついでに伊吹に土産買ってやろう。
あいつももう少しオシャレに目覚めるべきなんだ。
セイ   「よし、まずは俺がひとつ買ってやるぜ」
井上   「本当?阿部くんって女装趣味なんだね」
セイ   「プレゼントだよ・・・」
井上   「そっかー。それで、どれにする?」
セイ   「本当に新品なんだろうな?」
井上   「失礼な。全部正真正銘の新品よ」
セイ   「おおーっ!マジか!?この店全部新品かよ!?しかもこの値段で??」
ふふふ、ちょっとでかいリアクションだったかもしれんが、
周りの女性客の視線が注がれはじめたぜ。
徐々に人が集まって来たな。
セイ   「おっ、これなんか似合うカモ」
左肩を完全に露出し、右肩のみリボンで結ぶタイプの白いトップス。
流行りのワンショルダーか。
そういえば、かの『大巨人』アンドレ・ザ・ジャイアントもこんな感じの・・・、
ぜんぜん違うな・・・。
少なくともこんなふうにフリルはついてはいなかった。
肩見せでセクシーさを強調しつつ、胸元の控えめなフリルとリボンでラブリーを演出する。
アイツには意外にこういうセクシーな服が似合うんじゃねーかな。
ちょうどサイズもLだし。
たぶん着れるだろう。
あとはコレに合わせてスカートでも・・・。
伊吹は一着もスカートを持っていないらしいからな。
よし、この中心にスリットの入ったデニムスカートにしよう。
セイ   「それじゃコレもらおうかな。いくらだ?」
井上   「えっと、2000円ね」
早速値切り交渉だ。
セイ   「まけてーな」
井上   「えー、しょおがないなぁ。それじゃ1800円」
セイ   「高いって、500円くらいが相場だろ」
井上   「そんなに安くできるワケないでしょ!じゃあ1500円」
セイ   「まだまだ高いな・・・700円でどうだ?」
井上   「ううー、1200円・・・」
セイ   「もう一声!1000円で行こう!」
井上   「う゛う゛〜・・・じゃ、じゃあ1000円でいいよ。
      いろいろアドバイスしてくれたし・・・」
セイ   「よぉし!んじゃコレと2つで2000円な」
井上   「ええーっ!?」
セイ   「ハイ、代金」
井上   「ふえ〜ん」
セイ   「そんじゃ、ま、頑張って売りさばいてくれよ。
      他の客も集まってきたみたいだしな。
      じゃ〜な〜」
井上   「うう〜・・・バイバイ・・・・・」
さて、これで先生の店も軌道に乗ったし、伊吹に土産も買ったし、
そろそろ本題に入りますかね。
ちょっとヤバそうなヤツらが集う隅っこの区画に向かうぜ。
なにか情報を仕入れることができるだろう。

活気はあるが陰気な場所。
それが周りから隔絶された角の区画に配置されるヤバめの露店だ。
木々が太陽を遮って昼でも暗い、
他の場所とは異なる陰湿な空気が充満するこのあたりには、
真っ当じゃない商品をあつかった店が並んでいる。
寄りつく客も人相悪いのばっかりだ。
更に奥へと進んでいくともっともヤバイ、クスリを扱う店があった。
ここで聞いてみるか・・・。
もしかしたらいきなり噂のクスリが手に入るかもしれねーぜ。
セイ   「よー、どうだい景気は?」
売人   「なんの用だ?」
セイ   「けー、客に対する態度じゃねーな」
売人   「ふん、ここでは愛想をふりまいて売るような物はねーからな。
      欲しいヤツはほっといても寄ってくる」
セイ   「いろいろ用意してるらしいじゃん」
売人   「誰の紹介だ?」
そうだな・・・こういう時に使えそうな名前っていったら・・・・・。
セイ   「小川さんだよ」
売人   「・・・あの人はやらんはずだが」
セイ   「へっ、あの人を甘く見るなよ。
      自分じゃやらなくても情報くらい握ってるもんさ」
売人   「・・・なるほど」
ふぅ、どうやら納得してくれたようだな。
売人   「それで、今日は何が欲しいんだ?」
セイ   「ああ、最近新しいヤツが新宿で出回ってるだろ?アレなんだけどさ」
売人   「・・・・・『スレイブ』か」
セイ   「そうそう」
売人   「残念だったな。『スレイブ』はウチじゃ扱ってねーんだ」
セイ   「マジ?」
売人   「アレは出所が知れねークスリなんだ。
      他のみたいに普通に流通してるモノじゃないらしい」
セイ   「じゃあ、新宿の奴らは一体どうやって手に入れてるんだ?」
売人   「さあな。噂じゃ誰かが『BAD ASS』に流してるって聞いたが・・・」
セイ   「え?」
売人   「つまり、『スレイブ』については『BAD ASS』の小川に訊くのが、
      一番手っ取り早いって事さ」
セイ   「あ・・・あははは・・・・・」
売人   「ところで、オメー・・・。
      確か小川さんの紹介で来たって行ってたよなあ?」
セイ   「お、大川さんって言わなかったっけ?」
売人   「さっさと消えろ!ウチは信用できないヤツは相手にしねーんだ」
セイ   「おじゃましましたー!」
売人   「こちとらガキの悪ふざけじゃねーんだ。とんだ冷やかしだぜ・・・」
俺はオリンピック・スプリンターもビックリなくらいの好スタートをきって、
全力疾走で闇区画を駆け抜けた。

セイ   「はあはあはあ・・・・・あー、ヤバかった〜・・・・・」
とりあえず普通のフリマ会場まで戻って息を整える。
太陽の光が燦々(さんさん)と降り注ぐ健全な場所だ。
どうやら追ってきたりはしてねーみたいだな。
ふー・・・冷や汗モンだったぜ・・・。
次からはもっと慎重に動かねーとな。
だが、とりあえず情報は仕入れたな。
どうやら『スレイブ』は通常のクスリじゃないらしい。
出所は不明・・・。
かなりヤバめだな。
あとは想像だが、流通させてるのは『BAD ASS』か・・・・・。
そういや昨日のジャンキー野郎もクスリやってたよな。
アレは・・・たしか最近流行ってるって聞いたことがある『SSD』だったよな・・・。
・・・とりあえず参考にでももらっとけばよかったかな。
まあいい。
一応集められる情報は集めたんだ。一旦家に帰ろうか。
早く伊吹の驚く顔が見たいしな。
くふくふくふ、アイツどんな顔して受け取るかな。

俺は原宿駅に向かって歩き出した。
しかし今日は良い天気だ。
こんな日はブレードで車道を滑走したい気分だな。
帰ったら公園にでも行ってみるか。
もし警察が引き上げてたらヒサシや縄田もいるかもしれねーしな。
さ、もうすぐ原宿駅に到着だ。
・・・・・んん?
なんだ前方の迷彩軍団は・・・・・。
・・・どっかで見たことがあるような・・・・・。
・・・・・あーあ、『BAD ASS』の兵隊共だ。
まったく、こんなトコロで何してやがんだ。
駅の前でたむろするなんざ地域住民のいい迷惑だぜ。
大声で携帯で話てるバカ者もいるな。
一緒にいる奴等と話しゃいいじゃねーか。なあ?
・・・・・。
そうだ、もしかしたらあいつら『スレイブ』持ってるかもしれねーな。
これはひょっとしたらチャンスじゃねーのか?
五人・・・か。
・・・よし。
ちょこっと痛い目みてもらって、『スレイブ』をわけてもらおう。
おあつらえむきに向こうも俺に気付いたみたいだな。
『BAD ASS』のザコどもが睨み付けてるぜ。
セイ   「あれあれぇ〜?もしかしてキミタチ『BAD ASS』?」
B兵隊  「やっぱりテメーか。こんなトコで何してんだよ?」
セイ   「お買い物〜。テメー等は何してんだよ?」
B兵隊  「テメーにゃカンケーねーだろ」
セイ   「はは〜ん、キミタチ暇人してたんだね〜?」
B兵隊  「なんだと!」
セイ   「哀しいねぇ、いい若いモンが、土曜の朝っぱらからさ〜」
B兵隊  「テメー、ケンカ売ってんのか!」
セイ   「まあまて。先に聞いておく。テメー等『スレイブ』って知ってる?」
B兵隊  「なんだよ、お前『スレイブ』が欲しいのか?」
セイ   「まーね。最近流行ってるらしいじゃん」
B兵隊  「もう渋谷まで噂が流れてんのか」
セイ   「そう。噂によると『BAD ASS』が仕切ってるんだろ?」
B兵隊  「詳しいじゃねーか。確かにアレはウチだけが手に入れられるんだ」
セイ   「・・・どっから流れてきてんだ?」
B兵隊  「さーな。俺らはサバくだけだから、そんなこたあ知らねーよ」
セイ   「そうか。ま、そうだろうな」
B兵隊  「ずいぶん興味あるようだな」
セイ   「そりゃあね。だってアレってすっげートベるって聞いたぜ?」
B兵隊  「ああ。脳が溶けるほどブッ飛べるからな」
セイ   「なあ、ひとつくれよ」
B兵隊  「・・・いいが、高いぜ?」
セイ   「いくらだ?」
B兵隊  「そうだなぁ・・・。半殺しで手を打つか!」
セイ   「チッ・・・、やっぱ穏便にゃいかねーか!」
迷彩の五人組がホームベース型に包囲してきたぜ。
やったろーじゃねーか。

