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願い事


「なぁなぁ、あれ」
「誰だよ、あいつ」
「誰?」
 要と廊下を歩いていると、そんな声とともに視線があちこちから飛んでくる。
「なんだ?」
 本人たちは小声のつもりだろうが、人数が多いだけ大きく聞こえる。
 それとともに、心なしか突き刺さるような視線。制服姿のヤローが多いのは、決して気のせいではないだろう。
 隣で楽しそうに笑っていた要が、俺の様子に気がついて立ち止まると、問いかけるように小首をかしげた。
「さっきから、視線を感じるな」
「そうですね・・・なんでしょう?」
 視線に気がついてただけマシか。相変わらず鈍い、というよりもこいつは自覚がないらしい。これじゃ、今までも周りからのアプローチに気づいてないのだろう。
 気の毒な奴らめ、と同情半分安心半分。
 170センチ近い身長に、ラクロス部で鍛えたしなやかな体つき。
 本人は全然自覚してないらしいが、整った顔立ちで制服を着ていても男女問わず注目を浴びている。
「・・・ま、見当はつくけど」
「え? なんですか?」
「私服の男と歩いてるからだろ? お前が」
「それがどうして? ・・・・あ、私服の若い男の人が一人っていうのが珍しいとか!」
 違うと思うぞ、それは。俺は、『お前が』って言ったぞ・・・。
 見当外れの答えに、思わず苦笑が漏れる。
「とりあえず、目立たなくなる方法を考えっか・・・」
 廊下をぐるりと見渡す。あちらこちらのクラスの看板やポスターが目に飛び込んでくる。喫茶、映画上映・・・・あれだ!
「おぅ、ちょっとここで待ってろ」
「真咲先輩!?」
 要にそう言い残すと、廊下の奥に見つけた看板に向かって、足を進める。
 教室に入るとすぐに元気のいい声に迎えられる。
「いらっしゃいませ。ようこそ。お一人様ですか?」
「そうだけど」
 俺以外にも何人かが説明を受けたりしている。
 声をかけてきた女子生徒が、クリップボードを片手に近寄ってきた。
「システムをご説明しますね。制服の貸し出し時間は90分です。携帯電話はお持ちですか?  では、時間終了15分前に連絡をさせていただきます。ここに電話番号とお名前をを記入して下さい」
 わぁ、お兄さん背ぇ高いですねぇ、とか言われながら採寸を済ませると、ずらりと並べられた制服の中から、俺のサイズに合わせたものが用意される。
「着替えの服はこちらでお預かりしますね。では、レンタル代500円お願いします」
 教室の半分を利用した着替えスペースで、はね学の制服によく似せて作られたそれに着替えると教室を出て要のもとへ急ぐ。
 階段の近くでぼんやりとあたりを見ている要の姿を見つけ、声をかける。
「要」
「真咲先輩、遅いですよ・・・あ!」
 待ちくたびれたという声で俺を見上げた要の瞳が、次の瞬間まんまるになる。
「・・・・真咲先輩、制服?」
「おー、どうだ? まだまだイケるだろ?」
 上着のボタンをかけず、シャツの首元もゆるめているが、どうにかはね学生に見えないこともない。
 卒業してから3年。まさかこんな形で制服を身にまとうとは思ってもいなかった。
「そ、それ、どうしたんですか?」
 びっくりした顔のまま、要はじっと俺の姿を見ている。
 コイツにはどんな風に見えてるんだろうか?
 同級生、というのはおこがましいだろう。
「一番端っこのクラスの催し物だ。タイトルはズバリ! 『ワタシは夢見るお年頃・制服貸します! アナタもこれで学生気分!』」
「そんな企画あったんだ。・・あれ? よく見るとちょっと違うような」
 まじまじと制服を見ていた要は、いつもの見慣れた制服との微妙な違いに気がついたらしい。
 まぁ、俺も一瞬本物かと思って驚いたもんな。
「いくらお祭りだって言っても、ホンモノ貸しちゃマズイだろ。パッとみ、それらしく見えりゃ、それでOK!」
「ふふ、そうですね」
 要はくすくすと笑いながら、俺を見上げてくる。
「ま、こんなの着てたって、『誰だ、アイツ』呼ばわりされんのは、変わんねーだろうけどなぁ」
「え?」
 たとえ周りからどんな風に言われても、今、こいつの隣を歩いているのは俺で。ちょっと優越感だな。
「よーし、んじゃ行くか!」
「あっ、はい」
 歩きながら、タコ焼きがとかはば学まんじゅうがとか、色気よりも食い気な会話になる要を見ながら、もうしばらく このままの関係でもいいかなとちょっと思ったりしていた。

  

初のSSが文化祭ネタです。3年目のイベントCGで真咲先輩にノックアウトされました。あと、アルバムのコメントも・・・・。好きすぎです、真咲元春。

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