End Of The World

               Side:F−2

 

 

 

言われた通りにキチンと汗を流し、もちろん耳の後もしっかり洗って(笑)、濡れた髪を拭く

のもそこそこに、頭にタオルを乗っけたままシャワールームを出る。

 

裸のまんまとか、タオルを巻きつけただけとか、そーゆーあからさまな態度をマリューは嫌

うし、バスローブなんて洒落た物はこの艦にはないから、取り合えずマリューと同様、アンダ

ーシャツと短パンっていう部屋着を身につけといた。

ちなみにこれはさっきまで着てたやつじゃなくて、用意してあった新しい物。

こーゆーもの、ちゃんと用意しておいてくれるってのも、新婚家庭みたいで良いなぁと、さ

さやかな喜びに浸ってみたり。

 

シャワールームを出ると、室内の照明はすでに一段落とされ、仄暗いなか、ベッドサイドに

腰掛けて待っているマリューを見つける。

急く心を隠しながら、ゆっくり近づいて隣りへと腰を下ろす。

飢えたように沸きあがる衝動を悟られない様に――がっついてるように思われるのは嫌だっ

ていう無け無しの矜持故なんだが、濡れた髪のまま抱き寄せたりしてちゃバレバレだなと気付

いて自嘲する

 

「ちゃんと洗ってきた。これで宜しいでしょうか?」

 

 お伺いをたてながらキスしようとしたら、またしても止められた。

 

「ちゃんと髪を乾かさなくちゃダメでしょ」

 

      タオルを被せられ、ゴシゴシと、ちょっと乱暴に頭を拭かれる。

 

「ああ、別に気にしないのにぃ」

「あなたが気にしなくても、私が気になるんです!」

 

 相変わらずマリューさんの手は、容赦なく俺の頭をゴシゴシやっている。

 

「このままじゃシーツやら何やら、そこいらじゅうが湿って、全部取り替えなくちゃならなく

なるじゃないですか!」

 

 そんなのは嫌です、なんて仕様もないこと言うから、俺は思わず笑ってしまった。

 

「そんなこと言ったってさ。シーツは結局替える羽目になるんだから一緒じゃないの」

 

      その意味は判るよね?

思いっきり意地悪く笑ったら、「ばかっ」と先刻まで俺の頭を拭いていたタオルを投げつけら

れてしまった。

ちゃんと意味が判ったらしい。真っ赤な顔をして俺を睨んでいる。

でもそんな表情も可愛くてしかたないんだけど。

 

「も、焦らすのはナシだぜ、マリュー」

 

 腰を引き寄せ、頭の後ろに手を回して、深いキス。

 薄く開かれた歯列を割って奥へ忍び入り、舌を絡めて、何度も吐息を奪う。

 そのままゆっくりとベッドへ倒れこんで、柔らかな肌に触れる。

 零れ落ちる甘やかな声。

 しどけなく委ねられる細い身体。

開かれる扉。

 

 時を重ねて、想いを刻む。

 

 

      互いの想いを確認したあの時から、欲しいと思う気持ちは止められなかった。

 

      状況は絶望的なほど厳しく、掲げる炎は強くとも、また儚くて。

      希望<のぞみ>は捨ててないし、諦めるつもりもないが、重い現実は現実。

 

      快楽に震える白い肌を貪りながら、求めたことは“罪”だったのではないかと、今でも思う。

      触れなければ良かったのか、と。

 

      愛される歓びと満たされる想いに瞳を揺らす彼女の、美しいその貌の向う、シルエットの内

に潜むのは、喪うことへの大きすぎる不安。

 

 それでも、忘れた振りをして、気づかない振りをして、ただ、この“刹那”に縋って、しな

やかに背を反らす。

 

 一度は慟哭に身を沈めた彼女であるからこそ。

 

 触れなければ、求めなければ良かったのかも知れない。

 

 常に“死”と隣り合わせの“生”。

 戦場に生きるものの、逃れられぬ宿命。

 この身は明日には喪われてしまうかもしれない。

 いや、もしかしたら1時間後には消えてしまうかもしれない。

 

 それなのに?

 

      求める心は止まらない。

欲する手は伸ばされて、迷いと躊躇いを突き抜け、受け止められて、互いに瑕を印す。

 

 ひと時の夢に溺れ、融けあう悦びに身を任せ、流されていく。

 

      未来<あす>をも知れぬこの身で、恋に身を焦がして。

 

 

 

『――なかなかに可愛い女性だねぇ』

『手ぇ出さないでくれよ。やっと口説き落としたばかりなんだからな』

『ほぉ』

 

 宇宙で奇しくも同じ河岸に立つこととなった、かつての敵将・虎の旦那の感嘆は何を意味す

るのか。

 

『圧倒的に遺して逝く側に立つ可能性が高かろうに』

 

 愚かだと笑うなら笑え。

 

『ましてや一度は遺される側に身を置いた彼女だからな』

『二度目だから耐えられると…?』

 

 罪深いと責めるなら責めるがいい。

 

『さぁ、どうかな』

 

      俺はもう考えない事にした。

 

      葛藤も自嘲も、苦しみも哀しみも、

 

過去も、

 

未来も―――?

