面影 弐

 

 

 

町にたどり着いた趙雲はまず宿を探した。

幸いにも、宿はすぐに見付かりすぐさま部屋をとると、趙雲は宿の主人に傷薬と解熱剤を頼む。

男の傷は想像以上に深かった。

せめて熱が引けばと・・・とも思うのだが、意識の無い男に薬を飲ませるのは想像以上に厄介で、

匙で薬を口に運んでも吐き出すばかりだった。

このままでは衰弱していくだけだ・・・

そう思うと趙雲は解熱剤をそっと口に含み、そのまま男に口付けた。

男が薬を飲み干すのを感じ唇を放す。

そうしてようやく男の呼吸が落ち着いてきたのを見て、ようやく安堵の息を漏らした。

もしかしたら、案外早くに意識が戻るかもしれないと淡い期待をかけていたのだが、三日たって

も男の意識は戻らなかった。

 

「う・・・」

微かなうめき声に、趙雲は思わず男に近づく。

「大丈夫ですか・・・?」

そっと声をかける趙雲に気付いたのか、男はかすれた声で問い掛ける。

「お前は・・・誰だ・・・」

「旅の者です。通りがかった森の中で貴方を見つけました。・・・憶えていますか?」

趙雲の答えに、男は微かに首を振る。

「貴方の名前を言えますか?」

問い掛けるが、男はうなされたようにうわ言を言うだけだった。

「しっかりして下さい・・・」

「・・・れは・・・」

「え?」

「まだ・・・死ぬ訳には・・・」

かろうじて聞こえた男のうわ言に、趙雲は彼の手をそっととった。

「大丈夫・・・貴方は死にません。」

 

「俺はまだ・・・認めてもらっていないのだ・・・父に・・・それまでは・・・」

男の言葉に、趙雲は微かに目を見開いた。

「貴方の父上は、きっと貴方を認めていらっしゃいますよ。だから安心してください。」

そんな趙雲の声が聞こえたのだろうか。

男は安堵したように、微かに笑った。

そのまま男は再び意識を失った。

それでも、男が無事に生還したことに、趙雲は酷く安堵した。

 

 

 

 

 

 

男―曹丕の意識がしっかりとしたのは、それから更に三日後の事だった。

意識が戻ってすぐ、目に入ってきた見覚えの無い人物。

「お前は誰だ?」

何処か不遜な物言いに、趙雲はクスリと笑う。

「貴方は森の中で酷い傷を負って倒れていたのですよ。」

憶えていませんか?という趙雲の言葉に、曹丕はようやく数日前の出来事を思い出していた。

「アレから何日たった?戦いはどちらが勝った?」

途端に、傷を抑えうずくまる曹丕を趙雲は慌てて支える。

「余り無茶はしない方がいいです。貴方の怪我は、死んでもおかしくないほどに酷いものだった

んですから。戦いは曹操軍の勝利です。私が貴方を見つけてから、六日目です。」

「お前が・・・助けたのか?」

そう言って、曹丕は初めて自分を助けた人物の顔をまじまじと見つめた。

見た所、自分や父の配下に当たる武将ではないようだ。

まさか、袁紹の・・・?とも思い、その人物が、戦いをするような為りをしていない事に気付く。

(さしずめ、曹操の嫡子である自分を助けて謝礼でも貰おうという腹か・・・)

などと曹丕が考えている時・・・

「所で貴方の名前を伺いたいんですが・・・」

(違ったか・・・)

「俺・・・我を知らないのか?」

少し不機嫌そうに言う曹丕に、趙雲は首をかしげた。

「どこかでお会いした事・・・ありましたか?」

(と言う事は・・・この付近、あるいはわが国の人間では無いと言う事か。)

「子桓だ」

少し考えると、曹丕はあえて字だけを名乗る。

「子桓ですね。私は趙雲と申します。字は子龍。」

「何故助けた。」

何処かそっけなく尋ねる曹丕に趙雲は不思議そうに再び首をかしげる。

「貴方が倒れていたからです。」

「そういう意味ではない。理由を聞いているのだ。何が目的だ。金か?」

曹丕の言葉に、趙雲は不思議そうに見返してくる。

「貴方は人が人を助けるのに・・・理由が必要だと思うのですか?」

途端に曹丕は目を見開いた。

今まで自分の周りには、損得や打算ばかりの人間ばかりだったのだ。

そんな考えをもつ奇特な人間がいる事に、驚きを隠す事が出来なかった。

「まあ・・・他意が無い訳ではないんですが・・・」

少しバツが悪そうに言う趙雲に、やはり目的があったのかと、思い直す。

目的は金か・・・地位か・・・

やや軽蔑したかのような曹丕の視線に気付いたのか(多分、視線を向けられた事にだけ気付いた

だけで、曹丕の思惑には気づいていないようだが)、趙雲は少し寂しげに笑う。

「貴方が私の大切だった方に・・・少し似ていたんです。」

悲しげな・・・そんな趙雲の笑みに曹丕は思わず、目を奪われた。

 

 

 

 

 

 

曹丕が寝台から起き上がれるようになるまで、それから更に十日を要した。

起き上がれるとは言っても、趙雲に支えてもらってやっと、という状態ではあったのだが。

「そろそろ・・・戻ろうと思う。」

曹丕の言葉に、趙雲は「そうですか・・・」と寂しげに呟いただけだった。

「家の者も・・・心配をしていると思うしな・・・」

まあ、心配などしてはいないだろうが・・・と思いつつも、曹丕はこのまま趙雲といれば、離れ

がたくなってしまうと思い、あえて家族のことを言った。

「お前・・・家族は?」

「いません・・・」

「俺が大切な人物に似ていると言ったな・・・それはお前の想い人か?」

「はい・・・とても大切な方でした。」

「死んだのか?」

「はい・・・」

「そうか・・・」

それっきり二人の間を沈黙が流れた。

「明日・・・発つ」

「解りました。馬には乗れますか?」

「大丈夫だろう・・・」

「私の馬は、大切な方に賜った物ですので差し上げる事は出来ませんが・・・宿の者に

聞いて見ましょう・・・」

そう言って部屋を出ようとする趙雲を曹丕は思わず呼び止める。

不思議そうに自分を見つめる趙雲に、自分が何を言うべきか考えていなかった事に気付く。

「俺と・・・来る気は無いか?」

ふいに思いついて言ってみたのだが、趙雲は静かに首を横に振った。

何となく予想はついていた。

だが、もしかしたら・・・と微かな期待があっただけに、曹丕は落胆する。

もちろんそれを趙雲に悟らせるような事はしなかったが。

「そうか・・・」

「すみません・・・」

微かに目を伏せると、そのまま趙雲は部屋を後にした。 

 

 

 

 

 

 

 参へ


あいかわらずぴー様ヘタレ・・・
しかも子龍はなんだか惚けてるし・・・
史実ではこの時点で確かぴーは13歳・・・まあ無双設定と言う事で
(無双設定=なんでもありという事に私の中ではなっている)
ぴーは19歳くらい、子龍は16歳くらいかな?
多分本当なら無理やりにでも連れ帰って・・・というのが無双のぴーですが
私のぴーはヘタレ攻(強調)なので、あっさりと引き下がります。