琴・三味線の技術改善 
 開発趣旨
 琴の糸締めは音色や演奏に影響を与える大切な作業です。糸締めが適切でないと、音色も悪く琴柱の並びに苦労しながら弾くことになります。
糸締めは、腕力と経験を有する職人技であり、技に差が有るのも仕方のないことです。
此の職人技を機械化出来れば誰でも正確な糸締めができて、綺麗な音色を提供できると考えます。
三味線の皮張りは音色に影響を与える大切な作業です。伝統的な勘に頼る方法に加え、張り具合を数値化することにより統一化されて良い音色を提供できると考えます。 
和楽器における伝統技術は先人により培われた完成度の高いものであり、技術の継承は最も大切と考えます。しかし、時代に即した開発・改善も少しは必要と思います。

本を頼りにHPにも挑戦しました。以下、琴・三味線における私の改善と開発例です御覧ください。
 
 
 
 琴の糸締め装置の開発経緯
ずいぶん前になりますが、父の糸締め作業を見て糸締めを機械化したいと考えて、糸締め装置に挑戦しました。初代の装置はデッサンや思考も不完全な状態で取り掛かり、製作途中で何度も挫折しました。 
数年後、更にアイデアを練り直し現在の基本形の装置を作成しました。それから暫くして様々な糸締め機が販売されました。糸を引張るだけの簡易な装置、装置自身が複雑で重くて活用し難い、どれも決定的な機械化には到達していませんでした。
当時の基本係の装置は糸を引っ張る部分がカチカチと段階的であり、弱過ぎたり、強過ぎたりと扱い難く、活用方法でなんとか対応していました。当時、私は勤めと絵画の公募展などで多忙を極めており、糸締め装置の改良を進めるには至りませんでした。装置を完成させる環境が整い、改めて欠点の克服に挑戦しました。
 
糸を引張る部分において、必要張力の手前までカチカチと段階的に素早く引張れ、必要張力手前から無段階となり、糸止め後は素早く解除できる。
こんな都合の良い装置を基本形の装置に追加することが必要となりました。アイデアが偏るのを防ぐためにアイデアが自然に浮かぶのを待ちました。
長い時間を要してデッサンを描いては潰す、描いては潰す思考錯誤を繰り返しました・・・・・・・・。 私にとって一番楽しい一時でありました。
此の装置の完成により、ミリ単位の糸締めが可能となりました。
 糸止め装置も作成しています。此れも、少し改善の余地を残していますが、自前の工具では限界があります。現在は、小改善と活用方法で対応が出来ています。
 
  糸締め装置の使用例
手締めでは、糸を引っ張り上げて放す勢いで糸を張ります。扱きが強いと糸の弾力性が失われる恐れがあります。
此の装置の長所は、糸と琴に優しい方法で糸をゆっくりと必要とする量だけ引張るために、糸の弾力性を失いません。又、雲角が糸で削れることも、糸が摩擦熱で綻ぶことも有りません。
糸を引張って止める前の段階で調弦や琴柱を移動することが出来るために、間隔調節も容易で正確な糸締めができます。
操作には少し練習が必要ですが、 腕力や経験は全く必要としない等です。
 此の装置の欠点は、糸毎に糸を挟む装置の脱着が必要となるために、手締めより多少時間が掛かります(糸を引張りながらの調弦や締めまし作業などの為です)。
 
 
写真は、琴の竜尾に装置をセットした状態です。
糸を引張る装置と糸止め装置は、写真右側に有りますが、非公開です。

柏葉に三味線の皮を敷いて保護しています。竜尾の上部が開いており、操作性に優れたデザインに仕上がっているのを想像して頂けると思います。


 
   


写真は琴に糸を通した後、黒い琴柱を定位置に置いて糸締めをしています。
手締めでは糸に松脂を塗りますが、微調節の邪魔になるので塗りません。

『 取引先に特注した黒い琴柱は、転倒防止のために富士形の倍の幅になっています 』

糸を締めた後に、全ての琴柱を立てて三日程度置き、糸を馴染ませます。
   
   



写真は、黒い琴柱に掛かった糸を締め直しています。

『 三日程度置くと全ての糸が緩みます。緩んだ量だけ締め直しをします 』
暫く置いて、狂いが無ければ完成です。

琴柱を立てたままで締め直しができるので、間隔調節は容易です。


   
 琴の豆知識 
桐は軽くて響きが良く、杢目も綺麗で琴に適した材料です。天然の桐に同じものは無く、琴に適した材質〜適さない材質と様々であり、様々な琴が作られています。
 琴は糸の振動を琴柱に伝えて竜甲を
琴に適した桐で作られた竜甲は糸の振動に敏感に反応するために、良い響きと豊かな余韻が期待できます。
琴に適さない桐で作られた竜甲は
糸の振動を吸収するために反応が鈍く、響きと余韻は適した桐より劣ります。
さらに、琴の響きと余韻を決定付けるものに作り(内部構造)があり、製造所の技術力が大きく影響します。『 琴の外観から作りの良し悪しの判断は難しいと思います 』

