序章
「お客さん!」 やや苛立たしげにかけられた声に、自分が眠っていた事を少年は自覚した。 目の前で店主らしき初老の男が何かを言っているが、耳にはその声の半分も聞こ えては来ない。 「とにかく、ここに居座るんなら何か注文してくださいよ!」 男はそういいながら、次々とかけられる客の声には一々愛想よく返す。 「・・・全く変な客ばかりだよ・・・」 なおもぶつくさ言いながら、男は立ち去っていく。 「ここは・・・」 辺りを見回すが、そこに見覚えは無かった。 「・・・俺は一体何を・・・?」 必死に今の状況を理解しようとするが、混乱した思考はなかなかその状況を把握 させてはくれない。 ズキン・・・とその額が微かに傷む。 そっと手を触れると、そこに刀傷があるのが解った。 「何故、こんな傷が・・・」 一体何があったのだろうか?自分は確か・・・ 「あのぅ・・・」 やや遠慮がちにかけられた声。声のした方向を見て、少年は目を見開いた。 思わず呟かれた小さな声・・・しかしその呟きは、目の前の少女には届かなかっ たようだ。ただ怪訝な眼で 、こちらを見ている。 「あの・・・大丈夫ですか?」 どこかお加減でも悪いのでは?と心配そうに話し掛けてくる少女に戸惑いを覚え ながらも、彼の中にはある 一つの確信があった。 「私は美里藍といいます・・・貴方は?」 しかし、そんな少年の様子に気付いているのかいないのか、笑顔で話し掛けてく るその少女美里に、少年は 静かになんの表情も浮かべずに答えた。 「・・・緋勇龍斗・・・」 何の感動も無く答える龍斗に、それでも美里は「教えてくれてありがとう」と笑 顔で言った。 果たしてこれは運命なのだろうか その瞬間から、彼らの運命の輪がゆっくりと回り始めた 果たしてそれに気付いたものがいるのだろうか 天(そら)に咲く花は 美しいけれど、決して手の届く事は無い どれほどに望んでも焦がれても 決して手に入れる事は叶わぬ物 天に咲く花 序章 完 |
この話は以前とあるサイト様に差し上げたものでした。
そちらが閉鎖されたようで・・・思い切って新たにUPさせていただこうかと思いまして。
どうせなら以前に書ききる事が出来なかった部分をどうせなら書いてみようかなと。
恐らくとんでもなく長くなる気がする・・・
多分お分かりだと思いますが、陰→陽の陽に入った部分からの話です。
それでは拙い話ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
瑞月 遥架 拝