 VS『BAD ASS』兵隊s

正面のヤツが突っかかってきた!
ならばと俺は垂直跳びで跳ね上がり、迷彩ヤローの肩に飛び乗る。
両足で相手の頭を挟み込んで一気に上体を後方に反らす!
相手はそのまま前につんのめり、俺はバク転のようにクルッと回転する。
迷彩ヤローは真っ逆様に頭から地面に突っ込みKOだ。
最終的に俺は迷彩ヤローの胸の上に座る形となった。
B兵隊  「フッ、フランケンシュタイナー!?」
セイ   「あと4人」
B兵隊  「テ、テメー!!」
怯みながらも一人の兵隊ヤローが殴りかかってくる。
座った状態の俺はそのまま伸び上がるようにアッパーカットとともに立ち上がる。
拳が的確に相手の顎を捉えたのを確認して、俺は勢いに任せジャンプ!
B兵隊  「タ、タイガーアッパーカット!?」
セイ   「あと3人」
驚く実況ヤローを横目に後ろの兵隊ヤローが襲いかかろうと一歩踏み出した!
俺の着地に合わせて後頭部を殴ろうとしているようだな。
だが、頭を狙ったのが失敗だぜ。
落下中でも首を傾げることくらいできる。
兵隊ヤローのストレートは見事に空振りだ。
俺は空振りで体勢を崩した兵隊ヤローの頭を両腕でしっかりと左肩に固定した。
そのまま尻餅をつくと衝撃が相手の顎から頭部に集中する!
反動に仰け反り、衝撃で後ろに豪快に倒れ込む。
B兵隊  「ス、ストーンコールド・スタナー!?」
セイ   「あと2人」
残るは実況ヤローとその対角線上の迷彩ヤローだけだ。
腰が引けて動けない実況ヤローを残し、迷彩ヤローが蹴りかかってきた!
俺は蹴りをかわし、スライディングを敢行!
そのまま軸足をつかまえすくい上げる。
両足が地面から離れた状態で慌てた迷彩ヤローは
おもわず前方に立ちすくむ実況ヤローの肩を掴み転倒を免れる。
すぐさま俺は迷彩ヤローの残った軸足をとり腰に抱えた。
いわゆる手押し車って状態だ。体育の授業で基礎体力作りにやってたっけな。
迷彩ヤローは俺と実況ヤローの架け橋状態だ。
どうすることもできない状況の迷彩ヤローにとどめをさしてやろう。
両足を抱えた状態で俺は右足を思い切り後ろに振り上げた。
最高に反動をつけてまっすぐ前に蹴り上げる!
無論、迷彩ヤローの無防備な急所に残酷な一撃をかますためだ。
迷彩ヤロー「や、やめやめ、ふぐっ!!」
B兵隊  「あ、あわわわ・・・」
セイ   「一撃必殺ハードコア・キック。これであと1人」
B兵隊  「ご、ゴメンナサイ、許して・・・・・」
セイ   「ねー、おクスリ頂戴?」
B兵隊  「い、いま・・・コレだけしか・・・ないんです・・・本当です!」
セイ   「一個か。まあ一個でも・・・なんだこりゃ?
      ・・・これって『SSD』じゃねーか」
実況ヤローは赤と黒のカプセルを差し出した。
B兵隊  「は、はい・・・」
セイ   「コレ一個しか持ってねーの?」
B兵隊  「す、すいません・・・・・」
セイ   「・・・まあいいか。参考にもらっとこう」
B兵隊  「は、はひ!」
セイ   「なあ、普段はどこに行けば『スレイブ』売ってんの?」
B兵隊  「中央公園の・・・『熊野神社』」
セイ   「なるほどね・・・。で、相場は?」
B兵隊  「1カプセル、5000円・・・」
セイ   「・・・買うのはよそう・・・・・」
あーゆーモンってな最初はタダ同然でくれるんじゃねーのか?
そんでハマったら法外な値段を要求するもんだろ?
最初からそんなに高いんじゃ客なんかつかねーだろうに・・・。
・・・・・それだけ絶対的な効果があるってことか。
セイ   「なあ、そんな値段で売れるほどスゲーのか?」
B兵隊  「は、はい。なんせキメるとブッ飛ぶだけじゃなく、
      筋力が異常に発達して痛みとか完全に感じなくなるし、
      なんか自分の殻を破ったような・・・、
      別の自分になったような感じがするらしいです。
      しかも依存性もないっていう夢のクスリですから・・・」
セイ   「依存性ナシ?マジかよ」
それに筋肉の異常発達・・・。
そういえば昨日のジャンキーも突然筋肉が異常に・・・。
だがアイツがヤってたのはこの『SSD』だったよな・・・。
そういえば、『らしい』ってことは、コイツらはヤってないのか?
セイ   「お前らは『スレイブ』ヤったことねーの?」
B兵隊  「お、小川さんに厳しく止められてますから・・・。
      自分たちがヤルもんじゃねーからって。
      でも、なかには隠れてやってるヤツもいるみたいです・・・」
セイ   「・・・・・例えば、昨日小川にボコられたジャンキー野郎は?」
B兵隊  「あ、アイツはいろんなクスリやってたから・・・。
      多分『スレイブ』もやってたでしょうね・・・」
なるほど。
それじゃ、アレが『スレイブ』の効果かもしれねーってことか・・・。
・・・・・どう考えてもとんでもねーぞ。
いくら自分の殻を破れるからって、あそこまでやぶっちゃイヤだろう。
セイ   「にゃるほどね。参考になったよ」
B兵隊  「そ、それじゃ、助けてください!」
セイ   「んー、どうしよっかなあ〜」
迷彩   「いたぞー!」
その時、駅から一斉に大勢の迷彩集団がなだれ込んできた。
『BAD ASS』軍団のご登場だ!
セイ   「な!?」
10・・・・・20・・・・・30・・・・・オイオイ!?
何人来たんだよ!冗談じゃねーぞ!
B兵隊  「ヘッ、マヌケが!さっき携帯で召集かけといたんだよ!
      さっさとずらからねーからこうなるんだよ!」
セイ   「意外と抜け目ないんだね・・・」
B兵隊  「ザマーミロ!」
セイ   「ヤナヤツ」
ムカツク実況ヤローの鼻面にブーツの爪先をぶち込んでやった!
B兵隊  「ぶぎゃあ〜!!!」
チョン蹴りだ。
セイ   「・・・・・」
迷彩   「囲め!逃がすなよ!」
セイ   「随分来たな〜、『BAD ASS』御一行様ご到着〜」
迷彩   「よくもやってくれたじゃねーか!」
セイ   「だってかかってくるんだもんよー」
迷彩   「覚悟しろよ!次はお前の番だぜ!」
マズいなあ。
さすがに人数多すぎるぞ・・・。
逃げ道もふさがれてるし・・・・・。
・・・・・どうする?
・・・・・。
しかたない。
あの手でいくか・・・。
できればこんな手は使いたくなかったんだが・・・・・。
セイ   「あー!?なんだアレーっ!!!」
迷彩   「・・・・・」
セイ   「・・・・・」
迷彩   「・・・・・」
・・・しまった!ダメだったか!
あらぬ方向を虚しく指さして硬直していると、俺が指さす先から突然!
バキューン!と銃声が響いた!!
『BAD ASS』どもが何事かとざわつきはじめる。
奈緒   「くぅおらぁ〜!クソガキどもーっ!!ぶっ殺すー!!!」
パトカーだ!
奈緒サンを乗せたパトカーがこっちに突っ込んできたぞ!
奈緒   「ちったあアタシを休ませろーッ!!!!」
奈緒サンはパトカーから半身を乗り出し、空に向かって拳銃を乱射している!
目ん玉つながりのお巡りさんじゃないんだから・・・。
白昼堂々、しかもこんな街中で発砲して、どうして問題にならないんだ?
迷彩   「な、なんだなんだ!?警察なのか!?」
セイ   「は、ははは・・・・・」
迷彩   「マジかよ!?本当に撃ってるぞ!殺す気かよ!?」
チャンスだ!
包囲網が崩れたぜ!
奈緒   「キィ〜〜〜〜〜!!!!!」
迷彩   「マズい!あの刑事目がイってるぞ!!」
いま奈緒サンに見つかったらヤバい!
このスキに逃げるぞ!!
迷彩   「シャレにならん!ずらかれー!」
『BAD ASS』も散り散りになって逃げていくぜ!
俺も必死で走って逃亡する!
だって今原宿駅では『BAD ASS』よりコワイおねーさんがキレまくってるんだ。
逃げ遅れたら地獄を見る。
俺はデタラメに走り去った・・・。


セイ   「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ・・・」
死にものぐるいで走った・・・。
どのあたりに来たのかもわからない。
だがとにかく『BAD ASS』も、暴走刑事も追ってきてはいないようだな。
ふぅ、まんまと逃げ切ってやったぜ。
さてと、ここはどこだろうな。
とりあえず現在地の確認といきますかね。
・・・・・辺りをぐるっと見回してみると、病院、シティホテル、駅が見えるな・・・。
俺はちょうど病院の入り口に立っている。
この病院は・・・『JR東京総合病院』か。
とゆーことは、俺はどうやら新宿にいるらしいな・・・。
ヤベ、ここって『BAD ASS』の本拠地じゃねーか。
早いトコずらかった方がよさそうだな・・・。
・・・・・。
いや、それともさっき実況ヤローから聞いた『熊野神社』でも覗いてみようか・・・。
・・・駄目だな、ヤメとこう。
なにも自分から『BAD ASS』に関わる必要はないんだ。
俺が危険を冒してまでクスリを手に入れなきゃならない理由もない。
よし、帰ろう。
そうと決まれば、駅へ・・・あれ?
病院の前にいる人って、ひょっとして小野寺って人じゃねーか?
・・・ってゆーか間違いねーな。
あれだけの人数の黒服が周りを囲んでるんだ。
あんなものものしい一般人はいない。要人ですって宣伝してるようなモンだ。
黒服達に囲まれるようにガードされながら玄関をくぐろうとしているところだ。
しかし見れば見るほどブランド志向の服装だぜ。
高そうなスーツ、高そうな靴、高そうな腕時計・・・ん?
あれ?今日はいつもしてるゴツい高級腕時計がないぞ。
・・・普通あるはずのものが無いのって違和感を感じるんだよな。
それにしても病院に何の用だろーな?
・・・・・よく見ると左腕に包帯が巻かれているようだ。
なるほど、腕の怪我の治療か。
そうか、包帯してるから腕時計はずしてるんだな。
うむ。我ながら完璧な推理だ。天才だな。
小野寺は黒服に促されて病院内に消えていったぜ。
・・・・・。
いつまでも見送っててもしょうがない。
家に帰るぞ。
BADASS 「おっと待ちな!やっとみつけたぜ!」
げげ、さっきの奴らの一部だ。
BADASS 「ちょこまか逃げやがって、覚悟できてんだろーな!」
とりあえず10人か・・・・・めんどくせーな。
あの手でいくか。
セイ   「あー、あれはまさかー!」
BADASS 「何度も同じ手にひっかかるか!」
一人が鉄パイプを振り上げた!
 ゴンッ。
BADASS 「え?」
セイ   「あ」
振り上げた鉄パイプの先が、たまたま通行中だったストンコおじさんの頭を直撃した。
ストンコ 「WHAT!?」
BADASS 「げっ・・・・・」
ストンコおじさんとは、この界隈で有名な荒くれ者のおじさんだ。
スキンヘッドにジーパン、上半身は黒の皮ベストのみを身につけた
『ガラガラ蛇』の異名をもつ泣く子も黙る石のように冷たい表情のおじさんだ。
普段は危害を加えなければ何もされないが、いったん怒らせると手がつけられない。
ヒューマノイド・タイフーンだ。
日本語はほとんど喋れないらしい。
ストンコ 「WHAT!?」
BADASS 「あ・・・いや・・・・・」
ストンコおじさんの額にはクッキリと青筋が浮かんでいる。
ストンコ 「WHAT!?」
BADASS 「その・・・」
ストンコ 「WHAT!?WHAT!?WHAT!?」
BADASS 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
いきなりBADASSの兵隊をぶん殴ると、
ラドルスネークと呼ばれる、穴が開くほど執拗なストンピング。
周りにいた残りの奴らもひと睨みして飛びかかる。
次々になぎ倒していき、いよいよ最後の一人に・・・・・
ストーンコールド・スタナー!!!!!
ストンコおじさんはあっという間にBADASSの奴らを全員たたきのめした。
ストンコおじさんは一息つくと、中指を突き立てながら悠然と立ち去った。
もちろん俺はすぐさま隠れていたから平気だ。
あぶなく巻き添えくうところだったぜ・・・。
歩く自然災害が過ぎ去ったところで、新宿駅はすぐそこだ。
他の『BAD ASS』の兵隊どもが張ってなきゃいいがな。

どうやらそれは取り越し苦労だったようだ。
『BAD ASS』の兵隊共は皆原宿へ急行した後なのだろう。
新宿駅に迷彩のガラ悪いにーちゃんは見当たらないぜ。
これはラッキーだな。
きっと日頃の行いが良いからだな。
・・・ってことは、今この新宿には『BAD ASS』はいない?
それなら調べるには最適ってコトか?
・・・・・チャンスだな。
『熊野神社』を見に行こうぜ!

俺はコソコソと新宿中央公園にやってきた。
こんなふうにコソコソしてると『BAD ASS』に見つからなくても、
一般ピーポーに不審人物として通報されるかもしれねーな。
隠れながら周囲を確認する・・・。
・・・・・。
よし、やっぱり予想通り『BAD ASS』らしき人影は無いぜ。
チャンスだ!
公園の奥深くに侵入しよう。

しばらく彷徨ってほぼ公園の裏側まで来たところでどうにか『熊野神社』を発見した。
セイ   「へぇー、ここが『熊野神社』ね・・・」
ずいぶん寂れてやがる・・・。
・・・お?近くの木に字が掘ってあるようだぞ。
なになに・・・「『SLAVE』有り。裏へ・・・」だと?
そうかそうか、神社の裏で営業してるってコトだな。
よし、裏に回ってみよう。

・・・・・とりあえず裏に回ってみたが・・・。
別になにもないんだが・・・・・。
ちょっと調べてみるか。
ここは神社の裏側の壁以外なにもない・・・。
ってことは、調べるとしたら・・・・・壁。
壁を調べるときの基本、テレビとかで見たことあるだろ?
壁をコンコンと叩いてまわる。
すると一カ所だけ音が違う場所が・・・・・あ、マジであった。
よく目を凝らしてみると、そこだけ切り抜かれたような線が見えるぞ。
・・・ドラマなんかじゃこういうトコが隠し扉に・・・・・。
現実でもなってやがった!
開いたぞ!
マジで隠し扉だ!
俺って天才探偵かも!
中を覗いてみようぜ。
そこは暗い部屋だった。
入り口付近に電気のスイッチらしきモノがあったのでスイッチを入れてみる。
すると予想通り部屋は明るく照らされた。
内部には人影はなく静まり返っている・・・。
どうやらここで密売してるに違いないな。
でもなんで誰もいねーんだ?
・・・・・。
もしかして、売人まで原宿駅に急行してたってことか?
・・・・・そうだな、本拠地の中央公園がこれだけ蛻(もぬけ)のカラなんだ。
ここの奴等も出動中なんだ。
・・・・・。
・・・奴等、めちゃめちゃ目くじら立ててやがる・・・。
思いっきり本気で俺を目の敵にしてるようだな。
イヤだねぇ・・・・・。
それにしても不用心だ。
これじゃあいつ何時警察が潜入してくるかわからねーぞ。
・・・どういうことだろうな・・・。
アイツら、まるで警察にバレてもまるで問題じゃないような商売のしかたしてるぜ。
・・・・・。
いつ警察が踏み込んできても問題無いってコトか?
・・・まあ、アイツらがどう考えてても俺には関係ないがな。
さて、サンプルにクスリをかっぱらおうかな・・・。
しばらく棚や引き出しを調べて回るとアッサリとクスリを発見した。
そこにあったクスリは赤と黒のカプセル・・・・・。
・・・しかねーぞ。
どこを見回してもあるのは『SSD』ばっかりだ。
『スレイブ』なんてどこにもねーじゃねーか!
どういうことだよ・・・。
・・・・・。
いくら探しても出てくるのは赤と黒のカプセルだけだ。
しょうがねーか。
コレをいくつか掻っ払って、早いトコ退散しよう。
いつ帰ってくるかわからねーからな、長居は無用だ。
さっさと帰ろう。
俺が来た形跡は何も残さないようにしないとな。
電気を消して、隠し扉をしっかり締めて・・・と。
これでよし。
・・・そうか、普段は中に人がいて、外に客が来たら出迎えるんだろうな。
だから客はわざわざ隠し扉を発見する必要はないってコトか・・・。
!!
セイ   「・・・・・」
・・・気のせいか。
なんか視線を感じたような気がしたが・・・・・。
・・・・・。
もしかしたら『BAD ASS』の奴等が戻ってきたのかもしれねーな。
厄介なコトになる前にずらかろうぜ。
とりあえず小走りで新宿駅へ向かうぞ。

