その日彼らは初めて知った。永遠に続く一瞬があることを  

 

 

 

 

 

 

拾参ノ章
―永遠―

 

 

 

 

 

その出来事は恐らくは一瞬の事。

しかし、それはまさしく永遠とも呼べる長い長い時間。

その場にいた誰もがその時己の目を疑った。

あまりにもゆっくりと流れるその光景は、まるで芝居の一場面でも観ているかのようで、妙に現

実味の無いその出来事をはっきりと自覚するまでかなりの時間を要した。

九角にむけて振り下ろされた京梧の剣の前に龍斗が飛び込んだ時は、一瞬何が起こったのか誰に

もわからなかった。

その直後に飛び込んできたあまりにも鮮明な赤。

そのまま彼は九角の腕の中に倒れこむ。その時になって、ようやく龍斗が九角を庇ったという事

実をはっきりと自覚した。それは彼らにとって、にわかに信じがたい事だった。ただ、あたり一面に広がる赤い色だけが、妙にはっきりと彼らの瞳に映った。

京梧は剣を振り下ろしたまま、目の前の人物を凝視する。体が震えるのは、一体何故なのだろう

か。訳もわからぬまま視線を彼らに向ける。

そこにいるのは血の海の中で、ただ呆然と彼を抱きしめるその姿。

腕の中の彼が、例え美里の全ての力を使い果たしたとしても助からないだろうという事だけは理

解できた。

それほどまでにおびただしい血の量だった。

誰もが、その場から動く事が出来なかった。

「何故だ・・・」

ようやく我に返ったのか、どこか呆然と九角が小さく呟いた。腕の中には血染めの衣を身に纏っ

た彼の姿。

「何故こんな事を・・・」

再び九角が呟いた。思わず囁きそうになった名前は、決して言葉にはならなかった。その腕の中

で、龍斗は小さく笑おうとし、しかしその顔が苦痛に歪む。それでも微かに微笑んで、その手

を九角の頬に触れた。

「・・・ごめん・・・なさい・・・天か・・い・・・」

その瞳に僅かに涙をうかべ、それでも微笑んだままのその眼が静かに閉じられた。

「・・・ごめんなさい・・・・」

再び呟かれた言葉。

そして九角の頬に触れられたままの手が力無く地に落ちる。

彼は腕の中にいる、その人をただ静かに抱きしめる。

「何故だ・・・・」

抱きしめたまま再び問い掛ける。

「何故だ・・・龍・・・」

その問いに龍斗が答える事は二度と無かった。

 

 

その光景を見つめながら――もしかしたら見えてはいなかったのかもしれないが――京梧は振り

下ろしたままの赤く染まった剣を握り締める。

呆然としながら、はっきりと理解るのは、自分が彼を斬ったという事実だけ。

剣を握り締めたままの手がかすかに震える。

「そういえば、あいつの笑った顔、初めて見たな・・・」

呟かれた言葉は、その場を吹き抜ける風に掻き消された。

 

 

 

 

 

その一瞬は、永遠だった

 

 

 

 

 

 

 

 

拾参の章 ―永遠― 完