※はじめに断っておきますが、ギャグです。ぢつに仕様も無いネタです。

      “夏の夜の夢”大阪MM合宿の際に生まれたバカネタ。

      ホントは誰かに“絵”にしてもらいたかったんだけど、とりあえず

 

 

         確 信 犯 その壱

 

 

 

       暑い。

       とにかく暑い。

       むちゃくちゃ暑い。

 

       ただいまのAA内の室温は40度を超えようかという勢いである。

       …というのも、空調システムが故障して、冷房どころか、暖房全開になっているからで

      ある。

       まさに蒸し風呂状態なわけで。

       最寄の無人島に停泊して修理にかかっているのだが、まだ今のところ状況が改善される

      気配はない。

 

 

      「あっち〜ぃぞ、くそっ!」

 

       あぁ、もうやってられるかよっ!とかなんとか悪態をつきながらMSのコックピットか

      らとびだしてきたのは、我らがエンデュミオンの鷹殿。

       こんな時でも愛機の整備は怠れないということで、殊勝にも頑張っていたのだが、どう

      にも耐え切れなくなってしまったらしい。

      ま、じっとしてても汗が噴出す始末だからして、無理もないが。

 

      「だー、もぉっ。早く直んないものかね?」

 

       ぼやきながら首にかけたタオルで額の汗を拭う。

       しかし、そのタオルも既に汗で湿っていて、あまり気持ちのいいものではないのだが。

       ちなみに鷹殿の制服はいつも着崩されてるが、本日はあまりの暑さに耐えかねて、既に

      上着はなく、見慣れた水色のタートルも脱ぎ捨てて、軍支給のアンダーシャツのみといっ

      た、何時に増してラフな格好だったりする。

       ま、これもマヂで暑いので仕方がないが。

 

      「まったくもう。案外外の方が涼しいのと違うか?」

      「いやー、天気が良いから照り返しが凄くて、やっぱ暑いらしいっすよ」

 

       呟きに間髪をいれずに返ってきた言葉に振り返ってみれば、そこにはAAの整備の要、

      マードック曹長のお姿が。

 

      「なんせ甲板で目玉焼きが焼けそうなくらいですからねぇ」

 

       冗談だかホントか判んないようなことをのほほんと言ってのける曹長のお姿は、きちん

      とつなぎを着ているものの、いつも首に巻いているタオルとは別に頭にも鉢巻のようにタ

      オルを巻いているという、情けないお姿。ま、これも額から流れ落ちる汗を吸い取るため

      のものであろうし、マヂで暑いのだからして…以下略。

 

      「なんだよ、曹長。こんなところで油を売ってる暇あんのかよ?」

 

       エアコンの修理はどーなってんだぁ?と突っ込みを入れれば、

 

      「なんかシステムプログラム上のバグがどうとかで、あっしには手におえないんですわ」

 

      とのお答え。

 

      「いま、坊主どもが必死に解析してますがねー」

      「ふーん」

 

       そう聞いて、鷹殿もそれはそれはと納得。

       曹長の言う『坊主ども』は、現在はプラント在住のくせに、たまたま地上に降りていて

      AAに乗り合わせていたキラと、戦後すっかりAAに居座ってしまったディアッカのふた

      りのことだろう。

 

      「…で、少佐殿の首尾はどーなんで?」

 

       整備は終わったんですかい?なんて訊いてくるのに、「いんや」と盛大に首を振る。

 

      「粗方んとこは終わらせたんだけどねー」

 

       それがさーと、手でぱたぱたと扇ぎながら言葉を繋いで、

 

      「も、なんつーか汗がぼたぼた落ちてくるもんでさー そのうちショートでもしちまうん

      じゃないかって心配になっちまってさぁ」

 

       だからちょっと休憩と冗談めかして話す鷹殿に、曹長も「そんな訳、あることないでし

      ょー」とがはがは笑って返す。

 

      「いやー、マジだって!」

 

       そして「見てよ、これ」と自身が身に付けたアンダーシャツの胸元を摘んで、引っ張っ

      て見せる。

 

      「ほれ。こんなに汗掻いて、も、ぐっちょりなんだぜ?」

 

       どれどれと覗き込めば、なるほど鷹殿の言葉どおり、アンダーシャツは汗でぐっしょり

      と濡れており、絞れそうなくらいである。

       汗で計器がショートってのも、あながち冗談ではないかもしれない。

      (いや、んなことあるわけがないけど 苦笑)

 

      「も、気持ち悪くってねぇ」

 

       今度は摘んだアンダーの胸元をぱたぱたと動かして、少しでも風を送って涼をとろうと

      する鷹殿。もっとも、その行為も焼け石に水、一時凌ぎにしかならないのだが。

 

      「あー、確かにその様子じゃ気持ち悪そうですなぁ」

 

       染み、なんて可愛らしいレベルじゃないほど汗まみれな鷹殿のアンダーシャツの様子を

      見ながら、曹長が深く相槌を打つ。

       そうしてついつい不用意な一言を口にしてしまうのだ。

 

