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広島県手話通訳士協会
2008年4月広県手話通訳士協会会報より
 08年1月23日〜27日、中本智子さんが「平成19年度手話通訳士現任研修」(手話研修センター)に参加。その報告会を、2月24日に広島市安芸区地域福祉センターで開催しました。
         平成19年度手話通訳士現任研修から学び合おう(その2)
                                                                           

【午後の部】      


 午後からは司法通訳について、山梨の詐欺事件を通して「司法における手話通訳のあり方」をまとめた資料を中心に、関係資料も参考にしながら学習し、後半は、取調べにおける手話通訳を、場面設定されたビデオテープを使って参加者全員が実際に通訳してみることで色々学びあいました。

 司法場面のコーディネーターに関係することでは、弁護士、警察、検察での通訳を担当した通訳者は、法廷での通訳は担当しない、これは、山梨の詐欺事件を通しても言えたようです。これは予断の排除の面から重要だということです。そして検察で行われる取調べ時の注意で、検察官が追及する際の問答はその文言自体や先後自体に意味があるので要約せずに通訳することとあります。例えば「本人は青いバケツ・・」と聞いて、通訳がポリバケツ→青→バケツと出すのではなく、青+バケツのまま出すという事です。

 しかし、この部分で私が悩んだのは、言葉を勝手に意訳、要約せずに発せられたとおり表現し、伝わらなければ伝わらないことを伝えていく事が大切だということはわかりますが、それを徹底できるか?もともと音声語と手話では文法や語順が異なる訳だし、本来意味が伝わることが重要と考え、具体的な例えを駆使したりする事が返って誘導となりかねない危険性を十分認識して、終始意訳、要約せずに通訳に臨む事ができるか?と。そのような場合、手話の持性、例えば手話は空間で消えるので分からなくなることがあることなど事前に伝えておくことや、1問1答形式を基本に短く切る工夫も必要になるということでした。

 山梨の詐欺事件を通して見えてきたことは、聴覚障害者の概念、言語能力、思考力について自分の見たもの、体験した事以外を想像したり、理解する事が難しいということです。ビデオの会話例でいうと ・いつお金を預けようと思ったのですか?  ・何故お金を預けようと思ったのですか?  ・例えば、私が街中でTシャツとジーンズ姿で会った時。・・ などはなかなか伝わらなかったということです。他に、取り調べ結果作成された供述調書については、改めて被害者に読みながら手話表現してもらい@手話で表現できない箇所やA意味と違う手話表現をした箇所を本人にわかる日本語に換える作業をしたということです。例えば ・こつこつ貯めたお金 ・推測ですが私が・・。 ・Mの話しを聞き入れてしまったのですね。 ・背広を着て身なりはしっかりしている人という第一印象でした。 ・友人と呼べる間柄でした。 などがそうです。


 このように、コミュニケーション手段が手話で、社会生活における情報や知識の量、日本語の理解度が様々な聴覚障害者が、司法の場でいかに、公平な裁判を受けられるかは、通訳者の力量に寄るところが大きいと実際に取り調べの場面通訳をしてみて実感し、恐ろしくなりました。国民として保障されている権利に直結している司法通訳の難しさと重要性を痛感し再認識した学びでした。

 来年には裁判員制度も始まりますし、益々司法との関わりは増えていくことでしょう。司法関係者にろう者、手話に対する正しい理解を広げると共に、通訳者のプライバシーの保護の要求もしていけるよう、今後も是非このような学習会を重ねて、司法における通訳のあり方や、通訳技術について学習を深めていきたいと思いました。
                      
                         
                                                           K・M
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