新宿駅に到着だ。
どうやらまだ『BAD ASS』の奴等は戻ってねーみたいだな。
おそらくキレまくった奈緒サンに追い回されて散り散りに逃走したんだろう。
今頃はどうにか難を逃れて仲間同士合流してるくらいだろう。
それなら遠慮は無用だ。
どうどうと電車を使って帰還しよう。


無事に家までたどり着いたぜ。
セイ   「ただいまぁ」
可憐な少女「おかえりなさいませ」
セイ   「!?」
ななななななんだ!?
玄関をくぐると目の前にはエプロン姿の可憐な美少女がいる。
しかも笑顔であたたかく出迎えてくれている。
これはいったいどういう展開だ?
冷静になれ、セイ!
そうだ、冷静になって考えるんだ。
可憐な少女「?」
まず現状を正確に把握することが大切だ。
まずこの可憐な美少女を俺は知っているか?
・・・答えはNOだ。
よし、次は俺は誰だったか・・・そう、間違いなく俺は阿部セイだ。
そして阿部セイは目の前の美少女と面識はない。
だが目の前にいる。
そうだ、彼女がここに居るということは、ここはどこだ?
家だ!
誰の?
俺の家だ!
だが俺の家に可憐な美少女はいたか?
答えはNOだ!
つまり、ここは俺の家ではない!!
まちがえた〜!!!
セイ   「すまない、どうやら俺は帰る家を間違えたようだ」
可憐な少女「はい?」
セイ   「騒がせたな、失礼するよ」
可憐な少女「あ、あの・・・」
目いっぱいの平常心を装って家を出る。
玄関の門をくぐりふり返る。
・・・・・。
目を細めてじっと建物を見つめる。
見覚えのある家だ。
ってゆーか間違いなく俺の家だ。
建売分譲住宅じゃあるましい、そうそう同じ家があってたまるか。
そうだ、きっと今のは白昼夢か何かだ!
もう一度玄関を開けるとそこには無愛想なおふくろや伊吹がいるに違いない!
よし、思い切ってもう一度入ってみよう!
意を決して戸を開ける。
可憐な少女「あ・・・」
茫然自失で戸を閉める。
俺は頭がおかしくなっちまったのか・・・。
どうあがいても家に可憐な美少女がいるような気がする・・・。
まてよ、もしかして俺には妹がいたんじゃないか?
そうだ!俺には妹がいたんだ!
どうして忘れていたんだろう!
妹が家に居て、俺を笑顔で迎えてくれるのは至極当然の事じゃないか!
はっはっは、俺は何を戸惑っていたんだ。
そうだそうだ、俺には可愛い妹が、最愛の妹が・・・・・。
・・・・・・・・・・。
いるわけねーじゃん!!!!!
勢いよく戸を引き開ける!
セイ   「誰だテメー!?」
可憐な少女「ひッ!」
大きな目を見開いてビックリしている。
ヤベー、かなり驚かせちまったようだ。
可憐な少女「わ、わたし・・・」
マズい!こぼれ落ちそうな瞳に涙が滲んできた!
セイ   「イヤ、あ、あのね、キ、キミだあれ?ここ、キミんちじゃないよねぇ?
      迷子かなぁ?ここ、ボクんちだからさ。あの、その、アメ食べる?」
満恵   「セイさん、何をやっているのです。帰ったのならはやくお入りなさい」
セイ   「・・・・・」
おふくろだ。
やっぱりここは俺んちだったんだ。
いつもの事だが超冷静だ。
セイ   「イヤ・・・、それが・・・」
満恵   「ああ。桧浦(ヒウラ)さんですか」
セイ   「ヒウラさん?」
満恵   「二人とも応接間へいらっしゃい。
      全員揃いましたし、ちゃんと紹介しておきましょう」
可憐な少女「は、はい」
可憐な美少女はおふくろに促されて応接間に入っていく。
セイ   「な、なんだ・・・?」
ワケが分からずオフクロについて応接間に入る。
部屋にはすでにメイと伊吹が待っていた。
先に帰っていたようだな。
メイ   「あ、おかえり、セイ」
セイ   「あ、ああ・・・」
伊吹   「遅かったな」
セイ   「あ、ああ。それよりさ・・・」
伊吹   「みなまで言うな。私達もなにがなんだかわからない。
      これから説明してもらえるだろう」
セイ   「そ、そうか・・・」
とりあえず空いているソファに腰掛ける。
可憐な美少女はオフクロの横にちょこんと立っている。
とにかく説明とやらをしてもらおうじゃないか。
セイ   「・・・とにかく、早いトコ納得のいく説明をしてもらおうか」
満恵   「いいでしょう。ではよく聞くのですよ」
メイ   「はい」
満恵   「彼女は、今日から一緒に生活する事になりました」
メイ   「ええ!?」
伊吹   「なっ!?
セイ   「マジ!?」
満恵   「・・・・・ご静聴ありがとうございました」
セイ   「ちょっとまておーいッ!」
メイ   「説明を省かないでください!」
満恵   「まだ何か?」
セイ   「まだぜんっぜん説明不足だろうが!」
伊吹   「もう少し詳しくご説明願いたい」
満恵   「そうですか。しかたありませんね」
メイ   「まず名前から教えてください」
満恵   「こちらは桧浦 麗夢(ヒウラ レム)さん。
      こっちは向かって右から清さん、相楽伊吹さん、明さんです」
レム   「はじめまして、桧浦麗夢です。よろしくおねがいします」
メイ   「はじめまして、桧浦さん」
伊吹   「どうも、相楽伊吹です」
セイ   「よろしくー。へぇーレムちゃんって言うんだー。イイ名前だね」
レム   「そ、そうでしょうか?どうも・・・」
朱雀   「ちょっとちょっと!ワタクシを忘れないでいただきたいでございます!」
満恵   「おや、いらしたんですか。この鳥は朱雀といいます」
レム   「と、鳥が喋ってる・・・」
朱雀   「鳥とはなんですか!失礼ですね!ワタクシは霊鳥の中でも最も・・・」
セイ   「バカで、霊長類最低の名をほしいままにするバカ鳥ですよ」
朱雀   「違いますー!!!」
レム   「はぁ、バカなんですか」
セイ   「そう。バカなんです」
朱雀   「バカじゃありませんっ!!」
セイ   「バカだよなあ?」
伊吹   「うむ、バカだな」
セイ   「ほら」
朱雀   「バカはアナタです!」
セイ   「お前だ、バカ!」
朱雀   「バカって言うヤツがバカです!」
レム   「あのぉ・・・、いったいどっちがバカなんですか?」
伊吹   「どっちもだ」
レム   「そうなんですか」
セイ&朱雀「ちがーう!!」
満恵   「彼女は今日からうちのメイドさんとして、住み込みで働くことになりました。
      仲良くしてあげてください」
レム   「よろしくお願いします!」
セイ   「メ、メイドさんだとォ!マジッスか!?」
メイドってことは、ご主人様の要求ならどんなことでも甘んじてのむという、あの・・・。
伊吹   「何を興奮している変質者。不埒な真似は私が見逃さんからな」
セイ   「そ、そんなことしねーよ」
朱雀   「どうだか。変質者ですからねぇ」
セイ   「黙れバカ鳥」
朱雀   「変質者」
レム   「あ、あの、この方は変質者なんですか?」
伊吹   「そのとうりだ。だからお主も気を付けるのだぞ」
レム   「はい。わかりました。がんばります!」
セイ   「信じるなー!」
メイ   「桧浦さん、冗談だから本気にしちゃ駄目だよ」
レム   「あ、冗談だったんですかぁ。よかった、安心しました・・・」
・・・まったく、冗談じゃねーぞ。
イキナリ変質者扱いされるところだったぜ。
この子の前じゃウッカリ変な事言えなーな・・・。
純粋というかなんというか、疑うってことを知らないのか?
メイ   「でも、どうして急に・・・」
満恵   「以前主人が担当した事件でご両親を亡くされて、
      しばらく父方の祖父母の家で暮らしていたそうですが、
      今期から渋谷高校に通うことになり、
      この近所で部屋を探しているという話を人伝に聞いたものですから・・・。
      どうもこれから忙しくなりそうですし、ちょうどよい機会だと思いまして、
      桧浦さんに来てもらうことにしたのです。
      桧浦さんがご両親を亡くされたのも、主人がいたらなかったからですし、
      我々が彼女にできることを考えると、このくらいのことしかありませんから。
      それに、私も家を空ける事が多くなりそうですしね・・・」
伊吹   「なるほど、そういういきさつが・・・」
セイ   「ん?って事は、俺らの後輩か?」
メイ   「あ、そうだね。渋谷高校」
レム   「はい。よろしくお願いします、センパイ」
おお!イイ響きだ!センパイかぁ〜。
満恵   「ただ居候させるのは彼女に気兼ねさせる事になるので、
      名目上メイドとして来てもらったのです」
メイ   「そうなんですか、それじゃあ家事とかをするわけじゃあ・・・」
満恵   「手伝ってもらうつもりです」
レム   「がんばります」
メイ   「あ、そうなんですか」
満恵   「これで、だいたいわかりましたか?」
セイ   「まあ、そうだな。事情も状況もわかった、かな」
とにかく、新しい家族が増えたって事だろ。
満恵   「それではわからないことがあったらいつでも誰にでも訊いてくださいね」
レム   「はい、奥様」
満恵   「それでは、次の議題に移りましょう。
      明さん、代々木での経過を報告して下さい」
メイ   「はい。・・・あ、でも彼女が・・・」
満恵   「桧浦さんなら聞いていても大丈夫です。うちの事は大体説明済みですから」
レム   「はい!」
なるほど、メイのヤツも考えてるじゃねーか。
部外者に聞かせるような話じゃねーもんな。
ただ惚けてるワケじゃないってコトだな。関心カンシン。
メイ   「そうですか。では報告します。
      まず最初に代々木にとり憑いていた妖は鬼将(キショウ)という妖鬼でした」
セイ   「鬼かよ。そりゃまた古風な・・・」
メイ   「この鬼将の発言によると、どうやら妖は組織だって行動しているようです。
      鬼将は自らのことを、あの御方より妖地上実行部隊を任される者と
      名乗っておりました。あの御方というのは推測ですが・・・」
伊吹   「代々木が語ってくれた『妖王』ではないかと」
満恵   「ふむ、『妖王』とは?」
伊吹   「東京の地下古墳に封印されていた古の妖魔です。
      その妖力で空間に『歪み』を作りだし、
      そこを妖の棲まう異次元と同調させこの世に呼び出そうとしていたのです」
満恵   「『歪み』ですか・・・」
なんか、話のスケールがでかくなってきたぞ・・・。
伊吹   「現在代々木がその霊力により『妖王』の妨げをしています。
      よって今は『歪み』が安定することはありません。
      つまり、『歪み』はその機能を果たせない状況となっています」
満恵   「なるほど・・・。つまり鬼が代々木にとり憑き霊力を封じ込め、
      東京全土の霊的結界を弱体化させつつ、
      『妖王』の『歪み』を維持することが妖達の目的だったと・・・」
メイ   「はい」
満恵   「そして妖達はその『歪み』を通ってこの世に出現してきているのですね」
メイ   「そうです。・・・それと、鬼将は逃亡しました」
セイ   「なんだよ、倒せなかったのか?ダッセ〜」
伊吹   「想像以上の強敵だったんだぞ」
セイ   「つっても『妖王』ってのの部下なんだろ?
      それじゃボスはもっと強いんだぜ。部下に苦戦してちゃマズいだろ」
満恵   「そういえば、どうしてセイさんは二人と共に行動していないのです?」
伊吹   「そうだ。お前もいたら倒せたかもしれんだろうが」
うぐっ、そう言われるとなんとも言えんのだが・・・。
セイ   「俺は俺で調べものしてたんだよ」
メイ   「そういえばセイの方は何か情報集まった?」