      「そりゃもう脱いじまった方が良いんじゃないっすか?」

 

       それは何の他愛もなく口にした一言だったので、それを聞いた途端に、鷹殿の瞳がキラ

      リーンと意味深に光った事に曹長は気付かなかった。

       そして。

 

      「え?ここで?」

 

       恥ずかしいんじゃん、だの、曹長のえっちーだのと、お茶目に返す鷹殿に曹長が苦笑を

      もらす。

 

      「恥ずかしがる年頃でもないでしょーに」

 

       そうして「大体ねー」と付け加える。

 

      「ご婦人がいらっしゃるというわけでもないし、野郎ばかりの格納庫で、少佐の裸なんか

      見たって誰も騒いだりしませんって」

 

       手をヒラヒラさせながら、ほんとにこの人はもぉといった風情で言った曹長に、鷹殿も

      「それもそーだわな」と頷く。

       その様子も何だか微妙に楽しそうで、ここで初めて「何かやばかったかも?」と気付く

      曹長だったが、だがもう遅い。

 

      「んじゃ、ま、ちょっくら失礼して…」

 

       おもむろにアンダーを脱ぎ始める鷹殿。

       そうして、鍛え上げられた逞しい上半身が露になったとき、格納庫内の空気が一瞬にし

      て凍りつき、波を打ったかのように静まり返った。

 

      『おい、あれって―――』

      『うげっ…』

 

       一瞬の呪縛の後、あちこちから漏れ聞こえる囁きの渦。

 

      『あれ、だよな』

      『あ、やっぱり?』

      『ううう… 少佐、羨ましすぎ』

      『…なー、あれって、やっぱ艦長―――』

      『言うな、ばかたれっ!』

 

      「え? なになに? どしたの♪」

 

       さまざまな囁きが渦巻く中、中心に位置する鷹殿は物凄く楽しそうで。

      相対する曹長殿は「あぁ、しまった…」と己の不用心さに頭を抱え込みそうになったの

      だが、そんなことをしても目の前の御仁を喜ばせるだけと判っているので、なんとか平静

      を装おうと試みた。

       …が、曹長のそんな努力を嘲笑うかのように、うきうきと至極嬉しそうに、且つ、とっ

      てもわざとらしくとぼけてみせる鷹殿。

 

      「みんなどーしたのさ、ねぇ?」

 

       そうしてちらっと自分の肩のあたりに視線を落として、にぱぁと邪気のない――という

      よか有りまくりの笑顔を全開にしてみせる。

 

      「あ、もしかして、これ?」

 

       笑いながら、鷹殿は自分の肩から背中にかけてのラインを惜しげもなく衆目に晒す。

       そこには、くっきりはっきりと幾筋もの爪痕が残されていた。

       それを刻んだ爪の持ち主が何処の誰で、どういう状況でそれが残されるに至ったかなん

      て、ここに居る全員、訊かなくても判りすぎるほどに判っている。

 

       はぁああぁあぁ〜〜〜〜〜っ。

 

       格納庫を満たしていたざわめきはなりを潜め、かわりに呆れた溜息がそこかしこで漏れ

      聞こえる。

 

      「え? なに? これが気になるの? ええ?」

 

       そして、溜息の大元となった鷹殿はというと、そんな皆様の心情などお構い無しに、に

      へらっと笑い続けていた。そりゃ、もう、脳天気なほどに。

 

      「いやー、全然たいしたことじゃないって。参ったなぁ。ははははは…」

 

      ―――ぜったい確信犯だよ。このひとわ………

 

       も、突っ込んで欲しくて堪らないってな風情の鷹殿に対して、整備班の皆様の心情とき

      たらまさに深い溜息しかないわけで。

       そして、誰かが突っ込んで聞かない限り、この場が収まらないであろうということも明

      白な事実なわけで。

 

       問題は誰がその役を担うかってことで。

 

      誰だって、悪戯好きな猫に鈴をつけるような真似を進んでやろうだなんて思わないのだ

      から。

 

       はううぅうぅー………

 

       更なる溜息が格納庫を満たす。

 

      「あー、あの… 少佐」

      「なに?」

 

       意を決して、しぶしぶと、そりゃあもう気が進まないってのありありな様子で、声をか

      けた曹長に、対照的なほどにるんるんな気分満面な鷹殿が笑みを返す。

       その楽しそうな笑顔を見た瞬間、振り絞った気力が根こそぎ萎えてしまって眩暈すら憶

      えてしまった曹長だったが、それでも、ここで挫けてしまう訳には行かない。

 

      「つかぬことをお聞きしますがねー」

      「うん、なんだい?」

 

       あぁ、畜生! この脳天気男め!!

       その期待に満ちた顔を何とかしやがれっ!

 

       そう言いたくても言えないのが辛いところ。

 

      「あー、そのキズはいったいどうなされたんで?」

      「あぁ、これ? これはだなー、昨夜マリューとい―――」

 

       曹長が挫けそうな気持ちをなんとか気力を総動員して口にした言葉に、鷹殿が心底嬉し

      そうに答えようとした、その時。

 

       げぃいいい〜〜〜〜〜ん!