 

 

 

「…あっ、あ…あぁ……、ムウ…」

「……マリュー」

 

 互いに求め、高めあった熱い昂ぶりは遂に昇りつめ、一瞬にして解き放たれる。

 引き金は互いの名を呼ぶ声。

 押し寄せる波と、縋りつく細い腕。

そして流れに身を任せた後の、全身を包む心地好い倦怠感。

 

 余韻の残る肌を寄せ合いながら、眠りに落ちるまでの時間を過ごす。

忍び寄る夢は、優しいものだろうか。

 

 彼女にも、俺にも。

 

 

 

『そうだな、もし…、もしも、だ。“その時”が訪れた時――』

 

      むろん、そんな時が来ないに越した事はないが。

 

『彼女が再び前を向き歩いていくことを選び、あんたが生き延びてて側にいてやれるのなら、

立ち上がるのを助けてやってくれ』

 

      信頼に値する男だってことは判るから。

      俺と同じだって感じてしまうのが、ちょっと、どころか大いに癪に障るけど、な。

 

『だが』

 

 彼女は強い。

 けど、危ういほどに脆い部分も確かに持っているから。

 

『二度と立てないというのなら』

 

 彼女がそれを願い、望むのなら。

 

『その時は俺が連れて行く』

 

 そう決めた。

 虎の旦那は何も言わなかった。ただ肩を竦めただけで。

 

罪に罪を重ねることになっても構うものか。

 

 

 

「ん… ムウ?」

 

 絡めたままの指に力が篭もり、不安を帯びた瞳が俺を見上げる。

 

「あ、ごめん。起こした?」

 

 何でもないよと、安心させるためにキスをひとつ。

 

「もう、眠りな。それとも、もいっかいする?」

 

 俺の内の瞑い想いなど気づかせるものかと、軽く冗談めかして言えば、髪を撫でていた手を

払われた。

 

「ばか」

 

      そう言いながらも、身を起こした彼女は俺に覆いかぶさってくる。

そのまま熱烈なキス。

今日の彼女は何時になく積極的だ。

それはまるで、色濃くなる不安から目を逸らすかのようで。

 

再び熱くなる肌を受けとめ、彼女の求めに応じて抱きしめる。

 

 

 

「マリュー、愛してる」

 

      優しく名前を呼んで、想いの楔を打ち込もう。

      その魂に消せない瑕をつけて。

 

      それが彼女が進むための縁となるのか。

 

      あるいは、打ち砕く引き金になるのか。

 

 

 

      その答はきっと、世界の終りに出るのだろう。

 

      世界の終りに―――――

 

 

END

2003/09/26 UP

 

 

 

                《あとがき&言い訳 etc》

 

                  あぁ、もう、暗い。暗すぎるっ。我ながらなんて後ろ向きな話

                  書いてるんだろう。こんなのフラ兄じゃないやいっ!とお思いの

                  方、仰るとおりでございます。松崎もそう思いますとも。

                   だったら書くなよ。こんな話(怒) イメージだらけで判りにく

                   いし、文章メタボロだし、言葉の吟味が足りないし…(泣)

                   でも、終盤のネタバレを聞かされた辺りから、この話が頭から離

                   れなくて、これはとにかく書くしかないだろって状態だったので、

                   覚悟を決めてやっちゃいました。胸の痛い話は精神的に辛いので、

                   あんましやりたくなかったんだけど…

                   …で、書くからには誰かに見てもらいたいし、且つ最終回(こっ

                   ちでは一週遅れなのでまだ49話だけど)の放送前に何としても

                   UPしたかったので、ちょっと無理しちゃいました。松崎、寝て

                   ません(苦笑) 徹夜なんかしたの何年ぶりだろ。おかげでただ

                   でさえヘタレな文章がますますヘタレてて、ちょっと不満。近々、

                   書き直してやるーとか思いつつ、それよりも、さらに切なくなる

                   であろうマリュさんサイドのお話はどうしようかなってのが先決

                   問題ですね。書くのやめようかなとも思ったりしますが… さて。

                   取りあえず最終回と皆様の反応を見てから決めようかと思います。

                   あぁ、でも、取りあえずは最終回。どーなっちゃうんだろう。

 

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