セイ   「まーね。『SLAVE』はカナリ特殊なクスリだって事がわかったぜ」
そう。
流通経路の末端だけでも掴めたんだ。
十分な収穫だぜ。
満恵   「『スレイブ』?」
メイ   「原宿駅で出会った刑事さんから聞かされたクスリの事です」
満恵   「そんな事があったんですか。
      それは代々木の事件と関連があるのですか?」
セイ   「別にねーけどよ。そういえばさっき『BAD ASS』のヤツから徴収した
      ・・・・・あった。
      『SSD』ってクスリだけど、参考までにもらっといたんだ」
とりあえず赤と黒のカプセルを披露しテーブルに置いた。
メイ   「・・・これは『スレイブ』じゃないの?」
セイ   「ああ。だが『スレイブ』も『SSD』も、流してるトコは一緒なんだよ。
      だから見分ける参考くらいにはなるんじゃねーかな。
      ま、肝心の『スレイブ』のサンプルが無いがな」
伊吹   「だが、それを流している者共を追えば『スレイブ』に行き着く・・・か」
セイ   「そーゆーコト」
満恵   「話が見えませんが・・・」
セイ   「ま、これは俺が個人的に刑事から頼まれた事だし、
      オフクロが気にするたぐいの話じゃねーよ」
満恵   「そうですか。わかりました」
セイ   「そーいや帰りに小野寺って人見かけたぞ」
メイ   「え、本当?」
セイ   「ああ。なんかたいそうな人数の黒服に警護されて病院に入っていったぞ」
伊吹   「そうか、どうやら妖からは無事逃げることができたらしいな」
逃げる?
なんだ、俺が小野寺を見かける前にメイ達も見かけたのか?
満恵   「小野寺氏がどうかしたのですか?」
メイ   「はい。僕達も帰り際に小野寺さんと会いました」
セイ   「そうなのか?奇遇だな」
メイ   「小野寺さんはどうやら妖に追われていたようでした」
満恵   「ほう?」
メイ   「小野寺さんを追っていた妖は僕と伊吹で倒しました」
朱雀   「ワタシも仲間外れにしないでください!!」
メイ   「・・・朱雀と三人で」
満恵   「そうですか。それはお手柄でした」
レム   「すごいですねー」
メイ   「それから、小野寺さんから重要な新情報をもらいました」
満恵   「それは?」
メイ   「父さんを殺した妖の名です」
セイ   「!?」
満恵   「なんですって!?」
メイ   「『ケツァールカトル』という名の妖です。
      そして小野寺さんの情報では、この妖は今現在生存している、と」
満恵   「・・・なんてこと」
セイ   「マジかよ・・・」
オヤジを殺した張本人がどっかで生きてやがるのかよ!
・・・・・。
それにしても、小野寺はなんだってそんなことを知ってやがる?
それにどうして急にメイ達にその事を話したんだ?
伊吹   「しかも、小野寺氏の話によれば、この『ケツァールカトル』は、
      どうやら前天皇の失踪にも関与しているとのことです」
メイ   「『ケツァールカトル』は先皇を拉致監禁していたそうです。
      父さんは先皇を救出するために奴と戦った・・・」
満恵   「・・・いったい何のために先皇の誘拐など・・・」
メイ   「そこまではわかりません。
      ですが殺害せずに誘拐したとなれば、それなりの理由があるはずです」
満恵   「・・・そうですね」
セイ   「・・・なあ、天皇っていつ代わったんだ?」
伊吹   「バ、馬鹿か!?先月失踪事件で話題になっていただろう!」
セイ   「あ、そーいえば・・・。そうか、あの後天皇代わってたんだぁ」
そういえばそんな事件があったな。
ま、俺は皇室なんかに一切興味がないから気にもしてなかったが・・・。
オヤジを殺した相手と関係があるなら・・・少し気にかけてみようか・・・。
満恵   「現在の天皇陛下が皇位に即位したのは一ヶ月前。
      前天皇が突如謎の失踪をとげ、天皇の弟君が急遽代理として即位しました」
メイ   「それと、今にして思えば、
      この直後から妖による事件が頻発し始めているんです。
      偶然でしょうか・・・」
満恵   「・・・・・それはつまり、この失踪事件が全ての引き金であると?」
メイ   「その可能性が高いのではないかと・・・」
満恵   「・・・・・他には何かありましたか?」
メイ   「そうだ、別れ際に小野寺さんがこれを僕に預けて行かれました」
メイは突然ゴツイ超高級腕時計をテーブルに置いた。
なんだってメイがこんなたいそうなモンを!
反則だ!こんなモンを渡されるなんて反則だ!
満恵   「腕時計・・・ですね」
メイ   「はい」
満恵   「何の目的で?」
メイ   「わかりません」
・・・・・あれ?
そういえば、病院に入っていく小野寺が腕時計してなかったのはこういうことか。
別に包帯が煩わしいからじゃなかったんだな。
伊吹   「そういえば、断片的に不可解な事を言っていたような・・・」
満恵   「不可解な事とは?」
メイ   「はい、この時計が『12:30』を指したら・・・。
      私の部屋がどうとか・・・」
伊吹   「パソコンがどうとか・・・」
メイ   「その番号に電話して時計を返しに来てほしいとか・・・」
セイ   「なんだなんだ、ほんとに断片的でワケわかんねーじゃねーか」
メイ   「しかたないよ。妖が目の前で聞き耳立ててたんだから」
レム   「つまり、こんなふうに暗号のような言い回しをしてでも、
      そのとき伝えておかないといけないお話だったということですね!」
突如口を挟んだレムちゃんに全員驚いて視線を注ぐ。
満恵   「・・・なるほど、確かにそう考えられますね」
セイ   「・・・スルドイな、レムちゃん」
レム   「えへへ」
セイ   「それにしても・・・番号なんてないじゃん。どうすんの?」
メイ   「うん、僕もどうしたらいいのか・・・」
伊吹   「それに、我々は小野寺氏の住所など知らぬ」
メイ   「そうだよね・・・」
満恵   「わかりました。小野寺氏の住所などは私が調べておきましょう」
メイ   「え?できるんですか、そんな事が」
満恵   「私とて阿部家の人間です。
      独自の情報網を使って調査しておきます」
伊吹   「そ、そんなモノがあるのですか」
満恵   「まあ、見ていてください」
メイ   「そ、それではお任せします」
これだからオフクロは油断できねーぜ・・・。
満恵   「そういえば清さん。
      小野寺氏を見かけたとき、たしか病院に入ったと言っていましたね?」
セイ   「あ、ああ・・・」
満恵   「それはどこの病院でしたか?」
セイ   「新宿の・・・JR東京総合病院だったな、たしか」
満恵   「わかりました。貴重な情報ですね。調べてみましょう・・・」
メイ   「報告は以上です」
満恵   「そうですか。ご苦労様でした」
伊吹   「これからどう対処すべきでしょうか?」
満恵   「早速ですが明さんには天皇陛下の所へご報告に上がってもらいましょう。
      国家レベルの協力を仰ぎ、調査をお願いすべきです」
メイ   「かしこまりました。ですが、どの辺りまで報告すれば・・・」
満恵   「代々木の一件と『妖王』の存在、東京の現状についてだけでかまいません。
      小野寺氏の事は省いた方がいいでしょう。
      余計な混乱を招く要素は除外すべきです」
メイ   「わかりました」
満恵   「取り次ぎに支障がないよう手配しておきます」
メイ   「はい」
伊吹   「私も同行させていただきたい」
満恵   「そうですね。そうしてください」
伊吹   「はい」
セイ   「俺は遠慮するぜ。皇居なんてトコ行くのは御免だね」
かたっ苦しい環境は俺の繊細な肌には合わない。
満恵   「でしょうね。まあ好きになさい」
セイ   「・・・ああ。勝手にさせてもらうぜ」
セイ   「もう話もいいだろ?俺は部屋に行くからな」
満恵   「そうですね。それではおひらき・・・」
オフクロの言葉が終わらないうちに俺は部屋を出て二階に向かった。
一旦部屋でくつろごう。
それから・・・とりあえず公園にでも行ってみるかな。
そろそろ入れるかもしれねーからな。
荷物を適当に追いて・・・、とは言っても放りっぱなしにはしないぞ。
ちゃんと後で整理する為に目につく場所に一時的に置いておくだけだ。
あ、そーいえば伊吹に服買ってきてやったんだった。
さっそく渡してやるかな。
ドアを開けて廊下を覗くと、ちょうどメイと伊吹が部屋に入ったところだった。
セイ   「伊吹ー、ちょっといいかぁ?」
一応部屋の前で声をかける。
親しき仲にも礼儀あり、ジェントルマンとして。
伊吹   「セイか?なんだ、どうかしたのか?」
セイ   「ちょっと開けてくれい」
伊吹   「どうした?」
伊吹が自室の戸を開け顔を出す。
セイ   「ホレ、プレゼントだ。大喜びで受け取れ」
伊吹   「ヘ?」
セイ   「ホレ」
伊吹   「な、なんだいきなり!?」
セイ   「さっき土産買ってきてやるって言ったろ」
伊吹   「あ、冗談ではなかったのか?」
セイ   「そうみたいだな」
伊吹   「・・・どういう風の吹き回しだ?」
セイ   「なんだよ、いらねーのか?」
伊吹   「あ、イヤ、そんなこと、は、・・・ない、ケド・・・」
セイ   「それなら100万$の笑顔でも浮かべて受け取れ」
伊吹   「誰がそんな顔するものか」
セイ   「かわいげのねーヤツ」
伊吹   「それは生まれつきだ」
セイ   「じゃあコレ着て少しはオシャレに目覚めよ」
伊吹   「え?・・・服なのか?これ・・・」
セイ   「まーな」
伊吹   「そんな!高そうな物、受け取れない!」
セイ   「でも、女物だから俺に返されてもしょうがねーんだけど」
伊吹   「・・・・・本当にもらっていいのか?」
セイ   「そのために買ったからな」
伊吹   「・・・高かっただろう?」
セイ   「いや、それほどでもねーんだ、これが」
そうなんだ・・・。
マジで高くはないんだ・・・・・。
だからそんなに遠慮しないでくれ、俺の良心が痛み出すじゃないか。
伊吹   「・・・・・ほ、本当にいいんだな?
      後で返せと言われてもお断りだぞ!」
セイ   「いいって言ってんだろ、しつこいなー」
伊吹   「・・・・・・・・・・本当に貰うぞ?」
セイ   「どーぞ」
本当に高くはないんだ!
だからそんな顔しないでくれー!
ここまで気を使われるといくら俺でも良心の呵責が・・・!
伊吹   「・・・・・ぁ、ありがとう・・・」
セイ   「どーいたしまして。用はそれだけ、んじゃなー」
伊吹   「・・・ぅん・・・」
うわっ、俯いてモノスゴク嬉しそうな表情してるぞ!
・・・・・ここまで喜ばれるとはな。
ま、こんなに喜んでくれるなら、わざわざ買ってきてやったのも報われるってもんだ。
セイ   「あ、そーだ。今度着て見せてくれよな」
伊吹   「なっ!そんなコト、恥ずかしい・・・」
セイ   「なんで?」
伊吹   「あ!貴様それが狙いだったろ!」
セイ   「きっと似合うぜ。ば〜い」
伊吹   「・・・・・フン!」
ひゃっひゃっひゃっ、伊吹のヤツ真っ赤な顔して部屋にひっこんでったぜ。
おもしれーリアクションだ。
いや〜、めずらしい事したカイがあったな。
金使ってまで・・・。
・・・・・俺って結構捨て身だよな。
まあいい。
さーて、部屋に戻って残りの俺への土産を整理するかな。
あの奇妙なババアから買った謎の不気味グッズだ。
ま、部屋のインテリアくらいにはなるだろ。

