午前中、模擬通訳演習を行いました。各場面毎の事例(@警察A検察B裁判C全体を通して)をグループに分かれて討議し、発表するというものです。
今まで司法通訳は他の通訳場面とは違う特別なもの、別物という意識を持っていたのですが、この度の研修に参加して、どの通訳場面にも共通するものがあるということを再認識しました。司法場面の特徴を踏まえつつ、根底を流れている手話通訳の基本理念を改めて振返る機会となりました。いくつかの事例を挙げてみます。
(1)被疑者を前にして、警察側と手話通訳側で勝手に話を進めてしまった。
→ やり取りは手話で行い、ろうあ者に対してきちんと情報保障する。
(2)取調室で、被疑者に「久しぶり。通訳の○○は元気か?」と聞かれた。
→ ろうあ者からの問いかけも全て通訳して伝える。
(3)公判中、手話で通じない部分があり通訳人がメモ書きした。
→ 通訳人が書くのではなく、裁判長が命じる人に書いてもらう。
(4)取調べ中(公判中)、手話通訳人が、通訳を間違えていたことに気づいた。
→ 通訳が間違っていたり通じていないと感じた時は、その都度止めて裁判官に申し出る。
(事前に打ち合わせをしておく。)
(5)傍聴席のろうあ者が手話で話をしていて、通訳に集中できない。
→ 裁判官に申し出る。裁判官から静かにするよう促してもらう。
(6)捜査官からお茶や昼食を勧められた。
→ 断ることで手話通訳人は中立の立場であるということを態度で表すことができる。
警察官と一定の距離を置くことができる。
(事例の「被疑者」は全てろうあ者)
これらの事例は通訳の仕事に関わる基本的なことであり、司法に限らず、教育、医療、労働等どの場面に置き換えても共通するものだと思います。通訳現場の主体は誰なのか、双方の情報保障はきちんとできているかということが問われているのだと思います。
司法通訳の一番の特徴は、裁判所が裁くために通訳人をつけるという所です。従って(6)の飲食についても慎重を期す必要があるのだと感じました。
裁判所の都合で依頼された通訳人が、取調べや調書、裁判それぞれの場面でいかに中立を保ち、ろうあ者の人権も守っていくのか、通訳人自身の人権感覚と通訳の責務を全うするという信念や覚悟が必要になってきます。
また、被疑者の量刑が決定されるという大変責任の重い場面です。正確な通訳、的確な判断そして即座の対応が求められます。
しかし考えてみるとこれは特別なことではなく、どの通訳場面にも必要なことです。司法の場面もその他の通訳場面も、当事者であるろうあ者にとっては人生の一場面。
通訳とは、その人のその後の人生にも関わる大変責任のある仕事だということを改めて胸に刻み、これからの通訳活動を続けていきたいと思いました。
西村 英子