「きゃははぁ〜ん。みんなぁ、呑んでるぅvv」

 

 砂漠の虎との決戦の戦勝祝いの酒宴はおおいに盛り上がっていた。

 レジスタンスも、この日ばかりは少々羽目を外す事を許されたAAのクルーたちも、皆、い

い気分で酒杯を傾けている。

 そんな中、一番羽目を外して盛り上がっていたのは、誰あろう、意外にもAA艦長、マリュ

ー・ラミアス少佐その人であった。

 

「ほらぁ、グイッと行きましょうよぉ。グイッと♪」

 

 すっかり出来上がった様子の艦長は陽気に笑いながら、誰彼構わず片っ端から酒を勧めまく

っていた。

 

「あらぁ、艦長のこのわたしの酒が呑めないって言うのぉ?」

 

 ほとんど脅迫に近いお酌を拒める者などどこにもおらず、ひとり、またひとりと沈んでいく。

しかし、他人に勧めつつ、同じペースで呑んでいながらいまだに健在な艦長は、かなりの酒豪

といえるのではないだろうか。

 普段なら先陣を切って艦長を牽制するであろうと思われる、軍規の鑑、ナタル・バジルール

中尉は意外なほど酒に弱かったらしく、真っ先に轟沈され、戦線離脱していた。

 

「…あ、俺も、もうダメ。後は任せた―――」

 

 ついで、かなり善戦していた我らが撃墜王、栄えある『エンデュミオンの鷹』の称号を持つ、

ムウ・ラ・フラガ少佐も敢え無く落とされてしまった。

 

「むうぅ… なんてぇ女だい。まったく………」

 

 そうして、最後まで抵抗を試みていたレジスタンス『明けの砂漠』のリーダー、サイーブま

でもが陥落した時、そこには陽気に笑い続けているマリュー艦長以外、起き上がっている者な

どいなかったのである。

 

「あれぇ、みんなぁ、どうしたのぉ〜 だっらしないなぁ」

 

 屍累々たる宴会場を見渡しながら、艦長はきゃははと笑っていたが、不意にその笑い声が止

まったかと思うと、パタリと倒れこみ、手近な机に突っ伏した。ようやく酔いつぶれたらしい。

 

 そうして、誰も動く者の居なくなった宴会場にしばしの静寂が訪れる。

 しかし程なくして、モゾモゾと動き出す影がひとつ。

 

「いやぁー、参った。エライ目にあったぜ」

 

 ゆっくりと頭を振りながら立ち上がったのは、金の髪の青年将校だった。

 

「酒乱らしいっていう噂は聞いてたけど、まさか、これほどとはな」

 

 中和剤を先に飲んどいて良かったぜ、と苦笑するこの男。ぢつは艦長も酒宴に参加すると聞

いた時、今のこの事態を予測して、アルコール中和剤をこっそり服用していたのである。お陰

で艦長の無茶に付き合いつつも他の者よりも早く回復する事ができたのだ。

 さすがと言うべきか。もっとも、これくらいの先見の明がなければ、エースパイロットの称

号を得て、且つ生き残ることもできなかったであろうが。

 

 ポリポリと頭を掻きながら机に凭れかかっている艦長に近づき、様子を伺えば、実に幸せそ

うな表情を浮かべて眠っているではないか。思わず苦笑が深くなる。

 

「おーお、幸せそうな表情しちゃってまぁ。」

 

 あまりに無邪気で無防備なので、このまま寝かせてやりたいとも思うけれど、そうも行かな

い。

 

「艦長、かーんちょ。起きてくださいよ」

 

 セクハラって言われるかな、などと思いつつ、ちょいちょいと艦長の頬を指で突付く。

 

「艦に戻らないとマズイっしょ?」

 

 しかし、すっかり良い気分のマリュー艦長は、フラガ少佐の指を手で払うと、

 

「いやぁ〜ん、ここで寝るぅ〜」

 

等と、甘ったれた声を出す。

 

「おや、まぁ」

 

 こんな彼女の姿を見るのは勿論初めてで、少佐の笑みが優しいものになる。

 

「なかなか可愛いじゃないの」

 

 ひとりごちれば、何だか得した気分だ。

 

「やっぱ中和剤飲んどいて正解だったなぁ」

 

 自分の先見の明に満足しつつ、少佐は再びマリュー艦長を揺り起こしにかかる。

 

「さぁさ、ダダ捏ねてないで、おうちに帰りましょ。こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうっ

しょ?」

 

 いまだに「ここで寝るぅ」と言って聞かない艦長を抱きかかえるようにして立ち上がらせる

と、少佐は力のない身体を自分に凭れかからせるようにして、ゆっくりと歩き出す。

 そして密着した体の柔らかさに「役得vv」とばかりに微笑みながら艦を目指した。

 

 

 じつにくだらなくも まだまだ続く(笑) ⇒