とりあえず部屋にインテリアとして並べてみたが、特殊な効果って本当にあるのかな?
ま、あればあるでそのうちどうにかなるだろう。
さて、そろそろ公園を覗きに行ってみようか。
そうと決まれば出発だ。
目標は宮下公園。
もう警察いませんよーに。


ローラーブレードを装着し颯爽と玄関を出る。
通りを右折して少し行くとそこはもう宮下公園だ。
・・・どうやら昨日の野次馬達はいないらしいな。
現場保存の為のロープもすでに無くなっている。
見張りの警官なんかもいないぜ。
あの喧噪もどこか懐かしいような気がするな。
・・・・・ということは、やっと公園に入れるようになったようだな。
少しばかり撤収が早いような気もするが、
すでに調べ終わった場所をいつまでも閉鎖しておくもんじゃないし、
なにより最近事件が多発しているからな、他で手一杯ってのが妥当な推理だろう。
とにかく俺にとっては、やっと俺達の公園が開放されてハッピーだ。
それじゃ、さっそく中へ・・・お?
よく見るとすでに先客がいるぜ。
どうやらヒサシと縄田、それに花穂もいるぞ。
なんだ、あいつら来てやがったのか。
・・・!?
まて!三人の後ろにどっかで見たことある物体がねーか?
あの黒くて巨大な物体には見覚えがあるぞ!
よく確認してみようぜ・・・。
・・・・・。
間違いない。どっからどうみても、あのモアイの様な物体を見間違うハズがねえ。
あのモアイ顔!
あのピッチピチのスーツ!
あの申し訳程度に頭に残る頭髪!
間違いない、モアイだ!
セイ   「なにやってんだ、モアイ像!」
ブキャナン「?」
そこにいた全員の視線が一斉に俺に向けられた。
縄田   「あ、セイさん・・・」
ヒサシ  「セイ。来たのか」
花穂   「来た来た、ちょーどイイところに」
ブキャナン「!、キサマ!」
段野浦  「ひかえるんだ、ブキャナン」
なんだ、よく見りゃ段野浦の坊ちゃん・・・略して段ちゃんもいたのか。
ま、当然だな。
あのモアイは段野浦のボディーガードらしいからな。
コイツらはセットでおぼえとこう。
しかし、なんでコイツらがこんなことろに・・・。
セイ   「なんだよ、モアイだけじゃなく段野浦のお坊ちゃんまでいるじゃねーか。
      ここで何してるんだ?」
ブキャナン「殺ス!」
段野浦  「やめないか、ブキャナン!」
ブキャナン「クッ・・・、ワカリマシタ」
段野浦  「それでいい。
      ・・・さて、キミは昨日のセイ君だね。
      会いたかったよ、キミを訪ねて来たんだ」
セイ   「俺を?・・・縄田、何もされてねーか?」
縄田   「う、うぃッス」
ヒサシ  「なんだ?セイ、お前知り合いなのか?」
セイ   「いま何話してた?」
ヒサシ  「いや、この人達がセイに会いたいから居場所を教えてくれって・・・」
花穂   「教える手間省けたね、タイムリー」
縄田   「いや、あの・・・」
セイ   「そーかい。よぉ段ちゃん、今度は何企んでやがるンだ?」
段野浦  「企み?はっはっは、誤解しないでくれないかなぁ。
      僕はただ・・・」
セイ   「『BAD ASS』野郎が俺らと仲良く遊びに来るわけねーだろーが」
ヒサシ  「『BAD ASS』!?・・・『BAD ASS』って、あの・・・」
花穂   「な、何?それ、ヤバイの!?」
ヒサシ  「・・・ヤバいなんてもんじゃない。
      ダントツで最悪だ。激ヤバだぞ」
花穂   「ウソぉ・・・」
段野浦  「そうか、キミは僕が『BAD ASS』だと思っているんだね」
セイ   「それ、弁解のつもり?」
段野浦  「誤解しないでもらおう。僕は『BAD ASS』じゃないよ。
      昨日はたまたま彼らの集会に招待されただけさ。
      あの場にいたのは偶然だよ」
セイ   「一般人が集会に招待されンのか?」
段野浦  「彼らは・・・そうだなあ、僕に言わせてもらえば・・・
      お客さん、かな」
セイ   「はぁ?テメー何言ってんの?」
段野浦  「本当だよ。イヤだなぁ、信じてくれよ。
      昨日あれだけ激しく戦った仲じゃないか。言うなれば戦友だよ」
セイ   「誰が戦友だ。やったのはそっちのクロンボ君だろ」
ヒサシ  「ゲェ!セイ、オマエ、『BAD ASS』とやりあったのかよ!」
花穂   「最悪〜!」
セイ   「・・・まぁな」
段野浦  「冗談だよ。だが僕が『BAD ASS』じゃないのは本当だ」
セイ   「・・・・・」
段野浦  「その証拠に、ホラ、僕は迷彩ファッションじゃないだろ?」
そう言ってなにやらファッションモデルのような気取ったポーズをとる。
なに勘違いしてやがるんだろーな。
・・・だが、たしかにどこにも迷彩ガラはない。
いかにも成金ですと言わんばかりのブランドスーツってやつだ。
セイ   「・・・そういやそうだな。
      よし、それは信じてやろうじゃねーか」
段野浦  「そうかい。嬉しいよ」
セイ   「それにしたって、テメー今日はヤケに友好的だな。昨日と違って」
段野浦  「ああ、すまない。昨日はキミをみくびっていたんだ。
      そのせいで少々エキサイトしてしまってね・・・。
      僕としたことが、取り乱してしまっていた」
・・・なんだコイツは。
昨日とは全然態度が違うぞ。
・・・・・やっぱり何か企んでんじゃねーか?
セイ   「んで、段吉がわざわざ何の用で来たんだよ」
段野浦  「だ、ダンキチ?」
セイ   「段野浦だから。俺も友好的に愛称で呼んでやったんだぜ。感謝しろよ」
段野浦  「ダン吉、ダンキチか・・・。ま、まあいいだろう。
      昨日のキミには良い意味でとても驚かされてね。
      そんなキミに用件があって来たんだよ」
セイ   「なんだよ、『お笑●漫画道場』の出演交渉か?」
段野浦  「お、お笑いマ●ガ道場?なんだい、それは?」
セイ   「だって車だん吉からの用件っていったら・・・」
花穂   「ぷっ、キャハハ・・・、ヤメてよもう、セイ・・・ククク」
段野浦  「クルマ?ダンキチ?一体何の話だい?」
セイ   「だん吉ったら車っしょ、ヤッパリ」
ヒサシ  「クッ、もうヤメテくれ、セイ・・・ククッ、こらえきれん・・・」
段野浦  「・・・なんだかわからんが僕の用件というのはだな・・・、
      君達『Make−be.lieve』も『BAD ASS』のように
      僕のお得意様にならないかという提案だ」
セイ   「・・・なんだと?」
段野浦  「君達が僕のお得意様になれば、
      もう『BAD ASS』に狙われることもない。
      悪い話じゃないと思うが」
セイ   「・・・たしかにそれは悪くねーが、お得意様ってのはなんだ?」
段野浦  「ああ、それなんだが・・・」
だん吉はポケットを探っている。
何か取り出すようだな。
段野浦  「君達にも、コレを捌(さば)いてもらいたいんだよ」
セイ   「・・・それは!」
段野浦が取り出した物、それは赤と黒のカプセルだった。
段野浦  「これが何かは、わかるよね?」
『SSD』か・・・。
たしかこのクスリも出所は『BAD ASS』だったよな。
つまり、大元はこのにーちゃんってワケか。
・・・いや、もっと言えば、流していたのは段野浦グループか。
セイ   「お前が流してたのか・・・」
花穂   「え?ナニ、コレ・・・。ちょ、ちょっと・・・セイ、これって・・・」
ヒサシ  「や、ヤベーよ!これってつまり・・・」
縄田   「麻薬じゃ・・・もごもが!」
ヒサシが急いで縄田の口を押さえた。
こんな白昼堂々ヤバイ単語を叫ばれちゃかなわん。
セイ   「つまり、俺らに売人になれ・・・って言いたいのか?」
段野浦  「ま、手っ取り早く言えばそうなるかな。
      君達ならこの渋谷で顔が利くだろう?もちろん報酬ははずむよ」
セイ   「・・・・・」
花穂   「じょ、冗談でしょ!?なんでそんなアブないコト・・・」
段野浦  「ああ、心配には及ばないよ。
      このクスリは全然アブなくはないんだ」
セイ   「?、なんでだよ」
段野浦  「コレを流しているのがバレても、君らが逮捕される危険は皆無だ」
ヒサシ  「ど、どこにそんな保証があるんだよ!?」
セイ   「・・・ヤバくなったらアンタの親父さんが警察に口聞いてくれる・・・か?」
ヒサシ  「へ?なんだよ、コイツの親父って何者なんだ?」
段野浦  「キミも聞いたことくらいはあるだろう。
      『総合企業・段野浦グループ』。その会長が、僕のパパだ」
花穂   「パ、パパって・・・」
ヒサシ  「え!!あの、大資産家の!?」
セイ   「そうだ」
ヒサシ  「あの、ヤクザの組長!?」
段野浦  「パパはそういう言われ方は好まないからやめてくれないか。
      だがあえてそういう類の呼び方を当てはめれば・・・、
      『ゴッドファーザー』。マフィアのドンってところかな」
ヒサシ  「ひえぇぇ」
段野浦  「だが正確には日本財政界の首領(ドン)だよ」
セイ   「・・・だから、息子の少々の不祥事くらい、いつでももみ消せる」
段野浦  「それは間違いではないが、警察が動けない理由は他にある」
セイ   「・・・?」
段野浦  「ま、それは君達が協力してくれればいずれわかるだろう」
セイ   「・・・なんだって大金持ちの坊ちゃんが、
      突然俺らにこんなモノ押しつけるんだ?」
段野浦  「僕だって危険は避けたいからね、お金のためにこんな事はしない」
セイ   「だったら尚更なんでだよ?」
段野浦  「それは我が段野浦グループのためさ。
      ある大口スポンサーからの頼みでね。どうしても断れないんだ。
      だからといって、パパ自らが動くのはハイリスクだろう?
      だが、息子の僕が小遣い稼ぎ程度に行動すればさして目立たない」
セイ   「・・・そのスポンサーってのが、このクスリを流行らせたがっているのか?」
段野浦  「そうらしいね。僕も理由まではよく知らないんだが」
セイ   「『BAD ASS』にクスリを流してるのがお前なら、
      この『SSD』以外にも『BAD ASS』に流れてるクスリはお前からか?」
段野浦  「ノーコメント」
セイ   「ここまで話しといてなんだよ、それ。
      もう『SSD』がバレてんだからいっしょだろ?」
段野浦  「それがそうでもないんだよ。
      それだけは特別なんだ。特殊なクスリなんだよ」
セイ   「特殊?特殊ったら、どっちかと言えば・・・
      『スレイブ』・・・の方が特殊なんじゃねーの?」
段野浦  「ん?何を言っているんだ」
セイ   「とぼけるなよ。『スレイブ』もテメーが流してるんだろ?」
段野浦  「・・・そうだよ」
セイ   「な!?なんで・・・そんなアッサリ認めるんだ?」
段野浦  「だって、さっきから言ってるじゃないか。
      ソレは僕が『BAD ASS』に流してるって」
セイ   「はあ?コレは『SSD』じゃねーか!」
段野浦  「そうだよ」
セイ   「だったら!」
段野浦  「『SSD』つまり『Sad Slave Doll』。通称『SLAVE』だ」
セイ   「サ、サッド・・・スレイブ・・・ドール?
      え?正式名称『SAD SLAVE DOLL』っていうの?」
段野浦  「ああ」
セイ   「マジ?」
段野浦  「そうだが、なんだ『SSD』と『スレイブ』が別々の物だと思っていたのか?」
な、なんですとぉ〜!!!
ど、どうりでいくら探しても『SSD』しか見つからないワケだ!
『SSD』と『スレイブ』は同じ物だったのか・・・・・。
そ、それじゃ、俺の苦労って、いったいなんだったんだ・・・。
俺、もう『スレイブ』いっぱい持ってんじゃん。
花穂   「ちょっと、ちょっと・・・」
花穂が落胆する俺の服の裾をひっぱる。
花穂   「なんかこの状況って、超ヤバなんじゃない?
      どうするの?まさか売人なんてやらないよね?」
セイ   「・・・・・」
段野浦  「これは取引だよ。どうするか考えてみてくれないか?」
セイ   「・・・・・。
      なぁ、俺から質問していいか?」
段野浦  「僕に答えられる事なら、なんでも答えるよ」
セイ   「それじゃあ遠慮なく・・・。
      富永先生は元気か?」
ヒサシ  「ぶっ!」
縄田   「誰っスか、その人?」
段野浦  「富永・・・ああ、代議士の富永氏かい?
      そういえば去年胃を悪く・・・、どうしてキミが富永氏を知っているんだ?」
セイ   「なぁ、鈴木先生って本当にドカンに住んでるの?」
花穂   「プククッ・・・や、ヤメテってセイ・・・」
縄田   「誰なんスか?」
段野浦  「鈴木?・・・共産党の鈴木議員か。そんなスキャンダル報道があったかな?」
セイ   「だん吉、ナオミとはうまくいってんの?」
ヒサシ  「ブハハハハ!モ、モロに言うな、バカ・・・」
花穂   「きゃはははは!や、ヤダっ、苦しい、言わないで・・・」
縄田   「???」
段野浦  「な、何がおかしい!?」
セイ   「ぎゃはははは、車だん吉〜!!柏村さんは元気かい〜?ハハハハ」
花穂   「アハハ、も、もう言わないっでったら、アハハハ、死んじゃう」
ヒサシ  「あ、あと、誰かいたっけ?誰かいたっけ!?」
段野浦  「き、キミたち・・・よくわからないが、僕をバカにしてるのか!?」
縄田   「よくわからないけど、そうみたいッスね」
段野浦  「ど、どういうつもりだ!?」
セイ   「ははは・・・。つまりー、答えはNOだ」
段野浦  「なんだと!?」
セイ   「お断りってコトさ。ホラ、帰った帰った」
段野浦  「き、キサマら〜!人が親切に交渉してやれば頭に乗りやがって・・・」
セイ   「なにが親切だ。結局売人として雇おうとしただけじゃねーか」
段野浦  「良い条件を用意してやっただろう!」
セイ   「あれで良い条件!?はっ、ケチくさいヤローだ」
段野浦  「な、なんだとー!?」
セイ   「言っとくが、どんな良い条件揃えても、
      誰がテメーみたいな成金ダメ息子の手先になってたまるか!
      テメーみてーな、親の権力をカサに着て威張りちらしてるくせに、
      一人じゃなんにもできねーよーなボンクラなんざ、願い下げなんだよ!」
段野浦  「き、キサマ〜!」
セイ   「だいたいな、俺はそういうつまらないコトは絶対やんないぜ」
段野浦  「つまらないコトだと!?
      貴様、これだけでどれほどの利益になるかわからないのか!?」
セイ   「俺の行動に利益はカンケーねーんだよ」
段野浦  「じゃあ一体何が関係あるんだ!何のためだと言うんだ!?」
セイ   「俺にとって重要なのは・・・」
段野浦  「・・・・・」
セイ   「『Feeling Good』・・・それだけさ」
段野浦  「ふ、ふざけやがって貴様〜!!」
セイ   「なんだ?この俺様とやるってのか?おぼっちゃまくん」
段野浦  「うぐっ!・・・フッ、フフン。
      また暴力かい?相変わらず単細胞な野蛮人だね」
セイ   「なんだと!」
段野浦  「僕がキミと戦っても勝つのは目に見えているが、
      そんなことしたらせっかくの高級スーツが台無しになりかねないからね。
      今日のところは勘弁しておいてやろう」
セイ   「おまえ・・・自分が何言ってるかわかってるのか?」
花穂   「恥ずかしくないのかな?」
段野浦  「不愉快だ。ブキャナン、帰るぞ。用意しろ」
ブキャナン「カシコマリマシタ」
ボンボン野郎はきびすを返して帰るそぶりを見せる。
しかし途中で振り返り・・・、
段野浦  「そ、そうだ。ひとつ言い忘れていたが・・・」
セイ   「おまけコーナ〜!」
花穂   「ぷははっ!」
ヒサシ  「クッ!!」
縄田   「なんなんスか?」
段野浦  「黙れ!いいか!貴様等覚悟しておけよ!!」
それだけ吐き捨て公園を出ていこうとする。
ブキャナン「オ車ノ用意ガデキマシタ」
段野浦  「車って言うなーっ!!」
ブキャナン「ハ?」
セイ   「ぎゃははははは!だん吉が怒った〜!」
ヒサシ  「ひっひっ・・・車に乗るだん吉・・・ぷはははは!」
花穂   「キャハハハ車だん吉〜!お腹イタイ・・・」
段野浦  「ぐうぅ〜!」
段野浦は憎々しい表情を浮かべたまま車に乗り込むと、何処かへと走り去っていった。
花穂   「あ〜、おなかイタイよぉ」
セイ   「ふぅー、可笑しかった」
縄田   「一体なんなんスか?」
ヒサシ  「おまえ、車だん吉知らないの?」
縄田   「知らないッス」
花穂   「ダメだね、シンちゃん勉強不足だよ」
ヒサシ  「いまや衛星放送は再放送の宝庫。伝説を目の当たりにできるぞ」
セイ   「そうそう、あの超有名人を知らないとは失礼だぞ」
縄田   「そうなんスか?」
ヒサシ  「ははははは」
セイ   「あー、おもしろかった・・・」
!?
ヒサシ  「ん?どうしたんだよ、セイ」
セイ   「・・・・・いや、気のせいか。
      誰かに見られてるような、そんな気配を感じたんだが・・・」
花穂   「ヤダ、ストーカー?」
縄田   「花穂先輩狙われてるんスか?」
花穂   「アタシくらいカワイかったら、狙われてても不思議じゃないよね」
ヒサシ  「うわ〜、コイツ自分で言うか〜?」
花穂   「可能性はあるでしょ?」
ヒサシ  「ま、あり得ない話じゃねーけどよぉ。このご時世だし」
セイ   「・・・・・」
縄田   「どうッスか?」
セイ   「・・・ああ。気のせいかな、気配は消えてる・・・」
ヒサシ  「ふーん、まあ気にしなくても大丈夫なんじゃ・・・」
その時、後ろの茂みが激しく音をたてた!
セイ   「誰だ!」
ヘボい男 「あ〜、いたいたぁ」
ヒサシ  「な、なんだぁ!?」
花穂   「ス、ストーカー!?」
ヘボい男 「見つけたぞぉ・・・」
花穂   「ゲッ、目がイッちゃってる!やっぱりストーカーだー!」
セイ   「・・・・・」
花穂   「アタシ付け狙われてるんだぁ!」
ヘボい男 「なんだぁ〜?女にゃ用はねぇぞぉ」
花穂   「な、なんだとー!アタシを差し置いて誰のストーカーだってのよ!」
ヒサシ  「オイオイ・・・」
花穂   「こんなカワイイ女子高生がいるのよ!?ストーカーしない手はないでしょ!」
縄田   「そんなムチャな・・・」
花穂   「失礼〜!コイツ超ムカツク〜!!」
セイ   「・・・・・ってゆーか、コイツ、ラリってねーか?」
花穂   「ゲッ、マジ!?」
ヘボい男 「ぶへへへへ、スレイブ・トリ〜ップ〜!!」
セイ   「こ、コイツ・・・!」
ヘボい男 「俺ぁよぉ、セイって野郎を叩きのめすように言われてきたんだぁ」
ヒサシ  「ご指名だ。よかったなセイ」
セイ   「ぜんっぜん嬉しかねー」
ヘボい男 「お前がセイってんダな、よぉし。
      おまえにゃ悪いガ、ぶっ飛ばせばたっぷり報酬が手に入ルんだ。
      悪く思うんじゃネぇぞぉ!」
花穂   「それじゃセイ、アトはヨロシク〜」
縄田   「応援してるッスよ〜」
セイ   「ヤダなぁ、もう」
ヘボい男 「ぐへへへへ・・・」
セイ   「おら、ヘボジャンキー。相手してやるからかかってこい」
ヘボい男 「ひゃははっはー!スレイブ・スパ〜クゥ〜!!」
セイ   「ハイハイ・・・」
突如奇声を発したかと思うと、ジャンキーの皮膚はたちまち裂け始めた!
花穂   「ちょっ、ちょっと・・・あれ・・・」
ヒサシ  「な、な・ん・だよ・・・アレ」
セイ   「チッ・・・、昨日のジャンキーと同じかよ」
縄田   「うわわぁ!」
ジャンキー「ぎょべははは!コレが『スレイブ』の力ダ!!」
花穂   「ちょっとなんなのよ!アレ!!」
セイ   「みんな下がってろ!」
ヒサシ  「セイー!」
セイ   「まかせろ!」
みるみるうちにジャンキーは異形の怪物へと変貌した!
いまこのバカは『スレイブ』って言ってやがったよな?
それじゃあやっぱりこれが『スレイブ』の効果だっていうのかよ!?
とんでもねークスリだ!
信じらんねーヤツだ!
こんな白昼堂々バケモノ化しやがるとは!
見境がねーのかよ!
ジャンキー「うおおおおー!!!」
赤黒い筋肉組織や脈打つ血管がおぞましく剥き出しになった化け物が突進する!

