(1)メルボルン事件から司法通訳を考える
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◎通訳が入る理由は何なのか
医療通訳と司法通訳は違う。
司法通訳とは、公正な裁判をするため。被告を擁護するためではない。
付け足し(〜と思っていると思います)や予断を言ってはいけない。
人権を守る⇒裁判に主体的に参加する。
◎メルボルン事件の問題点 「通訳の不十分性」
通訳の質が十分でなく、警察での取調べが混乱した。
通訳が原因によって混乱した取調べ状況のビデオや捜査資料を見て、陪審員は判断した。
メルボルン事件のあらましについて、以前放送されたテレビ番組と、取調べのビデオを見ました。また長尾先生が関わられている弁護団の報告書からも、いろいろなお話がありました。外国に行って言葉が通じない時、頼れるのは通訳だけなのに、本当に信じられない内容でした。通訳を疑うなんてしないし、きちんと通訳してもらえていると思いますよね。どうしてこんなことになったのか。通訳というよりも、人としてどう思って取調べの場にいるのか?誰だってちゃんとした裁判が受けたいと思うのは当たり前のことなのに。本当に怖くなり、私は通訳という立場よりも、当事者としての気持になっていました。手話通訳を必要とする場面で、メルボルン事件と同じようなことが起きないと絶対に言えるのか?司法通訳とはどうあるべきか。1人で考えるのではなく、集団で研修を続けていきたいと思いました。
(2)広島の少女殺害事件を通して考える。
長尾先生が、「“悪魔が私にそうさせた”は誰が言った言葉ですか?」と質問されました。えっ、どうして。みんな知っていることなのにと思いましたが、長尾先生からは、「通訳者が言った言葉。通訳のフィルターを通したものになる。」というお話で、目から鱗が落ちたという感じでした。例として、日本の昔からの言い回しで、「ちょっと魔が差して」という言葉を紹介されました。異文化の言語を持った人達には、言葉通りでは絶対に通じないと思います。
私たち手話通訳者は、いつも通訳場面で、また手話を学ぶ中で、ろう者の歴史や文化を学び・理解することの大切さを痛感しているはずです。通訳者集団として、正確な通訳とはどういうことなのか、検証が必要だと思います。
(3)法律用語・専門用語について、勉強する必要がある。
次々と法律用語を言われても、意味をはっきりとは説明できない私。本当に言葉の概念がわからないと通訳できないと思いました。
「前科」「前歴」 「偽造」「変造」 「常習性「親和性」
「罰金」「追徴金」 「確定的故意」「未必の故意」 「絞殺」「扼殺」
※ ぜひ、ご自分で意味を調べてみてください。
参考書・・司法通訳Q&Aで学ぶ通訳現場 松柏社発行
他にも同音異義語の説明がありました。私自身手話通訳をしていて、以前、意味を取り違っていた場面がすぐ思い出されました。実際の裁判の中で、外国人の被告人に対して「部屋に入って来た被害者を、あなたは持っていた包丁でさしましたか?」という尋問があったそうです。私は「刺す」を頭の中で思い浮かべましたが、その時は「差す」の意味で尋問されたとのこと。通訳として、正しく通訳するために、どう対応したらいいのか。裁判という緊張した雰囲気の中で、即座に判断ができるのか?やはり集団研修が必要ですね。
◎ 最後に通訳として主張していくことも大切と話されました。
・通訳として、限界がある。(1人での長時間の通訳は、疲労してしまう)
・打ち合わせをしっかりする。(起訴状等の資料は前もってもらう)
以前にも、長尾先生からメルボルン事件についてのお話を聞く機会がありました。その後、模擬裁判を傍聴したり、裁判員制度について学んだり、自分なりに知識を少しずつ深めてきました。そして、今回の研修は前回よりも司法通訳の重み、人権に関わる重責を感じました。どう伝えていくのか?これからの学習や実際の通訳に、今日の研修を活かしていきたいです。
(山口みゆき)
2010年1月16・17日、岡山きらめきプラザにて「手話通訳士協会研修会」が開かれました。