お礼SS■海とネコと彼氏・3■
二人を見送った後、要と真咲はどちらともなく大きく息を吐き出した。
そして、顔を見合わせて笑う。
「びっくりしたなぁ」
「はい。ショッピングモールのポスターそのままで、ビックリしました」
要は赤くなった頬を両手で覆う。
「だな」
要の言葉に同意しながら、別れ際の葉月の言葉を思い返す。
(「頑張れ」って、コイツへの態度、そんなにあからさまだったか、俺)
・・・違うだろう。きっと葉月珪にも同じようなことがあったに違いない。藤木冬子は外見はまったく違うが、醸し出す雰囲気に要と似たものを感じる。
『天然属性』。
(はば学の王子も苦労してるんだな)
自分よりも年上でしかも有名人の葉月珪も同じような苦労をしていると分かって、真咲は同じ男として親近感を覚えた。
頬の上気した要を見て、ふと不安がわきおこる。
(やっぱ、コイツも王子様的なヤツの方がいいのかな?)
「ほら」
「ありがとうございます」
真咲から缶を受け取ると、要は頬に当てた。
(うぅ〜、先輩に気づかれちゃったかなぁ。・・・藤木さんにはばれちゃってるよね、私の気持ち)
帰り際に向けられた、あの笑顔は絶対に。
口に含んだレモンティーが心地よい冷たさで、喉を流れてゆく。
(でも、いいなぁ。『彼氏』って、私も言えたらなぁ・・・・)
葉月珪を紹介したときの冬子の表情はなんとも言えず可愛くて、そんな彼女がとても羨ましかった。そんな風に思いながら、隣で缶コーヒーを飲む真咲にこっそり視線を向ける。
太陽が西に傾き始めて、辺りを包む光が赤みを帯び始めている。その光に縁取られた真咲の横顔に、要は思わず見とれてしまった。
何か考えこんでいるように黙っている真咲の表情が、いつものさわやかなお兄さんといった雰囲気とは違って、ずいぶんと大人っぽく見える。3つの年の差を、こんなとき大きな壁のように感じてしまう。
「どうした?」
「な、なんでもないデス・・」
ぶんぶんと首をふりながら要は、自分の顔が赤くなるのがわかった。
(気づかれませんように・・・)
「そうか? さてと、そろそろ帰るか」
コーヒーの残りをぐいっと飲み干すと、真咲は大きく伸びをした。長く伸ばされた手が空を掴むような仕草をする。そして腕を下ろすと、その手を要に差し出した。
「え?」
「さっき何度か砂に足取られてたろ。だから、手貸してみ」
要はじっと真咲を見上げる。
「どうした?」
「先輩、私のこと子供扱いしすぎです」
ぷぅと頬を膨らませた要に、真咲は吹き出す。
「くっくっくっ・・・お前、ホントにおもしろいなぁ」
「先輩!」
その言葉にますますむくれる要の頭に手を乗せて、わしわしと撫でる。柔らかな髪が指の間をすり抜けてゆく感触に酔いそうになって、真咲は理性のブレーキをかけた。
「俺が安心するんだ。大人しく貸せって」
「本当ですか?」
「お前に嘘ついてどうするよ。ほらっ」
まだ疑いの眼差しを向ける要の手を強引に掴む。華奢な手は、真咲の手の中にすっぽりとおさまった。
「・・・・・」
自分とは違う大きな包み込むような手。
やっぱりこの人に少しでも近づきたいと思う。
(いつか”妹”から卒業して、先輩と同じラインに立てるようになってみせる!)
さっきまでのマイナス思考を胸の奥にしまいこみ、要はぐっと決意を固める。
「もしかして、やだったか?」
そんな黙りこんでしまった要に、真咲は困ったように眉を寄せて握った手を離そうか逡巡する。
「・・・イヤじゃないです」
波の音に消されてしまいそうなほど小さな声。
「え?」
よく聞き取れなかった真咲が眉をひそめると、要は顔をあげてにっこりと笑う。
「先輩が安心するなら、しょうがないから手を繋いであげます」
「なっ!」
「ほら、先輩。夜になっちゃいますよ。早く帰りましょ」
あっけにとられた表情の真咲の手をぐいっとひっぱると、要はすたすたと歩き始める。
「おまえなぁ」
真咲はそのうしろ姿に仕方がないといった笑みを一瞬浮かべると、要の隣に並んだ。
「じゃあ、とりあえず駐車場に戻るか」
砂浜に手を繋いだ影が長くのびて、ふたりの靴跡が続いていく。
ようやく終わりましたvvv
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