 VSヘボジャンキー

セイ   「オラ!こっちだ!ヘボジャンキー!!」
咄嗟に化け物の攻撃をかわし、
花穂達に危害が加わらないように化け物の注意を引きつける!
ジャンキー「ぐぅぅうぅうぅぅぅぅうう」
セイ   「やっぱあんまり顔をこっち向けるな」
ジャンキー「ごあああああ!!!」
デタラメに腕を振り乱しながら不気味に迫るバケモノ!
覚悟を決めて反撃に転じようと身構える!
待ちかまえ、バケモノが眼前に迫ったとき、木の陰から思いがけぬ援護を受けた!
突如木陰から颯爽と飛び出した人影が、
バケモノの横っ面に強烈なライダーキックをお見舞いしたのだ!!
バケモノはもんどり打って無様に地べたに這い蹲った。
セイ   「へっ!?」
?    「・・・・・」
何事か認識できぬまま目の前の人影を見上げる・・・。
セイ   「だ、だれ?」
よく見るとそこに立つ人影は女であることが理解できた。
一際目を引くショッキングなピンク色の髪をベリーショートに切りそろえているため、
ボーイッシュな印象を受けるがたしかに女性であると認識できる。
黒いレザー素材のノースリーブジャケットに黒のレザーショートパンツ、
さらに手袋まで黒のレザーグローブで靴は黒のレザーブーツ・・・。
全身黒のレザーでコーディネートした・・・まだ少女と呼んでも差し支えなさそうな、
それでいてどこか大人びた雰囲気を醸し出す謎の女性だ。
?    「無事か?」
セイ   「だ、誰なんだ、アンタ・・・」
?    「名前か?オレはニアって名だ」
セイ   「ニア?外国人か?」
ニア   「腰が抜けてないなら早く下がれ!」
セイ   「え・・・」
ニア   「死にたいのか!」
セイ   「あハイハイ」
俺は慌ててニアと名乗る女性の飛び出してきた木陰に滑り込んだ。
ニア   「・・・・・」
セイ   「・・・オイ、アンタ・・・ニアはどうするんだ?」
ニア   「コイツを倒す!」
セイ   「オイオイ、マジかよ!?たしかに今の蹴りは鋭かったが・・・」
バケモノがよろよろと起きあがってきた。
ニア   「まあ見てろ。『SLAVE・DOLL』なんざ、オレの敵じゃねー」
『スレイブ・ドール』?
このバケモンのことか?
コイツらの呼び方を知ってるってことは、このねーちゃん何者だ?
ジャンキー「ぎおおおおお!!!!!」
まずいな、ヘボジャンキー・・・『スレイブ・ドール』だったか。
怒り狂って突撃してきたぞ!
ニア   「おいで!ゴーレム!!!!」
突如地面が膨れ上がったかと思うと、土塊(つちくれ)から土人形がそびえ立っていた!
ニア   「行け!!」
セイ   「な、なんだあ!?」
巨大な土人形が『スレイブ・ドール』をベアハッグに捕らえる!
ジャンキー「ぐおおおおお!!!」
ニア   「さあゴーレム!トドメをさしちまいなっ!!」
ジタバタともがき苦しむバケモノをゴーレムはそのまま前方に叩きつけた!
ゴーレムによるあまりにも強烈なスパイン・バスターだ。
バケモノは失神状態で激しく痙攣している。
ニア   「よくやったね、ご苦労だったぞ、ゴーレム」
ニアが指を鳴らすとゴーレムは元の土塊にもどっていった・・・。
ニア   「さて」
ニアが俺の方を振り返る。
ニア   「怪我はないかい?」
セイ   「・・・何者だ?オマエ・・・」
ニア   「秘密だ。タダモンじゃないことだけはバレてるだろうけどな」
セイ   「・・・・・そうだな。
      ま、どうやら敵じゃあなさそうだな」
ニア   「さあ?それはオレにもわかんないけどさ、
      とりあえず今は敵対関係ってほど深い関係じゃあないね」
セイ   「さっきの土人形はなんだ?」
ニア   「アンタはあんまり驚かなかったね。アレはゴーレムってのさ」
セイ   「ゴーレム・・・仕込んでたのか?」
ニア   「まさか。オレの能力で創り出したんだ。
      これでもオレは『傀儡師(クグツシ)』だからな」
セイ   「『傀儡師』?」
ニア   「いまアンタが見たようなゴーレムとかを操る能力者さ」
セイ   「ふーん。その能力者さんが、なんでオレを助けたんだ?」
ニア   「それは気まぐれってとこだな。
      本命は『スレイブ・ドール』を倒す事の方だ」
セイ   「・・・なあ、コイツら『スレイブ・ドール』って言うのか?」
ニア   「まぁな」
セイ   「どうしてそんな名称を知ってるんだ?」
ニア   「ちょっと調べりゃわかるだろ、そんなもん。
      『サッド スレイブ ドール』ってクスリによって生み出されるバケモノ。
      だから『奴隷人形(スレイブ・ドール)』って呼ぶのさ。
      ま、通称みたいなモンだろ?こんなモンに本名なんてナンセンスじゃん」
セイ   「まーなぁ。だが、コイツら、他でも出没してんのか・・・」
ニア   「そうだね。だからオレらも調査してる」
セイ   「オレら?」
ニア   「っと、口を滑らせちまったな。
      オレは口が軽いんだ。あんまり喋らせるなよな」
セイ   「ははは・・・」
ニア   「ところで、オマエ・・・」
セイ   「セイだ」
ニア   「・・・セイは、なんでコイツに襲われたんだ?」
セイ   「こっちが聞きたいよ」
ニア   「隠すとタメになんねーぞ?」
セイ   「生憎だな。マジで突然襲われたんだ」
ニア   「・・・コイツらは理由ナシじゃ『スレイブ・ドール』に覚醒したりしない」
セイ   「そうなのか?」
ニア   「っと、しまった。オメー人から情報盗むの得意だろ?」
セイ   「はっはっは。それより、理由が必要なのか?」
ニア   「ああ。コイツらはある種の信号・・・電波を送られると覚醒する。
      他にも・・・クスリの服用中に頭部に強い衝撃を受けたりすると、
      イレギュラーな覚醒をする場合もあるらしい」
・・・なるほど。
昨日のジャンキーはクスリをやった直後に頭打ったから・・・俺の裏拳で。
セイ   「じゃあコイツは?」
ニア   「こっちが最初に聞いたんだ」
セイ   「・・・おそらく頭は打ってないからな・・・。
      『覚醒電波』を送られたってコトか?」
ニア   「なるほどな」
花穂   「セ、セイ〜・・・」
おそるおそる花穂達が近付いてきた。
ヒサシ  「ど、どうなったんだ?」
縄田   「バケモノ倒したんスか?」
セイ   「ああ。こちらのお嬢さんが倒してくださった」
ニア   「変な敬称で呼ぶな、気色悪い」
セイ   「はは・・・」
ヒサシ  「すげー・・・」
花穂   「でも、なんなのこのバケモノ・・・」
セイ   「気色悪いよなぁ。こんなバケモノこのまま放置してたら大問題だぞ」
・・・・・。
あれ?
なんか引っかかるぞ?
・・・・・そういや昨日倒したバケモノはどうなった?
そのまま放置されてたか?
・・・いや、たしかバケモノは倒されると元の人間に・・・!
マズイ!!!
セイ   「離れろッ!!」
ニア   「エ!?」
ジャンキー「がああああ!!!!」
突如バケモノが覚醒し血管を触手のように波打たせてニアを襲う!!
花穂   「きゃああああ!!!」
ニア   「まだ倒してっ・・・!」
セイ   「水繰術奥義・旋風渦水(センプウカスイ)!!!!」
風と共に巻き上がった水が竜巻の様に、セイ達を囲むように立ち昇り、
水の防壁が襲い来る触手血管を遮る!
セイ   「くらいやがれバケモノー!!!」
そのまま水の竜巻を前方に押し進める!
『スレイブ・ドール』は水の竜巻に囚われ、回転しながら空中へ放り出された!
落下した巨大な肉塊には無数の切り傷が見受けられる!
竜巻の内部で鋭い水の刃に切り裂かれたんだ!
セイ   「やったか!」
バケモノから白い煙が立ち上り始めた。
どうやら今度こそ倒したようだ。
しばらく見つめていると、『スレイブ・ドール』は元のヘボジャンキーの姿に戻った。
ニア   「・・・・・」
セイ   「焦ったー・・・」
花穂   「恐かった・・・」
ヒサシ  「同感・・・」
縄田   「こ、腰抜けたッス・・・」
ニア   「セイ・・・アンタ・・・」
セイ   「へっ、バレちゃあしょうがねーな。そう、俺も能力者なんだ」
ニア   「・・・それで、オレの能力にあまり驚かなかったのか」
セイ   「まーな」
ニア   「・・・・・とにかく助かった。礼を言う」
セイ   「それはお互い様だな」
ニア   「・・・借りができたな」
セイ   「高くつくぜ?」
ニア   「フッ、いつか返すさ」
セイ   「そりゃラッキーだ」
ニア   「とにかくこれで一応目的は果たせた。
      そろそろオレは消えよう」
セイ   「そうか。じゃーな」
ニア   「ああ」
ニアは背を向け歩き出した・・・。
花穂   「あ、ちょっと・・・」
ニアの背中に花穂が声をかけ引き留める。
ニア   「なんだ?」
花穂   「なんていうか、ありがとう。
      最初に助けてくれたのってアナタの方だよね。
      いつかちゃんとお礼したいから、どうすればまた会える?」
ニア   「礼にはおよばねーよ。気にすンな」
花穂   「でも・・・、それじゃ、名前・・・」
ニア   「・・・オレは『レッド・アイ』だ。憶えときな」
花穂   「『レッド・アイ』?」
ニア   「じゃーな」
それだけ言って去っていく。
セイ   「ホントはニアって言うんだぜ」
花穂   「ニア?」
ニア   「ぐっ・・・」
花穂   「じゃーね、ニア!」
ニアは背を向けたまま軽く右手を上げてこれに答えて去っていった・・・。
『レッド・アイ』・・・ニア。
確かに瞳が赤かったな。
わかりやすい通称だ。
しかし、一体何者だったんだろうな・・・。
色々新情報を仕入れられたし、ラッキーだったかもな。
ヒサシ  「なあ・・・、とりあえず俺らもこの場から逃げないか?」
縄田   「そ、そうッスね」
花穂   「あれだけの騒ぎになったんだもん、ヘタしたら警察に通報されてるかも」
セイ   「それは否定できんな。とりあえずずらかろうか」
ヒサシ  「だったらついでに昼飯にしよーぜ。俺らまだ食ってねーんだ」
セイ   「そういや俺もまだだった。ちょうどいいな飯に・・・。
      ちょっと待った」
ヒサシ  「なんだよ」
セイ   「その前にちょっと奈緒サンに会いに行きたいんだが・・・」
ヒサシ  「なにッ!?」
縄田   「えぇ〜?後でいいんじゃないッスかぁ〜?」
花穂   「そうだよぉ、おなか減ったよぉ」
セイ   「そうか、それなら・・・」
ヒサシ  「何を言っているんだ、セイ!昼飯なんかいつでも食える!
      なにはともあれどんなことがあっても奈緒サンに会いに行くべきだ!」
花穂   「えー、なんでぇ?」
ヒサシ  「うるさい!男が一度決めたら絶対実行するんだ!」
花穂   「な、なにオヤジクサイこと言ってんの?」
縄田   「そうッスよ。お昼が先ッス」
ヒサシ  「縄田、テメー殺すぞ?」
縄田   「な、ど、どうしてッスか!?」
ヒサシ  「いいからセイの意見に賛成しろ!」
縄田   「ハ、ハイです・・・。賛成ッス・・・。お昼は後回しッス・・・」
花穂   「ちょっと、どういうコト?」
ヒサシ  「花穂、残念だがここは民主主義国家だ。
      民主主義の基本は多数決、そして現在票数は3対1だ。
      今は涙をのんで我々に従うべきだ」
花穂   「はあ〜?ヒサシ大丈夫?」
セイ   「ダメだな、こりゃ・・・」
結局鬼気迫るヒサシに押し切られる形で昼飯は後回しになったようだ。
とにかく奈緒サンに連絡入れてみよう。
・・・・・。
さっきまでキレまくってた奈緒サンに電話するのはちと勇気が必要だがしかたあるまい。
こっちはちゃんと依頼をこなしたんだ。
成果を報告するのはある種、義務みたいなもんだ。ある種な。
セイ   「・・・それじゃ俺ちょっと電話してみるぞ」
ヒサシ  「ああ!そうするんだ、セイ!この重大任務をお前に任せるぞ!」
セイ   「とにかくまず公園を出よう・・・」
花穂   「そーだね・・・」
縄田   「ヒサシ先輩コワイっス・・・」
とにかく公園を出て『アワーレコード』前に移動した・・・。


