「バイキルト」
「今よ、勇者」
「うおおおおおおぉ」

 ここはアレフガルドいけにえの祭壇の間。

 闇の世界の大魔王と、僕らは最後の戦いを繰り広げていた。

 ザシュ

「ぐおおおお」
 僕の剣が、魔王の心臓を貫く。
 闇の魔王は断末魔と、不気味な言葉を残して、その力を失った。

「やった。魔王を……」
「私達大魔王を倒したのね」
 歓喜に震える仲間達。
 幾多の血と汗と涙の先に、僕らは勝利と栄光としばしの平和を手に入れた。

 僕の手には、伝説の神剣、ロトの剣が握られていた。


 暗く深い地下迷路。
 下りて上って、また下りて。
 果てしない暗闇の世界に下りていく俺。
 照明呪文の明かりに照らされて浮かぶのは、ひとつの宝箱。
 恐る恐る開ける俺様。
「これは……」
 中に入っていたのは、伝説の勇者の剣。
 両手で、その柄を握ると、その刀身は羽よりも軽く、全てを吸い込むような聖なる光の祝福を放っていた。
 剣と魔法と勇気に長けた青年に、その剣はとても似合っていた。
「これで、竜王を倒せるな」


 襲い掛かる魔物の群れをなぎ払い進んでいくぼくら。
 魔王の居城だったとされるこの城の奥深くで、ぼくらはひとつの宝箱を見つけた。
「おい、すけさん、開けてみろよ」
「なに言ってんの、あんたはこういう時の為に先頭に立ってるんでしょ」
「え〜またオレ〜?」
 不服そうに、青を基調にした装備に包まれた逞しく優しげな青年は、その言葉とは裏腹に、別に恐れるふうもなく宝箱を開いた。
 中には一振りの剣。
「これって……」
「この紋章……これロトの剣だよ」
「ご先祖様の伝説のつるぎか」
 剣の扱いに長けた青年は、伝説の聖剣を軽々と扱った。
 羨ましそうに見つめる仲間のふたり。
「う〜ん。でも……」
「なあに?」
「これ力を失ってるか、封印されてるかしてるみたいだ。今持ってる光の剣のほうが、オレには合ってる」
「ええ!?」
 戦士の言葉に驚くふたり。
「そうだ。これすけさんが装備しなよ」
「え?」
「今持ってる、まどうしの杖よりはマシだぜ。すけさんなら、装備できるはずさ」
「でも、ぼく……」
「リーダーがああ言ってるんだから、しっかり持ってみなさいよ。アンタも男でしょ」
 気の強い仲間の女魔法使いに急かされて、剣を握る。
 伝説の剣は、少し、おっとりした青年の両の手に、自然に収まった。


「やれやれ……」
 襲い来るメタルハンターやダースドラゴンを退け、商人はもっと不思議なダンジョンの奥深くに来ていた。
 ものすごいお宝を求める、求道者である彼は、複雑な迷路や、難解なトラップも乗り越えて、その最深部近くまで来ていた。
「よし、ここで、とっておきのこのパンを」
 ぱくっ
 暇を見つけては、パンや、種や、時には草をほうばる商人。
 彼はちょっと太っていた。
 ここの、仕掛けや、同じ商人仲間? のガーゴイルの追撃も退け、宝箱の前に座る。
「さあてと、ここのお宝は……」
 中に納まっていたのは、一振りのつるぎ。
 名のある名剣のようだ。さっそく鑑定する。
´伝説の剣。すごい攻撃力だ。´
「こりゃあ……すごい」
 聖剣を振り回し、凶悪なダンジョンのモンスターをなぎ払う武器商人。
 彼の名はトルネコ。
 彼の体型はちょっと太めだった。

「くっ」
 おかしな侍と戦いを繰り広げる冒険者達。
 相棒が倒れ、このままでは敵わぬと悟ったのか、侍は新たな剣を振りかざした。
「これぞ、伝説の剣よ!」
「うわあ」
 1951ダメージ!
 侍は続けて飛び上がり、構えをとる。
「ふんっでやあっいやあぁ。いくぞっ、必殺剣! でいやあ!」
「ぐほおっ」
 5222ダメージ!
「ああっバッシュが死んだ」
「アレイズ」
「王女、助かりました」
「なんなの? あのつるぎ!」
「どうやら、伝説の名剣らしいな」
「あれも欲しいなあ……」
 散々侍から武具を盗んでおきながら、更に獲物を狙う青年がひとり。


「アンタ、なんだいそれ」
「ああん。これか……」
 幼馴染みの相棒に聞かれてぶっきらぼうに答える少年。
「これは、俺が昨日ダンジョンで獲ってきた剣さ」
「へえ。すごいんじゃないかい? このつるぎ」
 吸い込まれそうな輝きに驚くゲルダ。
「なんだいこれ。なんて剣なんだい。どうやって手に入れたんだい?」
「へっへっへっへ」
 得意そうに笑う少年。
「この剣、アタイにくれるなら、アンタのお嫁さんになってもいいよ」
「やだよ」
「ちぇっ」
 残念そうな少女。
(でもこれ、勇者にしか似合わない気がするんだけど……どうして盗賊のアンタが……)
 少年は鼻くそを穿り出すと、無造作に手に持っている剣にすりつけた。


 伝説の勇者の剣は、今日も静かにその輝きを放っていた……