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Our Way To Love 6



 落ち着け、自分。この妙な緊張をほぐさないと。
 またどんなドジをしでかすか・・・・。
 大きく息を吸ってゆっくりと吐き出すことを繰り返していると、帰り支度を終えた真咲先輩が店長に挨拶をしながら出てくる。
「じゃあ、お先に失礼します。・・・要、待たせたな」
「いえ」
 二人で店の外に出て、有沢さんに挨拶をして歩き始める。
「うへぇ、やっぱり寒いなぁ」
「そうですねぇ。週末は雪だって天気予報で言ってました」
「まじ? まぁ、寒いのは嫌いじゃないんだが・・・・この店の中との温度差が結構つらいよなぁ」
 ううぅ、タイミングが掴めない。
 いつ渡したらいいの?
 たわいもない会話をしながら、右手にもった紙袋に意識をむける。
 先輩と帰るときはいつも通る道を歩きながら、切り出すタイミングを計る。
「そうだ、お前俺に用事ってなんだった?」
 私が利用しているバス停が見えたところで、チャンスは向こうからやってきた。
「あ、あの・・・」
「ん? どうした?」
「お誕生日、おめでとうございます!」
 そう言うと同時に手に持っていた紙袋を勢いよく差し出す。
「おおっ、サンキュ」
 真咲先輩はちょっとびっくりしたような顔をした後、嬉しそうに笑いながら紙袋を受け取ってくれた。
「もしかして、前にお前が言ってたのか。見てもいいか?」
「あ、はい。・・・・でも、その」
 私が言い終わらないうちに、真咲先輩は紙袋を開くと中からマフラーを取り出した。
「おーすげー・・・・・って、長いな」
「・・・はい」
 そう私が無心に編んだマフラーは、真咲先輩の首を二回りしても余るくらい長かった。
「すみません、気が付いたらこんなに・・・・」
 私はしゅんとして肩を落とす。
「おいおい、別に責めてないって。一生懸命編んでくれたんだろ? ありがとな、要」
 慰めるように大きな手で頭をぽんぽんと撫でられる。
 プレゼントを贈って慰められる私って・・・・・。
 すっかりへこんでいる私の首に、不意に暖かいものが触れる。
「こういうのはどうだ?」
 顔をあげると、真咲先輩がマフラーの余った部分を私の首に巻いていた。
「ふぇ?!」
 状況を理解した途端、あまりの恥ずかしさに湯気がたってもおかしくない勢いで顔が真っ赤になる。
「先輩! いや、あの、これは!」
 じたばたとする私を見ながら、真咲先輩は大ウケしていた。
「ぶっ、ははははは・・・お前、顔が・・・」
 そう言ってお腹を押さえてしゃがみこむ。マフラーに引っ張られる形で、私もその場で姿勢を低くする羽目になる。すれ違っていく人たちが変な顔をし て、私達を見ていた。
「先輩、すごい失礼です。それに、他の人の迷惑」
 じろじろと見られるのは嬉しいものじゃない。居心地が悪くて、私は首に巻かれたマフラーを外して立ち上がろうとした。
「待った。悪かったから、外すな」
 慌てたように真咲先輩は私の手を掴んで、そのまま立ち上がる。
「なんで外しちゃダメなんですか?」
「そりゃあ、お前が寒そうだから」
 先輩はけろりとそんなコトを言って、掴んだ手にぐっと力を込めた。
 その手に引かれてバス停の前までたどり着く。
「手だって、こんなに冷たいし。バスが来るまでこのままな」
「何かの罰ゲームですか?」
 こんなの恥ずかしすぎる。
 やっと引いてきた顔の熱がまたぶり返してくるのを感じながら、真咲先輩を見上げる。
 私の言葉に呆れたようなため息を一つ。
「お前は・・・・可愛い妹分に風邪でもひかれたら、俺も嬉しくはないからな。だから、大人しくしておきなさい」
 確かにマフラーを巻いた首元や大きな手で包まれた手はじんわりと暖かくなっている。
 でも恥ずかしいものは、恥ずかしいんだもん。
 そんな思いを込めて、じっと先輩を見つめてみる。
「なに? でもまじでこれ、暖かいし。ほんと、ありがとうな、要」
 私の思いは欠片も届かず、でも真咲先輩の全開の笑顔にそんなことも全然気にならなかった。


 停留所に入りこんでくるバスを見ながら、マフラーを外し先輩に渡す。
 繋いでいた手を離すのが、何故だかすこし寂しく感じた。
「来年は、もっと頑張ります」
 口を一文字に引き結んで、いきなりの決意表明。
 自分でも驚きな発言。
 真咲先輩もびっくりしてる。
 バスのライトに照らされながら言うことじゃないけど、でもそう思ったから。
「おう、期待してるぞ」
 笑顔と共に大きな手でくしゃりと頭を撫でられて、心の中が暖かくなる。
「はいっ、期待しててください!」
 その自信はどこからくるの?って、渡会さんあたりからつっこまれそうだけど・・・・。
 バスの扉が音を立てて開くと、真咲先輩にぺこりと頭を下げてタラップを昇った。
 運良く空いている席に座ると、窓の外を見る。
 こちらを見ている先輩と目が合うと、先輩の口が動く。
”気をつけて、帰れよ”
 声は届かないけど、確かにそう聞こえた。返事の代わりに手を小さく振ってみると、先輩は手を挙げて応えてくれた。
 発車のアナウンスとともに、バスが走り出す。
 小さくなっていく先輩の姿を見ながら、自分の胸の中にある何かが芽吹いたのを感じた。
 この芽がどう育っていくかは、これからの私次第・・・・。
 覚悟しててくださいね、真咲先輩!



  

 ようやく終了しました。マフラーを二人で巻くところが書きたくてここまできました。真咲先輩が気持ちを自覚するのはもう少し後です。

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