地上8階地下1階という最大規模の巨大AVストア『アワーレコード』。
最上階のイベントスペースや地下のカフェなど、利用価値は高い施設だ。
俺様もよく買物にくる便利なトコだぜ。
ヒサシ  「さあ電話しろ!すぐ電話しろ!いま電話しろ!」
セイ   「迫るな、鬱陶しい・・・」
迫り来るヒサシを振り払い携帯を操作する。
花穂   「ねえ、なんかヒサシ人格変わってない?」
縄田   「人格が破綻してるっス」
ぴっぽっぴっと。
さて、奈緒サンは出てくれるかな・・・。
奈緒   「はァ〜イ!ナッオでぇ〜す!!」
セイ   「あ、奈緒サン?」
奈緒   「ゴメンけどォ、ただいま奈緒ちゃんは電話に出らンないの〜」
なんだよ、留守電かよ。
奈緒   「ドキューンという発信音の後に、お名前と愛のメッセージを・・・」
セイ   「チッ・・・」
奈緒   「うっせーンだよ!誰だーっ!!」
セイ   「うわっ!?」
奈緒   「がるるるる、人が気持ちよく仮眠とってるってのによォ!」
セイ   「あ・・あ・・・・・・」
奈緒   「なんだァ?人の眠り妨げといてイタ電か!?逆探して撃ち殺すぞ!」
セイ   「・・・あ、あのセイだけど・・・」
奈緒   「セイ〜?あ、セイくんかぁ。何の用?アタシいま忙しいンだけど」
セイ   「寝てたんだろ?」
奈緒   「そ。寝るのに忙しいの」
セイ   「・・・・・」
奈緒   「なぁによぉ〜、用が無いなら切るわよ?」
・・・いっそこっちから切ってしまおうか。
セイ   「・・・・・アンタから頼まれてたクスリ、調達したんだけど・・・」
奈緒   「クスリ〜?・・・あ、『スレイブ』?」
セイ   「そう」
奈緒   「マジで?早いじゃ〜ん☆それならそうと先に言ってよぉ〜」
セイ   「・・・そりゃ悪ぅござんしたね」
奈緒   「それなら寝てる場合じゃないわ。いまから会える?」
セイ   「ああ。そのつもりで電話したんだ」
奈緒   「そ。んじゃ・・・渋谷にいるんでしょ?あ、それともまだ原宿?」
セイ   「渋谷に戻ってる」
奈緒   「それならどっかでお昼しながら会談しよっか。お昼食べた?」
セイ   「いや。これからだけど」
奈緒   「よし、それじゃあ・・・カレー食べ行こう!」
セイ   「カレーか、いいねぇ」
奈緒   「宮下公園近くにカレー専門店あったよね?」
セイ   「『いんどおら』だな。了解」
奈緒   「それじゃ現場に急行しますんで、ちょっち待っててね〜」
セイ   「ふーい」
奈緒サンとのやりとりを終えると、どっと疲れが出るぜ・・・。
ヒサシ  「どうだった?どうだったんだ?奈緒サンはどうだったんだ?」
セイ   「だから迫るなって・・・。カレー屋で待ち合わせだよ」
ヒサシ  「よくやった!よくやったぞ!お前はよくやったんだ!!」
セイ   「あーハイハイ。そんじゃメシ行こうぜ」
花穂   「結局お昼のが先んなったじゃん」
縄田   「奈緒サンも昼飯まだだったんスか?ちょうどよかったッスね」
セイ   「そーだな。ま、あの人にとっちゃ朝飯だろうけど・・・」
ヒサシ  「おいたわしや・・・。過酷な労働を強いられているんですね・・・」
セイ   「まあ、あれでも一応警察だからな〜」
ヒサシ  「なんてことだ・・・。この国には労働基準法というものがないのか!」
縄田   「さあ。きっとないんじゃないッスか?」
ヒサシ  「だったら奈緒サンの分まで他の警官共が働けばいいんだ!」
縄田   「そりゃむちゃくちゃッス」
ヒサシ  「そんな事はない!国民の為に昼夜を問わず働く!それこそ公僕の務め!」
花穂   「支離滅裂〜」
セイ   「さ、そろそろ待ち合わせ場所に向かうぞ〜」
縄田   「いえっさーッス」
花穂   「おなかすいた〜」
ヒサシ  「いま参ります、奈緒サン・・・」
アブナイのが若干一名いるが、とりあえずカレー屋に向かおう・・・。

カレー専門店『いんどおら』は宮下公園から家への帰り道にある。
よって宮下公園を出て右に進むとすぐに到着だ。
ほら、ここが噂の本格欧風&印度風カレー専門店『いんどおら』だ。
カレーにこだわり続ける老舗のカレー専門店。
創業から45年以上もカレーのみにこだわり続けてるらしいぞ。
欧風カレーは豊富な野菜とたくさんのスパイスを使った上品で口当たりの良い本格派。
インド風カレーはバリエーションが豊富に揃っていて何度行っても飽きない。
秘伝のソースで炒めた名物『元祖へびめし』も
カレー屋さんならではのスパイス使いが評判だ。
さっそく入ろうぜ。
花穂   「あぁ〜、食欲をそそられる良い匂い!
      成長期の乙女には大敵よね」
セイ   「誰が成長期なんだよ」
花穂   「気付かない?アタシ最近オンナとしてグッと成長中なんだから」
縄田   「・・・そうッスか〜?あんまし変化ないッスよ」
花穂   「着痩せするタイプなの!」
セイ   「戯言はそこまでにして入ろうぜ」
花穂   「タワゴト!?」
起きたまま夢を語る花穂をほっといて店内に入る。
千歳   「いらっしゃませ」
いきなり妙な物体がドアップで俺の視界いっぱいに出現した!
セイ   「どわわわわっ!!」
店長   「天野ちゃん、ドアップで接客しちゃ駄目だって言ってるでしょ!」
千歳   「りょうかい」
セイ   「な、なんだ・・・天野千歳じゃねーか・・・・・え!?
      って、なんでオマエがここに!?」
千歳   「4名様ですか?どうぞお席の方へ・・・」
花穂   「あれ?B組のホラー少女じゃん!」
縄田   「ほほう、この方が噂の・・・」
千歳   「イエイ」
セイ   「なんだその格好は!?ウェイトレス!?ぎゃはははは」
千歳   「なぜ笑う?カワイイでしょ?何故笑う?」
セイ   「ははは、オメー何やってんだ?こんなとこで・・・」
千歳   「バイトなのさ。土曜日だけだけど。
      最近なにかとモノイリでお金がいるの。
      世の中銭よ。地獄の沙汰も金しだいなのよ。
      まさか本当だとは思わなかったけど・・・」
セイ   「バイト!?オマエが?似合わねー」
花穂   「本当だとはってなにがー・・・」
千歳   「とにかく入りなさいよ。カレー食べにきたんでしょ?」
セイ   「ああ。しかしオマエがバイトとはねぇ。世も末ってゆーか・・・」
千歳   「いいかげんに笑いをやめないとカレーにするよ」
花穂   「カレーにするってどういうコトー・・・」
セイ   「よし、それじゃそこの席にしよーぜ」
窓際の日当たりの良い席に陣取る。
千歳   「お水」
セイ   「しかし愛想のないウェイトレスだこと・・・」
縄田   「ははは・・・、インパクトのある人っスね」
ヒサシ  「もうすぐ奈緒サンがここへ・・・ニヤニヤ」
トランス状態のヤツも若干一名いるしな・・・。
千歳   「ご注文は?」
セイ   「メニュー持ってこいって」
千歳   「・・・・・まったく」
セイ   「オイ!今なんつった!!」
千歳   「べつに」
縄田   「ははは・・・この店大丈夫なんスかねえ・・・」
千歳   「めにゅー」
セイ   「どーも」
花穂   「何にしよっかなー」
ヒサシ  「へらへら」
縄田   「ヒサシ先輩メニュー見ないんスか?何にするか決めてるっスか?」
ヒサシ  「奈緒サンと同じヤツ・・・」
縄田   「奈緒サンはまだ来てないじゃないッスか。しっかりしてくださいッス」
セイ   「ほっとけ縄田。そのうちもどるだろう」
縄田   「そうっスかねぇ?」
千歳   「ご注文は?」
セイ   「せかすなって。今考えてるだろ・・・」
千歳   「ひやかしおことわり」
セイ   「ひやかしじゃねーって」
千歳   「・・・・・」
セイ   「それじゃあ、『今日のおすすめ』は何だ?」
千歳   「・・・・・すずめ?」
セイ   「オ・ス・ス・メだ!!!!!」
千歳   「なんだ、オススメか。本日は『カシミールチキン』がイチオシ」
セイ   「んじゃソレくれ」
花穂   「アタシえびカレー」
千歳   「・・・へび?」
花穂   「エ・ビ!!!!!」
千歳   「りょうかい」
縄田   「欧風シーフードカレー」
千歳   「・・・・・豆腐牛フード?」
縄田   「シーフードカレー!!」
花穂   「豆腐牛ってナニ・・・」
千歳   「りょうかい」
セイ   「オマエは?」
ヒサシ  「・・・・・どれでも」
千歳   「どらえもん?」
セイ   「どらえもんカレーでいいってよ」
千歳   「りょうかい。以上で?」
セイ   「以上だ。はやく頼むぜ」
千歳   「りょうかい」
千歳は注文を終え奥に引っ込んでった。
縄田   「あれで本当に大丈夫なんスかね・・・」
千歳   「あ、そーだ」
突然後ろ歩きで巻き戻しのように戻ってきた。
千歳   「辛さはどれがいい?10段階あるけど」
セイ   「そんなにあんのか」
千歳   「1段階ぜんぜん辛くないやん。
      2、カレーっぽいやん。
      3、ちょい辛いかな。
      4、この辛さがスパイシーやな。
      5、うわっ、辛!
      6、これちょっと辛い通り越してへん?
      7、クサッ!変な臭いするで!
      8、まっずー!コレほんまカレーか?
      9、これはアカン!これはアカンで!食いモンちゃうやろ!
      10、これナニ?絶対ウソやん。
      とありますが・・・」
セイ   「『ちょい辛いかな。』で・・・」
縄田   「カ、『カレーっぽいやん。』で・・・」
花穂   「アタシも『カレーっぽいやん。』で・・・」
ヒサシ  「・・・・・えへへへ」
セイ   「コイツには『これナニ?絶対ウソやん。』でいいぞ」
千歳   「りょうかい」
やっと注文が終わったぜ・・・。
さて、カレーを待ちながら奈緒サンの到着を待つかな。