桐と作りが適切でない琴は、材質・構造的な欠陥などにより音色には限界があります。此の琴に正確な糸締めを施しても良い音色を引き出すのは難しいと考えます。
琴に適した桐と良い作りが備わった琴は、弾きこむほどに綺麗な音色を奏でるようになります。此の琴に正確な糸締めを施せば、琴固有のを引き出すことが出来ます。
   
   
  反省    
 当初、糸締め装置の開発目的は特許を取得して販売する事でしたが、和楽器の状況を考慮して変更しました。
此の糸締め装置は諸刃の剣で、地域の和楽器店に大きな影響を与える恐れがあると危惧します。
したがって、此の装置の特許申請も、公開もいたしません。

≪ 発明好きの和楽器店が思考錯誤の末、琴の糸締め装置を完成させた!! それだけです ≫
   
   
 
 
 三味線の皮張り装置の改善 
 三味線の皮張りは、三味線の音色に影響を与える大切な作業です。現在、皮張りは伝統的な手張りと機械張りがあり、どちらも長所短所を抱えています。
 琴の糸締め装置と同様、三味線でも早くから改善を施していました。伝統的な手張りでは、二組の紐を捻って締めるために微妙な張力調節が難しい、込栓を単独に引張れない、紐を幾重にも掛ける煩わしさなどの欠点があります。
しかし、皮張りには伝統技法が最良であると考えて装置の改善は最小限に留めていました。改善からずいぶん経って装置の更なる改善に挑戦しました。

 螺旋構造とバネで構成される金具の採用により、込栓を単独に引張れ、楔と螺旋を適時に使用することで微妙な張力調節ができます。又、強力なバネの使用により、適切な張力を長時間安定して維持できるようになりました。
バネの選択では、工業用バネにも適したバネが無く自作となりました。バネを半分に切断し、バーナーと油とグラインダーで処理します、過去の経験が生かされました。
 ≪ 此の皮張り装置は、伝統的な手張りの良いところを活かし、欠点を独自の改善で補っています≫
さらに、勘に頼っている張り具合を数値化(見る管理の導入)することの必要性を感じました。
 
 皮張り装置と乾燥用電球 
 

皮張りにおいて乾燥も重要な作業であり、多くの改善を施しています。
乾燥に適した電球の使用により、太陽光の様に優しく乾燥しています。










込栓より下に改善箇所がありますが、非公開です。 
 
 
 
 皮張用の張力計を開発しました
 勘に頼っている皮の張り具合を数値化したいと考えて、張力計に挑戦しました。
当初、張り具合の計測にウエートを使用する方法で考えていましたが、ウエートは3kg程度が必要です。
3kgのウエートは大きく、其れを受ける計測器も大型となって扱い難いものとなります。
計測器のベースまで作成してから行き詰っていました・・・・・・・。
特許庁のHPを検索しても、同様な思考方法の申請がされており、計測には少々難が有ります。此の思考方法ではダメだとの回答を頂きました。
暫く、アイデアが自然に浮かぶのを待ちました・・・・・・・・・長い時間を要しました。

皮の張り具合を測るのに必要な凹み量は幾ら必要か、調査した結果 2.0o以下で良いと解りました。
結果、ウエートを使用する思考から抜け出せ、一挙にアイデアがきました。思考錯誤を繰り返しましたが、写真の様なデザインとなりました。        
 
  測定にダイヤルゲージを使用する方法もありますが、ホームセンターで求められる材料を活用し、シンプルで安価に作成することにしました。

ヒンジのクリアランスを無くする改造にも、精密な作業が要求されました。
旋盤やボール盤は無く、自前の工具で作成可能なデザインに苦慮しました。

張り具合の計測は、写真の様に皮の四ヶ所の凹み量を測って判断します。
簡単な構造ですが、1/10oの精度で測れます。
計測例 津軽(-1.1o)、長唄(-1.6〜1.7o)

張り具合の判断は、指で押した感覚や弾いた音で判断するのが一番良い方法です。活用方法によりますが、張力計による数値も張り具合の参考になります。  
 
 
 
在職中は、改善活動や設備開発・品質管理などを担当していました。まだまだ好奇心旺盛で身の丈に合った開発や改善を楽しんでいます。
琴の糸締め装置の開発は一応完成したと言えます。三味線の皮張り装置の改善は少し考えれば出来る程度です。張力計はデザインが主であり、ほとんど開示したようなものです。
 私が考案した開発・改善以上の技術改善が推進されて、和楽器が発展することを望みます。
 
有難うございました。