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I wish


 彼女と会うときはいつも突然だ。
 12月に入って、一気に冬らしくなった。
 くもりがちな天気。気温もなかなかあがらず、朝、家を出ると吐く息が白く広がる。
 街中もクリスマスに向けて、にぎやかで色とりどりの飾りつけで賑わう。
   そして今年最後の試験がようやく終了した僕は、昨日よりも少しだけ足取り軽く駅に向かって歩いていた。
 手には学生鞄と、ラッピングされた包みがいくつか入った紙袋。
 土曜日の駅前は夕方近くということもあって、多くの人で混雑していた。すれちがう人に荷物をぶつけないように気をつけながら、 店先のディスプレイを通りすがりに見ていると、確かめるように僕の名を呼ぶ声がした。
「赤城くん?」
 この声は・・・。
 振り返ると、彼女がいた。
 どくん、と心臓が大きく鼓動を打つ。
「やあ、君か。めずらしいところで会うね」
 僕は平静を装って笑みを浮かべる。
「そうね。今、帰りなの?」
 そう言った彼女は、少し大きめの鞄を両手で持ちながら僕に歩み寄る。
 白いコートの肩で栗色のゆるくカールした髪がふわりと揺れた。寒さのせいか、両頬がうっすらと赤くなっている。
 大きな瞳がいたずらっぽく笑って、僕を見た。
「期末試験は終わったんでしょ? こんな時間に帰るなんて、もしかして補習?」
 僕よりも頭ひとつ分くらい低い彼女は、僕と話すとき自然とこちらを見上げるようになる。そのまっすぐな視線に、心の奥底まで見られてしまいそうでドキドキする。
「まさか。君こそこんな時間に、どうしてここに?」
「習い事で」
「習い事? ピアノとか」
 その言葉に彼女はあからさまにムッとした顔をした。
 しまった。また僕は失敗した?
「なんでみんなそういうのかな」
「みんなって・・・違うの?」
「合気道」
「合気道?」
 予想外の答えに、僕はオウム返しに繰り返す。
「そう。合気道の道場に通ってるの。ああ、その後は言わないでね。もう聞きなれてるから」
「なに?」
「”似合わない”って」
 彼女はウンザリしたようにため息をついた。
 確かに意表を突かれる習い事ではあったけども・・・。
 そりゃあ、まるで人形のように整った顔立ちで、ふんわりとした女の子と合気道をすぐに結びつけられる人はそうはいないだろう。
 僕が思わずクスリと笑うと、彼女はキッと視線を向けた。
 まずい・・・。
 僕は慌てて口元を引き締める。
「”似合わない”とは思わないよ。きっと君のことだから、さぞ凛々しいんだろうなって」
「・・・そお?」
 彼女はまだ懐疑的な目で僕を見ている。
「本当だよ。で、もう道場は終わったの?」
「うん。試験明けだから、軽い内容にしたの」
 よし、話は逸らせたかな・・・。
「ところでクリスマスには少し早いと思うけど、配るのそれ?」
 彼女は僕の手元を見て首をかしげた。
 紙袋の中のラッピングされたプレゼントの数々。
 制服姿の男子が普段持ち歩いてるものではない。
 彼女の目に留まるのも当然だった。
「ああ、今日は僕の誕生日で、友達や生徒会のみんなからのプレゼントなんだ」
 そう、下校時間がこんなに遅くなったのも、生徒会室でささやかながら誕生会をやってもらったから。 高校生にもなって誕生会というのも恥ずかしい気もするけど、代々はばたき学園の生徒会は執行部生徒の誕生会をやってきているらしい。
「へぇそうなんだ。誕生日おめでとう、赤城くん」
 彼女はにっこりと笑って、一瞬息が止まるかと思うほどの笑顔でそう言った。
「あ、ありがとう」
 思わず赤面してしまった僕は、彼女の次の言葉に愕然とする。
「やっぱり赤城くんてモテるんだ」
 じっと僕の手元を見たまま、彼女はぽつりと言った。
「モテない。これはそういうんじゃなくて、みんな友達からなんだ」
「ふうん」
「本当だって」
 僕はなんでこんなにムキになってるんだ。
 それでも何か言おうと口を開くと、彼女はくすりと笑う。そして鞄から小さな袋を取り出した。
「これ、クリスマスのオーナメントなの。良かったら貰ってくれる?」
「え、貰ってもいいの?」
 彼女は心なしか恥ずかしそうに頷いた。
 袋を開けると、クリスタルビーズで作られたスノーマンが現れた。
「コレは手作りなの。男の子には可愛すぎるかもしれないけど」
「いや、そんなことない。嬉しいよ。ありがとう」
 こんな風にストラップにも付けられるから、と彼女は自分の携帯電話のスノーマンを見せた。
 僕に渡されたのとマフラーと帽子の色が違うだけの、まったく同じスノーマン。
 コレって・・・・・。
「手作りって、君が作ったの?」
「うん。ちょっと顔がゆがんでるけど」
「愛嬌があって可愛いよ。大事にする」
「よかった。あ、ごめんね、引き止めちゃって」
 ほっとしたように笑って、それから駅前の時計を見て申し訳なさそうな表情に変わった。
「僕の方こそ、寒いのにごめん。それから、ありがとう」
「ううん。それじゃ、またね」
「また」
 彼女はひらひらと手を振ると、雑踏に紛れていった。
 僕は彼女の後姿をじっと見送った。
 吹き抜けていく風はとても冷たかったけど、手の中にいるスノーマンが暖かく感じられた。

 彼女と会うときはいつも突然だ。
 だから、きっと、また会える。

  

 初赤城SSです。本当はもっと早くにUPする予定だったのに、誕生日おめでとうSSですvvvv

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