PROPOSAL

           Everlasting U

 

 

 

      『一生、ずっと、そばにいる』

 

      『もう二度と黙っていなくなったりしない』

 

 

       新たな誓約を捧げたマリューの誕生日から数日後。

       ムウは珍しくもエプロンなど纏ってキッチンに立っていた。

 

 

      今日は日曜日。本来ならマリューの仕事は休みのはずだったのだが、何やら急用とかで呼び

      出されて行ってしまった。

       少し寂しくはあったが、現在無職の居候の身の上としては、駄々をこねるわけにもいかない。

      ま、先日の誕生日の際、かなり無理に休みを入れてしまったので、仕方ないかと諦めて、し

      きりと留守を気にするマリューを送り出した。

      …で、残されたムウは、最近はだいぶ身体の調子も戻ってきて、日常生活には差し障りもな

      くなってきたので、部屋の掃除に精を出してみたりしたあと、今はお昼には帰ってくるという

      マリューの為に昼食を用意してやろうかと料理に挑戦しようとしているところだった。

      凝ったものは作れないが簡単なものなら何とかなるだろうと、鼻歌などうたいつつ、ジャガ

      イモの皮を剥いていると、軽やかに鳴り響く電話のベル。

      多分マリューの帰るコールだろうと思いつつ、手近なヴィジホンを取れば、モニターには案

      の定彼女の姿が映る。

       もしもしと定型の挨拶を交わすと、画面の向こう、マリューが怪訝そうな表情を浮かべる。

 

      『…ムーウ、何してるの?』

      「見ての通り、昼メシ作ってんの」

 

      何をしてるも何も、見れば判ることなのだが、信じがたい光景なので思わず訊いてみたとい

      う風情なマリューに、にこにこと応えるムウ。

      そう聞いて、マリューの顔に一瞬浮かんだのは、ちゃんと食べれるものが出来るのかしらと

      いう不安と、キッチンがぐちゃぐちゃに散らかってしまうのではないかという懸念。

      無理もない。今の今まで、エンデュミオンの鷹と呼ばれた伝説のパイロットは料理も得意だ

      という話は聞いたことがないのだから。

      それでも、自分のために頑張る姿に文句などつけれるはずもないマリューが、すぐにいつも

      の笑顔に戻って次の言葉をかけようとした時、

 

      『えぇーっ! フラガに料理なんか出来んのかよー!』

      『ボクも初めて聞いた』

 

       マリューの背後から聞こえてきた声に、ムウが顔を顰める。

       それを見て画面の中のマリューが苦笑いを浮かべた。

 

      『ごめんなさいね。じつはカガリさんたちも一緒なの』

 

       マリューがそう言って画面から消えると、カガリとキラの姉弟が交互に顔を出した。

 

      『よっ。フラガ。元気か?』

 

       こっちはカガリ。

 

      『こんにちは、ムウさん。お久しぶりです』

 

       で、これはキラ。

 

       相変わらず性別を取り違えたような挨拶の後、ふたりはすぐに話をマリューに譲る。

 

      『ふたりがうちに遊びに来たいって言うんだけど…』

 

       申し訳なさそうに言うマリューに、ムウは苦笑いを浮かべながらも「構わないぜ」と返す。

 

      「んじゃ、ふたりの分もメシ作って待ってるな」

 

       そう言うと、途端に背後が騒がしくなる。

 

      『えぇーっ、やっぱりムウさんが作るんですかー? ちゃんと食べれるのかなぁ』

      『ちぇっ。マリューさんの手料理が食べれるかもって、楽しみにしてたのにぃ』

      『カガリー、それを言っちゃあムウさんが可哀相でしょ?』

      『なんだとぉっ。お前だってさっきあんなこと言ってたくせにー』

      『あぁ、ほらほらほらほら、姉弟ゲンカはやめなさい。ふたりとも』

 

       いつもの調子でじゃれあいを始めてしまう仲良しな姉弟の間をとりなしたあと、

 

      『それじゃ、これからみんなで帰るわね』

 

      待っててね、と笑顔を見せるマリューに「了解」と軽く返して通話を切った後、ムウは改め

      て腕まくりなんぞすると、キッチンに向き直る。

 

      「あいつらがびっくりするようなものでも作ってやるか!」

 

 

 

      しばらくして、ちょうど昼食の支度も終わった頃、まるで見計らったようにエアカーの到着

      する気配がして、きゃいきゃいと騒がしい声と共に玄関のドアが開けられる。

 

      「よっ、いらっしゃい」

 

       ムウが迎えに出ると、キラとカガリは、その見慣れない出で立ちに一瞬絶句する。

      まぁ、無理もない。ムウと言えば“軍服”っていうイメージが強く、私服姿なんぞほとんど

      見たことがないというのに、そのうえ今日はエプロンを着用し、ご丁寧に片手にお玉まで持っ

      ていたりするのだから。

 

      「わはははは… 天下のエンデュミオンの鷹も形無しだなー」

      「カガリー、それはムウさんに失礼だよ」

 

       カガリが豪快に笑う横で、キラが肩を震わせながら注意する。

 

      「ほっとけー。俺は今はただの居候なんだからしょうがないだろーが」

 

      ムスったれて応えたあと、その後ろでやっぱり笑いを噛み殺しているマリューを抱き寄せて、

      「お帰り」と頬に軽くキスするムウ。

      目の前で見せつけられた姉弟は、これくらいのこと、もう慣れっこになっているので別に慌

      てもせず、むしろ「今日は口唇にキスしないのか?」なんて逆に突っ込む始末(苦笑)。

 

      「急なことであまりもてなしもできないけど、さ、あがって」

 

      何時までも玄関先で騒いでいるのも何だからと、マリューが苦笑しながらふたりを招き入れ

      ようとするのを、「その前に」と真面目な表情で制するムウ。

 

      「時にアスハ代表や」

 

       名前ではなく肩書きで呼ばれて、カガリの表情が引き締まる。

 

      「SPの皆様は?」

 

      こう見えてもカガリはオーブの姫であり、亡きウズミの後を継いだ代表さまなのだ。本来な

      ら例え旧知の間柄の家と言えども、こんな風に気軽に訪ねるなど出来るはずではない。お忍び

      で遊びに来たと言えど何かあっては一大事。念を入れておくに越したことはない。そのあたり、

      ムウはよく弁えている。

 

      「影が何人か付いて来てる。心配は無用だ」

 

       まじめな顔で応えたあと、すぐに歳相応な表情に戻って、

 

      「それになー、キラも一緒だし、マリューさんだってついてるしな」

 

      これでもコーディネーターだけあって結構役に立つんだぞ、とキラを小突くのを見て、ムウ

      からも険しい表情が消える。

 

      「はは… 今の俺より役に立つかもなー」

 

       マリューにだって勝てないし、などと言って苦笑するのに、マリューも釣られて笑う。

 

      「確かに、あなたってば、相変わらず射撃の腕はからっきしですものねー」

      「筋力も落ちてるし、取っ組み合いでも負けちまうよ、きっと」

 

      そうして和気藹々と騒ぎながら家の中へ入った4人は、ムウが用意した昼食――これがまた、

      結構頑張った成果に驚き、食べて見てまた驚きと言った具合で楽しく過ごし、それからリビン

      グに移って食後のティータイムを迎えた。

 

 

 

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