 

       小気味良い音が響いて、曹長の目の前から鷹殿の姿が消えた。

       呆気に取られながら、視線を下へ落としてみると、そこには分厚いマニュアルを挟んだ

      クリップボードの直撃を受け、散らばった紙束の中、踏んづけられたカエルのように床に

      張り付いた鷹殿の成れの果てがあった。

 

       次いで視線を上げれば、そこには、見事な投球フォームで固まったまま、肩を震わせて

      いる我らが大天使長、AA艦長、マリュー・ラミアスの姿が見て取れた。

 

      「お、お見事…」

       ぱちぱちぱち。

 

       ナイスコントロールでエンデュミオンの鷹を一撃で仕留めた艦長に、一同からぎこちな

      い拍手が贈られる。

       脳天気な鷹殿が撃墜させられて、しかし、これで問題が解決した訳ではない。

       むしろ、新たな火種の勃発か?というような状況なのである。

 

      「むぅ〜うぅ〜」

 

       低いひくぅい、その声音に、どれほどの怒りが込められているか、用意に推測できる。

 

      「なにすんだよぉっ、マリュー」

 

       素早く復活した鷹殿――タフなおひとだ――が後頭部を擦りながら抗議するも、当然マ

      リューは許す気もない。

 

      「なんだじゃありませんっ! あなたってひとはっ!! いったい、何を口走ろうとした

      んですか?!」

      「なにって、俺はただ真実をだなぁ―――」

      「言って良いことと悪い事の区別もつかないんですかっ! あなたはっっ」

 

       そうして問答無用でビンタを一発。

 

      「酷いよ、まりゅー」

 

       今度は腫れてしまった頬を擦りつつ、涙目で抗議する鷹殿。

 

      「昨夜はあんなに甘えてきたくせにぃ」

      「きゃああぁあぁぁっ! 何言ってるんですかっ!?」

 

       真っ赤になって、今度はグーの一撃。

 

      「大体、何です、そのだらしない格好は」

 

       士官なんだからキチンと軍服を着てください、と、かつての副長のような事を言う艦長

      は、このクソ暑いのにいつもどおりにキッチリと軍服を着込んでいた。

       もちろん、タイツ着用に喉元までしっかりジッパーで閉じられているのも変わらない。

 

      「だって暑いし」

      「だからってその格好はないでしょうっ!」

      「マリューはさ、暑くないの? そんな格好しててさぁ」

 

       せめて上着くらい脱いだら良いのに。

 

      「ほら、汗掻いてるくらいなんだからやせ我慢しないでー」

 

       その一言が艦長の怒りに完全に火をつけた。

 

      「……誰の所為だと…」

      「へ?」

      「…上着が脱げないのは、誰の所為だと思ってるんですかー?!」

      「え〜、俺の所為なの?」

 

       頭から湯気が立つほど怒っている艦長に対して、どこか嬉しそうな鷹殿。それがまた、

      忌々しいといったらありゃしない。

 

      「跡はつけないでって、いつも言ってるでしょうっ?」

      「だってぇ、マリューの肌ってば柔らかくって白くって、ちょっと強く吸うと簡単に跡が

      ついて面白いんだもん」

      「きゃああぁっ! そーゆーこと言うのも止めてって言ってるじゃないのっ!?」

      「なんだよ、今更恥ずかしがる事なんてないだろー 公認なんだしー」

      「それとこれとは話が違いますっ!」

      「違わないって♪」

      「違・い・ま・す!」

 

       喧々囂々。

       鷹殿と艦長の痴話喧嘩――以外の何物でもないだろう――は果てしなく続く。

       すっかり忘れられた形の曹長は、どうしたものかと思いながらポリポリと頭を掻きつつ、

      しばらく立ち尽くしていたが、どうにも埒があかないと判断し、溜息を漏らしつつその場

      を去った。

 

      「まったくもう、鷹殿も鷹殿なら、艦長も艦長ですわ」

 

       仲が良いのは良く判りやしたから、そーゆーのは他所でやってくだせえよ。

 

      そう進言したところで、ふたりとも聞く耳を持たないだろうことは判っている。

      判っちゃいるけれど、願わずにはいられない曹長なのであった。

 

 

 

 

             …ってことでオチないまま終わる(笑)

              暑さのあまりマリュさんが倒れちゃうとか、あれこれ

             考えたんだけど、オチつけられなかったので書き逃げ〜

              ちなみにシステムのバグとかAAの空調がどーなって

             るのかとか、まったく深く考えてませんので、こんなこ

             とあるわけないだろっとか思っても、突っ込みはナシの

             方向でお願いしまぁす。所詮ギャグですから(汗)

 

             追記:“その壱”なのは同系のネタがもひとつあるから。

                こっそり“その弐”に続くって事で(笑)

 

                      2004.9.23 UP

 

 

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