昨年12月1日から4日間、広島地方裁判所で模擬裁判があり、広島県ろうあ連盟の理事と一緒に傍聴することができました。実際に面接やくじで選ばれた裁判員が審理に参加する裁判員制度と、被害者参加制度を取り入れた模擬裁判です。
私たちは、別室の傍聴室で中継される大型のテレビ画面で傍聴しました。カメラは固定され、傍聴席から審理の状況を映した画面です。裁判は、犯行を裏付ける証拠がないため、有罪か無罪か判断が難しい傷害致死事件を想定したものでした。私は2日目の午前と3日目の午前に傍聴しました。
2日目の内容は、証人への取調べです。傍聴室のテレビ画面の横で、県ろうあ連盟の理事に対して手話通訳をしました。通訳をした中で、次のような気付きや課題が出てきました。
・検察官の証人への取り調べでは、やりとりがどんどん進み、誰が話しているのか、通訳があいまいになってしまいました。今回は特にむずかしい専門用語はありませんでしたが、裁判独特の言葉として「原因にすぎません」「ほのめかす」「およそ理由は考えられません」「可能性が高い」「必然にたえがたい」など、手話表現に戸惑ってしまう言い回しもありました。また話し方の強弱など、細かいニュアンスまで通訳することの難しさを感じました。
・証人が口ごもったりしてはっきり聞こえない時、検察官や弁護人の声がはっきり聞こえない時、「裁判官がもう一度言ってください。」と発言した場面がありました。しかし裁判官には聞き取れていても、通訳者にはっきり聞こえない時にはどう対処していいのか。進行を止めて通訳者から裁判官に伝えていいのかなど、事前の確認が必要だと思いました。
休廷は思った以上にありました。しかしその間も評議室での話し合いがあり、通訳者としてはハードだと感じました。評議は円卓で、数人が同時に発言する場面もあり、通訳できない状況になってしまいました。
3日目は、被害者参加人の意見陳述・論告・弁護という内容でした。論告と弁護の時には両サイドの壁のディスプレーに資料の内容が映し出されました。裁判官・裁判員の机のモニター画面にも映し出され、資料も配布されていました。
一昨年の裁判の日に実際の法廷で裁判を傍聴した時には、緊張感もあり、聞きなれない専門用語も多く、司法場面での通訳経験のない私にとっては、裁判の通訳は難しいと感じさせられました。今回裁判員裁判を傍聴して、模擬裁判なので緊張感はありませんでしたが、「見て聞いてわかる裁判」をめざして、いろいろな準備が整ってきているなと思いました。裁判員になった聴覚障害者に情報を正しく伝えるためには、手話通訳の技術はもちろん、手話通訳者の位置や人数も含めたより良い環境と、司法場面に関わる人たちの理解が必要だと強く思いました。そのためにもみんなでしっかり協議・研修を重ねていきたいです。
山口 みゆき