夕方・・・
練習も終わった舞台で、誰かの音楽が聞こえる。
メ「誰だろうか?」
そっと覗くメノリ。
舞台で見慣れぬ楽器を奏でるシオンの姿があった。
いつものお笑いの舞台のように・・・いやそれ以上に真剣で懸命な顔がそこにあった。
演奏が終わる。
「パチパチパチ。」
ひとりだけの拍手が響き渡る。
それに気付き楽器を隠し、目を伏せるシオン。
シオ「見てたのか・・・」
メ「うまいじゃないか、話術にその楽器に多才なんだな。」
シオ「こんなの芸じゃないさ。」
メ「どうしてだ?ふたつともやらせてもらえばいいじゃないか。なんでも挑戦しろって、団長が・・・」
シオ「うるさいんだよ!メノリは、いつもいつも・・・」
いつもと違うシオンの強い口調と声に驚くメノリ。
シオンは楽器を置いて逃げるように走っていった。
メ「シオン・・・」
ハ「ただいま〜。」
シャ「おかえりハワード。今日はどこに行ってたの?」
ハ「ああ、コイツが宝の山に連れてってくれるっていうから、一日中コイツと・・・」
シャ「きゃああー。」
持っている雑巾をぶつけられるハワード。
ハ「・・・今日も散々な一日だった、な・・・」
団長「そうですか・・・シオンがまだ・・・」
シオンの楽器を抱いて団長に真正面から詰め寄るメノリ。
団「シオンは腕のいい音楽家でした。
でもある時、心無い客に腕に傷を負わされ・・・リハビリをしたのですが、
ほんの数分弾くのがやっとの状態になってしまいました。
ふさぎ込んでいたのを、お笑いの道を薦められ、立ち直ってこの劇団に入ったのです。」
メ「そんなことが・・・」
団「しかし、もう、ふっきれたものと思っていましたが、彼の心はまだ・・・」
全員が揃った食卓・・・しかしメノリの姿は無かった。
ベ「まだ・・・戻ってないの?」
ル「うん、今日もいつもの時間には終わるって言ってたのに。」
シ「ハワードは?」
シャ「いつまでたってもお前らが待つって言って食べられないから、迎えに行くって。」
シ「へーえ」
チ「ええトコあるやないか。」
メ「シオン・・・」
シオ「メノリか・・・」
メ「すまなかった。お前の気持ちも知らず、軽率な言葉を・・・」
丁寧に頭を下げるメノリ。
シオ「へへっ、軽口は僕の得意とするトコロさ、メノリにはまだはやいよ。」
無理におどけてみせる。
シオ「・・・僕こそ、ゴメン、メノリのせいじゃないのに・・・きつく当たって・・・」
メノリの側に腰掛けるシオン。
シオ「僕もね、もう諦めていたんだ。もうこの腕じゃ一流の演奏は無理だって。」
メ「・・・」
シオ「でも、メノリの生き生きした音楽を聴いていたら、昔の自分を思い出して、
こう、どうしても気持ちが熱くなっちゃって。」
メ「・・・」
シオ「嫉妬しちゃったんだね。女神様のメロディに。」
メ「すまない。」
シオ「メノリが謝ることないさ。
僕らは女神様の音楽に触れる機会に恵まれただけで幸せなんだよ〜お〜お〜。」
いつものように笑いを提供してくれるシオン。
でもその複雑な胸中にメノリは明るく笑えなかった。
ハ「お〜いメノリィ、もう終わったんだろー。」
ハワードだ。
ハワードと目が合ったシオンはペコリと頭を下げる。
ハワードもペコリと頭を下げる。
シオ「仲間のひと?」
メ「ああ。」
シオ「遅いから、心配で迎えにきたんだね。いい仲間だね。」
メ「シオン。」
シオ「もうほんとに遅いから気をつけて帰りなよ。今日はゴメンね。また明日。」
何事も無いように立ち去るシオン。
メ「あ・・・」
ハ「よっ。メノリ。迎えに来てやったぜ。」
メ「ああ・・・・・・遅くなって悪いな。」
シオ「さっきのやつも劇団の仲間か?
ゴメンって言ってたけど、まーたきついこと言ったんだろ?お前。」
メ「・・・」
ハ「全くお前といったら、この星に来ても生徒会長気分で命令口調で・・・」
メ「私は言うことがきついか?」
ハ「ああ、きついねえ。」
メ「そうだな・・・」
いつもの反論がないことに戸惑うハワード。
ハ「ま、まあ、出会って間もないアイツなら、びびるだろうけど、
僕のようにコロニーにいた頃から知ってるやつにとっちゃ、なんでもないけどな。」
メ「・・・」
ハ「そうじゃないと不気味なくらいだ。」
メ「ぶ、不気味とはなんだ。」
ハ「ひ、ひいーそんなに怒るなよお。」
メ「!ハワード、その肩の青いブリキ虫はなんだ?」
ハ「ああ、コイツの住処がお宝の山だっていうから今日はずっとコイツと一緒にいたんだぜ。」
メ「一日中か?」
ハ「ああ、こうして、糸をつけて街中をずっと歩いたんだ。」
ぶ〜ん
ブリキ虫がハワードの周りを一周して、ハワードの頭の上に止まる。
メ「ぷっ、くっくっくっく。ハワード、お似合いじゃないかお前にピッタリだ。
アッハハハハ・・・・」
ハ「なんだとー。」
あまりの間抜けさに大笑いするメノリ。に少し安心するハワード。
心から笑える自分にさせてくれるハワードに気付かないメノリであった。