少し待っていると遠くからけたたましいサイレンの音が近付いてくる・・・。
これはまさか・・・・・。
花穂   「あ、パトカーだ」
パトカーはサイレンを響かせながらカレー屋の駐車場に停車した!
付近住人は何事かと興味津々で注目している。
エンジンが止まりやっと静かになったパトカーから人が降りてきた。
奈緒   「はーろぉ〜☆」
やっぱりな・・・。
ヒサシ  「奈緒サンの到着だ!」
奈緒   「お待たせぇ」
セイ   「パトカーを私用に使うな!」
奈緒   「だってぇ〜」
セイ   「しかもサイレン鳴らして走るな!」
奈緒   「だってぇ〜、こうすると渋滞しててもみんな道開けてくれるンだもん」
セイ   「・・・・・」
そりゃ開けるだろうよ。
千歳   「いらっしゃいませ」
奈緒   「スパイシー・チキンカレー頂戴」
千歳   「スパゲティーチキン?」
奈緒   「早くしてね。あ、辛さはねー・・・
      『これちょっと辛い通り越してへん?』でおねがい」
千歳   「りょうかい」
奈緒   「さーて、みんなもう注文すんだ?」
ヒサシ  「はい!お先に失礼させていただきました!」
奈緒   「そう。じゃ先に来たら食べてていいわよん」
ヒサシ  「もったいないお心遣い!」
奈緒   「まずは腹ごしらえしてから本題に入りましょう」
セイ   「だな」
千歳   「おまたせ」
花穂   「あ、さっそくアタシ達のがきたよ!美味しそー☆」
縄田   「ちゃんと注文できてたみたいで安心したッス・・・」
花穂   「カレーってこの匂いがたまらないよねー」
セイ   「それじゃいただこうかね」
花穂   「いただきまーす!」
ヒサシ  「・・・・・」
奈緒   「どうしたの?遠慮せずにヒサシくんも食べちゃいなさいよ。
      せっかくのカレーが冷めちゃうゾ」
ヒサシ  「は、ははは、はい!」
ヒサシが慌ててカレーを口に運ぶ・・・。
ヒサシ  「ぱく・・・・・」
しーん・・・。
ヒサシ  「どっかーん」
ヒサシが爆発した。
さすがは『なにコレ?絶対ウソやん。』・・・。
恐るべし・・・・・。
俺は永久に注文しないと心に誓った。
花穂   「・・・・・スゴ・・・」
ヒサシはしゅーしゅー煙をたちのぼらせて完全に沈黙した。
千歳   「おまた」
奈緒   「ワオ!早いじゃーん!ウン辛そう!いっただっきまーっす!!」
セイ   「寝起きなのに元気だな」
奈緒   「寝起きだからテンション高いのよ!」
セイ   「高血圧だな・・・」
奈緒   「ほどよく辛くって美味しいー!!」
セイ   「俺も腹減ったし、いただきー」
俺が注文したのは『カシミールチキン』ってヤツだ。
いまだにグツグツ煮立ってるカレー鍋と皿に盛られたライスの相性は大変よろしそうだ。
付け合わせ感覚でポテトサラダとスープがあるが、箸休め的なオマケだな。
やっぱメインのカレーはイイ色で美味そうだ。
中ではでっかいチキンがじっくりカレーを染み込ませている。
早速食ってみよう。
セイ   「ぱく・・・。あ、うんめえ」
縄田   「そうッスね。店員はヘンだけど味はサイコーっス」
千歳   「・・・・・」
縄田の背後に突如黒い影が!
奈緒   「縄田クン後ろー」
千歳が縄田をエプロンで覆い隠す。
縄田   「ぎゃああああ」
解放された縄田は白目を剥いてピクピクしている。
いったいエプロンに隠された時なにがあったのか。
千歳   「口は災いのもと」
花穂   「・・・・・△」
縄田   「・・・・・」
縄田は完全に沈黙しました。
奈緒   「なんか静かになってきちゃったし、そろそろ本題に入ろうか」
セイ   「そうだな・・・」
奈緒   「手に入れたんだって?」
セイ   「ああ。コレだろ?」
奈緒   「あー、すごーイ!よく手に入ったわねー」
セイ   「意外に楽勝だったぞ?そんなムキになって探さなくても出回ってるって」
奈緒   「いや、アタシらにはサンプルが無かったからサ。
      判別できなきゃ探しようがないじゃん」
セイ   「確かにそうだな・・・。身にしみてよくわかるぞ」
奈緒   「なんか実感こもってるわね・・・。ま、いいわサンキュ☆」
セイ   「どーいたしまして」
奈緒   「どこで手に入れたの?」
セイ   「いろんなトコ。まだいっぱいあるから何個かやるよ」
奈緒   「そうなの?じゃあ全部よこしなさい!」
セイ   「ヤだね」
奈緒   「アンタ、それ使うつもりじゃないでしょうね〜?」
セイ   「それはない。でもサンプルくらい持っててもいいだろ」
奈緒   「普通は違法だよ。でもまあいいわ。
      持ってるとなにかと便利な場合があるんでしょ?アンタ達の世界じゃ」
セイ   「そゆこと」
こういうモンでも時と場合によっちゃ通行手形みたいなコトに使える場合がある。
見せれば話もはやいしな。
奈緒   「でもよくこんな短時間で手に入れたわよねー」
セイ   「スゲーだろー」
奈緒   「さすがに警察にまでは情報流れないけど、
      異常な速度でかなり出回ったってのは本当なのね・・・」
セイ   「そうだな。なんか結構おおっぴらに宣伝してるみたいだぞ」
奈緒   「そうなの?」
セイ   「ああ。ヤケに堂々としてるもんだからなんか腑に落ちないくらいだ」
奈緒   「そうなんだ・・・」
セイ   「やっぱり急激に広めるには
      それだけ分かり易くサバかないと無理なんじゃねーの?」
奈緒   「でも危険すぎない?警察には口割らないように躾けてあるみたいだけどサ」
セイ   「ああ。ソレ手に入れたトコもいやに不用心だったんだ」
奈緒   「なにかおかしいわね・・・」
セイ   「まあな。でもそのクスリは本物だぞ。それは間違いない」
奈緒   「うん。なんか裏がありそうな気がするなぁ・・・。勘だけど」
セイ   「ま、アトはそっちで調べてくれ」
奈緒   「よし、じゃあコレを鑑識にまわして、よく分析してもらいましょ」
セイ   「なんで奈緒サンがこんなの探してたんだ?」
奈緒   「アタシの追ってるホシが、コレの常習者なのよ」
セイ   「・・・それってまさか」
奈緒   「・・・・・『eater』」
セイ   「なるほどね」
花穂   「スッゴーイ!奈緒サンあの『イーター』追ってるンだ!」
奈緒   「そ・よ〜ん。ちゃんと仕事してんだから。見直した?」
花穂   「カッコイイ〜」
奈緒   「惚れちゃダメよ」
花穂   「レズじゃないよォ」
奈緒   「あら残念」
セイ   「どっちだよ」
奈緒   「あー食べた食べた。お腹いっぱい」
セイ   「早いな、もう食ったのか?」
奈緒   「早メシ早●●芸のうち」
セイ   「食べ物屋でそれはあんまり・・・」
奈緒   「そんじゃ先にあがるわね。バイバ〜イ」
セイ   「鑑識の結果俺にも聞かせてくれよ」
奈緒   「んー・・・ま、いいわ。でーも、ト・ク・ベ・ツ・よ」
セイ   「ハイハイ」
奈緒   「それじゃねー」
奈緒サンは再びパトカーを走らせ都会の喧噪に溶け込んでいった。
残された俺達はゆっくり食事を楽しもう。
セイ   「それじゃ残り食っちまおうか」
花穂   「そだね」
セイ   「しかし奈緒サンが消えると急に静かになるよな」
花穂   「そうだね」
セイ   「そういやヒサシも縄田も失神したままだし」
花穂   「・・・・・」
セイ   「・・・ん?どうかしたか?」
花穂   「・・・・・ふたりっきりだね・・・」
セイ   「へ?」
花穂   「なんか今って、・・・デートみたい・・・」
セイ   「そ、そーかあ?」
花穂   「あはは、なんか緊張しちゃうよ。
      いっつも誰かいるのが当たり前だから・・・」
セイ   「厳密に言えばいまもいるんだが・・・」
なんか・・・気まずいんですけど・・・。
花穂   「・・・・・」
セイ   「・・・・・」
花穂   「・・・なにかしゃべってよ」
セイ   「な、なんだよ突然」
花穂   「沈黙は・・・苦手だから・・・・・」
セイ   「・・・んなこと急に言われても・・・・・」
花穂   「・・・・・」
セイ   「あのなー、さんまさんじゃねーんだから、
      いきなりしゃべりだすのは難しいんだぞ」
花穂   「それじゃどうするの?」
セイ   「ぼーっとしてればいいんじゃねーの?」
花穂   「そんなのつまんない」
セイ   「ワガママゆーな。恋人達だってずっと喋り倒してるわけじゃないだろ?
      時には無言で見つめ合う時間も大切らしーぞ」
花穂   「じゃあそうしてよ」
セイ   「へ!?」
花穂   「・・・・・」
うっ・・・。
じぃ〜っと見つめられているぞ。
どうしたものか・・・・・。
などと考えてるうちに自然と見つめ返している自分に気付く。ヤバい。
花穂   「・・・・・この後は・・・どうするの?」
セイ   「そ、それは・・・・・普通なら・・・・・」
オイオイ!
なんなんだよ!?どーゆー展開だよ!
花穂   「ねえ・・・・・」
セイ   「・・・・・・だから・・・・・」
花穂   「・・・なに?・・・」
セイ   「・・・う・・・・キ・・・」
縄田   「うわあああああ!!!!!」
セイ   「だあー!!!」
花穂   「・・・・・」
縄田   「はあはあはあ・・・・・」
セイ   「どうした!?突然」
縄田   「あ、セイさん・・・。あ、悪夢です。悪夢を見せられてました・・・」
セイ   「見せられた?」
縄田   「はい!なんかそんな感じがするんです!」
セイ   「そうか、そりゃ気の毒だったな」
縄田   「恐かったッス〜・・・」
セイ   「そうかそうか、よしよし」
花穂   「・・・・・」
縄田   「死ぬかと思ったッス〜」
セイ   「おお、可哀想に」
花穂   「・・・・・そのまま死ね!」
縄田   「そ、それはヒドイっス〜」
セイ   「オイオイ、花穂・・・」
花穂   「あによ!そっちで勝手にホモってれば?」
セイ   「ホ・・・!?」
花穂   「あー、バカバカしい」
セイ   「・・・・・なんなんだよ」
それからしばらくしてヒサシも復活し、かなりの長時間店に居座って無駄話に興じた。
水のオカワリは何度繰り返したかわからない。
ま、たまにはのんびりこんなふうに過ごすのも悪くない。



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