七章
翌朝。龍閃組と鬼道衆は、まず緋勇天斗を探すべく江戸を回る。 恐らくあれで終わるはずが無い。 必ず再び現れるであろう事は解っていたが、だからと言って何時現れるかも知れぬものを、ただじっと待 っているわけには行かないのだ。
何よりも自分達には時間が無いのだ。
こうしている間にも柳生は、自分の野望を果たすべく計画を進めているに違いないのだ。
決して一人にはならないようにと、何人かで行動を共にするが、結局昼を過ぎても彼の姿を見たという情報 一つすら手には入らなかった。
夕刻を告げる鐘の音が鳴り響く頃には、一人また一人と龍泉寺へと戻っていく。
「結局何一つ解らずじまいか・・・」
どこか悔しげ言う天戒の言葉に、京梧は歯噛みする。
「だからってこの江戸にいるのは間違いないだろ。にもかかわらず、姿を見たものすらいないってのはどうい う事なんだよ!」
「ねぇ・・・あの人・・・もしかして柳生とつながってるって事は・・・?」
どこか不安げに小鈴が呟いた。
「確かに、無いとは言い切れんな・・・」
「そうだね・・・柳生にとって、あたし達は何よりも邪魔な存在。そして、あの男にとって、あたし達は何よ りも殺したい存在。お互いの利害も一致してる。ならば、二人が手を組んでる可能性は・・・」
一理あると、誰もが思わず納得しかける。
その時・・・
「あんな愚かな奴と俺を一緒にして欲しくは無いな。」
聞き違えようの無い声だった。
慌てて寺の外へと駆け出す。しかしそこには誰の姿も無い。
一瞬聞き違いだったのかと思ったが、しかし寺の背後からその気配を感じる。
そこに在るのは・・・
寺の裏手に建てられた小さな墓。
その前に、彼は立っていた。後に集まってきた京梧達の気配を感じながらも振り返ることすらせず、唯じっ とその墓標を見つめていた。
*
「案外鈍いな。お前らは。」
その墓を見つめたまま、振り返りもせずに天斗は言う。
「まさか・・・ずっとここに・・・」
信じられないとでも言うように、京梧が呟いた。
「いたさ。柳生の事は愚かだと思うが・・・それ以上にお前らは愚かだ。だから、気付かないんだよ。」
一瞬、天斗が何を言っているのか理解するものはいなかった。
だが不思議と昨日までの激しい憎悪が、彼からは消えているように感じる。
「なぁ・・・あんたの弟を斬ったのは俺だ。もし復讐するんなら、俺だけにしろよ。俺たちにはまだやる べきことがある。あんたにとってこの江戸は愛着も何もないところかもしれないが、俺たちにとってはか けがえの無い街なんだ。俺達はどうしても江戸を救いたいんだ。・・・もちろんあんたが俺たちを憎むの も当然なんだろう。だったら、俺を殺すだけでいいだろう?」
全てを諦めた、そんな言葉ではなかったが、京梧は天斗に語りかける。
「そんな・・・京梧・・・」
小鈴が思わず呟いた。
「天斗さん・・・貴方の憎しみは当然です。でも、どうか・・・少しだけでいい。待ってくれませんか? 私達は今ここで殺される訳にはいかないんです。この江戸を護る為に・・・」
美里は必死で訴える。
ようやく天斗は振り返る。
「俺は・・・お前達が憎い。憎くて仕方が無い。例えこの江戸の、この国に生きる全ての者達の命を全て 引き換えにしても、お前達を殺してやりたいよ。俺にとってこの江戸が無くなろうがどうなろうが知った ことではない。」
「そんな・・・」
天斗の言葉に、美里は絶望的な顔をする。
「何故・・・」
搾り出すような天斗の声だった。
「何故、あいつが死ななければならなかった。俺はあいつが幸せなら、それで良かった。あいつが幼い頃 からどれほどに苦しんでいたのか、俺はずっと見ていた。だからこそあいつには、誰よりも幸せになって 欲しかった。」
その瞳には、憎悪よりも悲しみが宿って見えた。その痛みを、天戒達は知っている。ずっと自分達も同じ 物を抱いてきたのだ。
「何故お前達は生きている。あいつが死んだのに、なんでお前達が、今ここで生きているんだ!!!」
血を吐くような叫びだった。その瞳には涙が溢れている。
もう、誰も言い返す言葉すら見つける事が出来なかった。
*
長い沈黙が当たりを包む。
時間にすればそう長い時間でもないのだろうが、誰もがとてつもなく長い時間に感じていた。
そう、彼が死んだ時のように・・・
あの時も、たった一瞬にしかならないような短い時間が、永遠に続くかのように長く感じられた。
「緋勇さんは・・・貴方の弟さんは言っていました。この江戸が好きだと・・・ここが自分の居場所だと ・・・その彼が好きだと言った江戸が無くなったら、きっと彼だって悲しむわ。貴方だってそれを望まな いでしょ?」
美里の言葉に、天斗は彼女をじっと見つめた。
「お前は甘いな・・・俺が昨日言ったことを聞いていなかったか?あいつが望もうがどうだろうが関係な い。俺はお前達が死ねば気が済むと。」
「でも!!」
尚も美里は食い下がる。
「止めろ、藍。昨日も言っただろう。あの者を止められるのは龍だけだと。少なくとも俺達が何を言った としても決して駄目だと。」
そして天戒はその視線を天斗にむける。
「天斗とやら・・・そう言う事なのだろう?だがな、俺達はそう簡単には殺されてはやれん。やるべきこ とがあるからな。第一、俺たち全員を相手にして、そう簡単に事が運ぶと思うか?この人数を前にして。 いくらお前に強大な力があろうと、分が悪すぎはしないか?」
そんな天戒の言葉にも天斗は顔色一つ変えない。
「出来るといったらどうする?」
あくまで淡々と言う天斗に、天戒は顔をしかめる。
「お前は龍斗と闘った事はあるのか?あいつは強い。少なくとも、お前達が全員で全力で戦っても、龍斗 には勝てないだろう・・・俺には龍斗程の力は無いが、あいつよりは強い。」
どこか矛盾した言い回しだった。
しかし彼が驕りでそれを言ってるとは思えなかった。恐らく真実なのだろう。
だからと言って、そう簡単に負けてやるつもりなど天戒には無い。
そっと剣を鞘から抜く。
それを見て天斗もまた構えた。
チリン・・・
何処からか鈴の音が聞こえた。
次の瞬間、天戒と天斗はお互いに向かって一気に駆け出した。
|
|
六へ | 八へ |
何ヶ月ぶりだ・・・?(大汗)
続きはまだですか・・・といってくださった方、大変お待たせしてすみません(土下座)
っていうか天斗最悪・・・なんか当初予定していた性格とどんどん変わっている・・・
何故?
なんだか矛盾しまくりな気がするんですよね。
自分でもどうなるか訳解らなくなってしまいました。(おい)