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2009年1月13日〜17日、全国手話研修センターにて開催された「手話通訳士現任研修」へ参加しました。
手話通訳士現任研修 参加報告

 新年早々、松が取れてまもなく京都へ出発。一度は行ってみたいと思っていた研修センターへ5日間の研修に行かせていただきました。今年度は医療場面で、3回とも同じ内容での研修ですが、今回は参加者が52名と多かったそうです。

 テーマは「医療場面での手話通訳のあり方」。社会の中で広義の通訳のあり方、特に外国語通訳の話を中心に講義が進められ、言葉が通じない国で病気になったらどんな不安があるか、どんな問題があるか、コーディネーターとしてどんなことに考慮しないといけないか、通訳者の質として何が必要か、自己の健康管理、対人援助者としてまず自分を知ることの大切さ、人間関係の作り方や考え方など多くを学びました。

「予防医療と心のケア」
 かつて心の病は個人の問題ととらえられていたが、自殺者が3万人(アメリカの2倍)を超えている今では社会問題として予防に重きを置くようになっている。企業においても産業医の義務づけなどメンタル面での予防が重要視されている。ストレスにも悪玉(ない方がよいストレス)と善玉(ある方がよいストレス)があり達成感が得られるストレスは次へのステップとなる。処理しきれないストレスは、@心に向かう A体に向かう B行動に向かい、精神的な症状から心身症で病気になり社会的病理行動へと重症化していく。
 
 心は脳の働きの表れであり、心は脳の障害の原因でもあると話され、ストレスが貯まると心と脳の両面で治療が必要になる。琵琶湖病院の藤田医師の調査にも、適応障害33.5%と1/3を占めており人間関係でストレスを感じている人が多いと引用された。

「患者の意志決定〜医療コーディネーター」
 講師は、看護師として働いていたとき癌を患い退職。そのとき友人の父が癌になったことで相談を受け、医療相談の必要性を感じ、協会を立ち上げた。患者の本音を聞き不安やストレスなど患者の気持ちを知り、医師と患者の認識や情報格差を埋め、安心して医療が受けられるようにしていく。そのためには医療知識と共に、人生経験豊かなコーディネーターが求められている。

「医療通訳」〜外国人患者への言葉の支援〜
 現在日本で暮らしている在日外国人の数は200万人余で、1位中国、2位韓国・朝鮮、3位ブラジルで、フィリピン・ペルー・アメリカと続いている。日本で暮らしている来日の背景は就労が多く、結婚・強制的・留学・難民などである。結婚によって生まれた子供はハーフと言われていたが、今ではダブルと言われるようになった(2つの国籍を持つ の意)。

 外国人が病院にかかるときどんな問題があるかについて、「自分が外国へ行って病気になったらどんな問題があるか」をグループで話しあい、問題を整理した。(言葉が通じるか、通訳が頼めるか、信頼できるかなどなど)これは聴覚障害者が感じる不安と同じである。通訳者は技術(語学力・通訳技術・コミュニケーション技術・傾聴力)と知識(医療知識・制度・医療文化・感染予防・患者の背景・異文化理解)と姿勢(守秘義務・メンタル管理・中立性・身だしなみ・共感性・自主性)が求められる。しかし、通訳者は医療スタッフではなく、代理者でもない。通訳者であることを両者にきちんと伝えて仕事をすることが大切。「守秘義務と個人情報は墓場まで」と通訳者の責任の重さを話されましたが、バーンアウト・シンドロームを防ぐためにはコーディネーターなどに守秘を守りながら相談できる人を持つことが大切です。

「リハビリテーションとは」
 病院で行う電気治療など医学的リハビリ(狭義)と社会で当たり前の生活をするためのリハビリ(広義)の考え方がある。以前は発症して障害になると、持っている機能を活かして発達させるリハビリであったが、現在はできるだけ障害を残さないように回復させるリハビリへと変わりできるだけはやく刺激を与えて障害を最低限にし、社会生活が出来るように総合的にリハビリテーションを行う。

「手話通訳実習」
 診察場面などの事例をグループで討議し模擬通訳を行い、ビデオ撮影して全員で検証し、気づきなど意見交換した。医療場面の注意点として@誤訳をしない Aアレルギーは発疹だけではない B具体的に聞かない(聞くのは医師)C新しい手話の普及は必要だが、使い方に注意。医療用語の知識は必要だが、通訳者は素人であることを知ってもらう。内臓の部位は正しく知っておく。表現例として、「異常ありません」…「大丈夫」より「心配ない」「問題ない」、「とんぷく」…ひどいとき飲む、「座薬」…お尻から入れる(お尻の表現も色々)「外用薬」…貼り薬だけではない。など具体例の説明があった。

「医療のコーディネート業務の現状と課題」
 東京都の現状を説明され、通訳後の報告書の必要性や記入方法について講義を受けたあと、事例をみて記入実習を行った。グループ討議では地域の実体など話し合った。

「手話通訳のための人間関係トレーニング」
 ラボラトリー方式の体験をとおして通訳者としての自分のあり方を考えるのがねらいで、人と人との仲立ちをするためには、自分自身を知ることが大切。話すときと聞くときでは自分の気持ちがどこに向いているかに気付くこと、相手によって応答の違いから来る自分の変化にも気付いていく。ワークショップでは与えられた課題に添って対話をし、その時の気持ちはどうだったかを話あった。

 5日間は長いし、どんな研修だろうと不安(ストレス)を感じて参加しましたが、いずれも楽しくわかりやすい内容で、これが善玉ストレスだなと心地よさを感じました。

                                   山本 洋子


   

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広島県手話通訳士協会
この研修報告は、2009年4月広島県手話通訳派遣委員会『派遣委ニュースNO35』に掲載されたものです。