小ネタ<3> マリュさん骨折編

 

 

 

     マリューが怪我をした。

 

 

      というのも、各界の要人が参列して行われた平和祈念式典会場にロケットランチャーを

     ぶち込んだバカがいたのだ。

      幸いにもそのバカが使用したランチャーがかなりの粗悪品で、命中精度がてんでなって

     なかったおかげで弾道は思いっきり目標をずれ、明後日の場所に落っこちたために直接的

     な被害は皆無。爆風で多少の負傷者は出たものの、死者を出すまでには至らなかったし、

     ドジな犯人グループはたまたま式典に参列していた、現在は平和維持軍所属のAA隊によ

     って一網打尽にされ、めでたく一件落着したのだが。

      運悪くというか何と言うか、たまたま艦を降り、式典の会場に身を置いていたマリュー

     が数少ない負傷者のリストに名を連ねることになってしまったのだ。

 

      事が起こったとき、彼女はとっさに身近にいた子供を庇って地に伏せた。

     その時、右肩のあたりに飛んできたガレキの直撃を受けてしまったわけで。かなりの激

     痛を覚えたものの、気丈な彼女はすぐさま立ち上がって指揮を執り、急を聞いて駆けつけ

     たムウたちMS隊に的確な指示を出して、事態の収拾に努めたのだった。

      そうして一連の事が終わった時、右肩の痛みを思い出したマリューは、彼女の負傷に気

     付いて必要以上に心配する恋人の強い勧めもあって、念のためと医務室を訪れたところ、

 

     「あら、まぁ、折れてますわね。ココ」

 

      レントゲン写真を前に、戦後AAに配属された新参クルーのひとりであるドクター・マ

     ナこと毬七・葛原・ウェーバー医師があっさりと告げた診断結果にマリューは半ば呆然と

     し、付き添ってきたムウの表情が一遍に暗くなる。

      マリューとて結構痛みを感じていたので、自分が当初考えたほど軽症ではないだろうと

     は思っていたが、まさか折れてるとは思ってもみなかったのだ。

     それはムウとて同様で、自分が艦に残ったりせず、側についてさえいれば…と激しく悔

     やんで表情が更に歪む。

 

      そんなふたりの様子を微塵も気にせず、軍医にして少佐の階級を持ち、カウンセラーと

     しても優秀なドクターは、レントゲン写真をわざわざ拡大して見せつつ、

 

     「ほら、ココ。ね、折れてるでしょ?」

 

      と呑気に追い打ちをかけてくれる。

 

      それに「えぇ、確かに」と呆然と応えながら、マリューは続くドクターの所見を聞いた。

 

     「ま、骨折といっても上腕骨結骨の端っこがちょびっとズレただけだし、手術とかギプス

     で固める必要もないでしょ。サポーターで固定して、当分は動かさないようにするってこ

     とで。全治6週間ってとこかな」

 

      そうしてドクターは蒼く痣の浮いた右肩に大きな湿布を貼り、肩当のようなサポーター

     を手際よく装着させ、マリューが軍支給の色気のないアンダーを身に着けるのを手伝って

     やると、「もういいわよ」と、衝立の向こう、怪我した当人より青ざめた表情をした付添

     人に声を掛けた。

 

     「今日のところは取りあえずこれで処置は終了。今夜はかなり痛むだろうから痛み止めの

     クスリを出しとくわね」

 

      それとも注射しとく?と訊くのに、ブンブンと首を振って答えるとドクターは更に続け

     てこう言った。

 

     「さっきも言ったけど、ギプスはしないといっても折れてることには変わりないから、あ

     まり無理はしないこと。なるべく固定して動かさないようにね。いいこと、くれぐれも激

     しい運動なんかしちゃダメよ」

 

      最後の言葉はマリューにではなく、背後でおどろ線を背負ったまましょげている男に向

     けられたものだったので、視線に気付いたムウが「なんだよ」と憮然として応える。

 

     「激しい運動をするなって、なんで俺に向かって言うわけ?」

 

      たとえ己の所為ではないとしても最愛の女性が傷つくことを防げなかったと、激しく自

     己嫌悪に陥り、やさぐれた感情で誰彼構わず八つ当たりしたくなるほど不機嫌極まりない

     ムウは、ドクターの態度に神経を逆撫でされてムカつき、ピリピリした雰囲気を隠すこと

     もせず、誰でもビビッってしまいそうな不穏な視線を返した。

     けれど豪胆だか呑気なのかよく判らない、独特の雰囲気を持つドクター・マナは、そん

     なムウの脅しにも一向に怯む様子もなく、

 

     「あら、言っちゃっていいの?」

 

     と、ケラケラと笑いながらマリューの背後から胸元へと手を伸ばした。そしてアンダー

     の首元を掴むやグイっと思いっきり引っ張って、豊かな胸の谷間を露にすると、もう片方

     の指で谷間のある一点を指し示す。

 

     「こーゆーのを残すようなコトはしばらくしちゃダメよ、ってことよ♪」

 

      ドクターの指し示したモノを目にしたムウは、思わず「げぇっ!」とうめき声を上げ、

     一連の様子から自分の胸元に刻まれたものが何なのかに思い当たったマリューは、相変わ

     らずケラケラと笑っているドクターの手を振り払うや、真っ赤になりながら大急ぎで胸元

     を隠した。

     「ム〜ウ!」

 

      低い声でお調子者な恋人の名を呼ぶや、真っ赤になった顔をあげてキッと睨みつけるマ

     リュー。

 

     「あれほど痕は付けないでって言ったのにー!」

     「うわー、ゴメンよ、マリュー」

 

      そうして思わず逃げ腰になっていた男へ怒りの一撃!

      しかも、負傷した右腕で(苦笑)

 

     「あら、まぁ、お見事」

 

      見事な一撃を喰らって、左頬を押さえつつ痛みに耐えるムウと、怒りのあまり骨折した

     ことも忘れて利き腕でパンチを繰り出し、その結果、当然の如く激しい痛みに見舞われ、

     苦痛に耐えるマリューに、この騒動の原因を作り出したはずのドクターは呑気に拍手など

     してみながら、

 

     「でも、艦長。右腕は使わないようにって言ったでしょ」

 

      激しく見当違いな忠告を送るや、続けて、

 

     「殴るんなら左手でねっ」

 

     にこやかにそうのたまうドクター・マナ。

 

     そして、そういう問題じゃないだろ?と、ふたりが心の中で激しく突っ込みを入れたの

     を知ってか知らずか、ドクターは更に笑いながらこう付け加えた。

 

     「痴話喧嘩も当分は控えたほうが良いみたいね〜」

 

      この台詞にふたりが脱力したのは言うまでもない。

 

 

             ―――ってことで、オチないまま終わる(笑)

 

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