終章
美里はただ静かに、その墓標を見つめていた。 「緋勇さん・・・貴方は・・・」 答えは返って来ないと解ってはいても問い掛けずにはいられない。 『龍斗はお前達を憎んでいるぞ!』 天斗の言葉が耳を離れない。 『もし俺が貴女の大切な人たちを、全く罪の無い幼い子供を、抵抗も出来ぬ人を無残に殺めたとしたら・・・ 貴女は俺を許せますか?』 龍斗にそれを問われたのは何時の事だっただろう? 答えはまだ見付かってはいない。 「私は・・・間違っているというの?」 小さく呟いて、龍斗の顔を思い出す。 決して感情を表に表す事はなかった。 しかし、彼は誰よりもこの街を愛していてくれたのだと、それだけは信じる事が出来る。 そう思っていた・・・ だが今は・・・ 「解らない・・・」 美里は暗雲立ち込めるくらい空を見上げる。 「解らない・・・」 「何が解らないのですか?」 穏やかな声に、美里は何処か暗い瞳で、そこに立つ少女の姿を見つめた。 「比良坂さん、もう大丈夫なの?」 「はい・・・」 そう言って笑う比良坂の姿に、美里は微かに胸が傷むのを感じた。 もしかしたら、少なくとも自分よりは彼のことを理解していたであろう、この盲目の少女。 「ありがとう。あの時貴方が来てくれなかったら・・・」 「私は、導かれただけ。貴方たちを助けたのは私ではないから・・・」 「え・・・?」 「もう戻ります・・・龍斗に会いたかっただけだから・・・」 比良坂はその笑みを崩す事無く、小さく頭を下げると、何事も無かったかのように踵を返した。 何処かおぼつかない足取りで去っていく彼女の後姿を見送りながら、美里は再び悲しげにその墓標を見つめた。 * 比良坂はただ歩き続けた。 目の見えない自分が、誰の手を借りる事無く歩む事が出来ることを、誰もがいつも不思議に思う。 だが、比良坂には不思議とそこに何があるか、感じる事が出来た。 それが例え命あるものでなくとも、その微かな気を感じる事が出来るのだ。 しかし今の彼女にはそんな事はどうでもいいことなのだ。 ただ悲しかった。苦しかった。 何故彼らは気付かないのだろう。 比良坂は思わずにはいられない。 「龍斗・・・貴方は本当に・・・これでよかったの?」 その時、比良坂はその気配に思わず立ち止まった。 ほんの数刻前に出会ったばかりの、彼に良く似た気配の持ち主。 「私を殺しに来たの?」 顔色一つ変えず、比良坂は言う。 「何故そう思う?」 男は、さして意外でもなさそうに逆に問い掛ける。 「あの人の死の原因は私だから。私は彼の願いを知りながらも、それを決して止めようとはしなかった。」 「言っただろう・・・俺が一番許せないのは自分自身だと。それに、あいつはお前たちが傷つく事を望ん ではいない・・・」 天斗の言葉に、比良坂は静かに微笑んだ。 「貴方達はとても似ています・・・」 比良坂の言葉に、天斗は微かに目を見開いた。 「そうか・・・」 そう言った天斗の自嘲気味な答えとは裏腹に、かれが何処か嬉しげなのを比良坂は感じた。 「これからどうするのですか?」 その問いに天斗は一瞬どう答えるか迷い、小さく 「さあな・・・」 とだけ答えた。 「そうだ・・・もう一人会いたい人物がいたんだった。そいつにでも会いに行くか・・・」 それだけ言うと、さっさと歩き出す天斗の後姿を、決してその姿を見る事こそ出来なかったが、比良坂は彼 の気配が消えるまで見つめ続けた。 |
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八へ |
これで終わりか・・・?
ってな感じになってしまいました。数ヶ月ぶりの更新でこれか・・・
最近気付きましたが、美里はかなり動かしやすい人物です。
ついでに言うと、天斗もかなり動かしやすい。
出来れば、邪のラストまで話は考えているので、
終わらせたらいいなぁ・・・と思いつつ自身が無い今日この頃です。(切腹)